説明

プロピレングリコールの回収方法

【課題】プロピレンオキサイドの製造において、付随的に生じるプロピレングリコールを、経済的に好都合な条件の下で、実質的に追加的なエネルギー消費をすることなく、かつ、主生成物の品質に影響を与えることなく回収すること。
【解決手段】脱着塔の頂部からプロピレンオキサイドを排出させ、脱着塔の底部からほぼプロピレンオキサイドが含まれていないプロピレングリコール含有循環水を排出させ、プロピレングリコール及びこれ以外の反応生成物の濃度を常に低く維持するために、前記循環水の一部を廃棄する、プロピレングリコールを回収する方法において、前記脱着塔の後ろに、脱水塔が接続され、前記脱水塔の排出蒸気が、ストリップ蒸気として、前記脱着塔の最も下方の底より下方に導入されることを特徴とする、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレンオキサイドの製造において付随的に生じるプロピレングリコールを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば触媒を用いた直接酸化方法によって、アルキレンと酸素とから工業用にアルキレンオキサイドを製造する場合、生じたアルキレンオキサイドは吸収塔中で反応ガス混合物から連続的に循環水を用いて溶出される。アルキレンオキサイドを吸収した循環水は、脱着塔でアルキレンオキサイドを脱着して排出させ、循環水が再度回収される。これらの操作の吸収工程及び脱着工程で、アルキレンオキサイドのわずかな量が水と反応して、アルキレングリコール又はその重合体が生成される。循環水は吸収及び脱着を何度と繰り返すため、その工程中にアルキレングリコールが蓄積される。また、その他の副生成物(例えば、アルデヒド、カルボン酸、カルボン酸の金属塩など)も蓄積される。これらの蓄積を避けるために、循環水の一部をプロセスから廃棄して、新鮮な水と置き換える必要がある。
【0003】
アルキレングリコールを獲得するために、特殊な蒸留による回収ができることが知られている。例えば、特殊な真空蒸発設備又はアルキレングリコール設備の蒸発装置が用いられる。しかし、とりわけアルキレングリコール廃液流から水を蒸発させるためには、高いエネルギーが必要になるという欠点が生じる。特許文献1には、エチレングリコール設備の真空蒸発装置部分への供給と同時に、生成物のpH値が7〜10になるように、アルカリ金属のアルコラート、水酸化物、酸化物及び塩を添加する方法が記載されている。この方法で得られるエチレングリコールは部分的に生産に供給することが可能である。しかし、やはりエチレングリコールを分離するために高いエネルギーが消費されるという欠点を排除することはできず、様々な循環水中の塩の割合を高めてしまう。循環水中の塩の割合が高まることにより、生成された生成物における品質の問題が再び生じる。
【0004】
特許文献2には、エチレングリコール溶液(同時にアルデヒド、カルボン酸及び/又はカルボン酸の金属塩を含有する)を、イオン交換体化合物で処理し、続いて、蒸留する方法が記載されている。しかし、この方法では、イオン交換体から生じる構造物質の微量成分(例えば、アルカリアミン)によって、生成されたモノエチレングリコール及びジエチレングリコールに強い臭いが付き、その結果、多くの用途で用いることができなくなる。さらに、エチレングリコール設備における蒸発装置部分中で回収する際、追加的な水の蒸発が回避できないため、エネルギー消費量が高いという欠点も取り除かれていない。
【0005】
特許文献3では、「多重効用蒸留」によりエチレングリコール水溶液を濃縮させるための装置が記載されている。この解決方法では、エチレンオキサイド設備中でのエネルギー消費が高くなるという欠点は取り除かれない。それは、脱着工程との連結が行われていないからであり、脱着工程と濃縮工程とを結びつけることによる効果が得られないからである。
【0006】
特許文献4には、エチレンオキサイドの製造において付随的に生じるエチレングリコールを脱水塔を利用して回収する方法が記載されている。特許文献5には、リーン吸収剤を用いてアルキレングリコールを抽出、回収する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭56−104829
【特許文献2】DE2558039
【特許文献3】特開昭57−71601
【特許文献4】DD235635
【特許文献5】特表2011−516530
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、プロピレンオキサイドの製造において付随的に生じるプロピレングリコールを、経済的に好都合な条件の元で、実質的に追加的なエネルギー消費をすることなく、かつ、主生成物の品質に影響を与えることなく回収することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段について検討した結果、以下の発明を見出した。
