プーリ
【課題】プーリ1の回転に伴って伝動ベルト2のリブ2aがプーリ1のV溝121に咬み込まれて行く際の異音の発生を抑制する。
【解決手段】外周面に、伝動ベルト2に形成されたリブ2aが咬み込まれるV溝121が形成されたプーリ1において、V溝121の内側面122が、軸心と直交する平面に対する傾斜角度が溝深さ方向へ連続して変化する曲面をなす。このため、リブ2aがV溝121に咬み込まれて行く過程で、V溝121の内側面122に対するリブ2aの接触角度が連続的に変化し、リブ2aがV溝121の内側面122に連続的に擦れ合うことによって生じるスティック−スリップの周期も連続的に変化するので、共振による異音の発生には至らない。
【解決手段】外周面に、伝動ベルト2に形成されたリブ2aが咬み込まれるV溝121が形成されたプーリ1において、V溝121の内側面122が、軸心と直交する平面に対する傾斜角度が溝深さ方向へ連続して変化する曲面をなす。このため、リブ2aがV溝121に咬み込まれて行く過程で、V溝121の内側面122に対するリブ2aの接触角度が連続的に変化し、リブ2aがV溝121の内側面122に連続的に擦れ合うことによって生じるスティック−スリップの周期も連続的に変化するので、共振による異音の発生には至らない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば内燃機関等による回転駆動力を伝達するベルト伝動機構に用いられるプーリに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の内燃機関のクランクシャフトの回転駆動力を、内燃機関の補機、例えばオルタネータやウォーターポンプ等に伝達するためのベルト伝動機構を構成するプーリとして、例えば図9に示すようなものが知られている。
【0003】
このプーリ(ダンパプーリ)100は、内燃機関のクランクシャフト(不図示)の軸端に取り付けられる金属製の円盤状のハブ101と、その外周側に同心的に配置され、外周面に円周方向へ連続した複数のV溝(ポリV溝)102aが形成された金属製の環状のプーリ本体102と、これらハブ101とプーリ本体102を弾性的に連結するゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなる弾性体103を備える。そして図10に示すように、プーリ本体102の外周面に形成された複数のV溝102aと対応する断面形状の複数のリブ201が形成されたエンドレスの伝動ベルト200が、補機のプーリを経由してプーリ本体102に巻き掛けられることによって、ベルト伝動機構を構成するものであり、すなわち前記伝動ベルト200を介して、内燃機関の回転駆動力を補機に伝達するものである。
【0004】
また、このプーリ100は、プーリ本体102及び弾性体103からなるばね−質量系(副振動系)の捩り方向固有振動数が、クランクシャフトの捩れ角が最大となる振動数域に設定されており、このためクランクシャフトの捩れ角が最大となる所定の回転数域において、プーリ本体102及び弾性体103からなるばね−質量系(副振動系)が共振し、その捩り方向の振動変位が入力振動と逆位相で生じることによって、動的吸振効果を発揮するようになっている(例えば下記の特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら従来のプーリ100は、図10に示すように、V溝102a,102a,・・・が、円錐面状の斜面が対向した単純なV字形をなしているため、プーリ100と補機のプーリの相対的な軸方向のずれや、プーリ100と補機のプーリの軸心の相対的な傾斜などによるプーリ100と伝動ベルト200のミスアライメントに起因して、異音の発生が顕著になるという問題がある。
【0006】
詳しくは、上述のようなミスアライメントがあると、プーリ100の回転とそれに伴う伝動ベルトの走行において、図11に示すように、伝動ベルト200のリブ201がプーリ100(プーリ本体102)のV溝102aに咬み込まれる際に、(A)又は(B)のようなミスアライメント状態での初期咬み込み位置から深く咬み込まれて行く過程で、リブ201がV溝102aの内側面に連続的に擦れ合ってスティック−スリップを生じ、このスティック−スリップの周期がプーリ本体102と接触している伝動ベルト200の端部の固有振動の周期、あるいはプーリ本体102の固有振動の周期と一致することにより共振して異音を生じるものである。
【0007】
