説明

プレミックスセメント用粉体状乾燥収縮低減剤

【課題】セメント硬化物の強度低下に与える影響が小さく、粉砕機への付着量が少なく、保存時の塊状部が少ないプレミックスセメント用粉体状乾燥収縮低減剤を提供する。
【解決手段】プレミックスセメント用粉体状乾燥収縮低減剤は、(a)式(1)で示されるポリオキシアルキレン化合物及び(b)2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールからなり、(a)前記ポリオキシアルキレン化合物及び(b)2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールの合計質量を100質量%としたとき、(a)ポリオキシアルキレン化合物の質量比率が10〜60質量%である。R−O−[(AO)−R]n ・・・(1) [Rは、炭素数2〜4のアルカンジオールから全ての水酸基を除いた残基、または炭素数10〜18の芳香族炭化水素基を含みかつn個の水酸基を持つ化合物から全ての水酸基を除いた残基である。nは1または2である。Rは水素原子またはメチル基である。AOは、オキシエチレン基およびオキシプロピレン基からなる群より選ばれた一種以上のオキシアルキレン基からなり、オキシエチレン基およびオキシプロピレン基を含む場合にはブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよく、AOの95モル%以上がオキシエチレン基である。yは、1つの水酸基に付加される前記官能基の平均付加モル数を表し、n×yは、前記官能基の総付加モル数を表し、n×yは55〜450である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主に土木、建築分野において使用されるプレミックスセメント用粉体状乾燥収縮低減剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートの劣化により、コンクリート片の剥落や落下が起こることから、コンクリートの改修、補修が行われている。コンクリートの改修、補修には、セメントなどが予め配合されたプレミックスセメントが使用される。プレミックスセメントに水を添加し、得られたプレミックスセメント水和物は、経時的に水分が蒸散し、体積が減少する乾燥収縮を起こし、ひび割れを起こす。そのため、プレミックスセメントには、乾燥収縮を抑制する目的で、乾燥収縮低減剤が使用されている。
【0003】
乾燥収縮低減剤は、液体品と粉体品があるが、液体品は、主に施工現場で計量し、プレミックスセメントや水と混練され、粉体品は、予めプレミックスセメントと混合され、施工現場で水のみと混練される。液体品は、施工現場で計量する必要があるため、水やプレミックスセメント以外の計量作業回数の増加によるミスが生じやすいが、粉体品を使用する際には、計量作業回数が少なく、ミスが生じにくいため、液体品から粉体品(粉体状乾燥収縮低減剤)への移行が進んでいる。
【0004】
この粉体状乾燥収縮低減剤として、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールなどのアルカンジオール類やポリアルキレングリコール類が挙げられる(例えば特許文献1、2)。
【0005】
しかし、常温で固体のポリアルキレングリコール類はセメント硬化物の乾燥収縮を抑制する効果が低く、所望の乾燥収縮を抑制する効果を得るためには、多量に添加する必要があり、多量に添加すると強度低下を起こすという課題があった。また、塊状のポリアルキレングリコール類を機械的粉砕により粉砕化し、粉体状乾燥収縮低減剤を得る際に、外気温が高い場合や粉砕時の摩擦熱により、一部が融解し、粉砕機に付着するため、粉砕時の歩留が低下するという課題があった。
【0006】
一方で、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールなどのアルカンジオール類は、セメント硬化物の乾燥収縮を抑制する効果が高く、凝固点が高いため、粉砕時の歩留り低下が少ないが、セメント硬化物の強度低下が大きいという課題があった。また、アルカンジオール類は荷重により、粉砕物が固着し、一部が塊状となり易いため、運搬、保存時の荷重により、一部が塊状となり、セメントなどの粉体と混合する際に均一に混合されず、性能にバラつきが生じるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−301758
【特許文献2】特開平6−72748
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、セメント硬化物の強度低下に与える影響が小さく、粉砕化が容易であり、荷重による塊状部が少ないプレミックスセメント用粉体状乾燥収縮低減剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、
