説明

プロセスチーズ類及びプロセスチーズ類の製造法

【課題】本発明の目的は、少量の摂取でも効果が得られるような、通常市販されているプロセスチーズ類よりう蝕予防に効果の高い、言い換えれば歯の再石灰化効果の高いプロセスチーズ類を提供する点にある。
【解決手段】特異的にCPP含量が高いナチュラルチーズを原料として選別し、必要に応じて食品素材としてのCPP-ACP及びまたはCPPを加えることで、CPP含量が通常の市販プロセスチーズの1.8倍以上のプロセスチーズを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプロセスチーズ類、具体的にはカゼインホスホペプチド(以下、「CPP」ともいう)含量を高めたプロセスチーズ類及び当該プロセスチーズ類の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
虫歯になるメカニズムは現在では次のように捉えられている。歯の表面では通常脱灰と再石灰化という動的な可逆反応プロセスが平衡を保った状態にある。歯垢の中に存在するバクテリアにより糖類が酸に変わると脱灰が促される。脱灰←→再石灰化のバランスが崩れて脱灰が優勢になるとう蝕が進行する。初期虫歯の場合は再石灰化が優勢になれば治癒する。
【0003】
チーズが歯の再石灰化に効果があることはWHOでも認められている。チーズの効果は、(1)噛むことによる唾液分泌促進→pH上昇による緩衝作用、(2)唾液中のCa濃度上昇、によるものといわれている。一方、チーズといっても分類の仕方によっては数百種類もあり、また同じ種類のチーズでも熟成の度合いによって(酵素によるタンパク質や脂肪の分解によって)成分内容が異なるものになる。例えば、チーズのCa含量と再石灰化効果の間に単純な正の相関関係は見られない。チーズの歯の再石灰化に対する有効性が認められていても、どのようなチーズが再石灰化において有効性が高いのかはまだ研究に手が付けられていないのが現状である。一方、日本におけるチーズの消費量は欧米ほど多くなく(フランスの1/13、アメリカの1/7)、少量摂取でも再石灰化効果の高いチーズが求められる。表1に通常国内で販売されているプロセスチーズのCPP含量を示す。
【0004】
【表1】

【0005】
【非特許文献1】Nutrition Review,Vol.60,No.4 「Cheese Consumption and the Development and Progression of Dental Caries」Dental Diamond 2004:6 実践歯学ライブラリー 「う蝕予防に効果のある食品」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、少量の摂取でも効果が得られるう蝕予防効果の高いプロセスチーズ、言い換えれば歯の再石灰化効果の高いプロセスチーズを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、チーズ中に含まれるCPPが再石灰化に効果があることに着目し、鋭意検討したところ、チーズによってCPP含量がかなり異なり、しかも特異的にCPP含量が高いチーズが存在することを見出した。そして、カルシウム含量とCPP含量の間には必ずしも正の相関関係は無いが(表2)、CPP含量の高いチーズほど歯の石灰化に大きい効果を示すことがわかり、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、
[1]CPP含量が11,000μg/g以上であることを特徴とするプロセスチーズ類、
[2]CPP含量が13,000μg/g以上のナチュラルチーズを原料とすることを特徴とする前記[1]に記載のプロセスチーズ類、
[3]前記[1]又は[2]のいずれか1つに記載のプロセスチーズ類を含有し、抗う蝕効果を有することを特徴とし、う蝕予防又は改善のために用いられるものである旨の表示を付した飲食品、
[4]加熱乳化し製造されるプロセスチーズ類の製造法において、CPP含量が13,000μg/g以上のナチュラルチーズを少なくとも1種以上原料として用いることを特徴とするCPP含量11,000μg/g以上のプロセスチーズ類の製造方法、
[5]加熱乳化し製造されるプロセスチーズ類の製造法において、CPP含量が13,000μg/g以上のナチュラルチーズを少なくとも1種以上原料として用い、CPP及び/又はCPP-ACPを添加することを特徴とするCPP含量11,000μg/g以上のプロセスチーズ類の製造方法、
からなる。
【0008】
【表2】

