説明

プロセス油、ゴム伸展油

【課題】所望のアニリン点並びに所望の動粘度となるように製造されたプロセス油を提供する。
【解決手段】原油の減圧蒸留残油を溶剤脱れきして得られた溶剤脱れきアスファルトに対して、上記溶剤脱れきして得られた溶剤脱れき油及び/又は上記溶剤脱れき油を溶剤抽出して得られた溶剤抽出油が、所望のアニリン点並びに所望の動粘度となるように、混合されてなり、溶剤脱れきアスファルトは、1.0〜20重量%含有され、アニリン点は、75〜90℃であり、上記動粘度は、40〜90mm/sとされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ゴムや合成ゴムに添加され、ゴム組成物を形成するプロセス油、ゴム伸展油に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用のタイヤ等に適用されるゴム材料は、一般的に軟化させ加工容易性を向上させる観点から鉱油が配合される。この鉱油は、ゴム用潤滑油、或いはゴム配合油と呼ばれる。ゴム配合油は、一般的にゴム伸展油とプロセス油に区別される。
【0003】
ゴム伸展油は、伸展ゴム製造の際にラテックスに乳化油として混入させ共凝固させ、体積増量と可塑化とを目的として配合されるものである。これに対してプロセス油は、ゴムの製品化工程において練りにくいゴム原料にプロセス油を配合して、素練り、添加剤配合、押出し、バンバリーミキサー作業などを容易化することを目的として配合される。プロセス油は、ゴムポリマーの間に入り、潤滑の作用をして分子間の流動性を増加させる。即ち、分子間内部摩擦を減少させて、可塑性を付与する。
【0004】
この特にプロセス油としては、上述したようにゴムの可塑性を高め、加硫ゴムの硬度を低下させて加工性を向上させる観点から、ゴム種に対応させてパラフィン系、ナフテン系又は芳香族炭化水素成分が多く含まれているエキストラクトなどが用いられている。そして、これらゴム伸展油やプロセス油は、天然ゴム、合成ゴム等のゴム材料以外に、熱可塑性樹脂の可塑剤や印刷用インキの構成成分、再生アスファルトの軟化剤等としても用いられる。
【0005】
これらゴム伸展油やプロセス油は、従来より原油の減圧蒸留残油を脱れきした脱れき油を溶剤抽出することにより、溶剤精製油を製造する際に副生されるアロマ分が多いエキストラクトが多く利用されてきた。
【0006】
例えば特許文献1には、エキストラクトと、多環芳香族炭化水素(PCA)含有量が3質量%未満の潤滑油基油とを混合したプロセス油が提案されている。このプロセス油においては、粘度やアニリン点といった各種性状が規定されている。
【0007】
同様に特許文献2には、原油の減圧蒸留残渣を脱れきすることにより得られた脱れき油を原料として用い、粘度やアニリン点といった各種性状を有することを特徴としたプロセス油が提案されている。この特許文献2に開示されているプロセス油は、実際に脱れき油を溶剤抽出して得られたエキストラクトを所定の質量%混合することにより生成される。
【0008】
例えば特許文献3に示すように、エキストラクトと溶剤脱れき油を混合することにより得られたゴム用軟化剤が提案されている。この特許文献3の開示技術では、性状について、100℃において35〜55mm/sからなる粘度とする点は示されているものの、その他アニリン点に関しては特に言及されていない。
【0009】
また、特許文献4では、ゴム用のプロセス油としての用途では無いが、アスファルト:0.5〜20.0質量%を含有し、残部が石油系溶剤抽出油からなるアスファルトバインダーが開示されている。ここで使用されるアスファルトとして、溶剤脱れきアスファルト等が含まれる。ちなみに、この特許文献4では、特にゴム用のプロセス油としての用途を想定していないことから、粘度やアニリン点といった各種性状に関する言及はなされていない。
【0010】
なお、粘度やアニリン点に関する性状について言及されているプロセス油として、は、例えば特許文献5〜7においても開示されている。
