説明

プローブ顕微鏡、およびこれを備える摩擦摺動・CMP・ハードディスクの検査装置

【課題】材料の重心が検知用の板ばねの中心からずれたり、板ばねが変形した場合にも測定を可能とする。
【解決手段】本発明の走査型プローブ顕微鏡は、第1試料1が先端部に設置された板ばね3と、板ばね3の端部を固定する固定部材14と、第2試料2が固定される試料台15と、光源16からの検出光が板ばね3に当てられ、その反射光を光検出器17で検出する板ばね3の変位検出光学系18と、試料台15又は板ばね3を動かして、第1・第2試料1、2を接近・離隔させるための試料間隔調整機構19と、第1・第2試料1、2間の摩擦を測定する水平走査機構20と、第1・第2試料1、2間の吸着、凝着、反発のうち少なくとも一つを測定するための垂直走査機構21とを備える走査型プローブ顕微鏡S1であって、検出光r11の光軸が当てられた板ばね3の傾きを、試料台15に対して任意の角度で変化させる固定部材14を回転させる回転機構22を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二種類の物質間の相互作用を測定するプローブ顕微鏡に係わり、特に、変速機、CMP、ハードディスクなどの摺動部材、研磨部材の物性を計測してこれらの特性を推定することができるプローブ顕微鏡、およびこれを備える摩擦摺動・CMP・ハードディスクの検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型プローブ顕微鏡は、探針と試料とを接近させた状態で探針を試料に対して相対的に走査する際に、探針から試料へ接触または非接触の局所的刺激を発生させ、その刺激に対する試料表面からの局所的応答を測定することによって試料の表面を観察する顕微鏡である。走査型プローブ顕微鏡はその物理量の測定方法の違いから、探針と試料間に流れる電流を検出する走査トンネル顕微鏡と試料表面と探針との間に働くいろいろな力を検出する原子間力顕微鏡、試料表面の磁気分布を測定する磁気力顕微鏡をはじめ、試料表面の摩擦力、粘性、弾性、電位等を測定する多くの種類の顕微鏡が実用化されている。
【0003】
この顕微鏡は、試料と探針の間に働く力によって、測定プローブを支持しているバネ要素がたわむことを利用した測定法が主流である。その制御手段としては、片持ち梁プローブの背面にレーザ光を照射して、反射光の光軸が、片持ち梁プローブのたわみによって、変化することを利用した光てこ方式や光波干渉方式が利用されている。
図12に従来の光てこ方式の顕微鏡300を示す。
顕微鏡300は、板ばね303の先端に探針(カンチレバ)313が配置され、試料台315には試料302が固定されている。そして、板ばね303の先端に取り付けられた探針313で試料302に局所的刺激を発生させ、その際に板ばね303から反射するレーザ光r100を4分割ポジションディテクタ307で検知して、試料302の表面を観察する。
【0004】
顕微鏡は、先端に探針313が取り付けられた板ばね303、レーザ光r10を発光する半導体レーザ304、発光されたレーザ光r100を板ばね303に向けて集光するレンズ305、板ばね303で反射したレーザ光r100を反射する鏡306、板ばね303で反射したレーザ光r100を検知する4分割ポジションディテクタ307、プリアンプ308、Z軸方向(鉛直方向)の走査を制御するZ軸サーボ系309、水平方向の走査を制御するX,Yラスタースキャン系310、試料302に鉛直方向(Z軸方向)の微小な移動を付与するピエゾ素子311、および試料302を鉛直方向(Z軸方向)に移動するステップインモータ312より構成される。
【0005】
試料302の測定に際して、板ばね303は試料302に局所的刺激を発生させることから、板ばね303に垂直方向の変位、及び試料302と探針313との摩擦により生じる板ばね303のねじれ、即ち板ばね303の水平方向の変位が発生する。半導体レーザ304からのレーザ光r100は、板ばね303の背面で反射され、4分割ポジションディテクタ307により検出されるので、板ばね303の垂直方向、及び水平方向の変位は4分割ポジションディテクタ307の検知信号から求められる(特許文献1参照)。
探針と試料の間に流れる電流を検出する走査型トンネル顕微鏡では、探針側に取り付けられているピエゾを走査して画像を収集している。
【0006】
一方、光てこ方式からなる原子間力顕微鏡では、図12に示すように、試料302の側にX方向,Y方向,Z方向のピエゾを設けているものが多い。
原子間力顕微鏡では、可動範囲の大きなピエゾ素子を搭載しているため、探針と試料との間の追随性が悪くなる。これを回避するため、探針(カンチレバー)313の母材上にX,Y,Zのピエゾを設けている例がある。探針(カンチレバー)313の母材上にX,Y,Zのピエゾを設けているものの中には、探針313は試料表面を「の」の字でなぞる様に小旋回動作をさせる例が開示されている(特許文献2)。
【0007】
また、これらに使用される探針313は、円柱状、円錐状、円筒状、平面状、三角錐、正四面体、針状、球状等の対称性に優れた形状が一般に用いられる。さらには、球形度が0.75以上の球状粒子をAFM(原子間力顕微鏡)用探針の先端に接着させる例(特許文献3)や、粒径が数十ミクロン以下の微小球状粒子を接着させる例(特許文献4)なども開示されている。これらの探針は、必ず、重心が板ばねの中心線上にある。これは、板ばねが試料に対して水平にアプローチする、あるいは上下振動する際に板ばねがズレて誤検知を生じないために必要不可欠だからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−241762号公報
【特許文献2】特開2008−191062号公報
【特許文献3】特開2002−62253号公報
【特許文献4】特開2009−115533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の光てこ方式の顕微鏡に使用されている駆動系では、使用可能な探針は、その形状が対称性に優れ、探針の重心が板ばねの中心線上に存在すること、その大きさが板ばねの歪まない程度に十分小さく、軽いことなどの制約があった。しかし、種々の製品に使用されている摺動部材や研磨部材などの実材料は、多孔体、多結晶体、凝集体などや、特定の箇所に溝を切ってあるものなど、形状が複雑かつ不定形で、しかも非対称であり、重心が材料の中心から大きくずれていたり、重量が大きかったりする場合が多い。
【0010】
これらの実材料を板ばねに取り付けて探針の替わりに使用しようとすると、板ばねの中心線上に材料の重心がくるように取り付けることが困難なために、板ばねがねじれてしまう。或いは、重量が大きいために板ばねが垂れ下がってしまうなどの不具合が生じている。
