説明

プロセスチーズ類とその製造方法及び製造装置

【課題】安定剤やゲル化剤等の添加剤や発泡、膨化技術等利用しないで、食感が非常に軽く、ねちゃつきが少なく、且つ不快なざらつき感も少ない新規な食感の硬質プロセスチーズ類、及びその製法の提供。
【解決手段】直径が10μmから800μmの気泡を硬質プロセスチーズ類に対する体積比率で10%以上、且つ25%未満含有する硬質プロセスチーズ類、及びチーズ原料を乳化するための乳化工程と、前記乳化されたチーズ原料の粘度を測定する粘度測定工程と、前記粘度測定結果から温度制御工程によりチーズ原料の粘度を100±30ポアズにする物性調整工程と、前記乳化されたチーズ原料を定量供給する工程と、前記定量供給する工程から定量供給されたチーズ原料に気泡を含有させる含気工程を有する硬質プロセスチーズ類の製法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来のハードタイプのプロセスチーズとは異なった、喫食時における食感が非常に軽くて、ねちゃつきが少なく、且つ不快なざらつき感も少ない良好な食感を呈する硬質プロセスチーズ類に関する。
【背景技術】
【0002】
プロセスチーズは、カルシウムやビタミン等の各種栄養素をバランスよく含んだ栄養食品であると同時に、そのおいしさも大きな魅力であり、嗜好性の高い食品として広く消費者に親しまれている。一般的にプロセスチーズは、複数の原料ナチュラルチーズに所定量の水や溶融塩等を加え、これを少なくとも80℃以上の温度まで加熱溶融して乳化したのち、プラスチックフィルムやプラスチック成形容器、アルミ箔等の包装材料を用いて成型・包装され、冷却されて製品となる。
【0003】
このようにして製造されるプロセスチーズは、喫食時には固形状であり、直接手に持って食したり、他の食品の間に挟んだりして食されることが多い。このような喫食時に固形状であるプロセスチーズを一般的にハードタイプのプロセスチーズと呼んでいる。上述のとおり、プロセスチーズは製造時に加熱溶融、乳化工程を有することから、得られるチーズの組織は緻密で均一なものとなる。このため、従来のハードタイプのプロセスチーズは、直接喫食すると非常に重い食感であり、ねちゃつきや口溶けの悪さを感じさせるものが多かった。
【0004】
一方、食品産業の分野では、軽い食感や滑らかさの付与、あるいは全く新規な食感の創造を目的に、一定量の気体を食品中に含気させる、いわゆる含気処理が広く一般的に行われている。例えば、アイスクリームやムース、エアインチョコ等はその代表的な食品であり、いずれも含気処理することにより軽く、ソフトな食感を発現させている。
【0005】
チーズの分野においても種々の含気処理に関する提案がなされている。プロセスチーズには、例えばプロセスクリームチーズのように、製造時に成形容器に充填され、喫食時にペースト状で、一般的にパンやクラッカー等他の食材に塗りつけて食するタイプのものもある。このようなチーズは一般的に柔らかく、力を加えると流動性があり、ソフトタイプのプロセスチーズと呼ばれている。このソフトタイプのプロセスチーズでは、例えば含気プロセスクリームチーズのように含気処理を施したものが市販されている。これは、クリームチーズは水分が高く、適度の流動性と粘性があり、一般的なホイッピング装置等により比較的容易に含気処理をなしえることによる。ここでいう一般的なホイッピング装置とは、食品に気体を含有させる専用の撹拌・混合装置を指す。当該装置の撹拌・混合部(含気装置)は、多数の櫛状の羽根を持つ回転体(ローター)と、内壁に櫛状の羽根を固定した容器(ステーター)から構成され、ここに対象とする液体状食品と、一定比率の気体を導入し、これらを高速で撹拌・混合して含気処理を行うものである。
【0006】
一方、ハードタイプのプロセスチーズの含気処理に関しては、報告は非常に少なく、市場でも製品化された例はない。特許文献1には、ゲル化剤としてネイティブジェランガムを添加することにより撹拌時に気泡が固定化されたプロセスチーズが提案されている。また、特許文献2には、安定剤を添加して溶融したチーズに不活性ガスを通気し、高速撹拌及び冷却させて含気構造を形成させる方法が提案されている。更に、特許文献3には、チーズ類と水溶性高分子物の混合物又はそれに起泡剤を混在させて、成形した含気泡チーズ類加工食品の製造方法が提案されている。
