説明

プレス部品、及びプレス部品の製造方法

【課題】製造コストの増加を抑制した上で、製造効率の向上を図ることができるプレス部品、及びプレス部品の製造方法を提供する。
【解決手段】機能部を有する基板2と、基板2に対して窪んだ位置に配置され、基板2を取付部材に取り付ける際に取付部材に当接可能な台座部11と、台座部11と基板2とを連結する絞り部15と、を有するプレス部品1において、基板2のうち台座部11と機能部との間には、台座部11の周方向に沿って間隔をあけて延在する複数の捨て窓13が形成されるとともに、絞り部15は捨て窓13間に配設されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス部品、及びプレス部品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、プレス加工用金型を用いて、鉄板、鋼板、アルミ板、りん青銅板等の金属板をプレス加工することで、様々なプレス部品の製造がなされている。プレス加工の手法としては、例えばせん断加工、曲げ加工、絞り加工等があり、これらを適宜選択、または組み合わせながら加工を行うことで、プレス部品の製造が行われている。
【0003】
プレス部品100としては、例えば図6に示すように、板状の基板101と、基板101に対して窪んだ位置に配置された台座部102と、台座部102と基板101とを連結する筒状の絞り部103と、台座部102に形成された貫通孔104と、を備え、この貫通孔104を通してビス等が挿入されることで、プレス部品100が取付部材に固定されるようになっている。
このようなプレス部品100の製造方法としては、まず、基板101に対して絞り加工を施し絞り部103を形成する。その後、台座部102に対してせん断加工(打ち抜き加工)を施し貫通孔104を形成することで、上述したプレス部品100が完成する。
【0004】
ところで、例えば、特許文献1には、絞り加工により凸部を形成する前に、凸部の周辺に肉寄せ用穴を形成する打ち抜き工程を有し、凸部を形成する際に凸部と肉寄せ用穴との間の部分を凸部内に積極的に引き込ませることで、凸部の肉厚を確保する構成が開示されている。
すなわち、絞り加工では、基板101が絞り込まれる際の塑性変形によって、絞り部103の径方向内側に向かって圧縮力が、軸方向に沿って引張力が生じるため、基板101が引き込まれて、絞り部103の周辺が変形したり、局部的な応力集中が発生したりする虞がある。この際、絞り部103の周辺に機能上重要な孔や形状(以下、機能部という)が存在すると、機能部が所望の位置からずれたり、変形したりしてしまい、製品機能を満足できない場合がある。
【0005】
これに対して、従来では、例えば変形等によるずれ量を予め算出し、絞り加工後に所望の位置に機能部が配置されるように型(ダイや、パンチ、ストリッパ等)に補正を行う等の対策が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭64−62227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の対策では、機能部と絞り部103との関係等に基いて、それぞれずれ量を算出し、それに合わせて型を作成する等の作業が必要になり、製造効率の低下、また製造コストの増加を招くことになる。また、例えば時計等に組み込まれる微小なプレス部品や、複数の機能部や絞り部103を有する複雑なプレス部品等にあっては、上述した作業は特に煩雑である。
【0008】
そこで本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、製造コストの増加を抑制した上で、製造効率の向上を図ることができるプレス部品、及びプレス部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のプレス部品は、機能部を有する基板と、前記基板に対して窪んだ位置に配置され、前記基板を取付部材に取り付ける際に前記取付部材に当接可能な台座部と、前記台座部と前記基板とを連結する絞り部と、を有するプレス部品において、前記基板のうち前記台座部と前記機能部との間には、前記台座部の周方向に沿って間隔をあけて延在する複数の捨て窓が形成されるとともに、前記絞り部は前記捨て窓間に配設されていることを特徴としている。