【特許文献1】特開2007−84675号公報
【特許文献2】特開2006−335833号公報
【特許文献3】特開2006−291195号公報
【特許文献4】特開2008−56742号公報
【特許文献5】特開2003−96244号公報
【特許文献6】特開2008−31211号公報
【特許文献7】特開2000−80208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上述した従来のゴム伸展油並びにプロセス油は、何れも一定の製造プロセスを経て製造されるものであった。このため、得られるゴム伸展油等の粘度とアニリン点は、特定の性状に限定されてしまい、あるプロセスでは、動粘度が決まればアニリン点もそれに応じて特定されるのが通常であった。
【0012】
しかしながら、特にこの自動車用のタイヤ等に適用されるゴム材料に使用されることを前提とした場合において、ある一の動粘度に対してある一のアニリン点が一義的に決まってしまうと、ゴムの性状そのものが一定のものに収束されてしまい、タイヤの製造工程における様々なニーズ、例えば、ゴム・コンパウンドの表面にオイルが滲み出てくる、いわゆるオイルブリードの発生を防止する観点や、ゴム・コンパウンド成型時の寸法安定性を確保する観点、またゴム・コンパウンドの伸度を確保する観点、所定のゴム・コンパウンド粘度や弾性率を得たい等の各種要望に応えることができないという問題点があった。
【0013】
このため、動粘度、アニリン点を任意に選択できるように、換言すれば、一の動粘度に対してある特定の一のアニリン点が決まってしまうのではなく、一の動粘度に対してもあらゆる任意のアニリン点を自由に選択できるような、或いは一のアニリン点に対してもあらゆる任意の動粘度を自由に選択できるようなゴム伸展油並びにプロセス油が従来より望まれていた。動粘度とアニリン点との組み合わせを自由に選択した上でゴム伸展油並びにプロセス油を製造することができれば、上述したオイルブリードの発生防止、ゴム・コンパウンド成型時の寸法安定性確保、ゴム・コンパウンドの伸度確保、所定のゴム・コンパウンド粘度や弾性率の確保等の問題点を解決することができるためである。
【0014】
特に、従来においては、この動粘度とアニリン点を最適に調整するためには、混合すべき材料の比率の調整について、所望の動粘度とアニリン点に至るまであくまで試行錯誤で何度もトライしなければならず、多大な労力と時間を要していた。特に100t、200tレベルのプロセス油を作製する場合には、プラントレベルでプロセスの運転条件を変更し、試作をした後でないと、所望の動粘度とアニリン点に到達しているか否か判断することができなかった。このため、新たな動粘度とアニリン点からなるプロセス油を製造する度にプラントの改造や新設が必要になり、コスト(時間、エネルギー、物質の消費)が増大してしまうという問題点もあった。
【0015】
そこで、本発明は、上述した問題点を解決するために案出されたものであり、その目的とするところは、安価でしかも低労力で所望のアニリン点並びに所望の動粘度となるように製造されたプロセス油、ゴム伸展油を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係るプロセス油は、上述した課題を解決するために、アスファルトに対して、原油の減圧蒸留残油を溶剤脱れきして得られた溶剤脱れき油及び/又は上記溶剤脱れき油を溶剤抽出して得られた溶剤抽出油が、所望のアニリン点並びに所望の動粘度となるように、混合されてなることを特徴とする。
【0017】
このとき、上記アスファルトは、原油の減圧蒸留残油を溶剤脱れきして得られた溶剤脱れきアスファルトであってもよい。また、上記溶剤脱れきアスファルトは、1.0〜20重量%含有され、残部が上記溶剤脱れき油及び/又は上記溶剤抽出油からなることを特徴とするようにしてもよい。
【0018】
また、アニリン点は、75〜90℃であり、動粘度は、40〜90mm/sであることを特徴とするようにしてもよい。