[1] (a)式(1)で示されるポリオキシアルキレン化合物及び(b)2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールからなり、(a)ポリオキシアルキレン化合物及び(b)2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールの合計質量を100質量%としたとき、(a)ポリオキシアルキレン化合物の質量比率が10〜60質量%であることを特徴とする、プレミックスセメント用粉体状乾燥収縮低減剤である。
【化1】


[Rは、炭素数2〜4のアルカンジオールから全ての水酸基を除いた残基、または炭素数10〜18の芳香族炭化水素基を含みかつn個の水酸基を持つ化合物から全ての水酸基を除いた残基である。
nは1または2である。
Rは水素原子またはメチル基である。
AOは、オキシエチレン基およびオキシプロピレン基からなる群より選ばれた一種以上のオキシアルキレン基からなり、オキシエチレン基およびオキシプロピレン基を含む場合にはブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよく、AOの95モル%以上がオキシエチレン基である。
yは、1つの水酸基に付加される前記オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、n×yは、前記オキシアルキレン基の総付加モル数を表し、n×yは55〜450である。]
[2] 式(1)において、Rが、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2−ナフトールまたはエチレングリコールから全ての水酸基を除いた残基である。
[3] 式(1)において、Rが、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンまたは2−ナフトールから全ての水酸基を除いた残基である。
[4] 式(1)において、AOがオキシエチレン基である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のプレミックスセメント用粉体状乾燥収縮低減剤は、セメント硬化物の強度低下が小さく、優れた強度発現性を示し、粉砕後の粉砕機への付着量が少ないため、歩留低下を抑制し、保存時に一部が塊状にならないため、セメントなどの粉体にプレミックスセメント用粉体状乾燥収縮低減剤を均一に混合することができるため、性能のバラつきを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
式(1)において、Rは、炭素数2〜4のアルカンジオールから全ての水酸基を除いた残基、または、炭素数10〜18の芳香族炭化水素基を含有しかつn個の水酸基を持つ化合物から全ての水酸基を除いた残基である。
【0012】
炭素数2〜4のアルカンジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオールが挙げられる。炭素数10〜18の芳香族炭化水素基を含有しかつ1個の水酸基を持つ化合物としては、1−ナフトール、2−ナフトールが挙げられる。炭素数10〜18の芳香族炭化水素基を含有しかつ2個の水酸基を持つ化合物としては、4,4‘−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルホスフィンオキシド、メチルビス(4−ヒドロキシフェニル)アセテート、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホンが挙げられる。Rは、2−ナフトール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、エチレングリコール、プロピレングリコールから全ての水酸基を除いた残基が好ましく、より好ましくは、2−ナフトール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから全ての水酸基を除いた残基である。
【0013】
Rに炭素数10〜18の芳香族炭化水素基を含有することで、セメント硬化物の乾燥収縮を抑制する効果が高くなる。Rの炭素数は、10〜15であることが更に好ましい。
【0014】
式(1)において、Rは水素原子またはメチル基であり、好ましくは水素原子である。
【0015】
式(1)において、nは1または2である。nが3以上であると、セメント硬化物の乾燥収縮を抑制する効果が低くなる。
【0016】
式(1)において、AOはオキシエチレン基およびオキシプロピレン基からなる群より選ばれた一種以上のオキシアルキレン基であり、オキシエチレン基およびオキシプロピレン基を含む場合には、両者はブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよい。
【0017】
式(1)において、AOの95モル%以上がオキシエチレン基である。AOの95モル%未満がオキシエチレン基であると、凝固点が低下し、粉砕化が困難となる。この観点からは、AOの100モル%がオキシエチレン基からなることが更に好ましい。
【0018】
