説明

プローブの固定化方法

【課題】プローブの変性を抑制したプローブの固定化方法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】基板11にプローブ14を固定化するためのプローブ14の固定化方法であって、DNA12が結合された基板11と、DNA結合タンパク質13が結合したプローブ14とを準備する工程と、基板11のDNA12を介してプローブ14を固定化する工程とを含んでいる。このように基板11にDNA12を形成し、このDNA12とプローブ14に結合したDNA結合タンパク質13の一部であるDNA結合ドメインとが結合することによって、プローブ14を基板に吸着し固定できるため、化学反応におけるpHや温度の変化に伴ったプローブ14の変性を抑制することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAアレイ、プロテインアレイ、糖鎖アレイなどに用いられるアレイ基板に固定されるプローブの固定化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種診断チップやDNAアレイ、プロテインアレイ、糖鎖アレイなどに用いられるアレイ基板に用いられるアレイチップの構築のために、核酸、ペプチド、抗体、レクチンなどのプローブを固定化することが有用視されている。
【0003】
従来、基板表面に抗体などのプローブを固定化する技術としては、シランカップリング反応が知られている。これは、例えば、固相担体と、例えば、3−(トリエトキシシリル)プロピルコハク酸無水物のような、酸無水物官能基を有するシランカップリング剤とを接触させること、前記接触後の固相担体を0℃〜60℃の温度範囲下に保持しながら、前記酸無水物官能基に対する前記生理活性物質の結合処理を行うこと、を含むことによって、シランカップリング法によってプローブを固定化することができる。
【0004】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献としては、例えば、特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−229319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来のプローブの固定化方法においては、化学反応を伴うことによって、プローブの機能を最大限に活用できない場合があった。
【0007】
すなわち、シランカップリング反応は手順が煩雑であり、プローブを保持していた溶媒をシランカップリング用の試薬に置換する必要があり、pH、塩濃度、温度の変化や界面活性剤の影響によりプローブが変性してしまうことも考えられる。このように化学反応により官能基を基板に付加するため、工程が煩雑になり手間がかかると共に、固定化基板ロット毎のばらつきを生むという問題を有していた。
【0008】
さらに、シランカップリング反応を用いた場合、基板と結合するプローブ面を特定することができないので、上記反応方法ではプローブが基板に固定化される向きを制御することは難しい。すなわち、化学反応によく用いられるシランカップリング法は、基板と結合するプローブ面を特定できない上に、プローブと基板の間に長いリンカーを有することになるので、プローブの配向が困難となる。
【0009】
そこで本発明は、プローブの変性を抑制することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、基板にプローブを固定化するためのプローブの固定化方法であって、DNAが結合された基板と、DNA結合タンパク質が結合したプローブとを準備する工程と、DNA結合タンパク質とプローブとのキメラタンパク質と基板に結合したDNAを反応させることで、自然反応的ないし酵素反応的にプローブを基板に固定化する工程とを含んでいる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のプローブの固定化方法によって、基板に結合されたDNAとプローブに結合したDNA結合タンパク質の一部であるDNA結合ドメインとが結合することによって、プローブを基板に吸着し固定できるため、化学反応におけるpHや温度の変化に伴ったプローブの変性を抑制することが可能となる。さらに、化学反応を伴わないため工程数の軽減、測定時における固定化基板ロット毎のばらつきを軽減することができる。さらに、プローブと基板間の距離をごく短くすることを可能とし、プローブの配向を可能にするという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1におけるプローブの固定化基板の断面模式図
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施例1)
以下、本実施例におけるプローブの固定化方法について説明する。
【0014】
図1に本実施例のプローブの固定化方法において固定化された基板の断面模式図を示す。
【0015】
固定化基板10は、基板11と、この基板11の表面に形成されているDNA12と、DNA結合タンパク質13とプローブ14とのキメラタンパク質15とからなり、基板11表面のDNA12とキメラタンパク質15のDNA結合ドメインが結合することによりプローブ14が固定化されている。
