説明

ヘッド交換式切削工具

【課題】製造工程を複雑にすることなく、切削ヘッドとホルダとを精度よく簡単に芯合せできるヘッド交換式切削工具を提供すること。
【解決手段】切れ刃を有する切削ヘッド2と、前記切削ヘッド2が着脱可能に装着されるホルダ3と、前記ホルダ3に対して螺合により前記切削ヘッド2を固定するピン部材4と、を備えたヘッド交換式切削工具であって、前記ホルダ3は、該ホルダ3の中心軸C1に同軸とされ、該中心軸C1に垂直な径方向の外方に向けて弾性変形可能な筒部5を有し、前記切削ヘッド2は、前記筒部5の前記径方向の外方に配置され該筒部5が当接可能な当接部8Cを有し、前記ピン部材4は、前記筒部5に前記径方向の内方から当接して該筒部5を前記径方向の外方へ向けて弾性変形させる押し拡げ部4Cを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッド交換式切削工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のヘッド交換式切削工具として、例えば下記特許文献1に示されるように、円柱状をなしその外周面に切れ刃を有する交換刃具(切削ヘッド)と、軸状をなしその先端部に交換刃具が着脱可能に装着されるシャンク(ホルダ)と、シャンクに対して螺合により交換刃具を固定する取付ねじ(ピン部材)と、を備えたものが知られている。
【0003】
特許文献1のヘッド交換式切削工具では、取付ねじに設けられた嵌合軸部が、交換刃具に設けられた嵌合穴、及び、シャンクに設けられた嵌合穴に嵌合させられることにより、前記嵌合軸部を介して、交換刃具とシャンクとが同軸(同心)に位置決め(芯合せ)されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−167977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来のヘッド交換式切削工具では、下記の課題があった。
すなわち、切削ヘッドとホルダとを精度よく同軸に位置決めするため、ピン部材の嵌合部分(前記嵌合軸部)、切削ヘッドの嵌合穴及びホルダの嵌合穴を高精度に研磨加工する必要があり、製造工程が複雑となっていた。特に切削ヘッドは、硬質の超硬合金等からなるため研磨加工しづらい。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、製造工程を複雑にすることなく、切削ヘッドとホルダとを精度よく簡単に芯合せできるヘッド交換式切削工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。
すなわち、本発明は、切れ刃を有する切削ヘッドと、前記切削ヘッドが着脱可能に装着されるホルダと、前記ホルダに対して螺合により前記切削ヘッドを固定するピン部材と、を備えたヘッド交換式切削工具であって、前記ホルダは、該ホルダの中心軸に同軸とされ、該中心軸に垂直な径方向の外方に向けて弾性変形可能な筒部を有し、前記切削ヘッドは、前記筒部の前記径方向の外方に配置され該筒部が当接可能な当接部を有し、前記ピン部材は、前記筒部に前記径方向の内方から当接して該筒部を前記径方向の外方へ向けて弾性変形させる押し拡げ部を有することを特徴とする。
【0008】
本発明のヘッド交換式切削工具によれば、下記の作用効果を奏する。
すなわち、切削ヘッドをホルダに装着する際、ピン部材の押し拡げ部が、ホルダの筒部に前記径方向の内方から当接するとともに該筒部を前記径方向の外方に向けて弾性変形させ、押し拡げる。これにより、ピン部材の中心軸と、ホルダの中心軸とが同軸に位置決めされる。
さらに、弾性変形させられた筒部が、その前記径方向の外方に位置する切削ヘッドの当接部に当接する。これにより、ホルダの中心軸と、切削ヘッドの中心軸とが同軸に位置決めされる。
【0009】