【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来品よりも歯の再石灰化効果が高められたプロセスチーズ類が提供され、日常の食生活の中でより虫歯になりにくくなるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳述する。
本発明におけるプロセスチーズ類とは、プロセスチーズ、プロセスチーズフード、チーズスプレッド、チーズディップ、チーズデザート等主原料にナチュラルチーズを使用する製品をいう。
また、飲食品とは、これらプロセスチーズ類を主原料にチーズを使用する製品すべてが含まれ、その形態は問われず、固形状食品、液状食品、半固形状食品、粉状食品が例示される。
【0011】
CPPは乳タンパク質であるカゼインに由来するリン酸基が多数結合したペプチドで、腸管でのカルシウムの吸収促進などの機能が知られている。カゼインの分解により生成するため、チーズ中にも含まれる。本発明のプロセスチーズ類は、通常のチーズより特異的に高く、CPP含量は11,000μg/g以上である。一般的なプロセスチーズの配合例(最終製品中のナチュラルチーズの割合約85%)を考慮すると、CPP含量が13,000μg/g以上のナチュラルチーズを原料とすることが好ましい。
【0012】
本発明のチーズは、プロセスチーズ類の形態をとる。そのため、多彩な形状に包装することができる。また、発酵による分解の恐れがなく、CPP含量を安定して維持することができる。そして、口内での滞留時間を長くすることができるため、抗う蝕効果が高い。
【0013】
次に、プロセスチーズ類の製造法について説明する。本発明のプロセスチーズ類は、通常のプロセスチーズ類と同様にして製造することが可能である。以下に、プロセスチーズを例にあげ説明する。原料チーズとしては、CPP含量が13,000μg/g以上のナチュラルチーズを少なくとも1種以上用いる。CPP含量、風味、熟度の調整、個々のチーズの品質変動の緩和等を目的に、広範囲な種類のチーズから選ばれる1種又は2種以上のナチュラルチーズを併用して使用することもできる。これに、安定剤、溶融剤、食塩、香料、着色料等、プロセスチーズ製造において常用される原料を用いてもよい。
【0014】
溶融剤としては、リン酸塩系溶融剤(ヘキサメタリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、リン酸1ナトリウム、リン酸2ナトリウム、リン酸3ナトリウム等)及び/又は有機酸塩系溶融剤(クエン酸ナトリウム等)が使用される。安定剤としては、グアガム、カラギーナン、キサンタンガム、ローカストビーンガム等の増粘多糖類のほか、ゼラチン等の増粘性蛋白質等も適宜1種ないし2種以上併用することができる。
【0015】
次に、これら原料を乳化釜、チーズニーダー等に入れて、加熱、溶融、撹拌を行い、乳化し、リテーナー、カルトン、スライス等に充填成形し、冷却し、製品とする。
【0016】
また、本発明ではCPP及び/又はCPP-ACPを添加することも望ましい。添加時期としては、充填成形前であれば特に限定はされない。CPP-ACPとは、カゼインホスホペプチド‐非晶形リン酸カルシウム結合体 商標:リカルデント(以下、「CPP-ACP」ともいう)のことで、チーズ中にもCPP-ACPが含まれていることが予想される。しかしながら、チーズ中にはカルシウム、ペプチドが大量に複雑な形で含まれているため、現時点ではCPP-ACPとして定量分析する方法が確立していない。
【0017】
チーズ中のCPP-ACP及び/又はCPPの増量を図るならば、当然チーズにそれらを添加する方法が考えられる。しかしながら、現在商業的に流通している食品素材としてのCPP-ACP(CPPとして60〜70%)及びCPP(純度85%)の価格は約20,000円/kgとかなり高価であり、CPP高含量チーズを選択する方が経済的にはるかに有利である。
原料費試算例
CPP:20,000円/kg、ニュージーランド産ゴーダチーズ(CPP含量17,000μg/g):350円/kg、ニュージーランド産チェダーチーズ(CPP含量7,000μg/g):320円/kgとすると、CPP含量が13,000μg/チーズgのチーズの原料費は次の通りである。
ニュージーランド産ゴーダチーズ60%+ニュージーランド産チェダーチーズ40%の場合
350×0.6+320×0.4=338円/kg
ニュージーランド産チェダーチーズ99.3%+CPP(純度85%品)0.7%の場合
320×0.993+20,000×0.007=458円/kg
【0018】
もちろん、CPP含量の多いプロセスチーズを製造するにあたって、CPP含量の多い原料ナチュラルチーズを選択すると同時に、原料費として許される範囲内でCPP-ACP及びまたはCPPを追加添加してさらにCPP含量の増加を図ることも可能である。
【0019】
このようにして、最終的にCPP含量11,000μg/g以上のプロセスチーズを製造するが、本発明には、得られたチーズがう蝕予防又は改善のために用いられる旨を包装容器に付したり、チーズを販売促進するパンフレット等のツールに記載や表示することも含む。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を試験例及び実施例を挙げて説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0021】
[試験例] CPPの定量法
本発明の表1、表2に記載したCPP含量、実施例に記載したチーズ中のCPP含量は、以下の試験例を用いて測定した。