【0019】
本発明に係るゴム伸展油は、上述した課題を解決するために、請求項1〜3のうちいずれか1項記載のプロセス油からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
上述した構成からなる本発明によれば、アスファルトに対して、溶剤脱れき油及び/又は溶剤抽出油が混合されてなることにより、所望のアニリン点並びに所望の動粘度となるようなプロセス油、ゴム伸展油を得ることが可能となる。即ち、動粘度とアニリン点との組み合わせを自由に選択した上で製造されたプロセス油、ゴム伸展油を得ることが可能となる。特に、従来においては、この動粘度とアニリン点を最適に調整するためには、混合すべき材料の比率の調整について、所望の動粘度とアニリン点に至るまであくまで試行錯誤で何度もトライしなければならず、多大な労力、時間、コストを要していたが、本発明によれば、予め調査したアスファルトに対する、溶剤脱れき油及び溶剤抽出油の混合比率に対する動粘度とアニリン点に基づいて、その混合比率を決定することができるため、従来の如く新たな動粘度とアニリン点からなるプロセス油を製造する度にプラントの改造や新設することも無くなり、労力やコストの低減を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、天然ゴムや合成ゴムに添加され、ゴム組成物を形成するプロセス油、ゴム伸展油について、詳細に説明する。
【0022】
本発明者は、上述した問題点を解決し、所望のアニリン点並びに所望の動粘度となるようにプロセス油を製造するために鋭意実験研究を行った。その結果、本発明者は、原油の減圧蒸留残油を溶剤脱れきして得られた溶剤脱れきアスファルトに対して、その溶剤脱れきして得られた溶剤脱れき油及び/又は係る溶剤脱れき油を溶剤抽出して得られた溶剤抽出油を混合することにより、アニリン点並びに動粘度をそれぞれ独立して所望の値にコントロールすることができることを見出した。
【0023】
即ち、本発明を適用したプロセス油は、溶剤脱れきアスファルトに対して、溶剤脱れき油及び/又は溶剤抽出油が、所望のアニリン点並びに所望の動粘度となるように、混合されてなる。
【0024】
溶剤脱れきアスファルトは、減圧蒸留残油に対して、プロパン、又はプロパンとブタンの混合物を溶剤として使用し、脱れき処理して得られた、いわゆるプロパン脱れきアスファルトである。なお、以下の説明においては、あくまで溶剤脱れきアスファルトを例に挙げて説明をするが、これに限定されるものではなく、この溶剤脱れきアスファルトの代替として、例えばストレートアスファルトや、ブローンアスファルト等のいかなるアスファルトを使用するようにしてもよい。
【0025】
溶剤脱れきアスファルトは、減圧蒸留残油から溶剤脱れき油(高粘度潤滑油留分)を抽出した残渣分に相当する。この溶剤脱れきアスファルトは、主として動粘度を調整するために添加されるが、アニリン点を調整するためにも使用される。この溶剤脱れきアスファルトは、JIS K2207の下で25℃における針入度が3〜20(1/10mm)、軟化点が56〜70℃、15℃における密度が1020〜1065kg/mである。この溶剤脱れきアスファルトの針入度を4〜12、軟化点を68〜60℃の範囲とすることで、図2に示す性状を得る事ができる。
【0026】
なお、この溶剤脱れきアスファルトについて、上述した物性の範囲に限定されるものではなく、いかなる範囲であってもよい。但し、針入度と軟化点は、ほぼ一対一で対応し、後述する調整をより最適に行うためには、上述した範囲において行うことが望ましい。
【0027】
溶剤脱れき油は、減圧蒸留残油に対して、プロパン、又はプロパンとブタンの混合物を溶剤として使用し、脱れき処理することにより、上述した溶剤脱れきアスファルトを除去した後の脱れき油である。この溶剤脱れき油は、主としてアニリン点を調整するために添加されるものであるが、僅かながら動粘度の調整にも寄与する。この溶剤脱れき油における100℃における動粘度は、25〜42mm/s、15℃における密度が910〜940kg/mである。溶剤脱れき油の100℃における動粘度を31〜35mm/s、密度を920〜935kg/mの範囲とすることで、図2の性状を得る事ができる
