説明

ヘキサフルオロブタジエン検出装置

【課題】 大気中に存在する炭酸ガスなどによる変色を防止しつつ、0.5ppm程度のヘキサフルオロブタジエンを検出すること。
【解決手段】サンプリングガス中に存在するヘキサフルオロブタジエンを熱分解して酸性ガスを発生させる熱分解手段1と、熱分解手段1から排出されたガスを取り込み、測定領域の光学濃度を検出する光学手段を備えた測定ヘッド14と、酸性ガスと反応して光学的濃度を変化するテープ状に加工された検知紙11とからなり、検知紙11は、メチルオレンジ、保湿剤、及びメチルセルソルブを担持させて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、0.5ppm程度のヘキサフルオロブタジエン(C4F6)を検出する測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘキサフルオロブタジエンは、フォトレジストの選択性の高さとプロファイルやCDの制御性が高く、ドライエッチング特性に勝れたガスである。
しかしながら、毒性が強いため管理基準濃度が厳しく規定され、その検出には数百度の炉により熱分解してHFを生成させ、このHFを検知紙により反応させて光学濃度として検出することが行われていた。
この検知紙は、HF等の酸性ガスと反応して呈色するものであればよく、例えばメチルオレンジ0.02wt%、及び保湿剤、例えばグリセリンやエチレングリコール等の多価アルコール15mlを、全量が100mlとなるように易蒸発性有機溶媒、例えばメタノールに溶解した発色液に、セルロースを素材とするろ紙に含浸させ有機溶媒を揮散させて製造したものである。
【0003】
しかし、環境汚染防止の要求により管理基準濃度が2ppmから0.5ppm程度に引き下げられると、上述の検知紙では検出が不能、または誤差が大きいという問題がある。
もとより、感度を上げようとして変色領域が中性に近い発色液、たとえばメチールレッドを使用すると、大気中の炭酸ガスなどの酸性ガスが妨害ガスとなって却って誤差が大きくなったり、管理に手間が掛るなどの新たな問題が生じる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような課題を達成するために、大気中に存在する炭酸ガスなどによる変色を防止しつつ、0.5ppm程度のヘキサフルオロブタジエンを検出することができるヘキサフルオロブタジエン測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題を達成するために本発明においては、サンプリングガス中に存在するヘキサフルオロブタジエンを熱分解して酸性ガスを発生させる熱分解手段と、前記熱分解手段から排出されたガスを取り込み、測定領域の光学濃度を検出する光学手段を備えた測定ヘッドと、酸性ガスと反応して光学的濃度を変化する検知紙とからなり、前記検知紙は、メチルオレンジ、保湿剤、及びメチルセルソルブを担持させて構成されているようにした。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明によれば、メチルセルソルブを含まない従来のものに比較して感度が2倍となり、0.5ppm程度のヘキサフルオロブタジエンを検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1は、本発明のヘキサフルオロブタジエン測定装置の一実施例を示すものであって、熱分解炉1は、ヘキサフルオロブタジエンに対して高い熱分解促進性を有する物質、たとえば金、白金等の酸化性触媒からなり、ガス透過性を阻害しないように網状態や粒状体に加工された充填物2を収容した耐化学耐熱性材料、例えば石英管3にヒータ4を巻回して構成され、流入口3aがサンプリング領域に接続され、また排出口3bが検知紙式ガス検出装置10に接続されている。
【0008】
検知紙式ガス検出装置10は、テープ状に加工された検知紙11を、発光素子12と受光素子13とを備えた測定ヘッド14に一定時間毎に搬送するテープ搬送機構15と、サンプリングポンプ16からの負圧を受けて、測定ヘッド14と共同して検知紙11に被検ガスを接触させる吸引ヘッド17とから構成されている。
【0009】
なお、検知紙14は、熱分解炉1で発生したHF等の酸性ガスと反応して呈色するように、pH指示薬であるメチルオレンジ0.02wt%、保湿剤、例えばグリセリンやエチレングリコール等の多価アルコール15mlを、及びメチルセルソルブを全量が100mlとなるように易蒸発性有機溶媒、例えばメタノールに溶解した発色液に、セルロースを素材とするろ紙に含浸させ有機溶媒を揮散させて製造することができる。
【0010】
なお、メチルセルソルブ(Methylcellusolve) は、分子量が76.10で、分子式がC3H8O2で、また示性式がCH3OCH2CH2OHで表される物質であるが、別名が多いので以下にそれを例示する。
2-メトキシエタノール(2-Methoxyethanol)
エチレングリコールモノメチルエーテル(Ethylene Glycol Monomethyl Ether)
エクタソルブ(Ektasolve)
EGME(EGME)
MECS(MECS)
2ME(2ME)
メトキシエタノール (VAN)(Methoxyethanol (VAN))