【0010】
この構成によれば、絞り部を形成する絞り工程の際に、台座部と機能部との間の捨て窓が変形することになるので、絞り部の周辺の変形を捨て窓で吸収し、基板自体の変形を抑制できる。したがって、絞り工程での変形が機能部まで及ぶのを抑制できるので、機能部の位置ずれを抑制することができる。したがって、機能部が所望の位置に配置された良品を安定して製造することが可能となる。
この場合、台座部の周囲に捨て窓を形成するのみの構成のため、従来のようにずれ量に応じて型を作成する等の作業が不要になる。よって、製造コストの増加を抑制した上で、製造効率の向上を図ることができる。
【0011】
ところで、絞り成形時には、基板が絞り込まれる際に作用する基板の厚さ方向への引張力が絞り部よりも外側にも作用し、基板の外周部が絞り部とは反対側に変位して基板全体に反りが発生してしまう虞がある。
これに対して、本発明の構成によれば、上述した引張力が捨て窓よりも外側に作用するのを抑制して、基板全体の反りも抑制できる。
【0012】
また、前記捨て窓は、前記台座部を間に挟んで前記基板の径方向に沿って対向していることを特徴としている。
この構成によれば、基板が絞り込まれる際に作用する基板の厚さ方向への引張力や、径方向への圧縮力は基板の径方向に沿って作用し易いが、捨て窓を基板の径方向に沿って対向させることで、上述した引張力や圧縮力を効果的に吸収できる。
【0013】
また、前記捨て窓は、前記台座部の周方向に沿って間隔をあけて2箇所形成されていることを特徴としている。
この構成によれば、台座部の周方向に沿って間隔をあけて2箇所の捨て窓を形成することで、絞り部により台座部を安定して支持した上で、絞り工程での変形が基板や機能部まで及ぶのを確実に抑制できる。また、絞り部が多過ぎる場合(3箇所以上の複数の場合)に比べて、型の複雑化を抑制できるため、更なる製造効率の向上、低コスト化を図ることができる。
【0014】
また、前記絞り部は、前記台座部を間に挟んで対称に配設されていることを特徴としている。
この構成によれば、台座部を間に挟んで対称に絞り部を配置することで、絞り工程において捨て窓の変形が均一になる。そのため、絞り工程を高精度に行うことができ、台座部の歪みや基板の変形を確実に抑制できる。
【0015】
また、前記絞り部の延在方向に沿う外側端部が、前記捨て窓の外周縁よりも内側に配置されていることを特徴としている。
この構成によれば、絞り部の外周縁を捨て窓の外周縁よりも内側に配置することで、絞り工程での変形が基板や機能部まで及ぶのを確実に抑制できる。
【0016】
また、前記捨て窓は、前記取付部材を取り付けた際に部品を収容可能に構成されていることを特徴としている。
この構成によれば、捨て窓内に部品を収容可能に構成することで、捨て窓と部品収容用の収容孔とを別々に形成する場合に比べて、レイアウト性を向上できるとともに、型の複雑化を抑制できる。したがって、更なる製造効率の向上、低コスト化を図ることができる。
【0017】
また、前記基板には、複数の前記台座部が形成され、一の前記台座部での前記絞り部の延在方向は、他の前記台座部における前記絞り部の延在方向を回避した位置に設定されていることを特徴としている。
この構成によれば、絞り工程において、各台座部の絞り部間同士で引張合うことがないので、台座部の歪みや基板の変形を確実に抑制できる。
【0018】
また、本発明のプレス部品の製造方法は、機能部を有する基板と、前記基板に対して窪んだ位置に配置され、前記基板を取付部材に取り付ける際に前記取付部材に当接可能な台座部と、前記台座部と前記基板とを連結する絞り部と、を有するプレス部品の製造方法であって、前記基板に絞り加工を施すことで、前記絞り部を形成する絞り工程を有し、前記絞り工程の前段に、前記基板のうち前記台座部と前記機能部との間に、前記台座部の形成領域の周方向に沿って間隔をあけて複数の捨て窓を形成する打ち抜き工程を有していることを特徴としている。
