説明

プール式炭焼窯の煙の抑制方法

【課題】一度に多量の炭焼き用の原材料を炭化処理する際に、炭化物生成窯の上面から立ち上る煙の発生を抑制するプール式炭焼窯の煙の抑制方法を提供する。
【解決手段】上部を開放したプール形態状の炭化物生成窯において、始業時においては床部材3の上に形成する火種に、無煙状態で燃焼し熱を発生する炭化物19aを使用し、終業時においては同一炭化物を炭化原料21の上部に、外気遮断が出来る層厚さに敷き詰めて、炭化物生成窯の上面からの炭化ガスの流出を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一度に多量の炭焼き用の原材料を炭化処理する際に煙の発生を抑制するプール式炭焼窯の煙の抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木炭や竹炭はその多孔質構造を有する材料として、燃料用だけでなく土壌の改良材や床下の吸湿材、水質の改良材、害虫駆除剤等多くの用途に活用されている。そのために、木炭は備長炭に象徴されるように極めて上質の木炭が求められる傾向にあり、上質の木炭を生産する為の炭焼が各種の方法で行われている。
【0003】
これらの各種方法の炭焼きとして、例えば下記のものが例示される。
【特許文献1】特開2004−238460号公報「炭焼き窯」
【特許文献2】特開2004−307702号公報「炭化装置及び炭化方法」
【0004】
上述の特許文献1及び特許文献2に記載されているものは、大きな処理能力をもたせる目的で大きな窯本体を構築することが提案されている。しかしこれらの窯本体は炭化の方法が密閉構造であるため焚き口や天井を必要とし、その開閉などの操作機構に構造物が設けられ、フォークリフトやショベルローダなどの一般的な作業機械を容易に利用することが出来ないものであった。
そこで、本発明者は下記の特許文献3に記載されている発明を先に行っている。
【特許文献3】特開2007−56237号公報「炭化物生成窯及び炭化物生成方法」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献3に記載されている発明は、上部を開放した形状の炭化物生成窯を使用することでフォークリフトやショベルローダーなどの一般的な作業機械が容易に利用でき、安価なコストで多量に炭化物を製造することが可能となったが、炭化物生成行程の初期準備における始業時に炭化物生成窯の底部に設置された床部材の上に形成する火種の炭化原料が加熱して出た炭化ガスが煙となって窯の上部へ立ち上り、また炭化作業の終業時にも炭化原料の上部に外気を遮断する層が無くなり、生成窯の上部表面にある炭化原料が燃えて発する煙が炭化物生成窯の上部へ立ち上ることで、市街地に近い場所での操業が懸念され,人里離れた場所でしか操業が出来ないという課題が生じた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述した炭化物生成窯の上面から立ち上る煙を抑制する方法を提供する。
始業時においては、床部材上に形成する火種の材料に、無煙状態で燃焼し熱を発生する炭化物を使用し、その上部へ炭化原料を敷き詰める方法で、火種から炭化原料へ炭化が順調に移行する方法が確認された。終業時においては、炭化原料の上部に敷き詰めた無煙状態で燃焼する炭化物が、炭化原料の炭化が完全に終了するまでの間、外気の遮断を維持できることが確認された。
【0007】
無煙状態で燃焼する炭化物として、本炭化物生成窯で生産する炭化物を利用することが可能であり、該炭化物を利用することで、原材料の購入費や輸送コストを抑え、製造コストの負担を最小限に抑えることが出来ることを確認し本発明に至った。
【0008】
本発明の煙の抑制方法は、第一に上面を開放したプール形態状の側壁部と、該側壁に囲まれた底部を有する炭化物生成窯で、該底部の上に適宜な排気空間を設けて複数の排気孔を有する床部材を設置し、該床部材の上に火種を形成し、その上に炭化原料を投入して、該炭化原料の上部層を外気遮断層としてその下部層側にある部分から逐次上方に向かって炭化させ、該炭化に伴い発生した炭化ガスを該床部材の排気孔から該排気空間を介して外部に放出する炭化物生成方法において、該火種の材料として使用していた炭化原料に変え、無煙状態で燃焼する炭化物を使用し、炭化物生成行程の初期準備における始業時に炭化物生成窯から上部へ立ち上る煙を抑制する。
