説明

プレート、判定キットおよび判定方法

【課題】より高い精度でウィルス感染の有無を判定し得るプレート、かかるプレートを備える判定キット、およびかかる判定キットを用いた判定方法を提供すること。
【解決手段】本発明の判定方法は、特定のウィルス由来の複数種の抗原102を、それぞれ1種類ずつ1つのウェル101の内面に担持したプレートの所定のウェル101内に、それぞれ検体液を供給し、次いで、検体液が供給された各ウェル101内に、それぞれ抗IgG抗体104を担持した着色粒子1を含有する試薬を供給し、その後、所定数以上のウェル101において、抗原102に結合した抗体が検出されたとき、生体が前記ウィルスに感染したものと判定するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレート、判定キットおよび判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、酵素標識免疫吸着測定法、ラジオイムノアッセイ法、粒子凝集法(例えば、特許文献1参照。)などの抗原・抗体反応を用いたイムノアッセイ法を利用した様々な診断キットが開発されている。
【0003】
これらの診断キットに共通して求められる特性の1つに、検出精度(信頼性)がある。ウィルスの中でも、特に、HIV感染のような人権に関わる感染症を診断する場合、極めて高い検出精度が要求される。
【0004】
ところが、HIVに感染していない(陰性である)にも関わらず、検査結果が陽性となるヒトが通常1000人に2〜3人程度存在する。このため、診断キットの精度は、限りなく100%に近いものが求められるが、これを達成するのは難しいのが現状である。
【0005】
【特許文献1】特開平7−174762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、より高い精度でウィルス感染の有無を判定し得るプレート、かかるプレートを備える判定キット、および判定操作が容易な判定キットを用いた判定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記(1)〜(9)の本発明により達成される。
(1) 生体が特定のウィルスに感染したか否かを判定するのに用いられるプレートであって、
前記生体から採取した試料を含有する検体液を供給する複数のウェルを有し、
前記ウィルス由来の複数種の抗原を、それぞれ1種類ずつ1つの前記ウェルの内面に担持したことを特徴とするプレート。
これにより、より高い精度でウィルス感染の有無を判定し得るプレートが得られる。
【0008】
(2) 同一の前記検体液を供給すべき複数の前記ウェルを一列に配置した上記(1)に記載のプレート。
【0009】
これにより、各ウェル内に検体液を供給(分注)する操作が容易となる。また、各ウェル内の状態を確認し易くなり、ウィルス感染の有無の判定が行い易くなる。
【0010】
(3) 前記ウィルスは、HIV(Human Immunodeficiency Virus)である上記(1)または(2)に記載のプレート。
【0011】
誤判定は、HIV感染のような人権に関わるウィルス感染の有無を判定する場合、極力少ないことが望ましい。したがって、本発明のウィルス感染の有無をより高い精度で判定し得るプレートは、特に、HIV感染の有無を判定する場合への適用に適する。
【0012】
(4) 生体が特定のウィルスに感染したか否かを判定するのに用いられる判定キットであって、
上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のプレートと、
前記抗原に結合した抗体を検出し得る試薬とを有することを特徴とする判定キット。
これにより、より高い精度でウィルス感染の有無を判定し得る判定キットが得られる。
【0013】
(5) 前記試薬は、抗IgG抗体を担持した粒子を含有する上記(4)に記載の判定キット。
【0014】
かかる方法、すなわち、粒子凝集法は、手順が少なく、短時間で判定できるという簡便な方法でありながら、感度が高く、また、特殊な機器や設備を必要としないという利点がある。
【0015】
(6) 前記粒子は、着色されている上記(5)に記載の判定キット。
これにより、可視光下での判定が可能となるという利点がある。
【0016】
(7) 前記プレートは、前記ウェルの底面が収斂形状をなしている上記(5)または(6)に記載の判定キット。
【0017】
これにより、沈降した粒子は、ウェルの中央部に向かって転がり、集合して凝集する。その結果、粒子として着色粒子を用いる場合には、ウェルの中央部で、着色粒子の色相が濃い色で(濃く着色して)視認されるので、ウェル内での着色粒子の沈降・凝集(挙動)を容易に確認することができる。
【0018】
(8) 上記(4)ないし(7)のいずれかに記載の判定キットを用いて、生体が特定のウィルスに感染したか否かを判定する判定方法であって、
前記プレートの所定の前記ウェル内に、それぞれ前記検体液を供給する工程と、
前記検体液が供給された各前記ウェル内に、それぞれ前記試薬を供給する工程と、
所定数以上の前記ウェルにおいて、前記抗原に結合した前記抗体が検出されたとき、前記生体が前記ウィルスに感染したものと判定する工程とを有することを特徴とする判定方法。
これにより、より高い精度でウィルス感染の有無を判定し得る。
【0019】
(9) 前記抗原の種類の数をAとし、前記生体が前記ウィルスに感染したものと判定する際の前記ウェルの数をBとしたとき、B/Aが0.2以上である上記(8)に記載の判定方法。
【0020】
これにより、生体のウィルス感染の有無の判定結果の正確性(判定精度)をより向上させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ウィルスの感染がない(陰性である)にも関わらず、陽性と判定することを防止し得る。すなわち、より高い精度でウィルス感染の有無を判定し得る。
【0022】
したがって、本発明は、ウィルス感染のスクリーニングのみならず、確定診断への利用も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明のプレート、判定キットおよび判定方法を、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明の判定キットが備えるプレートを模式的に示す斜視図、図2〜図4は、それぞれ、本発明の判定方法を説明するための模式図である。
【0025】
まず、本発明の判定キットについて説明する。
本発明の判定キットは、生体から採取した試料中に特定のウィルスに対する抗体(抗ウィルス抗体)が存在するか否かを検出し、これにより、生体が特定のウィルスに感染したか否かを判定する際に用いられるものである。
【0026】
ここで、抗体を検出する方法としては、例えば、粒子凝集法(PA法)、酵素標識免疫吸着測定法(ELISA法)、ラジオイムノアッセイ法(RIA法)等が挙げられるが、粒子凝集法を用いるのが好ましい。粒子凝集法は、手順が少なく、短時間で判定できるという簡便は方法でありながら、感度が高く、また、特殊な機器や設備を必要としないという利点がある。
【0027】
以下では、粒子凝集法を用いる場合を一例に説明する。
粒子凝集法による抗体の検出(生体が特定のウィルスに感染したか否かの判定)は、例えば、次のようにして行われる。
【0028】
まず、内面に目的とするウィルス由来の抗原を担持したウェル内に、生体から採取した試料を含有する検体液を供給し、次いで、ウェル内に、抗IgG抗体を担持した着色粒子を含有する試薬を供給し、そして、検体液(試料)中に抗ウィルス抗体が存在する(陽性)か否(陰性)かを判定する。
【0029】
本発明の判定キットは、このような判定を行う際に用いられるものであり、ウィルス由来の抗原102を担持したウェル101が複数設けられたプレート(本発明のプレート)10と、抗IgG抗体104を担持した着色粒子1を含有する試薬(判定試薬)とを有している。
【0030】
図1に示すように、プレート10は、平板状をなす部材で構成され、一方の面に複数のウェル101が、行列状に配列して設けられている。
【0031】
プレート10の構成材料としては、例えば、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレンのような樹脂材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
ウェル101は、その内面に抗原102を担持し、検体液および試薬を収納(貯留)するための空間である。
【0033】
図1に示すように、ウェル101は、その底面が収斂形状(本実施形態では、深さが中央部に向かって深くなる形状)をなしている。これにより、沈降した着色粒子1は、ウェル101の中央部に向かって転がり、集合して凝集する。その結果、ウェル101の中央部で、着色粒子1の色相が濃い色で(濃く着色して)視認されるので、ウェル101内での着色粒子1の沈降・凝集(挙動)を容易に確認することができる。
【0034】
なお、ウェル101は、その底面が収斂形状をなすのが好ましいが、最も深くなる箇所は、図示と異なり中央部(中心部)からズレていてもよい。
【0035】
ウェル101の容量は、特に限定されないが、0.03〜0.5mL程度であるのが好ましく、0.05〜0.3mL程度であるのがより好ましい。ウェル101の容量を前記範囲とすることにより、プレート10の大型化を招くことなく、判定に必要かつ十分な量の液体(検体液や試薬)を収納することができる。
【0036】
このウェル101の内面には、例えば疎水結合によって、抗原102が担持されている。
【0037】
本発明では、各ウェル101の内面に、ウィルス由来の複数種(本実施形態では、8種)の抗原102を、それぞれ1種類毎に担持してある。
【0038】
例えば、図2に示すプレート10では、第1の抗原102aを第1のウェル101aの内面に担持し、第2の抗原102bを第2のウェル101bの内面に担持し、同様に、第3〜第8の抗原102c〜102hを、それぞれ第3〜第8のウェル101c〜101hの内面に担持してある。
【0039】
これにより、生体が特定のウィルスに感染したか否かの判定を正確に行うことができるようになる。これについては、後の判定方法において詳述する。
【0040】
また、図2に示すプレート10では、同一の検体液を供給すべきウェル101a〜101hが一列に配置されている。これにより、各ウェル101a〜101h内に検体液を供給(分注)する操作が容易となる。また、各ウェル101a〜101hにおける着色粒子1の状態を視認し易くなり、ウィルス感染の有無の判定が行い易くなる。
【0041】
抗原としては、目的とするウィルスに応じて選択されるものであり、特に限定されないが、例えば、目的とするウィルスがHIV(Human Immunodeficiency Virus)である場合には、例えば、HIV−1 p18、HIV−1 p24、HIV−1 p55、HIV−1 p31、HIV−1 p51、HIV−1 p66、HIV−1 gp41、HIV−1 gp120、HIV−1 gp160、HIV−2 p16、HIV−2 p26、HIV−2 p56、HIV−2 p34、HIV−2 p53、HIV−2 p68、HIV−2 gp36、HIV−2 gp105、HIV−2 gp140等が挙げられ、これらの中から複数種を選択するようにすればよい。
【0042】
ウェル101の内面に担持する抗原102の量は、0.01μg以上であるのが好ましく、0.05〜1μg程度であるのがより好ましい。抗原102の量を前記範囲とすることにより、抗ウィルス抗体103が試料(検体液)中に存在する場合には、十分な量の抗ウィルス抗体103を抗原102に結合させることができ、より正確な検出を行うことができる。なお、抗原102の量を前記上限値を超えて多くしても、それ以上の検出結果の精度の向上は期待できない。
【0043】
本実施形態では、試薬には、抗IgG抗体104が担持された着色粒子1を含有する懸濁液が用いられる。
【0044】
この試薬を用いると、図3(a)に示すように、抗原102に抗ウィルス抗体103(一次抗体)が結合している場合、この抗ウィルス抗体103に、着色粒子1に担持された抗IgG抗体(標識二次抗体)104が結合する。これにより、着色粒子1が、ウェル101内においてウェル内面に吸着し分散した状態となる。
【0045】
一方、図3(b)に示すように、抗原102に抗ウィルス抗体103が結合していない場合、ウェル101内において着色粒子1が沈降・凝集した状態となる。
【0046】
したがって、この試薬をウェル101内に供給したときに、着色粒子1がウェル101内でウェル内面に吸着し分散した状態で観察された場合には、このウェル101の内面に担持した抗原102に結合する抗ウィルス抗体103が存在することが判り、着色粒子1がウェル101内で沈降した状態で観察された場合には、このウェル101の内面に担持した抗原102に対する抗ウィルス抗体103が存在しないことが判る。
【0047】
なお、本実施形態では、粒子として、着色粒子1を用いる場合について説明するが、本発明では、その他、例えば、蛍光物質等を担持した粒子を用いることもできる。ただし、粒子として着色粒子1を用いることにより、可視光下での判定が可能となるという利点がある。
【0048】
このような粒子(着色粒子1)には、樹脂材料やセラミックス材料で構成された粒子や、樹脂材料とセラミックス材料とで構成された複合粒子(例えば、樹脂粒子の表面をセラミックス材料で被覆した粒子)等を用いることができる。
【0049】
樹脂材料としては、例えば、ポリアミド(例えば、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6・10、ナイロン12)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイミド、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、熱可塑性ポリウレタンのような熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル、アルキド樹脂、熱硬化性ポリウレタン、エボナイドのような熱硬化性樹脂等が挙げられる。
【0050】
また、セラミックス材料としては、例えば、Ca10(PO(OH)、Ca10(PO、Ca10(POCl、Ca(PO、Ca、Ca(PO、CaHPOのようなリン酸カルシウム系化合物、アルミナ、シリカ等が挙げられる。
【0051】
また、前述した複合粒子は、例えば、樹脂粒子の表面に、市販のハイブリダイゼーション装置やメカノフュージョン装置等を用いて、セラミックス材料の多孔質粒子を衝突させることにより製造することができる。
【0052】
粒子の比重は、後述する工程[5]において、ウェル101内に存在する液体の比重より大きいものが好ましく、具体的には、1.05〜1.3g/cm程度であるのが好ましい。これにより、必要な時(陰性と判定すべき時)に、ウェル101内において、粒子を迅速かつ確実に沈降・凝集させることができる。
【0053】
また、粒子の平均粒径は、30μm以下であるのが好ましく、1〜20μm程度であるのがより好ましい。
【0054】
粒子を着色粒子1とする場合には、例えば、直接染料、酸性染料、塩基性染料、媒染染料、酸性媒染染料、硫化染料、硫化建染染料、建染染料、可溶性建染染料、アゾイック染料、分散染料、反応染料、酸化染料、合成繊維用染料、蛍光増白染料のような各種染料や、各種顔料を用いて染色すればよい。
【0055】
この着色粒子1(粒子)の表面には、例えば直接、または固定化剤により、抗IgG抗体104が固定(担持)されている。
【0056】
固定化剤としては、グルタールアルデヒド、ホルムアルデヒド、カップリング、四塩化オスミウム等を用いることができる。このうち、カップリング剤としては、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−チオプロピルトリメトキシシラン、2−(3−トリメトキシシリルプロピルジチオ)−5−ニトロピリジン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルジメトキシメチルシラン等が挙げられる。
【0057】
また、着色粒子(着色ビーズ)1の少なくとも表面付近がリン酸カルシウム系化合物で構成される場合、抗IgG抗体104を着色粒子1の表面に固定した後、着色粒子1の抗IgG抗体104から露出する部分を、ブロッキング剤でブロック(被覆)するのが好ましい。このブロッキング剤としては、抗原・抗体反応に影響を与えないもの、例えば、カゼイン、アルブミン等が好適に用いられる。
【0058】
試薬中の着色粒子1の含有量は、特に限定されないが、0.05〜0.2wt%程度であるのが好ましく、0.08〜0.12wt%程度であるのがより好ましい。着色粒子1の含有量を前記範囲とすることにより、ウェル101内での着色粒子1の挙動を確実に視認することができるようになる。なお、着色粒子1の含有量が多過ぎると、試薬をウェル101内に供給(分注)する際の操作において、ピペットの先端が詰まる等の不都合が生じるおそれがある。
【0059】
なお、試薬の調製に用いる分散媒としては、例えば、トリエタノールアミン塩酸−水酸化ナトリウム緩衝液、ベロナ−ル(5,5−ジエチルバルビツル酸ナトリウム)−塩酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、グリシルグリシン−水酸化ナトリウム緩衝液、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール−塩酸緩衝液、ジエタノールアミン−塩酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、ホウ酸ナトリウム−塩酸緩衝液、グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液、炭酸ナトリウム−炭酸水素ナトリウム緩衝液、ホウ酸ナトリウム−水酸化ナトリウム緩衝液、炭酸水素ナトリウム−水酸化ナトリウム緩衝液、リン酸二水素カリウム−リン酸水素ニナトリウム緩衝液、リン酸二ナトリウム−水酸化ナトリウム緩衝液、塩化カリウム−水酸化ナトリウム緩衝液、ブリトン−ロビンソン緩衝液、GTA緩衝液等の各種緩衝液またはこれらに生理食塩を加えたもの等が挙げられる。
【0060】
次に、このような判定キットの使用方法、すなわち、生体が特定のウィルスに感染したか否かを判定する判定方法(本発明の判定方法)について説明する。
【0061】
[1] まず、判定に供する検体液を調製する。
この検体液は、生体から採取した試料をそのまま、または、必要に応じて容量を調製(例えば希釈)することにより得られる。
【0062】
この容量調製用の液体には、例えば、前記試薬の調製で挙げた緩衝液と同様のものを用いることができる。
【0063】
また、試料としては、例えば、血清(血液)、精液、膣分泌液、母乳、唾液、尿、髄液、リンパ液のような液体や、細胞(組織)のような固体(固形物)を用いることができる。なお、細胞のような固体の試料を用いる場合には、例えば、これを粉砕し、前記緩衝液に懸濁することにより、検体液とすることができる。
【0064】
試料として血清を用いる場合、検体液は、血清を2〜1000倍程度(特に、5〜100倍程度)に希釈して用いるのが好ましい。
【0065】
[2] 次に、各ウェル101(101a〜101h)の内面に、それぞれ抗原102(102a〜102h)1種類ずつ担持したプレート10を用意し、各ウェル101内を洗浄液で洗浄する。
【0066】
この洗浄液には、例えば、前記試薬の調製で挙げた緩衝液と同様のものを用いることができる。
【0067】
[3] 次に、一列に配置された各ウェル101(101a〜101h)内に、それぞれ同一の検体液を分注(供給)する。
【0068】
各ウェル101内に検体液を供給すると、図3(a)に示すように、検体液中に抗ウィルス抗体103が含まれている場合、この抗ウィルス抗体103が、ウェル101に担持された抗原102に結合する(捕捉される)。
【0069】
なお、検体液のウェル101内への供給量は、特に限定されないが、0.02〜0.25mL程度であるのが好ましく、0.04〜0.06mL程度であるのがより好ましい。
【0070】
[4] 次に、各ウェル101内からそれぞれ検体液を除去し、前記と同様の洗浄液により各ウェル101内を洗浄する。
【0071】
これにより、抗ウィルス抗体103の検出に際して、検出を妨害する妨害物質等を除去することができ、抗ウィルス抗体103の検出をより正確に行うことができる。
【0072】
[5] 次に、各ウェル101内にそれぞれ試薬を供給する。
ウェル101内に試薬を供給すると、図3(a)に示すように、抗原102に抗ウィルス抗体103が結合している場合、この抗ウィルス抗体103に、着色粒子1に担持された抗IgG抗体104が結合する。これにより、着色粒子1が、ウェル101内(試薬中)でウェル内面に吸着し分散した状態となり、ウェル101内の液体は薄く着色する程度である。この場合、このウェル101の内面に担持された抗原102に結合する抗ウィルス抗体103が存在することが判る。
【0073】
一方、図3(b)に示すように、抗原102に抗ウィルス抗体103が結合していない場合、抗IgG抗体104を担持した着色粒子1は、沈降・凝集した状態となり、ウェル101の底に、濃く着色した部分(本実施形態では、スポット)が形成される。この場合、このウェル101の内面に担持された抗原102に結合する抗ウィルス抗体103が存在しないことが判る。
【0074】
ところが、生体は、多種多様の抗原に対する複数種の抗体を持っており、その中には、本来第1〜第8の抗原102a〜102hに対応して産生されたものでない抗体でありながら、第1〜第8の抗原102a〜102hにたまたま結合(交叉反応)するものが存在する。かかる抗体が、第1〜第8の抗原102a〜102hに結合すると、やはり、着色粒子1がウェル101a〜101h内においてウェル内面に吸着し分散した状態となり、それに対応する抗ウィルス抗体103が存在するものと誤認される。
【0075】
しかしながら、一般に存在する抗体であって、特殊な抗原である第1〜第8抗原102a〜102hに交叉反応(cross reaction)を示す抗体は、それ程多く存在しない。
【0076】
したがって、ウェル101a〜101hのうちの所定数(カットライン)以上のウェルにおいて、抗原102(102a〜102h)に結合した抗体が検出された場合、検体液が陽性、すなわち、生体がウィルスに感染したものと判定するようにする。
【0077】
このようにすれば、陰性の検体液であるにも関わらず、陽性と誤って判定されるのを確実に防止することができ、生体のウィルス感染の有無の判定を正確に行うことができる。
【0078】
ここで、用いる抗原102の種類の数をAとし、生体がウィルスに感染したものと判定する際のウェル101の数をBとしたとき、B/Aが0.2以上であるのが好ましく、0.3以上であるのがより好ましい。このようにカットラインを設定することにより、生体のウィルス感染の有無の判定結果の正確性(判定精度)をより向上させることができる。
【0079】
例えば、2以上のウェル101(101a〜101h)において、抗原102(102a〜102h)に結合した抗体が検出された場合を陽性とし、ウェル101a〜101hのうちの任意の1つのウェルにおいて、抗原102(102a〜102h)に結合した抗体が検出された場合、または抗原102に結合した抗体が検出されない場合を陰性とするものとすると、図4に示す例では、検体液1〜3が陰性、検体液4、5が陽性とされる。したがって、検体液4、5に用いた試料を提供した生体は、ウィルスに感染したものと判定される。
【0080】
なお、仮に、第1〜第8の抗原102a〜102hを、1つのウェルの内面に担持した構成の従来のプレートを用いて、前述したような交叉反応を示す抗体を含む検体液について、ウィルス感染の有無の判定を行うと、陰性であるにも関わらず、ほぼ100%の確率で陽性となってしまう。
【0081】
このような誤判定は、HIV感染のような人権に関わるウィルス感染の有無を判定する場合、極力少ないことが望ましい。したがって、本発明は、特に、HIV感染の有無を判定する場合への適用に適する。
【0082】
以上のように、本発明によれば、ウィルス感染の有無のより高い精度での判定を、容易かつ簡便に行うことができる。
【0083】
また、HIV感染の有無を判定する場合、すなわち、抗原102としてHIV抗原102’を用い、抗ウィルス抗体103として抗HIV抗体を検出する場合、前述した判定キットには、例えば、以下に示すような拮抗剤、すなわち、着色粒子1の沈降を阻害する阻害物質105がHIV抗原102’へ結合するのを阻止するタンパク質106を含有する拮抗剤を追加することができる。
【0084】
ここで、生体から採取した試料(特に、血清)には、HIV抗原102’および抗IgG抗体104’に対して結合して、着色粒子1の沈降を阻害する阻害物質105が多数含まれている。
【0085】
図5に示すように、ウェル101内のHIV抗原102’に、このような阻害物質105が結合すると、ウェル101内に試薬を供給した際に、この阻害物質105にさらに抗IgG抗体104’が結合し、着色粒子1がウェル内面に吸着し分散した状態となる。これにより、本来、HIV抗原102’に結合した抗HIV抗体が存在しないにも関わらず存在するもの誤認される。
【0086】
そこで、検体液をウェル101内に供給するのに先立って、検体液中に阻害物質105に対する親和力が、HIV抗原102’より高いタンパク質106を含有する拮抗剤を添加するようにする。これにより、タンパク質106が、検体液(試料)中に含まれる阻害物質105に選択的(特異的)に結合する。この状態で、検体液をウェル101内に供給すると、図6に示すように、阻害物質105のHIV抗原102’との結合サイトが、タンパク質106によりブロックされているため、阻害物質105がHIV抗原102’に結合することが妨げられる(阻止される)。
【0087】
このため、HIV抗原102’に結合した阻害物質105に、抗IgG抗体104’がさらに結合し、着色粒子1がウェル101内でウェル内面に吸着し分散した状態(陽性)となる現象を回避すること、すなわち、着色粒子1を確実に沈降・凝集させることができる。その結果、抗HIV抗体が存在しないにも関わらず存在するものと誤認されるのを確実に防止することができる。
【0088】
このタンパク質106には、阻害物質105に対する親和力がHIV抗原102’より高く、かつHIV抗原102’への結合性を実質的に有さないものであれば、いかなるものを用いてもよいが、カゼイン(リンタンパク質)、オボアルブミン(糖タンパク質)、アルブミン、ラクトフェリン(糖タンパク質)およびキモトリプシノーゲンのうちの少なくとも1種を用いるのが好ましく、特に、カゼイン、オボアルブミンおよびラクトフェリンのうちの少なくとも1種がより好ましい。これらのタンパク質は、いずれも、阻害物質105に対する親和力がHIV抗原102’より特に高いものであることから好ましい。
【0089】
拮抗剤の添加量は、特に限定されないが、タンパク質106の量としてHIV抗原102’の量1μgに対して、0.1〜10mg程度とするのが好ましく、0.3〜8mg程度とするのがより好ましい。タンパク質106の添加量を前記範囲とすることにより、タンパク質106と未結合の阻害物質105の量を確実に少なくすることができ、阻害物質105の着色粒子1の沈降を阻害する作用(沈降阻害作用)を確実に妨げることができる。なお、タンパク質106の添加量を前記上限値を超えて多くしても、それ以上のタンパク質106による効果の増大は期待できない。
【0090】
拮抗剤としては、タンパク質106をそのまま用いることもできるが、適当な溶媒に溶解して用いるのが好ましい。これにより、タンパク質106の添加量の調製が容易となる。
【0091】
この溶媒には、例えば、前記試薬の調製で挙げた緩衝液と同様のものを用いることができる。
【0092】
拮抗阻害剤は、さらに非イオン性界面活性剤を含有するのが好ましい。これにより、HIV抗原102’または抗IgG抗体104’に阻害物質105が結合するのをより効果的に妨げることができる。
【0093】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、オクトフェノール−ポリ(エチレングリコエーテル)、ポリ(オキシエチレン)−ソルビタン−モノラウレート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、n−ノナノニル−N−メチルグルカミド等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0094】
このような判定キットを用いれば、阻害物質105のHIV抗原102’への結合が、タンパク質106により阻止することができるので、抗HIV抗体が存在しない検体液では、確実に着色粒子1を沈降・凝集させることができる。
【0095】
また、タンパク質106により阻害物質105の沈降阻害作用を阻止するので、この阻害物質105をウェル101内から除去するための洗浄操作が不要である。したがって、作業効率がよく、また、洗浄操作を行っている際に検体液等が周囲に飛散し、作業者が、HIVに感染する危険を回避することができ、安全性が高い。
【0096】
また、この場合、検体液としては、試料の希釈倍率の比較的低いものを用いることも可能である。
【0097】
具体的には、試料として血清を用いる場合、検体液は、血清を2〜1000倍程度(特に、5〜100程度)に希釈して用いるのが好ましい。拮抗剤を用いれば、このように低い希釈倍率でも(すなわち、検体液中に比較的多くの阻害物質105が存在していても)、確実に着色粒子1に沈降・凝集を生じさせることが可能である。また、この程度の希釈倍率であれば、その操作を比較的容易かつ短時間に行うことができるため、判定操作(作業)に要する時間の短縮を図ることができる。
【0098】
以上、本発明のプレート、判定キットおよび判定方法について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0099】
例えば、本発明の判定方法は、必要に応じて任意の1または2以上の工程が追加されてもよい。
【0100】
また、前記実施形態では、抗体を検出する方法として粒子凝集法を用いる場合を代表にして説明したが、他の検出方法を用いる場合、試薬は、例えば、酵素、放射性物質、蛍光物質等の標識を抗IgG抗体に結合した標識二次抗体を含有する液体を用いることができる。
【実施例】
【0101】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
(実施例)
<1> まず、V底のウェル(容量:0.3mL)が96個設けられたマイクロプレートを用意した。このマイクロプレートには、1ウェル内に、それぞれ、以下の6種類Ag1〜6(HIV抗原)溶液を50μLを供給し、各ウェルの内面に、Ag1〜6のうちの1種類を担持させた。また、Ag1〜6は、1列の配置されたウェルの内面に、順に担持させた。
【0102】
・Ag1;組み換えHIV-1 IIIB gag p24(ImmunoDiagnostics社製)
:1μg/mL
・Ag2;組み換えウィルス蛋白HIV-1 gp120(Advanced Biotechnologies社製)
:0.5μg/mL
・Ag3;組み換えHIV-2 env(gp36)(Virogen社製)
:1μg/mL
・Ag4;組み換えHIV-1 env(gp41-gp120)(Virogen社製)
:1μg/mL
・Ag5;組み換えHIV-1 p17/24/gp120・gp41(Virogen社製)
:1μg/mL
・Ag6;組み換えHIV-1/-2 env(Virogen社製)
:1μg/mL
【0103】
<2> 次に、タンパク質としてカゼインを3.4mg/mL、非イオン性界面活性剤としてポリ(オキシエチレン)−ソルビタン−モノラウレート(和光純薬工業株式会社社製、「Tween20」)を0.24vol%となるように、それぞれリン酸二水素カリウム−リン酸水素ニナトリウム緩衝生理食塩液に溶解して拮抗剤を調製した。
【0104】
<3> そして、予め調製しておいた抗HIV抗体陰性の陰性血清(試料)および抗HIV抗体陽性の陽性血清(試料)に、それぞれ拮抗剤を添加して100倍に希釈することにより陰性検体液および陽性検体液を調製した。
【0105】
なお、陰性血清および陽性血清には、それぞれELISA法により、抗HIV抗体陰性および抗HIV抗体陽性と判定されたものを用いた。
【0106】
<4> 次に、陰性検体液および陽性検体液を、それぞれウェル内に0.05mLずつ供給した。すなわち、カゼインは、Ag1、Ag3〜6(HIV抗原)1μgに対して3.4mg添加され、Ag2(HIV抗原)1μgに対して6.8mg添加されたこととなる。
【0107】
なお、例えば、Ag1(HIV抗原)1μgに対するカゼインの添加量は、具体的には以下のようにして求められる。
【0108】
・1ウェル当たりに供給したカゼイン量
=3.4mg/mL×0.05mL=0.17mg
・1ウェル当たりに供給したAg1(HIV抗原)溶液の濃度
=1μg/mL
・1ウェル当たりのAg1(HIV抗原)の担持量
=1μg/mL×50μL=0.05μg
・1ウェルにおけるAg1(HIV抗原)1μg当たりのカゼイン量
=0.17mg÷0.05μg=3.4mg
【0109】
また、HIV抗原1μg当たりのカゼインの添加量は、Ag3〜6については、Ag1と同様であり、Ag2については、Ag1の2倍量となる。
【0110】
そして、各ウェル内に、抗HIV抗体に結合する抗体(抗IgG抗体)を担持したハイドロキシアパタイトコートナイロンビーズ(赤色着色粒子)を含有する試薬を供給した。
【0111】
なお、試薬中のハイドロキシアパタイトコートナイロンビーズの含有量は、0.1wt%とした。また、ハイドロキシアパタイトコートナイロンビーズは、平均粒径5.8μm、比重1.13g/cmであった。
【0112】
<5> 次に、各ウェル内におけるハイドロキシアパタイトコートナイロンビーズの挙動を観察した。
【0113】
そして、6つのウェルのうち、ハイドロキシアパタイトコートナイロンビーズの沈降・凝集が認められないウェルが2つ以上の場合を陽性、1以下の場合を陰性とした。
【0114】
(比較例)
前記工程<1>において、1つのウェル内に、Ag1〜6(HIV抗原)溶液を混合した混合液50μLを供給し、ウェルの内面に、Ag1〜6の全てを担持させたプレートを用意した以外は、前記実施例と同様にして、ハイドロキシアパタイトコートナイロンビーズの挙動を観察した。
【0115】
なお、実施例と同様に計算すると、カゼインは、HIV抗原(Ag1〜6の合計)1μgに対して0.618mg添加されたこととなる。
これらの結果を、図7に示す。
【0116】
図7に示すように、実施例では、陰性検体液は、いずれも陰性と判定すべき結果であり、陽性検体液は、陽性と判定するべき結果であった。
【0117】
これに対して、比較例では、陰性検体液のうち1つが陽性と判定すべき結果となった。
これは、陰性検体液3中に、抗HIV抗体ではないが、Ag6に結合する抗体が存在したためである。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明の判定キットが備えるプレートを模式的に示す斜視図である。
【図2】図1に示すプレートの平面図である。
【図3】本発明の判定方法を説明するための模式図である。
【図4】本発明の判定方法による判定結果を示す図である。
【図5】本発明の判定方法を説明するための模式図である。
【図6】本発明の判定方法を説明するための模式図である。
【図7】実施例および比較例における判定結果を示す写真である。
【符号の説明】
【0119】
1 着色粒子
10 プレート
101、101a〜101h ウェル
102、102a〜102h 抗原
102’ HIV抗原
103 抗ウィルス抗体
104 抗IgG抗体
104’ 抗IgG抗体
105 阻害物質
106 タンパク質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体が特定のウィルスに感染したか否かを判定するのに用いられるプレートであって、
前記生体から採取した試料を含有する検体液を供給する複数のウェルを有し、
前記ウィルス由来の複数種の抗原を、それぞれ1種類ずつ1つの前記ウェルの内面に担持したことを特徴とするプレート。
【請求項2】
同一の前記検体液を供給すべき複数の前記ウェルを一列に配置した請求項1に記載のプレート。
【請求項3】
前記ウィルスは、HIV(Human Immunodeficiency Virus)である請求項1または2に記載のプレート。
【請求項4】
生体が特定のウィルスに感染したか否かを判定するのに用いられる判定キットであって、
請求項1ないし3のいずれかに記載のプレートと、
前記抗原に結合した抗体を検出し得る試薬とを有することを特徴とする判定キット。
【請求項5】
前記試薬は、抗IgG抗体を担持した粒子を含有する請求項4に記載の判定キット。
【請求項6】
前記粒子は、着色されている請求項5に記載の判定キット。
【請求項7】
前記プレートは、前記ウェルの底面が収斂形状をなしている請求項5または6に記載の判定キット。
【請求項8】
請求項4ないし7のいずれかに記載の判定キットを用いて、生体が特定のウィルスに感染したか否かを判定する判定方法であって、
前記プレートの所定の前記ウェル内に、それぞれ前記検体液を供給する工程と、
前記検体液が供給された各前記ウェル内に、それぞれ前記試薬を供給する工程と、
所定数以上の前記ウェルにおいて、前記抗原に結合した前記抗体が検出されたとき、前記生体が前記ウィルスに感染したものと判定する工程とを有することを特徴とする判定方法。
【請求項9】
前記抗原の種類の数をAとし、前記生体が前記ウィルスに感染したものと判定する際の前記ウェルの数をBとしたとき、B/Aが0.2以上である請求項8に記載の判定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−114070(P2007−114070A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306420(P2005−306420)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】