説明

プローブ評価方法

【課題】 本発明は収差補正器を備えた走査電子顕微鏡に関し、使用条件やノイズの影響を受けることなく、安定的にプローブ画像を得ることを目的としている
【解決手段】 ジャストフォーカス状態で撮影した画像とデフォーカス状態で撮影した画像を画像データとしてコンピュータに入力し(ステップ1)、入力データサイズと出力データサイズから相関窓画像のサイズを自動で決定して相関窓を作成し(ステップ2,3)、相関窓と参照領域の相互相関演算を行い(ステップ6)、参照領域をずらしながらこの演算を繰り返す(ステップ7〜10)ことで相互相関行列を得ることで(ステップ11)プローブ画像を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は走査電子顕微鏡、特に走査電子顕微鏡(SEM)、走査透過電子顕微鏡(STEM)の自動焦点合わせ、自動非点合わせ、収差補正器の自動調整方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡やイオンビーム加工装置などの荷電粒子線応用装置においては、収束荷電粒子線を試料に照射することにより、観察画像や試料の加工を行う。これら荷電粒子線装置の分解能や加工精度は、収束荷電粒子線(プローブ)の大きさによって決まり、原理的には、プローブの大きさ(プローブ径)が小さいほど、分解能や加工精度を高めることができる。近年、荷電粒子線応用装置向けの収差補正器の開発が進められ、その実用化が進んでいる。収差補正器においては、多極子レンズを用いて回転対称でない電場、磁場をプローブビームに印加することで、プローブビームに対して逆収差を与える。これにより、荷電粒子光学系の対物レンズや偏向レンズなどで発生する球面収差、色収差などの各種収差をキャンセルすることができる。
【0003】
従来の荷電粒子線応用装置の荷電粒子光学系においては、軸回転対称なレンズが使用されており、原則的には、各レンズの軸、絞りの軸を合わせ、対物レンズのフォーカスと非点を調整すれば、プローブ径を極小値に調整することができた。また、フォーカス調整と非点補正を行う際には、フォーカスを変えた条件でプローブの画像を取得し、画像の先鋭度を最低限2方向で比較しながら、先鋭度の一番高いところを選ぶことで調整を行っていた。一方、収差補正器では、逆収差を与えて発生する収差をキャンセルするため、収差を除去するためには、プローブビームに含まれる収差の種類(収差成分)と各収差成分の量を正確に計測する必要がある。これらを評価し、収差補正器を適切に調整しなければ、かえって収差の増大をまねき、収差補正の効果が得られない。
【0004】
収差成分の種類と量は、プローブビームの断面形状の真円からのずれを元に評価するため、収差成分を計測するためには、プローブビームの断面形状を正確に計測することが必要である。特表2003-521801号公報(特許文献1)には、デコンボリューションを用いてプローブビームの形状を評価する手法が開示されている。以下、この手法を簡単に説明する。
【0005】
試料の画像をジャストフォーカス(試料上にビームが収束した状態)、アンダーフォーカス(試料の後方でビームが収束する状態)、オーバーフォーカス(試料の前方でビームが収束する状態)で撮像し、各々をフーリエ変換する。アンダーフォーカス像のフーリエ変換をインフォーカス像のフーリエ変換で割って、商を得る。以上の過程は、h(x,y) をSEM画像、f(x,y)を試料から発生する二次電子、反射電子などの強度情報(試料の表面形状や物質の情報を含む)、g(x,y)をプローブの強度情報として、以下の式(1)のような畳み込み積分(コンボリューション)で表現することができる。

h(x,y)=∬f(u, v)g(x−u,y−v)dudv 式(1)

これをフーリエ空間で書けば
H(X,Y)=F(X,Y)G(X,Y) 式(2)

ここで、H(X,Y)=∫h(x,y)exp(−2・ixX)exp(−2・iyY)dxdyであり、F,Gについても対応する量をフーリエ変換したものである。

式(2)は、ジャストフォーカス像についての量とアンダーまたはオーバーフォーカス像(デフォーカス像)についての量のいずれに対しても成立し、各々下付き添字、下付き添字を用いて表現すると、H=FG, H=FG、となる。アンダーまたはオーバーフォーカス時のプローブの強度情報は試料の情報をキャンセルするため、これを割り算すると

