説明

ヘキサフルオロプロパンの製造方法

【課題】ヘキサフルオロプロパンの製造方法。
【解決手段】反応器中で気相のヘキサフルオロプロペンを水素化触媒の存在下に超化学量論量で水素と反応させ、反応器から出てくるガス状排出物の一部を再循環させる、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、ヘキサフルオロプロペンの水素化による1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンの製造方法にある。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1(Knunyants達, ソビエト連邦科学アカデミーのジャーナル、化学部, "フルオロオレフィン反応", レポート 13, 「ぺルフルオロオレフィンの触媒水素化」、1960)には、ヘキサフルオロプロペン(HFP)を、アルミナに担持されたパラジウムをベースにした触媒上で、温度を20℃から50℃に変へ、この値を維持することで略定量的に水素化する方法が記載されている。
【0003】
1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンは1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンの製造で使用される。
【0004】
上記従来法のテストは実験室規模で実施されたもので、上記文献には触媒の寿命に関しては全く記載されていない。上記の水素化反応は発熱性が強いため工業的規模では問題が生じる。この高い発熱性は触媒寿命にとって好ましくない。また、反応流中に反応物以外の他の化合物が存在すると触媒は急速に活性を失う。
【0005】
特許文献1(欧州特許第1 916 232号公報)には、高い変換率と高い選択率を得るためにオレフィン化合物を多段水素化する反応が提案されている。実施例1には4つの反応器で木炭に担持された触媒の存在下でヘキサフルオロプロペンを段階的に水素化する反応が記載されている。第1反応器の出口でのガス流の温度は66℃、第2反応器の出口での温度は104℃(変換率が40%の場合)、第3反応器の出口での温度は173℃、第4反応器での出口での温度は100℃である。第1浴の温度が55℃の反応器と第2浴の温度が111℃の反応器との間で冷却段階を実施する。しかし、この特許文献1に記載の方法は設備投資額およびコストが高く、実施は容易でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許第1 916 232号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Knunyants達, ソビエト連邦科学アカデミーのジャーナル、化学部, "フルオロオレフィン反応", レポート 13, 「ぺルフルオロオレフィンの触媒水素化」1960
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明方法を用いることで、優れた変換率と選択率を保持したまま、水素化反応の発熱性を制御でき、および/または、触媒の非活性化を遅らせすことができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の方法は、下記(i)〜(iii)を特徴とする1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンの製造方法:
(i)ヘキサフルオロプロペンを、水素化触媒の存在下で、50〜200℃、好ましくは80〜120℃の温度で、超化学量論量で、水素と気相で反応させ、
(ii)1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンと、未反応水素と、場合によっては含まれる未反応ヘキサフルオロプロペン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパンおよび1,1,1,2-テトラ-フルオロプロパンとを含む、反応器からのガス排出物の一部を再循環し、
(iii)反応器からのガス状排出物の残りの部分から、必要に応じて精製段階を実施して、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを回収する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
反応器の入口温度は30〜100℃、有利には40〜80℃にするのが好ましい。
再循環ループと反応物とを含むガス流は反応器に導入する前に予備加熱できる。
本発明方法は水素/HFPモル比を1〜50、有利には2〜15にして行うのが好ましい。
【0011】
標準温度と標準圧力下の触媒床の容量と全ガス流の容量による流量との比で定義される接触時間は0.1〜20秒、有利には0.5〜5秒であるのが好ましい。
【0012】
本発明の水素化反応は0.5〜20バールの絶対圧力、有利には1〜5バールの絶対圧力で行うのが好ましい。
【0013】
反応器出口のガス状排出物は2〜99容量%の1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンと、0.2〜98容量%の水素と、0〜10容量%の1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロペンと、0〜5容量%の1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパンと、0〜1容量%の1,1,1,2-テトラフルオロプロパンとを含むのが好ましい。
【0014】
反応器出口のガス状排出物は50〜98容量%の1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンと、2〜50容量%の水素と、0〜0.1容量%の1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロペンと、0〜1容量%の1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパンと、0〜0.5容量%の1,1,1,2-テトラフルオロプロパンとを含むのが有利である。
【0015】
本発明の方法では、断熱反応器を用いるのが好ましい。
【0016】
反応器に再循環されるガス状排出物の部分は、反応器出口の全流出流の少なくとも90容量%、有利には少なくとも93容量%を占めるのが好ましい。反応器に再循環されるガス状排出物部分は反応器出口の全流出流の94〜98容量%を占めるのが特に好ましい。
【0017】
触媒としては特にVIII族から選択される金属またはレニウムをベースにしたものが挙げられる。触媒は例えば炭素、アルミナ、フッ化アルミニウム等で担持できるが、触媒を担持しなくてもよい、例えばラネーニッケルにすることができる。金属としてはプラチナまたはパラジウム、特にパラジウム、有利には炭素またはアルミナに担持されたものを使用できる。この金属と別の金属、例えば銀、銅、金、テルル、亜鉛、クロム、モリブデンおよびタリウムを組み合わせることもできる。
【0018】
触媒は必要に応じて担持されたパラジウムを含むのが好ましい。
本発明の特に好ましい触媒はアルミナに担持されたパラジウムを含む触媒である。触媒中のパラジウムの量は0.05〜10重量%、有利には0.1〜5重量%であるのが好ましい。
触媒の比表面積は4m2/g以上であるのが好ましく、触媒担体として用いるアルミナはα多形相で提供されるのが有利である。
【0019】
本発明者は、驚くべきことに、本発明の水素化条件下では1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンの反応性が極めて低いということを見出した。本発明方法を用いることでHFPの変換率は99%以上、実際には99.5%以上、さらには99.8%以上になり、HFC-236eaの選択率は99%以上、実際には99.5%以上、さらには99.8%以上になる。さらに、これらの性能は経時的に安定である。
【実施例】
【0020】
実施例1
479gの触媒を収容した内径が2.1cm、長さが120cm(すなわち330cm3)の固定床の形をしたステンレス鋼製の管状反応器を用いた。触媒はα−アルミナに担持された0.2重量%のパラジウムを含む。
反応時間を通じて1.05モル/時の水素と、0.7モル/時のヘキサフルオロプロペンとを連続注入し、再循環ループ中の流量は0.480Sm3/時にした(再循環率は95.3容量%)。圧力は2バールの絶対圧力である。反応器入口の水素/HFPモル比は11.6、反応器入口の温度は31℃、反応中に得られる最高温度は121℃である。接触時間は2.28秒である。
得られたHFPの変換率は100%、HFC-236eaの選択率は99.39%、HFC-245ebの選択率は0.53%、HFC-254ebの選択率は0.07%である。118時間の運転中に非活性化は観察されなかった。
【0021】
実施例2
実施例1と同様に運転したが、反応器の入口温度は81℃、反応中に得られた最高温度は157.8℃であった。
得られたHFPの変換率は100%、HFC-236eaの選択率は98.6%、HFC-245ebの選択率は1.26%、HFC-254ebの選択率は0.12%である。
【0022】
実施例3
479gの触媒を入れた内径が2.1cmで、長さが120cm(すなわち330cm3)の固定床形をしたステンレス鋼製管状反応器を用いた。触媒はα−アルミナに担持した0.2重量%のパラジウムを含む。
反応時間を通じて0.84モル/時の水素と、0.7モル/時のヘキサフルオロプロペンとを連続注入し、再循環ループ内の流量は0.480Sm3/時にした(再循環率は96.2容量)。圧力は2バールの絶対圧力である。反応器入口の水素/HFPモル比は6で、反応器入口の温度は46.7℃で、反応中に得られる最高温度は121.4℃である。接触時間は2.31秒である。
得られたHFPの変換率は100%、HFC-236eaの選択率は99.34%、HFC-245ebの選択率は0.60%、HFC-254ebの選択率は0.04%である。
【0023】
実施例4
実施例3と同様に運転したが、1.4モル/時の水素を連続注入し、再循環ループの流量を93.9%にした。反応器の入口の水素/HFPモル比は17で、反応器の入口の温度は45.8℃で、反応中に得られた最高温度は134.3℃である。
得られたHFPの変換率は100%、HFC-236eaの選択率は99.54%、HFC-245ebの選択率は0.39%、HFC-254ebの選択率は0.03%である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(i)〜(iii)を特徴とする1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンの製造方法:
(i)ヘキサフルオロプロペンを、水素化触媒の存在下で、50〜200℃、好ましくは80〜120℃の温度で、超化学量論量で、水素と気相で反応させ、
(ii)1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンと、未反応水素と、場合によっては含まれる未反応ヘキサフルオロプロペン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパンおよび1,1,1,2-テトラ-フルオロプロパンとを含む、反応器からのガス排出物の一部を再循環し、
(iii)反応器からのガス状排出物の残りの部分から、必要に応じて精製段階を実施して、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを回収する。
【請求項2】
再循環するガス状排出物の部分が、反応器出口からの全流出物の少なくとも90容量%、好ましくは94〜98容量%である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
反応器出口のガス状排出物が、2〜99容量%の1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンと、0.2〜98容量%の水素と、0〜10容量%のヘキサフルオロプロペンと、0〜1容量%の1,1,1,2-テトラフルオロプロパンと、0〜5容量%の1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパンとを含む請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
触媒が必要に応じて担持されたパラジウムを含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
担体がアルミナをベースにする担体である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
水素/ヘキサフルオロプロペンのモル比を1〜50、好ましくは2〜15にする請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
接触時間を0.1〜20秒、好ましくは0.5〜5秒にする請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
水素化反応を0.5〜20バールの絶対圧力、好ましくは1〜5バールの絶対圧力で行う請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
水素化反応を連続的に行う請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2012−529480(P2012−529480A)
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514511(P2012−514511)
【出願日】平成22年5月5日(2010.5.5)
【国際出願番号】PCT/FR2010/050859
【国際公開番号】WO2010/142877
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】