【0009】
第二に、炭化物生成作業の終了時に無煙状態で燃焼する炭化物を該炭化原料の上部に敷き詰めて外気遮断層とし、該炭化原料が全て炭化するまで、該炭化に伴い発生した炭化ガスを該床部材の排気孔から該排気空間を介して外部に放出することを可能にし、該炭化物生成窯から上部へ立ち上る煙を抑制する。
【0010】
炭化物は、その利用先によって違う品質が求められる、例えば石炭ボイラーなどの燃焼用や床下調湿用では多少品質的にバラツキがあっても許容され、土壌改良用や水質改良材、飼料として利用される場合は、均質で完全に炭化することが要求される。
したがって第三に、炭化生成物の生成状況を観察して、必要に応じて炭化物生成の完了前又は完了後に、該炭化物生成窯の上部から、生成した炭化物を撹拌して、該炭化物の性状を均一化する。
【発明の効果】
【0011】
本発明が類似する先行技術の一例として、木炭が専ら燃料用として使用されていた過去の時代には、火種の上に炭化原料を積んで焼く所謂野焼きの方法が用いられていた。その方法では、本発明者が先に発明した特許文献3に記載されている発明のように、炭化原料を上部から強固に押圧して炭化原料間の隙間を出来るだけ密にして外気を遮断する手段が講じられず、安定した高品質の炭化物が得られなかった。また炭化窯の構造も貧弱なもので作業機械を利用するなどの発想に至らず、手作業によるもので一度に多量の生産を行なうには限界があった。
【0012】
従来の炭焼窯へ木材や竹を搬入搬出する方法は、一部作業機械を利用してもその殆どを人力で行ってきた。そのため炭焼作業は、熟練した炭焼知識の継承と過酷な労働条件を伴う作業として位置付けられ若年者から敬遠されている。先に本発明者が発明した炭化作業は、その作業に汎用作業機械を利用して行なうことを可能にした点に特徴を有するものであり、他の一般の作業現場と変わらぬ労働条件となり、しかも従来に比較して安価な炭焼生成方法である炭焼ノウハウを身につけて新たな事業として位置づけられる可能性があり、若年者の就業の機会が生まれ雇用の拡大に繋がることに寄与できる。
【0013】
以上のように、大きな改善点が得られたにも係わらず普及が進まない理由として、炭化物生成の作業初期及び作業終了時に炭化物製造施設からの煙の流出が懸念され、製造設備を設置する場所が限定されて、設置許可に住民の同意を受けるなど、大きな制約を必要とすることによって設置が躊躇されていた。
特に、煙突から排出される排煙は必要に応じては処理の方法があるが、炭化物生成窯の上部から発する煙は処理の方法が困難であり、また出来たとしても窯全体を覆う構造となるなど、多大な設備コストが必要であり、上部を開放した炭化物生成窯としての利点も失われるという課題が生じた。
【0014】
本発明による炭化の方法は、試行錯誤の実験の末に生成窯で製造される炭化物を始業時の火種や終業時の外気遮断層に利用することで、生成窯の上部から立ち上る煙を抑制すると共に、製造される炭化物に品質上の影響を与えないことが確認された。
【0015】
本発明によって、炭化物生成窯の設置の条件が緩和され、比較的人家に近い所でも設置が可能となることによって、間伐材やバーク、製材端材に限らず、植栽の剪定屑、雑草等も、他の炭化原料と共に投入することにより炭化物として回収することが可能となった。また本発明は、最近機械化された炭化物製造プラントと比較して、設備費の負担も少なく、補助燃料や動力電源も必要とせず、工場廃水も出さない、安価で多量に炭化物を製造し、その上一般作業機械を利用して人の手で操業するため、一般の人の雇用促進にも繋がる設備の普及を促進するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
自然木など炭化を行えば、重量が0.3〜0.25に減量する。窯の構築は簡単で、生成能力によって決まる底部の面積と、操業に必要な面積、炭化原料ストックヤードを設ける面積があれば、出来る限り炭化原料の発生源近くで交通の便が良い場所に設けることが得策である。
