説明

プロピレン系樹脂組成物および該組成物を射出成形してなる自動車用バンパー

【課題】機械物性などのバランスおよび耐汚れ性能に優れた自動車用バンパーを提供する。
【解決手段】(A)プロピレンブロック共重合体成分60〜80重量%と、(B)エラストマー性重合体成分10〜20重量%と、(C)無機充填剤10〜20重量%とを含む樹脂組成物100重量部に対して、(D)一般式 R−N(CHCHOH)(Rは、炭素数10〜30の炭化水素基)で表されるポリオキシエチレン牛脂アミン0.1〜5重量部を添加してなるプロピレン系樹脂組成物を射出成形することにより、機械物性などのバランスおよび耐汚れ性能に優れた自動車用バンパーが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械物性のバランスに優れるとともに、耐汚れ性能に優れたプロピレン系樹脂組成物に関し、さらに詳しくは、前記特性に優れた特に自動車用バンパーを形成するのに適したポリプロピレン系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンは日曜雑貨、台所用品、包装用フィルム、自動車部品、機械部品、電気部品など、種々の分野で利用されており、要求される性能に応じて種々の添加剤を配合して用いられている。例えば、自動車部品などの機械的強度が要求される分野においては、エラストマー、タルクなどを配合したポリプロピレン組成物が利用されている。
【0003】
近年の自動車バンパー用途向けポリプロピレンは、成形加工性能、高剛性、高衝撃性能、フローマークやウェルド外観性能の見地からの材料開発が多く行われている。しかしながら、屋外使用時の汚れにくさという自動車バンパーに対する要求性能については、例えば特開2001-40251による汚れ防止性能に優れる汚れ防止剤をバンパー基材に塗布するという手段であり、バンパー用ポリプロピレン自体が優れた耐汚れ性能を確保できているとは言えない。
【特許文献1】特開2001−40251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、機械物性などのバランスに優れ、かつ耐汚れ性能に優れたプロピレン系樹脂組成物を射出成形してなることを特徴とする自動車用バンパーを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)(A)プロピレンブロック共重合体成分60〜80重量%と、
(B)エラストマー性重合体成分10〜20重量%と、
(C)無機充填剤10〜20重量%、
とを含む樹脂組成物であって、
(A)プロピレンブロック共重合体成分は、
(A−1)メルトフローレート(230℃、荷重2.16kg)が30〜100g/10分であり、プロピレン・エチレンランダム共重合体部を5〜15重量%の割合で含有しており、プロピレン・エチレンランダム共重合体部中のエチレン含量が35〜45モル%である結晶性プロピレンブロック共重合体30〜60重量部と、
(A−2)メルトフローレート(230℃、荷重2.16kg)が30〜100g/10分であり、プロピレン・エチレンランダム共重合体部を15〜40重量%の割合で含有している結晶性プロピレンブロック共重合体40〜70重量部((A−1)と(A−2)との合計は100重量部)とからなり、
(B)エラストマー性重合体成分は、
メルトフローレート(190℃、荷重2.16kg)が3〜5g/10分であるエチレンと炭素数4以上のα−オレフィンとの共重合ゴムである、
樹脂組成物100重量部に対して、
(D)下記一般式(I)で表されるポリオキシエチレン牛脂アミン0.1〜5重量部、
R−N(CHCHOH) …(I)
(Rは、炭素数10〜30の炭化水素基)
を添加することを特徴とするプロピレン系樹脂組成物。
(2)(1)に記載のプロピレン系樹脂組成物を射出成形してなる自動車用バンパー。
【発明の効果】
【0006】
本発明のプロピレン系樹脂組成物を用いれば、機械物性のバランスに優れ、かつ耐汚れ性能に優れた自動車用バンパーを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明に係るプロピレン系樹脂組成物について具体的に説明する。本発明に係るプロピレン系樹脂組成物は、
(A)プロピレンブロック共重合体成分
(B)エラストマー性重合体成分
(C)無機充填剤
(D)ポリオキシエチレン牛脂アミン
を必須成分として含む。以下、上記の各成分についてそれぞれ説明する。
【0008】
(A)プロピレンブロック共重合体成分
