説明

プレス装置

【課題】 プレス加工運転開始後におけるスライドの下死点変動を抑制することができるプレス装置を提供すること。
【解決手段】 プレス装置本体4と、プレス装置本体4に回転自在に支持されたクランク軸32と、クランク軸32に回転自在に連結されたコネクティングロッド34と、加工領域に向けて往復移動されるスライド44と、スライド44に取り付けられたプランジャ46と、コネクティングロッド34とプランジャ46とを相互に連結するためのリンク機構38と、を備えたプレス装置2である。このプレス装置2において、リンク機構38及び/又はプランジャ46は低熱膨張材から形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物をプレス加工するためのプレス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、被加工物をプレス加工するのにプレス装置が用いられている。従来のプレス装置は、フレームと、フレームに回転自在に支持されたクランク軸と、クランク軸に回転自在に連結された一対のコネクティングロッドと、加工領域に向けて往復移動されるスライドと、スライドに取り付けられた一対のプランジャと、一対のプランジャと一対のコネクティングロッドとを相互に連結する一対のリンクと、備えている(例えば、特許文献1参照)。また、フレームは、ベッド部と、ベッド部の上方に設けられ、クランク軸が回転自在に支持されるクラウン部と、ベッド部とクラウン部との間に設けられる一対のコラム部と、を有している。
【0003】
【特許文献1】特開平8−118082号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような従来のプレス装置では、次のような問題がある。一対のリンク、一対のプランジャ及び一対のコラム部はそれぞれ熱膨張係数の大きな金属材料、例えば熱膨張係数が11.76×10−6/℃の鉄などから形成されているので、プレス加工運転(特に、高速プレス加工運転)が行われると、クランク軸の回転によって発生する熱により一対のリンク、一対のプランジャ及び一対のコラム部がそれぞれその長手方向に急激に膨張して延びるようになる。このように一対のリンク及び一対のプランジャがそれぞれ延びると、スライドの下死点が下方に大きく変位され、プレス加工運転開始後におけるスライドの下死点変動が大きくなってしまう。また、一対のコラム部が延びると、スライドの下死点が上方に大きく変位され、プレス加工運転中におけるスライドの下死点変動が大きくなってしまう。
【0005】
本発明の目的は、プレス加工運転開始後におけるスライドの下死点変動を抑制することができるプレス装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に記載のプレス装置では、プレス装置本体と、前記プレス装置本体に回転自在に支持されたクランク軸と、前記クランク軸に回転自在に連結されたコネクティングロッドと、加工領域に向けて往復移動されるスライドと、前記スライドに取り付けられたプランジャと、前記コネクティングロッドと前記プランジャとを相互に連結するためのリンク機構と、を備えたプレス装置において、
前記リンク機構及び/又は前記プランジャは低熱膨張材から形成されていることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の請求項2に記載のプレス装置では、前記プレス装置本体は、ベッド部と、前記ベッド部の上方に設けられ、前記クランク軸が回転自在に支持されるクラウン部と、前記ベッド部と前記クラウン部との間に設けられるコラム部と、を有し、前記コラム部は低熱膨張材から形成されていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項3に記載のプレス装置では、前記リンク機構、前記プランジャ及び/又は前記コラム部の熱膨張係数は1〜4×10−6/℃であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の請求項1に記載のプレス装置によれば、リンク機構及び/又はプランジャは低熱膨張材から形成されているので、プレス加工運転の開始後において、クランク軸の回転や各軸受部及び各摺動部の摩擦によって発生する熱によるリンク機構及び/又はプランジャの長手方向への膨張が少なくなり、これによりスライドの下死点の下方への変位を小さく抑えることができる。
【0010】
また、本発明の請求項2に記載のプレス装置によれば、コラム部は低熱膨張材から形成されているので、プレス加工運転の開始後において、クランク軸の回転や各軸受部及び各摺動部の摩擦によって発生する熱によるコラム部の長手方向への膨張が少なくなり、これによりスライドの下死点の上方への変位を小さく抑えることができる。
【0011】
また、本発明の請求項3に記載のプレス装置によれば、リンク機構、プランジャ及び/又はコラム部の熱膨張係数は1〜4×10−6/℃であるので、クランク軸の回転や各軸受部及び各摺動部の摩擦によって発生する熱によるリンク機構、プランジャ及び/又はコラム部の長手方向への膨張をより少なくすることができ、スライドの下死点変動をより確実に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明に従うプレス装置の一実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態によるプレス装置を示す概略断面図であり、図2は、図1のプレス装置におけるスライドの下死点変位の時間変化を示すグラフである。
