説明

プロピレン系樹脂微孔フィルム、電池用セパレータ、電池及びプロピレン系樹脂微孔フィルムの製造方法

【課題】 本発明は、リチウムイオンの透過性に優れており高性能のリチウムイオン電池を構成することができ且つデンドライトによる正極と負極の短絡を防止することができるプロピレン系樹脂微孔フィルムを提供する。
【解決手段】 本発明のプロピレン系樹脂微孔フィルムは、プロピレン系樹脂フィルムを一軸延伸することによって微小孔部が形成されてなるプロピレン系樹脂微孔フィルムであって、透気度が100〜400s/100mLで且つ微小孔部の開口端の最大長径が1μm以下で平均長径が500nm以下であると共に、孔密度が15個/μm2以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池のセパレータに好適に用いられるプロピレン系樹脂微孔フィルム及びその製造方法、並びに、プロピレン系樹脂微孔フィルムからなる電池用セパレータ及びこれを組み込んだ電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から携帯用電子機器の電源としてリチウムイオン電池が用いられている。このリチウムイオン電池は、一般的に、アルミニウム箔の表面にコバルト酸リチウム又はマンガン酸リチウムを塗布してなる正極と、銅箔の表面にカーボンを塗布してなる負極と、この正極と負極の短絡を防止するために正極と負極とを仕切るセパレータとを電解液中に配設することによって構成されている。
【0003】
そして、リチウムイオン電池は、その充電時には、正極からリチウムイオンが放出されて負極内に進入する一方、放電時には、負極からリチウムイオンが放出されて正極に移動することによって充放電が行われる。従って、リチウムイオン電池に用いられているセパレータは、リチウムイオンが良好に透過し得ることが必要である。
【0004】
リチウムイオン電池の充放電を繰り返すと、負極端面にリチウムのデンドライト(樹枝状結晶)が発生し、このデンドライトがセパレータを突き破って正極と負極とが微小な内部短絡(デンドライトショート)を起こし、著しく電池容量が劣化するという問題がある。
【0005】
リチウムイオン電池の安全性の向上のため、ポリエチレンを主とするオレフィン系樹脂の多孔フィルムがセパレータに使用されている。これは、リチウムイオン電池が短絡などによって異常発熱した場合に、多孔フィルムを構成しているポリエチレンが130℃前後の温度領域で溶融し、多孔構造が閉塞すること(シャットダウン)によって、リチウムイオン電池の異常発熱を停止させて安全性を確保することができるからである。
【0006】
近年、自動車用のリチウムイオン電池のような大型電池は高出力化が進んでおり、130℃を超える急激な温度上昇もあり得るため、シャットダウン機能は必ずしも求められておらず、リチウムイオン電池の耐熱性が重要視されている。又、リチウムイオン電池の高出力化のためには、リチウムイオンがセパレータを通過する際の低抵抗化が求められており、セパレータの高い透気性が必要とされている。更に、大型のリチウムイオン電池の場合には、長寿命、長期安全性の保障も重要となる。
【0007】
耐熱性の高いポリプロピレンの多孔フィルムを用いたセパレータは種々提案されており、特許文献1には、例えば、ポリプロピレンとポリプロピレンより溶融結晶化温度の高いポリマーおよびβ晶核剤となる組成物を溶融押出し、高温でシート状に成形後、少なくとも一軸延伸することを特徴とするポリプロピレン微孔性フィルムの製造方法が提案されている。
【0008】
しかしながら、上記ポリプロピレン微孔性フィルムの製造方法で得られたポリプロピレン微孔性フィルムは、透気度が低く、リチウムイオンの透過性が不充分であり、高出力を要するリチウムイオン電池に用いることは困難である。
【0009】
又、特許文献2には、ポリオレフィン樹脂多孔膜の少なくとも片面に、無機フィラー又は融点及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂を含有する厚さ0.2μm以上100μm以下の多孔層を備え、透気度が1〜650秒/100ccである多層多孔膜が提案されているが、上記多層多孔膜も、リチウムイオンの透過性が不充分であり、高出力を要するリチウムイオン電池に用いることは困難である。
