説明

ヘパリノイドの抗凝固作用を反転させるための、非触媒形態のヘパラナーゼ及びそのペプチドの使用

本発明は、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む不活性形態の真核生物エンドグリコシダーゼ、又はその任意の断片若しくはペプチドによるヘパリノイド抗凝固活性の阻害に関する。より詳細には、本発明は、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む不活性形態の哺乳動物ヘパラナーゼ又はそのペプチドを使用して、ヘパリノイド抗凝固活性を阻害し、凝固関連の病的臨床状態を治療するための組成物及び方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝固関連の病的臨床状態を治療するための方法及び組成物に関する。より詳細には、本発明は、ヘパリノイド抗凝固活性を阻害し、それによって凝固関連の病的臨床状態を治療するための、不活性形態の哺乳動物ヘパラナーゼ又はそのペプチドの使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
本出願の全体を通して記載されるすべての刊行物は、それらに引用されたすべての参考文献を含めて参照により本明細書に完全に組み込まれる。
【0003】
内皮の主な生理学的役割の1つは、その透過障壁特性によって血管構造の完全性を保持すること、及び非血栓形成性の面を提供することである。したがって、内皮細胞の表面は、凝固応答の感作調節部位として働く。通常の状況下では、血管の内面を覆う血管内皮細胞の損傷が、一般に「凝固カスケード」と呼ばれる一連の事象を通して止血応答を誘発する。カスケードは、結果的に可溶性フィブリノゲンから不溶性フィブリンへの変換をもたらし、これが血小板と一緒になって局在化した血餅又は血栓を形成し、血液成分の溢血を防止する。次いで創傷治癒が生じた後、血餅は溶解し、血管の完全性が回復し、流動する。
【0004】
損傷と血餅形成との間に生ずる事象は、慎重に調節され連関された一連の反応であり、血液中を循環するいくつかの不活性プロ酵素形態の血漿凝固タンパク質、及び補助因子が関与する。活性酵素複合体が損傷部位に集められ、順次セリンプロテアーゼに活性化されるが、このとき、連続するセリンプロテアーゼのそれぞれは、後続のプロ酵素に触媒作用を及ぼしてプロテアーゼの活性化をもたらす。この酵素カスケードの結果、各ステップは、後に続くステップの作用を大きくする。簡単に言うと、血餅の形成は、トロンビンによるフィブリノゲンからフィブリンへの変換によって媒介される。トロンビンは、内皮細胞、並びに線維芽細胞、造血細胞表面で、第Xa因子、第Va因子、及びプロトロンビンを含むプロトロンビナーゼ複合体によって生成される。様々な調節メカニズムは、生理学的に調節された止血、例えば血管損傷によって必要とされる状態にまで、血餅の形成が制限されるように作用する。凝固のこの生理学的制約に関する重要な要素は、内皮表面の非血栓形成特性である。組織因子依存性メカニズムによる開始の後、初期の少量のトロンビンは、フィブリノゲンからフィブリンへの変換に十分な量のトロンビンを発生させることを目指して、固有の凝固経路の正のフィードバック増幅を誘発させる。さらに、トロンビンは、乱された内皮細胞の表面、並びに線維芽細胞及び造血細胞上で、プロトロンビナーゼ複合体(第Xa及びVa因子を含む)によってプロトロンビンから生成される[Autin L.他、Proteins 63:440〜450(2006)]。
【0005】
細胞表面の抗凝固特性は、以前から、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)に起因していた。HSPGは、細胞、細胞外マトリックス(ECM)、及び組織内で抗凝固活性を発揮することが示されている、硫酸化側鎖を含有する反復ヘキスロン酸及びD−グルコサミン二糖単位に共有O結合された、コアタンパク質からなる高分子である。細胞表面及び臨床的に投与されたHSPG分子は、第Xa因子及び天然トロンビン阻害剤抗トロンビンIII(ATIII)を含めた凝固系の成分に結合することが、以前から示されている。
【0006】
さらに、細胞表面HSPGは、FVIIIなどの凝固因子の異化を促進させることができる[Sarafanov A.G.他、J.Biol.Chem.276:11970〜11979(2001)]。組織因子経路阻害剤などのその他の凝固阻害剤も、HSPGを介して内皮細胞原形質膜の外面に結合している[Ho G.他、J.Biol.Chem.272:16838〜16844(1997)]。HSPGは、内皮下基底膜の重要成分でもあり、様々な成分、例えばラミニン、コラーゲンを架橋し、それによって血管壁の完全性に寄与している[Iozzo R.V.、Nat.Rev.Mol.Cell Biol.6:646〜656(2005)]。内皮上又は内皮下基底膜で凝固応答を開始させるには、HSPGの抗凝固活性の妨害が必要になる。特異的ヘパラン硫酸分解活性を有する、これまでに同定された唯一の哺乳動物酵素は、以下により詳細に、さらに論じられるエンド−β−D−グルクロニダーゼヘパラナーゼである。
【0007】
効率的な凝固は、損傷部位での血液損失を制限するが、静脈又は動脈における不適切な血栓形成は、障害及び死亡の一般的原因である。異常な凝固活性は、心筋梗塞、不安定狭心症、心房性細動、脳卒中、腎損傷、経皮的経腔的冠動脈再建術、播種性血管内凝固、敗血症、肺塞栓症、及び深部静脈血栓などの病状若しくは治療をもたらす可能性があり、且つ/又はそのような病状若しくは治療から生ずる可能性がある。人工臓器、シャント、及び人工心臓弁などのプロテーゼの外来性表面での血餅の形成も、問題である。
【0008】
脳卒中は、死亡の主な原因であり、永久的な障害の一般的な原因である。脳卒中の神経障害をもたらす急性限局性脳虚血は、血栓塞栓症によって最も頻繁に引き起こされる。血栓は、心源性及びアテロームから生成される可能性がある。原位置血栓症は、大きな脳外脳供給血管内で生ずる可能性がある。研究によれば、脳動脈閉塞後の有限時間間隔、即ちその時間間隔を超えると著しい不可逆的神経損傷及び持続的神経障害が生ずるという有限時間間隔が示唆される。
【0009】
これらの病状並びにその他の血栓性及び塞栓性障害の治療で現在使用されている、認可された抗凝固剤には、硫酸化ヘテロ多糖ヘパリン及び低分子量ヘパリン(LMWH)が含まれる。これらの薬剤は、非経口的に投与され、素早く完全な凝固阻害を引き起こすことができる。
【0010】
ヘパリンは、肥満細胞によって生成され、グリコシド結合によって結合されたD−グルコサミン(N−硫酸化又はN−アセチル化)とウロン酸(L−イズロン酸又はD−グルクロン酸)が交互に並ぶ誘導体のポリマーからなる直鎖状多糖である[Casu B.及びLindahl U.、Adv.Carbohydr.Chem.Biochem.57:159〜206(2001);Robinson HC.他、J.Biol.Chem.253:6687〜93(1978)]。ヘパリンは、ヘパリン硫酸(HS)に構造的に関係しているが、より高いN−及びO−硫酸含量を有している[Casu B.及びLindahl U.(2002)、前掲]。ヘパリンの主な抗凝固作用は、ATとその標的プロテアーゼ:トロンビン(第IIa因子)及び第Xa因子(FXa)との間の阻害反応に、触媒作用を及ぼすその能力に起因しており[Bourin MC.及びLindahl U.、Biochem.289:313〜30(1993)]、一方、低分子量ヘパリン(LMWH)の主な作用は、FXa活性のAT媒介性阻害による[Hemker H.C.及びBeguin S.、Haemostasis 20:81〜92(1990)]。上述のように、ヘパリン及びLMWHは、一般に、様々な疾患における抗凝固剤として使用される。それらのレベルは、定期的に、患者から採取した血液サンプルから推定されるパラメータによって、間接的にモニタされる。これらのパラメータには、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTP)、トロンビン時間、及び(LMWHをモニタするための)抗Xa活性が含まれる。これらの試験は、凝固カスケードにおける種々の因子の凝固プロファイルと、ATの活性化によるヘパリン及びLMWHの阻害作用について評価するものである。
【0011】
しかし、その効力により、ヘパリン及びLMWHは欠点を有する。単純な運動ストレスと、これに付随する物理的対象物との接触又は手術部位での接触の結果生じた、制御されない出血は、主な合併症であり、連続輸液を受けた患者の1から7%で、また断続的な大量瞬時投与がなされた患者の8から14%で観察される。この危険性を最小限に抑えるために、サンプルを連続的に抜き取って、生体外凝固時間を連続的にモニタできるようにするが、これは治療コスト及び患者の不快感を実質的に助長するものである。さらに、ヘパリンで治療した患者の約5%(30%までの範囲)は、出血(血小板の数が減少した結果)、又は血管内血小板凝集による動脈及び静脈血栓症によって合併する、免疫媒介性血小板減少症(HIT)を発症する。この合併症は、HITに罹っている患者の20%程度で生じ、症例の約50%に重篤な病的状態及び死をもたらす可能性がある。したがって現在、種々のヘパリノイドの抗凝固作用を、迅速に且つ効率的に反転させるための物質及び方法を提供することが、強く求められている。より詳細には、緊急に臨床上必要な場合、これらの臨床上非常に豊富な抗凝固剤を阻害する対抗手段が求められている。そのような必要性は、LMWHの過剰服用によって引き起こされた長時間の出血(例えば、脳)中に、又はその他の医学的原因による、LMWHで治療した個体での制御されていない出血中に、生ずる可能性がある。
【0012】
