説明

プロキラルケトンの不斉還元によるキラルアルコールの調製のための環境にやさしい方法

本発明は、浸漬したファセオルス・アウレウス・エル(phaseolus aureus L)(リョクトウ(green grams))を使用する水中のプロキラルケトンの不斉還元によるキラルアルコールの調製のための新しい環境にやさしい方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸漬したファセオルス・アウレウス・エル(phaseolus aureus L)(リョクトウ(green grams))を使用する水中のプロキラルケトンの不斉還元によるキラルアルコールの調製のための新しい環境にやさしい方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キラルアルコールは、薬学的に重要な薬物や農薬の開発における前駆体として大きな需要を有する公知の中間体である。主要な中間体は、化学的ならびに生物化学的方法によりラセミ体の分解により得られる。ラセミ体の分解を含む方法においては、いつも50%の不要なエナンチオマーがある。従って不要なエナンチオマー(50%)を形成しない不斉合成法を開発することが重要である。単一のエナンチオマーを得るためのプロキラルケトンの不斉還元は、この問題に対する1つの解答である。
【0003】
化学的方法によるプロキラルケトンの不斉還元は、高価なキラル試薬を使用する。生物触媒的アプローチは、広範囲のキラルアルコールの調製のための最適の方法である。パン酵母は、プロキラルケトンから対応する光学活性アルコールへの還元のために最も広く使用されている微生物である。これはエマルジョンからの所望の生成物の回収が面倒であり、特に高価な補助因子の使用が必要となる。次にこれらの補助因子を再生しなければならない。
【0004】
植物細胞培養物は、有機化合物の生物化学反応を実施するための重要な候補である。これらの反応のほとんどはこれまで、植物細胞が産生する2次代謝物の生物変換に限定されてきた。合成的に重要な外来物質の生物変換のいくつかの例がある(Tetrahedron Asymmetry 1996, 7, 1571)。
【0005】
Baldassarreらは、プロキラルケトンの不斉還元のための植物細胞全体の使用を報告した(J. Mol. Catal. B: Enzym. 2000, 11, 55-58)。合成的に重要な外来物質の変換のための生物触媒候補としての固定化植物細胞培養物の使用も研究された(Phytochemistry 1991, 30, 3595; Phytochemistry 1994, 35, 661)。
エナンチオマー高過剰量かつ高収率でキラルアルコールを産生する我々の試みにおいて、我々はプロキラルケトンの不斉還元のための生物触媒候補としていくつかの浸漬した食用マメを研究した。我々は、中程度の収率で良好なエナンチオマー選択性でキラルアルコールを得るためのプロキラルケトンの不斉還元のための生物触媒として、浸漬したファセオルス・アウレウス・エル(phaseolus aureus L)(リョクトウ)が有効に利用できるが、ファセオルス・ムンゴ・エル(phaseolus mungo L)(ブラックグラム)とシサー・アリエチヌム・エル(cicer arietinum L)(ベンガルマメ)はエナンチオマー選択性が低くごくわずかな収率であることを、初めて見いだした。
【0006】
発明の目的
本発明の主目的は、エナンチオマー高過剰量で、高収率でキラルアルコールを得るための、かつ処理の容易さのためにスケールアップ操作のし易い方法を提供することである。
本発明の他の目的は、スラッシュが形成されず生成物の単離が容易なキラルアルコールの製造法を提供することである。
本発明のさらなる目的は、容易に入手できる生物触媒としてファセオルス・アウレウス・エル(phaseolus aureus L)(リョクトウ)を使用するキラルアルコールの製造法を提供することである。
本発明のさらに別の目的は、浸漬したファセオルス・アウレウス・エル(phaseolus aureus L)(リョクトウ)が反応後に肥料として使用できる、環境にやさしい方法を提供することである。
【発明の開示】
【0007】
本発明の上記目的は、式(II)
【化1】