【0010】
更に、特許文献3には、軽金属よりなる負極、非水電解液が含浸されたセパレータ、および正極で構成される非水電解液電池において、上記セパレータにポリエチレン微粉末が予め添着されている非水電解液電池が提案され、高出力用途に適した高耐熱性のポリプロピレン不織布をセパレータに用いている。
【0011】
しかしながら、上記セパレータは、数μm程度の大きな孔径を有していることから、微短絡が起こりやすいことが予想され、セパレータの寿命、長期安全性が充分ではないという問題点の他に、不織布を使用しているため、セパレータの薄膜化が困難という問題点も有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭63−199742号公報
【特許文献2】特開2007−273443号公報
【特許文献3】特開昭60−52号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、リチウムイオンの透過性に優れており高性能のリチウムイオン電池を構成することができ、高出力用途に用いてもデンドライトによる正極と負極の短絡や放電容量の急激な低下が生じにくいプロピレン系樹脂微孔フィルム及びその製造方法、並びに、プロピレン系樹脂微孔フィルムからなる電池用セパレータ及びこれを用いた電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のプロピレン系樹脂微孔フィルムは、プロピレン系樹脂フィルムを一軸延伸することによって微小孔部が形成されてなるプロピレン系樹脂微孔フィルムであって、透気度が100〜400s/100mLで且つ微小孔部の開口端の最大長径が1μm以下で平均長径が500nm以下であると共に、孔密度が15個/μm2以上であることを特徴とする。
【0015】
プロピレン系樹脂微孔フィルムに用いられるプロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレンと他のオレフィンとの共重合体などが挙げられる。プロピレン系樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。又、プロピレンと他のオレフィンとの共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体の何れであってもよい。
【0016】
なお、プロピレンと共重合されるオレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンなどのα−オレフィンなどが挙げられる。
【0017】
プロピレン系樹脂の重量平均分子量は、小さいと、プロピレン系樹脂微孔フィルムの微小孔部の形成が不均一となることがあり、大きいと、製膜が不安定になることがあり、又、微小孔部が形成されにくくなる虞れがあるので、25万〜50万が好ましく、28万〜48万がより好ましい。
【0018】
ここで、プロピレン系樹脂の重量平均分子量及び数平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法によって測定されたポリスチレン換算した値である。具体的には、プロピレン系樹脂6〜7mgを採取し、採取したプロピレン系樹脂を試験管に供給した上で、試験管に0.05重量%のBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)のo−DCB(オルトジクロロベンゼン)溶液を加えてプロピレン系樹脂濃度が1mg/mLとなるように希釈して希釈液を作製する。
【0019】
溶解濾過装置を用いて145℃にて回転速度25rpmにて1時間に亘って上記希釈液を振とうさせてプロピレン系樹脂をBHTのo−DCB溶液に溶解させて測定試料とする。この測定試料を用いてGPC法によってプロピレン系樹脂の重量平均分子量及び数平均分子量を測定することができる。
【0020】
プロピレン系樹脂における重量平均分子量及び数平均分子量は、例えば、下記測定装置及び測定条件にて測定することができる。
