説明

プロスタグランジン類を含有する眼科用水中油型エマルジョン

本発明は、活性剤としての少なくとも1種のプロスタグランジンと、少なくとも2種の非イオン性界面活性剤の組合せを含む界面活性成分とを含む眼科用途のための水中油型エマルジョンに関する。このエマルジョンは、医療用途、特に緑内障の治療に好適であり、プロスタグランジン活性剤の化学安定性が向上されており、室温でも長期の貯蔵が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性剤としての少なくとも1種のプロスタグランジンと、少なくとも2種の非イオン性界面活性剤の組合せを含む界面活性成分とを含む水中油型エマルジョンに関する。このエマルジョンは、眼科用途、特に緑内障および/または高眼圧症の治療に好適であり、向上したプロスタグランジン活性剤の化学安定性を有し、長期の貯蔵、例えば室温での長期の貯蔵が可能である。
【背景技術】
【0002】
プロスタグランジン類は、ヒトの組織または器官に見られ、広範な生理活性を有する化学種である。いくつかのプロスタグランジンの合成F2α類縁体は、眼科用医薬、とりわけ眼圧降下性抗緑内障剤として有用であることが知られている。例えば、ラタノプロスト、トラボプロスト、ビマトプロスト、およびウノプロストンが、それぞれ、商標名Xalatan(登録商標)、Travatan(登録商標)、Lumigan(登録商標)、およびRescula(登録商標)の下で、高眼圧症および緑内障の治療のための眼科用点眼溶液として市場に導入されている。
【0003】
これらのプロスタグランジン類縁体に関連する問題は、これらの水溶性が幾分低いこと、およびとりわけ水溶液中におけるこれらの化学的不安定性である。このため、多数のさまざまな眼科用製剤が、このような問題を克服するために提案されてきた。
【0004】
欧州特許出願公開第0435682号には、プロスタグランジン類と、疎水性キャビティを有する水溶性錯化剤であるシクロデキストリン類との包摂錯体の使用が記載されている。ここでは、プロスタグランジン類などの疎水性薬剤が前記キャビティ内に包摂されて、高い水溶性および高い水中安定性がもたらされる。
【0005】
シクロデキストリンを含有するラタノプロスト眼科用製剤の安定性および臨床上の有用性は、The Journal of Clinical Pharmacology 47, 121-126, 2007に記載されている。
【0006】
プロスタグランジン類を錯化し且つ安定化するための、変性シクロデキストリン類(すなわち、エーテル化シクロデキストリン類)の使用が、欧州特許出願公開第0330511号において提唱されている。
【0007】
溶液のpHを5〜6.25の範囲の値に調節することによる、あるいはε-アミノカプロン酸を添加することによる、ランタノプロストの眼科用水溶液の安定化が、欧州特許出願公開第1532981号に記載されている。
【0008】
プロスタグランジン類の溶解性および安定性は、ポリエトキシル化されたヒマシ油をその水溶液に添加するによっても改善される(米国特許第5,849,792号)。
【0009】
プロスタグランジン類の眼科用製剤が、米国特許出願公開第2004/076678号に提唱されている。ここでは、アクリレート、セルロース、または他のポリマー類が、眼への投与時の有効性を引き延ばすためにプロスタグランジン類の水溶液に添加されている。
【0010】
眼科用エマルジョンの一例が米国特許第3,608,073号に記載されており、ピロカルピン、油、水性相、および界面剤を含有する製剤を対象としている。
【0011】
欧州特許出願公開第0521799号は、油、両性界面活性剤、およびリン脂質を用いる眼科用サブミクロンエマルジョンの調製を教示している。
【0012】
油、水性相、およびリン脂質からなる成分が、高圧ホモジナイゼーションにかけられて、フルビプロフェンを含有する眼科用途のためのサブミクロンエマルジョンが生じている(米国特許第5,171,566号)。
【0013】
サブミクロンエマルジョンを安定化するために、疎水性懸濁化粒子を添加することが米国特許出願公開第2003/215471号に示唆されている。
ランタノプロストの、高圧ホモジナイゼーションによって得られるマイクロエマルジョンが、Int. J. Pharm., 305, 176-179, 2005に記載されている。この安定化は、ポリビニルアルコールを乳化剤として用いることによって得られている。
【0014】
ベンザルコニウムクロライドは、眼科用製剤のために最も使用されている抗菌性防腐剤の1つであるが、ベンザルコニウムクロライドは、液滴を安定化するその正電荷のおかげで、眼科用マイクロエマルジョンの製剤においても広く使用されている(米国特許第5,698,219号)。この正電荷は、他の陽イオン性剤によっても供給されうる(国際公開第2006/050838号)。
【0015】
プロスタグランジン類の投与のための、正に荷電したマイクロエマルジョンの使用が、国際公開第2006/050836号または同第2007/042262号に記載されている。この界面膜は、非イオン性界面活性剤と、陽イオン性剤〔例えば、四級アンモニウム化合物
(ベンザルコニウムクロライドを含む)、アミノアルコール、ビグアナイド塩など〕との組合せによって形成される。得られるエマルジョンは、少なくとも16 mVのゼータ電位を有する。
【0016】
しかし、眼科用途のための陽イオン性剤の使用は、眼への忍容性を保証するために注意深く検証される必要がある(Eur. J. Pharm. Biopharm., 53, 263-280, 2002)。
【0017】
特定数の炭素原子を有するベンザルコニウムクロライド、界面活性剤、および等張化剤の組合せが、安定な眼科用ランタノプロスト溶液を記載する欧州特許出願公開第1547599号において記載されている。
【0018】
欧州特許出願公開第0458588号には、高眼圧症の治療に有用な薬剤の製造のための眼圧降下に相乗効果を有する組合せであって、13,14-ジヒドロ-15-ケト-20-C1〜6アルキルプロスタグランジンと、ポリオキシエチレンソルビタン不飽和C10〜C24脂肪酸モノエステルとの組合せが開示されている。
【0019】
欧州特許出願公開第1655021号には、医薬などの疎水性成分の送達用賦形剤として有用な水中油型エマルジョンが記載されており、この場合において、エマルジョン粒子は、正味の正電荷を有しており、陽イオン剤を含んでいる。
【0020】