【0028】
溶剤抽出油は、溶剤脱れき油を極性溶剤を用いて溶剤抽出することにより得られた、いわゆるエキストラクトである。この溶剤抽出油は、主としてアニリン点を調整するために添加されるものであるが、僅かながら動粘度の調整にも寄与する。溶剤抽出油における100℃における動粘度は、50〜200mm/s、15℃における密度が960〜990kg/mである。溶剤抽出油の100℃における動粘度を60〜70mm/sの範囲、密度を970〜980kg/mとすることで、図2の性状を得る事ができる。
【0029】
なお、溶剤脱れき油、溶剤抽出油についても、上述した物性の範囲に限定されるものではなく、いかなる範囲であってもよい。
【0030】
また、本発明を適用したプロセス油において、性状調整の対象となるアニリン点は、上述したプロセス油が等容量のアニリンと均一な溶液として存在する最低温度を意味する。このアニリン点は、より具体的には、プロセス油を等容積のアニリンと混合して冷やしたとき、互いに溶解し合えなくなって濁りが見え始めたときの温度で表すものであり、JIS K 2256においてその詳細が規定されている。即ち、このアニリン点は、プロセス油と混合するゴムの親和性を示す指標であり、主としてプロセス油とゴムとの配合後に、膨潤するか否か、溶解するか否かを判断する指標である。一般に、このアニリン点は、配合するゴム種により最適値が異なる。たとえば天然ゴムとプロセス油を配合する場合において、プロセス油のアニリン点は、95〜100℃が最適である。その理由として、アニリン点が95℃未満であると、ゴムとの配合後において膨潤してしまい、またアニリン点が100℃を超えると、ゴムとの相溶性が悪化し、プロセス油がゴム表面にブリードしてしまう可能性がある。
【0031】
また動粘度は、流速勾配とそれに対して発生する剪断応力との比例係数を流体密度で除したものとして表される。動粘度は、ゴム伸展油として適用する場合において、目的とするゴムとプロセス油のコンパウンドの粘度、及び弾性率から要求値が決定される。この動粘度としては、いかなる範囲で構成されていてもよいが、一般的にプロセス油をタイヤ用途に向けたゴム伸展油としての適用を考えた場合、40〜90mm/sであることが望ましい。プロセス油の動粘度が要求値(例えば40mm/s)よりも低いと、配合されるゴムの常態物性が低下してしまい、また動粘度が要求値(例えば90mm/s)よりも高いと、粘度や弾性率が高すぎて、配合時に成形不良を起こし、ひいてはゴム物性にも悪影響を及ぼす。
【0032】
次に、本発明を適用したプロセス油の製造方法について、図1のフローチャートを用いて詳細に説明をする。
【0033】
先ずステップS11において原油について常圧蒸留を行う。この常圧蒸留においては、公知のいかなる常圧蒸留装置並びに蒸留条件で行うようにしてもよい。例えば、精製対象となるパラフィン系原油やナフテン系原油等からなる原油を、加熱炉等で約350℃(炭化水素の分解が開始する温度である360℃に満たない温度)に加熱した上で常圧蒸留塔へ送出し、常圧蒸留塔内部で石油蒸気とされ、冷却後、沸点の低いものから高いものへと順に分離する。
【0034】
次にステップS12に移行し、ステップS11において常圧蒸留することにより得られた常圧蒸留残油を減圧蒸留する。この減圧蒸留では、公知のいかなる減圧蒸留装置並びに蒸留条件で行うようにしてもよい。この減圧蒸留を通じて減圧軽油、減圧流出油、減圧蒸留残油へと分離、脱れきされることになる。本発明では、今後のプロセスにおいて、これらのうち減圧蒸留残油のみを使用していくことになる。
【0035】
