説明

プレプロカルシトニン抗原Tエピトープ

本発明は、主要組織適合複合体I (MHC I)により提示されるプレプロカルシトニン抗原Tエピトープに関する。これらのペプチドは、癌の免疫療法において用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレプロカルシトニンTエピトープ及び癌免疫療法におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の充実性腫瘍を有する患者からの腫瘍応答性CTLの分析は、T細胞をIL-2とともに患者に移す前にインビトロでT細胞を拡張させるか(GATTINONIら, Nat Rev Immunol, 6, 383〜93, 2006)、又は次いで治療用ワクチンに用い得るそれらの標的Agを同定することにより、悪性疾患の有望な新しい治療を導き出した。PBL又は腫瘍浸潤リンパ球(TIL)のいずれかに由来する、CTLにより認識される多数の腫瘍関連Agが同定されている。この研究の大部分は、悪性黒色腫腫瘍を用いて行われた。残念なことに、臨床研究は、抗腫瘍CD8 T細胞の頻度の増加にもかかわらず、現在の治療用ワクチンの効率は、転移性黒色腫の患者において限定されたままであることを示す(ROSENBERGら, Nat Med, 10, 909〜15, 2004)。現在の研究は、観察される希な腫瘍退縮の機構(GERMEAUら, J Exp Med, 201, 241〜8, 2005; LURQUINら, J Exp Med, 201, 249〜57, 2005)、抗ワクチンCD8 T細胞の活性化状態、及び腫瘍部位に遊走するそれらの能力のよりよい理解、並びに腫瘍特異的T細胞及び腫瘍細胞の穏やかな共存を支配する局所的機構の決定に焦点を当てている。
【0003】
ヒトの肺腫瘍の抗原性及びCTL攻撃に対する感受性に関して、あまり知られていない。これらの腫瘍のほとんどは、扁平上皮癌(SCC)、腺癌(ADC)及び大細胞癌(LCC)を含む大きい群である非小細胞肺癌(NSCLC)である。NSCLCは、TCRα/βT細胞により浸潤され得る(ECHCHAKIRら, Int Immunol, 12, 537〜46, 2000)。同定されたT細胞標的Agは、多くの肺腫瘍で過剰発現されるHER2/neu癌原遺伝子(YOSHINOら, Cancer Res, 54, 3387〜90, 1994)、及び自己正常細胞と比較して腫瘍細胞において点突然変異を含有することが見出されたいくつかの遺伝子によりコードされるペプチドを含む。これらの変異遺伝子は、伸長因子2 (HOGANら, Cancer Res, 58, 5144〜50, 1998)、リンゴ酸酵素(KARANIKASら, Cancer Res, 61, 3718〜24, 2001)、変異α-アクチニン-4 (ECHCHAKIRら, Cancer Res, 61, 4078〜83, 2001)、及びNFYC (TAKENOYAMAら, Int J Cancer, 118, 1992〜7, 2006)を含む。さらに、いくつかの癌/生殖系列遺伝子が、NSCLCにおいて発現され(WEYNANTSら, Int J Cancer, 56, 826〜9, 1994; SHICHIJOら, Int J Cancer, 64, 158〜65, 1995; YOSHIMATSUら, J Surg Oncol, 67, 126〜9, 1998; JANGら, Cancer Res, 61, 7959〜63, 2001; GRUNWALDら, Int J Cancer, 118, 2522〜8, 2006)、このことは、癌細胞の表面での腫瘍特異的Agの存在を導くはずである。しかし、MAGE型Agに対する自発的T細胞応答は、肺癌患者においてそれほど観察されていない。よって、新しい肺癌Ag、特に幾人かの患者の腫瘍が共有するものを同定することは、肺癌における新規なワクチン接種ストラテジーの設計及び免疫学的モニタリングの助けになるだろう。
【0004】
CD8 T細胞により認識される最も抗原性のペプチドは、細胞内成熟タンパク質のプロテアソームでの分解、及び抗原プロセシング関連輸送体(TAP)による、サイトソルからERへのそれらの輸送を起源とする(概説としてROCK及びGOLDBERG, Annu Rev Immunol, 17, 739〜79, 1999を参照)。9〜10 aaの得られるペプチドは、MHCクラスI (MHC-I)分子に結合し、次いで細胞表面に運搬される。腫瘍反応性T細胞により認識されるエピトープの数の増大が、転写、スプライシング又は翻訳のレベルで作用する伝統的でない機構を原因とすると報告されている(概説として、MAYRAND及びGREEN, Immunol Today, 19, 551〜6, 1998を参照)。いくつかの腫瘍エピトープは、Agをプロセシングし、CD8 T細胞をプライミングするというそれらの能力において独特であるが、イムノプロテアソームを構成的に発現するDCによりほとんどプロセシングされないことは、注目に値する(MORELら, Immunity, 12, 107〜17, 2000; CHAPATTEら, Cancer Res, 66, 5461〜8, 2006)。
【0005】
本発明者らは、ヒトの非小細胞肺癌上で、自己腫瘍浸潤リンパ球に由来する細胞傷害性Tリンパ球クローンにより認識されるペプチドエピトープを同定した。HLA-A2により提示されるこのペプチドが、プレプロカルシトニンシグナルペプチドのカルボキシ末端領域に由来し、プロテアソーム及び抗原プロセシング関連輸送体とは独立してプロセシングされることを見出した。
【0006】
プレプロカルシトニンは、CALCA遺伝子によりコードされ、この遺伝子はα-カルシトニン遺伝子関連ペプチド(α-CGRP)もコードする。CALCA遺伝子は、5つのイントロンと6つのエキソンを含み、その一次RNA転写産物が、組織特異的な選択的スプライシングを示す(JONASら, Proc Natl Acad Sci U S A, 82, 1994〜8, 1985; ROSENFELDら, Nature, 304, 129〜35, 1983)。エキソン1、2、3及び4は連結されて、甲状腺C細胞においてカルシトニンmRNAを生成するが、エキソン1、2、3、5及び6は、ニューロン細胞においてα-CGRP mRNAを形成する(MORRISら, Nature, 308, 746〜8, 1984)。成熟α-CGRPは、体内に広く分布する37 aaの内因性の血管拡張性ペプチドである(ZAIDIら, Crit Rev Clin Lab Sci, 28, 109〜74, 1990)。カルシトニンmRNAは、141アミノ酸の前駆タンパク質であるプレプロカルシトニンをコードし、これは、25残基のN-末端シグナル配列を含む。シグナル配列の切断により、プロカルシトニンが得られ、これは116 aaを含有し、N-末端領域(57 aa)、カルシトニンそのもの(32 aa)及びC-末端ペプチドであるカタカルシン(21 aa)を含む(ROSENFELDら, Nature, 304, 129〜35, 1983)。プレプロカルシトニンのシグナル配列も、α-CGRPプレプロホルモン内に存在する。