【0017】
本炭化物生成窯により生成される木炭や竹炭が、水質浄化や土壌改良、畜産飼料、海産飼料、化石燃料の代替燃料など産業用として大量に必要な場合、出来上がった製品の供給先を予め設定しておき、その必要量にあった炭化原料の受け入れや複数の窯の設置など、連続した資源循環が成り立つように計画出来る地域での操業が最良である。
【0018】
間伐材など自然植物の炭化は、空気中の炭酸ガスを吸着した自然植物を乾留状態で炭素に固定するものであり、原油高騰に対応するための燃料として利用されることもカーボンニュートラルで温暖化防止策に寄与するが、土壌改良材や床下調湿材として利用されれば空気中の炭酸ガスを炭素として直接地中に返す役割を担い、エコ宣言などした地域の自然循環型地域振興策の一手段として活用が可能である。
【実施例】
【0019】
本発明を採用した炭化物生成窯の一例について図面を使用して説明する。
図1及び図2は、本発明の周辺を明らかにするために、本発明者が先に発明した特許文献3に記載されている発明の炭化物生成窯について示すものである。
【0020】
図1は、本発明で実施した生成窯本体1の側断面図で、平地面が高地レベルAと低地レベルBの2段の土地の段差を利用して設置した例である。側壁2は鉄筋入りコンクリート製で、その周囲に側壁2の上面高さに合わせて土盛りしてバックホーが走行できる作業フロア10を設けた。底部は排気空間7に相当する面積を低地レベルBから堀下げ突き固めて整地し底面6を作り、その上に支持台5を敷きならべ、該支持台5の上に鉄板製の床部材3を設置し、その床部材3のレベルを低地レベルBと合わせて作業車の乗り入れができるプラットフォーム形状の構造とした。また生成窯本体1の上部には、降雨しても生成作業を続行できるように、作業車両などが自由に通過できる覆い空間を有する構造で、生成窯本体1を雨から保護するために十分な大きさの屋根18を設置した。
【0021】
図2は生成窯本体1を上部から見た平面図で、床部材3に設けた排気孔4と支持台5、側壁2、2a、2b、側壁2bの切り欠き部分である蓋壁2c、2d、2e、作業フロア10、及び排気装置を構成する排気燃焼装置11の配置の一例を示す。
生成作業は、高地レベルA側から炭化原料をダンプトラック等の運搬車輌で投入し、あるいはショベル付きのバックホーで作業フロアー10の上から投入し、生成された製品はショベルカー・バックホーなどの作業車輌を利用して低地レベルBに排出することとして、排気装置を構成する排気燃焼装置11は高地レベルA側の側壁2a の角の位置に設置し、低地レベルB側の側壁2bはショベルカーが自由に通過できる幅だけ切欠き、その切欠き部分は蓋壁2c、2d、2eを設置し、切欠き下面の高さを低地レベルBに合わせた。
【0022】
図3は排気燃焼装置11の近辺の断面図で、一連の炭化作業が終了し、着火した炭化物19a、と既炭化原料21が窯の中にある状態を示す。
【0023】
図4は始業時の生成窯の断面を示し、生成窯本体1で過去に製造した炭化物19を火種として床部材3の上に敷き詰め種火によって着火し、その着火した炭化物19aの上に炭化原料を投入した状況を示す。
投入された炭化原料は、下層側にある既に炭化が進んだ既炭化原料21とそれを覆い上層側にある未炭化原料20とに分かれ、未炭化原料20によって空気を遮断し、その境界部分で炭化が進行し炭化ガスを発生する。その炭化ガスは矢印で示すように床部材3に開けられた複数の排気孔4を介して排気空間7に集まり、床部材3の底板開口部3aを通って排気燃焼装置11に至る。そして排気燃焼装置11において炭化ガスは再燃焼して、煙突15を通して外部に排出される。
【0024】
着火した炭化物19aに触れた未炭化原料20は炭化物19aの発する熱によって乾留され、揮発分を発生して既炭化原料21となり、その揮発分が燃焼する熱で上部の未炭化原料20が熱せられ乾留が移行し、生成窯本体1の中で炭化が上部へと進行する。
【0025】
未炭化層20の外気遮断層としての機能を失わないように、一定時間を経過した時点で作業フロアー10上からバックホーなどを使って未炭化原料20を上部に追加する作業を繰り返して炭化作業を進める。
【0026】