[式中、R1はメチルであり、R2はフェニル、置換フェニルまたはベンジル、式(IV)
【化2】

の1-ナフタレノール、および式(VI)
【化3】

の1,3-ジフェニルプロパン-1-オールである]のキラルアルコールを、式(I)(式中、R1とR2は上記と同じ意味を有する)のプロキラルケトン;
【化4】

式(III)の1-ナフタレノンおよび式(V)のカルコン
【化5】

の不斉還元における生物触媒として、浸漬したビグナ・ラジアータ(リョクトウ)を使用することにより調製する方法により達成される。
【0008】
従って本発明は、エナンチオマー高過剰量かつ高収率でキラルアルコールを調製するための新しい環境にやさしい方法であって、ファセオルス・アウレウス・エル(phaseolus aureus L)(リョクトウ)を水に浸漬し、プロキラルケトンと水に浸漬したファセオルス・アウレウス・エル(phaseolus aureus L)(リョクトウ)と反応させ、内容物をろ過し、キラルアルコールを有機溶媒中に抽出し、カラムクロマトグラフィーによりこれを単離することを含む方法を提供する。
【0009】
本発明のある実施態様においてファセオルス・アウレウス・エル(phaseolus aureus L)(リョクトウ)は、脱イオン水中に20〜25時間浸漬された。
本発明の別の実施態様においてプロキラルケトンは、水に浸漬したファセオルス・アウレウス・エル(phaseolus aureus L)(リョクトウ)と、攪拌用シェーカーを使用して14〜30℃の範囲の温度で20〜50時間反応させられた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
洗浄したファセオルス・アウレウス・エル(phaseolus aureus L)(リョクトウ)(50〜500g)を円錐フラスコに取り、脱イオン水(400ml)中に20〜25時間浸漬させた。上記の水に浸漬したファセオルス・アウレウス・エル(phaseolus aureus L)(リョクトウ)にプロキラルケトン(500mg〜5g)を加え、カバーをして、14〜30℃の範囲の温度で24〜50時間振盪した。次にリョクトウをろ別し、脱イオン水で洗浄した。
【0011】
合わせたろ液を有機溶媒で抽出した。有機層を洗浄し、乾燥し、粗生成物を単離した。クロロホルムを溶出液として使用してシリカゲルでカラムクロマトグラフィー後に、純粋なキラルアルコールがエナンチオマー高過剰量で得られた。
以下の例は本発明を例示するものであり、決して本発明の範囲を限定するものではない。
【0012】
実施例1
洗浄したファセオルス・アウレウス・エル(phaseolus aureus L)(リョクトウ)50gを円錐フラスコに取り、脱イオン水(400ml)中に24時間浸漬させた。上記の水に浸漬したファセオルス・アウレウス・エル(phaseolus aureus L)(リョクトウ)にアセトフェノン(0.500g;0.004モル)I(a)を加え、カバーをして、15〜20℃の範囲の温度で24時間振盪した。次にリョクトウをろ別し、脱イオン水で洗浄した(3×100ml)。合わせたろ液をクロロホルムで抽出した(3×500ml)。クロロホルム層を乾燥し、粗生成物を得た(360mg)。クロロホルムを溶出液として使用してシリカゲルでカラムクロマトグラフィー後に、純粋な1-フェニル-(1S)-エタノ-1-オール II(a)が得られた。
収率:0.255g、50%;ee:84%;([α]25D=−37.8゜、c=1、メタノール)
【0013】
実施例2
洗浄したファセオルス・アウレウス・エル(phaseolus aureus L)(リョクトウ)50gを円錐フラスコに取り、脱イオン水(400ml)中に24時間浸漬させた。上記の水に浸漬したファセオルス・アウレウス・エル(phaseolus aureus L)(リョクトウ)に4-クロロアセトフェノン(0.500g;0.0032モル)I(b)を加え、カバーをして、15〜20℃で24時間振盪した。次にリョクトウをろ別し、脱イオン水で洗浄した(3×100ml)。合わせたろ液をクロロホルムで抽出した(3×500ml)。クロロホルム層を乾燥し、粗生成物を得た(340mg)。クロロホルムを溶出液として使用してシリカゲルでカラムクロマトグラフィー後に、純粋な1-(4-クロロフェニル-(1S)-エタノ-1-オール) II(b)が得られた。
収率:0.253g、50%;ee:89.76%;([α]25D=−38.6゜、c=1、クロロホルム)
【0014】
実施例3