欧州特許出願公開第1681059号には、プロスタグランジンF2α誘導体類、油、水溶性ポリマー、および水を含有する水中油型エマルジョンを含む医薬組成物が記載されている。水溶性ポリマーは、ポリビニル化合物、水溶性セルロース化合物、または多糖類であることができる。油は、動物油もしくは植物油、および/または中鎖脂肪酸トリグリセリドであることができる。
【0021】
米国特許出願公開第2006/0182781号には、眼科用ミクロ粒子組成物であって、ミクロ粒子が、ポリマーマトリックスと、活性剤(例えば、プロスタグランジン)とを含むものが記載されている。
【0022】
国際公開第2004/082625号および米国特許出願公開第2007/0036829号には、水性相に分散された油性小球を含む自己乳化性眼科用組成物であって、この小球が、活性剤成分と極性油性成分とを含むものが記載されている。この油性成分は、エマルジョンの総質量の最高で1.25質量%までの量で存在する。
【0023】
米国特許第5,827,835号には、少なくとも30 KDの分子量を有する非イオン性セルロースエーテル、油、水、および場合により乳化剤を含む非毒性エマルジョン組成物が記載されている。このエマルジョンは、プロスタグランジン類などの医薬をさらに含んでいてもよい。
【0024】
国際公開第02/064166号には、少なくとも1種のモノグリセリド、少なくとも1種の乳化剤、水溶液、および少なくとも1種の有機溶媒を含む組成物が記載されている。
【0025】
韓国特許出願公開第2003/0046553号には、プロスタグランジンE1を活性成分として含む温度感受性の外用エマルジョン組成物が記載されている。この組成物は、皮膚に適用され、体温でゲルを形成する。しかし、このゲルの形成は、眼科用途には好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1681059号
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0182781号
【特許文献3】国際公開第2004/082625号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0027】
意外にも、フロスタグランジン活性剤を含有する油相と、水性相と、少なくとも2種の非イオン性界面活性剤を含む組合せを含む界面活性成分とを組み合わせることにより、眼科用途のための安定なサブミクロンエマルジョンが自発的に形成されることが見出された。これらのエマルジョンは、好ましくは、実質的に中性の電気化学的電荷(ゼータ電位)を有し、かつ、そのマイクロエマルジョンの物理的性質においてもプロスタグランジン活性剤の化学的安定性においても優れた安定性を有する。このエマルジョンは、単に成分を混合して自発的なマイクロエマルジョン化を起こさせることによって調製することができる。高エネルギープロセス(例えば、高圧ホモジナイゼーションおよび/または音波処理など)を適用する必要はない。このことが、この系のさらなる安定化に寄与する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
このように、本発明の主題は、成分として、
(i) 油性分散相、
(ii) 油性相成分(i)中に溶解された、活性剤としての少なくとも1種のプロスタグランジン、
(iii) 少なくとも2種の非イオン性界面活性剤の組合せを含む界面活性剤、および
(iv) 場合により製剤成分を含んでいてもよい水性連続相、
を含み、実質的に中性のゼータ電位を有する、眼科用途のための水中油型エマルジョンである。
【0029】
本発明のエマルジョンは、医薬製剤、特に眼科用製剤としての使用に適している。好ましくは、本水中油型エマルジョンは、緑内障および/または高眼圧症などの眼疾患の予防、緩和、および/または治療のために使用される。
【0030】
本発明のエマルジョンは、長期の貯蔵期間後の活性成分の回収率として例えばHPLCによって測定される、高い化学安定性を特徴とする。25℃にて6ヶ月、より好ましくは9ヶ月、最も好ましくは12ヶ月貯蔵した後の活性成分の回収率は、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは95%である。45℃にて14日間、より好ましくは30日間、最も好ましくは45日間貯蔵した後の活性成分の回収率は、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは95%である。さらに、本発明の製剤は、液滴サイズの測定によって判断される高い物理的安定性を特徴とする。好ましくは、エマルジョンは、25℃にて少なくとも6ヶ月間および45℃にて少なくとも45日間安定である。
【0031】
とりわけ好ましい実施態様では、本エマルジョンが、25℃にて少なくとも6ヶ月、より好ましくは少なくとも9ヶ月、最も好ましくは少なくとも12ヶ月の化学的および物理的な安定性を有することが明らかになった。驚くべきことに、この化学的および物理的な安定性が、瓶の開封によって低下しないことが明らかになった。
【0032】
本発明のエマルジョンは、好ましくは、油性液滴の平均サイズが1μm未満のマイクロエマルジョンである。より好ましくは、この油性液滴の平均液滴サイズは、700 nm以下である。本発明のエマルジョンは、その物理的状態が4℃〜45℃まで変化せず、ゲルを形成しないことがさらに好ましい。
【0033】
好ましくは、本エマルジョンは、実質的に中性のゼータ電位、すなわち-10 mV〜+10 mVの間、好ましくは-4 mV〜+4 mVの間、より好ましくは-2 mV〜+2 mVの間のゼータ電位を有することを特徴とする。
【0034】
油性相(i)は、好ましくは、エマルジョンの総質量に基づいて少なくとも3質量%、より好ましくは少なくとも5質量%の量で存在する。油性相の最大量は、エマルジョンの総質量に基づいて好ましくは25質量%、より好ましくは20質量%である。油性相(i)は、医薬品として許容可能な油(例えば、動物油、植物油、合成油、またはこれらの混合物)から選択される。好ましくは、油性相は、医薬品として許容可能な脂肪酸エステル、例えば、脂肪酸トリグリセリドまたは脂肪酸モノエステルを含む。
【0035】
より好ましくは、油性相の成分は、以下の4つの要素に基づいて選択される:
(1) 眼への適用への許容性;
(2) 少なくとも0.1 mg/ml、好ましくは少なくとも2 mg/ml、より好ましくは少なくとも10 mg/mlの、プロスタグランジン成分(ii)の良好な溶解度;