【0007】
また、チーズ中に多量の気体を含気させる方法として、特許文献4〜6には、一度チーズ中に導入した気泡を真空発泡させたり膨化させたりする方法が提案されている。さらに、特許文献7には、チーズと窒素ガスを混合、混練、圧縮しながら押出成形するチーズの膨化方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4340029号公報
【特許文献2】特開平2−92238号公報
【特許文献3】特開昭62−143636号公報
【特許文献4】特公平1−30464号公報
【特許文献5】特開平4−11836号公報
【特許文献6】特開平5−137505号公報
【特許文献7】特開平1−291748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1〜3は、安定剤やゲル化剤等の添加物を用いて物性を変化させたものであり、このような安定剤やゲル化剤等の添加物を使用する含気プロセスチーズの場合は、安定剤やゲル化剤の作用を用いてチーズ中に気泡を分散させて保持するが、ねちゃつきや口溶けの悪さが生じてしまい、プロセスチーズとしては不快な食感となっていた。同時にチーズ自体の食感や風味を大きく変化させるため、本来のプロセスチーズの風味や食感は著しく損なわれてしまうという欠点があった。
【0010】
また、上記特許文献4〜7に記載の技術を利用して含気量を高めたチーズは、含有される気泡の多くが直径800μm以上の大きさに膨張することから組織が粗くなってしまい、ザラザラもしくはボソボソとしたスナック様の、プロセスチーズとはいい難い食感になってしまう。このため、このような方法で製造されたチーズを含気プロセスチーズとして従来のプロセスチーズの範疇で販売することは困難であった。以上のとおり、通常の硬質プロセスチーズそのままの風味や食感をもつ含気処理を行った製品は商品化されていない。
【0011】
本発明は、上記従来の提案とは異なり、安定剤やゲル化剤を使用せず、また、真空発泡や膨化による含気率の過剰な増大を行わない、本物志向の新しいプロセスチーズ類の開発として硬質プロセスチーズ類の含気を目的とする。
【0012】
硬質プロセスチーズ類に対して、含気処理を行った製品が見られない理由は、その実現の技術的困難性にあると考えられる。即ち、通常のハードタイプのプロセスチーズ製造の乳化処理によって得られる溶融プロセスチーズは、粘性が非常に高く、クリームチーズ等に一般的に用いられるようなホイッピング装置で含気処理を行っても、気泡を含有させることは極めて困難で、且つ温度も高いため含有した気泡が膨張して容易に散逸してしまう。溶融チーズ中に気泡を取り込み、保持するには、一定の粘性や付着性、表面張力等の物性が必要であるが、中でも粘性は特に重要である。水のような低粘性では含気処理を行っても、すぐに気泡が重力によって浮上し散逸してしまうし、スラリーや粘度のような高粘性、あるいは塑性流体では気体を取り込ませること自体が難しく、このような装置で溶融チーズ中に気泡を含気させることは極めて困難である。
【0013】
一定量の気泡を含有させて形成する硬質プロセスチーズ類は、エアインチョコやマシュマロ等他の含気食品でもみられるように物理的に非常に軽い食感となり、喫食時における胃もたれ、腹もたれ感を抑制する効果が期待される。
【0014】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであって、安定剤やゲル化剤等の添加剤を用いず、また、発泡や膨化処理による過剰な含気率の増大を行わない条件下で、一定量の気体を含気させて、食感が非常に軽く、ねちゃつきが少なく、且つ不快なざらつき感も少ない新規な食感を呈する硬質プロセスチーズ類を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