洗浄したファセオルス・アウレウス・エル(phaseolus aureus L)(リョクトウ)50gを円錐フラスコに取り、脱イオン水(400ml)中に24時間浸漬させた。上記の水に浸漬したファセオルス・アウレウス・エル(phaseolus aureus L)(リョクトウ)に4-メチルアセトフェノン(0.500g;0.0037モル)I(c)を加え、カバーをして、15〜20℃で24時間振盪した。次にリョクトウをろ別し、脱イオン水で洗浄した(3×100ml)。合わせたろ液をクロロホルムで抽出した(3×500ml)。クロロホルム層を乾燥し、粗生成物を得た(340mg)。クロロホルムを溶出液として使用してシリカゲルでカラムクロマトグラフィー後に、純粋な1-(4-メチルフェニル-(1S)-エタノ-1-オール) II(c)が得られた。
収率:0.254g、50%;ee:94.54%;([α]25D=−48.5゜、c=1、クロロホルム)
【0015】
実施例4
洗浄したファセオルス・アウレウス・エル(phaseolus aureus L)(リョクトウ)50gを円錐フラスコに取り、脱イオン水(400ml)中に24時間浸漬させた。上記の水に浸漬したファセオルス・アウレウス・エル(phaseolus aureus L)(リョクトウ)にフェニルアセトン(0.500g;0.0037モル)I(d)を加え、カバーをして、15〜20℃で24時間振盪した。次にリョクトウをろ別し、脱イオン水で洗浄した(3×100ml)。合わせたろ液をクロロホルムで抽出した(3×500ml)。クロロホルム層を乾燥し、粗生成物を得た(330mg)。クロロホルムを溶出液として使用してシリカゲルでカラムクロマトグラフィー後に、純粋な1-フェニル-(2S)-プロパン-2-オール II(d)が得られた。
収率:0.232g、45.67%;ee:97.86%;([α]25D=+32.62゜、c=1、クロロホルム)
【0016】
実施例5
洗浄したファセオルス・アウレウス・エル(phaseolus aureus L)(リョクトウ)50gを円錐フラスコに取り、脱イオン水(400ml)中に24時間浸漬させた。上記の水に浸漬したファセオルス・アウレウス・エル(phaseolus aureus L)(リョクトウ)に1-ナルタレノン(0.500g;0.0034モル)IIIを加え、カバーをして、15〜20℃で46時間振盪した。次にリョクトウをろ別し、脱イオン水で洗浄した(3×100ml)。合わせたろ液をクロロホルムで抽出した(3×500ml)。クロロホルム層を乾燥し、粗生成物を得た(480mg)。クロロホルムを溶出液として使用してシリカゲルでカラムクロマトグラフィー後に、純粋な(1S)-1,2,3,4-テトラヒドロ-1-ナルタレノール (IV)が得られた。
収率:0.259g、51%;ee:98.43%;([α]25D=+31.5゜、c=1、クロロホルム)
【0017】
実施例6
洗浄したファセオルス・アウレウス・エル(phaseolus aureus L)(リョクトウ)50gを円錐フラスコに取り、脱イオン水(400ml)中に24時間浸漬させた。上記の水に浸漬したファセオルス・アウレウス・エル(phaseolus aureus L)(リョクトウ)にカルコン(0.500g;0.0024モル)(V)を加え、カバーをして、15〜20℃で24時間振盪した。次にリョクトウをろ別し、脱イオン水で洗浄した(3×100ml)。合わせたろ液をクロロホルムで抽出した(3×500ml)。クロロホルム層を乾燥し、粗生成物を得た(240mg)。クロロホルムを溶出液として使用してシリカゲルでカラムクロマトグラフィー後に、純粋な1,3-ジフェニル-(1S)-プロパン-1-オール (VI)が得られた。
収率:0.141g、28%;ee:85.62%;([α]25D=+28゜、c=1、ジクロロメタン)
【0018】
実施例7
洗浄したファセオルス・アウレウス・エル(phaseolus aureus L)(リョクトウ)500gを円錐フラスコに取り、脱イオン水(4リットル)中に24時間浸漬させた。上記の水に浸漬したファセオルス・アウレウス・エル(phaseolus aureus L)(リョクトウ)にアセトフェノン(5g;0.0416モル)I(a)を加え、カバーをして、室温(28℃)で24時間振盪した。次にリョクトウをろ別し、脱イオン水で洗浄した(5×600ml)。合わせたろ液をクロロホルムで抽出した(30×500ml)。クロロホルム層を乾燥し、粗生成物を得た(3.21g)。クロロホルムを溶出液として使用してシリカゲルでカラムクロマトグラフィー後に、純粋な1-フェニル-(1S)-エタノ-1-オール II(a)が得られた。
収率:2.08g、40%;ee:71.44%;([α]25D=−32.13゜、c=1、メタノール)
【0019】
比較例
実施例8