G=G(H1/H) 式(3)

となる。
【0006】
プローブ強度分布Gとして、理想的にガウス分布等を仮定すればGが求まり、Gをフーリエ逆変換すればデフォーカス状態でのプローブ強度gが求まる。
【0007】
同様に、特開2005-183086号公報(特許文献2), 特開2005-302359号公報(特許文献3)には、上で説明したFFTデコンボリューションを使って、プローブ形状を評価する技術が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特表2003-521801
【特許文献2】特開2005-183086
【特許文献3】特開2005-302359
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
オーバーまたはアンダーフォーカス(以下総称してデフォーカスと表記)のプローブ形状を求める従来の手法(以下デコンボリューション法と表記)では、試料の情報とプローブの情報を分離してプローブの情報だけを抜き出すために、画像データのフーリエ変換の割り算を必ず行っている。割り算の実行の際には、高い空間周波数側でのゼロ割り算による発散を避けるために、必ず何らかの周波数フィルタを使用する必要がある。つまり、デコンボリューション法により得られるデフォーカス状態のプローブ形状は、どのようなフィルタを使用したかによって変動する。
【0010】
さらに、デコンボリューション法は、SN比の低い画像データを使用した場合、画像データが含むノイズによって、プローブ形状の輪郭がはっきりしなくなったり、アーティファクトが入ったりするなど、最終的に得られるプローブ形状が不正確であるという課題があった。
【0011】
そこで本発明は、試料に対してプローブビームを照射して得られる画像データ、あるいは信号データを用いて種々の機能を実現するプローブビーム装置において、従来技術よりも正確にプローブビームの形状を評価する方法あるいは装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、同一試料に対してジャストフォーカス状態で得られる画素の分布データと、デフォーカス状態で得られる画素の分布データを用いて相互相関演算を実行し、2つの分布データセットの相互相関行列を求めることにより、デフォーカス状態におけるプローブビームの断面形状を得る。以下、式を用いて、取得原理について説明する。
【0013】
ジャストフォーカス状態における画素の二次元分布データと、デフォーカス像状態における画素の二次元分布データとの相互相関i(x,y)は、以下の式(4)により定義される。

i(x,y)=∬h(u,v) h(u+x,v+y)dudv 式(4)

式(4)は、フーリエ空間をでは、
I(X,Y)=H*(X,Y)H(X,Y)
= F*G0*FG1
= F*FG0*G1
となる。ここで、試料が広い空間周波数帯にわたりランダムな構造を持つ場合には、F*F≒1が成立し(ランダムな構造を持つデータ集合の自己相関関数をデルタ関数で近似)、上のF*FG0*G1は、以下のようになる。

= G0*G1 式(5)

ここで、g0がデルタ関数であるとみなし、式(5)をフーリエ逆変換して実空間の関数に直すと、相互相関は

i(x,y) = g1(x,y) 式(6)

