説明

プーリ及びプーリの製造方法

【課題】中間フランジの空回りを確実に防止でき、溶接の際の作業負担を軽減し、中間フランジの真円度を向上させ、溶接強度のばらつきをなくして品質を向上させたプーリ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】中間フランジが、ベルト巻回面140の円周方向に設けられたフランジ溝160に端部110a、120aを対向するように嵌合させた略半円弧状の一対の分割リング110、120と、一対の分割リング110、120の端部110a、120a間のフランジ溝160の底面に穿孔したピン孔170と、このピン孔170に圧入された回り止めピン150と、端部110a、120aの対向面と回り止めピン150とを一緒に溶接し、その溶接面を旋削仕上げしてなる溶接部とを有することにより前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス機械や電動射出成形機の駆動モータなどに用いられるプーリ及びその製造方法であって、特に、ベルト幅方向に分割されて複数のベルトを掛巻して使用するプーリ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一つのプーリのベルト巻回面をベルト幅方向に中間フランジによって分割し複数のベルトを掛巻して動力の伝達を行うプーリが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなプーリは、図4に示すようにベルト巻回面240の円周方向にフランジ溝を設け、そのフランジ溝に略半円弧状の一対の分割リング210、220を端部が対向するように嵌合させ、その端部間の隙間を溶接によって接合していた。図4において、符号230を付した部分が溶接部である。
【特許文献1】特開2007−127166号公報(特に、第3頁、図2参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述したような従来のプーリは、略半円弧状の一対の分割リング210及び分割リング220の端面を溶接するだけで中間フランジが構成されているので、中間フランジがプーリのベルト巻回面240に対して空回りする。中間フランジが空回りすると、金属同士が摺接することによる耳障りな騒音や異音が発生する。そして、溶接部230に異常荷重が負荷され、中間フランジが破断に至る恐れがある。さらに、中間フランジが破断した場合、プーリに掛巻された複数のベルトが干渉するため、ベルトが切断される恐れが高まる。
【0005】
また、中間フランジは、略半円弧状の一対の分割リング210及び分割リング220をフランジ溝に嵌合させて2つ合わせて上下2箇所で溶接している。そのため、分割リング210及び分割リング220には、溶接するための隙間ができるように形成されている。すなわち、分割リング210、220は、真の半円弧ではなく若干短く形成されている。したがって、その隙間間隔がばらつくため、溶接体積がばらつき、溶接強度もばらつくと共に、中間フランジの真円度が低下する原因ともなっていた。また、上下に形成される隙間間隔を合わせることが困難で溶接する際の作業負担が大きかった。その結果、複数のプーリを製造した際に、中間フランジの安定した接合強度が得られず、品質が低下するという課題が指摘されていた。
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする技術的課題、すなわち、本発明の目的は、中間フランジの空回りを確実に防止でき、溶接の際の作業負担を軽減し、中間フランジの真円度を向上させ、溶接強度のばらつきをなくして品質を向上させたプーリ及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
まず、本請求項1に係る発明は、ベルト巻回面をベルト幅方向に中間フランジによって分割し複数のベルトを掛巻するプーリにおいて、前記中間フランジが、ベルト巻回面の円周方向に設けられたフランジ溝に端部を対向するように嵌合させた略半円弧状の一対の分割リングと、前記一対の分割リングの端部間のフランジ溝の底面に穿孔したピン孔と、前記ピン孔に圧入された回り止めピンと、前記端部の対向面と前記回り止めピンとを一緒に溶接し、該溶接面を旋削仕上げしてなる溶接部とを有することによって、前記課題を解決したものである。
【0008】
そして、本請求項2に係る発明は、ベルト巻回面をベルト幅方向に中間フランジによって分割し複数のベルトを掛巻するプーリの製造方法において、前記ベルト巻回面の円周方向にフランジ溝を設ける工程と、前記フランジ溝の上下2箇所にピン孔を穿孔する工程と、前記ピン孔に回り止めピンを圧入する工程と、前記フランジ溝に略半円弧状の一対の分割リングを端部が前記回り止めピンを挟んで対向するように嵌合させる工程と、前記分割リング端部の対向面と前記回り止めピンとを一緒に溶接する工程と、前記溶接された表面を旋削仕上げする工程とからなることにより、前記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0009】
本請求項1に係る発明によれば、ベルト巻回面をベルト幅方向に中間フランジによって分割し複数のベルトを掛巻するプーリにおいて、前記中間フランジが、ベルト巻回面の円周方向に設けられたフランジ溝に端部を対向するように嵌合させた略半円弧状の一対の分割リングと、前記一対の分割リングの端部間のフランジ溝の底面に穿孔したピン孔と、前記ピン孔に圧入された回り止めピンと、前記端部の対向面と前記回り止めピンとを一緒に溶接し、該溶接面を旋削仕上げしてなる溶接部とを有することによって、中間フランジの接合部の強度が溶接強度のみならず、回り止めピンによっても担われるため、中間フランジの空回りが確実に防止できる。
【0010】
そして、本請求項2に係る発明によれば、ベルト巻回面をベルト幅方向に中間フランジによって分割し複数のベルトを掛巻するプーリの製造方法において、前記ベルト巻回面の円周方向にフランジ溝を設ける工程と、前記フランジ溝の上下2箇所にピン孔を穿孔する工程と、前記ピン孔に回り止めピンを圧入する工程と、前記フランジ溝に略半円弧状の一対の分割リングを端部が前記回り止めピンを挟んで対向するように嵌合させる工程と、前記分割リング端部の対向面と前記回り止めピンとを一緒に溶接する工程と、前記溶接された表面を旋削仕上げする工程とからなることによって、回り止めピンを基準として、一対の分割リングをフランジ溝に上下の溶接用の隙間を略同間隔となるように嵌合させることができるため、溶接時の作業負担が軽減されると共に、複数のプーリを製造した際に溶接強度がばらつくことなく、品質が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のプーリは、ベルト巻回面をベルト幅方向に中間フランジによって分割し複数のベルトを掛巻するものであって、中間フランジが、ベルト巻回面の円周方向に設けられたフランジ溝に端部を対向するように嵌合させた略半円弧状の一対の分割リングと、これらの一対の分割リングの端部間のフランジ溝の底面に穿孔したピン孔と、このピン孔に圧入された回り止めピンと、前記端部の対向面と前記回り止めピンとを一緒に溶接し、該溶接面を旋削仕上げしてなる溶接部とを有することによって、中間フランジの空回りを確実に防止できると共に中間フランジの真円度を向上させるものであれば、その具体的な実施の態様は、如何なるものであっても何ら構わない。
【0012】
さらに、本発明のプーリの製造方法は、ベルト巻回面をベルト幅方向に中間フランジによって分割し複数のベルトを掛巻するプーリの製造方法であって、前記ベルト巻回面の円周方向にフランジ溝を設ける工程と、前記フランジ溝の上下2箇所にピン孔を穿孔する工程と、前記ピン孔に回り止めピンを圧入する工程と、前記フランジ溝に略半円弧状の一対の分割リングを端部が前記回り止めピンを挟んで対向するように嵌合させる工程と、前記分割リング端部の対向面と前記回り止めピンとを一緒に溶接する工程と、前記溶接された表面を旋削仕上げする工程とからなるものであって、溶接時の作業負担が軽減でき、プーリの品質を向上させるものであれば、その具体的な実施の態様は、如何なるものであっても何ら構わない。
【0013】
以下、本発明のプーリ及びその製造方法の一実施例について、図1乃至図3に基づいて説明する。
【0014】
ここで、図1は、本発明のプーリの主要構成部材である中間フランジの部分組立図であり、図2は、組立後の中間フランジの溶接前の斜視図であり、図3は、中間フランジの溶接後の斜視図である。なお、本発明のプーリの外観は、図4に示した従来のプーリと同じであるので、図4を参照することとし、図示は省略する。