したがって、本発明は、下記のいずれかの構成からなる発明である。
(1)直径が10μmから800μmの気泡を硬質プロセスチーズ類に対する体積比率で10%以上、且つ25%未満含有する硬質プロセスチーズ類。
(2)前記気泡の含有率が15%以上、且つ25%未満である上記(1)に記載の硬質プロセスチーズ類。
(3)増粘剤及び/又はゲル化剤を使用しない上記(1)又は(2)に記載の硬質プロセスチーズ類。
(4)チーズ原料を乳化するための乳化工程と、前記乳化されたチーズ原料の粘度を測定する粘度測定工程と、前記粘度測定結果から温度制御工程によりチーズ原料の粘度を100±30ポアズにする物性調整工程と、前記乳化されたチーズ原料を定量供給する工程と、前記定量供給する工程から定量供給されたチーズ原料に気泡を含有させる含気工程を有する硬質プロセスチーズ類の製造方法。
(5)前記チーズ原料の粘度を100±30ポアズに調整する物性調整工程として、排気工程を有する上記(4)に記載の硬質プロセスチーズ類の製造方法。
(6)チーズ原料を乳化するための乳化手段、前記乳化されたチーズ原料の粘度を測定する粘度測定手段、前記粘度測定手段からの出力に基づいて前記乳化されたチーズ原料の粘度を制御する物性調整手段、前記乳化されたチーズ原料を定量供給する手段、前記定量供給する手段から定量供給されたチーズ原料に気泡を含有させる含気手段を有する硬質プロセスチーズ類の製造装置。
(7)前記チーズ原料の粘度を制御する物性調整手段として温度制御手段及び/又は排気手段を有する上記(6)に記載の硬質プロセスチーズ類の製造装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明の硬質プロセスチーズ類は、喫食時の食感が非常に軽く、ねちゃつきが少なく、且つ不快なざらつきの少ない良好な食感を呈する硬質プロセスチーズ類を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による硬質プロセスチーズ類の製造装置図。
【図2】発明品2の粒径分布を示す図。
【図3】発明品3の粒径分布を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明において、プロセスチーズ類とは、複数の原料ナチュラルチーズに所定量の水や溶融塩等を加え、これを少なくとも80℃以上の温度まで加熱溶融して乳化したのち、プラスチックフィルムやプラスチック成形容器、アルミ箔等の包装材料を用いて成型・包装され、冷却されて製品となったプロセスチーズ、コールドパックと呼ばれる方法によるプロセスチーズ、チーズフード、乳等を主要原料とする食品等を意味する。このようにして製造されるプロセスチーズ類は、喫食時には固形状であり、直接手に持って食したり、他の食品の間に挟んだりして食されることが多い。本発明でいう硬質プロセスチーズ類とは、このハードタイプのプロセスチーズ類を意味する。
【0019】
予備試験によれば、1辺が10mmの立方体に切り出した硬質プロセスチーズ類試料の最大応力が0.6kgf未満になると、食感が柔らかすぎ、また、手に持ったときの付着性が発生して、不快な状態を呈することが確認された。そこで、硬質プロセスチーズ類の定量的な定義として、本発明では、1辺が10mmの立方体に切り出したプロセスチーズ試料を、5℃で80%の垂直圧縮(2mmまで圧縮)したときの最大応力が0.6kgf以上であるプロセスチーズ類と定義する(以下、この試験方法をTP試験という)。
【0020】
一方、プロセスチーズ類には、例えばプロセスクリームチーズのように、製造時に成形容器に充填され、喫食時にペースト状で、一般的にパンやクラッカー等他の食材に塗りつけて食するタイプのものもある。このようなチーズは一般的に柔らかく、力を加えると流動性があり、ソフトタイプのプロセスチーズと呼ばれている。本発明は、このソフトタイプのプロセスチーズには関していない。
【0021】