このように、ホルダの筒部を弾性変形させ、切削ヘッドの当接部に当接させることによって、ホルダと切削ヘッドとの芯合せ(芯出し)が行われることから、前記従来の嵌合による芯合せとは異なり、本発明のヘッド交換式切削工具によれば、筒部、当接部及び押し拡げ部に対して高精度な研磨加工は不要である。具体的に、このヘッド交換式切削工具によれば、筒部、当接部及び押し拡げ部に対してラフな研磨加工のみ、或いは研磨レスとすることができる。特に、硬質の超硬合金等からなる切削ヘッドに対して研磨が不要であり、焼結後の状態をそのまま切削加工に用いることができる点で優れている。
【0010】
よって、本発明によれば、製造工程を複雑にすることなく、切削ヘッドとホルダとを精度よく簡単に芯合せすることができるのである。
【0011】
また、本発明のヘッド交換式切削工具において、前記筒部は、前記ホルダの中心軸回りの周方向に沿って分割されるように形成された複数の壁部を有することとしてもよい。
【0012】
この場合、筒部が前記周方向に分割されるように形成された複数の壁部を有しているので、ピン部材が該筒部を径方向の外方に向けて押し拡げる際に、筒部がより弾性変形しやすくなるとともに、当接部に当接しやすくなる。よって、前述の作用効果が安定して得られる。
【0013】
また、本発明のヘッド交換式切削工具において、前記押し拡げ部は、前記ピン部材の一端に形成されて前記ホルダに螺合するネジ部から他端へ向けて離間するに従い漸次前記径方向の外方へ向かって傾斜するテーパ面を有することとしてもよい。
【0014】
この場合、ピン部材を筒部に挿入しやすくなり、かつ、該筒部がホルダの中心軸に対して傾斜させられるように弾性変形するから、この筒部と当接部とがより当接しやすくなる。
【0015】
また、本発明のヘッド交換式切削工具において、前記切削ヘッドの前記中心軸方向を向く面、及び、この面に対向する前記ホルダの前記中心軸方向を向く面には、前記切削ヘッドと前記ホルダとの前記中心軸回りの相対回転を規制する回転規制部が形成されていることとしてもよい。
【0016】
この場合、前記中心軸方向に対向する切削ヘッドの面及びホルダの面に、これら切削ヘッドとホルダとの前記中心軸回りの相対回転を規制する回転規制部が形成されているので、前述した切削ヘッドの当接部とホルダの筒部との当接部分においては、前記相対回転を規制する構造等は必要ない。すなわち、前記相対回転を規制する部位と、芯合せする部位とを、互いに異なる箇所に配置できるため、それぞれの部位における各作用が安定して精度よく行われる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のヘッド交換式切削工具によれば、製造工程を複雑にすることなく、切削ヘッドとホルダとを精度よく簡単に芯合せできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るヘッド交換式切削工具を示す斜視図である。
【図2】図1のヘッド交換式切削工具の要部を示す部分側断面図である。
【図3】図1のヘッド交換式切削工具のホルダの先端形状を示す斜視図である。
【図4】図1のヘッド交換式切削工具のホルダの先端形状を示す側面図である。
【図5】図1のヘッド交換式切削工具のホルダの先端形状を示す正面図である。
【図6】図1のヘッド交換式切削工具の切削ヘッドを示す斜視図である。
【図7】図1のヘッド交換式切削工具の切削ヘッドを示す側面図である。
【図8】図1のヘッド交換式切削工具の切削ヘッドを先端側から見た正面図である。
【図9】図1のヘッド交換式切削工具の切削ヘッドをホルダ側から見た背面図である。
【図10】図1のヘッド交換式切削工具のピン部材を示す斜視図である。
【図11】図1のヘッド交換式切削工具のピン部材を先端側から見た正面図である。
【図12】図1のヘッド交換式切削工具のピン部材を示す側面図である。
【図13】図1のヘッド交換式切削工具において、ピン部材をホルダの筒部に挿入する際に行われるピン部材、ホルダ及び切削ヘッドの芯合せを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係るヘッド交換式切削工具1について、図1〜図13を参照して説明する。