式(1)において、yは1つの水酸基に付加されるオキシエチレン基、オキシプロピレン基の平均付加モル数を表す。n×yは、オキシエチレン基、オキシプロピレン基の総付加モル数を表し、n×yは、55以上が好ましく、これによって粉砕化が容易になる。この観点からは、n×yは、60以上が更に好ましく、64以上が一層好ましい。また、n×yは、450以下であり、これによってセメント硬化物の乾燥収縮を抑制する効果が一層顕著となる。この観点からは、n×yは、230以下が好ましく、179以下が更に好ましく,150以下が一層好ましく、110以下が最も好ましい。
【0019】
本発明の(a)ポリオキシアルキレン化合物は1種または2種以上を混合して使用しても良い。
本発明の(a)ポリオキシアルキレン化合物に対して、保存安定剤を混合して使用してもよい。保存安定剤としては、例えば、p−ジヒドロキシベンゼン、p−メトキシフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールなどを挙げることができる。
【0020】
(a)ポリオキシアルキレン化合物と(b)2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールとの合計質量を100質量%としたとき、(a)ポリオキシアルキレン化合物の質量比率は10質量%以上であり、これによって硬化物の強度低下を防止できる。この観点からは、(a)ポリオキシアルキレン化合物の質量比率は、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることが更に好ましい。また、(a)ポリオキシアルキレン化合物の質量比率は60質量%以下であり、これによってセメント硬化物の乾燥収縮を抑制する効果が顕著となる。この観点からは、(a)ポリオキシアルキレン化合物の質量比率は、55質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることが更に好ましい。
【0021】
Rが水素原子である(a)ポリオキシアルキレン化合物の製造方法としては、特に限定されず、公知の製造方法で製造することができる。例えば、炭素数10〜18の芳香族炭化水素基を含有し、n個の水酸基を持つ化合物、または炭素数2〜4のアルカンジオールにエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドからなるアルキレンオキシドを付加重合することにより製造することができる。アルキレンオキシドを付加重合する際の触媒としては、アルカリ金属およびアルカリ土類金属やそれらの水酸化物、アルコラート等のアルカリ触媒やルイス酸触媒が用いられ、好ましくはアルカリ触媒である。アルカリ触媒としては例えばナトリウム、カリウム、ナトリウムカリウムアマルガム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムハイドライド、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、カリウムブトキシド等を挙げることができ、好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシドであり、さらに好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムである。ルイス酸触媒としては例えば四塩化錫、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジn−ブチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体、三フッ化ホウ素フェノール錯体、三フッ化ホウ素酢酸錯体等の三フッ化ホウ素化合物などが挙げられる。触媒の添加量は、炭素数10〜18の芳香族炭化水素を含有しかつn個の水酸基を持つ化合物または炭素数2〜4のアルカンジオールおよび反応に供したアルキレンオキシドの総質量に対して0.01〜10質量%、より好ましくは0.01〜1質量%である。
【0022】
これらの触媒と炭素数10〜18の芳香族炭化水素基を含有し、n個の水酸基を持つ化合物または炭素数2〜4のアルカンジオールに、不活性ガス雰囲気下でアルキレンオキシドを付加することにより、Rが水素原子の(a)ポリオキシアルキレン化合物を得ることができる。アルキレンオキシドを付加重合する際の温度としては50〜150℃であり、好ましくは60〜140℃であり、より好ましくは80〜140℃である。ポリオキシアルキレン化合物は、触媒を含有したものを使用してもよく、触媒を中和したものを使用してもよく、触媒を中和や吸着処理後に除去したものを使用してもよい。
【0023】
Rがメチル基である(a)ポリオキシアルキレン化合物の製造方法としては、特に限定されず、公知の製造方法で製造することができる。例えば、式(1)においてRが水素原子である(a)ポリオキシアルキレン化合物の製造後にハロゲン化メチルと反応することにより製造することができる。ハロゲン化メチルと反応する際の触媒としては、アルカリ金属およびアルカリ土類金属やそれらの水酸化物、アルコラート等のアルカリ触媒が用いられる。具体的には、例えばナトリウム、カリウム、ナトリウムカリウムアマルガム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムハイドライド、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、カリウムブトキシド等を挙げることができる。ハロゲン化メチルとしては、塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチルを挙げることができる。