となり、式(6)の左辺は、デフォーカス条件におけるプローブ強度分布g(x,y)と考えてよいことがわかる。
【0014】
以上のように、試料がランダムな構造を持つという制約のもとではジャストフォーカス像とデフォーカス像の相互相関を求めれば、デフォーカス状態でのプローブ形状を知ることができる。
【0015】
またここで、ジャストフォーカス状態でのスポット像を構成する画素数とデフォーカス状態でのスポット像を構成する画素数との比を、大凡1対10〜1対100程度(ジャストフォーカス状態でのプローブ像の構成画素数が数個、デフォーカス状態でのプローブ像の構成画素数が数十〜百画素程度)になるようにフォーカスずれと画像倍率を調整すると、式(5)におけるデルタ関数近似(g0がデルタ関数、G0*が定数)の精度が向上し、得られるプローブ形状の正確さも向上する。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、周波数空間におけるゼロ割り算のプロセスを持たないためフィルタ処理操作が必要ない。そのためゼロ割算の不安定性をもつデコンボリューション法にくらべ、安定的に目的のプローブ形状を得ることができる。更に、自動化に適している。
【実施例1】
【0017】
本実施例では、測長、試料検査等の各種機能を提供可能な走査電子顕微鏡(SEM)への適用例について説明する。なお、以下の説明において、「ジャストフォーカス状態」とは荷電粒子線が試料面上で集束した状態、「デフォーカス状態」とは、荷電粒子線が試料面上で集束せずに、光軸において試料面の手前或いは奥で集束した状態を意味する。
【0018】
図1には、本実施例のSEMの全体構成の概略図を示す。図1に示したシステムは、大きく分けて、収差補正装置を搭載した電子光学鏡筒1、試料を格納する試料室2,電子光学鏡筒1の各要素の動作電圧や印加電流を制御する電子光学鏡筒制御装置3,電子光学鏡筒制御装置3からの出力信号を処理する情報処理装置4,情報処理装置4で処理された情報が表示される表示装置5,収差補正装置を駆動するための制御電源6等により構成される。なお、図の矢印は試料情報の流れを示している。
【0019】
電子光学鏡筒1は、電子銃7,電子銃7の下部に配置されたコンデンサレンズ8、収差補正装置9,試料上に対向配置された対物レンズ10、試料に照射された電子線により発生する二次電子あるいは反射電子を検出する検出器14、これらを格納する真空容器21などにより構成される。真空容器21内部に格納された構成要素全体を電子光学系と称する場合もある。図示はしていないが収差補正器9と対物レンズ10の間には、一次荷電粒子ビームを走査する走査偏向器が配置される。試料室は、情報処理装置4からの位置制御信号に従って移動可能な試料ステージ13と、その上に設置された観察しようとする試料11、画像調整用の標準試料12、そしてこれらを格納する真空容器22とを備える。
【0020】
電子銃7から放射された荷電電子ビームは、収差補正器9を含む電子光学系を通過して試料11上で結像され、試料11を照射する。試料11から放出された2次電子は検出器14を通って輝度分布形式のデータとしてSEM側から情報処理装置側へ出力される。本実施例では、検出器14の出力信号は、電子光学鏡筒制御装置3のメモリ(図示せず)に一旦記憶され、二次元分布データ形成部15により、二次粒子の二次元分布データとして合成される。二次元分布データ形成部15は、荷電粒子線走査の変調信号と検出器14の信号出力タイミングとの同期を取り、検出器14の出力信号強度を荷電粒子線の走査範囲(視野内)における二次荷電粒子の二次元分布データに変換する。合成された分布データは、情報処理装置4に伝送される。分布データは、表示装置5に直接伝送される場合もある。
【0021】
情報処理装置4は、二次元分布データ形成部15あるいは電子光学鏡筒制御装置3からの出力信号を受け取る入力インタフェース16、当該入力インタフェースと接続されたメモリ18およびプロセッサ19,該メモリ18やプロセッサ19での処理結果が出力される出力インタフェース17,メモリ18に接続された外部記憶装置20などにより構成される。情報処理装置4での演算処理結果は、出力インタフェース17を介して表示装置5や制御電源6に出力される。
【0022】
図2は、収差補正器9の補正動作を実行した場合に、情報処理装置4で実現される処理機能を示す機能ブロック図である。入力インタフェース16を介して入力された前記の分布データは、プローブ形状抽出部23へ転送され、所定の演算処理が実行されることにより、走査電子顕微鏡の電子ビームプローブのプローブ形状が抽出される。プローブ形状は、荷電粒子線が試料に照射された場合における照射領域の輪郭形状のことで、現実的には当該輪郭形状に対応する二次粒子信号の分布データで表現される。このデータは特徴量抽出部24へ転送され、プローブ形状の特徴量パラメータ算出の演算処理が実行される。ここで、特徴量パラメータとはプローブの幾何学的特徴を表す値である。プローブ形状は現在光学系に含まれている収差の種類と大きさを反映しているものと考えられ、その特徴はデフォーカス状態でより顕著になる。