【0015】
本発明のプーリは、図1乃至図3に示すように、ベルト巻回面140の円周方向に設けられたフランジ溝160に端部110a、120aを対向するように嵌合させた略半円弧状の一対の分割リング110、120と、この一対の分割リング110、120の端部110a、120a間のフランジ溝160の底面に穿孔したピン孔170と、このピン孔170に圧入された回り止めピン150と、端部110a、120aの対向面と回り止めピン150とを一緒に溶接し、その溶接面を旋削仕上げしてなる溶接部130とを有している。このような構造を有していることによって、中間フランジの接合部の強度が溶接強度のみならず、回り止めピンによっても担われることになるため、中間フランジの空回りが確実に防止できると共に中間フランジの真円度が向上するなど、その効果は甚大である。
【0016】
次に、本発明のプーリの製造方法は、図1乃至図3に示すように、ベルト巻回面140の円周方向にフランジ溝160を設ける工程と、フランジ溝160の上下2箇所にピン孔170を穿孔する工程と、ピン孔170に回り止めピン150を圧入する工程と、フランジ溝160に略半円弧状の一対の分割リング110、120をその端部110a、120aが回り止めピン150を挟んで対向するように嵌合させる工程と、分割リング端部の対向面と回り止めピン150とを一緒に溶接する工程と、溶接された表面を旋削仕上げする工程とからなる。その結果、回り止めピン150を基準として、一対の分割リング110、120をフランジ溝160に上下の溶接用の隙間を略同間隔となるように嵌合させることができるため、溶接時の作業負担を著しく軽減することができると共に、複数のプーリを製造した際に溶接強度がばらつくことなく、品質が向上するなど、その効果は甚大である。
【0017】
なお、前記実施例においては、ベルト巻回面が平滑であるプーリについて記載しているが、歯付ベルトを掛巻して使用する歯付プーリであっても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のプーリの主要構成部材である中間フランジの部分組立図。
【図2】組立後の中間フランジの溶接前の斜視図。
【図3】中間フランジの溶接後の斜視図。
【図4】従来のプーリ。
【符号の説明】
【0019】
100、200 ・・・ プーリ
110、210 ・・・ 分割リング
120、220 ・・・ 分割リング
130、230 ・・・ 溶接部
140、240 ・・・ ベルト巻回面
150 ・・・ 回り止めピン
160 ・・・ フランジ溝
170 ・・・ ピン孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト巻回面をベルト幅方向に中間フランジによって分割し複数のベルトを掛巻するプーリにおいて、
前記中間フランジが、ベルト巻回面の円周方向に設けられたフランジ溝に端部を対向するように嵌合させた略半円弧状の一対の分割リングと、前記一対の分割リングの端部間のフランジ溝の底面に穿孔したピン孔と、前記ピン孔に圧入された回り止めピンと、前記端部の対向面と前記回り止めピンとを一緒に溶接し、該溶接面を旋削仕上げしてなる溶接部とを有することを特徴とするプーリ。
【請求項2】
ベルト巻回面をベルト幅方向に中間フランジによって分割し複数のベルトを掛巻するプーリの製造方法において、
前記ベルト巻回面の円周方向にフランジ溝を設ける工程と、
前記フランジ溝の上下2箇所にピン孔を穿孔する工程と、
前記ピン孔に回り止めピンを圧入する工程と、
前記フランジ溝に略半円弧状の一対の分割リングを端部が前記回り止めピンを挟んで対向するように嵌合させる工程と、
前記分割リング端部の対向面と前記回り止めピンとを一緒に溶接する工程と、
前記溶接された表面を旋削仕上げする工程とからなることを特徴とするプーリの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−144860(P2009−144860A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324755(P2007−324755)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(500310993)株式会社椿本スプロケット (7)
【Fターム(参考)】