(3) 上述したプロスタグランジン成分(ii)の化学的安定性;および
(4) 少なくともlogP=0.5、好ましくは少なくともlogP=2の、油性相により多く分配される油/水の分配係数。
好適な油性相成分の具体的な例は、オレイン酸エチル、Miglyol(登録商標)812(すなわちC8〜10脂肪酸トリグリセリドの混合物)、ヒマシ油、コーン油、またはこれらの混合物である。
【0036】
本発明の水中油型エマルジョンは、少なくとも1種のプロスタグランジンを活性剤として含む。好ましくは、プロスタグランジンは、親油性プロスタグランジン、例えば、プロスタグランジンF2α類縁体、例えば、ラタノプロスト、トラボプロスト、ビマトプロスト、ウノプロストン、またはこれらの2種以上の混合物である。より好ましくは、プロスタグランジン成分は、ラタノプロストである。プロスタグランジン類は、好ましくは、エマルジョンの総質量に基づいて0.001〜5質量%、より好ましくは0.002〜0.1質量%の量で存在する。
【0037】
界面活性剤成分(ii)は、少なくとも2種の非イオン性界面活性剤の組合せを含む。この2種の界面活性剤の組合せの選択は、好ましくは、以下の考慮に基づいて行う。
【0038】
(1) 眼科用途に許容可能な(眼への忍容性を有する)非イオン性界面活性剤だけを用いること;および
(2) 界面活性剤の組合せおよび量は、第一の非イオン性界面活性剤を油性相または水性相に添加し、油性相と水性相とを混合し、さらに第二の非イオン性界面活性剤を、この混合物に、均質な油/水エマルジョンが相分離または視認可能な液滴の形成なしに形成されるための十分量で添加した場合に、レーザー光散乱解析によって測定して平均液滴サイズが1μm未満、より好ましくは700 nm以下となるように選択すること。
【0039】
界面活性剤成分(iii)の非イオン性界面活性剤は、親油性非イオン性界面活性剤、親水性非イオン性界面活性剤、またはこれらの組合せから選択することができる。好ましくは、界面活性剤成分(iii)の非イオン性界面活性剤の組み合わされた総HLB値は、少なくとも10、好ましくは少なくとも13であり、かつ好ましくは最高で20、より好ましくは最高で18までである。界面活性剤は、自発的なエマルジョン形成を促進する量で存在する。好ましくは、界面活性剤成分は、第一および第二の非イオン性界面活性剤を、エマルジョンの総質量に基づいてそれぞれ0.1〜10質量%の量で存在する。組み合わせた非イオン性界面活性剤の量は、エマルジョンの総質量に基づいて、好ましくは1〜20質量%、より好ましくは2〜12質量%である。
【0040】
非イオン性界面活性剤は、好ましくは、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンのモノ-またはポリエステル、および/またはポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテルから選択される。好ましくは、界面活性剤成分(iii)の非イオン性界面活性剤は、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(Tween 80(登録商標))、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween 20(登録商標))、ポリオキシエチレン(2)セチルエーテル(Brij 52(登録商標))、ポリオキシエチレン(10)セチルエーテル(Brij 56(登録商標))、およびポリオキシエチレン(20)セチルエーテル(Brij 58(登録商標))からなる群から選択される。より好ましくは、界面活性剤成分(iii)の非イオン性界面活性剤の組合せは、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(Tween 80(登録商標))/ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween 20(登録商標))、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(Tween 80(登録商標))/ポリオキシル(2)セチルエーテル(Brij 52(登録商標))、ポリオキシル(2)セチルエーテル(Brij 52(登録商標))/ポリオキシル(20)セチルエーテル(Brij 58(登録商標))、およびポリオキシル(20)セチルエーテル(Brij 58(登録商標))/ポリオキシル(10)セチルエーテル(Brij 56(登録商標))から選択される。
【0041】
本発明の水中油型エマルジョンは、好ましくは、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、短鎖アルコール(例えば、C1〜4の一価アルコール)、脂肪酸(例えば、C4〜8の脂肪酸)を含まず、あるいは、レシチン類または/およびリン脂質類を含まない。このような化合物は、眼への適合性または物理的/化学的不安定性の問題を有する可能性がある。
【0042】
しかし、エマルジョンは、眼科用製剤に通常使用される他の成分、例えば、緩衝剤(例えば、リン酸塩類、クエン酸塩類など)、等張剤(例えば、グリセロール、ソルビトール、グルコース、塩化ナトリウムなど)、増粘化合物(例えば、ヒドロキシプロピルセルロースまたは他の水溶性セルロース誘導体類、ポリメチルメタクリレートもしくは他のポリアクリル酸誘導体類、キトサン、ヒアルロン酸、ポリビニルピロリドンなど)、抗菌性防腐剤(特にクロロブタノール)、抗酸化剤、または安定剤などを含んでいてよい。エマルジョンは、プロスタグランジンを唯一の活性剤として含んでいてもよい。異なる実施態様では、エマルジョンは、1種以上のさらなる活性剤、特に、好ましくは水性相に存在する親水性活性剤を含んでいてもよい。
【0043】
さらなる活性剤の好ましい例は、以下のとおりである:
− ベータブロッカー、例えば、チモロール、レボブノロール、ベタキソロールなど、
− 抗炎症剤、例えば、ケトロラック、ベータ-またはデキサメタソンなど、
− 抗ウイルス剤、例えば、アシクロビルなど、
− 局所用眼科用麻酔剤、例えば、オキシブプロカインなど、
− 抗アレルギー剤、例えば、オロパタジン、アゼラスチン、エピナスチン、ロドキサミドなど、
− 抗ドライアイ剤、例えば、ヒアルロン酸、アセチルシステイン、ポリビニルアルコールなど、