このように変形した板ばねでは、板ばねの背面にレーザ光を照射しても、その反射光が散乱してしまって集光させることができない、或いは、ディテクタで検出できないなどの問題がある。
【0011】
本発明は上記実状に鑑み、材料の重心が検知用の板ばねの中心からずれたり、材料の重量が大きいために板ばねが垂れ下がる場合にも正確な測定が可能なプローブ顕微鏡、およびこれを備える摩擦摺動・CMP・ハードディスクの検査装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成すべく、第1の本発明に関わる走査型プローブ顕微鏡は、第1試料が先端部に取り付けられた板ばねと、前記板ばねの前記先端部とは反対側の端部を固定する固定部材と、第2試料が固定される試料台と、光源から発生する検出光の光軸が前記板ばねの先端部または前記板ばねの変位に追従する部分に当てられ、その反射光を光検出器で検出する前記板ばねの変位検出光学系と、前記試料台もしくは前記板ばねを動かして、前記第1試料と前記第2試料とを接近または離隔させるための試料間隔調整機構と、前記第1試料と前記第2試料との間の摩擦を測定するための水平走査機構と、前記第1試料と前記第2試料との間の吸着、凝着、反発のうち少なくとも一つを測定するための垂直走査機構とを備える走査型プローブ顕微鏡であって、前記光源から発生する検出光の光軸が当てられた部分の前記第1試料が先端部に取り付けられた板ばねの傾きを、前記試料台に対して任意の角度で変化させるための前記固定部材を回転させる回転機構を備えている。
【0013】
第2の本発明に関わる摩擦摺動の検査装置は、第1の本発明の走査型プローブ顕微鏡を備え、相互に摩擦摺動する一対の摺動部材のうち少なくとも一方の前記摺動部材を、他方の前記摺動部材に対して摺動する摺動面が下面となるように、前記板ばねの先端部に取り付けると共に、前記他方の摺動部材を前記試料台の上に固定して、前記試料間隔調整機構が、前記板ばねの先端部に取り付けた一方の摺動部材と、前記他方の摺動部材との間に一定の荷重を加えるとともに、前記水平走査機構で前記試料台の上の他方の摺動部材を水平走査させることにより、前記一対の摺動部材間の摩擦特性を測定している。
【0014】
第3の本発明に関わるCMPの検査装置は、第1の本発明の走査型プローブ顕微鏡を備え、半導体用ウエハ、前記半導体用ウエハの表面を化学的機械的に研磨して平滑化するために用いるCMP用スラリに含まれる砥粒、一定の荷重をかけて回転させることにより前記半導体用ウエハの表面を研磨するためのCMP用パッド、前記CMP用パッドをクリーニングするためのCMP用ドレスのうちの少なくとも一つを前記板ばねの先端部に取り付けるとともに前記板ばねの先端部に取り付けた部材とは異なる部材を試料台の上に固定して、前記水平走査機構または前記垂直走査機構で前記試料台の上の部材を走査させることにより、摩擦、吸着、凝着、反発のうち少なくとも一つを測定している。
【0015】
第4の本発明に関わるハードディスクの検査装置は、第1の本発明の走査型プローブ顕微鏡を備え、ハードディスク用のヘッドを磁気記録媒体から一定の間隔で浮上させ、データの書き込みを行う磁気記録装置における前記ヘッドと前記磁気記録媒体のうち何れか一方の部材が前記板ばねの先端部に取り付けられるとともに他方の部材が前記試料台の上に固定され、前記水平走査機構または前記垂直走査機構で前記試料台の上の部材を走査させることにより、摩擦、吸着、凝着、反発のうち少なくとも一つを測定している。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、材料の重心が検知用の板ばねの中心からずれたり、材料の重量が大きいために板ばねが垂れ下がる場合にも正確な測定が可能なプローブ顕微鏡、およびこれを備える摩擦摺動・CMP・ハードディスクの検査装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態の一例を示す相互作用測定装置を示す概念的構成図である。
【図2】(a)は、実施形態の一例の試料aを取り付けた板ばねの先端部側が試料aの重みで下方に向け変形した状態を示す図1のA方向矢視図であり、(b)は、実施形態の試料aの重みで変形した板ばねを水平にした状態を示すA方向矢視図である。
【図3】(a)は、図1の実施形態の相互作用測定装置の板ばねの先端部に取り付けた試料aの重心が板ばねの中心線より左側にある場合の状態を示す図1のB方向矢視図であり、(b)は、(a)の相互作用測定装置の板ばねの先端部に取り付けた試料aの重心が板ばねの中心線より右側にある場合の状態を示す図1のB方向矢視図であり、(c)は、(a)、(b)の相互作用測定装置の変形した板ばねを水平にした状態を示す図1のB方向矢視図である。
【図4】実施形態の相互作用測定装置における回転機構の第1回転式アクチュエータの一例を示す図1のA方向矢視図である。
【図5】実施形態の相互作用測定装置で使用する試料aと板ばねとの廻りの外観を示す図である。(a)〜(d)は板ばねを上方から見た図(図1のC方向矢視図)であり、(e)〜(h)は板ばねを前方から見た図(図1のB方向矢視図)である。
【図6】(a)および(b)は、実施形態の一例を示す相互作用測定装置で使用する試料aと板ばねとの廻りの外観および試料aの寸法を示す図であり、板ばねを上方から見た図(図1のC方向矢視図)である。
【図7】実施形態の一例を示す相互作用測定装置で使用する雰囲気制御方式を示す図1のB方向矢視図である。
【図8】CMP用パッドから作製した試料a付き板ばねの一例であり、(a)は、試料a付き板ばねを上方から見た図(図1のC方向矢視図)であり、(b)は、試料a付き板ばねを向かって右側方から横から見た図(図1のA方向矢視図)である。
【図9】水平走査機構を用いてパッド粉を3nNの荷重をかけて左右に1ミクロンずつ走査させ、パッド粉とウエハとの間の摩擦を測定した際の板ばねのねじれの変位カーブを示す図である。
【図10】配線パターンの異なるウエハとパッド粉との相互作用を測定したときのねじれ変位幅と研磨速度との結果を示す図である。
【図11】CMP用スラリの砥粒から作製した試料a付き板ばねの一例であり、(a)は、試料a付き板ばねを上方から見た図(図1のC方向矢視図)であり、(b)は、試料a付き板ばねを横から見た図(図1のA方向矢視図)である。
【図12】従来の光てこ方式の顕微鏡を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施形態の一例を示す走査型プローブ顕微鏡の相互作用測定装置S1を示す概念的構成図である。