【0007】
カルシトニンは、成長、妊娠及び授乳のような「カルシウムストレス」期間に骨格を保護することに主に関わるホルモンである(STEVENSONら, Lancet, 2, 769〜70, 1979; AUSTIN及びHEATH, N Engl J Med, 304, 269〜78, 1981)。カルシトニンは、甲状腺髄様癌(MTC)及びいくつかの肺癌により高レベルで生産されることが知られている(COOMBESら, Lancet, 1, 1080〜3, 1974; MILHAUDら, Lancet, 1, 462〜3, 1974)。血漿のカルシトニンレベルの上昇は、これらの腫瘍における診断及び予後のマーカーである(COOMBESら, Lancet, 1, 1080〜3, 1974)。肺癌細胞における遺伝子CALCAの異常な発現はよく理解されていないが、部分的に、プロモーターの脱メチル化(BAYLINら, Cancer Res, 46, 2917〜22, 1986)と、転写リプレッションの欠損をもたらす(SYMESら, FEBS Lett, 306, 229〜33, 1992)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
MTCの免疫療法のために、成熟カルシトニンポリペプチドでパルスした樹状細胞(DC)を用いることが提案されている(SCHOTTら, Cancer Immunol Immunother, 51, 663〜8, 2002)。しかし、カルシトニン前駆体の他の領域が、抗腫瘍免疫療法の誘導の一部分を担っていることは、現在まで示唆されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
よって、本発明の主題は、プレプロカルシトニンの8〜11連続アミノ酸のフラグメント、より具体的にはそのシグナルペプチドからなることを特徴とする、MHC Iにより提示されるTエピトープを構成する単離された免疫原性ペプチドである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】A. 腫瘍細胞であるIGR-Heu、自己EBVで形質転換されたB細胞(Heu-EBV)及びK562に対するCTLクローンHeu161の細胞傷害活性。B. CTLクローンにより認識されるAgをコードするcDNAクローンの同定。
【図2】A. カルシトニン並びにα-CGRPの遺伝子及び転写産物と比較した、cDNA 150の図。B. 抗原性ペプチドをコードする領域を同定するために用いたミニ遺伝子。
【図3】CTLクローンHeu161により認識される抗原性ペプチドの同定。
【図4】プレプロカルシトニン16-25ペプチドのプロセシングは、プロテアソーム及びTAPに依存しない。
【図5】プレプロカルシトニン16-25抗原性ペプチドのプロセシングは、SP及びSPPを含む。
【図6】A.アロジェニックMTC (TT)及びSCLC (DMS53)株化細胞に対するCTL Heu161の細胞傷害性活性。B. HLA-A2でトランスフェクションされたDMS53細胞の、CTLクローンHeu161による認識。c. カルシトニンを発現する成熟DCの認識。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の好ましい実施形態によると、上記のペプチドは、配列(1文字コード) VLLQAGSLHA (配列番号1)を含む。好ましくは、上記のペプチドは、配列VLLQAGSLHA (配列番号1)を有するペプチド、及び配列LVLLQAGSLHA (配列番号2)を有するペプチドから選択される。
【0012】
このペプチドは、その免疫原性を増大させるために、例えば天然配列の1又は複数のアミノ酸を、HLA-A2についての親和性及び/又はペプチド/HLA-A2分子複合体の安定性に好ましい1つ又は複数のアミノ酸で置換することにより、任意にさらに改変できる。
所定のMHC I分子についての親和性及び/又はペプチド/HLA-A2分子複合体の安定性に好ましいアミノ酸は、例えば、HLA-A2対立遺伝子について知られるアンカー残基、特に2次アンカー残基からなり得る。これらのアンカー残基は、利用可能なデータベース、例えばSYFPEITHIベース(Rammenseeら, Immunogenetics, 50, 213〜219, 1999)、又はBIMASベース(Parkerら, J. immunol. 152, 163, 1994)を調べることにより容易に同定できる。
【0013】
本発明のペプチドの免疫原性を増大させ得る置換の例は、以下のものが挙げられる:
- 上記のペプチドのN-末端アミノ酸についての、PCT出願WO 02/08716に記載されるようなチロシンでの置換、又は(ペプチド配列番号1の場合)ロイシンでの置換;
- 配列番号1のペプチドのC-末端アラニンについての、バリン又はロイシンでの置換。
【0014】
配列番号1に由来する特に好ましい改変ペプチドは、YLLQAGSLHV (配列番号10)、VLLQAGSLHV (配列番号11)、VLLQAGSLHL (配列番号12)及びLLLQAGSLHV (配列番号13)からなる群より選択される。
【0015】
本発明の主題は、本発明による少なくとも1つの免疫原性ペプチドを含む組成物でもある。
これらは、多特異性CTL応答を生じることができ、上記のペプチドとともに、1つ又は複数のその他の免疫原性エピトープも含む多エピトープ組成物であり得る。
これらのその他の免疫原性エピトープは、MHCにより提示されるペプチド、例えば、カルシトニン若しくはα-CGRPから、又は1若しくは複数のその他の抗原から単離された免疫原性ペプチドであればよく、その例はHER2/neuである。
【0016】
本発明による多エピトープ組成物は、異なるHLA対立遺伝子を有する個体が含まれる集団に対して広く用いることができるように、種々のMHC I分子により提示されるエピトープを含み得る。さらに、これらは、MHC II分子により提示され、T-ヘルパー応答を誘導できる少なくとも1つのエピトープも含み得る。
【0017】
本発明による組成物の好ましい実施形態によると、これは、異種ポリペプチド(すなわち、カルシトニンのシグナルペプチドの一部分でないポリペプチド)と融合した本発明による免疫原性ペプチドの1又は複数のコピーを含む少なくとも1つのキメラポリペプチドを含む。