本実施形態のヘッド交換式切削工具1は、ヘッド交換式のエンドミルである。
【0020】
図1及び図2において、ヘッド交換式切削工具1は、切れ刃を有する切削ヘッド2と、切削ヘッド2が着脱可能に装着されるホルダ3と、ホルダ3に対して螺合により切削ヘッド2を固定するピン部材4と、を備えている。
ここで、ホルダ3は軸状をなし、切削ヘッド2は円筒状とされていて、切削ヘッド2は、ホルダ3の中心軸C1方向に沿う一端部に、該ホルダ3に同軸に配設されている。以下の説明においては、ホルダ3の中心軸C1方向に沿う切削ヘッド2側を先端側、切削ヘッド2とは反対側を基端側と言う。また、ホルダ3の中心軸C1に垂直な方向を径方向と言い、中心軸C1を中心に周回する方向を周方向と言う。
【0021】
このヘッド交換式切削工具1は、ホルダ3の基端側の端部(基端部)が工作機械の主軸に着脱可能に支持され、中心軸C1回りに回転させられることにより、切削ヘッド2の切れ刃で被削材を切削加工する、ヘッド交換式の転削工具である。
【0022】
ホルダ3は、鋼材により形成されており、中心軸C1に垂直な断面が円形状をなしている。尚、ホルダ3は、超硬合金からなる軸状のホルダ本体と、鋼材からなりホルダ本体の先端側の端部(先端部)にろう付けにより接合され、切削ヘッド2が装着される円柱状のホルダヘッド部と、を備えていてもよい。
【0023】
図2において、ホルダ3の先端部3Aは、それ以外の部分(本体部)3Bよりも小径に形成されている。また、ホルダ3の先端部3Aには、その先端側を向く先端面3Cの径方向中央に開口するとともに、該先端面3Cから中心軸C1上を基端側へ向けて延びる雌ネジ穴3Dが穿設されている。雌ネジ穴3Dの内周面には、雌ネジ加工(不図示)が施されており、該雌ネジ穴3Dは、後述するピン部材4の雄ネジ部4Aに螺合可能に形成されている。
【0024】
また、ホルダ3の先端面3Cには、先端部3Aよりも小径とされて該先端面3Cから先端側へ向けて突出する筒状をなし、ホルダ3の中心軸C1に同軸とされ、該中心軸C1に垂直な径方向の外方に向けて弾性変形可能な筒部5が形成されている。筒部5の内径は、後述するピン部材4の雄ネジ部4Aより僅かに大きく形成されている。筒部5の内周面における基端部(中心軸C1方向に沿う先端面3C部分に相当する部位)は、雌ネジ穴3Dの内周面における先端部(前記先端面3C部分に相当する開口縁部)に滑らかに連なっている。
【0025】
図3〜図5に示されるように、筒部5は、ホルダ3の中心軸C1回りの周方向に沿って分割されるように形成された複数の壁部5Aを有している。これら壁部5Aは、中心軸C1を中心として互いに周方向に間隔をあけて配置され、それぞれの壁部5Aは、中心軸C1に垂直な断面が円弧状をなしている。このように、複数の壁部5Aが中心軸C1回りに周方向に配列されることにより、筒部5は全体として円筒状をなしている。
【0026】
壁部5Aの外周面における基端部には、周方向に沿って延びる凹溝5Bが形成されている。このような凹溝5Bが形成されることにより、壁部5Aはその基端部が薄肉となっている。
【0027】
また、筒部5において径方向の内方を向く面、つまり壁部5Aの内周面には、中心軸C1に沿ってホルダ3の先端側へ向かうに従い漸次径方向の外方へ向かって傾斜する傾斜面5Cが形成されている。傾斜面5Cは、壁部5A(筒部5)の内周面における先端部に形成されている。
【0028】
また、ホルダ3の先端面3Cには、基端側へ向けて窪む凹部6と、先端側へ向けて突出する凸部7と、が複数形成されているとともに、これらが中心軸C1を中心として周方向に交互に配列されている。
【0029】
図3及び図5に示されるように、凹部6は扇形状をなす穴であり、凸部7は扇形状をなす突起である。これら凹部6と凸部7とが周方向に隣接して連続的に並べられることにより、先端面3Cは凹凸形状とされている。