上述のように、HS鎖を部分的に解重合することができ、且つ一般にヘパラナーゼと呼ばれる哺乳動物エンドグリコシダーゼは、様々な細胞型及び組織、主に癌細胞、免疫系の活性化細胞、血小板、及び胎盤で同定されている[Parish CR他、Biochim.Biophys.Acta.1471:0M99〜108(2001);Vlodavsky I.及びFriedmann Y.J.、Clin.Invest.108:341〜7(2001);Nakajima M.他、J.Cell Biochem.36:157〜67(1988);Dempsey LA.他、Trends Biochem.25:349〜51(2000)]。興味深いことに、活性酵素をコードする単一のヘパラナーゼcDNA配列だけが同定されたが、これは、この酵素が、哺乳動物組織における主要なエンド−β−D−グルクロニダーゼであることを示している[Vlodavsky I.他、Nat.Med.5:793〜802(1999);Hulett MD他、Nat.Med.5:803〜9(1999);Kussie PH.他、Biochem.Biophys.Res.Commun.261:183〜7(1999);Toyoshima M.及びNakajima M.、J.Biol.Chem.274:24153〜60(1999)]。内皮下基底膜の分解、新血管形成の刺激、細胞接着の促進、及び遺伝子発現の調節を含めた様々な生物活性が生じるが[Vlodavsky I.他、Semin.Cancer Biol.12:121〜129(2002);Vlodavsky I.他、Pathophysiol.Haemost.Thromb.35:116〜127(2006)]、凝固応答の調節におけるヘパラナーゼの考えられる役割については、詳細に研究されていない。ヘパラナーゼは、潜在的65kDa前駆体として合成され、その活性化では、分子のN末端領域に位置付けられた2つの潜在的部位で(Glu109−Ser110及びGln157−lys158)、タンパク質分解性の切断が行われ、その結果、2つのタンパク質サブユニット、8及び50kDaポリペプチドが形成され、これらが、ヘテロダイマー化し活性ヘパラナーゼ酵を形成する[McKenzie E.他、Biochemical J.373:423〜35(2003);Levy−Adam F.他、Biochem.Biophy.Res.Commun.308:885〜91(2003)]。ヘパラナーゼの基本的な生理学的供給源の1つは、血小板である[Hulett M.D.他、Nat.Med.5:803〜809(1999);Freeman C.及びParish C.R.、Biochem.J.330:1341〜1350(1998)]。50及び8kDaヘパラナーゼポリペプチドを、血小板から生化学的に精製したが、これはやはり、かなりの量の65kDaプロ酵素を含有する[Hulett(1999)、前掲;Freeman(1998)、前掲]。さらに、ヘパラナーゼ遺伝子を、前もってヒト血小板からクローニングした[Hulett(1999)、前掲]。活性化血小板又は血小板由来の微粒子によって放出されたヘパラナーゼは、生物学的に活性であり、血管新生を刺激し、内皮細胞活性を変調させる[Brill A.他、Cardiovasc.Res.63:226〜235(2004);Myler H.A.及びWest J.L.、J.Biochem.131:913〜922(2002)]。
【0013】
高分子ヘパリンの処理は、ほとんどがヘパラナーゼ活性によって、培養肥満細胞にて実証された[Jacobsson K.G.及びLindahl U.、Biochm.J.246:409〜15(1987);Gong F.他、J.Biol.Chem.278:35152〜8(2003)]。得られた分解生成物は、商用のヘパリンのサイズに相当する[Gong(2003)、前掲]。
【0014】
血小板ヘパラナーゼに関する初期の研究は、ヘパリンの抗トロンビン(AT)結合配列を含有するオリゴ糖でグルクロニド結合を切断する可能性があること、及びその切断生成物の、ATに対する親和性が不十分であることを示した[Ogren S.及びLindahl U.、J.Biol.Chem.250:2690〜7(1975)]。肥満細胞腫ヘパラナーゼは、ヘパリンの細胞内生合成後修飾に関与していた[Gong(2003)、前掲]。肥満細胞における高分子ヘパリンのヘパラナーゼ切断によって、AT結合配列を含有する生成物が生成されたので、肥満細胞ヘパラナーゼは、血小板ヘパラナーゼとは異なると仮定される[Ogren(1975)、前掲;Thunberg,L.他、J.Biol.Chem.257:10278〜82(1982)]。しかし、この仮定については、同じヘパラナーゼが血小板及び肥満細胞からクローニングされた場合について論じられた[Gong(2003)、前掲]。高分子ヘパリンのAT結合領域は、ヘパラナーゼによる分解から逃れることが示されたが、ATに対して高い親和性を有するオリゴ糖の切断は、実に非効率的であることが示された[Gong(2003)、前掲;Pikas DS.他、J.Biol.Chem.273:18770〜7(1998)]。ヘパラナーゼの基質特異性を定める試みでは、硫酸化の重要性が指摘されたが、別の点では、1つになった結論を提供することはできなかった[Pikas(1998)、前掲;Okada Y.他、J.Biol.Chem.277:42488〜95(2002)]。初期[Jacobsson及びLindahl(1987)、前掲]及び最近[Pikas(1998)、前掲;Okada(2002)、前掲]の両方の研究では、ヘパラナーゼの標的としてβ−D−グルクロン結合が明らかに指摘された。
【0015】
本発明のいくつかによって行われた最近の研究は、ヘパラナーゼの酵素活性が、ヘパリノイドの抗凝固活性を部分的に阻害し得ることを実証した[Nasser N.J.他、J.Thromb.Haemost.4:560〜565(2006)]。より詳細には、この研究は、ヘパラナーゼがヘパリン及びLMWHを分解することが可能であり、それによって、ヒト血漿を添加した場合にAPTT及び抗Xa活性に対する作用がそれぞれ低下したことにより示されるように、ヘパリン及びLMWHの抗凝固活性を抑制することが可能であることを示す。
【0016】
したがって本発明者等は、ヘパラナーゼの酵素活性が、ヘパリンの抗凝固作用を阻害する一因であると仮定した。しかし、そのようなメカニズムは、ヘパラナーゼ酵素活性に最適な酸性条件下(pH<6.0)での、ヘパリノイドとの活性酵素の比較的長いインキュベーション時間(例えば、数時間)に依存する[Nasser(2006)、前掲]。これとは対照的に、凝血促進生理活性は、通常の生理学的条件下(例えば、中性pH)で数分以内に生ずるべきであり、したがって、その酵素活性とは無関係に、その他の形態のヘパラナーゼ作用を伴うことができる。したがって、特に生理学的条件下でヘパリノイドの抗凝固活性を反転させるため、素早く作用する対抗手段が求められている。このように本発明者等は最近、これらの知見を、定められた条件下で酵素によって引き起こされる血漿APTT又は抗Xa活性の低下を測定することによってヘパラナーゼ活性を定量化する、間接的手法として適用することを提案している[Nasser(2006)、前掲]。
【0017】
それにもかかわらず、本発明者等が凝固調節におけるヘパラナーゼの役割をさらに調べたときに、本発明者等は、驚くべきことに且つ予期せぬことに、本発明によって示されるように、酵素的ではないメカニズムを介して且つ最も重要なことは特に生理学的条件下で、不活性形態のヘパラナーゼ、ヘパラナーゼプロ酵素が凝固応答のヘパリノイド媒介性調節に対して完全な阻害作用を発揮することを見出した。本発明者等は、ヘパラナーゼプロ酵素が、凝固タンパク質活性に直接影響を及ぼさず、タンパク質(並びにその特異的ペプチド)が、見掛け上ヘパラナーゼ酵素活性を含まないメカニズムを介して、凝固プロテアーゼのヘパリノイド媒介性調節に十分な影響を及ぼすことを示す。
【0018】
より具体的には、ヘパラナーゼプロ酵素は、固有の凝固経路における未分画ヘパリンの抗凝固活性並びにトロンビン活性を反転させる。さらに、ヘパラナーゼプロ酵素は、低分子量ヘパリンの第X因子阻害活性を抑制した。不活性ヘパラナーゼの凝血促進作用は、その主な機能的ヘパリン結合配列を含むペプチドによっても発揮された。最後に、ヘパリノイドによって自動活性化された第VII因子活性化プロテアーゼの活性に対するヘパラナーゼの作用は、この系において、ヘパラナーゼの完全な拮抗作用を示した。全体として、低分子量ヘパリンによる治療を行った患者からの血漿サンプルにおいても実証された、ヘパラナーゼ凝血促進活性は、この分子の、ヘパリノイド療法での対抗手段としての可能性ある使用を指し示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって、本発明の一目的は、ヘパリン結合部位を含む不活性形態のヘパラナーゼ又はその任意の断片及びペプチドを含む、ヘパリノイド抗凝固活性を阻害するための組成物を提供することである。
【0020】
さらに別の目的では、本発明は、不活性形態のヘパラナーゼ及びそのペプチド、特に配列番号1のペプチドを使用して、凝固関連の病的臨床状態に罹っている被験体を治療するための方法を提供する。
【0021】
本発明の別の目的は、凝固関連の病的臨床状態を治療するための医薬品組成物の調製のための、不活性形態のヘパラナーゼの、特に、配列番号1によって示されるアミノ酸配列を有するペプチドの使用を提供することである。
【0022】
本発明のこれら及び他の目的は、説明が進むにつれて明らかにされよう。
【課題を解決するための手段】
【0023】
第1の態様では、本発明は、ヘパリノイド抗凝固活性を阻害するための組成物に関する。本発明の組成物は、活性成分として、真核生物エンドグリコシダーゼ、好ましくは不活性エンドグリコシダーゼ、より好ましくは、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む不活性形態のヘパラナーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチドを含む。この組成物は、任意選択で、薬学的に許容される担体、希釈賦形剤、及び/又は添加剤をさらに含んでよい。
【0024】
本発明はさらに、ヘパリノイド抗凝固活性を阻害する必要のある被験体において、その活性を阻害するための組成物に関する。そのような組成物は、活性成分として、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む真核生物エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチドを含み、前記組成物は、任意選択で、薬学的に許容される担体、希釈賦形剤、及び/又は添加剤をさらに含む。