− 他の眼圧(IOP)降下薬、例えば、ブリモニジン、ブリンゾラミド、ドルゾラミドなど、
− 緑内障の緊急治療剤、例えば、ピロカルピンなど。
【0044】
エマルジョンの水性相(iv)は、好ましくは、医薬品として許容可能な水性相、好ましくは滅菌水、精製水、または眼科用途に適切な任意の他の種類の水からなる群から選択される水性相である。水性相は、エマルジョンの総質量に基づいて、好ましくは30〜95質量%の量、より好ましくは50〜95質量%の量で存在する。水性相の量には、場合により添加される、標準的な眼科用剤、緩衝材、防腐剤、等張剤なども含まれる。
【0045】
とりわけ好ましい実施態様では、成分(i)から成分(iv)は、エマルジョンの総質量に基づいて、以下の量:
(i) 5.0質量%〜20.0質量%の油性相、
(ii) 0.001質量%〜5.0質量%のプロスタグランジン活性剤、
(iii) 0.1質量%〜10.0質量%の第一の非イオン性界面活性剤および0.1質量%〜10.0質量%の第二の非イオン性界面活性剤、
(iv) 50.0質量%〜95.0質量%の水性相、
で存在する。
【0046】
上述した成分は、混合されると、安定なサブミクロンエマルジョンを、高エネルギー剪断手段を用いる必要なく自発的に生成する。例えば、エマルジョンは、下記工程:
(a) 場合により、製剤成分を水性相に溶解させる工程、
(b) 第一の非イオン性界面活性剤を水性相または油性相のいずれかに溶解させる工程、
(c) 第二の非イオン性界面活性剤を、水性相または油性相のいずれかに溶解させる工程、
(d) プロスタグランジン活性剤を油性相に溶解させる工程、および
(e) 油性相と水性相とを混合する工程
を含む方法によって調製することができる。
混合工程は、標準的な混合方法、例えば、パドルミキサー、磁気撹拌機、ホモジナイザーなどを使用する方法で実施することが好ましい。高エネルギー混合方法、例えば、高圧ホモジナイゼーションまたは音波処理を避けることができる。しかし、高エネルギー混合方法、例えば、高圧ホモジナイゼーションまたは音波処理を用いることもできる。
【0047】
医薬品目的のためには、エマルジョンは、滅菌した成分および装置を用いて製造することが好ましい。製造工程の全ての工程は、無菌条件下で実施することが好ましく、最終的な製剤は、公的な薬局方の要求基準にしたがって試験する。エマルジョンを、多数回投与用製剤として製剤化する場合には、抗菌性防腐剤(例えばクロロブタノールなど)を添加する。
【実施例】
【0048】
本発明を、以下の実施例によってさらに説明する。これらの実施例は、いかなる意味においても限定的なものであると解釈されるべきではない。
【0049】
[実施例1]
0.44 mg/mlの濃度で溶解されたラタノプロストを含有する油/界面活性剤溶液(オレイン酸エチル:Tween(登録商標)80:Tween(登録商標)20=1:1:0.5(質量:質量:質量))と、生理的水性相(0.9%NaCl/pH 7.4)とを、パドルミキサーを用いて混合することによって、油/水サブミクロンエマルジョンを調製した。油性相と水性相との比は、およそ1:20(質量/質量)であった。
得られたサブミクロンエマルジョンの組成は以下のとおりである。
ラタノプロスト 0.005 g
オレイン酸エチル 4.51 g
ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(Tween(登録商標)80) 4.51 g
ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween(登録商標)20) 2.30 g
生理溶液(0.9%NaCl/pH 7.4) 88.7 g
【0050】
[実施例2]
0.33 mg/mlの濃度で溶解されたラタノプロストを含有する油/界面活性剤溶液(Myglyol 812:Tween(登録商標)80:Tween(登録商標)20=1:1.5:1)と、等張剤(ソルビトール)を含有するリン酸緩衝水溶液(リン酸二水素ナトリウム/リン酸一水素ナトリウム)とを、磁気撹拌機を用いて混合することによって、油/水サブミクロンエマルジョンを調製した。油性相と水性相との比は、およそ1:20(質量/質量)であった。
得られたサブミクロンエマルジョンの組成は以下のとおりである。
ラタノプロスト 0.005 g
Myglyol 812 4.28 g
ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(Tween(登録商標)80) 6.42 g
ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween(登録商標)20) 4.28 g
リン酸緩衝水溶液(リン酸二水素ナトリウム/リン酸一水素ナトリウム、ソルビトール) 85.02 g
【0051】
[実施例3]
0.39 mg/mlの濃度で溶解されたラタノプロストを含有する油/界面活性剤溶液(ヒマシ油:Brij(登録商標)56=1:0.036)と、Brij(登録商標)58を4質量%の割合で含有する生理的水性相(0.9%NaCl/pH 7.4)とを、パドルミキサーを用いて混合することによって、液体状の油/水サブミクロンエマルジョンを調製した。油性相と水性相との比は、およそ1:10(質量/質量)であった。
得られたサブミクロンエマルジョンの組成は以下のとおりである。
ラタノプロスト 0.001 g
ヒマシ油 17.9 g
ポリオキシル(20)セチルエーテル(Brij(登録商標)58) 6.98 g
ポリオキシル(10) セチルエーテル(Brij(登録商標)56) 0.64 g
生理水性相(0.9%NaCl/pH 7.4) 174.5 g
【0052】
[実施例4]
0.45 mg/mlの濃度で溶解されたラタノプロストを含有する油/界面活性剤溶液(オレイン酸エチル:Tween(登録商標)80:Tween(登録商標)20=1:1:0.5)と、抗菌剤(クロロブタノール0.5%)を含有する生理的水性相(0.9%NaCl/pH 7.4)とを、パドルミキサーを用いて混合することによって、油/水サブミクロンエマルジョンを調製した。油性相と水性相との比は、およそ1:20(質量/質量)であった。
得られたサブミクロンエマルジョンの組成は以下のとおりである。
ラタノプロスト 0.0075 g
オレイン酸エチル 6.62 g
ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(Tween(登録商標)80) 6.62 g
ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween(登録商標)20) 3.31 g
クロロブタノール 0.80 g
生理水性相(0.9%NaCl/pH 7.4) 132.6 g
【0053】
[実施例5]
0.59 mg/mlの濃度で溶解されたラタノプロストを含有する油/界面活性剤溶液(オレイン酸エチル:Brij(登録商標)52=1:0.045)と、Brij(登録商標)58を4質量%の割合で含有するクエン酸緩衝溶液(クエン酸、クエン酸ナトリウム)とを、剪断ミキサーを用いて混合することによって、油/水サブミクロンエマルジョンを調製した。このクエン酸緩衝溶液には、ソルビトールが等張剤として溶解されていた。油性相と水性相との比は、およそ1:20(質量/質量)であった。
得られたサブミクロンエマルジョンの組成:
ラタノプロスト 0.0050 g
オレイン酸エチル 4.65 g
ポリオキシル(20)セチルエーテル(Brij(登録商標)58) 3.66 g
ポリオキシル(2) セチルエーテル(Brij(登録商標)52) 0.21 g
クエン酸緩衝液(クエン酸、クエン酸ナトリウム、ソルビトール) 91.5 g
【0054】
[実施例6]
0.40 mg/mlの濃度で溶解されたラタノプロストを含有する界面活性剤/油溶液(ヒマシ油:Brij(登録商標)52=1:0.05)と、Brij(登録商標)58を4質量%の割合で含有するクエン酸緩衝溶液(クエン酸、クエン酸ナトリウム)とを、剪断ミキサーを用いて混合することによって、油/水サブミクロンエマルジョンを調製した。このクエン酸緩衝溶液には、グリセロールが等張剤として溶解されていた。油性相と水性相との比は、およそ1:10(質量/質量)であった。
得られたサブミクロンエマルジョンの組成:
ラタノプロスト 0.01 g
ヒマシ油 17.3 g
ポリオキシル(20)セチルエーテル(Brij(登録商標)58) 7.0 g
ポリオキシル(2) セチルエーテル(Brij(登録商標)52) 0.84 g
クエン酸緩衝液(クエン酸、クエン酸ナトリウム、グリセロール) 174.8 g
【0055】
[実施例7]
0.41 mg/mlの濃度で溶解されたトラボプロストを含有する油/界面活性剤溶液(オレイン酸エチル:Tween(登録商標)80:Brij(登録商標)52=1:1:0.04)と、生理的水性相(pH 7.4、0.9%NaCl)とを、パドルミキサーを用いて混合することによって、液体状の油/水サブミクロンエマルジョンを調製した。油性相と水性相との比は、およそ1:20(質量/質量)であった。
得られたサブミクロンエマルジョンの組成:
トラボプロスト 0.0040 g
オレイン酸エチル 4.51 g
ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(Tween(登録商標)80) 4.48 g
ポリオキシル(2) セチルエーテル(Brij(登録商標)52) 0.18 g
生理溶液(0.9%NaCl、pH 7.4) 90.3 g
【0056】
[実施例8]
2.3 mg/mlの濃度で溶解されたビマトプロストを含有する油/界面活性剤相(Mygliol 812:Tween(登録商標)80:Tween(登録商標)20=1:1.5:0.5)と、抗菌剤(クロロブタノール0.5%)を含有する生理的水性相(0.9%NaCl、pH 7.4)とを、パドルミキサーを用いて混合することによって、液体状の油/水サブミクロンエマルジョンを調製した。油性相と水性相との比は、およそ1:20(質量/質量)であった。
得られたサブミクロンエマルジョンの組成:
ビマトプロスト 0.06 g
Mygliol 812 8.46 g
ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(Tween(登録商標)80) 12.89 g
ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween(登録商標)20) 4.40 g
クロロブタノール 1.0 g
生理水性相(0.9%NaCl、pH 7.4) 173.1 g
【0057】
以下の実施例は、プロスタグランジンの安定性に対する特定の油/水比の範囲の効果を示すために、低い油/水比で比較のために調製した。
【0058】
[比較例A]
0.79 mg/mlの濃度で溶解されたラタノプロストを含有する油/界面活性剤溶液(オレイン酸エチル:Tween(登録商標)80:Tween(登録商標)20=1:1:0.5)と、生理的水性相(0.9%NaCl、pH 7.4)とを、パドルミキサーを用いて混合することによって、油/水サブミクロンエマルジョンを調製した。油性相と水性相との比は、およそ1:40(質量/質量)であった。
得られたサブミクロンエマルジョンの組成:
ラタノプロスト 0.0125 g
オレイン酸エチル 6.37 g
ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(Tween(登録商標)80) 6.37 g
ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween(登録商標)20) 3.15 g
生理溶液(0.9%NaCl、pH 7.4) 234.1 g
【0059】
[実施例9]
上記実施例に記載したとおりに調製した油/水サブミクロンエマルジョンを、物理化学的な観点(サブミクロンエマルジョンのサイズおよび電気化学的電荷、さまざまな貯蔵条件下でのプロスタグランジンの化学的安定性、抗菌有効性)から特性決定した。得られたデータを、本明細書の以下の段落および表において報告する。
【0060】
[9.1]:本発明のサブミクロンエマルジョンの液滴の電気化学的な電荷測定
実施例1〜8および比較例Aに示したとおりに調製したサブミクロンエマルジョンの液滴のサイズおよび電気化学的電荷を、動的レーザー光散乱法(Malvern Instruments社、Zetasizer Nano ZS)によって測定した。
【0061】
ゼータ電位の測定は、Malvern Instruments Ltd社(英国)のZetasizer Nano ZSを使用して実施した。分析すべき試料(0.75 ml)を、気泡を避けるためにシリンジを用いて、電極に装着された折り畳まれたキャピラリーセル内に入れた。このセルを、装置に挿入し、自動測定シークエンスを開始させた。個々の測定結果が全て一緒に蓄積されて、最終的なゼータ電位結果を与えるために加算される。分析のために試料を希釈する必要はなく、したがって、試料の特性が人為的に変化する危険が全くなかった。