<実施形態の相互作用測定装置S1の概要>
実施形態の走査型プローブ顕微鏡の相互作用測定装置S1は、非対称の不定形形状を有する試料や、板ばねの重心を通る中心線から重心がずれた位置にしか設置できない試料を板ばねに接着して種々の相互作用の測定に使用する。
そのため、相互作用測定装置S1は、光源16から発生する検出光の光軸が当てられた部分の板ばね3の傾きを、試料台15に対して任意の角度で変化させるための板ばね3を回転させる回転機構22を備える。
【0019】
<相互作用測定装置S1の構成>
実施形態の相互作用測定装置S1は、先端部に試料a(1)が取り付けられた板ばね3と、板ばね3の先端部とは反対側の端部を固定した固定ホルダ14(図2参照)と備え、試料台15の上には試料b(2)が固定されている。なお、固定ホルダ14は、固定ホルダケース14cで覆われている。
相互作用測定装置S1は、光源16から発生するレーザ検出光等の検出光r11の光軸が板ばね3の先端部または板ばね3の変位に追従する部分に当てられた反射光r12を光検出器17で検出する板ばね3の変位検出光学系18と、試料台15もしくは板ばね3を動かして試料a(1)と試料b(2)とを接近または離隔させるための微動/粗動機構19と、試料a(1)と試料b(2)との間の摩擦を測定するために試料台15を水平方向(X・Y軸方向)に走査させる水平走査機構20と、試料a(1)と試料b(2)との間の吸着、凝着、反発のうち少なくとも一つを測定するために試料台15を垂直方向(Z軸方向)に走査させる垂直走査機構21とを有する走査型プローブ顕微鏡である。
【0020】
変位検出光学系18は、検出光r11を発する光源16と、光源16からの検出光r11を板ばね3に向けて集光するレンズ5と、ビームスプリッタと、板ばね3で反射した反射光r12を反射する鏡6と、鏡6で反射した反射光r12を検出する光検出器17とを有する。
相互作用測定装置S1は、試料a(1)と試料b(2)とを接近させる前に、光源16から発生する検出光r11の光軸が当てられた部分の板ばね3の傾きを、試料台15に対して任意の角度で変化させるための固定ホルダ14を回転させる回転機構22を備えている。
【0021】
図2〜図4は本発明の実施形態の一例を示す回転機構を表わす図である。
図2(a)は、実施形態の一例の試料a(1)を取り付けた板ばね3の先端部側が試料a(1)の重みで下方に向け変形した状態を示す図1のA方向矢視図であり、図2(b)は、実施形態の試料a(1)の重みで変形した板ばね3を水平にした状態を示すA方向矢視図である。
相互作用測定装置S1の回転機構22は、板ばね3の試料a(1)を取り付けた先端部から固定ホルダ14に固定された端部までの長手方向(例えば、板ばね3の長手方向の中心線c31)を、固定ホルダ14の固定端側を支点として、試料台15に対して水平方向になるように、図2(b)の矢印α11、α12方向に回転させる第1回転式アクチュエータ24aを備えている。
【0022】
図2(a)に示すように、固定ホルダ14の自由端側で水平に支持される板ばね3の先端部に試料a(1)を取り付けた場合、板ばね3が試料a(1)の重量により下方に向けて曲げ変形する。すると、光源16から発した検出光r11は、曲げ変形した板ばね3で反射し、反射した反射光r12が光検出器17から外れ、光検出器17で検出することができなくなる。
この際、図2(a)の矢印α12方向に、第1回転式アクチュエータ24aによって固定ホルダ14を介して変形した板ばね3を回転させ、図2(b)に示すように、変形した板ばね3の位置を変え、光源16から発した検出光r11が曲げ変形した板ばね3で反射し、反射した反射光r13が光検出器17に入るようにして、検出できるようにする。
【0023】
図3(a)は、実施形態の相互作用測定装置S1の板ばね3の先端部に取り付けた試料a(1)の重心1Gが板ばね3の重心が位置する板ばね3の幅を等分する中心線c33より左側にある場合の状態を示す図1のB方向矢視図であり、図3(b)は、図3(a)の相互作用測定装置S1の板ばね3の先端部に取り付けた試料a(1)の重心1Gが板ばね3の重心が位置する板ばね3の幅を等分する中心線c33より右側にある場合の状態を示す図1のB方向矢視図であり、図3(c)は、図3(a)、図3(b)の相互作用測定装置S1の変形した板ばね3を水平にした状態を示す図1のB方向矢視図である。
なお、板ばね3の重心は、板ばね3を上から見た場合、板ばね3の短手方向の幅を等分する中心線c33上に位置する。
相互作用測定装置S1の回転機構22は、板ばね3の短手方向(例えば、板ばね3の短手方向の中心線c32)を、試料台15に対して、図3(a)の矢印α21、図3(b)の矢印α22に示す方向に回転させる第2回転式アクチュエータ24b(図2参照)を備えている。
【0024】
図3(a)に示すように、板ばね3の先端部に取り付けた試料a(1)の重心1Gが、板ばね3の重心が位置する板ばね3の短手方向の幅を等分する中心線c33より向かって左側にある場合、板ばね3が向かって左側に曲げ変形する。そのため、光源16からの検出光r21が曲げ変形した板ばね3で反射し、反射した反射光r22が光検出器17からずれて光検出器17で検出することができなくなる。
【0025】
そこで、第2回転式アクチュエータ24bによって、固定ホルダ14を介して、図2(a)の矢印α21方向に、変形した板ばね3を回転させてその位置を変えて、図3(c)に示すように、光源16から発し変形した板ばね3で反射した反射光r24が、光検出器17に入射し光検出器17で検出できるようにする。
また、図3(b)に示すように、板ばね3の先端部に取り付けた試料a(1)の重心1Gが、板ばね3の重心が位置する板ばね3の幅を等分する中心線c33より向かって右側にある場合、板ばね3が向かって右側に曲げ変形する。そのため、光源16から発した検出光r21が曲げ変形した板ばね3で反射し、反射した反射光r23が検出器17からずれて、光検出器17で検出できなくなる。
【0026】
そこで、第2回転式アクチュエータ24bによって、固定ホルダ14を介して、図3(b)の矢印α22方向に、変形した板ばね3の短手方向を回転させて位置を変えて、図3(c)に示すように、光源16から発し変形した板ばね3で反射した反射光r24が、光検出器17に入るようにすることで光検出器17で検出できるようにする。
図4は、相互作用測定装置S1における回転機構22(図2参照)の第1回転式アクチュエータ24aの一例を示す図1のA方向矢視図である。
【0027】