測定装置 TOSHO社製 商品名「HLC−8121GPC/HT」
測定条件 カラム:TSKgelGMHHR−H(20)HT×3本
TSKguardcolumn−HHR(30)HT×1本
移動相:o−DCB 1.0mL/分
サンプル濃度:1mg/mL
検出器:ブライス型屈折計
標準物質:ポリスチレン(TOSHO社製 分子量:500〜8420000)
溶出条件:145℃
SEC温度:145℃
【0021】
プロピレン系樹脂の融点は、低いと、プロピレン系樹脂微孔フィルムの高温における機械的強度が低下することがあり、高いと、製膜が不安定になることがあるので、160〜170℃が好ましい。
【0022】
プロピレン系樹脂における示差走査熱量分析(DSC)によって得られる融解熱量は、小さいと、プロピレン系樹脂の配向性が低下して、プロピレン系樹脂フィルムの延伸工程において、プロピレン系樹脂フィルムに均一に微小孔部を形成することができないことがあるので、85mJ/mg以上が好ましく、90mJ/mg以上がより好ましい。
【0023】
なお、プロピレン系樹脂の融点及びDSCによって得られる融解熱量は、下記の要領で測定された値をいう。先ず、プロピレン系樹脂10mgを採取する。次に、プロピレン系樹脂を0℃から昇温速度10℃/分にて250℃まで加熱し、250℃にて3分間に亘って保持する。次に、プロピレン系樹脂を250℃から降温速度10℃/分にて0℃まで冷却して0℃にて3分間に亘って保持する。続いて、プロピレン系樹脂を0℃から昇温速度10℃/分にて250℃まで再加熱し、この再加熱工程における融解ピークトップの温度を融点とし、融解ピークの総面積を算出し融解熱量とする。上記プロピレン系樹脂のDSCは、例えば、セイコーインスツル社のDSC220Cを用いることができる。
【0024】
プロピレン系樹脂微孔フィルムの透気度は、小さいと、プロピレン系樹脂微孔フィルムのリチウムイオンの透過性が低下して、プロピレン系樹脂微孔フィルムを用いたリチウムイオン電池の電池性能が低下することがあり、大きいと、プロピレン系樹脂微孔フィルムのフィルム強度が低下するので、100〜400s/100mLに限定され、100〜320s/100mLが好ましい。
【0025】
なお、プロピレン系樹脂微孔フィルムの透気度は、JIS P8117に準拠して23℃、相対湿度65%にて測定された値をいう。
【0026】
プロピレン系樹脂微孔フィルムにおける微小孔部の開口端の最大長径は、大きいと、局所的なリチウムイオンの移動によってデンドライトショートが発生する虞れがあり、又、プロピレン系樹脂微孔フィルムの機械的強度が低下する虞れがあるので、1μm以下に限定され、900μm以下が好ましい。
【0027】
プロピレン系樹脂微孔フィルムにおける微小孔部の開口端の平均長径は、大きいと、デンドライトショートが発生する虞れがあるので、500nm以下に限定され、400nm以下が好ましい。
【0028】
なお、プロピレン系樹脂微孔フィルムにおける微小孔部の開口端の最大長径及び平均長径は次のようにして測定される。先ず、プロピレン系樹脂微孔フィルムの表面をカーボンコーティングする。次に、プロピレン系樹脂微孔フィルムの表面における任意の10個所を走査型電子顕微鏡を用いて倍率1万にて撮影する。なお、撮影範囲は、プロピレン系樹脂微孔フィルムの表面において縦9.6μm×横12.8μmの平面長方形の範囲とする。
【0029】
得られた写真に現れている各微小孔部の開口端の長径を測定する。微小孔部における開口端の長径のうち、最大の長径を微小孔部の開口端の最大長径とする。各微小孔部における開口端の長径の相加平均値を微小孔部の開口端の平均長径とする。なお、微小孔部の開口端の長径とは、この微小孔部の開口端を包囲し得る最小径の真円の直径とする。撮影範囲と、撮影範囲でない部分とに跨がって存在している微小孔部については、測定対象から除外する。
【0030】
プロピレン系樹脂微孔フィルムの孔密度は、上記透気度範囲を満たし且つ微小孔部の開口端の最大長径及び平均長径が上記範囲を満たすために自ずと下限値が制約されるものであり、小さいと、プロピレン系樹脂微孔フィルムの物性(透気度、微小孔部の開口端の最大長径又は微小孔部の開口端の平均長径)を満足しなくなるので、15個/μm2以上に限定され、17個/μm2以上が好ましい。