このような異音に対する対策としては、伝動ベルト200の自己潤滑性を向上させるなどにより、伝動ベルト200とプーリ100との間の摩擦係数を低減する方法が一般的である。しかし、伝動ベルト200の本来の機能は駆動トルクの伝達にあり、摩擦係数を低減させると、V溝102aとリブ201間に滑りを生じやすくなってトルク伝達力が損なわれることになるので、摩擦係数はシビアに設定及び管理する必要があり、しかも摩擦係数の低減による異音の抑制効果は、経時変化によって徐々に損なわるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−166593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、プーリの回転に伴って伝動ベルトのリブがプーリのV溝に咬み込まれて行く際の異音の発生を有効に抑制しうるプーリを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、本発明に係るプーリは、外周面に、伝動ベルトに形成されたリブが咬み込まれるV溝が形成されたプーリにおいて、前記V溝の内側面が、軸心と直交する平面に対する傾斜角度が溝深さ方向へ連続して変化する曲面をなすことを特徴とするものである。
【0011】
プーリの回転に伴って伝動ベルトのリブがプーリのV溝に咬み込まれて行く際に、前記リブがV溝の内側面と擦れることにより生じるスティック−スリップによる加振力は著しく小さいものである。このため、スティック−スリップの加振力によって共振に達するには、伝動ベルトの固有振動数や、プーリの固有振動数と一致する周期のスティック−スリップが、ある一定以上の時間継続される必要があるが、本発明に係るプーリによれば、V溝の内側面が、軸心と直交する平面に対する傾斜角度が溝深さ方向へ連続して変化する曲面をなすため、このV溝内へ前記リブが咬み込まれて行く過程で、リブとV溝の内側面との接触角度が連続して変化し、これによって、前記スティック−スリップの周期も連続して変化する。このため、スティック−スリップの周波数が、一時的に伝動ベルトの端部の固有振動数やプーリ本体の固有振動数と一致することがあっても、共振が生じにくく、異音の発生には至らない。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るプーリによれば、V溝の内側面が、軸心と直交する平面に対する傾斜角度が溝深さ方向へ連続して変化する曲面をなすことによって、伝動ベルトのリブがプーリのV溝の内側面と擦れることにより生じるスティック−スリップの周期が連続して変化するので、共振による異音の発生を有効に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るプーリの第一の実施の形態を示す斜視図である。
【図2】本発明に係るプーリの第一の実施の形態をその軸心Oを通る平面で切断して示す断面図である。
【図3】本発明に係るプーリの第一の実施の形態によるV溝の形状を示す部分的な外観図である。
【図4】本発明に係るプーリの第一の実施の形態によるV溝の形状を示す要部拡大断面図である。
【図5】本発明に係るプーリの第一の実施の形態において、伝動ベルトのリブがプーリのV溝にミスアライメント状態で咬み込まれて行く過程を示す説明図である。
【図6】本発明に係るプーリの第二の実施の形態によるV溝の形状を示す部分的な外観図である。
【図7】本発明に係るプーリの第二の実施の形態によるV溝の形状を示す要部拡大断面図である。
【図8】本発明に係るプーリの第二の実施の形態において、伝動ベルトのリブがプーリのV溝にミスアライメント状態で咬み込まれて行く過程を示す説明図である。
【図9】従来の技術に係るプーリの一例をその軸心Oを通る平面で切断して示す断面図である。
【図10】従来の技術に係るプーリのV溝の形状を示す部分的な外観図である。
【図11】従来の技術に係るプーリにおいて、伝動ベルトのリブがプーリのV溝にミスアライメント状態で咬み込まれて行く過程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るプーリの好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1〜図5は、第一の実施の形態を示すものである。
【0015】
まず図1及び図2において、プーリ(ダンパプーリ)1は、中央の軸孔11aにおいて内燃機関のクランクシャフト(不図示)の軸端に取り付けられる金属製の円盤状のハブ11と、そのリム部11bの外周側に同心的に配置され、外周面に円周方向へ連続した複数のV溝(ポリV溝)121が形成された金属製の環状のプーリ本体12と、ハブ11のリム部11bの外周面とプーリ本体12の内周面の間に介装されて、これらハブ11とプーリ本体12を弾性的に連結するゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなる環状の弾性体13を備える。