【0013】
図1を参照して、図示のプレス装置2は、プレス装置本体4及び潤滑油温度調節装置6を備えている。以下、プレス装置2の構成について詳細に説明する。
プレス装置本体4は、ベッド部8と、ベッド部8の上方に設けられたクラウン部10と、ベッド部8とクラウン部10との間に対向して設けられた一対のコラム部12と、を有している。
【0014】
クラウン部10には一対のガイド手段14が支持されており、これら一対のガイド手段14の各々は、水平方向(図1において紙面に対して垂直方向)に対向して配設された一対のガイド部材16を有している。各ガイド部材16には、横方向に延びるガイド用凹部18が設けられており、このガイド用凹部18には滑子20が摺動自在に装着されている。
【0015】
クラウン部10の天壁部には、クラウン部10の内部に向かって下方に延びるバランサポスト22が取り付けられている。また、クラウン部10の内部にはバランサ本体26が配設され、このバランサ本体26には上下方向に貫通して延びる支持用孔24が設けられている。バランサ本体26の支持用孔24にはバランサポスト22が移動自在に挿入されており、これによりバランサ本体26は、バランサポスト22に沿って上下方向に自在に移動される。バランサ本体26の下端部における両端部には、一対のバランサリンク28の各一端部が連結用ピン30を介して回転自在に連結されている。
【0016】
また、クラウン部10にはクランク軸32が回転自在に支持されており、その偏心部には一対のコネクティングロッド34の各一端部が回転自在に連結されている。一対のコネクティングロッド34の各他端部には、水平方向(図1において紙面に対して垂直方向)に延びる連結用ピン36がそれぞれ取り付けられており、この連結用ピン36の両端部は、滑子20を介してガイド部材16のガイド用凹部18にそれぞれ移動自在に受け入れられている。また、一対のコネクティングロッド34の各他端部には、連結用ピン36を介して一対のバランサリンク28の各他端部及び一対のリンク38(リンク機構を構成する)の各一端部がそれぞれ回転自在に連結されている。一対のリンク38は低熱膨張材から形成され、それらの各他端部はステー40を介して相互に連結されている。
【0017】
一対のコラム部12は低熱膨張材から形成され、それらの内部には上下方向に延びる潤滑油流路42が形成されている。一対のコラム部12で囲まれた空間(加工領域)にはスライド44が配設されており、スライド44の上端部には一対のプランジャ46が取り付けられ、その下端部には可動金型48が取り付けられている。一対のプランジャ46は低熱膨張材から形成され、それらの各上端部は、連結用ピン50を介して一対のリンク38の各他端部にそれぞれ回転自在に連結されている。
【0018】
ベッド部8の上端部にはボルスタ52が取り付けられ、このボルスタ52の上端部には静止金型54が取り付けられている。また、ベッド部8の内部には、潤滑油が貯められる潤滑油貯め空間56が形成されている。
【0019】
上述のように、本実施形態のプレス装置2では、一対のリンク38、一対のプランジャ46及び一対のコラム部12はそれぞれ低熱膨張材から形成されており、この低熱膨張材は、鉄よりも熱膨張係数が小さい合金材料、例えば熱膨張係数が1〜4×10−6/℃のノビナイト鋳鉄(商品名)などから構成されている。
【0020】
本実施形態のプレス装置2には、更に、潤滑油をプレス装置本体4を通して循環させるための潤滑油循環手段58が設けられている。潤滑油循環手段58は、潤滑油貯め空間56に貯められた潤滑油をクラウン部10のクランク軸32の各摺動部分(図示せず)に送給するための第1送給ライン60と、クランク軸32の各摺動部分から排出された潤滑油を各コラム部12の潤滑油流路42の上端部へ導くための第2送給ライン62と、潤滑油流路42の下端部から排出された潤滑油を潤滑油貯め空間56へ戻すための戻しライン64と、第1送給ライン60に配設された第1循環ポンプ66とから構成されている。
【0021】
潤滑油温度調節装置6には、潤滑油循環手段58により循環される潤滑油を冷却するためのクーラ68と、潤滑油循環手段58により循環される潤滑油を加温するためのヒータ70とが内蔵されている。これらクーラ68及びヒータ70は、第1及び第2接続ライン72,74を介して潤滑油貯め空間56と連通され、第1接続ライン72には第2循環ポンプ(図示せず)が配設されている。クーラ68及びヒータ70は制御手段(図示せず)によって制御される。
【0022】
次に、上述したプレス装置2の運転の流れについて説明する。プレス加工運転前には、クランク軸32やコラム部12などを予め所定温度まで加温するプレヒート運転が次のようにして行われる。プレヒート運転が開始されると、潤滑油貯め空間56に貯められた潤滑油は、第2循環ポンプの作用によって第1接続ライン72を通して潤滑油温度調節装置6に送給される。制御手段によりヒータ70が制御されることによって、潤滑油温度調節装置6に送給された潤滑油が加温され、その温度が第1設定温度(例えば30℃)に調節される。このように加温された潤滑油は、第2接続ライン74を通して潤滑油貯め空間56に戻され、これにより潤滑油貯め空間56に貯められた潤滑油の温度が第1設定温度に調節される。
【0023】
潤滑油貯め空間56に貯められた潤滑油は、第1循環ポンプ66の作用により第1送給ライン60を通してクランク軸32の各摺動部分に送給され、クランク軸32を加温した潤滑油はクラウン部10より排出され、第2送給ライン62、潤滑油流路42及び戻しライン64を通して潤滑油貯め空間56に戻される。このように第1設定温度に設定された潤滑油が、クランク軸32の各摺動部分及びコラム部12の潤滑油流路42にそれぞれ送給されることにより、クランク軸32及びコラム部12がそれぞれ第1設定温度付近まで加温される。