[1] プロピレンオキサイドの製造において付随的に生じるプロピレングリコールを回収する方法であって、脱着塔の頂部からプロピレンオキサイドを排出させ、脱着塔の底部からほぼプロピレンオキサイドが含まれていないプロピレングリコール含有循環水を排出させ、プロピレングリコール及びこれ以外の反応生成物の濃度を常に低く維持するために、前記循環水の一部を廃棄する方法において、
前記脱着塔の後ろに、脱水塔が接続され、
前記脱水塔の排出蒸気が、ストリップ蒸気として、前記脱着塔の最下段の下部から導入されることを特徴とする、方法。
[2] 前記脱水塔中のプロピレングリコール液において、プロピレングリコール及びこれ以外の反応生成物が50重量%〜90重量%に濃縮され、
前記脱水塔のプロピレングリコール液の圧力が、前記脱着塔の頂部における圧力よりも、0.01MPa〜0.08MPa高く設定されることをさらに特徴とする、[1]記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、プロピレンオキサイドの製造において、付随的に生じるプロピレングリコールを、経済的に好都合な条件の元で、実質的に追加的なエネルギー消費をすることなく、かつ、主生成物の品質に影響を与えることなく回収することができる。すなわち、高濃度のプロピレングリコールを得つつ、同時に用いる蒸気を節約することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の方法のプロセスフローの一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明における「プロピレンオキサイドの製造」には、気相中でのプロピレンの接触酸化による製造方法の他、種々の製造方法が含まれる。本発明が適用できるプロピレンオキサイドの製造方法としては、例えば、金属酸化物等を含有するような金属触媒存在下でプロピレン及び酸素を反応させる製法等が挙げられる。このような金属触媒存在下でプロピレン及び酸素を反応させる製法については、例えば、WO2011/075458、WO2011/075459、WO2012/005822、WO2012/005823、WO2012/005824、WO2012/005825、WO2012/005831、WO2012/005832、WO2012/005835、WO2012/005837等に記載されている。その製法において用いる触媒としては、下記(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)及び(j)からなる群から選ばれる少なくとも2種を含む触媒が挙げられる。
(a)銅酸化物
(b)ルテニウム酸化物
(c)マンガン酸化物
(d)ニッケル酸化物
(e)オスミウム酸化物
(f)ゲルマニウム酸化物
(g)クロミウム酸化物
(h)タリウム酸化物
(i)スズ酸化物
(j)アルカリ金属成分又はアルカリ土類金属成分
好ましくは(a)銅酸化物及び(b)ルテニウム酸化物を含有する触媒であり、より好ましくは(a)銅酸化物、(b)ルテニウム酸化物及び(j)アルカリ金属成分又はアルカリ土類金属成分を含有する触媒である。
【0013】
上記の製造方法で得られるプロピレンオキサイドを含むガス混合物には、通常0.5%〜5%のプロピレンオキサイドの他に、未反応プロピレン、未反応酸素、希釈ガス(窒素、ヘリウム、アルゴン、メタン、エタン等)、アクロレイン、プロピオンアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、生成水、炭酸ガス、一酸化炭素、有機酸類等が含まれる。このガス混合物を、プロピレンオキサイド吸収塔に導いて、水又は水を主成分とする吸収液と向流接触させることで、プロピレンオキサイド水溶液を得る。続いて、このプロピレンオキサイド水溶液を脱着塔に導いて、プロピレンオキサイドを脱着させて排出させ、他方、循環水が回収される。この循環水は、上記の吸収の操作及び脱着の操作で、プロピレンオキサイドがわずかな量だけ水と反応して、プロピレングリコール又はその重合体が生成され、吸収及び脱着を繰り返すことでこれら化合物が蓄積される。本発明では、かかるプロピレングリコール又はその重合体が蓄積された循環水を対象とする。
【0014】
図1を用いて、本発明をさらに説明する。
脱着塔1にプロピレンオキサイド含有循環水を供給する。この脱着塔は、上方向から下方向へと貫流し、この際、脱着された循環水が循環蒸発装置2を通って生成した蒸気によって、吸収されたプロピレンオキサイドの脱着が行われる。この脱着塔の頂部を介して、プロピレンオキサイドと水蒸気との混合物が、脱着塔の頂部の冷却器へと進み、さらに、必要に応じて再吸収塔へと進む。脱着塔から、ほぼプロピレンオキサイドがない循環水が生じる。この循環中にプロピレングリコール及びこれ以外の不純物の蓄積しないように、吸収塔に戻される循環水のうちのわずかな部分流が、脱水塔3の上方の段に流入するように導かれる。この循環水の生成物は、循環蒸発装置4を介して、ポンプを用いて循環から連続的に取り除かれ、それ自体は公知の方法でさらに再利用される。
【0015】