【0023】
特徴量抽出部24での処理結果は収差評価部25へ転送され、プローブ形状に含まれる収差の種類と量、すなわち収差係数の値が算出される。得られた収差係数の値は補正量算出部26へ出力され、各収差係数の値が最小になるような制御電源8の出力電圧・電流値(すなわち収差補正器の多極子レンズに対する印加電圧や励磁電流)が計算される。計算された電圧値ないし電流値は、補正信号として制御電源6に伝送され、収差補正器9の制御に使用される。
【0024】
以上説明した動作は全て、情報処理装置4内のメモリ空間上に展開されたソフトウェアをプロセッサ19が実行することにより実現される。メモリ18上に展開されるソフトウェアは、通常は、外部記憶装置20の内部に格納される。
【0025】
次に、本実施例のSEMの動作について説明する。図3には、本実施例のSEMの動作フローについて示した。開始により装置が立ち上がると、標準試料が装置に搬入され、電子光学系の調整が実行される。続けて収差補正器の粗調整が実行される。
【0026】
次に、SEMにおいて通常の操作でフォーカス合わせを行い、ジャストフォーカス状態での電子線プローブの画素信号データを取得する。この分布データ取得時の撮影倍率は、視野画素の数に対してプローブ形状がデルタ関数的分布と見なせる程度の大きさに決める。そのためには、少なくともプローブ径が分解能の支配要因となっている倍率条件、すなわち画素の1辺の長さがプローブ径よりも小さい条件を満たした倍率であることが必要である。経験的には前記の倍率条件を満たした状態でSEM画像の総画素数に対してプローブの画素数が20000分の1程度以下になるような倍率とする。
【0027】
実際には、大きさの決定に際しては、収差補正器調整前のSEMの分解能(概ねプローブ径と同じオーダー)と、当該分解能における画像サイズの情報を用いる。たとえば、調整前のSEMの分解能3nmで画素数が1024x1024画素の画像を撮る場合、3nm角(あるいは直径3nm)の領域が数画素程度に対応するように視野倍率を決定する。例えば、3nm角の面積を2x2画素で構成した場合、画像全体の視野サイズは、1.5nm×1024画素=1500nm角となり、この領域が視野内に収まるように電子線の走査範囲を決定する。実際には、スポット径の面積を何画素で構成するかは、相互相関を試行した結果をみて、試行錯誤により決定する。得られたプローブサイズの情報と撮像倍率の情報は、情報処理装置4内の外部記憶装置に格納しておき、次回以降の調整時に使用する。試料とSEMが同じなら、分布データの取得条件はあまり変動しない。
【0028】
次に、フォーカスをずらし、ジャストフォーカス状態での電子線プローブの画素信号データの取得条件と同じ条件で、デフォーカス状態での分布データを取得する。フォーカスのずらし量は、予め設定しておき、情報処理装置4内部のメモリ18或いは外部記憶装置20内に格納しておく。ジャストフォーカス状態でのプローブ形状がデフォーカス状態におけるそれと比較して、デルタ関数的分布とみなせるように十分に大きなデフォーカス量であり、デフォーカス状態でのプローブ形状の判別が可能な大きさ、例えばデフォーカスしたときのプローブ径が80x80画素程度になるようにあらかじめ設定しておき、何回か実際に相互相関を試行して、よりコントラストよく、収差分類に必要な情報が含まれるスポット強度の画像が得られるように操作者が決定する。これも試料とSEMが同じなら、一定のデフォーカスで良い結果が得られるので、初回に決定しておく。
【0029】
ここで、ジャストフォーカス、デフォーカス両状態におけるプローブ形状の分布データの取得に際しては、コントラストをもつ物の配置がランダムで、その大きさが広い分布を持つ試料を標準試料として用いるとよい。更に、標準試料としては、コントラストを持つ物のエッジのはっきりしている試料の方がよい。例えば、シリコン下地ないしは基板上に、スパッタリングにより金粒子が付着された試料などである。付着させる粒子の材料としては、白金またはパラジウムを用いてもよい。また、付着を行う下地あるいは基板としては、シリコンの他、カーボン、グラファイトを用いてもよい。更にまた、スパッタリングではなく蒸着により粒子を付着させてもよい。
【0030】
以上のステップで得られた分布データは、情報処理装置4に転送され、図2のプローブ形状抽出部23で、相互相関演算が実行されることによりプローブの輪郭形状が決定される。以下、図3のプローブ形状抽出ステップを図4を用いて詳細に説明する。