本発明の硬質プロセスチーズ類の原料用チーズとしては、ゴーダ、チェダー、エメンタール等の硬質ナチュラルチーズ及びクリーム、カッテージ、カマンベール等の軟質ナチュラルチーズ等の中から、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、溶融塩としては、通常のプロセスチーズ類と同じく、クエン酸塩及びリン酸塩の1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの溶融塩は、原料チーズに対し、0.5〜3.0重量%添加するとよい。また、本発明では目的とする最終製品に合わせ、風味等を付与する目的で調味料、着色剤等を適量添加してもよく、また、pHを調整する目的で重炭酸ナトリウムや乳酸等を適量添加してもよい。
本発明は、安定剤やゲル化剤等の添加物を使用しない条件下で、通常の硬質プロセスチーズ類を得ることができる。なお、本発明における安定剤やゲル化剤とは一般的に用いられているものをいう。
【0022】
硬質プロセスチーズ類の製造において、加熱溶融については常法に従って行えばよく、例えば、ケトル型乳化機、高速剪断乳化機、ダブルスパイラルクッカー、サーモシリンダー式乳化機等、プロセスチーズの乳化に一般に用いられる装置を使用可能である。
【0023】
本発明者らは、食品に含気するには、含気時におけるその粘性が重要な因子であるため、まずこの点に着目して検討した。その結果、硬質プロセスチーズ類の含気に関与する二つの大きな因子を発見した。
【0024】
一つは、乳化直後の見かけ粘度(以下、粘度という)の受容範囲である。本発明者らが広範な条件にて行った実験の結果、本発明の製造実現に必要な溶融チーズの粘度範囲は100±30ポアズ、好ましくは100±20ポアズであり、許容範囲が非常に狭く、且つ高い精度を要することが判明した。このような高精度の粘度管理は、従来の乳化の管理では難しく、通常の製造工程では目標値に対して±50ポアズ程度の誤差は容易に発生する場合が多い。そこで、本発明者らは、装置の構造や原材料等、個々の因子の管理水準を見直して高精度化を試みた。その結果、安定的な含気処理を可能にする、高精度の溶融チーズの粘度管理を実現した。
【0025】
もう一つの因子は、含気処理時における溶融チーズの粘度変化である。一般にプロセスチーズは乳化後の溶融状態で撹拌処理を行うと、業界でクリーミング作用と呼ばれる増粘作用が発現する。溶融中に気体を分散させるため強力に撹拌を行うと、このクリーミング作用が発現して粘度が増大し、含気できない状態となった。一方、高速撹拌時には摩擦による発熱も相当あり、この発熱による溶融チーズの温度上昇に伴って粘度が低下することも安定的な含気を阻害する要因となった。そこで、本発明者らは、クリーミング作用の発現を抑制するために原料チーズの熟度や溶融塩量を調整し、同時に撹拌速度の最適化や含気処理装置のジャケット化による溶融チーズの温度制御も合わせて実施することにより、この課題を解決できた。
【0026】
以上のような、原材料から装置構成、運転条件に渡る多数の繊細な手段を包括的に同時に実施することにより、最終的に本発明が提供する安定剤やゲル化剤を使用せず、また、真空発泡や膨化による含気率の過剰な増大を行わない条件下で、食感が軽く、ねちゃつきが少なく、且つ不快なざらつきの少ない良好な食感を呈する硬質プロセスチーズ類を実現するに至った。
乳化したチーズの粘度調整は、温度制御や真空による減圧装置等によって行うことができる。このような物性調整機構は乳化装置と一体化させたり、また別装置として分離することもできる。
【0027】
本発明の製造においては、溶融チーズ中への含気にホイッピング装置のような撹拌・混合装置を用いることができる。また、目標とする最終製品の含気率に合わせて、ホイッピング装置への供給チーズ量と供給ガス量の比率を任意に調整することができる。但し、供給ガス量の比率を高め過ぎ、供給ガスが含気装置内の上部に気体のみの空間をつくる状態は好ましくない。含気装置出口に背圧をかけて装置内の気体体積を収縮させたり、供給チーズ量と供給ガス量の比率を適正に調整したりすることで、装置内の気体のみの空間形成を防止し、本発明の硬質プロセスチーズ類を得ることができる。