【0016】
このプーリ1は、プーリ本体12及び弾性体13によってばね−質量系(副振動系)が構成されており、このばね−質量系の捩り方向固有振動数は、プーリ本体12の慣性質量と弾性体13のバネ定数によって、クランクシャフトの捩れ角が最大となる所定の振動数域、言い換えればクランクシャフトの捩り方向固有振動数域に同調されている。
【0017】
プーリ本体12の外周面には、補機のプーリを経由してこのプーリ本体12に巻き掛けられる、図3に示すような伝動ベルト2の内面にその移動方向へ連続して形成された複数の山形のリブ2aと互いに咬合可能な複数のV溝121が形成されている。
【0018】
プーリ本体12の外周面に形成された複数のV溝121は、それぞれ軸心を通る断面形状が伝動ベルト2のリブ2aと対応しておおむねV字形をなすものであるが、その内側面122,122は、図3及び図4に示すように、緩やかな波状に起伏した曲面をなしている。詳しくは、各V溝121の一対の内側面122は、軸心と直交する平面に対する傾斜角度が、図4にθ1〜θ4で示すように溝深さ方向へ連続して変化(θ1<θ2>θ3<θ4)しており、これによって緩やかな凹面122a,122cとその間の緩やかな隆起面122bを有する。
【0019】
以上のように構成された第一の実施の形態のプーリ1は、伝動ベルト2が、プーリ本体12の外周面に、不図示の補機のプーリを経由してプーリ本体12に巻き掛けられることによって、ベルト伝動機構を構成するものであり、すなわち伝動ベルト2を介して、内燃機関の回転駆動力を補機に伝達するものである。
【0020】
また、内燃機関の駆動は、吸気、圧縮、爆発(膨張)及び排気の各行程を繰り返しながら行われ、ピストンの往復運動をクランクシャフトの回転運動に変換しているため、このクランクシャフトには、回転に伴って捩り振動(回転方向の振動)が生じる。そして、クランクシャフトからプーリ1のハブ11へ入力される捩り振動が、クランクシャフトの振幅が極大となる振動数域(クランクシャフトの捩り方向固有振動数域)になると、プーリ本体12及び弾性体13によって構成されるばね−質量系が、入力振動と逆位相の振動波形で共振し、すなわちその共振によるトルクは入力振動のトルクと逆方向に生じるため、クランクシャフトの捩り振動のピークを有効に低減する動的吸振効果(ダイナミックダンパ効果)を発揮する。
【0021】
ここでプーリ1と補機のプーリの相対的な軸方向のずれや、プーリ1と補機のプーリの軸心の相対的な傾斜などによって、プーリ1と伝動ベルト2間にミスアライメントがある場合は、プーリ1の回転とそれに伴う伝動ベルト2の走行において、図5に示すように、伝動ベルト2のリブ2aがプーリ1(プーリ本体12)のV溝121へ咬み込まれる際に、(A)又は(B)のようなミスアライメント状態での初期咬み込み位置から深く咬み込まれて行く過程で、リブ2aがV溝121の内側面122に連続的に擦れ合うことによってスティック−スリップを生じることになる。
【0022】
しかしながら、第一の実施の形態のプーリ1によれば、プーリ本体12のV溝121は、その内側面122が緩やかな波状に起伏した曲面をなし、凹面122a,122cとその間の緩やかな隆起面122bを有するため、伝動ベルト2のリブ2aが図5の(A)又は(B)に示す初期咬み込み位置からさらに深く咬み込まれて行く過程で、内側面122に対するリブ2aの接触角度が連続的に変化する。このため、リブ2aがV溝121の内側面122に連続的に擦れ合うことによって生じるスティック−スリップの周期も連続的に変化する。そして、前記スティック−スリップによる加振力は著しく小さいものであることから、スティック−スリップの周波数が、伝動ベルト2の端部の固有振動数やプーリ本体12の固有振動数と一時的には一致することがあっても、すぐに固有振動数から外れるため、共振による異音の発生には至らない。
【0023】
また、V溝121の内側面122の起伏は緩やかなものであり、軸心と直交する平面に対する前記内側面122の平均角度(図4に一点鎖線で示す基準円錐面の角度)に対して、凹面122a,122c及び隆起面122bの接線がなす角度は、好ましくは±10度程度、最大でも±20度程度であり、このため、伝動ベルト2のリブ2aの咬み込みが阻害されることはない。
【0024】
リブ2aがV溝121に深く咬み込まれた状態から、プーリ1の回転とそれに伴う伝動ベルト2の走行に伴って咬み込みが浅くなって、リブ2aがV溝121から離れて行く過程でも同様である。
【0025】