【0031】
なお、プロピレン系樹脂微孔フィルムの孔密度は、下記の要領で測定する。先ず、プロピレン系樹脂微孔フィルム表面の任意の部分において、縦9.6μm×横12.8μmの平面長方形状の測定部分を定め、この測定部分を倍率1万倍にて写真撮影する。そして、測定部分において微小孔部の個数を測定し、この個数を122.88μm2(9.6μm×12.8μm)で除すことによって孔密度を算出することができる。なお、測定部分と、測定部分でない部分とに跨がって存在している微小孔部は0.5個として数える。
【0032】
次に、プロピレン系樹脂微孔フィルムの製造方法について説明する。先ず、プロピレン系樹脂を押出機に供給して溶融混練した上で、押出機の先端に取り付けたTダイからプロピレン系樹脂フィルムを押出す(押出工程)。
【0033】
プロピレン系樹脂を押出機にて溶融混練する際のプロピレン系樹脂の温度は、低いと、得られるプロピレン系樹脂微孔フィルムの厚みが不均一となり或いはプロピレン系樹脂微孔フィルムの表面平滑性が低下し、高いと、プロピレン系樹脂の配向性が低下してプロピレン系樹脂がラメラ構造を充分に形成しない虞れがあるので、プロピレン系樹脂の融点よりも20℃高い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点よりも100℃高い温度以下が好ましく、プロピレン系樹脂の融点よりも25℃高い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点よりも80℃高い温度以下であることがより好ましい。
【0034】
プロピレン系樹脂を押出機からフィルム状に押出す際におけるドロー比は、小さいと、プロピレン系樹脂に加わる張力が低下して、プロピレン系樹脂の分子配向が不充分となり、プロピレン系樹脂がラメラ構造を充分に形成しない虞れがあり、大きいと、プロピレン系樹脂の分子配向は高いものとなるが、プロピレン系樹脂フィルムの製膜安定性が低下し、得られるプロピレン系樹脂フィルムの厚み精度や幅精度が低下するので、50〜300が好ましく、70〜250がより好ましい。なお、ドロー比とは、TダイのリップのクリアランスをTダイから押出されたプロピレン系樹脂フィルムの厚みで除した値をいう。
【0035】
プロピレン系樹脂フィルムの製膜速度は、小さいと、プロピレン系樹脂に加わる張力が低下して、プロピレン系樹脂の分子配向が不充分となり、プロピレン系樹脂がラメラ構造を充分に形成しない虞れがあり、大きいと、プロピレン系樹脂の分子配向は高いものとなるが、プロピレン系樹脂フィルムの製膜安定性が低下し、得られるプロピレン系樹脂フィルムの厚み精度や幅精度が低下するので、10〜300m/分が好ましく、15〜250m/分がより好ましい。
【0036】
次いで、得られたプロピレン系樹脂フィルムを養生する。このプロピレン系樹脂の養生工程は、プロピレン系樹脂フィルムのラメラの結晶化を促進するために行う。このことにより、後述するプロピレン系樹脂フィルムの延伸工程において、ラメラ内ではなく、ラメラ間において亀裂を発生させ、この亀裂を起点として微小な貫通孔(微小孔部)を形成することができる。
【0037】
プロピレン系樹脂フィルムの養生温度は、低いと、プロピレン系樹脂フィルムのラメラの結晶化が促進されず、プロピレン系樹脂フィルムの延伸工程において、ラメラ間において微小な貫通孔が形成されにくく、高いと、プロピレン系樹脂フィルムのプロピレン系樹脂分子の配向が緩和してしまい、ラメラ構造が崩れる虞れがあるので、プロピレン系樹脂の融点よりも30℃低い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点よりも5℃低い温度以下に限定され、プロピレン系樹脂の融点よりも25℃低い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点よりも10℃低い温度以下が好ましい。
【0038】