【0016】
次に、本実施例におけるプローブの固定化方法を示す。
【0017】
まず、基板11表面にDNA12を有する基板11を準備する。この時DNA12は、二本鎖DNA12であることが後のプローブ14固定化の際に安定性が良く好ましい。このようにDNA12が結合した基板11表面に、DNA12を介してDNA結合タンパク質13を有するプローブ14を固定化することによって、プローブ14の固定化基板10を作成することができる。
【0018】
DNA結合タンパク質13を有するプローブ14は、プローブ14とDNA結合タンパク質13とのキメラタンパク質15を発現するプラスミドDNAもしくはウイルスを大腸菌・出芽酵母・昆虫細胞SF9などのホスト生物に形質転換し、キメラタンパク質15をホスト生物中で強制発現させることによって作成することができる。前述のプラスミドDNAないしウイルス上では、開始コドンに始まりプローブタンパク質がエンコードされ、そのまま連続してDNA結合タンパク質13がエンコードされ、終始コドンで転写が終わる。もしくは開始コドン直後にDNA結合タンパク質13がエンコードされ、そのまま連続してプローブタンパク質(プローブ14)がエンコードされ、終始コドンで転写が終わる。プローブタンパク質(プローブ14)の機能が損なわれないように、必要に応じて数アミノ酸で構成されるリンカーアミノ酸がプローブ14とDNA結合タンパク質13の間にデザインされる。ホスト生物中で強制発現されたキメラタンパク質15は任意の方法で精製することができる。
【0019】
このように精製されたキメラタンパク質15すなわちDNA結合タンパク質13を有するプローブ14を基板11に付加させると、キメラタンパク質15のDNA結合タンパク質13の一部であるDNA結合ドメインの酵素活性により基板11表面にあるDNA12と共有結合し、もしくはDNA結合ドメインと基板11表面にあるDNA12とが水素結合することによって、DNA結合タンパク質13部分とDNA12とを介してプローブ14と基板11とが固定され固定化基板10を形成することができるのである。
【0020】
さらに、この時、キメラタンパク質15のDNA結合ドメイン側が基板11側を、プローブ14側が基板11と反対側(つまり基板11と離れた方向)を向くようにデザインすることができる。なお、DNA12との結合に必要な最小限のDNA結合タンパク質13の塩基対数が基板11表面に結合しているDNA12の長さとして望ましい。すなわち、基板11とプローブ14との距離が最も短くなるように、基板11に結合したDNA12の長さは、DNA結合タンパク質13が結合できる最短長にすることが望ましい。ここで最短長とは、DNA結合タンパク質13ごとに決まっており、ゲルシフト実験法などにより容易に決定することができる。
【0021】
なお、DNA結合タンパク質13としてヒストン、SSB、RPA、ORC、転写因子、DnaAなどを用いることができる。前述のタンパク質のうちヒストン、ORC、転写因子は二本鎖DNA12の外側であってメジャーグルーブやマイナーグルーブと呼ばれる溝部分と水素結合により相互作用する。SSB、RPAは1本鎖DNAと水素結合により相互作用することが知られているので、基板11に結合しておくDNAは一本鎖DNAが望ましい。
【0022】
なお、DNA結合タンパク質13として、トポイソメラーゼの全長あるいは少なくとも一部を用いることができる。
【0023】
通常、DNA結合タンパク質はDNA二重鎖と水素結合により相互作用することが知られているが、DNAに一過的に共有結合するタンパク質としてトポイソメラーゼが知られている。トポイソメラーゼはDNAのトポロジーを緩和する、もしくは、増加させる酵素である。トポイソメラーゼはまずDNA二重鎖の片方ないし両方を切断し、一過的にDNAに共有結合する。そしてトポロジーを緩和もしくは増加させ、その後DNAとの共有結合を解消、DNAから解離し、一旦切断していたDNAを再度結合させることができる。
【0024】
トポイソメラーゼの変異のうち、DNAに共有結合したままを保持する変異があり、DNA結合タンパク質13として、このような変異を有するトポイソメラーゼを用いることにより、プローブ14の固定化保持を特に安定的に行うことができる。
【0025】
もしくはトポイソメラーゼはエトポシドなどの抗がん剤により、DNA結合後の再解離が阻害されるが、このような抗がん剤をキメラタンパク質の基板への反応時に添加することで、プローブ14の固定化保持を特に安定的に行うことができる。
【0026】
また、DNA結合タンパク質13として原核生物のトポロジーを変える酵素であるジャイレースの全長あるいは一部を用いることができる。
【0027】
プローブとジャイレースのキメラタンパク質にもDNAを介した基板への結合が期待されるためである。ジャイレースとしては、例えば大腸菌ジャイレースを用いることができる。ジャイレースのDNAからの再解離を抑えるような化合物としては抗生物質のひとつ、ニューキノロン系抗生物質があり、このような抗生物質を付加することにより、プローブ14の固定化保持を特に安定的に行うことができる。
【0028】
また、DNA結合タンパク質13として、出芽酵母Spo11の全長あるいは一部を用いることができる。
【0029】