次にステップS13へ移行し、ステップS12において得た減圧蒸留残油に対して溶剤脱れきを行う。具体的には、減圧蒸留残油に対してプロパン、又はプロパンとブタンの混合物を溶剤として使用し、油分とアスファルト分とを分離する。この油分が上述した溶剤脱れき油に相当し、アスファルト分が上述した溶剤脱れきアスファルトに相当する。ちなみにこのステップS13におけるプロパンによる脱れきは、減圧蒸留残油に対して4〜8倍の液化プロパンを混合し、抽出温度を55〜75℃として脱れき油を抽出するようにしてもよい。このステップS13において脱れきされた溶剤脱れきアスファルトは、上述した理由により、針入度が3〜20(1/10mm)、軟化点が56〜70℃、15℃における密度が1020〜1065kg/mとされている必要がある。また同様に,溶剤脱れき油における100℃における動粘度は、25〜42mm/s、15℃における密度が910〜940kg/mとされていることが望ましい。分離された溶剤脱れきアスファルトは、後述する混合のプロセスにおいて使用されるため、そのまま保存しておくか、製油所内において中間タンク等に保管しておく。また、分離された溶剤脱れき油も同様に後述する混合のプロセスにおいて使用されるため、一部は取り出して保存しておくが、残りは、次のステップS14に示す処理に利用されることになる。
【0036】
ステップS14では、溶剤脱れき油について極性溶剤を用いて溶剤抽出することにより、エキストラクトとしての溶剤抽出油を得る。ステップS14において使用する極性溶剤としては、例えばフルフラール、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、フェノール、クレゾール酸、二硫化イオウ、ニトロベンゼン、アニリンなどを用いる。このステップS14では、溶剤脱れき油に対して混合する極性溶媒の体積比は、2〜4の範囲内とされ、望ましくは2.5〜3.5の範囲内とされていることが望ましい。また、このステップS14における抽出温度は、40〜140℃とされているのが望ましい。最終的にこのステップS14において得られた溶剤抽出油は、後述する混合のプロセスにおいて使用するため、保存しておく。
【0037】
次にステップS15に移行し、実際に製造したいプロセス油における、所望のアニリン点と所望の動粘度を選定する。ちなみに、このアニリン点と動粘度は、互いに独立して自由に選定してよく、何れか一方を選定した場合に他の一方がこれに応じて一義的に決まる性質のものではない。次に選定したアニリン点と動粘度に調整するための、溶剤脱れきアスファルト、溶剤脱れき油、溶剤抽出油の混合比率を決定する。
【0038】
図2は、本発明者が明らかにした、動粘度とアニリン点に対する、溶剤脱れきアスファルト、溶剤脱れき油、溶剤抽出油の混合比率の関係を示している。この図2によれば横軸に100℃における動粘度(mm/s)、縦軸にアニリン点(℃)を示しており、太字実線が溶剤脱れきアスファルト(PDA)の混合比率に対する動粘度、アニリン点の関係を示している。ちなみに、この図2は、溶剤脱れきアスファルトについて、JIS K2207の下で25℃における針入度が8(1/10mm)、軟化点が66.5℃、15℃における密度が1028kg/mであり、溶剤脱れき油について100℃における動粘度が33.2mm/s、15℃における密度が926.2kg/mであり、溶剤抽出油について100℃における動粘度が65.0mm/s、15℃における密度が976.4kg/mである。ちなみに、溶剤脱れきアスファルト、溶剤脱れき油、溶剤抽出油の物性が上述した値から外れる場合であっても、図2とは曲線の傾きや隣接する曲線の間隔は異なるものの、溶剤脱れきアスファルトと類似した曲線を引くことができ、以下に説明する方法を同様に実現可能であることは勿論である。
【0039】
この溶剤脱れきアスファルトは、例として、重量%で1.0、2.5、5、10、15、20%を示している。また、比較例としてPDAが25%のものも示してある。太字実線は、それぞれ左上から右下にかけて動粘度とアニリン点の関係が曲線状に変化しているのが分かる。また、溶剤脱れきアスファルトの混合比率が高くなるにつれて、その曲線の傾きは緩やかになる傾向も示されている。