プロピレン系樹脂フィルムの養生時間は、短いと、プロピレン系樹脂フィルムのラメラの結晶化が促進されず、プロピレン系樹脂フィルムの延伸工程において、ラメラ間において微小な貫通孔が形成されにくいので、充分な時間を確保することが好ましい。
【0039】
次に、養生されたプロピレン系樹脂フィルムを延伸する(延伸工程)が、この延伸工程は、第一延伸工程と、この第一延伸工程に続く第二延伸工程とからなる。第一延伸工程では、プロピレン系樹脂フィルムをその押出方向にのみ一軸延伸する。
【0040】
第一延伸工程において、プロピレン系樹脂フィルム中のラメラは殆ど溶融しておらず、延伸によってラメラ同士を離間させることによって、ラメラ間の非晶部において効率的に微細な亀裂を独立して生じさせ、この亀裂を起点として確実に多数の微小孔部を形成させる。
【0041】
第一延伸工程において、プロピレン系樹脂フィルムの表面温度は、低いと、延伸時にプロピレン系樹脂フィルムが破断する虞れがあり、高いと、ラメラ間の非晶部において亀裂が発生しにくくなるので、−20〜100℃が好ましく、0〜80℃がより好ましい。
【0042】
第一延伸工程において、プロピレン系樹脂フィルムの延伸倍率は、小さいと、ラメラ間の非晶部において微小孔部が形成されにくくなり、大きいと、プロピレン系樹脂微孔フィルムに微小孔部が均一に形成されないことがあるので、1.05〜1.6倍が好ましく、1.10〜1.5倍がより好ましい。
【0043】
なお、本発明において、プロピレン系樹脂フィルムの延伸倍率とは、延伸後のプロピレン系樹脂フィルムの長さを延伸前のプロピレン系樹脂フィルムの長さで除した値をいう。
【0044】
プロピレン系樹脂フィルムの第一延伸工程における延伸速度は、小さいと、ラメラ間の非晶部において微小孔部が均一に形成されにくくなるので、20%/分以上が好ましく、大き過ぎると、プロピレン系樹脂フィルムが破断する虞れがあるので、20〜3000%/分がより好ましい。
【0045】
なお、本発明において、プロピレン系樹脂フィルムの延伸速度とは、単位時間当たりのプロピレン系樹脂フィルムの延伸方向における寸法の変形割合をいう。
【0046】
上記第一延伸工程におけるプロピレン系樹脂フィルムの延伸方法としては、プロピレン系樹脂フィルムをその押出方向にのみ一軸延伸することができれば、特に限定されず、例えば、プロピレン系樹脂フィルムを一軸延伸装置を用いて所定温度にて一軸延伸する方法などが挙げられる。
【0047】
次いで、第一延伸工程における一軸延伸後のプロピレン系樹脂フィルムに、好ましくは、プロピレン系樹脂フィルムの表面温度が第一延伸工程での一軸延伸時のプロピレン系樹脂フィルムの表面温度よりも高く且つプロピレン系樹脂の融点より10〜100℃低い温度以下にて押出方向にのみ一軸延伸処理を施す(第二延伸工程)。このように、第一延伸工程におけるプロピレン系樹脂フィルムの表面温度よりも高い表面温度にてプロピレン系樹脂フィルムに第一延伸工程時と同一方向に延伸処理を施すことによって、第一延伸工程にてプロピレン系樹脂フィルムに形成された多数の微小孔部を成長させることができる。
【0048】
第二延伸工程において、プロピレン系樹脂フィルムの表面温度は、低いと、第一延伸工程においてプロピレン系樹脂フィルムに形成された微小孔部が成長し難く、プロピレン系樹脂微孔フィルムの透気性が向上しないことがあり、高いと、第一延伸工程においてプロピレン系樹脂フィルムに形成された微小孔部が閉塞してしまい、かえってプロピレン系樹脂微孔フィルムの透気性が低下することがあるので、第一延伸工程におけるプロピレン系樹脂フィルムの表面温度よりも高く且つプロピレン系樹脂の融点より10〜100℃低い温度以下が好ましく、第一延伸工程におけるプロピレン系樹脂フィルムの表面温度よりも高く且つプロピレン系樹脂の融点より15〜80℃低い温度以下がより好ましい。
【0049】
第二延伸工程において、プロピレン系樹脂フィルムの延伸倍率は、小さいと、第一延伸工程時にプロピレン系樹脂フィルムに形成された微小孔部が成長し難く、プロピレン系樹脂微孔フィルムの透気性が低下することがあり、大きいと、第一延伸工程においてプロピレン系樹脂フィルムに形成された微小孔部が閉塞してしまい、かえってプロピレン系樹脂微孔フィルムの透気性が低下することがあるので、1.05〜3倍が好ましく、1.8〜2.5倍がより好ましい。