CPPの定量はβカゼイン(1-25)に対するモノクロナル抗体(第49回日本栄養・食糧学会大会 講演要旨集 p.126 3A-3aに従って作製)を用いた競合ELISA法により実施した。チーズサンプルは乳鉢中で蒸留水と混和して10% (w/w)水溶液を調製し、得られた液相に4倍容量の15%トリクロル酢酸水溶液を添加した。続いて、上記トリクロル酢酸添加チーズ水溶液と等量のリン酸緩衝溶液を加え、不溶物を遠心除去(17,000 x g、5min)した。回収した上清に等量のリン酸緩衝溶液を添加し、100%メタノール、蒸留水で洗浄した固相抽出用カラム(商標:Waters OASIS HLB1cc (30mg))にアプライした。蒸留水、5% メタノールによる洗浄の後、50%アセトニトリルによりCPP画分を溶出した。尚、すべての洗浄液及び溶出液には0.1%トリフルオロ酢酸を含む。得られたCPP画分は凍結乾燥し、リン酸緩衝溶液に溶解してELISAに供した。
チーズ中のCPPはCPP標品(明治製菓(株)製 CPP-III)を標準物質として、競合ELISA法で定量した。リン酸緩衝液で5〜50倍に希釈した調製済みチーズサンプルをモノクロナル抗体1μg/mlと反応(37℃、1時間)後、あらかじめリン酸緩衝液で溶解したCPP標品(50μg/ml)をコートした96ウエルプレートに移し、さらに37℃、1時間インキュベートした。検量線作成に用いるCPP標準物質(0.78〜100μg/ml)も同様に処理した。反応終了後、競合反応物を洗浄除去し、250ng/mlの2次抗体(ペルオキシダーゼ標識ウサギ抗マウス免疫グロブリン抗体(Rockland社製)をウェルあたり100μl加え、37℃1時間反応した。次に、未反応の2次標識抗体を洗浄除去した後、基質発色液 (商標:DAKO TMB+SUBSTRATE-CHROMOGEN)原液を100μlずつ分注した。室温で5分間の反応の後、1Nの硫酸水溶液100μlを添加して反応を停止した。次いで、分光光度計を用いて450 nmの波長における吸光度を測定した。この吸光度をCPP標準物質量に対してプロットした検量線よりチーズサンプル中のCPP量を求めた。本発明におけるCPPの測定値は10%チーズ水溶液を用いて求めている為、チーズ中のCPP含量としては、測定値を10倍したものを表記した。
【0022】
[実施例1]
スイス産エメンタールチーズ(CPP含量15,000μg/g)8kgと国産ゴーダチーズ(CPP含量9,000μg/g)2kgを粉砕してニーダーに入れ、溶融塩としてトリポリリン酸ナトリウムを200g及び水を800ml添加し、直接蒸気を吹き込みながら攪拌し83℃まで加温した。加温するのに必要な蒸気量は1リットルであった。溶融したチーズは200gずつパラフィルムとカルトンで包装し、冷蔵した。こうして得られたチーズは、CPPを11,500μg/g含むものであった。
【0023】
[実施例2]
ニュージーランド産ゴーダチーズ(CPP含量17,000μg/g)5kgとスイス産エメンタールチーズ(CPP含量15,000μg/g)2kgとオランダ産ゴーダチーズ(CPP含量11,000μg/g)3kgを粉砕してニーダーに入れ、溶融塩としてヘキサメタリン酸ナトリウム140gとリン酸2ナトリウム60g及び水を800ml添加し、実施例1と同様に溶融し、包装し、冷蔵した。こうして得られたチーズはCPPを12,300μg/g含むものであった。
【0024】
[実施例3]
オランダ産ゴーダチーズ(CPP含量11,000μg/g)10kgを粉砕してニーダーに入れ、さらにCPP(明治製菓(株)製)とCPP-ACP(キャドベリーフーズ社製)を各24g、溶融塩としてトリポリリン酸ナトリウムを200g及び水を800ml添加し、実施例1と同様に溶融し、包装し、冷蔵した。こうして得られたチーズは、CPPを12,100μg/g含むものであった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
歯の再石灰化効果の高いプロセスチーズ類を提供できるため、日常の食生活の中でより虫歯予防に貢献できる。また、食品素材として流通しているCPP、CPP-ACPは高価格であり、原料の点から使用量に制限があるため、本発明により得られる経済効果は高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CPP含量が11,000μg/g以上であることを特徴とするプロセスチーズ類。
【請求項2】
CPP含量が13,000μg/g以上のナチュラルチーズを原料とすることを特徴とする請求項1に記載のプロセスチーズ類。
【請求項3】
請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載のプロセスチーズ類を含有し、抗う蝕効果を有することを特徴とし、う蝕予防又は改善のために用いられるものである旨の表示を付した飲食品。
【請求項4】
加熱乳化し製造されるプロセスチーズ類の製造法において、CPP含量が13,000μg/g以上のナチュラルチーズを少なくとも1種以上原料として用いることを特徴とするCPP含量11,000μg/g以上のプロセスチーズ類の製造方法。
【請求項5】
加熱乳化し製造されるプロセスチーズ類の製造法において、CPP含量が13,000μg/g以上のナチュラルチーズを少なくとも1種以上原料として用い、CPP及び/又はCPP-ACPを添加することを特徴とするCPP含量11,000μg/g以上のプロセスチーズ類の製造方法。

【公開番号】特開2006−115764(P2006−115764A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−307193(P2004−307193)
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(000006138)明治乳業株式会社 (265)
【Fターム(参考)】