【0028】
ホイッピング装置で含気処理を行う際には、気体を分散させるために高速撹拌を行うが、撹拌力が強いと溶融チーズのクリーミング作用が高まり、溶融チーズの粘度が上昇する。一方で、高速撹拌の摩擦による発熱が大きいと、溶融チーズ温度が上昇することで溶融チーズ粘度は低下し、本発明の製造を実現しうる粘度範囲の100±30ポアズから外れてしまう。このため、ホイッピング装置のローターの回転速度を最適化すると共に含気装置のジャケット温度制御を行い、溶融チーズの粘度を適正に管理することにより、本発明の硬質プロセスチーズ類を得ることができる。例えば、熟度(STN/TN比)25〜30%のチーズを原料チーズとして用いる場合、撹拌速度を100〜400rpmに調整し、ホイッピング装置へ供給する乳化チーズ温度を70〜75℃の範囲で制御することによりチーズ粘度範囲を100±30ポアズに維持して含気を行うことが可能となり、本発明の硬質プロセスチーズ類を得ることができる。ここで熟度とは、ナチュラルチーズの熟成度合いを示す指標であり、チーズ中に含まれる全窒素(TN)に対する可溶性窒素(STN)の割合で表される値である。
【0029】
本発明の製造において含気処理を行う装置は、上述の含気専用のホイッピング装置に限定されるものではない。例えば、原材料をケトル型乳化機で撹拌しながら加熱溶融し、乳化機のジャケット温度や撹拌速度を制御して溶融チーズの粘度を100±30ポアズに維持しながら撹拌を継続し、乳化機内のヘッドスペース中の気体を溶融チーズに取り込むことによって含気チーズを製造することができる。チーズ中に気泡を含気させるには、乳化機内のヘッドスペースガスを窒素ガスのような不活性ガスに置換すればよい。この場合、撹拌羽根の下部は溶融チーズ中に、上部は含気させる気体で充満させた釜のヘッドスペース中にあるように配置して羽根を水平面内で回転させると、羽根の後流部の液面のくぼみから気体が自然に取り込まれる、いわゆる自然含気も本発明に用いることが可能である。実用上は、前者は連続系であり、後者はバッチ系、あるいは半バッチ系であり、製造工程の要求に応じて選択が可能である。
こうして得られた溶融含気チーズを適当な容器に充填して十分冷却することにより、本発明の硬質プロセスチーズ類を得ることができる。含気させるのに用いる不活性ガスは、食品に無害なガスならば如何なるものでもよく、窒素ガス、二酸化炭素ガス、空気、及びこれらの混合物が例示できるが、なかでも窒素ガスが簡便で好ましい。
【0030】
喫食時において非常に軽い食感を実現するのに必要な気泡の含有率を調べるため検討したところ、気泡の含有率が体積比率で10%以上であると明らかに食感の軽さを感じられることが分かった。本発明の硬質プロセスチーズ類は、チーズ中に体積比率で少なくとも10%以上、好ましくは15%以上気泡を含有する。これによって、従来のプロセスチーズ類にはない、軽く、ねちゃつきのない食感を実現する。一方、気泡の含有率が25%を超えると、食感の軽さは高まるものの、ざらざら、ぼそぼそとした口溶けの悪い不快な食感が強まるため好ましくない。また、気泡の含有率が25%を越えると冷却後の保形性が悪くなり、硬質プロセスチーズ類と認知されうる範疇から逸脱してしまうため、本発明の目標とするところではない。このため、本発明の硬質プロセスチーズ類は、体積比率で10%以上、且つ25%未満の気泡を含有し、さらに好ましくは15%以上、且つ25%未満の気泡を含有する。
含有する気泡の調整は、含気工程にて供給するガス量を質量流量計で制御し、乳化したチーズとの混合比を適宜変更しながら含気率を調整することができる。
例えば含気率を15%にする場合は、含気装置に導入される溶融プロセスチーズに対する体積比率で15〜18%となるように気体流量を圧力制御装置等により調整する。なお、この時の体積は、標準状態に換算した時の気体の体積である。
【0031】