【0025】
本発明はさらに、凝固関連の病的臨床状態を治療し予防するための組成物を提供する。そのような組成物は、活性成分として、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む真核生物エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチドを含み、前記組成物は、任意選択で、薬学的に許容される担体、希釈賦形剤、及び/又は添加剤をさらに含む。
【0026】
第2の態様では、本発明は、凝固関連の病的臨床状態に罹っている被験体を治療及び/又は予防するための方法であって、阻害有効量の、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む真核生物エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチド、或いはこれらを含む任意の組成物を、前記被験体に投与するステップを含む方法に関する。
【0027】
本発明はさらに、ヘパリノイド抗凝固活性を阻害するための方法を提供する。この方法は、(a)阻害有効量の、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む真核生物エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチド、或いはこれらを含む任意の組成物を、混合物を生成する適切な条件下で前記ヘパリノイドと接触させるステップと、(b)ステップ(a)で得られた混合物に、哺乳動物の体液サンプル、好ましくは血漿を、適切な期間にわたって適切な条件下で添加するステップと、(c)前記サンプルに対して、適切な手段により、適切な対照と比較した前記ヘパリノイドの抗凝固活性を試験するステップとを含む。
【0028】
第3の態様によれば、本発明は、好ましくはヘパリノイド抗凝固活性を阻害する必要のある被験体において、その活性を阻害するための組成物の調製における、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む真核生物エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチドの使用に関する。
【0029】
さらになお、本発明は、ヘパリノイド凝固活性を阻害するための組成物を調製における、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む真核生物エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチドの使用に関する。
【0030】
本発明の原理及び操作は、図面及び添付の説明を参照することによって、よりよく理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】ヘパリノイドの抗凝固活性のメカニズムを示す図である。低分子量ヘパリノイド(上部)は、抗トロンビン(AT)と結合し、その構造を変化させて、活性第Xa因子の結合及び阻害を可能にする。未分画ヘパリン(下部)は、AT及びトロンビンと三重複合体を形成し、それによって、その酵素活性を阻害する。
【図2】ヘパラナーゼプロ酵素がαPTT応答に対するヘパリン抗凝固作用を反転させることを示す図である。PTTアッセイでは、固有の凝固経路によって、正常な血漿中に血餅が生成される。血餅の形成は、ヘパリンによって著しく阻害され、1u/mlヘパリンで完全な凝固阻害状態である。抗凝固ヘパリン作用は、ヘパラナーゼプロ酵素によって著しく反転される(4つのうち1つの代表的な実験を示す)。略語:cont.(対照)、N.coag.(凝固なし)。
【図3】ヘパラナーゼプロ酵素がトロンビン活性に対するヘパリン抗凝固作用を反転させることを示す図である。トロンビン時間アッセイ(TTA)では、正常な血漿中に血餅が生成される。血餅の形成は、ヘパリンによって著しく阻害され、0.5u/mlヘパリンで完全な凝固阻害状態になる。抗凝固ヘパリン作用は、ヘパラナーゼプロ酵素によって著しく反転される(3つのうち1つの代表的な実験を示す)。略語:cont.(対照)、sec.(秒)、N.coag.(凝固なし)。
【図4】ヘパラナーゼプロ酵素がヘパリン抗Xa活性を反転させることを示す図である。ヘパリンは、活性化凝固第X(Xa)因子の活性を阻害する。ヘパラナーゼプロ酵素は、ヘパリンの抗Xa活性を反転させ、Xa活性を通常のレベルに回復させる。略語:act.(活性)、plas.(血漿)。
【図5A】ヘパラナーゼプロ酵素が臨床サンプルでLMWH抗Xa活性を反転させることを示す図である。ヘパラナーゼプロ酵素を、12名の独立したLMWH治療済み患者から得られた血漿に添加した。次いで第Xa因子活性を、5分以内に測定した。各サンプルを、μg/mlの組換えプロヘパラナーゼが存在しない状態(白抜きの棒)で又は存在する状態(黒塗りの棒)で測定した。各測定を、二重に行った(二重に行ったそれぞれの平均を示し、測定値間の差は<10%である)。第Xa因子活性の著しい上昇が明らかである(LMWH治療済み患者の基本レベルは、約140 O.D.である)。略語:act.(活性)、pat.(患者)、pla.(血漿)、cont.(対照)。
【図5B】ヘパラナーゼプロ酵素が臨床サンプルでLMWH抗Xa活性を反転させることを示す図である。ヘパリン処理済み血漿、及び12個のLMWH治療済み患者から得られた血漿サンプルの存在下での、第Xa因子活性に対するプロヘパラナーゼの作用の概要(平均±S.D.)。略語:act.(活性)、pat.(患者)、pla.(血漿)、cont.(対照)。
【図6】ヘパラナーゼのLys158〜Asp171(配列番号1によっても示される)ヘパリン結合ペプチドがヘパリンのFXa阻害作用を阻止することができることを示す図である。ヘパリンは、活性化凝固第X(Xa)因子の活性を阻害する。ヘパラナーゼのLys158〜Asp171ヘパリン結合(HB)ペプチドは、用量依存的な手法でヘパリンのFXa阻害作用を阻止し、それによって、Xa活性を通常のレベルに回復させる。対照、スクランブルペプチドは、効果がなかった。略語:act.(活性)、cont.(対照)、scr.(スクランブル)、pep.(ペプチド)。
【図7】ヘパラナーゼのLys158〜Asp171ヘパリン結合ペプチドがLMWHのFXa阻害作用を阻止することができることを示す図である。ヘパリン及びLMWHは共に、活性化凝固第X(Xa)因子の活性を阻害する。ヘパラナーゼのLys158〜Asp171ヘパリン結合(HB)ペプチドは、ヘパリン及びLMWHのFXa阻害作用を阻止し、それによって、Xa活性を通常のレベルに回復させた。対照、スクランブルペプチドは、効果がなかった。略語:act.(活性)、cont.(対照)、scr.(スクランブル)、pep.(ペプチド)。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の少なくとも1つの実施形態について詳細に説明する前に、本発明はその適用例を、以下の説明にて記述され又は図面に例示される詳細に、限定するものではないことを理解されたい。本発明は、その他の実施形態が可能であり、又は様々な方法で実施され若しくは実行することが可能である。また、本明細書で用いられる語法及び用語は、説明を目的としたものであり、限定すると見なすべきではないことも理解されよう。
【0033】
止血及び血液凝固は特に、一連の分子活性及び阻害事象が引き起こされ、並びに種々の生物学的表面に主として寄与する、厳密に調節された生理学的プロセスである。さらに、特定の血漿タンパク質が、触媒としてのヘパリノイドと併せて凝固セリンプロテアーゼを制御することにより、血餅の形成速度を支配する。これに関する重要なレギュレーターは、それぞれ、ヘパリン又はデルマタン硫酸の存在下でトロンビン及びFXaを効率的に阻止する、AT及びヘパリン補助因子IIであり[Du H.Y.他、Thromb.Res.119:377〜384(2007);Taylor K.R.及びGallo R.L.、FASEB J.20:9〜22(2006)]、AT−ヘパリン系は、臨床上及び治療上、最も重要なものである。
【0034】
いくつかのタイプの内皮細胞は、ATを含めた塩基性タンパク質に結合することができる細胞膜接続HS分子の発現に基づいて、非トロンボゲン性表面を提供し、それによって、トロンビン及びおそらくはFXa活性を阻害する[Labarrere C.A.他、J.Heart Lung Transplant.11:342〜347(1992)]。その他の細胞型(例えば、線維芽細胞)も、抗凝固ヘパリノイドを生成する[Brabdt J.T.他、Thromb.Res.51:187〜196(1988)]。逆に言えば、HS関連の反応のバランスをとるには、それらの中和又は遮断が必要であり、そのような活性は、以前は活性化によって血小板から放出される塩基性タンパク質/ペプチドによるものであった。特に、血小板第4因子は、AT−ヘパリン複合体の抗凝固作用を著しく防止し又は阻害することが実証されている[Schoen P.他、Thromb.Haemost.66:435〜441(1991)]。発明者等の一部によって先に示されたように、血小板中に見出された別の非常に特異的なヘパリノイド結合タンパク質は、ヘパリノイドを加水分解するように働く可能性のあるヘパラナーゼであり、それによって、それらの抗凝固活性が阻止される[Nasser(2006)、前掲]。しかし、ヘパラナーゼによるヘパリノイドの分解は、非生理学的条件下(酸性pH)で長期(数時間)にわたるインキュベーションが必要であり[Nasser(2006)、前掲]、したがってこれが、ヘパラナーゼがヘパリノイド活性を打ち消すことのできる唯一の方法になるのか否か、疑問である。
【0035】