本発明で用いられる(A)プロピレンブロック共重合体成分は、(A−1)結晶性プロピレンブロック共重合体30〜60重量部、好ましくは35〜50重量部と、(A−2)結晶性プロピレンブロック共重合体40〜70重量部、好ましくは50〜65重量部とからなる。ここで、(A−1)と(A−2)との合計は100重量部である。
【0009】
(A−1)結晶性プロピレンブロック共重合体は、プロピレン単独重合体部とプロピレン・エチレンランダム共重合体部とを有し、プロピレン・エチレンランダム共重合体部を5〜15重量%の割合で含有しており、メルトフローレート(230℃、荷重2.16kg)が30〜100g/10分である。また、プロピレン・エチレンランダム共重合体部中のエチレン含量が35〜45モル%、極限粘度[η](230℃、デカヒドロナフタレン中にて測定)が5〜10dl/gであり、プロピレン単独重合体部の13C-NMRで測定されるアイソタクチックペンタッド分率(mmmm)が97%以上であることが好ましい。
【0010】
(A−2)結晶性プロピレンブロック共重合体は、プロピレン単独重合体部とプロピレン・エチレンランダム共重合体部とを有し、プロピレン・エチレンランダム共重合体部を15〜40重量%の割合で含有しており、メルトフローレート(230℃、荷重2.16kg)が30〜100g/10分である。また、プロピレン・エチレンランダム共重合体部中のエチレン含量が30〜50モル%であり、極限粘度[η](230℃、デカヒドロナフタレン中にて測定)が1〜4dl/gであることが好ましい。
これら(A)プロピレンブロック共重合体成分は、本発明の目的を損なわない範囲で、他の共重合モノマー、例えば炭素数4以上のα−オレフィン、から導かれる単位を少量含んでいてもよい。
【0011】
(A)プロピレンブロック共重合体成分は、種々の方法により製造することができるが、例えばチーグラー・ナッタ系触媒あるいはメタロセン触媒などの公知のオレフィン立体規則性触媒を用いて製造することができる。チーグラー・ナッタ系触媒を使用する(A)プロピレンブロック共重合体成分の製造例として、例えば固体状チタン触媒成分、有機金属化合物触媒成分、さらに必要に応じて電子供与体とから形成された触媒の存在下にプロピレンを重合させた後、引き続いてエチレンおよびプロピレンを共重合させる方法を挙げることができる。ここでエチレンおよびプロピレンの流量比などの共重合条件を調節することにより、プロピレンブロック共重合体中のプロピレン・エチレンランダム共重合体部の割合やエチレン含量を調節することができる。このように、公知のオレフィン立体規則性触媒と共重合条件の適切な組み合わせ、および公知のポリオレフィン分子量調節技術によって、前記(A−1)結晶性プロピレンブロック共重合体および(A−2)結晶性プロピレンブロック共重合体を製造することができる。
【0012】
このような(A)プロピレンブロック共重合体成分は、本発明に係る成分(A)〜(C)よりなる樹脂組成物中に、60〜80重量%、好ましくは65〜78重量%の割合で存在する。
【0013】
(B)エラストマー性重合体成分
本発明で用いられる(B)エラストマー性重合体成分は、エチレンとα−オレフィンとの共重合ゴムであり、具体的には(B−1)エチレン・α−オレフィンランダム共重合体である。ここに、α−オレフィンは炭素数4以上であり、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−ペンテン、1−オクテン、1−デセン等が好ましくあげられ、1−ブテンがより好ましい。α−オレフィンは、1種類単独でもよいし、2種類以上のものを共重合させていてもよい。(B−1)エチレン・α−オレフィンランダム共重合体としては、メルトフローレート(190℃、荷重2.16kg)3〜5g/10分のものが好ましく用いられる。また、(B−1)エチレン・α−オレフィンランダム共重合体中のα−オレフィンの含有量は、20〜40重量%であることが好ましい。
【0014】
このような(B−1)エチレン・α−オレフィンランダム共重合体は、オレフィン立体規則性重合触媒を用いてエチレンと炭素数4以上のα−オレフィンとを共重合させて製造することができる。特に、シングルサイト触媒を用いて製造したエチレン・α−オレフィンランダム共重合体は、分子量分布および組成分布が狭いことから、低温での衝撃強度向上効果に優れている。そのようなシングルサイト触媒の例として、シクロペンタジエン骨格を有する化合物がジルコニウム金属等の遷移金属に配位したメタロセン化合物と、有機アルミニウムオキシ化合物等とを含むメタロセン系触媒を挙げることができる。
【0015】
このような(B)エラストマー性重合体成分は、本発明に係る成分(A)〜(C)よりなる樹脂組成物中に、10〜20重量%、好ましくは12〜18重量%の割合で存在する。