この構成によれば、絞り部を形成する絞り工程の際に、台座部と機能部との間の捨て窓が変形することになるので、絞り部の周辺の変形を捨て窓で吸収し、基板自体の変形を抑制できる。したがって、絞り工程での変形が機能部まで及ぶのを抑制できるので、機能部の位置ずれを抑制することができる。したがって、機能部が所望の位置に配置された良品を安定して製造することが可能となる。
この場合、台座部の周囲に捨て窓を形成するのみの構成のため、従来のようにずれ量に応じて型を作成する等の作業が不要になる。よって、製造コストの増加を抑制した上で、製造効率の向上を図ることができる。
【0019】
また、前記絞り工程の後段に、前記台座部に貫通孔を形成する貫通孔形成工程を有していることを特徴としている。
この構成によれば、絞り工程の後段で、台座部に貫通孔を形成することで、貫通孔の形成時において基板の変形を確実に抑制できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るプレス部品、及びプレス部品の製造方法によれば、製造コストの増加を抑制した上で、製造効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態におけるプレス部品の平面図である。
【図2】(a)はプレス部品の斜視図であり、(b)は(a)のA部拡大斜視図である。
【図3】図2のB−B線に沿う断面図である。
【図4】プレス部品の製造方法を示す説明図であって、板材の斜視図である。
【図5】絞り工程を説明するための説明図であって、板材の断面図である。
【図6】従来のプレス部品の断面図である。
【図7】Z方向への変位を解析した結果を示す図であって、モデルAの平面図である。
【図8】Z方向への変位を解析した結果を示す図であって、モデルBの平面図である。
【図9】径方向への変位を解析した結果を示す図であって、モデルAの平面図である。
【図10】径方向への変位を解析した結果を示す図であって、モデルBの平面図である。
【図11】残留応力(相当応力)を解析した結果を示す図であって、モデルAの平面図である。
【図12】残留応力(相当応力)を解析した結果を示す図であって、モデルBの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下では、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
(プレス部品)
まず、本実施形態におけるプレス部品について説明する。図1はプレス部品の平面図である。また、図2の(a)はプレス部品の斜視図であり、(b)は(a)のA部拡大斜視図である。
図1,2に示すように、本実施形態のプレス部品1は、例えば機械式時計やクオーツ時計等に組み込まれる日車を保持する日車押さえであって、例えばりん青銅等からなる円板状に形成されている。具体的に、プレス部品1は、円板状の基板2と、基板2に形成された図示しない複数の機能部と、プレス部品1を図示しない取付部材に固定するための複数の取付部4と、が一体的に形成されたものである。なお、機能部はプレス部品1である日車押さえを時計に組み込むための機能上重要な孔や形状等であって、基板2の所望の位置に位置決めされた状態で形成されている。
【0023】
(取付部)
図3は、図2(b)のB−B線に沿う断面図である。
図1〜3に示すように、本実施形態の取付部4は、基板2の径方向中央部を回避した位置に5箇所(取付部4a〜4e)形成されている。なお、各取付部4a〜4eはほぼ同一の構成であるため、各取付部4a〜4eを区別する必要がない場合は、まとめて取付部4として説明する。また、以下の説明では、各取付部4a〜4eのうち、取付部4aを例にして説明する。
【0024】
取付部4は、基板2の表面(図1中紙面手前側)に対して窪んだ位置に配置された台座部11と、台座部11と基板2とを架け渡す一対のブリッジ部12と、台座部11の周囲を取り囲む複数の捨て窓13と、を有している。