また、凹部6における径方向の内方の端部は、雌ネジ穴3Dの開口縁部に連なっている。凸部7における径方向の内方の端部には、壁部5Aが立設されている。
【0030】
図2、図6〜図9において、切削ヘッド2は、超硬合金により形成されており、その中心軸C2方向の先端側を向く先端面2A、及び、該先端面2Aに隣接し中心軸C2に垂直な径方向の外方を向く外周面2Bに、複数の切れ刃(不図示)を有している。切削ヘッド2の外径は、ホルダ3の先端部3Aの外径より若干大きくなっている(図2を参照)。
ここで、切削ヘッド2の前記中心軸C2は、該切削ヘッド2がホルダ3に装着された状態において中心軸C1に同軸であるから、ヘッド交換式切削工具1におけるこれら中心軸C1、C2は、互いに共通軸である。
【0031】
切削ヘッド2には、中心軸C2上に沿って延びるとともに、該切削ヘッド2を貫通する多段状の取付孔8が形成されている。図7において、取付孔8の内周面は、その中心軸C2方向に沿う中央部8Aが最も小径とされており、該中央部8Aの先端側(図7における上側)に位置する先端部8Bの内径、及び、該中央部8Aの基端側(図7における下側)に位置する基端部(当接部)8Cの内径が互いに略同一とされているとともに、中央部8Aの内径より大径となっている。
【0032】
図2に示されるように、切削ヘッド2がホルダ3先端に装着された状態で、取付孔8の内周面のうち基端部8Cは、筒部5の径方向の外方に配置される。基端部8Cは、筒部5に対応する円柱穴状をなしている。また、基端部8Cの内径は、筒部5の外径より僅かに大きくなっている。そして、切削ヘッド2の基端部8Cには、後述するピン部材4が筒部5に挿入された際、この筒部5が径方向の外方に向けて弾性変形することによって、該筒部5が当接可能とされている。つまり、取付孔8の内周面における基端部8Cは、筒部5の外周面が当接可能とされた当接部である。
【0033】
また、取付孔8の内周面における中央部8Aのうち、先端側に位置する部分は、中心軸C2方向に沿って先端側へ向かうに従い漸次径方向の外方に向かって傾斜する傾斜面8Dとなっている。また、取付孔8には、中心軸C2方向の基端側を向くとともに、中央部8Aの基端側の周端縁と基端部8Cの先端側の周端縁とを繋ぐように、環状面8Eが形成されている。図2に示されるように、切削ヘッド2がホルダ3先端に装着された状態で、環状面8Eと筒部5の先端側を向く面との間には、若干の隙間が形成される。
【0034】
また、切削ヘッド2の基端側を向く面2Cには、先端側へ向けて窪む凹部9と、基端側へ向けて突出する凸部10と、が複数形成されているとともに、これらが中心軸C2を中心として周方向に交互に配列されている。
【0035】
図6及び図9に示されるように、凹部9は扇形状をなす穴であり、凸部10は扇形状をなす突起である。これら凹部9と凸部10とが周方向に隣接して連続的に並べられることにより、面2Cは凹凸形状とされている。
【0036】
図1及び図2において、切削ヘッド2がホルダ3先端に装着された状態で、切削ヘッド2の基端側を向く面2Cに形成された凹部9と、ホルダ3の先端面3Cに形成された凸部7とは、互いに当接する。また、切削ヘッド2の基端側を向く面2Cに形成された凸部10と、ホルダ3の先端面3Cに形成された凹部6とは、互いに当接する。これにより、凹部9と凸部7とが係合し、凸部10と凹部6とが係合する。
【0037】
このヘッド交換式切削工具1は、前述のように凹部6、9及び凸部7、10が係合することによって、切削ヘッド2とホルダ3との中心軸C1、C2回りの相対回転が規制されている。このように、切削ヘッド2の中心軸C2方向を向く面2C、及び、この面2Cに対向するホルダ3の中心軸C1方向を向く面(先端面)3Cには、互いに係合する凹部6、9及び凸部7、10を備えた回転規制部11が形成されている。
【0038】