【0062】
データを表1に報告する。
【0063】
【表1】

【0064】
調製した全ての製剤は、均質な液体状分散物となり、相の分離または視認可能な大きい液滴が全く無かった。実際に、表1に報告したデータにより、少なくとも700 nm未満の液滴サイズを有するサブミクロンエマルジョンの形成が裏付けられている。電気化学的な電荷(ゼータ電位)の値は、いずれもおよそ0に等しく、界面剤として非イオン性界面活性剤を使用した結果としてほとんど中性の電荷を示していた。
【0065】
[9.2]:ランタノプロストの化学的安定性の試験
45℃、25℃、および4℃の貯蔵条件での安定性の試験を、実施例1のランタノプロストのサブミクロンエマルジョンについて実施した。
【0066】
試料をガラス容器に保存し、市販のラタノプロスト眼科用水性溶液(Xalatan(登録商標))を参照製品として用いた。45℃では、実施例1のサブミクロンエマルジョンを、ガラス瓶内だけでなく、2種類のプラスチックボトル内に入れた。
【0067】
Xalatan(登録商標)製剤は、単純な緩衝等張水溶液であり、以下の成分から製造されている:
ラタノプロスト(100 ml中0.005 g)
塩化ナトリウム
リン酸一水素ナトリウム
リン酸二水素ナトリウム、
ベンザルコニウムクロライド
注入可能物とするための水
【0068】
この組成物は、本発明のマイクロエマルジョンとは全く異なっている。オレイン酸エチルなどの油性成分が全く存在せず、ベンジルアルコニウムクロライドなどの強いカチオン性防腐剤が存在する。これに対して、本製剤は、Tween(登録商標)80およびTween(登録商標)20などの非イオン性界面活性剤だけを含む。
【0069】
ランタノプロスト含有量を、UV検出器を備えたHPLC(Aglientシリーズ1100)を使用し、2種の移動相の混合物を用いて測定した。下記表2a、2b、2cに報告したデータは、液体製剤1 ml当たりのランタノプロスト濃度で示した。
【0070】
【表2A】

【表2B】

【表2C】

【0071】
報告したデータは、市販されている水溶液であるXalatan(登録商標)との比較における本発明のサブミクロンエマルジョンの明らかにより高い安定性を実証している。25℃での非常に良好な安定性が特に興味深いことを強調する。25℃での良好な安定性は、低温条件の必要性を避けて室温貯蔵の表示を可能にする。さらに、表2cにおける45℃でのデータは、本発明のマイクロエマルジョンが、ガラス瓶内でもプラスチック容器内でもXalatan(登録商標)より大幅により安定であることを明らかにしている。
【0072】
このように、実施例1の製剤は、試験した条件下で、液体のままであり、均質であり、全く相分離しなかった。
【0073】
プロスタグランジンの化学的安定性に対するサブミクロンエマルジョンの油/水比の潜在的な影響を、本発明のサブミクロンエマルジョン(実施例1)の安定性と、比較例Aのサブミクロンエマルジョン(より希釈された油/水比においてのみ異なる実施例)とを比較することによって試験した。
【0074】
ランタノプロスト濃度は、既に記述したHPLC法で測定する。
【0075】
【表3】

【0076】
表3に報告したデータは、高い油/水比を有するエマルジョン(実施例1、油/水比=1/20)が、より低い油/水比を有するエマルジョン(比較例A、油/水比=1/40)より安定であることを明らかに示している。
【0077】
[9.3]:サブミクロンエマルジョンの物理化学的安定性
さまざまな温度で貯蔵した本発明の製剤を、レーザー光散乱(Malvern Zetasizer Nano ZS)によってその液滴サイズについて特性決定した。データを表4に報告する。
【0078】
【表4】

【0079】
表4のデータによって明らかに認められるように、本発明の眼科用プロスタグランジン製剤は、高温で長期間後でもサブミクロンサイズの液滴のを維持していた。
【0080】
[9.4]:サブミクロンエマルジョンの抗菌効果
眼科用製剤の場合、製剤の貯蔵中および使用中に微生物の混入が防止されることを明らかに示して、製剤の抗菌有効性を実証することが必須である。
【0081】
したがって、サブミクロエマルジョンの水性相中に、温和な非刺激性防腐剤であるクロロブタノールを組み入れた(実施例4)。この製剤を、イタリアの薬局方(11th edition, pp 533-534, 2002)の要件(ヨーロッパ薬局方に沿った要件)に従って試験した。この公的な試験は、試験下の製剤に、2種の細菌〔緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、ブドウ球菌(Staphylococcus aereus)〕および1種の菌〔カンジダ(Candida albicans)〕を、制御された濃度で接種することに基づいている。最高で1ヶ月までの予め定められた時点で、接種した製剤の分析十分量の試料の生存微生物数を分析した。データを以下の表5に報告する。
【0082】
【表5】

【0083】
表5に報告したデータは、試験したサブマイクロエマルジョンの非常に良好な抗菌有効性を示している。実際に、容認判定Aの公的な基準を満たしている。
【0084】
さらに、クロロブタノールを防腐剤として含有する本発明の製剤(実施例4)が、高温での長期保存後でも安定であることが明らかとなった。
【0085】
【表6】

【0086】
安定性は、9.2節で記述したとおりに、HPLC分析法によって試験した。
【0087】
[実施例10]:眼への刺激可能性の測定
本発明の油/水マイクロエマルジョン(ラタノプロストを含まないもの)を、眼への刺激可能性に関して試験した。再構成ヒト角膜上皮Skin Ethicモデル(RHCE)(Nguyen D. H., Beuerman R. W., De Wever B.およびRosdy M. 「Three-dimensional construct of the human corneal epithelium for in vitro toxicology.」、H. SalemおよびS. A. Katz, Editors, 「Alternative Toxicological Methods」, CRC Press (2003), pp. 147-159)を用いた。アッセイの原理は、試験物質への局所的な曝露後の、再構成されたヒト角膜上皮培養物における細胞毒性を、MTT(3-[4,5-ジメチルチアゾール-2-イル]-2,5-ジフェニル-テトラゾリウムブロマイド)比色還元アッセイによって測定することに基づいている。