台座部11は、面方向が基板2の面方向と平行に配置された円板状のものであり、その径方向中央部にはその厚さ方向(軸方向)に沿って貫通する貫通孔14が形成されている。この貫通孔14内には、基板2の表面側から図示しないビスが挿入される。そして、このビスが上述した取付部材の図示しない雌ねじ部に螺着されることで、台座部11の裏面側が取付部材に当接した状態で、プレス部品1が取付部材に固定される。このとき、ビスの頭部は取付部4の内側に収容され、基板2の表面側から突出しないようになっている。また、基板2と取付部材との間には、隙間を有しており、この隙間に各種部品が配置されるようになっている。
【0025】
各ブリッジ部12は、平面視において台座部11の外周縁から放射状に延在する細板状の部材であり、本実施形態では、一対のブリッジ部12が台座部11の径方向を対称線として線対称に延在している。
図3に示すように、各ブリッジ部12は、断面視においてL字状に形成されている。具体的に、ブリッジ部12は、その延在方向一端側(内側)に形成されて台座部11の厚さ方向に沿って延びる絞り部15と、延在方向他端側(外側)に形成されて台座部11の径方向に沿って延びる延在部16と、を有している。
【0026】
絞り部15は、ブリッジ部12のうち絞り加工が施された部分であり、その延在方向一端側が台座部11の外周縁に連結され、他端側が延在部16の一端側に連結されている。具体的に、絞り部15は、断面視において台座部11側から基板2側に向かうに従い漸次外側に向けて傾斜している。さらに、絞り部15のうち、台座部11の外周縁との連結部分は、取付部4の外側に向けて膨出する曲面形状に形成され、延在部16との連結部は取付部4の内側に向けて膨出する曲面形状に形成されている。
【0027】
延在部16は、その延在方向一端が絞り部15の他端に連結され、他端が基板2に連結されている。また、延在部16は、基板2と同一面上に配置されるとともに、延在方向一端側から他端側に向かうに従い漸次幅広になるように形成されている。
また、図1〜3に示すように、一の取付部4(例えば、取付部4a)と、他の取付部4(例えば、取付部4b)と、のブリッジ部12同士は、それぞれブリッジ部12の延在方向に沿う線上を回避した位置に配置されている。すなわち、各取付部4間において、ブリッジ部12はそれぞれの延在方向に沿って対向しないように配置されている。
【0028】
ここで、上述した各捨て窓13は、基板2上において上述した機能部と台座部11との間で、両者間を遮るように配置されている。具体的に、各捨て窓13は、平面視において台座部11の周方向に沿って延在する円弧状に形成されており、台座部11の周方向に沿って間隔をあけて配設されている。本実施形態の捨て窓13は、台座部11を間に挟んで径方向で対向する2箇所に配設されており、台座部11の周方向に沿う捨て窓13間に上述したブリッジ部12が配設されている。
【0029】
各取付部4の捨て窓13は、台座部11の周方向における角度範囲が各台座部11間で同等に設定されている。この場合、台座部11の周方向全体に対する残存率、すなわち台座部11の周方向全体に対する上述したブリッジ部12の形成範囲は、20%程度に設定されている。仮に、台座部11の周方向全体に対する上述したブリッジ部12の形成範囲が小さ過ぎると、ブリッジ部12の強度が不足する虞があるため好ましくない。一方、台座部11の周方向全体に対する上述したブリッジ部12の形成範囲が大き過ぎると、後述する絞り工程での変形が基板2に及ぶ虞があるため好ましくない。
【0030】
また、各取付部4のうち、取付部4a,4b,4eの各捨て窓13は、それぞれ台座部11の径方向を対称線として線対称に延在している。一方、各取付部4のうち、取付部4c,4dの各捨て窓13は、一方の捨て窓13に対して他方の捨て窓13c,13dがそれぞれ大きく形成されている。この場合、他方の捨て窓13c,13dは、時計に組み付けた際に部品(例えば、作動レバー等)を収容する収容孔としての機能も有している。
【0031】