本発明の硬質プロセスチーズ類は、直径が10から800μmの気泡を含有する。含気処理に真空発泡技術や膨化技術を活用すると、気泡含有率の高いチーズを得ることができるが、こうして得られたチーズは直径が800μmを超える気泡径を多数含有するため、チーズの組織が荒くなり、ザラザラもしくはボソボソとしたスナック菓子様の、プロセスチーズとはいい難い食感になってしまうため好ましくない。また、直径が10μm未満の気泡は喫食時の食感にほとんど影響しないと考えられる。このため、本発明の硬質プロセスチーズ類に含有される気泡の直径は10から800μmの範囲である。
気泡の大きさを調整する方法としては、撹拌速度を変化させることにより調整することができる。すなわち、既に述べたクリーミング効果による悪影響が少ない範囲で回転数を上げると、気泡の大きさを小さくする効果がある。例えば、実施例1で使用したホイッピング装置(Trefa社、T−50)においては、回転速度を200〜300rpmにすることにより、気泡直径を10から800μmにすることができる。
上述するように、乳化後の粘度や含有させる気泡の大きさを調整することにより、ねちゃつきが少なく、且つ滑らかな食感を呈する硬質プロセスチーズ類を提供できる。例えば、乳化後の粘度が低すぎた場合には気泡をチーズ中に保持することができずに、気泡が浮いてしまいチーズから抜け出てしまう。また、例えば1000μm程度の大きい気泡の場合では、気泡が浮いてしまいチーズから気泡が抜け出てしまう。つまり、乳化後の粘度や含有させる気泡の大きさを調整することによって目的量の気泡を含有させたプロセスチーズ類を調製することができる。
直径の測定は、凍結したチーズの割断面を、解凍後メチレンブルーで染色し、これをレーザ顕微鏡で観察することにより行った。
【0032】
また、本発明は、チーズ原料を混合する工程と、前記混合した原料を乳化して乳化後の粘度を100±30ポアズに調整する工程と、前記乳化したチーズ原料に窒素ガスを供給する含気工程を有する硬質プロセスチーズの製造方法及び製造装置にも関する。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例により更に詳しく説明するが、本発明の範囲はこれら実施例の範囲に限定されるものではない。尚、実施例における「含気率の測定」、「官能評価」、は、下記の方法に従った。
【0034】
[含気率の測定]
実施例で得られたチーズを20mm角の立方体に切り出し、電子天秤を用いて水中における比重を測定した。測定した比重値から下記式により含気率(チーズ中に取り込まれた気泡のチーズ体積比)を求めた。

なお、含気率の測定方法であるが、レーザ顕微鏡を用いて求めることもできる。例えば、凍結したプロセスチーズ類の割断面を、解凍後メチレンブルーで染色し、これをレーザ顕微鏡で観察して、染色されている部分と染色されていない部分の割合を求めることによって、プロセスチーズ類中に含有する気体の割合を測定して含気率を求めた。このようにして求めた含気率は、観察する視野を十分に広く取ることにより、上述の比重を用いる含気率計測法による値と一致した。
【0035】
[官能評価]
チーズを食したときの食感の軽さ、口溶け感、ねちゃつき感、ざらざらした食感の4項目について専門パネラーによる評価を行った。市販の硬質プロセスチーズ(商品名:「雪印乳業6Pチーズ」、製造元:雪印乳業株式会社)を比較例1とし、それぞれの項目について下記の評価尺度を用いて評価を行った。
【0036】
食感の軽さ
[評価の尺度] [評点]
非常に軽い ◎
軽い ○
やや軽い △
軽さを感じない ×
【0037】
口溶け感
[評価の尺度] [評点]
口溶けがよい ○
やや口溶けがよい △
口溶けが悪い ×
【0038】
ねちゃつき感
[評価の尺度] [評点]
ねちゃつきが少ない ○
ややねちゃつく △
非常にねちゃつく ×
【0039】
ざらつき感
[評価の尺度] [評点]
ざらつきを感じない ○
ややざらつきを感じる △
非常にざらつきを感じる ×
【0040】
[実施例1]
本発明の一実施態様である硬質プロセスチーズ類の製造装置を図1に示した。以下、図1に基づいて説明する。