【0040】
本発明によれば、溶剤脱れきアスファルトは、1.0〜20重量%含有されることを必須の要件としてもよい。その理由として、溶剤脱れきアスファルトが1.0重量%未満では、特にタイヤ用途を想定した場合における動粘度の調整が困難になり、また、溶剤脱れきアスファルトが20重量%を超えてしまうと、図2におけるPDA25%の例に示すように動粘度が高くなってしまい、ゴム自体が硬くなりすぎてしまうためである。さらに溶剤脱れきアスファルトが20重量%を超えてしまうとアニリン点の調整範囲が狭くなり、実用的でなくなる。
【0041】
また、図中の点線は、溶剤脱れき油、溶剤抽出油の混合比に対する動粘度、アニリン点の関係を示している。溶剤脱れき油、溶剤抽出油の混合比は、プロセス油全体から上記溶剤脱れきアスファルトの重量%を引いた後の残分を構成する溶剤脱れき油と溶剤抽出油の重量比率を示している。この混合比は、例として、溶剤脱れき油(DAO)と、溶剤抽出油(BFE)とが、それぞれDAO:BFE=100:0、75:25、50:50、25:75、0:100を示している。この点線は、それぞれ左上から右下にかけて動粘度とアニリン点の関係が曲線状に変化しているのが分かる。また、溶剤抽出油(BFE)の混合比率が高くなるにつれて、その曲線の傾きは徐々に緩やかになり、特にDAO:BFE=0:100の場合には、アニリン点は、67℃でほぼ一定となり、曲線ではなく水平直線で示される傾向となる。
【0042】
なお、溶剤脱れきアスファルト(PDA)の混合比率に応じた太字実線の方が、溶剤脱れき油と溶剤抽出油の重量比率に応じた点線よりも傾きが大きくなる傾向が示されている。
【0043】
本発明では、選定した所望のアニリン点、所望の動粘度を、この図2の傾向に照らし合わせて、溶剤脱れきアスファルト、溶剤脱れき油、溶剤抽出油の混合比率を決定する。
【0044】
例えば、動粘度が69mm/s、アニリン点が76℃と選定した場合に、これに対応する図2上の点は、A点となる。このA点は、溶剤脱れきアスファルト(PDA)の混合比率が10重量%である。そして残りの90重量%分が溶剤脱れき油(DAO)と、溶剤抽出油(BFE)から構成されるが、A点は、ちょうどDAO:BFEが25:75となる。このため、溶剤脱れきアスファルト、溶剤脱れき油、溶剤抽出油の混合比率をこのように決定し、図1のステップS16において、その決定した混合比率に基づいてこれらを混合することにより、選定した動粘度69mm/s、アニリン点76℃からなるプロセス油を製造することが可能となる。例えばまた、動粘度が58mm/s、アニリン点が82℃と選定した場合に、これに対応する図2上の点は、B点となる。このB点は、溶剤脱れきアスファルト(PDA)の混合比率が7.5重量%である。そして残りの92.5重量%分が溶剤脱れき油(DAO)と、溶剤抽出油(BFE)から構成されるが、B点は、ちょうどDAO:BFEが37.5:62.5となる。このため、溶剤脱れきアスファルト、溶剤脱れき油、溶剤抽出油の混合比率をこのように決定し、図1のステップS16において、その決定した混合比率に基づいてこれらを混合することにより、選定した動粘度58mm/s、アニリン点82℃からなるB点のプロセス油を製造することが可能となる。
【0045】
実際に、このB点の混合比率を求める方法について、図3を利用して詳細に説明をする。先ずB点を中心にして水平方向、鉛直方向に線を引く。その結果、垂直方向の線は、DAO:BFEが50:50の曲線と交わると共に、DAO:BFEが25:75の曲線と交わる。同様にB点からの水平線は、PDA5%の曲線と、PDA10%の曲線と交わることになる。
【0046】
次に、これら曲線との交点とB点との距離を図から求める。B点とDAO:BFEが50:50の曲線との距離をx、B点とDAO:BFEが25:75の曲線との距離をxとする。また、B点とPDA5%の曲線との距離をy、B点とPDA10%の曲線との距離をyとする。このとき、B点のDAO:BFEにおけるDAOの比率は、以下の計算式で求めることができる。