また、図2,3に示すように、平面視において、ブリッジ部12における絞り部15の外周縁は、捨て窓13の外周縁よりも台座部11の径方向に沿う内側に配置されている。この場合、台座部11の中心を通り径方向で対向する各捨て窓13の外周縁間の距離(捨て窓13の外径D1)は、台座部11の中心を通り径方向で対向する各絞り部15の外周縁間の距離(絞り部15の外径D2)に対して30%以上大きく設定することが好ましい。一方、台座部11の中心を通り径方向で対向する各捨て窓13の内周縁間の距離(捨て窓13の内径D3)は、台座部11の中心を通り径方向で対向する各絞り部15の内周縁間の距離(絞り部15の内径D4)と同等に設定されている。
【0032】
(プレス部品の製造方法)
次に、上述したプレス部品1の製造方法について説明する。なお、本実施形態のプレス部品1の製造方法は、一つの型の中で各工程に対応したパンチとダイをそれぞれ備えた順送型の金型を用いている。そして、以下の説明では、りん青銅板を巻回してなる板材51(フープ材)を搬送しながら順次プレス成形し、最終的にプレス部品1を板材51から切断して取り出す方法について説明する。図4はプレス部品の製造方法を示す説明図であって、板材の斜視図である。
まず、図4(a)に示すように、板材51からプレス部品1の外形を打ち抜く外形打ち抜き工程を行う。これにより、板材51は、プレス部品1の製品部分52と、この製品部分52を取り囲む外枠部分53と、が周方向の一部で連結部54を介して連結された状態となる。なお、外形打ち抜き工程は、後述する切断工程の前に行っても構わない。
【0033】
次に、製品部分52に対して各機能部、及び捨て窓13を形成する打ち抜き工程を行う。具体的には、製品部分52のうち、上述したプレス部品1における機能部、及び捨て窓13に相当する領域を打ち抜く。この場合、後にプレス部品1の台座部11となる各円板部55と、機能部と、の間に、各円板部55を間に挟んで径方向で対向する捨て窓13が形成される。さらに、各円板部55は一対のブリッジ部12によりそれぞれ連結された状態となる。
【0034】
図5は絞り工程を説明するための説明図であって、板材の断面図である。
次に、図4(b),5(a)に示すように、製品部分52のうち、ブリッジ部12の延在方向一端側(内側)に対して絞り加工を行う絞り工程を行う。具体的には、捨て窓13の外径D1に対して外径が小さいパンチ61、及び内径が小さいダイ孔62を有するダイ63を用いブリッジ部12の延在方向一端側に対して絞り加工を行う。すると、図4(b)、5(b)に示すように、パンチ61とダイ孔62との間にブリッジ部12が挟まれ、ブリッジ部12がパンチ61の外面形状とダイ孔62の内面形状に倣って絞り込まれていく。これにより、円板部55が製品部分52の表面に対して窪んだ位置に配置された台座部11となる。
【0035】
続いて、図4(c)に示すように、台座部11(円板部55)の径方向中央部を打ち抜くことで、貫通孔14を形成する貫通孔形成工程を行う。これにより、上述した取付部4が形成される。
そして、最後に連結部54を切断して製品部分52と外枠部分53とを分離する。
以上により、上述したプレス部品1が完成する。
【0036】
このように、上述した実施形態では、基板2のうち台座部11と機能部との間に、台座部11の周方向に沿って間隔をあけて複数の捨て窓13が形成されるとともに、捨て窓13間に絞り部15が配設されている構成とした。
この構成によれば、上述した絞り工程の際には、台座部11と機能部との間の捨て窓13が変形することになるので、絞り部15の周辺の変形を捨て窓13で吸収し、基板2自体の変形を抑制できる。したがって、絞り工程での変形が機能部まで及ぶのを抑制できるので、機能部の位置ずれを抑制することができる。したがって、機能部が所望の位置に配置された良品を安定して製造することが可能となる。
この場合、台座部11の周囲に捨て窓13を形成するのみの構成のため、従来のようにずれ量に応じて型を作成する等の作業が不要になる。よって、製造コストの増加を抑制した上で、製造効率の向上を図ることができる。
【0037】