【0016】
(C)無機充填剤
本発明で用いられる(C)無機充填剤としては、タルク、クレー、炭酸カルシウム、マイカ、ケイ酸塩類、炭酸塩類、ガラス繊維などが挙げられる。これらの中で特にタルクが好ましい。タルクとしては、平均粒径が1〜10μm、好ましくは2〜6μmのものが望ましい。(C)無機充填剤は、1種単独で用いることもできるし、2種以上を組み合せて使用することもできる。
【0017】
このような(C)無機充填剤は、本発明に係る成分(A)〜(C)よりなる樹脂組成物中に、10〜20重量%、好ましくは12〜18重量%の割合で存在する。
【0018】
(D)ポリオキシエチレン牛脂アミン
本発明で用いられる(D)ポリオキシエチレン牛脂アミンは、下記一般式(I)で表される化合物である。
R−N(CHCHOH) …(I)
ここでRは、炭素数10〜30の炭化水素基であり、好ましくは炭素数13〜20の炭化水素基である。
【0019】
このような(D)ポリオキシエチレン牛脂アミンは、本発明に係る成分(A)〜(C)よりなる樹脂組成物100重量部に対して、0.1〜5重量部、好ましくは0.5〜4重量部、より好ましくは1〜3重量部の割合で添加するのがよい。
【0020】
本発明に係るプロピレン系樹脂組成物は、前記(A)〜(D)成分の他に、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で、耐熱安定剤、帯電防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、軟化剤、分散剤、滑剤などの添加剤を配合することができる。
【0021】
本発明に係るプロピレン系樹脂組成物は、前記(A)〜(D)成分、および必要により配合する添加剤を、バンバリーミキサー、単軸押出機、2軸押出機、高速2軸押出機などの混合装置により混合または溶融混練することにより得ることができる。この際、(A)〜(D)の各成分、および必要により配合する添加剤などの混合順序は任意であり、同時に混合してもよいし、一部成分を混合した後に他の成分を混合するというような多段階の混合方法を採用することもできる。
【0022】
本発明に係るプロピレン系組成物は、自動車外装用部品、特に自動車用バンパーの部品成形に好ましく使用することができる。
【0023】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔物性評価〕
本発明の実施例における物性評価は、次の方法により行った。
(1)メルトフローレート(MFR)は、ASTM D1238(230℃、荷重2.16kg)に従って測定した。
(2)曲げ弾性率(FM)は、ASTM D790に従って測定した。
(3)曲げ強度(FS)は、ASTM D790に従って測定した。
(4)引張降伏点強さ(YS)は、ASTM D638に従って測定した。
(5)引張降伏点伸び(EL)は、ASTM D638に従って測定した。
(6)耐汚れ性能は、次の屋外暴露試験官能評価方法およびトタン暴露官能評価方法により評価した。
【0024】
(6−1)屋外暴露試験官能評価方法
射出成形によって得られた10cm×20cm角、厚さ3.0mmの平板試験片を図1に示すように地面に対し45°に傾け、南方向に向かせた状態で、地上より150cmの高さで3〜24週間屋外の自然天候下に暴露した。暴露終了後、温度23℃、相対湿度50±5%の室内環境に該試験片を24時間放置した後、該試験片を水平に保ち、23℃の蒸留水を十分に浸透させた20mmx20mm角で1.0mmの厚さのあるガーゼ片を該試験片上に置き、次に質量200gでありガーゼ片に接する部分が直径20mmの円形である平板錘をガーゼ片上にガーゼ片と平板錘の中心をあわせた状態で水平に置き、水平方向の力のみによってガーゼ片と水平錘を一体のまま10往復させる方法によって該試験片に拭き残された汚れを目視によって評価した。
【0025】
(6−2)トタン暴露官能評価方法
射出成形によって得られた10cm×20cm角、厚さ3.0mmの平板試験片を前記屋外暴露試験官能評価と同様な状態で設置し、さらに図2に示すように、平板試験片の40mm上部に波状のトタン板を設置して、雨滴がトタン板の溝を伝って平板試験片の一部に集中して滴下するようにした。このようにすることで、前記屋外暴露試験官能評価に比べより過酷な条件下での耐汚れ性能を評価することができる。この状態で自然天候下に試験片を3〜24週間暴露し、前記屋外暴露試験官能評価と同様な方法によって目視により評価した。
【0026】
実施例および比較例において、樹脂組成物の調製に用いた各種の成分は、次の性状を有していた。
・ 結晶性プロピレンブロック共重合体(PEBC−1)