例えば、多エピトープ組成物の場合、上記の異種配列は、少なくとも1つの他の免疫原性ペプチドエピトープの1又は複数のコピーも含む。また、本発明による免疫原性ペプチドは、ボルデテラ・ペルツッシス(Bordetella pertussis)のアデニレートシクラーゼ(CyA)に挿入され得る。CyAの受容体はCD11b受容体であり、樹状細胞はCD11b受容体を発現するので、このような構築物は、免疫原性ペプチドが、樹状細胞を直接標的にすることを可能にする(DADAGLIOら, Int. Immunol, 15,. 1423〜1430, 2003)。
キメラポリペプチドは、それ自体公知の方法により、特に通常の組換えDNA技術により容易に得ることができる。
【0018】
本発明は、本発明による免疫原性ペプチド又はキメラポリペプチドをコードするポリヌクレオチドも含む。
これらのポリヌクレオチドは、適切な発現ベクターに、適切なプロモーターの転写制御下で、宿主細胞又は生物における免疫原性ペプチド又はキメラポリペプチドの発現を可能にするために、挿入できる。発現ベクターの選択は、発現が所望される宿主細胞又は生物に依存する。例えば、細菌又は真核生物でのポリペプチドの生産のために、それぞれ、細菌プロモーター又は真核生物プロモーターを有するベクターを用いる。処置される患者にポリヌクレオチドを投与することを意図する場合、裸のDNAプラスミド、又は一過性発現を引き起こすウイルスベクター、例えばアデノウイルス由来ベクター、レンチウイルス由来ベクター又はワクシニアウイルス由来ベクターが好ましい。
【0019】
本発明の組成物は、ペプチド若しくは本発明の多エピトープ組成物でパルスされたか、又は適切な発現ベクターに挿入された本発明のポリヌクレオチドで形質転換された樹状細胞も含み得る。
【0020】
本発明の主題は、免疫原性ペプチドエピトープ、本発明による組成物又はポリヌクレオチドの、医薬品、特に抗腫瘍免疫療法を意図し、特にカルシトニン及び/又はα-CGRPを発現する腫瘍の治療のための医薬品を得るための使用でもある。これは、特に、小細胞肺癌、非小細胞肺癌を含む肺癌、及び甲状腺髄様癌を含む。
【0021】
本発明のペプチドは、特に、HLA-A*0201患者の治療を意図する医薬品を得るために用いることができる。本発明は、有効成分として、本発明による少なくとも1つの免疫原性ペプチド、組成物又はポリヌクレオチドを含む医薬品も含む。本発明の好ましい実施形態によると、上記の医薬品は、抗腫瘍免疫療法用のワクチンである。本発明による医薬品は、通常の賦形剤、及び免疫療法において通常用いられ、例えば有効成分の投与を促進させるか、有効成分を安定させるか、その免疫原性を増大させることなどができるアジュバントも含み得る。適切なアジュバントの例は、CpGオリゴデオキシヌクレオチド、アポトーシス誘導因子(AIF)、熱ショックタンパク質(HSP)、未熟樹状細胞を活性化するためのToll様受容体(TLR)、並びにサイトカイン及びケモカイン、例えばIL-7、IL-12、IL-15及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)を含む。
【0022】
本発明の免疫原性ペプチドにより引き起こされる抗腫瘍応答をさらに改善するために、これらは、さらに、他の抗腫瘍剤と組み合わせて用いることができる。
限定しない例として、これらは、以下のものと組み合わせることができる:
- ケモカイン、例えばMIP3α(CCL20)及び/又はRANTES (CCL5)は、腫瘍に向かうCTLの遊走を促進するために、処置される腫瘍の部位に注入できる;
- 腫瘍細胞を、アポトーシス誘導に対してより感受性にする細胞傷害性薬剤、より具体的には、EGF-R (表皮成長因子受容体)により開始されるシグナル経路の阻害剤、例えば野生型タンパク質p53、ケモカインSDF-1、1-メチルトリプトファン(インドールアミン2-3ジオキシゲナーゼの阻害剤)、チロシンキナーゼ阻害剤、例えばエルロチニブ、又はEGF-Rに対する抗体、例えばセツキシマブ。
【0023】
本発明は、肺のCTL又はMTC細胞により認識されるプレプロカルシトニンエピトープの同定について説明する限定しない実施例に言及する以下のさらなる記載から、より充分に理解されるだろう。
【0024】
図面の説明
図1:A. 腫瘍細胞であるIGR-Heu、自己EBVで形質転換されたB細胞(Heu-EBV)及びK562に対するCTLクローンHeu161の細胞傷害活性。細胞溶解活性は、3重で行った通常の4-h 51Cr放出アッセイで測定した。E/T比を示す。
B. CTLクローンにより認識されるAgをコードするcDNAクローンの同定。Heu161を、cDNAクローン150を含有するベクターpCEP4及びHLA-A*0201配列を含有するベクターpcDNA3.1を用いて同時トランスフェクションした293-EBNA細胞により刺激した。対照の刺激細胞は、IGR-Heu、及びcDNA 150又はHLA-A2単独でトランスフェクションされた293-EBNAを含んでいた。培地に放出されたTNFβの濃度を、TNF感受性WEHI-164cl13細胞を用いて測定した。
【0025】
図2:A. カルシトニン並びにα-CGRPの遺伝子及び転写産物と比較した、cDNA 150の図。番号を付した箱は、エキソンを表す。矢印は、RT-PCR分析で用いたフォワード(O)及びリバース(R)プライマーを示す。B. 抗原性ペプチドをコードする領域を同定するために用いたミニ遺伝子。一連の切断された構築物を調製し、HLA-A2 cDNAとともに293-EBNA細胞を同時トランスフェクションした。対応するコード配列を示す:ペプチドフラグメント1-47は配列番号14に相当し、ペプチドフラグメント1-41は配列番号15に相当し、ペプチドフラグメント1-35は配列番号16に相当し、ペプチドフラグメント1-29は配列番号17に相当し、ペプチドフラグメント7-47は配列番号18に相当し、ペプチドフラグメント9-47は配列番号19に相当し、ペプチドフラグメント12-47は配列番号20に相当し、ペプチドフラグメント17-47は配列番号21に相当し、ペプチドフラグメント9-38は配列番号22に相当し、ペプチドフラグメント9-37は配列番号23に相当する。CTLクローンHeu161による認識を、TNFβ分泌アッセイにより評価した。
【0026】