50年にもわたる臨床的な使用において、ヘパリンは、血栓塞栓症疾患の予防又は治療、並びに深部静脈血栓症(DVT)及び肺動脈塞栓症(PE)、急性冠症候群、経皮冠動脈インターベンション(PCI)、血栓塞栓症疾患、動脈塞栓症、血管及び心臓手術、及び体外循環(血液透析、血液濾過、及び心臓手術中の心肺バイパス)の治療及び予防など、数多くのその他の適用例に重要な、広く使用されてきた抗凝固剤である。残念ながらヘパリンは、制御されない出血、又はヘパリン誘発性血小板減少症(HIT)などのその他の状態など、重篤な副作用を引き起こす可能性がある。
【0036】
ヘパリンに曝された、選択された患者集団(例えば、心臓手術)において、50%までが、ヘパリン依存性抗体を発生させる可能性がある。ヘパリンに曝されたすべての患者の5%までは、HITを発症する。血栓塞栓症合併症は、診断時に血栓症がある者及びない者も含め、HITに罹っている患者の半分から3分の2で生ずることが報告されている。臨床データは、血栓性合併症患者の約20%が手足を失い、約30%が適切な代替の非ヘパリン療法を受けることなく死亡することを示している。
【0037】
本発明において、凝固機能に対するヘパラナーゼ前駆体の作用は、主に生理学的条件下で試験をした。本発明は、初めて、不活性プロ酵素形態のヘパラナーゼ並びにヘパラナーゼ由来のヘパリン結合ペプチドが、ヘパリノイド媒介性の抗凝固活性を素早く反転させ又は打ち消すことができることを示す。
【0038】
下記の実施例によって示されるように、ヘパラナーゼプロ酵素は、主要な凝固活性に作用を及ぼさない。しかしヘパラナーゼプロ酵素は、外見上酵素的ではないメカニズムを介して、凝固応答のヘパリノイド媒介性調節に十分な阻害作用を及ぼす。さらに本発明は、ヘパラナーゼ内にヘパリン結合ドメインのアミノ酸配列を含むペプチドが、ヘパリノイドの抗凝固作用を変換することをさらに示す。したがって、ヘパラナーゼプロ酵素及びそのペプチドは、ヘパリノイドの存在下で血餅の形成を促進させる、凝血促進因子として働くことができる。
【0039】
下記の観察結果は、本発明によって示されるように、止血におけるヘパラナーゼの新たに発見された非酵素的役割を裏付ける:(i)この研究で利用された酵素は、生理学的pHで安定な、その不活性プロ酵素状態にある。(ii)血小板ヘパラナーゼは、最大活性の25%がpH7.4で検出されたにもかかわらず、pH7.4ではなくpH6.0で、内皮細胞HSを分解することがわかった[Yahalom J.他、J.Clin.Invest.74:1842〜1849(1984);Ihrcke N.S.他、J.Cell Physiol.175:255〜267(1998)]。しかし、pH7.4でのヘパラナーゼの不活性化は、ヘパリン結合に影響を及ぼさなかった[Yahalom(1984)、前掲;Ihrcke(1998)、前掲]。(iii)5μg/ml未満のヘパラナーゼ濃度は、凝血促進作用を及ぼさなかった(示さず)。したがって、ヘパラナーゼの活性凝血促進濃度は、ヘパリンに対して化学量論的であり(μg/ml範囲)、ヘパラナーゼのヘパリン隔離活性を示している。(iv)ヘパラナーゼプロ酵素のヘパリン中和活性は実に素早く、最適な条件下にあるヘパリンの分解で予測されたよりも非常に速かった。(v)活性血小板由来ヘパラナーゼは、未分画ヘパリンをほぼLMWHのサイズにまで縮小させたが[Gong F.J.、Biol.Chem.278:35152〜35158(2003)]、これは、ATによるFXa阻害の補助因子として依然として非常に活性である。この考えに一致して、先の研究は、ヘパラナーゼが、AT結合配列とはまったく異なるヘパリノイド上の標的構造を切断することを示した[Gong(2003)、前掲]。(vi)本発明によって示されるように、ヘパラナーゼ由来ペプチドは、ヘパリノイドのFXa阻害補助因子活性も妨げた。明らかに、このアッセイは、ヘパラナーゼの酵素部分をまったく含まなかった。
【0040】
局所止血応答の調節におけるヘパラナーゼの寄与は、これらのプロセスの生理学的状況を考慮すべきである。ヘパラナーゼは、活性化によって血小板から放出されるので、活性酵素は、血管損傷部位の露出した内皮下基底膜上で働き、それによって、一次止血の開始とは反対のプロセスであるその分解又は破壊が促進されると考えられる。このように、いかなる理論にも拘泥するものではないが、本発明のデータ及び記述される情報に基づいて本発明者等は、止血中のヘパラナーゼの機能がその酵素活性とは無関係であり、上述の先の考慮内容に従って、血餅形成段階を安定化させるヘパリノイド隔離活性として表されることを提案する。ヘパラナーゼプロ酵素の凝血促進性に関するその他の証明は、その血漿凝固機能が例えばPTTアッセイで短縮された凝血時間をベースに評価された、ヘパラナーゼトランスジェニックマウスのデータからもたらされる。[Nasser(2006)、前掲]。
【0041】
より詳細には、本発明は、酵素的に不活性なヘパラナーゼが、未分画並びにLMWHの抗凝固作用を反転できることを実証した。さらに、LMWHで治療した患者から得られた血漿によるFXa阻害の反転は、様々な形のヘパラナーゼ(又はそれから得られたペプチド)が、LMWHで治療した患者も含めた臨床状況でヘパリノイドの対抗手段として働くことができることを示した。ヘパリノイドの低分子量種は、その高い効力及び改善された薬物動態により、臨床的使用に好ましく[Wong G.C.、JAMA 289:331〜342(2003)]、ヘパラナーゼは、LMWHの臨床的使用が制御される新しい内因性及び安全な拮抗原理をもたらすことができる。硫酸プロタミン又は血小板第4因子を含むその他のヘパリノイド相殺物質は、様々に首尾よく使用されているが、LMWH活性を反転させるには効果的でない[Massonnet−Castel S.他、Haemostasis 16:139〜146(1986)]。これらの物質は、血行動態変化及びその他の臨床的合併症を引き起こす可能性があり[Kanbak M.他、Anaesth.Intensive Care 24:559〜563(1996);Kimmel S.E.他、Anesth Analg 94:1402〜1408(2002)]、又は、ヘパリン誘導性血小板減少症の発症機序における血小板第4因子の関与に起因した、臨床上の問題がある[Rauova L.他、Blood 107:2346〜2353(2006)]。高活性細菌ヘパラナーゼI酵素は、そのヘパリン中和能力に関して患者において先に試験がなされたが、その安全性プロファイルが劣っているために、プロタミンとは均等でないことが示されたことに、さらに留意すべきである[Stafford−Smith M.他、Anesthesiology 103:229〜240(2005)]。
【0042】
より具体的には、本発明により発見されたヘパラナーゼプロ酵素の凝血促進作用は、適正な対抗手段が存在しない状態で抗凝固剤の臨床作用を反転させるのに利用することができ、又は出血性合併症及びヘパリノイドの抗凝固活性に関連したその他の状態を妨げるのを助けることができる。
【0043】
したがって、第1の態様では、本発明は、ヘパリノイド抗凝固活性を阻害するための組成物に関する。本発明の組成物は、活性成分として、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む真核生物エンドグリオシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチドを含む。この組成物は、任意選択で、薬学的に許容される担体、希釈賦形剤、及び/又は添加剤をさらに含んでよい。
【0044】
一実施形態によれば、本発明は、ヘパリノイド抗凝固活性を阻害する必要のある被験体において、その活性を阻害するための組成物に関する。本発明の組成物は、活性成分として、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む真核生物エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチドを含む。この組成物は、任意選択で、薬学的に許容される担体、希釈賦形剤、及び/又は添加剤をさらに含んでよい。
【0045】
特に好ましい実施形態では、本発明は、凝固関連の病的臨床状態を治療し予防するための医薬品組成物を提供する。そのような組成物は、特に、活性成分として、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む真核生物エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチドを含み、前記組成物は、任意選択で、薬学的に許容される担体、希釈賦形剤、及び/又は添加剤をさらに含む。
【0046】
上述のように、本発明の組成物は、ヘパリノイド抗凝固活性を阻害することを目的とする。本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される、「阻害する」という用語及びその派生語は、活性の自由な発現を抑制し又は制限することを指す。本発明の好ましい実施形態によれば、ヘパリノイド抗凝固活性の少なくとも約20〜90%、好ましくは少なくとも約40〜90%、より好ましくは少なくとも約80〜90%が、不活性ヘパラナーゼ又は本発明により使用されるペプチドによって消失する。
【0047】
1つの好ましい実施形態によれば、本発明の組成物中に活性成分として含まれる真核生物エンドグリコシダーゼは、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む不活性エンドグリコシダーゼ、又はその突然変異体、断片、若しくはペプチドでよい。
【0048】
より具体的には、不活性エンドグリコシダーゼは、好ましくは哺乳動物ヘパラナーゼプロ酵素の65Kd潜在形態でよい。或いは、不活性エンドグリコシダーゼは、ヘパラナーゼエンドグリコシダーゼ触媒活性を欠く、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む突然変異したヘパラナーゼ分子、又はその任意の変異体、断片、若しくはペプチドでよい。
【0049】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される、「ヘパラナーゼ触媒活性」又はそれと均等な「ヘパラナーゼ活性」という文言は、β−脱離によってヘパリン又はヘパラン硫酸を分解する細菌酵素(ヘパリナーゼI、II、及びIII)の活性とは対照的に、ヘパリン又は硫酸ヘパランプロテオグリカン基質に特異的な動物エンドグリコシダーゼ加水分解活性を指す。