熟度24.8%のニュージーランド製のチェダーチーズ10kg及び熟度29.2%の雪印乳業(株)製のゴーダチーズ10kgを粉砕して混合した。粉砕したチーズ原料、リン酸ナトリウムを主成分とする溶融塩を345g、重炭酸ナトリウムを60g、水を1830gを乳化装置(1)に加え、蒸気を吹き込みながら撹拌し、87℃の温度まで昇温して乳化した。乳化したチーズ原料を物性調整装置(3)に送液し、溶融したチーズ原料の粘度を粘度計(ビスコテスター(VT−04F、RION社製))(2)を用いて測定したところ、このときの溶融チーズ原料の粘度は25ポアズであった。温度制御装置(4)や真空排気装置(6)によりチーズ原料の粘度を100±30ポアズに調整した。この溶融チーズ原料を定量供給装置(5)にて50kg/hの流量で含気装置(Trefa社、T−50)(9)に送液した。含気装置はジャケット(温度制御装置(10))により温度が管理されており、含気装置を流れるチーズの温度及び粘度が大きく変動しないように温度を70〜75℃の範囲で調整した。圧力制御装置(7)、質量流量計(8)を用いて目標とする最終製品の含気率に合わせてガス供給量を適宜調節した。図示はしなかったが、含気装置の出口には背圧制御装置を配し、供給した窒素ガスにより含気装置内に気体(ガス)のみの空間が形成されないよう背圧を調節した。なお、溶融チーズ原料を粘度25ポアズのまま粘度調整を行わずに含気装置に送液したところ、チーズ中に混合した気泡が浮力によりその大半が浮上することから粘度調整を行ったときのような含気は認められず、最大でも得られるチーズの含気率は5%程度であった。また、含気装置における温度管理を行わずに100±30ポアズに調整した溶融チーズ原料を送液したところ、撹拌部におけるチーズ粘度が70ポアズを大きく下回る状態となり、同じくほとんど含気することはできなかった。
試作品1は窒素ガスを供給せず撹拌のみ行い、試作品2は5%、試作品3は30%、発明品1〜4はそれぞれ10%、15%、20%、25%と目標とする気体含有率となるように窒素ガス供給量を調整した。含気装置から吐出した溶融チーズを400g容量のカルトン容器に充填し、速やかに5℃冷蔵庫に保管した。3日間十分冷却した後、含気率測定及び官能評価を行った。また、得られた発明品のTP試験結果は、それぞれ、1.65(発明品1)、1.37(発明品2)、1.18(発明品3)、1.10(発明品4)(単位はkgf)であり、含気率の増加に伴って、柔らかくなる傾向が見られたが、硬質プロセスチーズの下限値0.6kgfよりは十分高く、プロセスチーズ特有の硬さを有していた。
【0041】
【表1】

【0042】
結果を表1に示した。
表1に示す結果から明らかであるように、含気していない試作品1は、市販の一般的な硬質プロセスチーズである比較例1と同様の食感であったのに対し、含気したものは著しい食感の変化が認められた。試作品2のように含気率が10%に満たないと食感の軽さはわずかに感じられる程度であるが、含気率が10%を超えるとはっきりと食感の軽さが感じられ、特に含気率が15%を超える発明品2、3、4及び試作品3は非常に軽い食感と評価された。また、口溶け感や、ねちゃつき感は比較的少量の含気率でも大幅な改善が認められたが、30%程度まで含気率を高めた試作品3は口溶け感の低下やねちゃつき感の増加が認められた。また、含気率が25%程度まで上昇すると、ややざらつき感を感じるようになり、更に含気率が高まると、ぼそぼそとした食感が強くなり、ざらつき感をより強く感じるため、好ましくなかった。
【0043】
また、試作品2、3、発明品1〜4を凍結し、その割断面を解凍後、メチレンブルー液で染色し、これをレーザー顕微鏡で観察することにより、含有する気泡の粒径分布を測定した。その結果、いずれの試作品、発明品においても得られた粒径分布は10μmから800μmの範囲に広がる非対称分布で、平均粒径の250μm付近に最大値を持つ分布を示した。発明品2及び発明品3に関する結果を図2と図3に示した。
【0044】
[実施例2]
表2に示す配合の原材料を5kg容量のケトル型乳化釜に入れ、100rpmで撹拌しながらジャケット加温により85℃まで加熱溶融した。そのまま撹拌を継続しながら釜内を500mmHgで減圧脱気した後、釜内に窒素ガスを供給して、釜内のヘッドスペースガスを窒素ガスに置換した。ジャケット温度制御により溶融チーズ温度を70〜75℃に管理して溶融チーズ粘度を100±30ポアズの範囲に保ちながら、150rpmの撹拌速度で10分間撹拌して含気操作を行った結果、溶融したチーズ粘度を粘度計(ビスコテスター(VT−04F、RION社製)を用いて測定したところ、このときの溶融チーズの粘度は110ポアズであった。含気操作中も釜内には窒素ガスを供給し続けた。含気された溶融チーズを400g容量のカルトン容器に充填し、速やかに5℃冷蔵庫に保管して発明品5を調製した。また、含気操作後、そのまま撹拌を継続しながら釜内を500mmHgで減圧し、溶融チーズ中の気泡を脱気したものを400g容量のカルトン容器に充填し、速やかに5℃冷蔵庫に保管して比較例2を調製した。3日間十分冷却した後、それぞれ含気率測定及び官能評価を行った。その結果を表3に示した。
【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
表3に示すように、チーズ中の気泡を脱気した比較例2は従来のプロセスチーズと同様、重い食感であり、ねちゃつき感が強く感じられた。一方、本実施例で製造した発明品5の含気プロセスチーズは非常に軽い食感であり、口溶け感やねちゃつき感も良好で、ざらつき感もない良好な食感であった。
【0048】
また、発明品5を凍結し、その割断面を解凍後、メチレンブルー液で染色し、これをレーザー顕微鏡で観察することにより、含有する気泡の粒径分布を測定した。その結果、発明品5は実施例1の発明品と同様の気泡径分布を有しており、含有される気泡径は10μmから800μmの範囲に分布していた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
喫食時の食感が非常に軽く、ねちゃつきが少なく、且つ不快なざらつきの少ない良好な食感を呈する硬質プロセスチーズ類を提供できる。
【符号の説明】
【0050】
1:乳化装置
2:粘度計
3:物性調整装置
4:温度制御装置
5:定量供給装置
6:真空排気装置
7:圧力制御装置
8:質量流量計
9:含気装置
10:温度制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径が10μmから800μmの気泡を硬質プロセスチーズ類に対する体積比率で10%以上、且つ25%未満含有する硬質プロセスチーズ類。
【請求項2】
前記気泡の含有率が15%以上、且つ25%未満である請求項1に記載の硬質プロセスチーズ類。
【請求項3】
増粘剤及び/又はゲル化剤を使用しない請求項1又は2に記載の硬質プロセスチーズ類。
【請求項4】
チーズ原料を乳化するための乳化工程と、前記乳化されたチーズ原料の粘度を測定する粘度測定工程と、前記粘度測定結果から温度制御工程によりチーズ原料の粘度を100±30ポアズにする物性調整工程と、前記乳化されたチーズ原料を定量供給する工程と、前記定量供給する工程から定量供給されたチーズ原料に気泡を含有させる含気工程を有する硬質プロセスチーズ類の製造方法。
【請求項5】
前記チーズ原料の粘度を100±30ポアズに調整する物性調整工程として、排気工程を有する請求項4に記載の硬質プロセスチーズ類の製造方法。
【請求項6】
チーズ原料を乳化するための乳化手段、前記乳化されたチーズ原料の粘度を測定する粘度測定手段、前記粘度測定手段からの出力に基づいて前記乳化されたチーズ原料の粘度を制御する物性調整手段、前記乳化されたチーズ原料を定量供給する手段、前記定量供給する手段から定量供給されたチーズ原料に気泡を含有させる含気手段を有する硬質プロセスチーズ類の製造装置。
【請求項7】
前記チーズ原料の粘度を制御する物性調整手段として温度制御手段及び/又は排気手段を有する請求項6に記載の硬質プロセスチーズ類の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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