【0050】
第二延伸工程において、プロピレン系樹脂フィルムの延伸速度は、大きいと、プロピレン系樹脂フィルムに微小孔部が均一に形成されないことがあるので、500%/分以下が好ましく、400%/分以下がより好ましい。
【0051】
上記第二延伸工程におけるプロピレン系樹脂フィルムの延伸方法としては、プロピレン系樹脂フィルムをその押出方向にのみ一軸延伸することができれば、特に限定されず、例えば、プロピレン系樹脂フィルムを一軸延伸装置を用いて所定温度にて一軸延伸する方法などが挙げられる。
【0052】
第二延伸工程にて一軸延伸が施されたプロピレン系樹脂フィルムはアニール処理が施される(アニーリング工程)。このアニーリング工程は、上述した延伸工程において加えられた延伸によってプロピレン系樹脂フィルムに生じた残存歪みを緩和して、得られるプロピレン系樹脂微孔フィルムに加熱による熱収縮が生じるのを抑えるために行われる。
【0053】
アニーリング工程におけるプロピレン系樹脂フィルムの表面温度は、低いと、プロピレン系樹脂フィルム中に残存した歪みの緩和が不充分となって、得られるプロピレン系樹脂微孔フィルムの加熱時における寸法安定性が低下することがあり、高いと、延伸工程で形成された微小孔部が閉塞してしまう虞れがあるので、第二延伸工程時のプロピレン系樹脂フィルムの表面温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点よりも10℃低い温度以下が好ましい。
【0054】
アニーリング工程におけるプロピレン系樹脂フィルムの収縮率は、大きいと、プロピレン系樹脂フィルムにたるみを生じて均一にアニールできなくなったり、微小孔部の形状が保持できなくなったりすることがあるので、30%以下に設定することが好ましい。なお、プロピレン系樹脂フィルムの収縮率とは、アニーリング工程時における延伸方向におけるプロピレン系樹脂フィルムの収縮長さを、第二延伸工程後の延伸方向におけるプロピレン系樹脂フィルムの長さで除して100を乗じた値をいう。
【0055】
このようにして得られたプロピレン系樹脂微孔フィルムは、多数の微小孔部がフィルム表裏面を貫通して形成され、優れた透気性を有している。従って、プロピレン系樹脂微孔フィルムを例えば、リチウムイオン電池のセパレータとして用いると、リチウムイオンは、プロピレン系樹脂微孔フィルムを円滑に且つ均一に通過することができるので、得られるリチウムイオン電池は優れた電池性能を発揮する。
【0056】
更に、プロピレン系樹脂微孔フィルムは、多数の微小孔部が独立して形成されているので、上述の優れた透気性を維持しており、リチウムイオンが円滑に且つ均一に透過し易く、デンドライトが生成しにくく、更に、優れた機械的強度も有しており、リチウムイオン電池の充放電によって万一、負極端面にリチウムのデンドライトが生じたとしても、デンドライトがプロピレン系樹脂微孔フィルムを突き破ることはなく、デンドライトショートを確実に防止し、電池容量の劣化などの問題を生じることを未然に防止することができる。
【発明の効果】
【0057】
本発明のプロピレン系樹脂微孔フィルムは、上述の如き構成を有しているので、優れた透気性を有しており、例えば、リチウムイオン電池のセパレータに用いた場合にはリチウムイオンの通過を円滑で且つ均一なものとし、リチウムイオン電池は優れた電池性能を有していると共に、デンドライトショートの発生も概ね防止することができ、長期間に亘って安定した電池性能を有するリチウムイオン電池を構成することができる。
【0058】
特に、本発明のプロピレン系樹脂微孔フィルムをセパレータに用いることによって、高出力用途においても放電容量の急激な低下やデンドライトショートの発生が概ね防止された高性能な電池性能を有するリチウムイオン電池を構成することができる。
【0059】
本発明のプロピレン系樹脂微孔フィルムの製造方法によれば、上記の如きプロピレン系樹脂微孔フィルムを容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0061】