【0088】
試験物質を、60分の曝露期間および16時間の曝露後のインキュベーション期間経過後に、以下の予想モデルにしたがうMTT生存分析に基づいて分類した。
【0089】
i) 試験物質は、組織の生存率が50%より高い場合には、眼に対して非刺激性であると判断される。
ii) 試験物質は、組織の生存率が50%以下である場合には、眼に対して刺激性であると判断される。
【0090】
陰性対照組織と比較して、試験物質で処理した組織の相対的なMTT生存率は、60分の曝露期間および16時間の曝露後のインキュベーション期間経過後に、104.3%であった。
【0091】
結論として、試験条件下では、試験物質は非刺激性であると判断された。
【0092】
[実施例11]:in vivo試験
本発明の油/水マイクロエマルジョン(ラタノプロストを含まないもの)を、眼への刺激可能性に関して、in vivoのウサギ試験モデルで試験した。この試験は、3匹のニュージーランド白ウサギについて実施した。単回の適用で、0.1 mlのマイクロエマルジョンを適用し、その後1日後、2日後、および3日後に数値化を行った。試験方法は、ISO 10993-1: 2003、ISO 10993-10: 2002、およびISO 10993-12: 2007に従った。眼への刺激性スコアの値を、表7に示す。
【0093】
【表7】

【0094】
マイクロエマルジョンは、適用後にわずかな刺激効果をもたらし、滴下後24時間以内に十分に回復可能であるということができる。これらの結果に基づいて、本マイクロエマルジョンは、眼への刺激性がないと判断することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分:
(i) 油性分散相、
(ii) 油性相成分(i)中に溶解された、活性剤としての少なくとも1種のプロスタグランジン、
(iii) 少なくとも2種の非イオン性界面活性剤の組合せを含む界面活性剤、および
(iv) 場合により製剤成分を含んでいてもよい水性連続相、
を含み、実質的に中性のゼータ電位を有する、眼科用途のための水中油型エマルジョン。
【請求項2】
油性相(i)が、前記エマルジョンの総質量に基づいて少なくとも5質量%の量で存在する、請求項1に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項3】
油性相成分(i)が、医薬品として許容可能な油、例えば、動物油、植物油、合成油、およびこれらの混合物などから選択される、請求項1または2に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項4】
油性相成分(i)が、オレイン酸エチル、C〜C10脂肪酸トリグリセリドの混合物、ヒマシ油、コーン油、またはこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項5】
プロスタグランジン成分(ii) の油性相(i)への溶解度が、少なくとも0.1 mg/mlである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項6】
プロスタグランジン成分(ii) の油性相(i)への溶解度が、少なくとも10 mg/mlである、請求項5に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項7】
プロスタグランジン成分(ii)の油/水の分配係数logPが、少なくとも0.5であり、油性相(i)に多く分配される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項8】
プロスタグランジン成分(ii)の油/水の分配係数logPが、少なくとも2であり、油性相(i) に多く分配される、請求項7に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項9】
プロスタグランジン成分(ii)が、プロスタグランジンF2α類似体である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項10】
プロスタグランジン成分(ii)が、ラタノプロスト、トラボプロスト、ビマトプロスト、およびウノプロストン、ならびにこれらの2種以上の混合物からなる群から選択される、請求項9に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項11】
前記プロスタグランジン成分(ii)がラタノプロストである、請求項10に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項12】
界面活性剤成分(iii)の前記少なくとも2種の非イオン性界面活性剤が、親油性非イオン性界面活性剤、親水性非イオン性界面活性剤、またはこれらの組合せから選択される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項13】
界面活性剤成分(iii)の前記非イオン性界面活性剤の組み合わされた総HLB値が、少なくとも10、好ましくは少なくとも13であり、かつ好ましくは最高で18までである、請求項1〜12のいずれか一項に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項14】
界面活性剤成分(iii)の前記少なくとも2種の界面活性剤が、自己エマルジョン化を促進する量で存在する、請求項1〜13のいずれか一項に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項15】
界面活性剤成分(iii)の前記非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(Tween 80(登録商標))、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween 20(登録商標))、ポリオキシエチレン(2)セチルエーテル(Brij 52(登録商標))、ポリオキシエチレン(10)セチルエーテル(Brij 56(登録商標))、およびポリオキシエチレン(20)セチルエーテル(Brij 58(登録商標))からなる群から選択される、請求項1〜14のいずれか一項に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項16】