本発明の方法により、プロピレンオキサイド製造における脱着工程を経済的に改善することが可能となる。従来の方法に対して、本発明の回収方法によれば、後ろに接続された脱水塔により、プロピレングリコール濃度が約50%〜約90%のプロピレングリコールが得られ、脱着工程のために実質的にエネルギーを追加する必要がない。追加的なエネルギーの必要性は、脱水塔における放射による熱損失に限定される。この方法により、さらに、主生成物の品質に影響を与えることなくプロピレングリコールを経済的に再利用することが可能になる。例えば水酸化ナトリウム等を用いる化学的な処理が行われないことにより、水酸化ナトリウム濃度に差があっても、プロピレングリコール生産全体については支障が生じない。イオン交換体でプロピレングリコールを処理した際に生じる異質で不快な臭い(これにより、生成物の販売が困難になり、あるいは不可能になる)による、プロピレングリコールの最終生成物への悪影響は、回避される。
【0016】
したがって、この方法の利用の効果は、高濃度のプロピレングリコールが得られると同時に、約1.65MPaの加圧塔を用いる脱着工程の蒸気の必要性を、約40%も低下させることができる点にある。従来、環境汚染のために廃棄していたプロピレングリコールが濃縮され、利用される。脱着工程におけるエネルギーの相互利用により、循環水中のプロピレングリコール濃度を所望のように下げることができ、これにより、循環水の発泡傾向を下げることができる。排出蒸気を直接利用することにより、プロセスにおける水の必要性も低減させることができる。
【実施例】
【0017】
以下の実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1
脱着塔1にプロピレンオキサイド含有循環水を供給する。この脱着塔は、上方向から下方向へと貫流し、この際、脱着された循環水が循環蒸発装置2を通って生成した蒸気によって、吸収されたプロピレンオキサイドの脱着が行われる。この脱着塔の頂部を介して、プロピレンオキサイドと水蒸気との混合物が、脱着塔の頂部の冷却器へと進み、さらに、必要に応じて再吸収塔へと進む。脱着塔から、ほぼプロピレンオキサイドがない循環水が生じる。プロピレンオキサイドの濃度は、約20Ma ppmを上回るべきではない。この循環中にプロピレングリコール及びこれ以外の不純物の蓄積しないように、吸収塔に戻される循環水のうちのわずかな部分流が、脱水塔3の上方の段に流入するように導かれる。脱水塔の循環水の温度は、熱交換器4を介して、約135℃の温度にされ、循環水の圧力を約0.05MPaにすることが可能となる。脱着塔の頂部圧力は、約0.025MPaである。
【0018】
脱水塔への流入するプロピレングリコール濃度は約3%である。この際、この混合物中のプロピレングリコールの割合がいかに高いかは重要ではない。塔3からの排出蒸気は、塔1の最下段の下部から導き入れられる。この際、脱水塔の循環水中のプロピレングリコール濃度は約75%になる。この循環水の生成物は、循環蒸発装置4を介して、ポンプを用いて循環から連続的に取り除かれ、それ自体は公知の方法でさらに再利用される。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明によって、プロピレンオキサイドの製造において、付随的に生じるプロピレングリコールを、経済的に好都合な条件の下で、実質的に追加的なエネルギー消費をすることなく、かつ、主生成物の品質に影響を与えることなく回収することができる。
【符号の説明】
【0020】
1 プロピレンオキサイド脱着塔
2 循環蒸発装置
3 脱水塔
4 循環蒸発装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレンオキサイドの製造において付随的に生じるプロピレングリコールを回収する方法であって、脱着塔の頂部からプロピレンオキサイドを排出させ、脱着塔の底部からほぼプロピレンオキサイドが含まれていないプロピレングリコール含有循環水を排出させ、プロピレングリコール及びこれ以外の反応生成物の濃度を常に低く維持するために、前記循環水の一部を廃棄する方法において、
前記脱着塔の後ろに、脱水塔が接続され、
前記脱水塔の排出蒸気が、ストリップ蒸気として、前記脱着塔の最下段の下部から導入されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記脱水塔中のプロピレングリコール液において、プロピレングリコール及びこれ以外の反応生成物が50重量%〜90重量%に濃縮され、
前記脱水塔のプロピレングリコール液の圧力が、前記脱着塔の頂部における圧力よりも、0.01MPa〜0.08MPa高く設定されることをさらに特徴とする、請求項1記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−82672(P2013−82672A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2012−145151(P2012−145151)
【出願日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】