ピン部材4は、鋼材により形成されている。図2、図10〜図12に示されるように、ピン部材4は、その中心軸C3方向に沿う基端部(ここで言う基端部とは、ホルダ3に装着されたピン部材4における該ホルダ3基端側の端部を差し、ピン部材4における一端である)に位置して雄ネジ加工(不図示)が施されるとともに、雌ネジ穴3Dに螺合するように形成され、最も小径とされた雄ネジ部(ネジ部)4Aと、中心軸C3方向に沿う先端部(ここで言う先端部とは、ホルダ3に装着されたピン部材4における該ホルダ3先端側の端部を差し、ピン部材4における他端である)に位置して最も大径とされた頭部4Bと、雄ネジ部4A及び頭部4Bの中間に位置して円柱状をなし、切削ヘッド2がホルダ3に装着された状態において、筒部5に径方向の内方から当接して該筒部5を径方向の外方へ向けて弾性変形させる押し拡げ部4Cと、を備えている。
ここで、ピン部材4の前記中心軸C3は、該ピン部材4がホルダ3の筒部5に挿入され雄ネジ部4Aが雌ネジ穴3Dに螺合された状態において、中心軸C1に同軸であるから、ヘッド交換式切削工具1におけるこれら中心軸C1、C3は、互いに共通軸である。また、前述のように中心軸C1、C2は共通軸であるから、これら中心軸C1、C2、C3は、共通軸(同軸)である。
【0039】
ピン部材4の頭部4Bのうち、基端側(図12における下側、ピン部材4の一端に位置する雄ネジ部4A側)に位置する部分は、中心軸C3方向に沿って基端側へ向かうに従い漸次径方向の内方に向かって傾斜する傾斜面4Dとなっている。傾斜面4Dにおける中心軸C3方向に沿う単位長さあたりの径方向への変位量(つまり傾き)は、切削ヘッド2の傾斜面8Dにおける中心軸C2方向に沿う単位長さあたりの径方向への変位量と略同一とされており、これにより傾斜面4Dと傾斜面8Dとは互いに広範囲に面接触しやすくなっている。
【0040】
また、ピン部材4の押し拡げ部4Cのうち、基端側に位置する部分は、中心軸C3方向に沿って基端側へ向かうに従い漸次径方向の内方に向かって傾斜するテーパ面4Eとなっている。すなわち、このテーパ面4Eは、ピン部材4の一端に位置する雄ネジ部4Aから他端に位置する頭部4Bへ向けて離間するに従い漸次径方向の外方へ向かって傾斜して形成されている。
【0041】
次に、このように構成された本実施形態のヘッド交換式切削工具1の作用(芯合せ)について、図13を用いて説明する。
図13(a)において、切削ヘッド2をホルダ3の先端部に載せると、切削ヘッド2の取付孔8の基端部8Cに、ホルダ3の筒部5が挿入される。また、切削ヘッド2の基端側を向く面2Cとホルダ3の先端面3Cとが当接するとともに、対応する凹部6、9と凸部7、10とが噛み合うように係合する。
この状態から、切削ヘッド2の取付孔8を通して、ピン部材4をホルダ3の筒部5に挿入していく。ここで、図中の矢印は、ホルダ3に対するピン部材4の押し込み(ねじ込み)方向を示している。図13(a)に示される状態においては、ホルダ3の中心軸C1、切削ヘッド2の中心軸C2及びピン部材4の中心軸C3は、互いに異なる位置にある。
【0042】
次いで、図13(b)において、ピン部材4の雄ネジ部4Aがホルダ3の雌ネジ穴3D(図13には不図示)に螺合され、ねじ込まれていく。これにより、ホルダ3に対してピン部材4が基端側へ向かい矢印方向に進入していき、筒部5内に挿入されていく。この際、ピン部材4の押し拡げ部4Cが、筒部5に径方向の内方から当接するとともに、該筒部5を径方向の外方へ向けて弾性変形させ、押し拡げる。ピン部材4は、その中心軸C3をホルダ3の中心軸C1に一致させるように径方向に移動して、ピン部材4の中心軸C3とホルダ3の中心軸C1とが同軸に位置決めされる。
【0043】
具体的には、押し拡げ部4Cの外周面が筒部5の各壁部5Aの内周面に接触する面積は、周方向に均等となるように配分されているとともに、ピン部材4の基端側へ向けた単位長さあたりの移動量に対する各壁部5Aの径方向外方へ向けた変位量(筒部5の拡径量)が周方向に均等となるように、ピン部材4が径方向に移動させられて、中心軸C1、C3が一致させられている。図13(b)に示される状態においては、このようにホルダ3の中心軸C1とピン部材4の中心軸C3とが同軸とされている一方、切削ヘッド2の中心軸C2はこれら中心軸C1、C3とは異なる位置にある。