ところで、絞り成形時には、絞り部15に作用する基板2の厚さ方向への引張力が絞り部15よりも外側にも作用し、基板2の外周部が絞り部15とは反対側に変位して基板2全体に反りが発生してしまう虞がある。
これに対して、本実施形態によれば、上述した引張力が捨て窓13よりも外側に作用するのを抑制して、基板2全体の反りも抑制できる。
また、基板2が絞り込まれる際に作用する基板2の厚さ方向への引張力や、径方向への圧縮力は基板2の径方向に沿って作用し易いが、捨て窓13を基板2の径方向に沿って対向させることで、上述した引張力や圧縮力を効果的に吸収できる。
【0038】
また、本実施形態によれば、台座部11の周方向に沿って間隔をあけて2箇所の捨て窓13を形成することで、絞り部15(ブリッジ部12)により台座部11を安定して支持した上で、絞り工程での変形が基板2や機能部まで及ぶのを確実に抑制できる。また、絞り部15が多過ぎる場合(3箇所以上の複数の場合)に比べて、型の複雑化を抑制できるため、更なる製造効率の向上、低コスト化を図ることができる。
さらに、本実施形態によれば、台座部11を間に挟んで対称に絞り部15(ブリッジ部12)を配置することで、絞り工程において捨て窓13の変形が均一になる。そのため、絞り工程を高精度に行うことができ、台座部11の歪みや基板2の変形を確実に抑制できる。
【0039】
また、本実施形態によれば、絞り部15の外周縁を捨て窓13の外周縁よりも内側に配置することで、絞り工程での変形が基板2や機能部まで及ぶのを確実に抑制できる。
さらに、各取付部4のブリッジ部12同士が、それぞれブリッジ部12の延在方向に沿う線上を回避した位置に配置されているため、絞り工程において各ブリッジ部12の絞り部15間同士で引張合うことがない。そのため、台座部11の歪みや基板2の変形を確実に抑制できる。
【0040】
また、本実施形態では、捨て窓13のうち、例えば捨て窓13c,13dを部品を収容する収容孔として機能させているため、捨て窓13c,13dと収容孔とを別々に形成する場合に比べて、レイアウト性を向上できるとともに、型の複雑化を抑制できる。したがって、更なる製造効率の向上、低コスト化を図ることができる。
また、本実施形態では、絞り工程の後段で、台座部11に貫通孔14を形成することで、貫通孔14の形成時において基板2の変形を確実に抑制できる。
【0041】
(実施例)
ここで、本発明を、実施例を挙げて説明する。
本願発明者は、捨て窓13の有無により、上述した絞り工程を行った際にプレス部品1にどのような影響が生じるのかの解析を行った。具体的に、本解析では、上述した本実施形態のように捨て窓13が形成されたプレス部品1(以下、モデルAという)と、捨て窓13が形成されていない従来のプレス部品(以下、モデルBという)と、で上述した絞り工程を行い、その後の基板2の厚さ方向(Z方向)、及び径方向での変位や、基板2への残留応力を解析した。なお、以下に説明する図7〜12中上部にある細長部分Qは、その細長い形状から解析上誤差が生じやすく、特に図7,8においてこの細長部分Qの数値は大きくなっており、現物とのずれが大きい。したがって、本解析では細長部分Qの解析結果については無視した。
【0042】
本解析における絞り工程の加工条件は、以下の通りである。
・しわ押さえ力:42[kgf]
・パンチ突き出し量(絞り深さ):0.24[mm]
・パンチ材質:64Brass(真鍮)
【0043】
図7,8は、Z方向への変位を解析した結果を示す図であって、そのうち図7はモデルAの平面図、図8はモデルBの平面図である。なお、以下に示す図では、上述した実施形態に相当する構成には、同一の符号を付している。また、以下の説明では、基板2の厚さ方向をZ方向とし、Z方向のうちダイ63側(取付部4の底部側)を+Z方向、パンチ61側(取付部4の開口側)を−Z方向とする。さらに、以下の説明では、機能部の一つとして、基板2の径方向中央部に貫通孔Hを形成している。したがって、各取付部4のうち、取付部4a,4b,4dに関しては、台座部11と機能部との間に捨て窓13が形成されている。