【0024】
このプレヒート運転後にプレス加工運転が開始され、プレス加工運転が開始されると同時に、潤滑油の設定温度が次のようにして第1設定温度から第2設定温度に切り替わる。制御手段によりクーラ68が制御されることによって、潤滑油温度調節装置6に送給された潤滑油の温度が第1設定温度よりも低い第2設定温度(例えば20℃)に調節される。潤滑油貯め空間56に貯められた潤滑油は、上述と同様にしてプレス装置本体4を通して循環される。この状態でプレス加工が行われると、クランク軸32の回転により発生する熱によってクランク軸32の各摺動部分を潤滑する潤滑油が加温され、潤滑油循環手段58により循環される潤滑油の温度は第1設定温度付近、例えば29℃まで上昇される。従って、上述のように潤滑油が循環されるとクランク軸32及びコラム部12がそれぞれ第1設定温度付近まで加温され、これにより、プレヒート運転からプレス加工運転に移行した際におけるコラム部12の熱変位量の変動が抑制され、スライド44の下死点変動が抑制される。
【0025】
プレス加工運転においては、クランク軸32が回転されると、一対のコネクティングロッド34の各他端部がそれぞれ一対のガイド部材16のガイド用凹部18に沿って左右方向に往復移動される。この一対のコネクティングロッド34の各他端部の往復移動に伴い、一対のリンク38が連結用ピン50を中心として左右方向に揺動されるとともに、一対のバランサリンク28が連結用ピン30を中心として左右に揺動され、これによりスライド44及びバランサ本体26がそれぞれ上下方向に且つ相互に反対方向に往復移動される。
【0026】
次に、本実施形態のプレス装置2によって達成される作用効果について説明する。上述した従来のプレス装置では、プレス加工運転の開始後において、クランク軸の回転によって発生する熱により一対のリンク及び一対のプランジャがその長手方向に急激に膨張して延び、その後に、一対のコラム部がその長手方向にゆっくりと膨張して延びるようになる。従って、図2の破線で示すグラフAに示すように、スライドの下死点は、下方へ急激に大きく変位した後に上方へゆっくりと大きく変位し、スライドの下死点変動は全体として大きくなる。
【0027】
これに対して、本実施形態のプレス装置2では、一対のリンク38及び一対のプランジャ46は低熱膨張材から形成されているので、プレス加工運転の開始後において、クランク軸32の回転によって発生する熱による一対のリンク38及び一対のプランジャ46の長手方向への膨張が少なくなり、これによりスライド44の下死点の下方への変位を小さく抑えることができる。また、一対のコラム部12も低熱膨張材から形成されているので、一対のコラム部12の長手方向への膨張が少なくなり、これによりスライド44の下死点の上方向への変位を小さく抑えることができる。従って、図2の実線のグラフBに示すように、スライド44の下死点は、下方へ急激に小さく変位した後に上方へ緩やかに小さく変位し、スライド44の下死点変動は全体として小さくなる。
【0028】
以上、本発明に従うプレス装置の一実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形乃至修正が可能である。
【0029】
例えば、上記実施形態では、一対のリンク38、一対のプランジャ46及び一対のコラム部12をそれぞれ低熱膨張材から形成したが、これらの1つ又は2つを低熱膨張材から形成するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態によるプレス装置を示す概略断面図である。
【図2】図1のプレス装置におけるスライドの下死点変位の時間変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0031】
2 プレス装置
4 プレス装置本体
8 ベッド部
10 クラウン部
12 コラム部
32 クランク軸
34 コネクティングロッド
38 リンク
44 スライド
46 プランジャ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス装置本体と、前記プレス装置本体に回転自在に支持されたクランク軸と、前記クランク軸に回転自在に連結されたコネクティングロッドと、加工領域に向けて往復移動されるスライドと、前記スライドに取り付けられたプランジャと、前記コネクティングロッドと前記プランジャとを相互に連結するためのリンク機構と、を備えたプレス装置において、
前記リンク機構及び/又は前記プランジャは低熱膨張材から形成されていることを特徴とするプレス装置。
【請求項2】
前記プレス装置本体は、ベッド部と、前記ベッド部の上方に設けられ、前記クランク軸が回転自在に支持されるクラウン部と、前記ベッド部と前記クラウン部との間に設けられるコラム部と、を有し、前記コラム部は低熱膨張材から形成されていることを特徴とする請求項1に記載のプレス装置。
【請求項3】
前記リンク機構、前記プランジャ及び/又は前記コラム部の熱膨張係数は1〜4×10−6/℃であることを特徴とする請求項1又は2に記載のプレス装置。

【図1】
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【図2】
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