【0044】
次いで、図13(c)において、ホルダ3に対してピン部材4がさらにねじ込まれていくと、筒部5もさらに弾性変形し径方向の外方に向けて押し拡げられていく。そして、筒部5は、その径方向の外方に位置する切削ヘッド2の当接部(取付孔8の基端部8C)に当接する。この当接によって、切削ヘッド2は、その中心軸C2をホルダ3の中心軸C1に一致させるように径方向に移動して、切削ヘッド2の中心軸C2とホルダ3の中心軸C1とが同軸に位置決めされる。
【0045】
具体的には、筒部5の外周面のうち、基端部8Cに比較的接近した部分から基端部8Cに当接され、さらに筒部5が拡径されることによって切削ヘッド2は径方向に移動させられる。これにより、筒部5の外周面において前記部分とは周方向の反対側に位置する部分に対して基端部8Cが接近させられて、当接する。このような作用が筒部5の外周面の周方向各部でなされることにより、筒部5の外周面が基端部8Cの内周面に周方向に均等に当接するとともに、切削ヘッド2の中心軸C2がホルダ3の中心軸C1に一致させられている。そして、図13(c)に示される状態においては、ホルダ3の中心軸C1、切削ヘッド2の中心軸C2及びピン部材4の中心軸C3が一致して、互いに同軸とされている。
【0046】
図2に示されるように、ホルダ3に対してピン部材4が所定量ねじ込まれることにより、該ピン部材4の傾斜面4Dと切削ヘッド2の傾斜面8Dとが当接する。これにより、切削ヘッド2がホルダ3にクランプされる。
一方、切削加工に供された切削ヘッド2を別の新しい切削ヘッド2に交換する際は、前述の手順と逆の手順によって、ピン部材4をホルダ3から取り外す。これにより、筒部5は復元変形するとともに、切削ヘッド2の取付孔8の基端部8Cから離間される。
【0047】
以上説明したように、本実施形態のヘッド交換式切削工具1によれば、ホルダ3の筒部5を弾性変形させ、切削ヘッド2の当接部(基端部8C)に当接させることによって、ホルダ3と切削ヘッド2との芯合せ(芯出し)が行われることから、従来の嵌合による芯合せとは異なり、このヘッド交換式切削工具1では、筒部5、当接部及び押し拡げ部4Cに対して高精度な研磨加工は不要である。具体的に、このヘッド交換式切削工具1によれば、筒部5、当接部及び押し拡げ部4Cに対してラフな研磨加工のみ、或いは研磨レスとすることができる。特に、硬質の超硬合金からなる切削ヘッド2に対して研磨が不要であり、焼結後の状態をそのまま切削加工に用いることができる点で優れている。
【0048】
このように、本実施形態によれば、製造工程を複雑にすることなく、切削ヘッド2とホルダ3とを精度よく簡単に芯合せすることができるのである。
【0049】
また、筒部5が周方向に分割されるように形成された複数の壁部5Aを有しているので、ピン部材4が該筒部5を径方向の外方に向けて押し拡げる際に、筒部5がより弾性変形しやすくなるとともに、当接部に当接しやすくなる。よって、前述の作用効果が安定して得られる。
【0050】
また、押し拡げ部4Cにテーパ面4Eが形成されているので、ピン部材4を筒部5に挿入しやすくなり、かつ、該筒部5の壁部5Aがホルダ3の中心軸C1に対して傾斜させられるように弾性変形するから、壁部5Aの先端部が当接部に当接しやすくなる。よって、筒部5と当接部との当接が確実に行われる。
【0051】
また、筒部5の内周面に傾斜面5Cが形成されていることから、ピン部材4が筒部5内に確実に案内されて、該ピン部材4をホルダ3に螺合させやすい。
【0052】
また、中心軸C1方向に対向する切削ヘッド2の面2C及びホルダ3の先端面3Cに、これら切削ヘッド2とホルダ3との中心軸C1回りの相対回転を規制する回転規制部11が形成されているので、前述した切削ヘッド2の当接部(基端部8C)とホルダ3の筒部5との当接部分においては、前記相対回転を規制する構造等は必要ない。すなわち、前記相対回転を規制する部位と、芯合せする部位とを、互いに異なる箇所に配置できるため、それぞれの部位における各作用が安定して精度よく行われる。