【0050】
「機能的断片」とは、分子の「断片」、「変異体」、「類似体」、又は「誘導体」を意味する。本発明により使用される、65kDa不活性ヘパラナーゼ又はその任意の突然変異体の、アミノ酸配列のいずれかのような分子の「断片」は、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む、分子の任意のアミノ酸サブセットを指すものとする。そのような分子の「変異体」は、分子全体又はその断片に実質的に類似する、天然に存在する分子を指すものとする。分子の「類似体」は、同じ種又は異なる種からの同種の分子である。「機能的」とは、例えばヘパリノイドの抗凝固活性の反転が必要とされる、同じ生物学的機能を有することを意味する。
【0051】
別の好ましい実施形態によれば、エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチド内に含まれるヘパリン結合ドメインは、哺乳動物ヘパラナーゼの残基Lys158〜Asp171、Gln270〜Lys280、及びLys411〜Arg432のいずれか1つのアミノ酸配列を含んでよい。特定の実施形態によれば、哺乳動物ヘパラナーゼは、好ましくはヒトヘパラナーゼでよいことに留意すべきである。したがって、好ましいヘパリン結合ドメインは、ヒトヘパラナーゼの3つの領域に位置付けられる。1つの領域は、アミノ酸残基Lys158からAsp171を含み(配列番号1とも表示される)、第2の領域は、アミノ酸残基Lys262からLys280を含み(配列番号2とも表示される)、第3の領域は、アミノ酸残基Lys411からArg432を含み(配列番号3とも表示される)、又は、その任意の機能的に均等な断片、誘導体、及び変異体を含む。誘導体の例は、配列番号4によって表示される、追加のシステイン内のLys158からAsp171である。
【0052】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるように、すべてのアミノ酸部位(Lys158からAsp171、Lys262からLys280、及びLys411からArg432)は、GenBankアクセッション番号AF144325によって示される、ヒトヘパラナーゼのアミノ酸配列の位置を指すことを理解すべきである。
【0053】
したがって1つの特定の実施形態において、本発明は、活性剤として、本発明で定義された少なくとも1種のペプチドを含む組成物を提供する。このように前記組成物は、活性剤として、ヘパラナーゼ内にヘパリン結合部位のアミノ酸配列を含むペプチド、特にLys158からAsp171、Lys262からLys280、Lys411からArg432のいずれか1種を含むペプチド、及びその任意の機能的に均等な断片又は誘導体を含むべきである。
【0054】
別の特に好ましい実施形態によれば、本発明の組成物中に含まれる好ましい活性成分は、ヒトヘパラナーゼの残基Lys158〜Asp171、残基Gln270〜Lys280、及び残基Lys411〜Arg432のいずれか1種のアミノ酸配列を含む(それぞれ、配列番号1、2、3、及び4によっても示される)、好ましくは約1から40アミノ酸長、より好ましくは約5から20アミノ酸、最も好ましくは約10から20アミノ酸残基長のペプチドでよい。好ましくはペプチドは、配列番号1、2、3、4、又はその任意の類似体及び誘導体のいずれか1種によって示されるアミノ酸配列を含む。より好ましくはペプチドは、配列番号1によって示されるアミノ酸配列、又は配列番号4のペプチドなどのその任意の断片、類似体、及び誘導体を含む。
【0055】
本明細書で使用される類似体及び誘導体という用語は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、及び配列番号4のいずれか1つのアミノ酸配列の、1から40アミノ酸残基、より好ましくは約5から20アミノ酸、最も好ましくは約10から20アミノ酸残基を含むペプチドであって、前記ペプチドがヘパリノイド抗凝固活性を阻害する能力を妨げることのない任意の挿入、欠失、置換、及び修飾がなされたペプチドを意味する(以下、「誘導体」と呼ぶ)。誘導体は、前記アミノ酸配列に対して最小限の相同性を維持すべきであり、例えば20から90%の間、好ましくは40から75%の間、より好ましくは30%未満でもある相同性を維持すべきである。本明細書で使用される「挿入」という用語は、1から50アミノ酸残基の間、好ましくは20から1アミノ酸残基の間、最も好ましくは1から10アミノ酸残基の間での、本発明のペプチドに対するアミノ酸残基の任意の付加を意味すると理解すべきである。
【0056】
さらに、本発明によって使用されるペプチドは、様々な同一の又は異なるアミノ酸残基を用い、そのN末端及び/又はC末端で伸長することができる。そのような伸長の例として、ペプチドを、そのN末端及び/又はC末端で、天然に存在する又は合成の1つ又は複数のアミノ酸でよい同一の又は異なる1つ又は複数の疎水性アミノ酸残基によって伸長することができる。合成アミノ酸残基の一例は、D−アラニンである。
【0057】
そのような伸長に関する追加の及び好ましい例は、そのN末端及び/又はC末端の両方で、システイン残基により伸長させたペプチドによって提供することができる。当然ながら、そのような伸長は、ジスルフィド結合の形成から生じたCys−Cys環化が原因で、制約のある構造をもたらす可能性がある。
【0058】
別の例は、N末端リシルパルミトイルテールの組込みでよく、このリシンはリンカーとして働き、パルミチン酸は疎水性アンカーとして働く。
【0059】
さらに、本発明の組成物の活性成分として使用されるペプチドは、天然に存在する又は合成の1つ又は複数のアミノ酸残基でよい、1つ又は複数の芳香族アミノ酸残基によって、伸長することができる。好ましい芳香族アミノ酸残基は、トリプトファンでよい。或いはペプチドは、そのN末端及び/又はC末端で、天然に存在するヘパラナーゼのアミノ酸配列の対応位置に存在するアミノ酸により、伸長することができる。
【0060】
それにもかかわらず、本発明によれば、本発明のペプチドは、そのN末端及び/又はC末端で、天然に存在する又は合成のアミノ酸ではない様々な同一の又は異なる有機部分により伸長することができる。そのような伸長の例として、ペプチドを、そのN末端及び/又はC末端で、N−アセチル基により伸長することができる。
【0061】
直鎖ペプチドの構造の欠如によって、可能性ある構造のごくわずかしか活性でないので、ヒト血清中のプロテアーゼの影響を受けやすくなり、標的部位に対するその親和性が低下するように作用する。したがって、例えば本発明の様々なペプチドの種々の誘導体を生成することによって、ペプチド構造を最適化することが望ましい。
【0062】
ペプチド構造を改善するために、本発明のペプチドは、以下により詳細に記述されるように、そのN末端を通してラウリル−システイン(LC)残基に、且つ/又はそのC末端を通してシステイン(C)残基に結合することができ、或いは、ペプチドを免疫化用の1種又は複数のアジュバントに結合させるのに適切な、その他の1種又は複数の残基に結合することができる。
【0063】
本発明によって使用されるペプチド、並びにその誘導体は、すべてが正に帯電し、負に帯電し、又は中性であってもよく、ダイマー、マルチマーの形、又は制約を受けた構造であってもよいことに留意すべきである。制約を受けた構造は、内部架橋、短距離環化、伸長、又はその他の化学修飾によって実現することができる。
【0064】
本発明によって使用され且つ本明細書に開示された、1つ1つのペプチド配列ごとに、本発明は、ペプチド鎖の方向が反転され且つすべてのアミノ酸がD系列に属している、対応するレトロインベルソ配列を含む。
【0065】
本発明は、塩基性Lys158からAsp171アミノ酸残基(配列番号1によって示される)の一部又はすべてがアミノ酸配列に含まれている、より長いペプチドを含むことも理解されよう。より長いペプチドは、塩基性ペプチド配列(本発明によって使用される、1から40アミノ酸長、より好ましくは約5から20アミノ酸、より好ましくは約10から20アミノ酸残基長ペプチドの)が、約2から約100回反復される縦列反復によって得てもよい。
【0066】
興味深いことに、最近になって本発明者により(WO2005/071070)、これらのペプチドが、特に配列番号1の14アミノ酸ペプチドが、高い親和性を示し且つ固定化されたヘパリン及びHSと物理的に相互作用することが示されたことに留意すべきである。さらにこれらのペプチドは、ヘパラナーゼ触媒活性を妨げることによって、ヘパラナーゼ酵素活性を著しく阻害することができ、したがって癌、炎症性障害、自己免疫疾患、又は腎障害などの、ヘパラナーゼ触媒活性によって引き起こされ又は関連する疾患及び障害を治療するための、ヘパラナーゼ阻害剤としても使用される。この作用は、大部分が、ヘパラナーゼとヘパリン/HB基質との間の相互作用の阻害による。本発明者等によって最近行われたNMR研究は、Lys158、Lys159、及びLys161が、ヘパラナーゼ−ヘパリン/HS相互作用の重要な媒介物であることを明らかに確認した。したがって、これらの残基は、不活性ヘパラナーゼ又はそのペプチドによるヘパリノイド抗凝固活性の阻害に、特に関係する可能性があることを理解すべきである。
【0067】
さらに別の実施形態では、本発明の組成物は、ヘパリン、低分子量ヘパリン(LMWH)、未分画ヘパリン(UFH)、又はその任意の機能性断片及び誘導体などの、ヘパリノイドの抗凝固活性の阻害を目的とする。
【0068】