したがって、第一の実施の形態によれば、伝動ベルト2のリブ2aがプーリ本体12のV溝121の内側面122と擦れることによる異音の発生を、有効に抑制することができる。
【0026】
次に図6〜図8は、本発明に係るプーリの第二の実施の形態を示すものである。
【0027】
第二の実施の形態によるプーリ1において、先に説明した第一の実施の形態と異なるところは、プーリ本体12の外周面に形成された複数のV溝121の断面形状がおおむね放物線状の凹面をなし、すなわち各V溝121の一対の内側面122は、軸心と直交する平面に対する傾斜角度が、図7にθ1〜θ4で示すように溝深さ方向へ連続して増大(θ1<θ2<θ3<θ4)している点にある。その他の部分は、第一の実施の形態と同様に構成することができる。
【0028】
そして、この形態においても、軸心と直交する平面に対するV溝121の内側面122の平均角度(図7に一点鎖線で示す基準円錐面の角度)に対して、前記内側面122の接線がなす角度は、好ましくは±10度程度、最大でも±20度程度とする。
【0029】
したがって、第二の実施の形態のプーリ1においても、伝動ベルト2のリブ2aが図8の(A)又は(B)に示すミスアライメント状態での初期咬み込み位置からさらに深く咬み込まれて行く過程で、内側面122に対するリブ2aの接触角度が連続的に変化する。このため、リブ2aがV溝121の内側面122に連続的に擦れ合うことによって生じるスティック−スリップの周期も連続的に変化する。リブ2aがV溝121に深く咬み込まれた状態から、プーリ1の回転とそれに伴う伝動ベルト2の走行に伴って咬み込みが浅くなって、リブ2aがV溝121から離れて行く過程でも同様である。このため、第一の実施の形態と同様、共振による異音の発生が有効に抑制される。
【0030】
なお、V溝121の内側面122の形状は、図示の形態に限定されるものではなく、軸心と直交する平面に対する傾斜角度が溝深さ方向へ連続して変化する曲面をなすものであれば良い。
【0031】
また、上述した各形態では、本発明の構成を、ばね−質量系の構成を備えるダンパプーリ(トーショナルダンパ)に適用したものについて説明したが、本発明はばね−質量系を設けないプーリにも適用することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 プーリ
12 プーリ本体
121 V溝
122 内側面
122a,122c 凹面
122b 隆起面
2 伝動ベルト
2a リブ
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば内燃機関等による回転駆動力を伝達するベルト伝動機構に用いられるプーリに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の内燃機関のクランクシャフトの回転駆動力を、内燃機関の補機、例えばオルタネータやウォーターポンプ等に伝達するためのベルト伝動機構を構成するプーリとして、例えば図9に示すようなものが知られている。
【0003】
このプーリ(ダンパプーリ)100は、内燃機関のクランクシャフト(不図示)の軸端に取り付けられる金属製の円盤状のハブ101と、その外周側に同心的に配置され、外周面に円周方向へ連続した複数のV溝(ポリV溝)102aが形成された金属製の環状のプーリ本体102と、これらハブ101とプーリ本体102を弾性的に連結するゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなる弾性体103を備える。そして図10に示すように、プーリ本体102の外周面に形成された複数のV溝102aと対応する断面形状の複数のリブ201が形成されたエンドレスの伝動ベルト200が、補機のプーリを経由してプーリ本体102に巻き掛けられることによって、ベルト伝動機構を構成するものであり、すなわち前記伝動ベルト200を介して、内燃機関の回転駆動力を補機に伝達するものである。
【0004】
また、このプーリ100は、プーリ本体102及び弾性体103からなるばね−質量系(副振動系)の捩り方向固有振動数が、クランクシャフトの捩れ角が最大となる振動数域に設定されており、このためクランクシャフトの捩れ角が最大となる所定の回転数域において、プーリ本体102及び弾性体103からなるばね−質量系(副振動系)が共振し、その捩り方向の振動変位が入力振動と逆位相で生じることによって、動的吸振効果を発揮するようになっている(例えば下記の特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら従来のプーリ100は、図10に示すように、V溝102a,102a,・・・が、円錐面状の斜面が対向した単純なV字形をなしているため、プーリ100と補機のプーリの相対的な軸方向のずれや、プーリ100と補機のプーリの軸心の相対的な傾斜などによるプーリ100と伝動ベルト200のミスアライメントに起因して、異音の発生が顕著になるという問題がある。