【0031】
まず、取得したジャストフォーカス状態、デフォーカス状態の2つの分布データを、参照画像(第1の分布データ)と相関窓画像(第2の分布データ)としてプロセッサに読み込ませる(ステップ1)。ジャストフォーカスとデフォーカスどちらの分布データを参照画像と相関窓画像にするかは基本的には任意だが、デフォーカス画像を相関窓画像とする方がよいことが経験的にわかっている。計算高速化による画像劣化の影響を受けにくい傾向があるためである(後述)。次に、参照画像のサイズ(画素数)と使用者が指定した結果画像サイズに基づいて相関窓のサイズを決定する(ステップ2)。サイズが決まったら入力された相関窓画像から相関窓を作成する(ステップ3)。以上の手順が実空間で相互相関を求めるための前処理段階となる。
【0032】
前処理が終了したら、相関窓と参照画像の間で実空間中における相互相関演算を行い、相関値を求める。これを参照画像上での参照位置を移動させながら、所定の開始位置から終点位置まで繰り返す。以下、上に記載した処理を、図4のステップ4から11を用いて説明する。
【0033】
まず、ジャストフォーカス状態またはデフォーカス状態での二次元分布データ上の初期位置に、相関演算の参照領域がセットされる(ステップ4)。初期位置は二次元分布データ上の任意の位置を設定することができるが、通常は、分布の左上(検出器14からの出力信号を時系列出力した場合の原点位置に相当)を初期位置に設定される。
【0034】
初期位置が設定されると、相関窓と参照画像上での参照領域の間で相互相関演算を行い、相関値を求める(ステップ5)。ここで得られた相関値がプローブの輝度情報を持っているので、これをある1画素のプローブ形状画像の輝度とする。次に参照画像上における参照領域を水平方向に1画素分ずらす(ステップ7)。そして新たな参照領域と相関窓に対してステップ5の相関演算を行う。これを繰り返し、参照領域が参照画像の端に達したら(ステップ6)、参照領域を参照画像上垂直方向に1画素分ずらす(ステップ8)。そして同様に新たな参照領域と相関窓に対してステップ5の相関演算を行う。以上の動作を繰り返し、参照画像を端から端まで全て走査して得られた相関行列をプローブ形状の輝度分布行列として出力する(ステップ10)。得られたプローブ形状輝度分布は、収差分類、収差評価の入力情報とする(ステップ11)。
【0035】
再び図3にもどり、「収差分類・収差量評価」ステップが実行される。得られたプローブ形状の輝度情報は情報処理装置4で実現される特徴量抽出部24に転送され、プローブ形状の特徴を示す特徴量パラメータが算出される。得られた特徴量パラメータは収差評価部25に転送され、収差評価部25ではこれらの特徴量パラメータを用いて各収差量の定量的評価が実行される。
【0036】
この評価値に基づいて電子光学系の補正量を算出し、補正量は多極子の電圧値や偏向器のコイル電流値として、SEMの電子光学系(収差補正器を含む)にフィードバックされる。評価している収差量が所定の閾値以下になったところでプロセスは終了する。多極子の電圧値や偏向器のコイル電流値を収差量から計算するための計算式や変換テーブル、あるいは収差の許容量を判定するための閾値等の値は、情報処理装置4内に格納される。
【0037】
なお、本実施例において、図1に示した情報処理装置4とは別に相互相関演算専用の第2情報処理手段を設けて、相互相関計算を高速化することができる。例えば、図3に示した処理フローを条件を固定してデジタルシグナルプロセッサで処理すれば、パーソナルコンピュータで数秒かかる計算が1秒以下で終了し、収差補正器の自動調整の高速化が実現できる。
【0038】
図5に、相関窓の決定フローの説明図を示す。図5において、Aは参照画像として用いる側の分布データ、Bは相関窓を切り出す側の分布データ、B’は相関窓として切り出したBの部分画像に対応する分布データである。Cは結果画像であり、プローブ形状の輪郭情報が含まれる分布データである。説明の簡略化のため、使用する分布データは全て正方形の形状をしているものとするが、本実施例の走査電子顕微鏡は、分布データの形状は問わず使用できる。
【0039】
まず、結果画像Cの一辺のサイズnを決定する。結果画像Cのサイズについては、装置使用者が選択する。このとき、装置使用者は、得られたプローブ形状が大きすぎて結果画像Cの領域内に収まりきらないことのないように十分余裕をもったサイズnを選択する必要がある。しかし、プローブ形状に対して大きすぎる結果画像サイズは適当ではない。なぜなら、結果画像Cの一辺サイズnと、相関演算の際に使用する相関窓画像B’の一辺サイズmと、及び相関窓画像B’が切り出される前の画像Bの一辺サイズNとの間には