図3:CTLクローンHeu161により認識される抗原性ペプチドの同定。A. 精製した合成ペプチドを用いたCTL刺激。ペプチドを、アロジェニックHLA-A2+ MZ2-MEL.3.1黒色腫細胞に、室温にて60分間負荷した後に、CTLクローンHeu161を加えた。TNF放出を、16時間後に測定した。白丸は、配列番号1のペプチドを用いて得られた結果を表し、黒丸は、配列番号2の配列を用いて得られた結果を表し、白四角は、配列番号24のペプチドを用いて得られた結果を表し、黒四角は、配列番号25のペプチドを用いて得られた結果を表し、白菱形は、配列番号26のペプチドを用いて得られた結果を表す。B. CTLクローンの、ペプチドでパルスした細胞に対する溶解活性。51Cr標識Heu-EBV-B細胞を、60分にわたって、記載された濃度のペプチドとインキュベートした後に、CTLクローンHeu161を、10:1のE/T細胞比で加えた。クロムの放出を、4時間後に測定した。白丸は、配列番号1のペプチドを用いて得られた結果を表し、黒丸は、配列番号2のペプチドを用いて得られた結果を表す。
【0027】
図4:プレプロカルシトニン16-25ペプチドのプロセシングは、プロテアソーム及びTAPに依存しない。A. IGR-Heu標的細胞を、プロテアソーム特異的阻害剤であるエポキソミシンの存在下又は不在下で37℃にて2時間インキュベートし、次いで、Heu161細胞を加えた。IGR-Heu上でプロテアソーム依存性変異α-アクチニン-4ペプチドを認識する自己Heu127クローンを、陽性対照として含めた。培養24時間後に培地中に放出されたTNFβは、上記のようにして測定した。B. 293-EBNA細胞を、cDNA 150 (上のパネル)又は変異α-アクチニン-4 cDNA (下のパネル)のいずれかを含有するpCEP4と、HLA-A*0201構築物を含有するpcDNA3.1と、IPC47 cDNAを含有するベクターpBJi-neoとで同時トランスフェクションした。CTLクローンHeu161 (上のパネル)又はHeu127 (下のパネル)を、次いで、加えた。対照は、HLA-A2又はpBJi-neo-IPC47単独でトランスフェクションした293-EBNA細胞と、プレプロカルシトニン又はα-アクチニン-4ペプチドのいずれかとのトランスフェクタントのインキュベーションとを含んでいた。示したデータは、4回の独立した実験の代表である。
【0028】
図5:プレプロカルシトニン16-25抗原性ペプチドのプロセシングは、SP及びSPPを含む。
A. IGR-Heu腫瘍細胞を、37℃にて2時間、セリンプロテアーゼ阻害剤である250μMのジクロロイソクマリン(DCI)とインキュベートした後に、抗プレプロカルシトニン(左のパネル)又は抗-α-アクチニン-4 (右のパネル) CTLクローンを加えた。B. SPP mRNA発現の、リアルタイムRT-PCR分析による分析。SPPを標的にするsiRNA (siRNA-S1、siRNA-S2)を用いるか又は用いずにエレクトロポレーションしたIGR-Heu腫瘍細胞から抽出されたトータルRNAを逆転写し、材料及び方法に記載されるようにして、TaqManにより定量した。C. 腫瘍細胞認識に対するSPP消滅の影響。siRNA-S1、siRNA-S2又は対照siRNAを用いるか又は用いずにエレクトロポレーションしたIGR-Heu標的細胞に対する、CTLクローンHeu161及びHeu127の溶解活性を、記載されるE/T比での通常の4 h 51Cr放出アッセイにより決定した。6回のうちの2回の代表的実験を、CTLクローンHeu161について示す。D. siRNA-S1又は対照siRNAを用いるか又は用いずにエレクトロポレーションした腫瘍細胞を用いて刺激されたHeu161及びHeu127 CTLクローンによるIFNγの産生。E. プレプロカルシトニン16-25抗原性ペプチドは、カルシトニンホルモン前駆体のシグナル配列のC-末端に位置する。CTLクローンHeu161により認識される最適ペプチドを箱で囲む。矢印はシグナルペプチダーゼ(SP)及びおよそのシグナルペプチドペプチダーゼ(SPP)の切断部位を示す。プレプロカルシトニンシグナルペプチドのn、h及びc領域を、SignalP 3.0ソフトウェアを用いて予測した。
【0029】
図6: A.アロジェニックMTC (TT)及びSCLC (DMS53)株化細胞に対するCTL Heu161の細胞傷害性活性。自己IGR-Heu腫瘍細胞を、陽性対照として含めた。B. HLA-A2でトランスフェクションされたDMS53細胞の、CTLクローンHeu161による認識。DMS53細胞を、HLA-A*0201を含有するpcDNA3.1ベクターでトランスフェクションした後に、CTLクローンHeu161を加えた。c. カルシトニンを発現する成熟DCの認識。単球を、磁性ビーズを用いて、HLA-A2健常ドナーの血液から単離し、組換えIL-4 (100 ng/ml)及びGM-CSF (250 ng/ml)の存在下で6日間培養した。TNFα (20 ng/ml)をさらに3日間加えた成熟化の後に、DCを、ベクターpCEP4中のcDNAクローン150でトランスフェクションし、Heu161により放出されるTNFβの量を24時間後に測定した。
【実施例】
【0030】
実施例1:材料及び方法
NSCLC腫瘍株化細胞及び自己CTLクローンの誘導
IGR-Heu NSCLC株化細胞を、患者Heu (HLA-A2, A68, B7, B35, C4, C7)のLCCサンプルから誘導し、以前に報告されたようにして培養で維持した(ECHCHAKIRら, Cancer Res, 61, 4078〜83, 2001)。Heu161クローンを、自己TILから誘導し、96ウェルV底マイクロタイタープレート(Nunc, Roskilde, Denmark)中で、記載されたようにして増殖させた(ECHCHAKIRら, Int Immunol, 12, 537〜46, 2000)。
【0031】
細胞傷害性アッセイ及びTNFβ放出
細胞傷害性アッセイは、丸底96ウェルプレート中で3重の培養を用いて、従来の4-h 51Cr放出アッセイにより測定した。パーセントでの比細胞傷害性は、従来のようにして算出した;SDは<5%であった。IGR-Heu、Heu-EBV、K562 (慢性骨髄性白血病の患者に由来する)、TT (HLA-A2.1+ MTC; ECACC, Salisbury, UK)、及びDMS53 (HLA-A2- SCLC; ECACC)の株化細胞を、細胞傷害性アッセイにおいて標的として用いた。
TNFβは、TNF感受性WEHI-164c13細胞に対する培養培地の細胞傷害性を、MTT比色アッセイ(ESPEVIK & NISSEN-MEYER, J Immunol Methods, 95, 99〜105, 1986)を用いて測定することにより検出した。
【0032】
cDNAライブラリーの構築及びスクリーニング
IGR-Heu腫瘍細胞からのcDNAライブラリーを、以前に報告されたようにして構築した(ECHCHAKIRら, Cancer Res, 61, 4078〜83, 2001)。簡単に、ポリ(A)+ RNAをIGR-Heuから、Fastrackキット(Invitrogen, Groningen, the Netherlands)を用いて抽出し、オリゴ(dT)プライマーを用いるSuperscript Choice System (Gibco BRL)を用いてcDNAに変換した。次いで、cDNAをpCEP4プラスミド(Invitrogen)に、記載されるようにしてライゲーションした(ECHCHAKIRら, Cancer Res, 61, 4078〜83, 2001)。組換えプラスミドを大腸菌(Escherichia coli) DH5α中へエレクトロポレーションし、アンピシリンを用いて選択した。ライブラリーを、およそ100 cDNAクローンのプールに分けた。それぞれのプールを増殖させ、プラスミドDNAを、QIAprep8プラスミドキット(QIAGEN GmbH, Hilden, Germany)を用いて抽出した。293-EBNA細胞(Invitrogen)を、cDNAライブラリーのそれぞれのプールのプラスミドDNA及びHLA-A*0201 cDNAクローンを含有する発現ベクターpcDNA1/Amp (Invitrogen)ともに、LipofectAMINE試薬(Life Technologies)を用いて同時トランスフェクションした。24時間後に、CTLクローンHeu161 (3,000細胞/ウェル)を加えた。さらに24時間後に、培地の半分を回収し、そのTNFβ含量を、WEHI-164c13細胞で、MTT比色アッセイを用いて測定した。
【0033】
配列分析及びコードエキソンの局在化
cDNAクローン150を、ABI 310自動DNAシーケンサー(Perkin Elmer Applied Biosystems, Warrington, Great Britain)においてジデオキシ鎖法を用いて配列決定した。配列相同性のコンピュータによる検索を、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/blast.cgiで利用可能なプログラムを用いて行った。配列アラインメントを、Geneworks (登録商標)ソフトウェア(Intelligenetics, Mountain View, CA)を用いて行った。抗原性ペプチドをコードする領域を同定するために、cDNAフラグメントのパネルをcDNAクローン150から、一連のプライマー対を用いるPCRにより増幅した。PCR条件は、94℃にて3分間、続いて、94℃にて1分間、60℃にて2分間、及び72℃にて3分間からなるサイクルを30回、そして72℃にて10分間の最終伸長工程であった。これらのPCR産物を、発現プラスミドpcDNA3.1に、Eukaryotic TOPO TAクローニングキット(Invitrogen)を用いてクローニングした。次いで、構築物を、pCEP4発現ベクターにサブクローニングして過剰発現させ、293-EBNA細胞を、HLA-A2 cDNAクローンとともに同時トランスフェクションした。
【0034】
化学試薬及びRNA干渉
プロテアソーム及びSP阻害のために、106腫瘍細胞を、特定の阻害剤の存在下又は不在下で300μlの培地に再懸濁した。簡単に、細胞を、エポキソミシン又はDCI (Sigma, Saint Louis, MI)のいずれかと37℃にて2時間インキュベートし、リン酸緩衝食塩水中で洗浄し、175μlの「酸性緩衝液」(0.263 Mクエン酸と0.132 M NaH2PO4との1:1混液、pH 2.5)中に50秒間再懸濁した。細胞を、次いで、RPMI 1640の添加により中和し、遠心分離し、阻害剤の存在下又は不在下で37℃にてさらに3時間インキュベートした。用いた濃度では、トリパンブルー染色により確認されるように、毒性の阻害剤はなかった。
SPP阻害のために、まず、SPP活性を特異的に遮断すると報告(WEIHOFEN et al., J Biol Chem, 275, 30951-6, 2000)されているシステインプロテアーゼ阻害剤Z-LL2ケトン(Calbiochem, Darmstadt, Germany)を試した。機能的アッセイにおいて、決定的な結果は得られなかった。よって、Ambion (Austin, TX USA)から購入した、ヒトSPPを標的にするsiRNAであるsiRNA-S1 (5-GACAUGCCUGAAACAAUCAtt- 3;配列番号3)及びsiRNA-S2 (5-UGAUUGUUUCAGGCAUGUCtg-3;配列番号4)を用いた。非標的化siRNA (Ambion)を、陰性対照として用いた(siRNA対照)。簡単に、IGR-Heu細胞を、Gene Pulser Xcellエレクトロポレーションシステム(Bio-Rad; 300 V, 500 F)において50nM siRNAを用いて、以前に記載されたようにして(LE FLOC'Hら, J Exp Med, 2007)エレクトロポレーションによりトランスフェクションし、72時間成長させた。
【0035】
RT-PCR分析
トータルRNA抽出及びRTを、記載されるようにして行った(LAZARら, J Clin Endocrinol Metab, 84, 3228〜34, 1999)。PCR増幅を、DNAポリメラーゼTaKaRa Taq (Takara Biomedicals, Shiga, Japan)を用い、オープンリーディングフレーム(ORF)の5'末端に位置するフォワードプライマーO (5' - ggt gtc atg ggc ttc caa aag t ; 配列番号5) と、ORFの3'末端に位置するリバースプライマーR (5' - atc agc aca ttc aga agc agg a ; 配列番号6) (図2A)とを用いて行った。PCR条件は、94℃にて5分間、続いて94℃にて1分間、63℃にて2分間、及び72℃にて2分間からなるサイクルを30回、そして72℃にて10分間の最後の伸長工程であった。これらの条件において、DNA増幅の直線的範囲にあることを確認した。増幅されたDNAの量を、エチジウムブロマイドを用いて染色したアガロースゲルを用いて視覚化した。
【0036】
定量PCR分析(Taq-man)を、CALCA遺伝子のエキソン2の5'末端に位置するフォワードプライマー5' - atc ttg gtc ctg ttg cag gc (配列番号7)と、エキソン3の3'末端に位置するリバースプライマー5'- tgg agc cct ctc tct ctt gct (配列番号8)とを用いて行った。Taq-manプローブプライマーは、Fam 5' - cct cct gct ggc tgc act ggt g (配列番号9) - 3' Tamraであった。プライマー及びプローブは、Primer Express (Applied Biosystems, Foster City, CA)及びOligo 4 (National Biosciences, Plymouth, MN)ソフトウェアを用いて設計した。RNAサンプルの量を、内部対照(18S)の増幅により標準化した。転写産物の相対的定量化を、標準曲線法(Applied Biosystems User Bulletin 2, ABI PRISM 7700配列決定システム)を用いて誘導した。18S RNAプライマー及びプローブは、製造業者の使用説明に従って用いた。PCR増幅を、Taq-man Universal Master Mixを用いて、製造業者の使用説明に従う標準的な条件(LAZARら, J Clin Endocrinol Metab, 84, 3228〜34, 1999)を用いて行った。
【0037】
SPP mRNA発現について、siRNA-S1及びsiRNA-S2を標的にするSPPを用いるか又は用いずにトランスフェクションしたIGR-Heu細胞からのトータルRNAを抽出し、逆転写し、リアルタイムRT-PCR分析(TaqMan)により定量した。PCRプライマー及びプローブは、Applied Biosystemsにより設計され、製造業者の推奨に従って用いた。RNAサンプルの量は、内部対照(18S)の増幅により標準化した。
【0038】
実施例2:自己肺癌細胞を認識するCTLクローン
患者Heu (HLA-A2+)は、原発腫瘍の切除の11年後の現在は疾患がない肺癌患者である。LCC株化細胞IGR-Heuは、この患者から1996年に切除された腫瘍に由来した。原発腫瘍に浸潤する単核細胞を単離し、照射したIGR-Heu腫瘍細胞、照射した自己EBV形質転換B細胞、及びIL-2で刺激した。応答リンパ球を、限界希釈によりクローニングし、腫瘍細胞及びEBV-B細胞の同じ混合物で刺激した。いくつかの腫瘍特異的CTLクローンを得て、それらのTCRVβ配列に基づいて3つの群に分類した(ECHCHAKIRら, Int Immunol, 12, 537〜46, 2000)。我々は、クローンの最初の2つの群(Heu127及びHeu171で表される)が、α-アクチニン-4 (ACTN4)遺伝子中の変異配列によりコードされる抗原性ペプチドを認識したことを以前に報告した(ECHCHAKIRら, Cancer Res, 61, 4078〜83, 2001; ECHCHAKIRら, Proc Natl Acad Sci U S A, 99, 9358〜63, 2002)。ここで、我々は、Vβ3-Jβ1.2 TCR再配列を発現するクローンHeu161を含むクローンの3つ目の群を分析した。CTLクローンHeu161は自己腫瘍株化細胞を溶解したが、自己EBV-B細胞もNK標的K562も溶解しなかった(図1A)。IGR-HeuのCTLクローンによる認識は、抗HLA-A2 mAb MA2.1により阻害された(データは示さず)。
【0039】
実施例3:HEU161クローンにより認識される抗原をコードする遺伝子の同定
IGR-Heu細胞からのポリ(A)+ RNAを用いて調製したcDNAライブラリーを、発現プラスミドpCEP4 (ECHCHAKIRら, Cancer Res, 61, 4078〜83, 2001)にクローニングした。ライブラリーを、およそ100組換えクローンの264個のプールに分け、それぞれのプールからDNAを調製した。293-EBNA細胞を、各プールからのDNA及びHLA-A*0201構築物で同時トランスフェクションした。CTLクローンHeu161をトランスフェクタントに24時間後に加えた。さらなる24時間後に、上清を回収し、それらのTNFβ含量を、TNF感受性WEHI-164c13細胞を用いて測定した(ESPEVIK及びNISSEN-MEYER, J Immunol Methods, 95, 99〜105, 1986)。cDNAプールの大きい割合(85/264)が陽性であることが示され、このことは、およそ0.4%の驚くべき高い頻度のcDNAがAgをコードしたことを示唆する。cDNAの1つのプールをサブクローニングし、150と命名されたcDNAクローンを単離した(図1B)。
【0040】
cDNA 150は、956 bp長であり、ポリアデニル化シグナルと、ポリ(A)テイルとを含有した。その配列は、カルシウム低下ホルモンであるカルシトニンとカルシトニン遺伝子関連ペプチドα(α-CGRP)との両方をコードする遺伝子CALCAのものに相当した。1次転写産物を、カルシトニン又はα-CGRP mRNAに、組織特異的選択的RNAプロセシング(AMARAら, Nature, 298, 240〜4, 1982)によりスプライシングする。cDNA 150は、遺伝子CALCAのエキソン2、3及び4にまたがる(図2A)完全カルシトニンコード配列を含有する。しかし、その5'末端は、データバンクに存在するカルシトニンcDNA配列のものとは、213ヌクレオチドのイントロン配列の存在により異なる(データ示さず)。
【0041】
実施例4:抗原性ペプチドの同定
抗原性ペプチドをコードする領域を、発現プラスミドにクローニングした短縮cDNAフラグメントを用いて同定し(材料及び方法を参照)、HLA-A2構築物とともに293-EBNA細胞を同時トランスフェクションした。図2Bに示すように、プレプロカルシトニンの最初の41残基をコードするフラグメントはAgの発現を変動させたが、最初の35残基をコードするフラグメントは変動させなかった。この結果は、抗原性ペプチドが、タンパク質の残基27〜41にわたる領域に含まれることを示唆した。しかし、この領域は、いずれの識別可能なHLA-A2結合モチーフも含有せず、この領域をカバーする一連の合成ペプチドはいずれも、CTLクローンにより認識されなかった(データ示さず)。
【0042】
我々は、次いで、5'末端で短くされ、開始コドン及びコザックコンセンサス配列を含有するように工学的に改変された一連のカルシトニンcDNAフラグメントを調製した。CTLクローンを用いるスクリーニングは、抗原性ペプチドが残基9〜47内に含まれることを示した(図2B)。さらなるトリミングにより、ペプチドをコードする領域は、残基9〜38まで狭められた(図2B)。この領域をカバーする一連のオーバーラップペプチドのうち、2つだけがCTLクローンHeu161により認識された:VLLQAGSLHA (配列番号1)及びLVLLQAGSLHA (配列番号2)、これらは同一であるが、後者のペプチドにはさらなるロイシンが含まれる。図3Aに示すように、両方のペプチドは、CTL Heu161による認識までHLA-A2+黒色腫細胞を感作して、約10 nMのペプチドを用いて最大効果の半分が得られた。溶解アッセイにおいて、デカマーは、11マーペプチドよりも、約3倍、わずかにより効果的であった(図3B)。我々は、CTLクローンHeu161により認識される最適抗原性ペプチドは、VLLQAGSLHA (配列番号1)、すなわちプレプロカルシトニン16-25であると結論付けた。このペプチドは、プレプロカルシトニンシグナルペプチドのC-末端部分に厳密に相当する(LE MOULLECら, FEBS Lett, 167, 93〜7, 1984)。