本発明はさらに、ヘパリノイド又は「ヘパリン様分子」の阻害を包含することに留意すべきである。本明細書で使用されるヘパリン様分子という用語は、前記分子が、ヘパリンを必要としている患者に対する可能性ある代替療法と見なされるように、ヘパリンの場合と十分に類似した抗凝固活性及び化学構造を保有する分子を指す。ヘパリン様分子には、限定するものではないが、低分子量ヘパリン、及びヘパリン類似体などが含まれる。低分子量ヘパリンという用語には、8000ダルトン未満の分子量を有するヘパリン分子が含まれる。ヘパリン類似体という用語には、ヘプラミン及びその塩や、コンドロインチン及びその塩などの、ヘパリノイドが含まれる。本明細書で使用されるヘパリンという用語は、標準的な市販のヘパリン及びその誘導体を指す。標準的なヘパリンという用語は、約8000から約30000ダルトンの間の平均分子量を有する未分画ヘパリン分子の混合物、又はその細分画の混合物を包含する。さらに、本明細書で使用されるヘパリンという用語は、哺乳動物源から単離され、化学的に修飾され、又は新たに部分的に若しくは完全に合成された、生物学的に活性なヘパリン分子を包含することが考えられる。ヘパリン誘導体という用語は、ヘパリンの塩、及びヘパリン断片などを包含する。
【0069】
ヘパリン投与は、急性静脈血栓症、(特に整形外科の)術後及び動けない患者の血栓予防、及び開存性を維持するための静脈内ラインのフラッシングに適応される、標準的な血栓症療法である。しかし、それらの効力により、ヘパリン及びLMWHは欠点を被る。単純な運動ストレスと、これに付随する物理的対象物との接触又は手術部位での接触の結果生じた、制御されない出血は、主な合併症である。さらに、ヘパリンで治療した患者の約5%(30%までの範囲)、及び未分画ヘパリン(UFH)を受けた患者の約2%は、出血(血小板の数が減少する結果)又は血管内血小板凝集が原因の動脈及び静脈血栓症によって合併し得る、免疫媒介性血小板減少症(HIT)を発症する。この合併症は、HITに関しては患者の20%程度で生じ、症例の約50%に深刻な罹患率及び死亡をもたらす可能性がある。HITの場合のヘパリンによる治療の結果、止血性合併症の深刻な悪化が生じ、したがってこの場合のヘパリン療法は、中断すべきである。その一方で、ヘパリンの中断は、即効性があり且つ効果的な抗血栓能力のある代替療法を現在のところ利用できないので、抗血栓療法が必要な患者を血栓症の過剰な危険に曝す可能性がある。さらに、低分子量ヘパリン又はヘパリノイドなどの代替療法は、HITのさらなる悪化をもたらす抗ヘパリン抗体との潜在的な交差反応により、適応させることができない。ヘパリン誘発性血小板減少症(HIT)は、動脈又は静脈のどちらにおいても、奇異性血栓症症候群(HITTS)により症例の30〜75%で合併する可能性がある。HITTSは、直接関連ある死亡率及び罹患率を有し、その中には脳及び/又は心筋梗塞と手足の切断がある。なぜ一部の患者が孤立性血小板減少症(HIT)に罹り、一方でその他の患者がHITTSに罹るのかは、これまでのところ明らかではない。
【0070】
したがって、ヘパリン誘導性血小板減少症(HIT)は、生命を脅かす免疫障害である。HITの診断は、患者が最近のヘパリン療法に関連した説明できない血小板減少症及び/又は血栓塞栓性合併症を発症したときに、考えられる。血小板減少症及び血栓症は、典型的には、未処置の個体において治療が開始されてから5〜10日後に生ずるが、合併症は、先に薬物に曝された者においてはより早く発症する。血小板数は、典型的には、診察時に20000/μLから100000/μLの間に及ぶ。しかし診断は、別の明らかに特定された原因がない状態で血小板数が30〜50%低下した、任意の曝露個体において考えるべきである。薬物誘発性又は免疫媒介性血小板減少症のその他ほとんどの原因とは異なり、出血は、HITにおいて一般に見られない。むしろ、HITに罹っている患者の30〜50%は、血栓症を逆説的に発症し、即ちヘパリン誘発性血小板減少症及び血栓症(HITT)と呼ばれる合併症である。HITTに罹っている患者は、静脈又は動脈血栓を発症させる可能性がある。静脈血栓塞栓性合併症は、動脈血栓症よりも一般的に生ずる。そのHITの兆候のみにより孤立性HITとも呼ばれる血小板減少症に罹っている患者は、しばしば、認識されていない静脈血栓を有する。動脈血栓は、カテーテル留置又は手術によって傷付けられた血管において一般的であるが、脳卒中、心筋梗塞、及び末梢壊疽はすべて報告されている。
【0071】
通常は患者が5日間以上ヘパリンに曝された後に発症するHITは、先にヘパリンに曝されている場合により早く発症する可能性がある。ヘパリンは、血小板第4因子(PF4)に結合し、血小板の表面及び内皮細胞表面で反応性の高い抗原複合体を形成し、それによって、ヘパリン依存性抗体の標的数が増加する。次いで影響を受けやすい患者は、ヘパリン−PF4抗原複合体に対する抗体(IgG)を発症する。一旦生成されると、通常はIgGである免疫グロブリンは、血小板表面でヘパリン−PF4免疫複合体に結合する。次いでIgGのFc部分が、血小板Fc受容体に結合することによって血小板を活性化する。血小板減少症は、細網内皮系が活性化血小板、血小板微小凝集塊、及びIgG被覆血小板を消費したときに発症する。しかし、最も壊滅的なのは、血小板活性化及び凝血促進微粒子の生成の結果発症する血栓状態と、トロンビン生成のさらなる増大である。
【0072】
したがってHITは、臨床業務で広く使用されている薬物の重篤な副作用である。任意の経路又は任意の用量で投与された、ヘパリンに曝されたすべての患者は、HIT及びその潜在的に壊滅的な血栓性合併症を発症するという様々な危険性に曝されている。これには、ヘパリンフラッシュ及びヘパリン被覆カテーテルでの微量も含めた、完全治療用量及び低予防用量でUFHを受けた患者が含まれる。LMWHを受けた患者もHITの危険性があるが、それはより低い程度のものである。毎年、米国でUFH又はLMWHを受ける1200万人の患者の場合、HITの臨床上の意義は、容易に明らかになる。
【0073】
明らかにヘパリノイドの低分子量種は、その有効性が高く且つ薬物動態が改善されているので、臨床的使用に好ましい[Bussey H他、24(8 Pt 2):103S〜107S(2004)]。しかし、LMWHの臨床的使用で避けられない課題の1つは、適切な対抗手段が存在しないことである。さらに、UFHに対する現行の対抗手段として利用される硫酸プロタミンは、LMWH活性を効果的に反転させることができず、血行動態変化及びその他の深刻な副作用を引き起こす可能性がある[Chawla LS他、Obes.Surg.May;14(5):695〜8(2004);Mixon TA、Semin Thromb Hemost.30(3):369〜77(2004)]。新しい直接トロンビン阻害剤も、特定の対抗手段を有していない[Warkentin TE,Can.J.Anaesth.49(6):S11〜25(2002)]。
【0074】
したがって、別の好ましい実施形態では、本発明の組成物は特に、ヘパリノイド抗凝固活性の阻害の必要がある被験体、特に凝固関連の病的臨床状態に罹っている哺乳動物被験体におけるその活性の阻害を目的とする。さらに具体的には、そのような臨床状態は、ヘパリノイドの抗凝固作用に関連し又はそれによって引き起こされた状態、例えば、制御されない出血又は免疫媒介性血小板減少症(HIT)でよい。
【0075】
ヘパリノイドの抗凝固活性の阻害は、外科的介入の必要がある患者においても望まれる可能性があることに(術前又は術後処置)、さらに留意すべきである。特に、定期的な治療としてヘパリノイドを受ける患者である。
【0076】
本発明の組成物は、遊離形態にあり且つ治療がなされる被験体に直接投与される、活性物質を含んでよい。或いは、活性分子のサイズに応じて、投与前に担体に結合させることが望まれる可能性もある。治療製剤は、任意の従来の剤形で投与してよい。製剤は、典型的には、上記にて定義された少なくとも1種の活性成分を、1種又は複数の許容されたその担体と共に含む。
【0077】
各担体は、その他の成分と適合し且つ患者に有害ではないという意味で、医薬品として且つ生理学的に許容されるべきである。製剤には、経口、直腸、鼻、又は非経口(皮下、筋肉内、腹腔内、及び皮内を含む)投与に適したものが含まれる。製剤は、単位剤形として都合よく呈示することができ、薬学の分野で周知の任意の方法によって調製することができる。性質、利用可能性、及び供給源と、被験体において望ましい効果を発揮するのに必要な有効量を含めたそのような化合物すべての投与は、当技術分野で知られており、本明細書でさらに記述する必要はない。
【0078】
注射としての使用に適した医薬品形態は、滅菌注射液又は分散液を即時調製するための、滅菌水溶液又は分散液と滅菌粉末を含む。すべての場合において、その形は滅菌状態でなければならず、注射針から容易に出て行くことができる程度に流動性でなければならない。製造及び保存条件下では安定でなければならず、細菌や真菌などの微生物の汚染作用に対して保存されなければならない。
【0079】
滅菌注射液は、上記にて列挙された様々なその他の成分を有する、適切な溶媒に、必要量の活性化合物を組み込み、その後、必要に応じて滅菌濾過することによって調製される。一般に、分散液は、塩基性分散媒体及び上記にて列挙されたものからの必要なその他の成分を含有する滅菌ビヒクルに、様々な滅菌活性成分を組み込むことによって調製される。
【0080】
滅菌注射液を調製するための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、先に滅菌濾過されたその溶液からの、活性成分及び任意の追加の所望の成分の粉末をもたらす、真空乾燥及び凍結乾燥技法である。
【0081】
これらは、本発明によって記述されるすべての組成物に適用可能であることに、留意すべきである。
【0082】
より具体的には、前記非触媒65Kdヘパラナーゼ、その突然変異体、断片、又はペプチド、或いはこれらを含む、ヘパリノイド阻害活性を有する任意の物質又は組成物を、本発明の方法によって、全身に、例えば非経口的に、例えば静脈内、腹腔内、又は筋肉注射によって投与してよい。別の例では、医薬品組成物は、静脈内、皮下、経皮、局所、筋肉内、関節内、結膜下、又は粘膜、例えば経口、鼻内、又は眼内投与を含む、任意の適切な経路によって、部位に導入することができる。さらに本発明の組成物は、非経口、膣内、鼻内、粘膜、舌下、及び直腸投与、及びこれらの任意の組合せから選択された経路によって投与してもよい。
【0083】
治療の必要がある領域への局所投与は、例えば、手術中の局所輸液、局所施用、及び所望の部位への直接的な注射によって実現することができる。
【0084】
本発明の医薬品組成物は、当技術分野で周知のプロセスによって、例えば従来の混合、溶解、顆粒化、糖衣錠作製、研和、乳化、カプセル封入、混入、又は凍結乾燥プロセスによって、製造することができる。