n = N-m+1 (式7)

で与えられる関係があり、元画像サイズNが一定のとき、nを大きくするとmが小さくなり相関演算に使用する画素数が減るため、計算精度が低下するからである。上の説明では、n 、N、mの関係を分布データの一辺サイズ(画素数)で説明したが、分布データの面積(各分布データに含まれる全画素数)で考えても、関係式がn = N-mとなるだけで事情は同様である。経験的には、シミュレーション等で予め見積もられたデフォーカス状態におけるプローブ径の情報を用いて、当該プローブ径の2倍程度の画素数になるようなサイズが選択される。結果画像のサイズが決定したら、デフォーカス画像の中心付近から一辺mの正方形領域を切り出し、相関窓とする。デフォーカス画像の中心位置は、検出器14からの信号出力の時刻情報と荷電粒子線の走査信号周期の情報とを用いて算出することができる。上で説明した相関窓の決定アルゴリズムとデフォーカス画像におけるプローブ径の情報は情報処理装置4内に格納されており、図4のステップ2,3の処理時にプロセッサ19により実行される。
【0040】
図6には、相関窓の輝度分布データと参照画像の輝度分布データによる相互相関演算の進行を示す模式図を示した。図6においてAは参照画像、B’は相関窓画像、Cは結果画像を示す。また、xは今求めようとしている結果画像中のある1つの画素を表し、A’は参照画像A内の、画素xに対応する領域を表している。領域A’は相関窓画像B’と同じm×mの正方形領域であって、求める画素の位置に対応して参照画像A内を移動する領域である。以下、領域A’を参照領域と呼ぶ。本実施例では画像の向かって左上から右下方向へと画素の輝度値を求める。
【0041】
例えば、ある画素xの輝度値を求めるには参照領域A’の輝度分布行列と、相関窓Bの輝度分布行列に対して相互相関演算を行い、得られた相関値を画素xの輝度値とする。以上の手順を相関行列計算の1ステップとする。
【0042】
次の画素、すなわち画素xの1ピクセル分右隣の画素の輝度値を求めるには参照領域A’を参照画像A内で1ピクセル分右にシフトし、同様に相互相関演算を行う。これを繰り返し、参照領域A’の右端が参照画像Aの右端に達したら、参照領域A’を参照画像A内で1ピクセル分下の左端に移動させて相関窓Bとの相互相関演算を行う。これを繰り返して参照画像Aの左上端から右下端まで参照領域A’を1ピクセルずつ移動させながら相関窓Bとの相関値を求め、得られた相互相関行列を得ようとするプローブ形状の輝度分布データとする。
【0043】
このように、参照画像より小さな相関窓を用意し、計算を行うことで、計算領域を小さくし、計算を高速化することができる。また、対応する参照領域は参照画像の範囲内からはみ出さないように走査するため、ゼロ詰めなどのデータ操作を行うことなく、純粋にSEM画像の輝度情報からプローブ形状を得ることができる。なお、本手法では相互相関を表す値として、正規化相互相関、共分散、相関窓画像と参照領域の残差などを使用することができる。
【0044】
本実施例で述べた方法はノイズに対してロバスト性があり、安定的な像が得られる。図7に、本実施例と従来手法(デコンボリューション法)の比較結果を、参照画像と相関窓画像がランダムノイズを含まない場合(a)と含む場合(b)とで、対比して示す。条件(a)では、得られたプローブ形状、強度分布には、本実施例と従来技術とで差が見られないのに比べ、条件(b)においては、従来技術ではノイズの影響でプローブ形状が一部分断され縁が変形している。また、本実施例により得られたプローブ形状の分布情報では、条件(a)と(b)とで、プローブ形状と強度に従来手法ほどの変化がみられなかった。従って、本実施例のプローブ抽出手法が、従来技術に比べてノイズロバスト性があることが証明された。
【0045】
図3〜4で説明したプローブ形状抽出の計算を高速化するため、参照領域および相関窓の画素を間引いて計算することができる。図8には、間引き演算を説明するための模式図を示した。図8はデータを1つおきに間引きして計算する際の演算対象領域を示しており、Aは参照画像、A’が現在相互相関演算を行おうとしている参照領域、A'内の1つ1つのマス目は画像の各画素に相当する。網掛けになっているマスが相関演算の対象となっている画素を示しており、この画素と対応する相関窓上の画素との間でのみ相関演算を行う。図8は、間引き率が2の場合の例であり、計算対象となる画素数は元の画素数の1/2となる。計算時間は間引き率に反比例するが、間引き率を大きくしすぎると結果画像が劣化したり、ノイズロバスト性が低下したりする。