【0006】
詳しくは、上述のようなミスアライメントがあると、プーリ100の回転とそれに伴う伝動ベルトの走行において、図11に示すように、伝動ベルト200のリブ201がプーリ100(プーリ本体102)のV溝102aに咬み込まれる際に、(A)又は(B)のようなミスアライメント状態での初期咬み込み位置から深く咬み込まれて行く過程で、リブ201がV溝102aの内側面に連続的に擦れ合ってスティック−スリップを生じ、このスティック−スリップの周期がプーリ本体102と接触している伝動ベルト200の端部の固有振動の周期、あるいはプーリ本体102の固有振動の周期と一致することにより共振して異音を生じるものである。
【0007】
このような異音に対する対策としては、伝動ベルト200の自己潤滑性を向上させるなどにより、伝動ベルト200とプーリ100との間の摩擦係数を低減する方法が一般的である。しかし、伝動ベルト200の本来の機能は駆動トルクの伝達にあり、摩擦係数を低減させると、V溝102aとリブ201間に滑りを生じやすくなってトルク伝達力が損なわれることになるので、摩擦係数はシビアに設定及び管理する必要があり、しかも摩擦係数の低減による異音の抑制効果は、経時変化によって徐々に損なわるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−166593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、プーリの回転に伴って伝動ベルトのリブがプーリのV溝に咬み込まれて行く際の異音の発生を有効に抑制しうるプーリを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、本発明に係るプーリは、外周面に、伝動ベルトに形成されたリブが咬み込まれるV溝が形成されたプーリにおいて、前記V溝の内側面が、軸心と直交する平面に対する傾斜角度が溝深さ方向へ連続して変化する曲面をなすことを特徴とするものである。
【0011】
プーリの回転に伴って伝動ベルトのリブがプーリのV溝に咬み込まれて行く際に、前記リブがV溝の内側面と擦れることにより生じるスティック−スリップによる加振力は著しく小さいものである。このため、スティック−スリップの加振力によって共振に達するには、伝動ベルトの固有振動数や、プーリの固有振動数と一致する周期のスティック−スリップが、ある一定以上の時間継続される必要があるが、本発明に係るプーリによれば、V溝の内側面が、軸心と直交する平面に対する傾斜角度が溝深さ方向へ連続して変化する曲面をなすため、このV溝内へ前記リブが咬み込まれて行く過程で、リブとV溝の内側面との接触角度が連続して変化し、これによって、前記スティック−スリップの周期も連続して変化する。このため、スティック−スリップの周波数が、一時的に伝動ベルトの端部の固有振動数やプーリ本体の固有振動数と一致することがあっても、共振が生じにくく、異音の発生には至らない。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るプーリによれば、V溝の内側面が、軸心と直交する平面に対する傾斜角度が溝深さ方向へ連続して変化する曲面をなすことによって、伝動ベルトのリブがプーリのV溝の内側面と擦れることにより生じるスティック−スリップの周期が連続して変化するので、共振による異音の発生を有効に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るプーリの第一の実施の形態を示す斜視図である。
【図2】本発明に係るプーリの第一の実施の形態をその軸心Oを通る平面で切断して示す断面図である。
【図3】本発明に係るプーリの第一の実施の形態によるV溝の形状を示す部分的な外観図である。
【図4】本発明に係るプーリの第一の実施の形態によるV溝の形状を示す要部拡大断面図である。
【図5】本発明に係るプーリの第一の実施の形態において、伝動ベルトのリブがプーリのV溝にミスアライメント状態で咬み込まれて行く過程を示す説明図である。
【図6】本発明に係るプーリの第二の実施の形態によるV溝の形状を示す部分的な外観図である。
【図7】本発明に係るプーリの第二の実施の形態によるV溝の形状を示す要部拡大断面図である。
【図8】本発明に係るプーリの第二の実施の形態において、伝動ベルトのリブがプーリのV溝にミスアライメント状態で咬み込まれて行く過程を示す説明図である。