(実施例1,2、比較例1,2,4)
表1に示した重量平均分子量、数平均分子量、融点及びDSCによって得られる融解熱量を有するホモポリプロピレンを押出機に供給して樹脂温度200℃にて溶融混練し、押出機の先端に取り付けられたTダイからフィルム状に押出して30℃にて冷却して厚みが30μmで且つ幅が200mmのホモポリプロピレンフィルムを得た。なお、押出量は10kg/時間、製膜速度は22m/分、ドロー比は83であった。
【0062】
得られたホモポリプロピレンフィルムを熱風炉中に供給して、ホモポリプロピレンフィルムをその表面温度が表1に示した温度となるようにして24時間に亘って養生した(養生工程)。
【0063】
次に、ホモポリプロピレンフィルムを押出方向に300mm、幅方向に160mmの短冊状に裁断した。このホモポリプロピレンフィルムを一軸延伸装置(井元製作所社製 商品名「IMC−18C6」)を用いて表面温度が23℃となるようにして50%/分の延伸速度にて延伸倍率1.2倍に押出方向にのみ一軸延伸した(第一延伸工程)。
【0064】
続いて、ホモポリプロピレンフィルムを一軸延伸装置(井元製作所社製 商品名「IMC−18C6」)を用いて表面温度が120℃となるようにして42%/分の延伸速度にて延伸倍率2倍に押出方向にのみ一軸延伸した(第二延伸工程)。
【0065】
しかる後、ホモポリプロピレンフィルムをその表面温度が130℃となるように且つホモポリプロピレンフィルムに張力が加わらないようにして10分間に亘って放置して、ホモポリプロピレンフィルムにアニールを施して厚みが25μmのプロピレン系樹脂微孔フィルムを得た(アニーリング工程)。なお、アニーリング工程におけるホモポリプロピレンフィルムの収縮率は20%とした。
【0066】
(実施例3)
第二延伸工程において、ホモポリプロピレンフィルムの表面温度を130℃とし延伸倍率を1.80倍としたこと、アニーリング工程において、ホモポリプロピレンフィルムの表面温度を150℃とし収縮率を10%としたこと以外は実施例2と同様にしてプロピレン系樹脂微孔フィルムを得た。
【0067】
(比較例3)
養生工程において、ホモポリプロピレンフィルムの表面温度を120℃としたこと、第二延伸工程において、ホモポリプロピレンフィルムの表面温度を110℃とし延伸倍率を1.10倍としたこと、アニーリング工程において、ホモポリプロピレンフィルムの表面温度を150℃とし収縮率を10%としたこと以外は実施例2と同様にしてプロピレン系樹脂微孔フィルムを得た。
【0068】
得られたプロピレン系樹脂微孔フィルムの透気度、微小孔部の開口端の最大長径及び平均長径並びに孔密度を上述の要領で測定し、その結果を表1に示した。
【0069】
実施例4、比較例2〜4で得られたプロピレン系樹脂微孔フィルムを電池用セパレータとして用いてリチウムイオン電池を作製し、初期抵抗値、1C放電容量及び5C放電容量を下記の要領で測定し、その結果を表1に示した。
【0070】
正極集電体としてアルミニウム箔を用い、アルミニウム箔の表面に、LiMn24(平均粒径:26μm)92重量%、導電剤としてカーボンブラック4重量%及びバインダー樹脂としてポリフッ化ビニリデン4重量%からなる正極活物質をコンマコーターを用いて塗布して正極を作製した。
【0071】
負極集電体として電解銅箔を用い、電解銅箔の表面に、グラファイト粒子91重量%、導電剤としてカーボンブラック5重量%及びバインダー樹脂としてポリフッ化ビニリデン4重量%からなる負極活物質をコンマコーターを用いて塗布して負極を作製した。
【0072】
正極及び負極をそれぞれ縦30mm×横60mmの平面長方形状に打ち抜いた後、プロピレン系樹脂微孔フィルムを介して正極と負極とを重ね合わせて積層体を形成し、各電極にタブを配設した後、上記積層体を80℃にて12時間に亘って減圧乾燥した。
【0073】
積層体を減圧乾燥した後、積層体を外装材に収納しアルゴンガス雰囲気中にて電解液を注入した上で、外装材を用いて真空シールして電池セルを作製した。なお、電解液は、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとを3:7(体積比)にて混合して得られた混合溶液を溶媒としたLiPF6溶液(1mol/L)を用いた。