【0046】
図9には、間引きによるスポット形状の変化の例を示す。間引き率をあげるに従って斜め方向の規則的なノイズが発生することがわかる。発明者の経験によれば、512×512の画像から128×128の結果画像を得る場合では、間引き率を2から5程度とすると、計算の体感速度が十分に速く、間引きによる画像劣化の少ない結果画像を得ることができた。なお、プローブ形状抽出計算を高速化するためのその他の手法として、相互相関の演算は高速フーリエ変換を用いて周波数空間上で行なうこともできる。ただし、この場合には画像は1辺が2ピクセルの正方形なものに限られる。
【0047】
図10には、本実施例の走査電子顕微鏡のユーザインタフェースを示すGUI画面の構成例を示した。本実施例の走査電子顕微鏡において、各種の計算結果及び設定項目は表示装置に出力されたGUIを介して使用者に提供される。図10に示したGUI画面は、収差補正をマニュアル操作で行う場合に表示装置に表示されるGUI画面に対応する。
【0048】
装置使用者は入力画像データ指定部27でプローブ形状抽出のために使用するジャストフォーカス、デフォーカス状態の2枚の画像を指定する。そして、結果画像サイズ指定部28に得ようとする結果画像サイズを入力し、相互相関演算間引き率指定部29で行おうとする間引き率を指定し、実行ボタン30を押すと計算が開始される。また、使用者は本実施例によって得られたプローブ形状を本インターフェースの結果画像表示部31を通じて見ることができる。収差補正の調整の過程において図3のプローブ形状抽出ステップの終了毎にこのインターフェースを表示させると、装置使用者が調整の進み具合を目視確認することができるため、操作性が向上する。
【実施例2】
【0049】
本実施例では、本発明を共焦点顕微鏡等の光学顕微鏡に適用した実施例について説明する。光学顕微鏡や共焦点顕微鏡の場合は光学レンズを能動的に制御して収差をコントロールすることはできないので、複数のデフォーカス量とデフォーカス状態におけるプローブの輝度分布および顕微鏡の光学常数(波長、NA値、媒体屈折率等)から、ジャストフォーカスにおける点像分布関数(Point Spread Function)を求め、ジャストフォーカス画像のデコンボリューションをおこなうことにより高分解能画像を得ることができる。
【0050】
以上、実施例1と実施例2により、本発明の構成例を説明した。実施例1は、電子顕微鏡を用いた応用装置、実施例2は光学顕微鏡の実施例であるが、本発明は、イオンビーム装置など、各種の荷電粒子線装置に対しても適用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は走査電子顕微鏡、特に走査電子顕微鏡(SEM)、走査透過電子顕微鏡(STEM)、光学顕微鏡、共焦点顕微鏡等へ利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例1の電子線応用装置の全体構成図である。
【図2】収差補正器の補正動作を実行した場合に、本実施例の電子線応用装置の情報処理装置で実現される処理機能を示す機能ブロック図である。
【図3】実施例1の電子線応用装置で収差補正器の補正動作を実行する場合の全体処理フローである。
【図4】実施例1のプローブ形状抽出の処理フローである。
【図5】相関窓の決定フローの説明図
【図6】相互相関演算の進行を示す模式図である。
【図7】実施例1の電子線応用装置と従来の装置で得られたプローブ形状の差を示す対比図である。
【図8】実施例1の電子線応用装置で表示されるGUI画面の一例を示す図である。
【図9】間引き演算処理を示す模式図である。
【図10】間引き処理の影響について示した結果である。
【符号の説明】
【0053】
1電子光学鏡筒、2試料室、3電子光学鏡筒制御装置、4情報処理装置、5表示装置、6収差補正器用制御電源、7電子銃、8コンデンサレンズ、9収差補正器、10対物レンズ、11試料、12標準試料、13試料ステージ、14二次電子検出器、15二次元分布データ形成部、16入力インタフェース、17出力インタフェース、18メモリ、19演算装置(プロセッサ)、20外部記憶装置、21荷電粒子光学鏡筒の真空容器、22試料室の真空容器、23プローブ形状抽出部、24特徴量抽出部、25周差評価部、26補正量算出部、27入力画像指定部、28結果画像サイズ指定部、29相互相関間引き率指定部、30演算実行ボタン、31結果画像表示部A参照画像、A’参照領域、B相関窓画像、B’相関窓、Cスポット画像、N参照画像の1辺の画素数、m相関窓の1辺の画素数、nスポット画像の1辺の画素数。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