β-メトキシエタノール(.beta.-Methoxyethanol)
1-ヒドロキシ-2-メトキシエタン(1-Hydroxy-2-methoxyethane)
2-メトキシ-1-エタノール(2-Methoxy-1-ethanol)
O-メチルグリコール(O-Methyl Glycol)
ドワノール 7(Dowanol 7)
ドワノール EM(Dowanol EM)
グリコールエーテルEM(Glycol ether EM)
グリコールメチルエーテル(Glycolmethyl ether)
グリコールモノメチルエーテル(Glycol monomethyl ether)
ジェファルゾール EM(Jeffersol EM)
メトキシヒドロキシエタン(Methoxyhydroxyethane)
メチルエトキソール(Methyl ethoxol)
メチルグリコール(Methyl glycol)
メチルオキシトール(Methyl oxitol)
ポリ-ソルブEM(Poly-Solv EM)
プリスト(Prist)
【0011】
このようにして製作された検知紙には、1平方メートルあたりメチルオレンジが0.026g、グリセリンが25g、メチルセロソルブが9g以上、好ましくは9〜15gずつ担持されている。
【0012】
この実施例において、熱分解炉1の加熱温度を温度制御手段18によりヘキサフルオロブタジエンを熱分解できる程度の温度に調整してサンプリングポンプ16を作動させと、ヘキサフルオロブタジエンを含んだ被検ガスが熱分解炉1に流入して酸性ガスであるHFに熱分解される。
【0013】
酸性ガスは、検知紙式ガス検出装置10の検知紙11の試薬と反応し、酸性ガスの濃度に応じた光学的濃度の反応痕を生じさせる。この反応は、ヘキサフルオロブタジエンのサンプリング時間にほぼ正比例して進行し、反応度合が光学的濃度として検知紙の表面に発現される。また、サンプリング時間を調整することにより、検出感度を任意に設定することができる。
【0014】
一定時間が経過すると、検知紙11のサンプリングガスに晒されていない新しい領域が測定ヘッド14に送り込まれ、つぎの測定サイクルが開始される。これにより、以前に洗浄作業等により測定環境に検知紙11の測定感度を低下させる等の妨害性ガスが存在しても、妨害性ガスと接触していない検知紙11の新しい領域により測定を実行することができ、この時点でヘキサフルオロブタジエンが環境中に管理濃度程度に漏洩した場合にでも確実に検出することができる。
【0015】
図2は、メチルセルソルブの濃度と検出出力との関係を、濃度1ppm、及び2ppmのヘキサフルオロブタジエンについて調査したもので、発色液にメチルセルソルブが担体上では9g/平方メートル以上であれば、検出感度が向上し、15g/平方メートルで略飽和状態となった。このことから少なくとも9g/平方メートル以上、経済的な理由を考慮するなら9〜15g/平方メートルの範囲が好ましい。
【0016】
図3は、本発明と従来のヘキサフルオロブタジエン測定装置との検量線を示すもので、本発明のもの(メチルセルソルブを9g/平方メートル含有)では、図中符号Aの検量線で示したように1ppm以下の低濃度のヘキサフルオロブタジエンに対しても高い直線性で検出することができた。
【0017】
なお、上述の実施例においては検知紙をテープ状に成型して一定時間毎に新しい測定領域を測定ヘッドに対向させるようにしているが、チップ状に成型して、測定の都度、測定ヘッドに装填するようにしても同様の作用を奏することは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例を示す構成図である。
【図2】メチルセルソルブの量と検出感度の関係を示す線図である。
【図3】本発明と従来のヘキサフルオロブタジエン測定装置の検量線を示す線図である。
【符号の説明】
【0019】
1 熱分解炉
2 充填物
3 石英管
4 ヒータ
10 検知紙式ガス検出装置
11 検知紙
12 発光素子
13 受光素子
14 測定ヘッド
15 テープ搬送機構
16 サンプリングポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプリングガス中に存在するヘキサフルオロブタジエンを熱分解して酸性ガスを発生させる熱分解手段と、前記熱分解手段から排出されたガスを取り込み、測定領域の光学濃度を検出する光学手段を備えた測定ヘッドと、酸性ガスと反応して光学的濃度を変化する検知紙とからなり、前記検知紙は、メチルオレンジ、保湿剤、及びメチルセルソルブを担持させて構成されているヘキサフルオロブタジエン検出装置。
【請求項2】
前記メチルセルソルブが、1平方メートル当たり少なくとも9g以上、好ましくは9〜15g担持されている請求項1に記載のヘキサフルオロブタジエン検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−218673(P2007−218673A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−37960(P2006−37960)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(000250421)理研計器株式会社 (216)
【Fターム(参考)】