【0053】
尚、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることができる。
【0054】
例えば、前述した実施形態では、筒部5が全体として円筒状をなし、切削ヘッド2の当接部(基端部8C)がこれに対応する円柱穴状をなしているとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、筒部5が、断面非円形の例えば多角形筒状又は楕円筒状をなし、切削ヘッド2の当接部が前記筒部5の形状に対応する断面非円形の例えば多角形柱穴状又は楕円柱穴状をなしていても構わない。
この場合、筒部5及び当接部は、前述した芯合せ効果を奏するほか、切削ヘッド2とホルダ3との相対回転を規制する効果をも奏する。
【0055】
また、前述の実施形態では、ヘッド交換式切削工具1は、ヘッド交換式のエンドミルであるとしたが、これに限定されるものではなく、例えば、それ以外のヘッド交換式のねじ切り工具(タップ)等であっても構わない。
また、切削ヘッド2の切れ刃が、先端面2A及び外周面2Bに形成されているとしたが、切れ刃は、先端面2A又は外周面2Bに形成されていても構わない。
【符号の説明】
【0056】
1 ヘッド交換式切削工具
2 切削ヘッド
2C 切削ヘッドの基端側を向く面(切削ヘッドの中心軸方向を向く面)
3 ホルダ
3C ホルダの先端面(ホルダの中心軸方向を向く面)
4 ピン部材
4A 雄ネジ部(ネジ部)
4C 押し拡げ部
4E テーパ面
5 筒部
5A 壁部
8C 取付孔の基端部(当接部)
11 回転規制部
C1 ホルダの中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切れ刃を有する切削ヘッドと、
前記切削ヘッドが着脱可能に装着されるホルダと、
前記ホルダに対して螺合により前記切削ヘッドを固定するピン部材と、を備えたヘッド交換式切削工具であって、
前記ホルダは、該ホルダの中心軸に同軸とされ、該中心軸に垂直な径方向の外方に向けて弾性変形可能な筒部を有し、
前記切削ヘッドは、前記筒部の前記径方向の外方に配置され該筒部が当接可能な当接部を有し、
前記ピン部材は、前記筒部に前記径方向の内方から当接して該筒部を前記径方向の外方へ向けて弾性変形させる押し拡げ部を有することを特徴とするヘッド交換式切削工具。
【請求項2】
請求項1に記載のヘッド交換式切削工具であって、
前記筒部は、前記ホルダの中心軸回りの周方向に沿って分割されるように形成された複数の壁部を有することを特徴とするヘッド交換式切削工具。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のヘッド交換式切削工具であって、
前記押し拡げ部は、前記ピン部材の一端に形成されて前記ホルダに螺合するネジ部から他端へ向けて離間するに従い漸次前記径方向の外方へ向かって傾斜するテーパ面を有することを特徴とするヘッド交換式切削工具。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のヘッド交換式切削工具であって、
前記切削ヘッドの前記中心軸方向を向く面、及び、この面に対向する前記ホルダの前記中心軸方向を向く面には、前記切削ヘッドと前記ホルダとの前記中心軸回りの相対回転を規制する回転規制部が形成されていることを特徴とするヘッド交換式切削工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−179685(P2012−179685A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45015(P2011−45015)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】