これらのタンパク質は減数分裂期に相同組み換えを引き起こすためにDNA二重鎖を切断する酵素であり、切断後、DNA末端に共有結合したままになることが知られている。これらタンパク質とプローブのキメラタンパク質はDNAを介して基板に結合できる。出芽酵母Spo11の相同因子はヒト、セキツイ動物、昆虫、植物、菌類などの真核生物に広く存在しており、これら真核生物Spo11を(DNA結合タンパク質13の一部であるDNA結合ドメイン)として利用しても、前述と同様の効果を奏することができる。なお、分裂酵母のSpo11相同因子として分裂酵母Spo13が知られており、同様の効果を奏することができる。
【0030】
なお、DNA12を利用した基板11へのプローブ14の固定化方法としては、プローブ14に一本鎖DNAを結合させ、それと相補的な配列を有する一本鎖DNA12を基板11側に固定させておき、これらDNAをハイブリダイゼーション法により水素結合させ二本鎖DNAにする方法も考えられる。しかしながら、プローブ14に一本鎖DNAを結合させるステップで化学反応が必要となり、プローブ14の変性、作業の煩雑さ、など既存の方法との優位性が得られなくなる。
【0031】
本実施例におけるプローブの固定化方法による効果を示す。
【0032】
本発明におけるプローブの固定化方法は、従来のシランカップリング法のように、プローブの末端を特定の反応基に置換する必要がないので、プローブを薬品処理などの化学処理を施す必要がない。すなわち、プローブそのものを化学処理による化学反応により処理することなく、基板に結合したDNAと、DNA結合タンパク質13とプローブ14とのキメラタンパク質15のDNA結合ドメインとが結合することによりプローブ14が固定化されている。その結果、プローブの溶液を化学反応をするために必要な溶液に置換する必要がなく、どのようなpHや温度の溶液を用いた場合でもプローブを固定化することができるため、プローブに対して好ましくないpHや温度の溶液に置換することによるプローブの変性を避けることができる。さらに、従来のような化学反応を伴わないため工程数の軽減、測定時における固定化基板ロッド毎のばらつきを軽減することができる。さらに、プローブと基板の間に長いリンカーを有する必要がないのでプローブの配向制御が容易となる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明はDNAアレイ、プロテインアレイ、糖鎖アレイなどに用いられるアレイ基板に固定されるプローブの固定化方法として有用である。
【符号の説明】
【0034】
10 固定化基板
11 基板
12 DNA
13 DNA結合タンパク質
14 プローブ
15 キメラタンパク質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板にプローブを固定化するためのプローブの固定化方法であって、
DNAが結合された基板と、DNA結合タンパク質が結合したプローブとを準備する工程と、
基板のDNAを介してプローブを固定化する工程とを含むプローブの固定化方法。
【請求項2】
基板とプローブとは、DNAとDNA結合タンパク質を介して結合している請求項1に記載のプローブの固定化方法。
【請求項3】
基板とプローブの距離が最も短くなるように、基板に結合したDNA長をDNA結合タンパク質が結合できる最短長にする請求項2に記載のプローブの固定化方法。
【請求項4】
DNA結合タンパク質として、トポイソメラーゼの全長または一部を用いる請求項2に記載のプローブの固定化方法。
【請求項5】
トポイソメラーゼが変異を有する請求項4に記載のプローブの固定化方法。
【請求項6】
トポイソメラーゼ阻害剤を用いる請求項4に記載のプローブの固定化方法。
【請求項7】
抗がん剤を用いる請求項4に記載のプローブの固定化方法。
【請求項8】
前記抗がん剤として、エトポシドを用いる請求項7に記載のプローブの固定化方法。
【請求項9】
抗生物質を用いる請求項4に記載のプローブの固定化方法。
【請求項10】
前記抗生物質として、ニューキノロン系抗生物質を用いる請求項9に記載のプローブの固定化方法。
【請求項11】
DNA結合タンパク質として、ジャイレースの全長または一部を用いる請求項2に記載のプローブの固定化方法。
【請求項12】
前記ジャイレースとして、大腸菌ジャイレースの全長または一部を用いる請求項11に記載のプローブの固定化方法。
【請求項13】
DNA結合タンパク質として、出芽酵母Spo11の全長または一部を用いる請求項2に記載のプローブの固定化方法。
【請求項14】
DNA結合タンパク質として、分裂酵母Spo13の全長または一部を用いる請求項2に記載のプローブの固定化方法。
【請求項15】
DNA結合タンパク質として、真核生物Spo11ホモログの全長または一部を用いる請求項2に記載のプローブの固定化方法。
【請求項16】
前記真核生物Spo11ホモログとして、セキツイ動物Spo11ホモログの全長または一部を用いる請求項15に記載のプローブの固定化方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−141142(P2012−141142A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291935(P2010−291935)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】