【図9】従来の技術に係るプーリの一例をその軸心Oを通る平面で切断して示す断面図である。
【図10】従来の技術に係るプーリのV溝の形状を示す部分的な外観図である。
【図11】従来の技術に係るプーリにおいて、伝動ベルトのリブがプーリのV溝にミスアライメント状態で咬み込まれて行く過程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るプーリの好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1〜図5は、第一の実施の形態を示すものである。
【0015】
まず図1及び図2において、プーリ(ダンパプーリ)1は、中央の軸孔11aにおいて内燃機関のクランクシャフト(不図示)の軸端に取り付けられる金属製の円盤状のハブ11と、そのリム部11bの外周側に同心的に配置され、外周面に円周方向へ連続した複数のV溝(ポリV溝)121が形成された金属製の環状のプーリ本体12と、ハブ11のリム部11bの外周面とプーリ本体12の内周面の間に介装されて、これらハブ11とプーリ本体12を弾性的に連結するゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなる環状の弾性体13を備える。
【0016】
このプーリ1は、プーリ本体12及び弾性体13によってばね−質量系(副振動系)が構成されており、このばね−質量系の捩り方向固有振動数は、プーリ本体12の慣性質量と弾性体13のバネ定数によって、クランクシャフトの捩れ角が最大となる所定の振動数域、言い換えればクランクシャフトの捩り方向固有振動数域に同調されている。
【0017】
プーリ本体12の外周面には、補機のプーリを経由してこのプーリ本体12に巻き掛けられる、図3に示すような伝動ベルト2の内面にその移動方向へ連続して形成された複数の山形のリブ2aと互いに咬合可能な複数のV溝121が形成されている。
【0018】
プーリ本体12の外周面に形成された複数のV溝121は、それぞれ軸心を通る断面形状が伝動ベルト2のリブ2aと対応しておおむねV字形をなすものであるが、その内側面122,122は、図3及び図4に示すように、緩やかな波状に起伏した曲面をなしている。詳しくは、各V溝121の一対の内側面122は、軸心と直交する平面に対する傾斜角度が、図4にθ1〜θ4で示すように溝深さ方向へ連続して変化(θ1<θ2>θ3<θ4)しており、これによって緩やかな凹面122a,122cとその間の緩やかな隆起面122bを有する。
【0019】
以上のように構成された第一の実施の形態のプーリ1は、伝動ベルト2が、プーリ本体12の外周面に、不図示の補機のプーリを経由してプーリ本体12に巻き掛けられることによって、ベルト伝動機構を構成するものであり、すなわち伝動ベルト2を介して、内燃機関の回転駆動力を補機に伝達するものである。
【0020】
また、内燃機関の駆動は、吸気、圧縮、爆発(膨張)及び排気の各行程を繰り返しながら行われ、ピストンの往復運動をクランクシャフトの回転運動に変換しているため、このクランクシャフトには、回転に伴って捩り振動(回転方向の振動)が生じる。そして、クランクシャフトからプーリ1のハブ11へ入力される捩り振動が、クランクシャフトの振幅が極大となる振動数域(クランクシャフトの捩り方向固有振動数域)になると、プーリ本体12及び弾性体13によって構成されるばね−質量系が、入力振動と逆位相の振動波形で共振し、すなわちその共振によるトルクは入力振動のトルクと逆方向に生じるため、クランクシャフトの捩り振動のピークを有効に低減する動的吸振効果(ダイナミックダンパ効果)を発揮する。
【0021】
ここでプーリ1と補機のプーリの相対的な軸方向のずれや、プーリ1と補機のプーリの軸心の相対的な傾斜などによって、プーリ1と伝動ベルト2間にミスアライメントがある場合は、プーリ1の回転とそれに伴う伝動ベルト2の走行において、図5に示すように、伝動ベルト2のリブ2aがプーリ1(プーリ本体12)のV溝121へ咬み込まれる際に、(A)又は(B)のようなミスアライメント状態での初期咬み込み位置から深く咬み込まれて行く過程で、リブ2aがV溝121の内側面122に連続的に擦れ合うことによってスティック−スリップを生じることになる。
【0022】