第1回転式アクチュエータ24aは、固定支軸o1廻りにプーリp1が回転自在に支持されており、プーリp1に巻装されるベルトb1を介して、プーリp1の回転が伝達されるプーリp2が、固定支軸o2廻りに回転自在に支持されている。そして、プーリp2に巻装されるベルトb2を介してプーリp2の回転が伝達されるプーリp3が、固定支軸o3廻りに回転自在に支持されている。プーリp3には固定ホルダ14が固定され、プーリp3の回転により、固定ホルダ14が、図4の矢印α11方向または矢印α12方向に回転する。
【0028】
また、プーリp1には、長孔p11が形成され、長孔p11には、積層した圧電素子26に固定された伝達部材26dに固定されたピン26d1がスライド自在に嵌入されている。この積層した圧電素子26は、電圧が印加されることにより、図4の矢印β11方向または矢印β12方向に微動する。
積層した圧電素子26の下方には、ステップモータ25の回転運動が、図4の矢印β11方向または矢印β12方向の直線運動に変換され、矢印β11方向または矢印β12方向に粗動させる粗動機構25kが設けられており、粗動機構25kの上に、積層した圧電素子26が固定されている。
【0029】
第1回転式アクチュエータ24aは、ステップモータ25と圧電素子26を組み合わせた図4の矢印β11方向、矢印β12方向に移動する微動/粗動機構から得られる動力を、固定ホルダ14の回転運動へ変換する回転構造(プーリp1、p2、p3、ベルトb1、b2)を備え、この回転構造により、固定ホルダ14を回転運動させることによって、板ばね3を図4のα11方向、矢印α12方向に回転させて、配置できる。
【0030】
この構成により、板ばね3がその先端部に取り付けた試料a(1)の重量により変形し、光源16から発した検出光r11が曲げ変形した板ばね3で反射した反射光r12を、変形した板ばね3を図4のα11方向、矢印α12方向に回転させることで、光検出器17に入る反射光r13とすることができる(図2(b)参照)。
ここで、図2に示す回転機構22における板ばね3の短手方向を回転(図3参照)させる第2回転式アクチュエータ24bは、図4に示す回転式アクチュエータ24aの設置方向を板ばね3の長手方向廻りに90°回転させることにより、実現することができる。
【0031】
なお、図4においては、第1回転式アクチュエータ24aの一例を挙げたが、例示した以外のモータの回転運動を減速機構、リンク等を用いて伝達する粗動機構を構成することも可能であり、例示した構成に限定されない。また、微動機構も、所定の微動動作が得られれば、図4に例示した構成に限定されない。
また、第1回転式アクチュエータ24aは、板ばね3の長手方向を任意の角度回転できれば、その構成は適宜選択可能である。同様に、第2回転式アクチュエータ24bは、板ばね3の長手方向を任意の角度回転できれば、その構成は適宜選択可能である。
【0032】
図5は、実施形態の一例を示す相互作用測定装置S1で使用する試料a(1)と板ばね3との廻りの外観を示す図である。図5(a)〜図5(d)は板ばね3を上方から見た図(図1のC方向矢視図)であり、図5(e)〜図5(h)は板ばね3を前方から見た図(図1のB方向矢視図)である。
図5(a)〜図5(h)の中心線c33(一点鎖線)は、それぞれ板ばね3の重心が位置する板ばね3の幅を等分する中心線である。
【0033】
試料a(1)は、非対称の不定形形状を有しており、かつ、試料a(1)の重心1Gは、板ばね3の幅を等分する中心線c33からずれた位置にある。
そのため、板ばね3には、試料a(1)の重心1Gが板ばね3の幅を等分する中心線c33からずれることによる偏りの変形が発生し易い。
図6(a)、(b)は、実施形態の一例を示す相互作用測定装置S1で使用する試料a(1)と板ばね3との廻りの外観および試料a(1)の寸法を示す図であり、板ばね3を上方から見た図(図1のC方向矢視図)である。
【0034】
板ばね3に配置された試料a(1)は、板ばね3を上方から見下ろした場合(板ばね3の延在面を厚さ方向に上方から見下ろした場合)、最大径が60μm(マイクロメートル)以上かつ500μm以下の範囲にある。
実施形態の走査型プローブ顕微鏡の相互作用測定装置S1は、試料a(1)と試料b(2)の間の摩擦力、吸着力、凝着力、硬度、電位差、静電気力、磁気力、弾性率を測定する。
摩擦力は、相互作用測定装置S1により、次のようにして求められる。
【0035】
試料a(1)と試料b(2)とを、水平走査機構20によって試料台15を水平移動(図1のX、Y方向に移動)させることにより、水平方向に擦り合わせる。すると、試料a(1)と試料b(2)との摩擦力で板ばね3が変形するので、その時の板ばね3の変位を測定することで摩擦力が求められる。
試料a(1)と試料b(2)とを擦り合わせる方向は板ばね3の短手方向(図3の中心線c32方向)とする。このとき、板ばね3の短手方向(図3の中心線c32方向)に対するねじれを検知する。ねじれが大きいほど摩擦抵抗が大きく、摩擦が大きい。
【0036】
吸着力は、相互作用測定装置S1により、次のようにして求められる。
試料a(1)と試料b(2)とが離れた状態から、垂直走査機構21(図1参照)で試料台15を鉛直方向(Z軸方向)に移動させることにより、上下方向に接近させて、その時の板ばね3の変位を測定する。変位は試料a(1)と試料b(2)が接触するときの板ばね3のたわみを検知して得る。板ばね3のたわみが大きいほど試料a(1)と試料b(2)との吸着力が大きい。
凝着力は、相互作用測定装置S1により、次のようにして求められる。
【0037】
試料a(1)と試料b(2)が接触した状態から、垂直走査機構21(図1参照)で試料台15を鉛直方向に移動させることにより、上下方向に離して、その時の板ばね3の変位を測定する。変位は、試料a(1)と試料b(2)が離れるときのたわんだ板ばね3の戻り量を検知して得る。戻り量が大きいほど、凝着力に起因する板ばね3の変形のエネルギが大きいので、試料a(1)と試料b(2)との凝着力は大きい。
硬度は、試料a(1)と試料b(2)とが接した状態から、垂直走査機構21(図1参照)で試料台15を鉛直方向に移動させることにより、上下方向にさらに押しつけて、その時の板ばね3の変位を測定する。変位は試料a(1)と試料b(2)が押しつけ合ったときの板ばね3の反りを検知して得る。反りが大きいほどより硬いので、硬度が大きい。
【0038】
電位差は、電気化学的に研磨される材料や、電気化学的な作用をする材料に対して測定される
電位差は、試料a(1)と試料b(2)とを、垂直走査機構21(図1参照)で試料台15を鉛直方向に移動させることにより、少し離して一定のバイアス電圧を印加してその時の電位差を読み取る。