【0024】
これら触媒の存在下でハロゲン化メチルとRが水素原子である式(1)で示される(a)ポリオキシアルキレン化合物を不活性ガス雰囲気下で反応し、Rがメチル基である(a)ポリオキシアルキレン化合物を得ることができる。(a)ポリオキシアルキレン化合物は、中和前に使用しても、中和後に使用しても、中和後に生じた塩や触媒の除去後に使用しても良い。ハロゲン化メチルと反応する際の温度としては40〜150℃、好ましくは50〜140℃であり、より好ましくは60〜130℃である。Rがメチル基となる割合は、必要に応じて調整して使用することができる。
【0025】
本発明の乾燥収縮低減剤の製造方法としては、(a)ポリオキシアルキレン化合物および(b)2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールをそれぞれ単独に粉砕化した後に混合しても、それぞれ固体状のものを混合後に粉砕化しても、それぞれ単独に融解または溶媒に溶解したものを混合後に溶媒を蒸発、冷却し、固体状としたものを粉砕化しても良い。
【0026】
粉砕化は、ディスクミル、ローラーミル、カッターミル、ハンマーミル、アトマイザー、ピンミル、スーパーミキサー、ジェットミルなどの機械的処理を行う方法で行うことができる。
【0027】
(a)ポリオキシアルキレン化合物および(b)2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールを粉砕化し、得られた粉体の質量基準のメディアン径は、30〜500μmであり、より好ましくは50〜150μmであり、得られた粉体の粒径は1,000μm以下であり、より好ましくは500μm以下であり、さらに好ましくは300μm以下である。
【0028】
プレミックスセメントとしてはセメント、他の粉体状添加剤を混合したものやセメント、細骨材、他の粉体状添加剤を混合したものなどが挙げられ、プレミックスセメントに本発明のプレミックスセメント用粉体状乾燥収縮低減剤を混合し、使用することができる。
【0029】
本発明のプレミックスセメント用粉体状乾燥収縮低減剤を適用することができるセメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、中庸熱及び耐硫酸塩等のポルトランドセメントや、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、又はシリカを混合した各種混合セメント、エコセメント、アルミナセメント、白色セメントなどが挙げられる。
【0030】
本発明のプレミックスセメント用粉体状乾燥収縮低減剤を適用することができる骨材としては、通常のモルタルに使用できるものであれば特に限定されるものではなく、川砂、山砂、陸砂、海砂、砕砂、ケイ砂、再生骨材及び人工軽量骨材等の細骨材やスラグ、石炭灰が挙げられる。
【0031】
本発明のプレミックスセメント用粉体状乾燥収縮低減剤は効果を阻害しない範囲で、他の粉体状添加剤と併用し、使用することができる。他の粉体状添加剤としては、減水剤、AE剤、AE減水剤、消泡剤、凝結遅延剤、他の乾燥収縮低減剤、凝結促進剤、撥水剤、防水剤、膨張剤、流動化剤、起泡剤、保水剤、増粘剤、防水剤、ポリマー混和材、繊維等が挙げられる。
【0032】
減水剤としては例えば、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物の塩、メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物の塩、リグニンスルホン酸の塩、芳香族アミノスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物の塩、ポリカルボン酸系共重合物、ポリカルボン酸系共重合物の塩などを挙げることができる。
【0033】
本発明のプレミックスセメント用粉体状乾燥収縮低減剤の使用量は特に限定されないが、セメント100質量部に対し0.05〜20質量部であり、好ましくは0.1〜10質量部であり、より好ましくは0.5〜8質量部である。この範囲より低いとセメント硬化物の乾燥収縮を抑制する効果が低くなり、この範囲より高いと強度低下を起こす。
【0034】
本発明のプレミックスセメント用粉体状乾燥収縮低減剤をプレミックスセメントに混合したものに水を添加することで、プレミックスセメント組成物として使用することができる。プレミックスセメント組成物における水セメント比は、配合用途に応じて定めることができるが、10〜75質量%で使用することができる。
【0035】
プレミックスセメント組成物における細骨材の量は、配合用途に応じて定めることができるが、セメント100質量部に対して50〜500質量部が好ましい。
本発明のプレミックスセメント用粉体状乾燥収縮低減剤を使用したプレミックスモルタルは、左官材、床材、屋根材、壁材、断面修復材、グラウト材、セルフレベリング材などの土木、建築用途で使用することができる。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