・MFR:53g/10分
・プロピレン・エチレンランダム共重合体部:12重量%
極限粘度[η]:7dl/g(135℃、デカヒドロナフタレン中で測定)
エチレン含量:40モル%
・アイソタクチックペンタッド分率(mmmm):97.5%
(2)結晶性プロピレンブロック共重合体(PEBC−2)
・MFR:63g/10分
・プロピレン・エチレンランダム共重合体部:23重量%
極限粘度[η]:2.5dl/g
エチレン含量:40モル%
(3)プロピレン・エチレンブロック共重合体(PEBC−3)
・MFR:15g/10分
・プロピレン・エチレンランダム共重合体部:23重量%
極限粘度[η]:7dl/g
エチレン含量:42モル%
(4)エラストマー性重合体(エチレン・1−ブテン共重合体)
・MFR:3.6g/10分(190℃、荷重2.16kg)
・1−ブテン含有量:30重量%
(5)微粉末タルク
・平均粒径:4μm
(6)ポリオキシエチレン牛脂アミン
・R=炭素数14〜18の炭化水素基の混合物
【実施例1】
【0027】
上記成分(1)〜(6)を、表1に記載の割合にてヘンシェルミキサーで混合し、二軸押出機でペレタイズしてプロピレン系樹脂組成物を得た。さらにこの樹脂組成物を射出成形によって、10cmx20cm、厚さ3.0mmの試験片を作成した。得られたプロピレン系樹脂組成物および試験片の物性ならびに耐汚れ性能評価結果を表2に示す。
〔比較例1〕
【0028】
実施例1から成分(1)を除外し、成分(3)を加え、表1に記載の割合にてヘンシェルミキサーで混合し、二軸押出機でペレタイズしてプロピレン系樹脂組成物を得た。さらにこの樹脂組成物を射出成形によって、10cmx20cm、厚さ3.0mmの試験片を作成した。得られたプロピレン系樹脂組成物および試験片の物性ならびに耐汚れ性能評価結果を表2に示す。
〔比較例2〕
【0029】
実施例1から成分(6)を除外し、表1に記載の割合にてヘンシェルミキサーで混合し、二軸押出機でペレタイズしてプロピレン系樹脂組成物を得た。さらにこの樹脂組成物を射出成形によって、10cmx20cm、厚さ3.0mmの試験片を作成した。得られたプロピレン系樹脂組成物および試験片の物性ならびに耐汚れ性能評価結果を表2に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】


【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】屋外暴露試験官能評価方法を示す図
【図2】トタン暴露官能評価方法を示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)プロピレンブロック共重合体成分60〜80重量%と、
(B)エラストマー性重合体成分10〜20重量%と、
(C)無機充填剤10〜20重量%、
とを含む樹脂組成物であって、
(A)プロピレンブロック共重合体成分は、
(A−1)メルトフローレート(230℃、荷重2.16kg)が30〜100g/10分であり、プロピレン・エチレンランダム共重合体部を5〜15重量%の割合で含有しており、プロピレン・エチレンランダム共重合体部中のエチレン含量が35〜45モル%である結晶性プロピレンブロック共重合体30〜60重量部と、
(A−2)メルトフローレート(230℃、荷重2.16kg)が30〜100g/10分であり、プロピレン・エチレンランダム共重合体部を15〜40重量%の割合で含有している結晶性プロピレンブロック共重合体40〜70重量部((A−1)と(A−2)との合計は100重量部)とからなり、
(B)エラストマー性重合体成分は、
メルトフローレート(190℃、荷重2.16kg)が3〜5g/10分であるエチレンと炭素数4以上のα−オレフィンとの共重合ゴムである、
樹脂組成物100重量部に対して、
(D)下記一般式(I)で表されるポリオキシエチレン牛脂アミン0.1〜5重量部、
R−N(CHCHOH) …(I)
(Rは、炭素数10〜30の炭化水素基)
を添加することを特徴とするプロピレン系樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のプロピレン系樹脂組成物を射出成形してなる自動車用バンパー。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−124516(P2006−124516A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−315054(P2004−315054)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】