静電気力は、試料a(1)と試料b(2)が離れた状態から、垂直走査機構21(図1参照)で試料台15を鉛直方向に移動させることにより、上下方向にさらに接近させて、その時の板ばね3の変位を測定する。変位は試料a(1)と試料b(2)が接近したときの板ばね3の反りを検知して得る。板ばね3の反りが大きいほど静電気力は大きい。
【0039】
磁気力は、試料a(1)と試料b(2)を、垂直走査機構21(図1参照)で試料台15を鉛直方向に移動させることにより、上下方向に叩いて、その時の板ばね3の周期の遅れを測定する。叩く周期からの遅れ(位相差)が大きいほど磁気力は大きい。
弾性力は、試料a(1)と試料b(2)を、垂直走査機構21(図1参照)で試料台15を鉛直方向に移動させることにより、上下方向に叩いて、その時の板ばね3の周期の遅れを測定する。叩く周期からの遅れ(位相差)が大きいほど弾性力は小さい。
【0040】
図7は本実施形態の相互作用測定装置S1で使用する雰囲気制御方式を示す図1のB方向矢視図である。
相互作用測定装置S1は、試料a(1)と試料b(2)を、任意の温度、湿度、真空中、気体中、液体中に設置するための雰囲気制御機構30を有する密閉容器31を備える。
雰囲気制御機構30による密閉容器31の温度の制御は、ヒータ、冷凍サイクル等を利用して、密閉容器31の所望の温度を得る。
雰囲気制御機構30による密閉容器31の湿度の発生方法は、例えば、水を溜ためた水槽の中にバブラを設置し、バブラにガスを流し込む。水槽の温度を上げることにより、飽和水蒸気が発生する。そして、飽和水蒸気を試料a(1)と試料b(2)のセットされた密閉容器31内に流し込む。湿度の制御は、流し込む飽和水蒸気を含んだガスと乾燥ガスとの混合によって得る。
【0041】
雰囲気制御機構30による密閉容器31の真空制御は、例えば、密閉容器31をバキュームポンプで真空引きする。
雰囲気制御機構30による密閉容器31の気体制御は、例えば、密閉容器31へ所望の気体を該気体を入れた容器から流し込む。
雰囲気制御機構30による密閉容器31の液体制御は、例えば、密閉容器31へ所望の液体を該液体を入れた容器からポンプで流し込む。
【0042】
<相互作用測定装置S1を備える検査装置>
図1に示す相互作用測定装置S1を備える検査装置は、相互に摩擦摺動する一対の摺動部材のうち少なくとも一方の摺動部材を、他方の摺動部材に対して摺動する摺動面が下面となるように、板ばね3の先端部に取り付けると共に、他方の摺動部材を試料台15の上に固定する。そして、板ばね3の先端部に取り付けた一方の摺動部材と試料台15の上に固定した他方の摺動部材との間に垂直走査機構21で一定の荷重を加えるとともに、水平走査機構20で試料台15の上の他方の摺動部材を水平走査させることにより、摩擦を測定する。
【0043】
さらに、検査装置は、相互に摩擦摺動する一対の摺動部材の少なくとも一方の摺動面に被膜が形成された摺動部材の耐摩耗性を検査する。摺動面に被膜が形成された摺動部材とは、例えば、CMP用スラリに使用される砥粒に表面添加剤の被膜を付けたものや、表面にダイヤモンドカーボンを付けたもの、表面に潤滑膜を付けたもの等がある。
その他、摩擦摺動を測定する一対の摺動部材として、シンクロメッシュ式の変速機におけるシンクロナイザリングと、該シンクロナイザリングに摩擦摺動するクラッチギヤが挙げられる。
【0044】
<相互作用測定装置S1を備えるCMP(Chemical Mechanical Polishing)の検査装置>
図1に示す相互作用測定装置S1を備えるCMPの検査装置は、半導体用ウエハと、半導体用ウエハの表面を化学的機械的に研磨して平滑化するために用いるCMP用スラリと、CMP用スラリに含有される砥粒と、一定の荷重をかけて回転させることにより半導体用ウエハの表面を研磨するためのCMP用パッドと、CMP用パッドをクリーニングするためのCMP用ドレスとを用いて、CMPの検査を行う。
【0045】
これらの半導体用ウエハ、砥粒、CMP用パッド、CMP用ドレスのうち少なくとも一つを板ばね3の先端部に取り付けるとともに、板ばね3の先端部に取り付けた部材とは異なる部材を試料台15の上に固定する。そして、両部材の間に垂直走査機構21で一定の荷重を加えるとともに水平走査機構20で試料台15の上の部材を水平走査させることにより摩擦を測定する。
或いは、試料台15の上の部材を垂直走査機構21で垂直走査させることにより、吸着、凝着、反発のうち少なくとも一つを測定する。
【0046】
CMPの検査装置は、化学的機械的研磨における砥粒と半導体用ウエハ間、CMP用パッドと半導体用ウエハ間、CMP用ドレスと半導体用ウエハ間、CMP用ドレスと砥粒間、CMP用パッドと砥粒間、CMP用パッドとCMP用ドレス間の少なくとも一つにおいて、摩擦、吸着、凝着、反発のうち少なくとも一つを測定して、測定した情報を用いて、研磨速度、パッド寿命、ドレス寿命を予測する速度・寿命予測手段を備えている。速度・寿命予測手段は、コンピュータ等で構成される。
【0047】
例えば、速度・寿命予測手段は、摩擦が大の場合は摩擦抵抗が大きいので研磨速度が速いと予測する一方、摩擦が小の場合は摩擦抵抗が小さいので研磨速度が遅いと予測する。
速度・寿命予測手段は、CMP用パッドと半導体用ウエハとの間の摩擦、吸着、凝着、反発力の何れかが大、CMP用パッドと砥粒間の摩擦、吸着、凝着、反発力の何れかが大、CMP用パッドとCMP用ドレス間の摩擦、吸着、凝着、反発力の何れかが大等の場合、CMP用パッドの寿命が短いと判断する。一方、予測手段は、CMP用パッドと半導体用ウエハとの間の摩擦、吸着、凝着、反発の何れかが小、CMP用パッドと砥粒間の摩擦、吸着、凝着、反発力の何れかが小、CMP用パッドとCMP用ドレス間の摩擦、吸着、凝着、反発力の何れかが小等の場合、CMP用パッドの寿命が長いと判断する。
【0048】
速度・寿命予測手段は、CMP用ドレスと半導体用ウエハとの間の摩擦、吸着、凝着、反発の何れかが大、CMP用ドレスと砥粒間の摩擦、吸着、凝着、反発力の何れかが大、CMP用パッドとCMP用ドレス間の摩擦、吸着、凝着、反発の何れかが大等の場合、CMP用ドレスの寿命が短いと判断する。一方、予測手段は、CMP用ドレスと半導体用ウエハとの間の摩擦、吸着、凝着、反発の何れかが小、CMP用ドレスと砥粒間の摩擦、吸着、凝着、反発の何れかが小、CMP用パッドとCMP用ドレス間の摩擦、吸着、凝着、反発の何れかが小等の場合、CMP用ドレスの寿命が長いと判断する。
なお、説明した速度・寿命予測手段の予測は一例であり、予測は適宜行えるのは勿論である。
【0049】
<相互作用測定装置S1を備えるハードディスクの検査装置>