【0043】
実施例5:抗原性ペプチドのプロセシング
タンパク質中のペプチドのこの局在化は、これが、細胞質プロテアソーム及びTAP輸送体とは独立してERでプロセシングされ得ることを示唆する。プロテアソームの関与を調べるために、IGR-Heu腫瘍細胞を、特異的プロテアソーム阻害剤であるエポキソミシン(図4A)で処理した。10μMを用いて、抗プレプロカルシトニンCTLクローンHeu161による認識に対して影響が観察されなかった(図4A)。これとは対照的に、エポキソミシンは、変異α-アクチニン-4ペプチドを認識する(ECHCHAKIRら, Cancer Res, 61, 4078〜83, 2001)別の自己CTLクローンであるHeu127の刺激を強く阻害した。このことは、予測された。なぜなら、α-アクチニン-4はプロテアソームにおいて少なくとも部分的に分解されるサイトソルタンパク質であるからである(GOLDBERG及びROCK, Nature, 357, 375〜9, 1992)。これらの結果は、プレプロカルシトニン16-25ペプチドのプロセシングがプロテアソーム活性を必要としないことを示唆する。
【0044】
TAPの関与は、293-EBNA細胞を、抗原性ペプチド、HLA-A2及びヒトTAPに結合してそれを阻害する(BANKSら, Virology, 200, 236〜45, 1994)単純疱疹ウイルス1型の最初期タンパク質ICP47のそれぞれをコードする構築物で同時トランスフェクションすることにより試験した。図4Bに示すように、同時トランスフェクションしたICP47は、抗プレプロカルシトニンCTLによるトランスフェクタントの認識に対して検出可能な影響を有さなかったが、これは、抗-α-アクチニン-4 CTLクローンによる認識を強く阻害した。これらの結果は、プレプロカルシトニン16-25エピトープのプロセシングが、TAPに依存しないことを強く示唆する。
【0045】
抗原性ペプチドのC-末端VLLQAGSLHA (配列番号1)は、プレプロカルシトニンシグナル配列のC-末端に相当するので(LE MOULLECら, FEBS Lett, 167, 93〜7, 1984)、これは、ER膜上の腔内側で分泌タンパク質からシグナルペプチドを切り落とす(DALBEYら, Protein Sci, 6, 1129〜38, 1997) I型シグナルペプチダーゼ(SP)により作製されると予測された。SPの関与は、前駆体タンパク質からのシグナル配列の放出を妨げる(RUSBRIDGE及びBEYNON, FEBS Lett, 268, 133〜6, 1990)セリンプロテアーゼ阻害剤であるジクロロイソクマリン(DCI)を用いて試験した。顕著なことに、IGR-Heu腫瘍細胞をDCIと予備インキュベーションすると、それらは抗プレプロカルシトニンCTLクローンによる溶解に対して完全に抵抗性になった(図5A)。同じ処理は、抗-α-アクチニン-4 CTLクローンによる認識に対して穏やかな影響しか有さず(図5A)、このことはおそらく、DCIで処理した腫瘍細胞の表面上のMHC-I分子の発現が減少したことに起因する(データ示さず)。これらの結果は、プレプロカルシトニン16-25ペプチドのプロセシングにおけるSPの関与と矛盾しない。
【0046】
SPによる切断の後に、II型又はループ様配向でER膜に挿入されたいくつかのシグナル配列は、膜間アスパラギン酸プロテアーゼシグナルペプチドペプチダーゼ(SPP)によりさらに切断され得る((MARTOGLIO及びDOBBERSTEIN, Trends Cell Biol, 8, 410〜5, 1998)に概説されている)。よって、我々は、IGR-Heu腫瘍細胞内のSPP発現を、小型干渉(si)RNAを用いて特異的にノックダウンすることを試みた(材料及び方法を参照)。siRNA-S1及びsiRNA-S2は、IGR-HeuにおけるSPP発現を、RNA (図5B)及びタンパク質(データ示さず)の両方のレベルで特異的に阻害する。SPPのダウンレギュレーションは、抗プレプロカルシトニンによる溶解に対する腫瘍細胞の感受性を強く減少させたが、抗-α-アクチニン-4 CTLクローンによる溶解に対しては減少させなかった(図5C)。腫瘍細胞を用いてCTLによるIFNγの産生を刺激したときに、同様の阻害が観察された(図5D)。まとめると、これらの結果は、プレプロカルシトニン16-25ペプチドが、HLA-A2分子に載せられる前にER内でSP及びSPPによりプロセシングされるようであることを示した(図5E)。
【0047】
実施例6:腫瘍サンプル中でのカルシトニン遺伝子産物の発現
カルシトニン転写産物の発現を、肺癌サンプルのパネル及び株化細胞で、材料及び方法に記載されるようなRT-PCR分析により試験した。陽性サンプルを、エチジウムブロマイドを用いて染色したアガロースゲルにより選択した。209個の腫瘍サンプルのうち27個、及び38個の株化細胞のうち5個が陽性であった(表I)。
【0048】
【表1】

【0049】
カルシトニン転写産物の定量的遺伝子発現分析を、次いで、いくつかの陽性サンプルに対して行い、結果を、18S RNAに対して標準化した(表II)。試験した3つの株化細胞、すなわちLCC IGR-Heu、SCLC DMS53及び甲状腺髄様癌(MTC) TTにおけるカルシトニン遺伝子の発現レベルは、通常のヒトの甲状腺で見出されるものよりも少なくとも100倍、より高かった。2つの肺癌株化細胞で観察された発現のレベルが、MTC株化細胞で観察されたものと同様であったことは注目に値する(表II)。カルシトニン転写産物の高い発現レベルは、患者Heu (Heu-T)の腫瘍生検、並びにADC 8及びADC 14のようないくつかのその他の肺癌サンプルにおいても検出された(表II)。
【0050】
【表2】

【0051】