【0047】
DAOの比率=DAO(下辺)の比率+x/(x+x)×{DAO(上辺)の比率−DAO(下辺)の比率}
【0048】
ここでいう上辺とは、B点にとって上側に位置するDAO:BFEの曲線に相当するものであり、この例におけるDAO(上辺)の比率は50である。また、下辺とは、B点にとって下側に位置するDAO:BFEの曲線に相当するものであり、この例におけるDAO(下辺)の比率は25である。また、xとxは、線分比率が1:1であったので、x/(x+x)の項は0.5となるため、DAOの比率は、25+0.5×(50−25)=37.5となり、BFEの比率も同様に62.5となる。
【0049】
また、B点のPDA比率は、以下の計算式で求めることができる。
【0050】
PDAの比率=PDA(左辺)の比率+y/(y+y)×{PDA(右辺)の比率−PDA(左辺)の比率}
【0051】
ここでいう左辺とは、B点にとって左側に位置するPDA5%の曲線に相当するものである。また、右辺とは、B点にとって右側に位置するPDA10%の曲線に相当するものである。また、yとyは、線分比率が1:1であったので、y/(y+y)の項は0.5となるため、PDAの比率は、5+0.5×(10−5)=7.5となる。このように、本発明によれば、動粘度とアニリンの2軸からなるグラフにおいて、予め調査した上記アスファルトの各混合比率に対するアニリン点並びに動粘度の関係を示す第1曲線(PDAの曲線)と、予め調査した溶剤脱れき油並びに溶剤脱れき油の各混合比率に対するアニリン点並びに動粘度の関係を示す第2曲線(DAO:BFEの曲線)を書き入れ、所望のアニリン点並びに動粘度が第1曲線と第2曲線の交点に対応する場合には、当該交点を通過する第1曲線と第2曲線から上記混合比を求める。また、所望のアニリン点並びに動粘度が第1曲線と第2曲線の交点以外に位置する場合には、当該所望のアニリン点並びに動粘度に対応するグラフ上の所望点Bから鉛直線並びに水平線を引く。そして、水平線が最初に交わる2つの第1曲線との交点b、bと、所望点Bとの距離比率に基づいてアスファルトの混合比率を求め、鉛直線が最初に交わる2つの第2曲線との交点a、aと、所望点Bとの距離比率に基づいて溶剤脱れき油及び上記溶剤抽出油の混合比率を求める。
【0052】
これにより、所望のアニリン点並びに動粘度が第1曲線と第2曲線の交点以外に位置する場合であっても混合比率を容易に求めることが可能となる。
【0053】
同様に他の動粘度とアニリン点との組み合わせであっても、それに対応する図2上の点を特定し、これに対応する溶剤脱れきアスファルトの混合比率を特定し、次に溶剤脱れき油、溶剤抽出油の混合比率を特定することにより、選定した動粘度、アニリン点からなるプロセス油を製造することが可能となる。
【0054】
なお、本発明では、選定した動粘度とアニリン点との組み合わせが、上述した太字実線、点線の交点から外れる場合においても、所望の動粘度とアニリン点からの鉛直線のDAO:BFE曲線の交点からの距離比率と、所望の動粘度とアニリン点からの水平線のPDAの比率の交点からの距離比率から、上述した計算式に基づいて、対応するDAO:BFEとPDAの比率を容易に求めることが可能となる。そして、溶剤脱れきアスファルト、溶剤脱れき油、溶剤抽出油の混合比率を割り出すことにより、所望の動粘度、アニリン点からなるプロセス油を同様に製造することが可能となる。
【0055】