【0085】
上述のように、本発明により使用される医薬品組成物は、医薬品として使用することができる製剤への活性成分の処理を促進させる、賦形剤及び助剤を含んだ1種又は複数の生理学的に許容される担体を使用して、従来の手法で配合することができる。適正な配合は、選択される投与経路に依存する。
【0086】
注射の場合、本発明の活性成分は、水溶液中に、好ましくはハンクス液、リンガー液、又は生理食塩緩衝液などの生理学的に適合性ある緩衝剤中に、配合してもよい。経粘膜的投与では、浸透する障壁に適した浸透剤が、製剤中に使用される。そのような浸透剤は、一般に当技術分野で知られている。
【0087】
局所投与用の医薬品組成物は、経皮パッチ、軟膏、ローション、クリーム、ゲル、ドロップ、坐薬、スプレー、液体、及び粉末を含んでよい。従来の医薬品担体、水性、粉末、又は油性ベース、及び増粘剤などが、必要となり又は望ましいと考えられる。
【0088】
経口投与の場合、医薬品製剤は、液体形状、例えば溶液、シロップ、又は懸濁液でよく、又は錠剤やカプセルなどの固体形状でよい。吸入による投与では、組成物は、ドロップ又はエアロゾルスプレーの形で都合よく送達される。注射による投与では、製剤は単位剤形で、例えばアンプルで、又は添加された保存剤を含む多回用量容器で呈示することができる。
【0089】
経口投与の場合、化合物は、活性化合物と、当技術分野で周知の薬学的に許容される担体とを組み合わせることによって、容易に配合することができる。そのような担体により、本発明の化合物は、患者による経口摂取を目的として、錠剤、丸薬、糖衣錠、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、及び懸濁液などとして配合することが可能になる。
【0090】
経口使用のための薬理学的製剤は、錠剤又は糖衣錠のコア部を得るために、固体賦形剤を使用して、任意選択で得られた混合物を粉砕し、望みに応じて適切な助剤を添加した後に、顆粒の混合物を加工することにより、作製することができる。適切な賦形剤は、特に、ラクトース、スクロース、マンニトール、又はソルビトールを含めた糖などの充填剤、例えばトウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、ジャガイモデンプン、ゼラジン、トラガカントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ナトリウムカルボメチルセルロースなどのセルロース製剤;及び/又はポリビニルピロリドン(PVP)などの生理学的に許容されるポリマーである。増粘剤、香料、希釈剤、乳化剤、分散助剤、又は結合剤が望ましいと考えられる。
【0091】
望む場合には、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、又はアルギン酸などの崩壊剤、或いはアルギン酸ナトリウムなどのこれらの塩を添加してもよい。
【0092】
したがって、本発明はさらに、口腔内投与することができる、少なくとも1種のヘパリン結合ドメイン剤形を含む真核生物エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチドを包含する。「口腔内投与」及び「口腔内的に投与」という用語は、口又は上咽頭(頬(例えば、頬の内層)、歯肉、口蓋、舌、扁桃腺、歯周組織、唇と、口及び咽頭の粘膜など)の内側の任意の表面を通した吸着による投与を含む。これらの用語は、例えば舌下及び頬側投与を含む。
【0093】
或いは投与組成物は、固体の形、例えば錠剤、カプセル、又は粒子など、例えば粉末やサッシェなどでよい。固体剤形は、固体形態の送達剤化合物と、少なくとも1種のヘパリン結合ドメインを含む固体形態の真核生物エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチドとを、手作業で又は物理的にブレンドすることによって調製することができる。
【0094】
鼻孔吸入による投与の場合、本発明により使用される活性成分、少なくとも1種のヘパリン結合ドメインを含んだ真核生物エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチドは、適切な噴射剤、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロ−テトラフルオロエタン、又は二酸化炭素を使用した加圧パック又はネブライザーから供給されるエアロゾルスプレーの形で、都合よく送達することができる。加圧エアロゾルの場合、投薬単位は、計量分を送達するための弁を設けることによって、決定することができる。化合物と、ラクトースやデンプンなどの適切な粉末ベースとの粉末混合物を含有する、ディスペンサーで使用される例えばゼラチンのカプセル及びカートリッジを配合することができる。
【0095】
本明細書に記述される製剤は、例えばボーラス注射又は連続輸液による非経口投与のために配合することができる。注射用の製剤は、単位剤形で、例えばアンプルで、又は任意選択で添加された保存剤を有する多回容器で呈示することができる。組成物は、油性又は水性ビヒクル中の懸濁液、溶液、又はエマルジョンでよく、懸濁剤、安定化剤、及び/又は分散剤なとの配合可能な薬剤を含有してよい。
【0096】
非経口投与用の医薬品組成物は、水溶性形態にある活性製剤の水溶液を含む。さらに、活性成分の懸濁液は、適切な油性又は水性ベースの注射懸濁液として調製することができる。適切な親油性溶媒又はビヒクルは、ゴマ油などの脂肪油、又はオレイン酸エチル、トリグリセリド、若しくはリポソームなどの合成脂肪酸エステルを含む。水性注射懸濁液は、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトール、又はデキストランなど、この懸濁液の粘度を増大させる物質を含有してよい。任意選択で、懸濁液は、適切な安定剤、又は濃度の高い溶液の調製が可能になるように活性成分の溶解度を高める薬剤を含有してもよい。
【0097】
或いは活性成分は、使用前に、適切なビヒクル、例えば滅菌した発熱物質なしの水ベースの溶液で元に戻すための、粉末形態でもよい。
【0098】
本発明の医薬品組成物は、例えば、ココアバターやその他のグリセリドなどの従来の坐薬ベースを使用して、坐薬や保持浣腸などの直腸組成物中に配合してもよい。
【0099】
したがって、本発明の医薬品組成物は、限定するものではないが、溶液、エマルジョン、及びリポソーム含有製剤を含む。これらの組成物は、予め形成された液体、自己乳化固形分、及び自己乳化半固形分を含むがこれらに限定することのない様々な成分から、生成することができる。
【0100】
本発明の文脈において使用するのに適切な医薬品組成物は、意図される目的を達成するために、活性成分が有効量で含有されている組成物を含む。より具体的には、治療上有効な量は、疾患の症状を予防し、緩和し、又は回復させるのに有効な、或いは治療がなされる被験体の生存時間を延ばすのに有効な、活性成分の量を意味する。
【0101】
治療上有効な量の決定は、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0102】
特定の疾患、状態、又は障害の治療に有効な、本発明の治療又は医薬品組成物の量は、疾患、状態、又は障害の性質に依存することになり、標準的な臨床技法によって決定することができる。さらに、最適な投薬範囲の特定を助けるために、生体外アッセイ並びに生体内実験を任意選択で用いてもよい。製剤に用いられることになる正確な用量は、投与経路、及び疾患、状態、又は障害の重症度にも依存することになり、医師の判断及び各患者の状況に応じて決定されるべきである。有効量は、生体外又は動物モデル試験系から得られた用量−応答曲線から外挿することができる。
【0103】
本明細書で使用される「有効量」は、選択された結果を実現するのに必要な量を意味する。例えば、ヘパリノイドの抗凝固活性を阻害し、それによって前記病態を治療するのに有用な、本発明の組成物の有効量である。
【0104】
特定の実施形態において、プロヘパラナーゼ酵素の好ましい有効量は、0.1μgから0.1mg/mlの間に及んでよく、好ましくは1から10μg/mlの間である。ペプチド、好ましくは配列番号1のペプチドが本発明によって使用される、別の好ましい実施形態では、ペプチドの好ましい有効量は、100から0.001mg/mlの間に及んでよく、好ましくは1から0.01mg/mlの間である。
【0105】
第2の態様では、本発明は、ヘパリノイド抗凝固活性を阻害する必要のある被験体において、その活性を阻害するための方法に関する。本発明による方法は、阻害有効量の、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む真核生物エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチド、或いはこれらを含む任意の組成物を、前記被験体に投与するステップを含む。
【0106】
本発明はさらに、凝固関連の病的臨床状態に罹っている被験体を治療及び/又は予防するための方法であって、阻害有効量の、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む真核生物エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチド、或いはこれらを含む任意の組成物を、前記被験体に投与するステップを含む方法を提供する。
【0107】
前記態様の1つの好ましい実施形態によれば、本発明の方法によって使用される真核生物エンドグリコシダーゼは、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む不活性エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチドでよい。より具体的には、そのようなヘパリン結合ドメインは、哺乳動物ヘパラナーゼの残基Lys158〜Asp171、Gln270〜Lys280、及びLys411〜Arg432のいずれか1つのアミノ酸配列を含む。
【0108】