しかしながら、第一の実施の形態のプーリ1によれば、プーリ本体12のV溝121は、その内側面122が緩やかな波状に起伏した曲面をなし、凹面122a,122cとその間の緩やかな隆起面122bを有するため、伝動ベルト2のリブ2aが図5の(A)又は(B)に示す初期咬み込み位置からさらに深く咬み込まれて行く過程で、内側面122に対するリブ2aの接触角度が連続的に変化する。このため、リブ2aがV溝121の内側面122に連続的に擦れ合うことによって生じるスティック−スリップの周期も連続的に変化する。そして、前記スティック−スリップによる加振力は著しく小さいものであることから、スティック−スリップの周波数が、伝動ベルト2の端部の固有振動数やプーリ本体12の固有振動数と一時的には一致することがあっても、すぐに固有振動数から外れるため、共振による異音の発生には至らない。
【0023】
また、V溝121の内側面122の起伏は緩やかなものであり、軸心と直交する平面に対する前記内側面122の平均角度(図4に一点鎖線で示す基準円錐面の角度)に対して、凹面122a,122c及び隆起面122bの接線がなす角度は、好ましくは±10度程度、最大でも±20度程度であり、このため、伝動ベルト2のリブ2aの咬み込みが阻害されることはない。
【0024】
リブ2aがV溝121に深く咬み込まれた状態から、プーリ1の回転とそれに伴う伝動ベルト2の走行に伴って咬み込みが浅くなって、リブ2aがV溝121から離れて行く過程でも同様である。
【0025】
したがって、第一の実施の形態によれば、伝動ベルト2のリブ2aがプーリ本体12のV溝121の内側面122と擦れることによる異音の発生を、有効に抑制することができる。
【0026】
次に図6〜図8は、本発明に係るプーリの第二の実施の形態を示すものである。
【0027】
第二の実施の形態によるプーリ1において、先に説明した第一の実施の形態と異なるところは、プーリ本体12の外周面に形成された複数のV溝121の断面形状がおおむね放物線状の凹面をなし、すなわち各V溝121の一対の内側面122は、軸心と直交する平面に対する傾斜角度が、図7にθ1〜θ4で示すように溝深さ方向へ連続して増大(θ1<θ2<θ3<θ4)している点にある。その他の部分は、第一の実施の形態と同様に構成することができる。
【0028】
そして、この形態においても、軸心と直交する平面に対するV溝121の内側面122の平均角度(図7に一点鎖線で示す基準円錐面の角度)に対して、前記内側面122の接線がなす角度は、好ましくは±10度程度、最大でも±20度程度とする。
【0029】
したがって、第二の実施の形態のプーリ1においても、伝動ベルト2のリブ2aが図8の(A)又は(B)に示すミスアライメント状態での初期咬み込み位置からさらに深く咬み込まれて行く過程で、内側面122に対するリブ2aの接触角度が連続的に変化する。このため、リブ2aがV溝121の内側面122に連続的に擦れ合うことによって生じるスティック−スリップの周期も連続的に変化する。リブ2aがV溝121に深く咬み込まれた状態から、プーリ1の回転とそれに伴う伝動ベルト2の走行に伴って咬み込みが浅くなって、リブ2aがV溝121から離れて行く過程でも同様である。このため、第一の実施の形態と同様、共振による異音の発生が有効に抑制される。
【0030】
なお、V溝121の内側面122の形状は、図示の形態に限定されるものではなく、軸心と直交する平面に対する傾斜角度が溝深さ方向へ連続して変化する曲面をなすものであれば良い。
【0031】
また、上述した各形態では、本発明の構成を、ばね−質量系の構成を備えるダンパプーリ(トーショナルダンパ)に適用したものについて説明したが、本発明はばね−質量系を設けないプーリにも適用することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 プーリ
12 プーリ本体
121 V溝
122 内側面
122a,122c 凹面
122b 隆起面
2 伝動ベルト
2a リブ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に、伝動ベルトに形成されたリブが咬み込まれるV溝が形成されたプーリにおいて、前記V溝の内側面が、軸心と直交する平面に対する傾斜角度が溝深さ方向へ連続して変化する曲面をなすことを特徴とするプーリ。
【請求項1】
外周面に、伝動ベルトに形成されたリブが咬み込まれるV溝が形成されたプーリにおいて、前記V溝の内側面が、軸心と直交する平面に対する傾斜角度が溝深さ方向へ連続して変化する曲面をなすことを特徴とするプーリ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−172714(P2012−172714A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33138(P2011−33138)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]