図5は終業時の生成窯の断面を示し、未炭化原料20の追加が繰り返され既炭化原料21が積み重なって終業時点に近づき、未炭化層20が外気遮断層としての機能を失う前に炭化物19を生成窯全面に被せた状況を示す。
炭化が上部へ移行し、未炭化原料20が乾留され全て既炭化原料21に変化し、炭化生成物19が未炭化原料20が発する揮発分の燃焼熱で赤熱し炭化物19aに変化して生成窯本体1の上面が均等に赤熱した時点で炭化が終了する。
【0027】
炭化終了後は給水ポンプなどを利用して散水し温度降下を図る。散水時には、外気供給装置8の蓋9及び排気調整板13を全開にして、排気空間中の水蒸気を外部に放出し内部の温度降下を促進する。表面が完全に黒色化した後排気調整板13を全閉にし、外気供給装置8の蓋9を閉じる。
【0028】
生成窯本体1内の炭化原料の全てが、既炭化原料21に変わり、その表面温度が低下していることを確認し、作業フロアー10上からバックホーのバケットなどを利用して、生成窯本体1の上面を全面押圧して踏み固め、生成窯本体1内への外気の進入を防止する遮断層を形成するようにする。その後一晩以上放置して、低地レベルB側からショベルカーで蓋壁2c、蓋壁2d、蓋壁2eの順で取り除き、生成窯本体1内にショベルカーを乗り入れて製品の搬出を行う。
【0029】
製品の搬出時、床部材3の上に一部の製品を残しておくと、次回始業の火種原料となり迅速な始業を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】炭化物生成窯の側断面を示した図である。
【図2】生成窯本体の平面を示した図である。
【図3】排気燃焼装置11の近辺の断面を示した図である。
【図4】始業時の状況を示した断面図である。
【図5】終業時の状況を示した断面図である。
【図6】外気供給装置を示した断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 生成窯本体
2a 高地レベルA側側壁
2b 低地レベルB側側壁
2c 蓋壁
2d 蓋壁
2e 蓋壁
3 床部材
3a 床部材開口部
4 排気孔
5 支持台
6 底面
7 排気空間
8 外気供給装置
9 蓋
10 作業フロア
11 排気燃焼装置
12 排気調整板
13 フランジ
14 煙突
15 陣笠
16 ホース
17 屋根
18 耐火物
19 炭化物
19a 着火した炭化物
20 未炭化原料
21 既炭化原料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面を開放したプール形態状の炭化物生成窯において、炭化物生成行程の初期準備における始業時に該炭化物生成窯の底部にある床部材上に形成する火種の材料に、無煙状態で燃焼して熱を発する炭化物を使用し、該火種が着火した状態で上部に炭化原料を被せて、煙突に連通する床部材から炭化ガスを煙突の吸引力により誘導排出することにより、該炭化原料の下部が該火種と接触して炭化し該炭化物の上部が外気を遮断する形状に積み重ねて、始業時に該炭化物生成窯の上面から立ち上る煙を抑制することを特徴とするプール式炭焼窯の煙の抑制方法。
【請求項2】
請求項1の炭化物生成窯において、炭化物生成作業の終了時に無煙状態で燃焼する炭化物を、該炭化原料の全体が炭化を終了するまで外気を遮断する層厚さで、該炭化原料の上部に敷き詰め、該炭化原料が炭化するとき発生する炭化ガスの上部への流出を抑制し、炭化物の生成が完了することを特徴とするプール式炭焼窯の煙の抑制方法。
【請求項3】
請求項2の炭化物生成方法において、炭化物生成の完了前又は完了後に、該炭化物生成窯の上部から、生成した炭化物を撹拌して、該炭化物の性状を均一化することを特徴とするプール式炭焼窯の煙の抑制方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−43218(P2010−43218A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209612(P2008−209612)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【出願人】(505313645)
【Fターム(参考)】