次に、我々は、CTLクローンHeu161がカルシトニン遺伝子産物を過剰発現するその他のHLA-A2+細胞も認識できることを確認することを所望した。図6Aに示すように、CTL Heu161はHLA-A2+ MTC株化細胞TTを効率的に溶解した。IGR-Heuと比較してより弱いレベルのTTの溶解は、CALCA遺伝子発現レベルの違いにより説明できなかった(表II)が、むしろ、接着/同時刺激分子表面発現の違いにより説明できる(LE FLOC'Hら, J Exp Med, 2007)。予測されたように、CTL Heu161はHLA-A2- SCLC DMS53細胞を溶解しなかったが、HLA-A2構築物でトランスフェクションされた後にこれらの細胞を認識した(図6B)。最後に、健常なHLA-A2+ドナーの血液単球に由来し、カルシトニンcDNAクローンでトランスフェクションされた成熟DCは、CTLクローンHeu161を強く活性化した(図6C)。これらの結果から、抗原性ペプチドプレプロカルシトニン16-25のプロセシングは試験した全ての細胞、すなわちNSCLC、並びにSCLC細胞、MTC細胞、黒色腫細胞、293胚性腎臓細胞及びDCで生じると結論付ける。よって、高いレベルでカルシトニン転写産物を発現する全ての細胞が、本明細書に記載されるCTLクローンにより認識され得るようである。
【0052】
今回、我々は、定量RT-PCR分析を用いて、遺伝子CALCAが、いくつかのNSCLC及びSCLC株化細胞、並びに肺腫瘍生検において高レベルで発現されたことを確認した。カルシトニン及びα-CGRPプレプロホルモンが、CALCAエキソン2及び3によりコードされるそのN-末端の75残基を共有し、ペプチドプレプロカルシトニン16-25も、プレプロ-α-CGRP16-25ペプチドであることは注目に値する。よって、α-CGRPを発現するがカルシトニン転写産物を発現しない細胞も、Heu161のようなCTLにより認識され得るようである。この理由から、我々は、エキソン2及び3のPCRプライマーを用いて、両方のタイプのCALCA転写産物を検出した。我々は、MTC細胞において記載されるように(MINVIELLEら, J Biol Chem, 266, 24627〜31, 1991)、IGR-Heu細胞が、従来のα-CGRP mRNA、並びにエキソン1〜3、エキソン4の一部分及びエキソン5〜6に相当する選択的にスプライシングされたmRNAも高レベルで発現することを観察した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 配列VLLQAGSLHA (配列番号1)のペプチド、
b) 配列LVLLQAGSLHA (配列番号2)のペプチド、
c) 以下の置換の少なくとも1つを有するそれらの誘導体:
- 配列番号1若しくは配列番号2のN-末端アミノ酸についてのチロシンでの置換、又は配列番号1のN-末端バリンについてのロイシンでの置換;
- 配列番号1又は配列番号2のC-末端アラニンについてのバリン若しくはロイシンでの置換
から選択されることを特徴とするMHC Iにより提示されるTエピトープを構成する免疫原性ペプチド。
【請求項2】
YLLQAGSLHV (配列番号10)、VLLQAGSLHV (配列番号11)、VLLQAGSLHL (配列番号12)及びLLLQAGSLHV (配列番号13)からなる郡より選択されることを特徴とする請求項1に記載の免疫原性ペプチド。
【請求項3】
異種ポリペプチドに融合された請求項1又は2に記載のペプチドの少なくとも1つのコピーを含むキメラポリペプチド。
【請求項4】
請求項1若しくは2に記載のペプチド又は請求項3に記載のキメラポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項1若しくは2に記載のペプチド又は請求項4に記載のポリヌクレオチドを含む組成物。
【請求項6】
1つ若しくは複数のその他の免疫原性ペプチド、又は該その他の免疫原性ペプチドをコードする1つ若しくは複数のポリヌクレオチドをさらに含む多エピトープ組成物であることを特徴とする請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1若しくは2に記載のペプチドの少なくとも1つのコピーと別の免疫原性ペプチドの少なくとも1つのコピーとを含む請求項3に記載のキメラポリペプチド、又は該キメラポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むことを特徴とする請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
樹状細胞が、請求項1若しくは2に記載のペプチドと、所望により1つ若しくは複数のその他の免疫原性ペプチドとでパルスされたか、又は請求項4に記載のポリヌクレオチドで形質転換されたことを特徴とする樹状細胞を含む組成物。
【請求項9】
請求項1若しくは2に記載のペプチド、又は請求項3に記載のキメラポリペプチド、又は請求項4に記載のポリヌクレオチド、又は請求項5〜7のいずれか1項に記載の組成物の、医薬品を製造するための使用。
【請求項10】
前記医薬品が、抗癌免疫療法を意図することを特徴とする請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記医薬品が、プレプロカルシトニン及び/又はα-CGRPを発現する腫瘍の免疫療法を意図することを特徴とする請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記医薬品が、HLA-A*0201患者の治療を意図することを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−530748(P2010−530748A)
【公表日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512809(P2010−512809)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際出願番号】PCT/IB2008/002625
【国際公開番号】WO2009/010874
【国際公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(509351362)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT GUSTAVE ROUSSY
【住所又は居所原語表記】Etablissement Hospitalier Prive Reconnu d’UtilitePublique, 39, rue Camille Desmoulins, F−94800 Villejuif, FRANCE
【出願人】(500488225)アンスティテュ ナシオナル ド ラ サント エ ド ラ ルシュルシェ メディカル(アンセルム) (26)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE(INSERM)
【住所又は居所原語表記】101,rue de Tolbiac,F−75654 Paris Cedex 13 France
【Fターム(参考)】