図8に示すように、上述の加工条件で絞り工程を行うと、特に基板2の外周部において、−Z方向への変位が大きく、結果的に基板2全体が+Z方向を突として反ってしまう結果となった。なお、モデルBにおける−Z方向への最大変位は、基板2の外周部のうちP1’部分において、0.0316[mm]であった。これは、絞り工程時には、しわ押さえを行っているものの、絞り部15に作用するZ方向への引張力が絞り部15よりも外側にも作用し、基板2の外周部にパンチ61側である−Z方向に向けて反りが発生してしまうためであると考えられる。
【0044】
一方、図7に示すモデルAでは、上述した従来構造と同様に、基板2の外周部において、−Z方向への変位が発生するものの、その変位は小さく、例えば、P1部において0.021[mm]であった。これは、モデルAでは台座部11の周囲に捨て窓13を形成しているため、絞り工程時において、上述した引張力が捨て窓13よりも外側に作用するのを抑制できたためであると考えられる。
【0045】
図9,10は、径方向への変位を解析した結果を示す図であって、そのうち図9はモデルAの平面図、図10はモデルBの平面図である。なお、以下の説明では、基板2の径方向をR方向とし、R方向のうち、外周部に向かう方向を+R方向、貫通孔Hに向かう方向を−R方向としている。
図10に示すように、上述の加工条件で絞り工程を行うと、絞り部15のうち台座部11に対してR方向に沿う両側や、台座部11の周辺部分等での変位が大きく、特に台座部11に対して−R方向側での変位が大きくなる結果となった。これは、絞り工程を行うことで、台座部11の内側に向けて圧縮力が作用することで、台座部11の周辺部分が台座部11の内側に向けて引き寄せられるためであると考えられる。なお、モデルBにおけるR方向への最大変位は、基板2のP2’部分において+0.0731[mm]であった。
【0046】
一方、図9に示すモデルAでは、上述した従来構造と同様に、絞り部15や台座部11の周辺部分等において、Z方向への変位が発生するものの、その変位は小さくなっていることがわかる。特に、各取付部4のうち、台座部11と機能部との間に捨て窓13が形成されている取付部4a,4b,4dに関しては、−R方向への変位はほとんど見られなかった。これは、モデルAでは台座部11の周囲に捨て窓13を形成しているため、絞り工程において、上述した圧縮力が捨て窓13よりも外側に作用するのを抑制できたためであると考えられる。なお、モデルAにおけるR方向への最大変位は、取付部4cのP2部において+0.0638[mm]であった。
【0047】
図11,12は、残留応力(相当応力)を解析した結果を示す図であって、そのうち図11はモデルAの平面図、図12はモデルBの平面図である。なお、図11,12は、スプリングバック後の状態を示している。
図12に示すように、上述の加工条件で絞り工程を行うと、取付部4の周辺に広範囲に亘って残留応力が蓄積されていることがわかる。これは、モデルBでは、台座部11を取り囲む全周が連なった状態で絞り部15として塑性変形するため、周囲で拘束し合うことで、残留応力が増加したと考えられる。このような場合には、後の温度変化等により元の形状に復元しようとしたり、遅れ破壊等を引き起こしたりする原因となる。なお、モデルBにおける残留応力の最大値は639[MPa]であった。
【0048】
一方、図11に示すモデルAでは、上述した従来構造と同様に、取付部4に残留応力が蓄積されているものの、その範囲のほとんどが台座部11及びブリッジ部12の部分のみであることがわかる。そのため、基板2において、台座部11に対して捨て窓13よりも外側の領域には、残留応力がほとんど蓄積されていないことがわかる。これは、絞り工程時に作用する圧縮力や引張力が、捨て窓13よりも外側に及ぶのを抑制できたためと考えられる。また、絞り部15の周方向両側に捨て窓13が形成されているため、絞り部15として塑性変形する際に、周囲で拘束し合うのを抑制できと考えられる。なお、モデルAにおける残留応力の最大値は573[MPa]であった。
【0049】