収差補正された収束荷電粒子線を試料に照射して、発生する二次粒子を検出して二次粒子信号として出力する荷電粒子線鏡筒を備えた荷電粒子線装置において、
前記二次粒子信号を信号処理して前記二次粒子に対応する画素信号の二次元分布データを形成する二次元分布データ形成手段と、
ジャストフォーカス状態での当該二次元分布データとデフォーカス状態での二次元分布データとの相互相関演算により、デフォーカス状態における前記収束荷電粒子線の輝度分布を算出するプローブ形状抽出手段とを備えたことを特徴とする荷電粒子装置。
【請求項2】
収差補正された収束荷電粒子線を試料に照射して、発生する二次粒子を検出して二次粒子信号として出力する荷電粒子線鏡筒と、該二次粒子信号を処理して当該収束荷電粒子線の照射領域に関する情報を取得する情報処理装置とを備えた荷電粒子線装置において、
当該情報処理装置は、
前記二次粒子信号を信号処理して前記二次粒子に対応する画素信号の二次元分布データを形成し、
更に、ジャストフォーカス状態での当該二次元分布データとデフォーカス状態での二次元分布データとの相互相関演算を実行して、該デフォーカス状態における前記収束荷電粒子線の輝度分布を算出することを特徴とする荷電粒子装置。
【請求項3】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
算出された前記デフォーカス状態でのプローブ形状の情報を情報処理して、該デフォーカス状態において前記収束荷電粒子線に含まれる収差の種類と量を計算する収差評価手段を備えたことを特徴とする荷電粒子装置。
【請求項4】
請求項2に記載の荷電粒子線装置において、
前記情報処理装置は、前記デフォーカス状態でのプローブ形状の情報を用いて、該デフォーカス状態において前記収束荷電粒子線に含まれる収差の種類と量を計算する収差評価演算を実行することを特徴とする荷電粒子装置。
【請求項5】
請求項3に記載の荷電粒子線装置において、
前記荷電粒子線鏡筒は、前記収差を補正するための収差補正器と、当該収差補正器を駆動するための制御電源とを備え、
更に、前記計算された収差の種類と量を用いて該制御電源から制御収差補正器への印加電圧または印加電流を計算する補正量算出手段を備えたことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項4に記載の荷電粒子線装置において、
前記荷電粒子線鏡筒は、前記収差を補正するための収差補正器と、当該収差補正器を駆動するための制御電源とを備え、
更に、前記情報処理装置は、前記計算された収差の種類と量を用いて該制御電源から制御収差補正器への印加電圧または印加電流を計算する演算処理を実行することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の荷電粒子線装置において、
前記二次元分布データとして、金、白金パラジウムのいずれかの粒子が、シリコン、カーボン、グラファイトのいずれかの下地上に蒸着またはスパッタリングにより付着された標準試料を用いて検出された二次粒子の二次元分布データを用いることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか1項に記載の荷電粒子線装置において、
前記相互相関演算において、ジャストフォーカス状態またはデフォーカス状態いずれかの前記二次元分布データに対して相関窓が設定されることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項8に記載の荷電粒子線装置において、
所定の標準試料に対して得られた、デフォーカス状態における前記輝度分布内の画素数と当該画素の位置情報が格納される記憶手段を備え、
前記相関窓の大きさが、当該輝度分布に含まれる全ての画素が、前記相互相関演算の結果に含まれるように設定されることを特徴とする荷電粒子線装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図5】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate