説明

ヘッドマウント型双眼ルーペ装置

【課題】手術者が観察している状況と一致した映像を撮影できヘッドマウント型双眼ルーペ装置を提供する。
【解決手段】対物光学系9からズーム光学系13を経て導いた光束bを、ビームスプリッタ19により2つに分け、一方を接眼光学系31へ、他方をカメラ38へ導いているため、手術者Aが視認している術部の状況と、カメラ38により撮影される映像は正確に一致する。従って、その映像をステレオビュア49に表示すれば、手術者Aとアシスタント等は全く同じ術部の状況を見ることができ、術部に関する両者の相互理解が得やすい。手術者Aが接眼鏡筒を左右に回転させて眼幅調整をしても、術部を視認(撮影)している対物鏡筒は幅が固定されているので、手術者Aが接眼鏡筒を動かしても常に同じ輻輳角で術部を視認(撮影)することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヘッドマウント型双眼ルーペ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、一般外科、心臓血管外科、整形外科、脳神経外科、耳鼻科、歯科等の手術においてヘッドマウント型双眼ルーペ装置が使用されている。従来のヘッドマウント型双眼ルーペ装置は、使用者(手術者)の頭部に取付けるためのヘッドバンドの前部に、手術者の両眼に対応するルーペ鏡筒を支持し、そのルーペ鏡筒を介して、術部を拡大して観察するものである。
【0003】
また、ヘッドバンドには、ルーペ鏡筒とは異なる位置に、術部を撮影する1つのカメラも取付けられ、このカメラにより術部の撮影すると共に、その撮影した電子映像を外部表示装置に表示して、アシスタント等の関係者が術部の状況を確認したり、或いは録画することができる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2003−204972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来の技術にあっては、カメラがルーペ鏡筒とは異なる位置にあるため、手術者がルーペ鏡筒を介して術部を見ている角度と、カメラにより術部を撮影する角度が相違し、外部表示装置に表示されている術部の映像と、手術者が視認している術部の状況とが、正確に一致しない。そのため、手術者と、外部表示装置を見ているアシスタント等との間で、術部の状況に関する相互理解が困難な場合がある。
【0006】
本発明は、このような従来の技術に着目してなされたものであり、手術者が観察している状況と一致した映像を撮影できるヘッドマウント型双眼ルーペ装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、 装置本体を使用者の頭部に取付けるためのヘッドバンドと、装置本体の前方下部に取付けられ使用者の両眼付近に所定幅を隔てた状態で位置し内部に対物光学系を備えた左右一対の対物鏡筒と、装置本体の内部で対物光学系から上向きに延びる左右一対の延長光学系と、装置本体の下部から使用者の両眼位置まで延び下端に両眼の瞳に対応する接眼部を有し内部に延長光学系の上部に設けられた光分岐手段から後方へ分岐した光束を接眼部まで導く接眼光学系を備え、上端を中心に接眼部が左右へ回転自在に軸支された左右一対の接眼鏡筒と、装置本体の内部で光分岐手段から上方へ分岐した光束を、装置本体の後方に設置されたカメラに導く左右一対の撮像光学系とを備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、カメラが一枚の撮像素子により右眼用の電子映像と左眼用の電子映像を同時に撮影可能な構造であることを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、延長光学系がズーム光学系であることを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、左右の対物鏡筒の間に照明装置を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の発明によれば、対物光学系から延長光学系を経て導いた光束を、光分岐手段により、2つに分け、一方を接眼光学系へ、他方をカメラへ導いているため、手術者が視認している術部の状況と、カメラにより撮影される映像は正確に一致する。従って、その映像を外部表示装置に表示すれば、手術者とアシスタント等は全く同じ術部の状況を見ることができ、術部に関する両者の相互理解が得やすい。手術者が接眼鏡筒を左右に回転させて眼幅調整をしても、術部を視認(撮影)している対物鏡筒は幅が固定されているので、手術者が接眼鏡筒を動かしても常に同じ輻輳角で術部を視認(撮影)することができる。
【0012】
請求項2記載の発明によれば、右眼用の電子映像と左眼用の電子映像を一枚の撮像素子により撮影するため、2台のカメラを用いる場合のような映像間での感度や相対位置の調整を行う必要がなく、撮影が容易である。
【0013】
請求項3記載の発明によれば、延長光学系がズーム光学系であるため、通常4倍程度の倍率を、それ以上の倍率にすることができる。
【0014】
請求項4記載の発明によれば、左右の対物鏡筒の間に照明装置を備えているため、術部を明るく照らすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。ヘッドバンド1は、手術者Aの頭部4の回りに取付けられるチューブ2と、上下に掛け回すバンド3を備えている。チューブ2は圧縮空気により膨らんでいる。空気圧で締め付けるため、取付けが確実でありながら、頭部4に対する締付感が少ない。
【0016】
ヘッドバンド1には装置本体5が取付けられている。装置本体5は、前方が下向きに曲折し、後方がテーパ状に広がった概略L形をしている。
【0017】
装置本体5の前方下部には、左右一対の対物鏡筒6が取付けられている。対物鏡筒6の内部には、対物レンズ7とミラー8から成る対物光学系9が設けられている。この対物鏡筒6は手術者Aの両眼10付近に位置しているが、両眼10と完全に一致している必要はない。両方の対物鏡筒6は装置本体5に固定されているため、両者間の幅も固定されている。
【0018】
対物鏡筒6の間には、照明装置としてスポットライト11が設けられている。このスポットライト11の光源は装置本体5の内部に設けても良いし、外部に設けてライトチューブにより装置本体5内に導入しても良い。スポットライト11の点灯操作は装置本体5の側面のスイッチ12により行うことができる。
【0019】
装置本体5の内部には、対物光学系9のミラー8から上方へ延びるズーム光学系(延長光学系)13が設けられている。従って、対物鏡筒6内に導入された光束aはミラー8にて上方へ反射され、このズーム光学系13を通過する。ズーム光学系13は4枚のレンズ14、15、16、17から構成され、内側の2枚のレンズ15、16を移動させることにより、倍率を4〜8倍の間で変化させることができる。ズーム光学系13の駆動は図示せぬ小型モータにより行われ、装置本体5の側面のダイヤル18により操作することができる。
【0020】
ズーム光学系13の上部には光分岐手段としてビームスプリッタ19が設けられている。従って、ズーム光学系13を通過した光束bは、ビームスプリッタ19において上方と後方の2方向に分岐される。
【0021】
ビームスプリッタ19から後方へ分岐された光束cは左右一対の接眼鏡筒20内に導入される。接眼鏡筒20は、図5に示されているように、上部の水平な直筒部21と、該直筒部21の後端から前側へ概略U字形状に折り返された曲筒部22とから構成されている。接眼鏡筒20は、直筒部21の後端に設けられた回転軸23を中心に、全体が左右に回動するようになっている。接眼鏡筒20の下端は後側に曲折されて接眼部24となっている。
【0022】
接眼鏡筒20の内部には、結像レンズ25、回転ミラー26、ミラー27、視野レンズ28、ミラー29、接眼レンズ30からなる接眼光学系31が内蔵されている。前記回転軸23は回転ミラー26に固定されている。回転ミラー26は回転軸23に対して若干下向きに傾斜している。この接眼光学系31では、接眼部24から両眼10までのアイレリーフが長く設定され、手術者Aが眼鏡を使用して双眼ルーペ装置を利用することができる。
【0023】
回転軸23には、互いに噛合したセクタギア32、33が固定されている。一方のセクタギア32は厚く、他方のセクタギア33は薄く形成されれている。そして、厚さの違いを利用して、厚い方のセクタギア32にピニオンギア34を噛合させている。ピニオンギア34には前方へ延びる長尺のシャフト35が設けられ、該シャフト35の前端は装置本体5の前面のダイヤル36に連結されている。
【0024】
従って、このダイヤル36を回転させることにより、ピニオンギア34が回転し、一方のセクタギア32が回転することにより、他方のセクタギア33も同時に反対側へ回転するため、接眼鏡筒20を左右へ同期した状態で回動させることができる。尚、接眼鏡筒20は接眼部24を手で持つことにより直接左右に回転させることもできる。
【0025】
接眼鏡筒20を左右に回動することができるため、接眼部24を手術者Aの両眼10の瞳に完全に一致させることができる。
【0026】
ビームスプリッタ19から上方へ分岐された光束dは、後方へ延びる撮像光学系37を介してカメラ38に導入される。撮像光学系37は、結像レンズ52、ミラー39、スリット40、リレーレンズ41、平行四辺形プリズム42から構成される。このカメラ38は既知の立体アダプター(例えば特許2607828号)を備えており、CCDエリアイメージセンサ等の一枚の2次元撮像素子で右眼用の電子映像と左眼用の電子映像を同時に撮影することができる。このようにカメラ38を構成すれば、2台のカメラを用いる場合のようにカメラ間での感度調整を行う必要がなく、撮影が容易である。
【0027】
また、カメラ38は外部のステレオビュア49に映像を出力する。このステレオビュア49はアシスタントB等が観察する。ステレオビュア49の内部にも一対の液晶パネル50が設けられ、接眼部51から液晶パネル50を見ることにより、立体的な観察が行える。
【0028】
次に作用を説明する。まず、切換ミラー46を水平にした状態では、術部から反射された光束aが対物光学系9、ズーム光学系13を経て接眼光学系31に導入されるため、左右の接眼部24から術部の状況を立体的に観察することができる。
【0029】
接眼鏡筒20が左右に移動するため眼幅調整が容易である。尚、接眼鏡筒20を両眼10から大きく外れた位置に回転させれば、手術者Aは周辺の状況を直接確認することができる。手術者Aの両眼10の直前には対物鏡筒6が位置しているが、対物鏡筒6には両眼10の焦点が合っていないため、あまり気にならず、手術者Aは自分の周辺の状況を確実に目視することができる。
【0030】
また、ビームスプリッタ19の上方に分岐された光束dは、撮像光学系37を介してカメラ38により撮影される。1つの光束bを2つに分けたものを撮影するため、カメラ38により撮影される映像は、手術者Aが目視している術部の状況と正確に一致する。特に、手術者Aが接眼鏡筒20を左右に回転させて眼幅調整をしても、術部を視認(撮影)している対物鏡筒6は幅が固定されているので、手術者Aが接眼鏡筒20を動かしても常に同じ輻輳角で術部を視認(撮影)することができる。
【0031】
従って、そのカメラ38により撮影された映像を、外部のステレオビュア49に表示することにより、アシスタントB等も、手術者Aと同様の状況を立体的に確認でき、術部の状況に関する相互理解が得やすい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係るヘッドマウント型双眼ルーペ装置を示す斜視図。
【図2】ヘッドマウント型双眼ルーペ装置の内部構造を示す光路図。
【図3】正面から見た光路図。
【図4】ヘッドマウント型双眼ルーペ装置の内部構造を示す斜視図。
【図5】接眼鏡筒を示す斜視図。
【図6】接眼鏡筒を左右に回転させる構造を示す斜視図。
【図7】撮像光学系を示す平面図。
【図8】ステレオビュアを示す斜視図。
【図9】ステレオビュアの内部構造を示す断面図。
【符号の説明】
【0033】
1 ヘッドバンド
4 頭部
5 装置本体
6 対物鏡筒
9 対物光学系
10 両眼
11 スポットライト(照明装置)
13 ズーム光学系
19 ビームスプリッタ(光分岐手段)
20 接眼鏡筒
23 回転軸
24 接眼部
30 接眼レンズ
31 接眼光学系
37 撮像光学系
38 カメラ
49 ステレオビュア
A 手術者
B アシスタント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置本体を使用者の頭部に取付けるためのヘッドバンドと、
装置本体の前方下部に取付けられ、使用者の両眼付近に所定幅を隔てた状態で位置し、内部に対物光学系を備えた左右一対の対物鏡筒と、
装置本体の内部で対物光学系から上向きに延びる左右一対の延長光学系と、
装置本体の下部から使用者の両眼位置まで延び、下端に両眼の瞳に対応する接眼部を有し、内部に延長光学系の上部に設けられた光分岐手段から後方へ分岐した光束を接眼部まで導く接眼光学系を備え、上端を中心に接眼部が左右へ回転自在に軸支された左右一対の接眼鏡筒と、
装置本体の内部で光分岐手段から上方へ分岐した光束を、装置本体の後方に設置されたカメラに導く左右一対の撮像光学系と、
を備えたことを特徴とするヘッドマウント型双眼ルーペ装置。
【請求項2】
カメラが、一枚の撮像素子により右眼用の電子映像と左眼用の電子映像を同時に撮影可能な構造であることを特徴とする請求項1記載のヘッドマウント型双眼ルーペ装置。
【請求項3】
延長光学系がズーム光学系であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のヘッドマウント型双眼ルーペ装置。
【請求項4】
左右の対物鏡筒の間に照明装置を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のヘッドマウント型双眼ルーペ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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