また、これら溶剤脱れきアスファルト、溶剤脱れき油、溶剤抽出油が上述した物性の範囲から逸脱する場合であっても、図2に示す各曲線の傾きや広がり等の傾向が変わってくるものの、大まかな傾向についてはほぼ不変である。即ち、溶剤脱れきアスファルトの物性の変化は、図2で示される領域の右辺部分(PDA20%のライン)の形状の変化に影響を及ぼし、溶剤脱れき油の物性の変化は、図2で示される領域の上辺部分(DAO:BFE=100:0のライン)の形状の変化に影響を及ぼし、更に溶剤抽出油の物性の変化は、図2で示される領域の下辺部分(DAO:BFE=0:100のライン)の形状の変化に影響を及ぼす。しかしながら、これらの曲線の形状が変化しても、それぞれの物性毎に図2に示すような関係図を作成しておくことにより、所望のアニリン点、所望の動粘度を選定し、その作成した関係図に照らし合わせることにより、溶剤脱れきアスファルト、溶剤脱れき油、溶剤抽出油の混合比率を決定する。そのときの混合比率についても、その関係図を作成する上において使用した溶剤脱れきアスファルト、溶剤脱れき油、溶剤抽出油の各物性のものに限ることは言うまでもない。
【0056】
また、上述した例では、あくまで溶剤脱れきアスファルトに対して、溶剤脱れき油及び溶剤抽出油を混合する、いわゆる3成分系を中心に説明をしたが、これに限定されるものではなく、溶剤脱れきアスファルトに対して溶剤脱れき油を混合する場合や、溶剤脱れきアスファルトに対して溶剤抽出油を混合する場合のように、いわゆる2成分系で構成してもよいことは勿論である。かかる場合には、図2でいうところのDAO:BFE=100:0の線や、DAO:BFE=0:100の線における成分の調整に終始することになる。
【0057】
また、本発明では、溶剤脱れきアスファルトの代替として、ブローンアスファルト、ストレートアスファルトを初めとしたいかなるアスファルトを用いてもよいが、かかる場合においても、図2とは曲線の傾きや隣接する曲線の間隔は異なるものの、溶剤脱れきアスファルトと類似した曲線を引くことができる。このため、かかるアスファルトを適用する場合においても、予め溶剤脱れき油及び溶剤抽出油との関係において、動粘度、アニリン点のグラフを予め作成しておくことにより、上述した例と同様に動粘度とアニリン点との組み合わせを自由に選択した上でプロセス油を低労力かつ安価で製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明を適用したプロセス油の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】動粘度とアニリン点に対する、溶剤脱れきアスファルト、溶剤脱れき油、溶剤抽出油の混合比率の関係を示す図である。
【図3】B点の混合比率を実際に求める方法について説明するための図である。
【符号の説明】
【0059】
S11 常圧蒸留
S12 減圧蒸留
S13 溶剤脱れき
S14 溶剤抽出
S15 所望の性状の特定
S16 混合

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスファルトに対して、原油の減圧蒸留残油を溶剤脱れきして得られた溶剤脱れき油及び/又は上記溶剤脱れき油を溶剤抽出して得られた溶剤抽出油が、所望のアニリン点並びに所望の動粘度となるように、混合されてなること
を特徴とするプロセス油。
【請求項2】
上記アスファルトは、原油の減圧蒸留残油を溶剤脱れきして得られた溶剤脱れきアスファルトであること
を特徴とする請求項1記載のプロセス油。
【請求項3】
上記溶剤脱れきアスファルトは、1.0〜20重量%含有され、残部が上記溶剤脱れき油及び/又は上記溶剤抽出油からなること
を特徴とする請求項2記載のプロセス油。
【請求項4】
上記アニリン点は、75〜90℃であり、上記動粘度は、40〜90mm/sであること
を特徴とする請求項1〜3のうち何れか1項記載のプロセス油。
【請求項5】
請求項1〜3のうちいずれか1項記載のプロセス油からなること
を特徴とするゴム伸展油。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−126664(P2010−126664A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−304091(P2008−304091)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】