(実施例1)
((a)ポリオキシアルキレン化合物の合成方法)
撹拌機、圧力計、温度計、安全弁、ガス吹き込み管、排気管、冷却用コイルおよび蒸気ジャケットを装備したステンレス製5Lの高圧反応装置に、トルエン228g、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン228g(1.0モル)および水酸化ナトリウム1.0gを仕込み、系内を窒素ガスで置換した。攪拌下、100〜120℃、0.05〜0.5MPa(ゲージ圧)の条件で、別に用意した耐圧容器よりエチレンオキシド2816g(64.0モル)を窒素ガス圧により加圧添加した。添加終了後、同条件で内圧が一定となるまで反応させ、窒素ガスを吹き込みながら、70〜80℃、13kPa(ゲージ圧)以下で1.0時間処理を行い、その後、110℃、13kPa(ゲージ圧)以下で2.0時間処理を行なった後、窒素ガスで0.05MPa(ゲージ圧)まで加圧し、反応物609g(0.20モル)を1Lナスフラスコに抜き取った。その後、希塩酸で中和し、減圧下で水や副生した塩を除いて目的とする(a)ポリオキシアルキレン化合物を得た。
【0037】
(プレミックスセメント用粉体状乾燥収縮低減剤の粉砕方法および粉砕機への付着量測定試験方法)
得られた(a)ポリオキシアルキレン化合物300gおよび(b)2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール300gをピンミルで粉砕し、粉砕後の粉砕機への付着物を掻き落とし、粉砕機への付着量を測定した。粉砕を行ったポリオキシアルキレン化合物(a)および2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(b)の全量に対し、粉砕機への付着量が10質量%を超えるものを×、10質量%以下であるものを○とした。結果を表1、表2に示す。
【0038】
粉砕後の粉体を公称目開き180μmのふるいを通過させ、プレミックスセメント用粉体状乾燥収縮低減剤を得た。得られた100gのプレミックスセメント用粉体状乾燥収縮低減剤をJISZ8801−1(試験用ふるい 第1部:金属製網ふるい)に規定された試験用ふるいで、振とう機を使用して5分間振とう、ふるい分けを行い、各ふるいに残った試料質量から粒度分布曲線を作成、質量基準のメディアン径を求めたところ、100μmであった。
【0039】
(粉砕後のプレミックスセメント用粉体状乾燥収縮低減剤の荷重試験方法)
得られたプレミックスセメント用粉体状乾燥収縮低減剤をポリエチレンからなる10cm×20cmの袋に100g入れ、温度20±2℃、湿度60±5%で16kgの荷重をかけた。7日後の状態を観察し、プレミックスセメント用粉体状乾燥収縮低減剤に塊状部があるものを×、塊状部がないものを○とした。結果を表1、表2に示す。
【0040】
(モルタルの調整方法)
得られたプレミックスセメント用粉体状乾燥収縮低減剤を用いて、セメント組成物を調整した。調製方法はJIS R5201(セメントの強さ試験方法)記載のモルタルミキサにセメント[普通ポルトランドセメント]600g、細骨材[6号ケイ砂]1,200g、表1で示されるプレミックスセメント用粉体状乾燥収縮低減剤12.0g、粉体状消泡剤(シュドックスDEF−001−CS 日油(株)製)を秤取り、低速回転で15秒間空練りを行ったのち、水道水312gを加えて低速回転で45秒間練り混ぜ後、高速回転で1分間練り混ぜ、セメント組成物を調製した。これらのセメント組成物の単位容積質量は1,950±50g/Lとなるように前記粉体状消泡剤で調節し、温度は21±2℃であることを確認した。これらの操作を繰り返し、一方のセメント組成物を用いて長さ変化試験を行い、もう一方のセメント組成物を用いて圧縮強度試験を行った。
【0041】
(長さ変化試験方法)
調製したセメント組成物を40mm×40mm×160mmの型枠に詰めた後、温度20±2℃、湿度60±5%で24時間、気中養生を行った後に脱型を行い、セメント硬化物供試体を得た。
【0042】
上記のようにして得たセメント硬化物供試体を、脱型直後にJIS A1129−3(モルタル及びコンクリート長さ変化試験方法、ダイヤルゲージ方法)に基づいてセメント硬化物供試体の長さを測定した。測定後に温度20±2℃、湿度60±5%で保存し、脱型28日後の長さを測定した。測定結果と式(2)によって乾燥収縮比を算出した。得られた結果を表1、表2に示す。
【0043】
【数1】

【0044】
(圧縮強度試験方法)
調製したセメント組成物を40mm×40mm×160mmの型枠に詰めた後、温度20±2℃、湿度60±5%で24時間、気中養生を行った後に脱型を行い、セメント硬化物供試体を得た。脱型後、温度20±2℃、湿度60±5%で保存し、JIS R5201(セメントの強さ試験方法)に準拠し、材齢28日後の圧縮強度を測定した。結果を表1、表2に示す。
【0045】
(比較例1)
プレミックスセメント用粉体状乾燥収縮低減剤を使用しない以外は実施例1と同様にセメント組成物、セメント硬化物供試体を作成し、長さ変化試験および圧縮強度試験を行った。結果を表1、表2に示す。