【0074】
電池セルのACインピーダンス(初期抵抗値)測定を行った。ACインピーダンス測定は、BAS−ZAHNER社から商品名「IM−6インピーダンスアナライザー」にて市販されている測定システムを用いて行った。測定周波数は100mHz〜1MHz、印加電圧10mVとした。電池セルは3.8Vで充電調整したものを評価した。測定したACインピーダンス(初期抵抗値)を表1に示した。
【0075】
ハイレート特性比較のため、20℃恒温槽中で0.2Cに相当する電流で電圧4.2Vにて電池セルの充電を行った後、1C又は5Cに相当する電流で電圧2.7Vにて電池セルの放電を行い、この時の電池セルの放電容量を測定した。5Cでの放電容量を1Cでの放電容量で除して100を乗じた値を放電容量維持率として表1に示した。
【0076】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン系樹脂フィルムを一軸延伸することによって微小孔部が形成されてなるプロピレン系樹脂微孔フィルムであって、透気度が100〜400s/100mLで且つ微小孔部の開口端の最大長径が1μm以下で平均長径が500nm以下であると共に、孔密度が15個/μm2以上であることを特徴とするプロピレン系樹脂微孔フィルム。
【請求項2】
プロピレン系樹脂は、重量平均分子量が25万〜50万で且つ融点が160〜170℃であることを特徴とする請求項1に記載のプロピレン系樹脂微孔フィルム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のプロピレン系樹脂微孔フィルムからなることを特徴とする電池用セパレータ。
【請求項4】
請求項3に記載の電池用セパレータを組み込んでなることを特徴とする電池。
【請求項5】
重量平均分子量が25万〜50万で且つ融点が160〜170℃であるプロピレン系樹脂を押出機に供給して溶融混練し上記押出機の先端に取り付けたTダイからプロピレン系樹脂フィルムを押出す押出工程と、このプロピレン系樹脂フィルムをプロピレン系樹脂の融点よりも30℃低い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点よりも5℃低い温度以下にて養生する養生工程と、この養生が施されたプロピレン系樹脂フィルムを一軸延伸する延伸工程と、この延伸が施されたプロピレン系樹脂フィルムをアニールするアニーリング工程とを含むことを特徴とするプロピレン系樹脂微孔フィルムの製造方法。
【請求項6】
押出工程において、プロピレン系樹脂を押出機にてプロピレン系樹脂の融点よりも20℃高い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点よりも100℃高い温度以下にて溶融混練すると共に、延伸工程が、プロピレン系樹脂フィルムをその表面温度が−20〜100℃にて延伸倍率1.05〜1.6倍に延伸する第一延伸工程と、この第一延伸工程で延伸されたプロピレン系樹脂フィルムをその表面温度が第一延伸工程におけるプロピレン系樹脂フィルムの表面温度より高く且つプロピレン系樹脂の融点より10〜100℃低い温度以下にて延伸倍率1.05〜3倍に延伸する第二延伸工程とを含み、アニーリング工程において、プロピレン系樹脂フィルムをその表面温度が第二延伸工程時のプロピレン系樹脂フィルムの表面温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点よりも10℃低い温度以下にてアニールすることを特徴とする請求項5に記載のプロピレン系樹脂微孔フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2012−64556(P2012−64556A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245102(P2010−245102)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】