このように、実際の解析によって本実施形態の作用効果が実際に確認でき、従来構造ではなし得ない格別な作用効果を奏することができた。
【0050】
以上、本発明の技術範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上述した実施形態では、プレス部品1の一例として、日車押さえを採用した場合について説明したが、これに限らず、種々のプレス部品に採用可能である。
また、上述した実施形態では、台座部11にビスを挿通させるための貫通孔14を形成する場合について説明したが、貫通孔14を形成しなくても構わない。何れにしても、基板2に対して窪んだ台座部11と、台座部11と基板2とを連結する絞り部15と、が形成されていれば構わない。
また、絞り部15や捨て窓13の形状や数量は、適宜設計変更が可能である。
さらに、上述した実施形態では、順送型の金型を用い、プレス部品1を連続的に形成する場合について説明したが、これに限らず、例えばトランスファー型や単発型の金型を用いても構わない。
【符号の説明】
【0051】
1…プレス部品 2…基板 4,4a〜4e…取付部 11…台座部 13…捨て窓 14…貫通孔 15…絞り部 51…板材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能部を有する基板と、
前記基板に対して窪んだ位置に配置され、前記基板を取付部材に取り付ける際に前記取付部材に当接可能な台座部と、
前記台座部と前記基板とを連結する絞り部と、を有するプレス部品において、
前記基板のうち前記台座部と前記機能部との間には、前記台座部の周方向に沿って間隔をあけて延在する複数の捨て窓が形成されるとともに、前記絞り部は前記捨て窓間に配設されていることを特徴とするプレス部品。
【請求項2】
前記捨て窓は、前記台座部の周方向に沿って間隔をあけて2箇所形成されていることを特徴とする請求項1記載のプレス部品。
【請求項3】
前記捨て窓は、前記台座部を間に挟んで前記基板の径方向に沿って対向していることを特徴とする請求項2記載のプレス部品
【請求項4】
前記絞り部は、前記台座部を間に挟んで対称に配設されていることを特徴とする請求項3記載のプレス部品。
【請求項5】
前記絞り部の延在方向に沿う外側端部が、前記捨て窓の外周縁よりも内側に配置されていることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか1項に記載のプレス部品。
【請求項6】
前記捨て窓は、前記取付部材を取り付けた際に部品を収容可能に構成されていることを特徴とする請求項1から請求項5の何れか1項に記載のプレス部品。
【請求項7】
前記基板には、複数の前記台座部が形成され、
一の前記台座部での前記絞り部の延在方向は、他の前記台座部における前記絞り部の延在方向を回避した位置に設定されていることを特徴とする請求項1から請求項6の何れか1項に記載のプレス部品。
【請求項8】
機能部を有する基板と、
前記基板に対して窪んだ位置に配置され、前記基板を取付部材に取り付ける際に前記取付部材に当接可能な台座部と、
前記台座部と前記基板とを連結する絞り部と、を有するプレス部品の製造方法であって、
前記基板に絞り加工を施すことで、前記絞り部を形成する絞り工程を有し、
前記絞り工程の前段に、前記基板のうち前記台座部と前記機能部との間に、前記台座部の形成領域の周方向に沿って間隔をあけて複数の捨て窓を形成する打ち抜き工程を有していることを特徴とするプレス部品の製造方法。
【請求項9】
前記絞り工程の後段に、前記台座部に貫通孔を形成する貫通孔形成工程を有していることを特徴とする請求項8記載のプレス部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−82000(P2013−82000A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−11382(P2012−11382)
【出願日】平成24年1月23日(2012.1.23)
【出願人】(305018823)盛岡セイコー工業株式会社 (51)