界面活性剤成分(iii)の前記非イオン性界面活性剤の組合せが、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(Tween 80(登録商標))とポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween 20(登録商標))との組合せ、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(Tween 80(登録商標))とポリオキシル(2)セチルエーテル(Brij 52(登録商標))との組合せ、ポリオキシル(2)セチルエーテル(Brij 52(登録商標))とポリオキシル(20)セチルエーテル(Brij 58(登録商標))との組合せ、およびポリオキシル(20)セチルエーテル(Brij 58(登録商標))とポリオキシル(10)セチルエーテル(Brij 56(登録商標))との組合せから選択される、請求項15に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項17】
水性相成分(iv)が、医薬品として許容可能な水性相、好ましくは滅菌水、精製水、または眼科用途に適切な任意の他の種類の水からなる群から選択される水性相である、請求項1〜16のいずれか一項に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項18】
水性相成分(iv)が、場合によりさらなる添加剤、例えば、緩衝剤、等張剤、増粘化合物、抗菌性防腐剤、抗酸化剤、安定剤などを含んでいてもよい、請求項1〜17のいずれか一項に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項19】
前記抗菌性防腐剤がクロロブタノールである、請求項18に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項20】
-10 mV〜+10 mV、好ましくは-4 mV〜+4 mVのゼータ電位を有する、請求項1〜19のいずれか一項に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項21】
前記油の液滴の平均サイズが1μm未満であるマイクロエマルジョンである、請求項1〜20のいずれか一項に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項22】
前記エマルジョンの油性液滴の平均液滴サイズが700 nm以下である、請求項1〜21のいずれか一項に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項23】
25℃にて少なくとも6ヶ月間、好ましくは少なくとも9ヶ月間、より好ましくは少なくとも12ヶ月間安定である、請求項1〜22のいずれか一項に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項24】
成分(i)から成分(iv)が、エマルジョンの総質量に基づいて、以下の量:
(i) 5.0質量%〜20.0質量%の油性相、
(ii) 0.001質量%〜5.0質量%のプロスタグランジン活性剤、
(iii) 0.1質量%〜10.0質量%の第一の非イオン性界面活性剤および0.1質量%〜10.0質量%の第二の非イオン性界面活性剤、
(iv) 50.0質量%〜95.0質量%の水性相、
で存在する、請求項1〜23のいずれか一項に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項25】
前記エマルジョンが、共界面活性剤成分を含まない、特に、短鎖アルコール、モノカルボン酸、陽イオン性および/または陰イオン性界面活性剤、ならびに、レシチンおよび/またはリン脂質から選択される共界面活性剤成分を含まない、請求項1〜24のいずれか一項に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項26】
緑内障および/または高眼圧症の予防、緩和、および/または治療のための、眼科用製剤として使用するための、請求項1〜25のいずれか一項に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項27】
請求項1〜26のいずれか一項に記載の水中油型エマルジョンの製造方法であって、
(a) 場合により、製剤成分を前記水性相に溶解させる工程、
(b) 第一の非イオン性界面活性剤を前記水性相または前記油性相のいずれかに溶解させる工程、
(c) 第二の非イオン性界面活性剤を、前記水性相または前記油性相のいずれかに溶解させる工程、
(d) 前記プロスタグランジン活性剤を前記油性相に溶解させる工程、および
(e) 前記油性相と前記水性相とを混合する工程
を含む、方法。
【請求項28】
混合工程(e)を、高エネルギー剪断プロセス、例えば、高圧ホモジナイゼーションまたは音波処理(sonication)などを用いないで行う、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
水中油型エマルジョンが、混合工程(e)において自然発生的に形成される、請求項27または請求項28に記載の方法。
【請求項30】
混合工程(e)を、高エネルギー剪断プロセス、例えば、高圧ホモジナイゼーションまたは音波処理(sonication)などを用いて行う、請求項27に記載の方法。

【公表番号】特表2010−524992(P2010−524992A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504543(P2010−504543)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際出願番号】PCT/EP2008/003317
【国際公開番号】WO2008/128779
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(509294449)アザト・ファルマ・アーゲー (2)
【Fターム(参考)】