【0046】
(実施例2〜7、比較例2〜7)
(a)ポリオキシアルキレン化合物、プレミックスセメント用粉体状乾燥収縮低減剤における(a)ポリオキシアルキレン化合物の質量比、プレミックスセメント用粉体状乾燥収縮低減剤における(b)2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールの質量比を表1の通りにした以外は実施例1と同様にセメント組成物、セメント硬化物供試体を作成し、粉砕機への付着量、塊状部の有無、長さ変化試験、圧縮強度試験を行った。結果を表1、表2に示す。
【0047】
比較例2、3より、炭素数6の芳香族炭化水素基を含有するポリオキシアルキレン化合物やオキシエチレン基の平均付加モル数が460のポリオキシアルキレン化合物を(b)2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールと併用したプレミックスセメント用粉体状乾燥収縮低減剤は、荷重後の塊状部がなく、粉砕後の粉砕機への付着量が少なく、セメント硬化物の圧縮強度低下が小さいが、実施例1〜7と比較するとセメント硬化物の乾燥収縮を抑制する効果が低い。
【0048】
比較例6、7より、(a)ポリオキシアルキレン化合物のみを使用したプレミックスセメント用粉体状乾燥収縮低減剤は、荷重後の塊状部がなく、セメント硬化物の圧縮強度低下が小さいが、実施例1〜7と比較すると、セメント硬化物の乾燥収縮を抑制する効果が低く、粉砕後の粉砕機への付着量が多い。
【0049】
比較例5より、プレミックスセメント用粉体状乾燥収縮低減剤における(a)ポリオキシアルキレン化合物の割合が70質量%のものは、セメント硬化物の圧縮強度低下が小さく、荷重後の塊状部や粉砕後の粉砕機への付着量が少ないが、実施例1〜7と比較すると、セメント硬化物の乾燥収縮を抑制する効果が低い。
【0050】
比較例4より、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールのみを使用したプレミックスセメント用粉体状乾燥収縮低減剤は、粉砕後の粉砕機への付着量が少なく、セメント硬化物の乾燥収縮を抑制する効果が高いが、実施例1〜7と比較すると、セメント硬化物の圧縮強度低下が大きく、荷重後に塊状部が見られた。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)式(1)で示されるポリオキシアルキレン化合物及び(b)2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールからなり、前記(a)ポリオキシアルキレン化合物及び(b)2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールの合計質量を100質量%としたとき、前記(a)ポリオキシアルキレン化合物の質量比率が10〜60質量%であることを特徴とする、プレミックスセメント用粉体状乾燥収縮低減剤。
【化2】


[Rは、炭素数2〜4のアルカンジオールから全ての水酸基を除いた残基、または炭素数10〜18の芳香族炭化水素基を含みかつn個の水酸基を持つ化合物から全ての水酸基を除いた残基である。
nは1または2である。
Rは水素原子またはメチル基である。
AOは、オキシエチレン基およびオキシプロピレン基からなる群より選ばれた一種以上のオキシアルキレン基からなり、オキシエチレン基およびオキシプロピレン基を含む場合にはブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよく、AOの95モル%以上がオキシエチレン基である。
yは、1つの水酸基に付加される前記オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、n×yは、前記オキシアルキレン基の総付加モル数を表し、n×yは55〜450である。]
【請求項2】
前記式(1)において、Rが、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2−ナフトールまたはエチレングリコールから全ての水酸基を除いた残基であることを特徴とする、請求項1記載の粉体状乾燥収縮低減剤。
【請求項3】
前記式(1)において、Rが、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンまたは2−ナフトールから全ての水酸基を除いた残基であることを特徴とする、請求項2記載の粉体状乾燥収縮低減剤。
【請求項4】
前記式(1)において、AOがオキシエチレン基であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つの請求項に記載の粉体状乾燥収縮低減剤。

【公開番号】特開2012−214366(P2012−214366A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−59146(P2012−59146)
【出願日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】