図1に示す相互作用測定装置S1を備えるハードディスクの検査装置は、ハードディスク用のヘッドを磁気ディスク等の磁気記録媒体から一定の間隔で浮上させ、データの書き込みを行う磁気記録装置の検査に用いられる。
磁気記録装置のヘッドと磁気記録媒体とのうち何れか一方の部材を板ばね3の先端部に取り付けるとともに板ばね3の先端部に取り付けた部材とは異なる他方の部材を試料台15の上に固定して、両部材間に垂直走査機構21で一定の荷重を加えるとともに水平走査機構20で、試料台15の上の部材を水平走査させることにより、摩擦を測定する。
【0050】
或いは、試料台15の上の部材を、垂直走査機構21で垂直走査させることにより、吸着、凝着、反発のうち少なくとも一つを測定する。
ハードディスクの検査装置は、ハードディスクにおけるヘッドと磁気記録媒体間の摩擦、吸着、凝着、反発のうち少なくとも一つを測定し、測定した情報を用いて書き込みエラーの発生率を予測するエラー予測手段を備える。エラー予測手段は、コンピュータ等で構成される。
【0051】
例えば、エラー予測手段は、ヘッドと磁気記録媒体間の摩擦、吸着、凝着、反発の何れかが大き過ぎるまたは小さ過ぎる場合、エラーの発生率が高いと予測する一方、ヘッドと磁気記録媒体間の摩擦、吸着、凝着、反発が適切な場合、エラーの発生率が低いと予測する。
なお、このエラー予測手段の予測は一例であり、予測は適宜行える。
【0052】
<<実施形態1>>
次に、実施形態1の相互作用測定装置S1を備えるCMPの検査装置によるCMP用パッドと半導体用のウエハとの摩擦特性の検査について説明する。
CMP用の研磨パッドを細かく裁断して、長さが約120ミクロン、幅が約80ミクロン、高さが約130ミクロンのパッド粉末を作製した。これを、板ばね3の先端部分にエポキシ樹脂を用いて接着した。
【0053】
図8は、CMP用パッドから作製した試料a(1)付き板ばね3の一例であり、図8(a)は、試料a(1)付き板ばね3を上方から見た図(図1のC方向矢視図)であり、図8(b)は、試料a(1)付き板ばね3を向かって右側方から見た図(図1のA方向矢視図)である。
試料a(1)のパッド粉末はポリウレタンの発泡体から形成されているため、その形状は多孔体であり、かつ、非対称、不定形な形状で、試料a(1)のパッド粉末の重心1Gの位置が板ばね3の重心が位置する板ばね3の幅を等分する中心線c33から一方側に大きくずれていることが分かった。
【0054】
このCMP用パッドから作製した試料a(1)を、図1の相互作用測定装置S1を用いて相互作用を測定するため、固定ホルダ14(図2参照)に板ばね3の試料a(1)を接着した先端部分とは反対側の端部を固定した。このとき、図8(b)に示すように、板ばね3が試料a(1)の重量により水平線に対して左に3°(板ばね3の先端側が下方に3°)ほど傾いているのが分かった。
一方、試料台15には試料b(2)として銅の配線が表面に形成されているLSI(Large Scale Integration)用のウエハを固定した。光源16から発生する検出光r11の光軸を板ばね3の先端部分に当てて、反射光r12を光検出器17で検出する操作を行ったところ、板ばね3がパッド粉末の重心1Gの側にねじれているため検出できた光量は通常の1/8しかなかった。
【0055】
そこで、第1回転アクチュエータ24a(図2(b)参照)により、図8(b)の矢印α11に示すように、下方に傾き変形した板ばね3を、時計方向に3°ほど回転させて、試料台15に対して板ばね3が平行になるように設定した。
この状態で、再度、光源16から発生する検出光r11の光軸を板ばね3の先端部分に当てて、反射光r12を光検出器17で検出する操作を行ったところ、検出できた光量は通常の6/8まで回復した。
【0056】
次に、第2回転式アクチュエータ24bにより、板ばね3(図8(a)参照)を、固定ホルダ14の側を支点として試料台15に対し水平になるように除々に回転させながら、検出光r11の光軸を板ばね3の先端部分に当てて、反射光r12を光検出器17で検出する操作を行った。検出された光量が通常の値まで回復したところで、回転を止めた。この状態で、板ばね3の先端部に接着させたパッド粉(試料a(1))とウエハ(試料b(2))とを微動/粗動機構19(図1参照)を用いて接近させた。
【0057】
そして、微動/粗動機構19を用いて試料a(1)のパッド粉に3nN(ナノニュートン)の荷重をかけて、試料台15のウエハを水平走査機構20を用いて左右(板ばね3の短手方向)に1ミクロン(μm)ずつ走査させたところ、試料a(1)のパッド粉とウエハとの間の摩擦を測定することができた。
この時の板ばね3のねじれの変位カーブを図9に示す。図9の横軸に走査距離をとり、縦軸にねじれ変位をとっている。
ねじれ変位は反射光r12を光検出器17で検出した電圧信号で捉える。
【0058】
図9の点n0が走査の測定開始の点とする。点n0から点n1(矢印n11)では走査速度が上がるので、ねじれ変位(摩擦力)が急激に上昇する。点n1で、走査が定常状態になるので、点n1から点n2(矢印n12)ではねじれ変位(摩擦力)が一定となる。点n2から点n3から逆方向に走査すると、点n2から点n3(矢印n13)でねじれ変位(摩擦力)が減少する。点n3で逆向きの走査方向の定常状態になり、点n3から点n0(矢印n14)ではねじれ変位(摩擦力)が一定となる。
【0059】
図9においては、板ばね3が受ける摩擦力(摩擦抵抗)が大きいほどねじれ変位幅が大きくなるので、図9に示すねじれ変位幅が大きいほど摩擦力が大きいことを表わす。
配線パターンの異なるウエハ(試料b(2))とパッド粉(試料a(1))との相互作用を上記の方法で測定したときのねじれ変位幅研磨速度との結果を図10に示す。図10の縦軸は、同じウエハとパッドとを実際に研磨して求めた研磨速度(μm/min)であり、横軸は、ねじれ変位幅(mV)である。
【0060】
この結果より、摩擦力(図10の横軸のねじれ変位幅)と研磨速度(図10の縦軸)との間に良い相関性が得られていることがわかる。
即ち、半導体用ウエハの研磨速度を検査するためのCMPの検査装置として、本相互作用測定装置S1備えるCMPの検査装置が有効である。この装置を用いた検査では、図10の情報をデータベース化することで、速度・寿命予測手段によって、実際の測定に際して、板ばね3の測定したねじれ変位幅から、データベースの図10の情報を用いて、半導体用ウエハの研磨速度を推定できる。これにより、要求されている研磨速度が得られているかどうかを検査することができる。
【0061】
<<実施形態2>>
次に、相互作用測定装置S1を備えるCMPの検査装置によるCMP用スラリの砥粒とCMP用のドレスとの吸着力の測定について、説明する。
CMP用のスラリ中に含まれる砥粒を、板ばね3の先端部分にエポキシ樹脂を用いて接着した。
図11は、CMP用スラリの砥粒から作製した試料a(1)を取り付けた板ばね3の一例を示す図であり、図11(a)は、試料a(1)付き板ばね3を上方から見た図(図1のC方向矢視図)であり、図11(b)は、試料a(1)付き板ばね3を向かって右側方から見た図(図1のA方向矢視図)である。
【0062】
砥粒は酸化セリウム結晶の集合体から形成されているため、その形状は多結晶体であり、かつ、非対称、不定形な形状で、図11(a)に示すように、試料a(1)の重心1Gの位置が板ばね3の重心を通る板ばね3の短手方向の幅を等分する中心線c33から一方側(向かって右側)に大きくずれていることが分かる。
これを、図1の相互作用測定装置S1を用いてCMP用スラリの砥粒の相互作用を測定するため、固定ホルダ14に板ばね3の試料a(1)とは反対側の端部を固定するとともに、試料台15には試料b(2)としてCMP用のドレスを固定した。そして、微動/粗動機構19により、板ばね3の試料a(1)に試料台15に固定した試料b(2)のCMP用のドレスを接触させた。
【0063】
このとき、図11(b)に示すように、板ばね3の中心線c31が水平方向に対して時計廻り方向に2°ほど傾いているのが分かった。光源16から発生する検出光r11の光軸を板ばね3の先端部分に当てて、反射光r12を光検出器17で検出する操作を行ったところ、板ばね3が水平方向に対して時計廻り方向に2°ほどねじれているため、検出できた光量は通常の1/4しかなかった。ここで、第1回転アクチュエータ24aにより、左に傾いた中心線c31をもつ板ばね3を図11(b)の矢印α12に示す反時計廻り方向に2°ほど回転させて、試料台15に対して板ばね3が平行になるように設定した。
【0064】
この状態で、再度、光源16から発生する検出光r11の光軸を板ばね3の先端部分に当てて、反射光r12を光検出器17で検出する操作を行ったところ、検出できた光量は通常の2/4まで回復した。次に、第2回転式アクチュエータ24bにより、図11(a)に示す板ばね3を、水平になるように回転させながら、検出光r11の光軸を板ばね3の先端部分に当てて、反射光r12を光検出器17で検出する操作を行った。検出された光量が通常の値まで回復したところで、第2回転式アクチュエータ24bによる板ばね3の回転を止めた。
【0065】
垂直走査機構21を用いて、試料台15に固定した試料b(2)のCMP用のドレスを、板ばね3の先端に接着させた試料a(1)の砥粒に接近させたところ、砥粒とCMP用のドレスとの間の吸着力を測定することができた。
ここで、この吸着力が大きいほど、ドレスは摩耗し易いことが実験により判明した。そのため、この吸着力の測定は、ドレスの摩耗し易さを検査するのに有効である。
即ち、CMP用のドレスの摩耗性を検査するためのCMPの検査装置として、吸着力を測定できる相互作用測定装置S1を備えるCMPの検査装置が有効であることが示された。
【0066】
また、CMPの検査装置は、CMP用スラリの砥粒とCMP用のドレスとの吸着力と摩耗速度との関係をあらかじめ求めてデータベースに記憶しておき、実際の砥粒とドレスとの間の吸着力から、データベースのCMP用スラリの砥粒とCMP用のドレスとの吸着力と摩耗速度との関係を用いて、CMP用ドレスの摩耗速度を推定する速度・寿命予測手段を備える。
これにより、CMPの検査装置は、吸着力を測定することにより、要求されている摩耗速度が得られているかどうかを検査することができる。
【0067】
<効果>
相互作用測定装置S1を用いれば、非対称の不定形形状を有する試料や、重心が板ばね3の短手方向におけるその重心の位置からずれた位置にしか設置できない試料を板ばね3に接着させて種々の相互作用の測定に用いることができる。また、最大径が60μm(マイクロメートル)以上かつ500μm以下の大きい試料でも使用することができる。これにより、種々の製品に使用されている摺動部材や研磨部材などの実材料、例えば、多孔体、多結晶体、凝集体などや、特定の箇所に溝を切ってあるものなど、形状が複雑でかつ非対称であったり、重心が板ばね3の中心から大きくずれていたり、重量が大きかったりする材料を評価することが可能となる。
【0068】
これらの実材料を板ばね3に取り付けて探針の替わりに使用する場合、板ばね3の短手方向の重心の位置に材料の重心の位置をもってくることができないため、板ばね3がねじれてしまうが、本装置を用いれば、左右のねじれを修正することができる。
また、実材料の重量が大きいために板ばね3が垂れ下がって変形してしまう場合にも、本装置を用いれば、上下のたわみを修正することができる。従来の装置では、変形した板ばねの背面にレーザ光を照射しても、その反射光が散乱してしまって集光させることができない、あるいは、光検出器で検出できないなどの問題があったが、これらの問題を解決することができ、あらゆる実材料に対して、相互作用を測定することが可能となる。
【符号の説明】
【0069】
1 試料a(第1試料)
1G 試料aの重心(第1試料の重心)
2 試料b(第2試料)
3 板ばね
5 レンズ(変位検出光学系)
6 鏡(変位検出光学系)
14 固定ホルダ(固定部材)
15 試料台
16 光源(変位検出光学系)
17 光検出器(変位検出光学系)
18 変位検出光学系
19 微動/粗動機構(試料間隔調整機構)
20 水平走査機構
21 垂直走査機構
22 回転機構
24 回転式アクチュエータ
24a 第1回転式アクチュエータ
24b 第2回転式アクチュエータ
25 ステップモータ
26 圧電素子
30 雰囲気制御機構
31 密閉容器
b1、b2 ベルト(変換構造)
c31 板ばねの長手方向の中心線(板ばねの長手方向の中心線)
c32 板ばねの短手方向の中心線(板ばねの短手方向の中心線)
c33 板ばねの短手方向の幅を等分する中心線
p1、p2、p3 プーリ(変換構造)
r11 (検出光)
r12 反射光
S1 相互作用測定装置(走査型プローブ顕微鏡)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1試料が先端部に取り付けられた板ばねと、
前記板ばねの前記先端部とは反対側の端部を固定する固定部材と、
第2試料が固定される試料台と、
光源から発生する検出光の光軸が前記板ばねの先端部または前記板ばねの変位に追従する部分に当てられ、その反射光を光検出器で検出する前記板ばねの変位検出光学系と、
前記試料台もしくは前記板ばねを動かして、前記第1試料と前記第2試料とを接近または離隔させるための試料間隔調整機構と、
前記第1試料と前記第2試料との間の摩擦を測定するための水平走査機構と、
前記第1試料と前記第2試料との間の吸着、凝着、反発のうち少なくとも一つを測定するための垂直走査機構とを備える走査型プローブ顕微鏡であって、
前記光源から発生する検出光の光軸が当てられた部分の前記第1試料が先端部に取り付けられた板ばねの傾きを、前記試料台に対して任意の角度で変化させるための前記固定部材を回転させる回転機構を備える
ことを特徴とする走査型プローブ顕微鏡。
【請求項2】
前記回転機構として、
前記板ばねの前記第1試料を取り付けた先端部から前記固定ホルダに固定された端部までの長手方向を、前記固定部材側を支点として前記試料台に対して回転させる第1回転式アクチュエータを備える
ことを特徴とする請求項1記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項3】
前記回転機構として、
前記板ばねの短手方向を、前記試料台に対して回転させる第2回転式アクチュエータを備える
ことを特徴とする請求項1または請求項2記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項4】
前記第1回転式アクチュエータまたは前記第2回転式アクチュエータは、ステップモータと圧電素子を組み合わせて得られる動力を回転運動へ変換させる変換構造を備える
ことを特徴とする請求項2または請求項3記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項5】
前記第1試料は、非対称の不定形形状を有し、かつ、その重心が前記板ばねの短手方向における前記板ばねの重心の位置からずれた位置にある
ことを特徴とする請求項1から請求項4に何れか一項記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項6】
前記板ばねに取り付けられた第1試料は、前記板ばねの延在平面をその厚さ方向に見下ろした場合、前記第1試料の最大径が60マイクロメートル以上かつ500マイクロメートル以下の範囲である
ことを特徴する請求項5記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項7】
前記第1試料と前記第2試料の間の摩擦力、吸着力、凝着力、硬度、電位差、静電気力、磁気力、弾性率の何れかを測定することを特徴とする請求項1から請求項6の何れか一項記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項8】
前記第1試料と前記第2試料とを、任意の温度、湿度、真空中、気体中、液体中の何れかに設置するための雰囲気制御機構を有する密閉容器を備える
ことを特徴とする請求項1から請求項7の何れか一項記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項9】
請求項1から請求項8の何れか一項記載の走査型プローブ顕微鏡を備え、
相互に摩擦摺動する一対の摺動部材のうち少なくとも一方の前記摺動部材を、他方の前記摺動部材に対して摺動する摺動面が下面となるように、前記板ばねの先端部に取り付けると共に、
前記他方の摺動部材を前記試料台の上に固定して、
前記試料間隔調整機構は、前記板ばねの先端部に取り付けた一方の摺動部材と、前記他方の摺動部材との間に一定の荷重を加えるとともに、前記水平走査機構で前記試料台の上の他方の摺動部材を水平走査させることにより、前記一対の摺動部材間の摩擦特性を測定することを特徴とする摩擦摺動の検査装置。
【請求項10】
前記一対の摺動部材の少なくとも一方の摺動面に被膜が形成された摺動部材の耐摩耗性を検査することを特徴とする請求項9記載の摩擦摺動の検査装置。
【請求項11】
前記一対の摺動部材は、シンクロメッシュ式の変速機におけるシンクロナイザリングと該シンクロナイザリングに摩擦摺動するクラッチギヤとである
ことを特徴とする請求項9または請求項10記載の摩擦摺動の検査装置。
【請求項12】
請求項1から請求項8の何れか一項の記載の走査型プローブ顕微鏡を備え、
半導体用ウエハ、前記半導体用ウエハの表面を化学的機械的に研磨して平滑化するために用いるCMP用スラリに含まれる砥粒、一定の荷重をかけて回転させることにより前記半導体用ウエハの表面を研磨するためのCMP用パッド、前記CMP用パッドをクリーニングするためのCMP用ドレスのうちの少なくとも一つを前記板ばねの先端部に取り付けるとともに前記板ばねの先端部に取り付けた部材とは異なる部材を試料台の上に固定して、
前記水平走査機構または前記垂直走査機構で前記試料台の上の部材を走査させることにより、摩擦、吸着、凝着、反発のうち少なくとも一つを測定する
ことを特徴とするCMPの検査装置。
【請求項13】
請求項12記載のCMPの検査装置において、
前記走査型プローブ顕微鏡は、化学的機械的研磨における前記砥粒と前記半導体用ウエハ間、前記CMP用パッドと前記半導体用ウエハ間、前記CMP用ドレスと前記半導体用ウエハ間、前記CMP用ドレスと前砥粒間、前記CMP用パッドと前記砥粒間、前記CMP用パッドと前記CMP用ドレス間の少なくとも一つにおいて、摩擦、吸着、凝着、反発のうち少なくとも一つを測定し、
その測定した情報を用いて、前記半導体用ウエハの研磨速度、前記CMP用パッドの寿命、前記CMP用ドレスの寿命のうちの少なくとも何れかを予測する速度・寿命予測手段を備える
ことを特徴とするCMPの検査装置。
【請求項14】
請求項1から請求項8の何れか一項記載の走査型プローブ顕微鏡を備え、
ハードディスク用のヘッドを磁気記録媒体から一定の間隔で浮上させ、データの書き込みを行う磁気記録装置における前記ヘッドと前記磁気記録媒体のうち何れか一方の部材が前記板ばねの先端部に取り付けられるとともに他方の部材が前記試料台の上に固定され、
前記水平走査機構または前記垂直走査機構で前記試料台の上の部材を走査させることにより、摩擦、吸着、凝着、反発のうち少なくとも一つを測定する
ことを特徴とするハードディスクの検査装置。
【請求項15】
請求項14記載のハードディスクの検査装置において、
前記ハードディスク用のヘッドと前記磁気記録媒体間の、摩擦、吸着、凝着、反発のうち少なくとも一つが測定され、
その測定した情報を用いて、書き込みエラーの発生率を予測するエラー予測手段を備える
ことを特徴とするハードディスクの検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図8】
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【図11】
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