洗浄したファセオルス・ムンゴ・エル(phaseolus mungo L)(ブラックグラム)50gを円錐フラスコに取り、脱イオン水(400ml)中に24時間浸漬させた。上記の水に浸漬したファセオルス・アウレウス・エル(phaseolus aureus L)(リョクトウ)にアセトフェノン(0.500g;0.004モル)I(a)を加え、カバーをして、室温(28℃)で24時間振盪した。次にブラックグラムをろ別し、脱イオン水で洗浄した(3×100ml)。合わせたろ液をクロロホルムで抽出した(3×500ml)。クロロホルム層を乾燥し、粗生成物を得た(0.1g)。クロロホルムを溶出液として使用してシリカゲルでカラムクロマトグラフィー後に、純粋な1-フェニル-(1S)-エタノ-1-オール II(a)が得られた。
収率:0.020g、4%;ee:23.11%;([α]25D=−10.4゜、c=1、メタノール)
【0020】
実施例9
洗浄したシサー・アリエチヌム・エル(cicer arietinum L)(ベンガルマメ)50gを円錐フラスコに取り、脱イオン水(400ml)中に24時間浸漬させた。上記の水に浸漬したファセオルス・アウレウス・エル(phaseolus aureus L)(リョクトウ)にアセトフェノン(0.500g;0.004モル)I(a)を加え、カバーをして、室温(28℃)で24時間振盪した。次にリョクトウをろ別し、脱イオン水で洗浄した(3×100ml)。合わせたろ液をクロロホルムで抽出した(3×500ml)。クロロホルム層を乾燥し、粗生成物を得た(80mg)。クロロホルムを溶出液として使用してシリカゲルでカラムクロマトグラフィー後に、純粋な1-フェニル-(1S)-エタノ-1-オール II(a)が得られた。
収率:0.010g、2%;ee:8%;([α]25D=−3.6゜、c=1、メタノール)
【0021】
本発明の主要な利点は以下の通りである:
1) この方法は、エナンチオマー高過剰量で高収率でキラルアルコールを与え、かつスラッシュが形成されず生成物の処理と単離が容易なため、スケールアップ操作がし易い。
2) 生物触媒として使用されるファセオルス・アウレウス・エル(phaseolus aureus L)(リョクトウ)は、容易に入手できる。
3) この方法は環境にやさしく、浸漬したファセオルス・アウレウス・エル(phaseolus aureus L)(リョクトウ)は反応後に肥料として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エナンチオマー高過剰量かつ高収率でキラルアルコールを調製する方法であって、対応するプロキラルケトンを水に浸漬したファセオルス・アウレウス・エル(phaseolus aureus L)(リョクトウ)と反応させ、内容物をろ過し、産生されたキラルアルコールを有機溶媒中に抽出し、こうして得られたキラルアルコールを単離することを含む方法。
【請求項2】
単離はカラムクロマトグラフィーにより行われる、請求項1の方法。
【請求項3】
ファセオルス・アウレウス・エル(phaseolus aureus L)(リョクトウ)は、プロキラルケトンとの反応前に、脱イオン水に20〜25時間浸漬される、請求項1の方法。
【請求項4】
プロキラルケトンは、水に浸漬したファセオルス・アウレウス・エル(phaseolus aureus L)(リョクトウ)と、攪拌用シェーカーを使用して14〜30℃の範囲の温度で20〜50時間反応される、請求項1の方法。
【請求項5】
プロキラルケトンは、アセトフェノン、4-クロロアセトフェノン、4-メチルアセトフェノン、フェニルアセトン、1-ナフタレノンおよびカルコンよりなる群から選択される、請求項1の方法。
【請求項6】
キラルアルコールは以下の式IIである請求項1の方法:
【化1】

[式中、R1はメチルであり、R2はフェニル、置換フェニルまたはベンジル、式(IV)
【化2】

の1-ナフタレノール、および式(VI)
【化3】

の1,3-ジフェニルプロパン-1-オールである]。
【請求項7】
キラルアルコールの抽出のために使用される有機溶媒はクロロホルムを含む、請求項1の方法。

【公表番号】特表2006−514090(P2006−514090A)
【公表日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−570075(P2004−570075)
【出願日】平成15年3月31日(2003.3.31)
【国際出願番号】PCT/IN2003/000106
【国際公開番号】WO2004/087629
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(595059872)カウンシル オブ サイエンティフィク アンド インダストリアル リサーチ (81)
【Fターム(参考)】