特に好ましい実施形態によれば、本発明の方法によって使用される不活性エンドグリコシダーゼは、65Kd潜在形態の哺乳動物ヘパラナーゼプロ酵素でもよく、或いは不活性エンドグリコシダーゼは、ヘパラナーゼエンドグリコシダーゼ触媒活性を欠く突然変異したヘパラナーゼ分子でもよい。
【0109】
別の特に好ましい実施形態によれば、本発明の方法は、ヘパリノイド抗凝固活性を阻害するために、哺乳動物ヘパラナーゼの残基Lys158〜Asp171、Gln270〜Lys280、及びLys411〜Arg432のいずれか1つのアミノ酸配列を含むペプチドを使用する。
【0110】
さらに別の特に好ましい実施形態では、本発明の方法は、ヘパリノイド抗凝固活性を阻害する必要のある被験体において、その活性を阻害するために、配列番号1、2、3、4のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含むペプチド、好ましくは配列番号1のペプチド、又はその任意の類似体及び誘導体を使用する。そのような誘導体の非限定的な例は、配列番号4のペプチドである。
【0111】
別の好ましい実施形態によれば、本発明の方法によって阻害されるヘパリノイドは、ヘパリン、低分子量ヘパリン(LMWH)、未分画ヘパリン(UFH)、又はその任意の機能的断片でよい。
【0112】
別の特に好ましい実施形態によれば、本発明の方法は、凝固関連の病的臨床状態に罹っており、好ましくはヘパリノイドの抗凝固作用に関連し又はそのような作用によって引き起こされた状態に罹っている、哺乳動物被験体の治療を目的とする。より具体的には、そのような状態は、制御されない出血でもよい。本発明の方法は、免疫媒介性血小板減少症(HIT)など、ヘパリノイドの使用に関連したその他の合併症の治療に適用可能にすることができることに留意すべきである。
【0113】
特定の実施形態によれば、本発明の方法は、凝固関連の病的臨床状態の予防に役立てることもできる。これは特に、出血を避け、減少させ、又は予防するために、特にヘパリノイドで治療した被験体の外科的状態に適用可能にすることができる。したがって、この実施形態によれば、方法は、外科的介入を必要とする被験体への、治療上有効な量の、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む真核生物エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチド、或いはこれらを含む任意の組成物の術前及び/又は術後投与を含む。本発明の組成物は、局所的に、又は任意のその他の適切な投与経路で適用できることに、さらに留意すべきである。
【0114】
本発明の組成物及び方法は、任意の損傷、即ち生物の任意の損傷組織からの出血を予防し減少させるためにも適用可能であることに、さらに留意すべきである。損傷組織は、胃の内壁又は骨折などの体内組織、皮膚表面など、及び同様に脾臓などの軟質組織、又は骨などの硬質組織でよい。損傷は、病変、外傷、又は創傷でよく、或いは感染によって又は外科手術から形成されたものでよい。
【0115】
本発明の方法によって使用される医薬品組成物は、投薬単位形態に調製することができ、薬学の分野で周知のいずれかの方法によって調製してよい。さらに、医薬品組成物は、薬学的に許容される担体、賦形剤、又は安定化剤などの、薬学的に許容される添加剤、及び任意選択でその他の治療成分を、さらに含んでもよい。当然ながら、許容される担体、賦形剤、又は安定剤は、用いられる投薬量及び濃度では、レシピエントに対して無毒である。
【0116】
本発明の組成物の治療用量の大きさは、患者群(年齢、性別など)、治療がなされる状態の性質、及び投与経路に応じて当然ながら変化することになるが、これらすべては主治医によって決定されるものである。
【0117】
本発明の方法は、特に、ヒトにおけるヘパリノイドの抗凝固活性に関連した病的臨床状態の治療を目的とするが、その他の哺乳動物が含まれる。
【0118】
「治療」は、療法的治療を指す。治療を必要とするものは、任意の凝固関連の病的障害に罹っている哺乳動物被験体である。「患者」又は「必要のある被験体」とは、そのような苦痛を予防し、克服し、又は遅延させるために、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む真核生物エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチド、或いはこの化合物又はその誘導体を含む任意の医薬品組成物の投与が望まれる、任意の哺乳動物を意味する。治療を目的とした「哺乳動物」又は「哺乳動物の」は、ヒト、研究動物、家畜、及び動物園、競技用、又はペット動物、例えばイヌやウマ、ネコ、ウシなどを含めた哺乳動物として分類された、任意の動物を指す。特定の実施形態では、前記哺乳動物被験体が、ヒト被験体である。
【0119】
「予防的治療」を行うことは、保護的手法で、何かに対して、特に状態又は疾患に対して防御し又は予防する行為である。
【0120】
本発明の方法は、特にヘパリノイドによって引き起こされた、凝固関連の障害に罹っている被験体に適用されるべきである。本明細書で使用される「病的状態」という用語は、正常な機能に乱れがある状態を指す。そのような状態は、発症した人物又はそのような人物に接触した者に、不快感、機能不全、又は苦痛を引き起こす、身体又は心の任意の異常な状態である。時々この用語は、損傷、身体障害、症候群、症状、異常行動と、構造及び機能の不規則な変化を含むように広く使用されるが、その他の文脈においては、これらは、区別可能なカテゴリーと見なすことができる。「疾患」、「障害」、「状態」、及び「疾病」という用語は、本明細書では等しく使用されることに留意すべきである。
【0121】
本発明はさらに、ヘパリノイド抗凝固活性を阻害するための方法を提供する。この方法は、(a)阻害有効量の、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む真核生物エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチド、或いはこれらを含む任意の組成物を、混合物を生成する適切な条件下で前記ヘパリノイドと接触させるステップと、(b)ステップ(a)で得られた混合物に、哺乳動物の体液サンプル、好ましくは血漿を、適切な時間にわたって適切な条件下で添加するステップと、(c)前記サンプルに対して、適切な手段により、適切な対照と比較した前記ヘパリノイドの抗凝固活性を試験するステップとを含む。
【0122】
本発明によって記述されるこの方法は、必要のある治療済み被験体でヘパリノイド抗凝固活性を首尾よく阻害するために、治療の任意の時点において、治療済み患者をモニタするために、且つ/又は必要とされる真核生物エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチドの正確な量を決定するために使用してもよいことを理解すべきである。この方法によって、必要のある被験体への投与に必要とされる所望の濃度の実時間モニタが可能になることにさらに留意すべきである。
【0123】
凝固に対する作用の試験は、本発明によって行われるように、種々の十分に確立された凝固アッセイを使用して行うことができる。そのような適切なアッセイに関する一例は、血液サンプル中で血餅が形成されるのに、どの程度の時間が必要とされるのか測定される、プロトロンビン時間(PT)試験でよい。体内では、凝固プロセスにおいて、一連の連続した化学反応が行われる。最終ステップの1つは、プロトロンビンからトロンビンへの変換である。プロトロンビンは、肝臓によって生成されるいくつかの凝固因子の1つである。PT試験は、これらの因子の統合的機能と、妥当な長さの時間で血餅を生成する身体能力について評価する。
【0124】
別の好ましいアッセイは、活性化部分トロンボプラスチン時間(aPPT)でよい。この試験は、出血傾向のある患者をスクリーニングするための、及び凝血促進障害での治療効果を評価するための、及びいくつかの特定の凝固因子アッセイ手順の基礎として、有用で効果的な方法である。aPTTは、ヘパリン療法をモニタし調節するための試験として、広く使用されている。
【0125】
別の試験は、トロンビンの添加によって血漿サンプルが凝固するのに要する時間を反映する、トロンビン時間(TT)アッセイでよい。試験は、本質的には、フィブリノゲンからフィブリンへの変換の尺度であり、凝固系のこの最終段階に影響を及ぼす因子である。
【0126】
抗トロンビン(これまでは、抗トロンビンIIIとして知られていた)は、重要な天然の抗凝固剤である。その機能は、凝固プロセス中に生成された様々なセリンプロテアーゼ酵素の活性を阻害することである。これには、その名称が示唆するようなトロンビンだけではなく、FXa、FIXa、IXa、及びおそらくはFVIIaも含まれる。
【0127】
抗トロンビンは、単独で、比較的非効率的な凝固阻害剤として働く。その阻害活性は、ヘパリンによって大幅に加速される(約5000倍)。事実、ヘパリンの抗凝固活性は、ほぼ完全に抗トロンビンを介して媒介され、抗トロンビン欠損の患者は、ヘパリン抗凝固に対して比較的耐性がある。したがって、別の凝固試験としての、本発明の組成物の反転作用の試験は、患者の血漿(AT)中の抗トロンビン活性の測定でよい。これは、固定された過剰量の精製済みトロンビンが試験サンプルに添加される、抗トロンビンに関する色素産生性のアッセイでよい。ヘパリンの存在下でインキュベートした後、残留(不活性化されていない)トロンビンを、特定の色素産生性基質で測定する。正常範囲は83〜115%である。
【0128】
その他の凝固アッセイ、例えば、プロテインS及びプロテインC活性試験を使用してよいことに留意すべきである。プロテインS(PS)は、ビタミンK依存性凝固タンパク質の1種であり、不活性前駆体として肝臓内で合成される。活性形態は、ビタミンK依存性カルボキシラーゼによるグルタミン残基のカルボキシル化後に得られ、したがって分子は、カルシウムイオンに結合することが可能になる。しかし、このファミリー内のその他の凝固因子とは異なって、PSは、セリンプロテアーゼの酵素原ではない。PS活性アッセイは、活性化プロテインCの抗凝固作用を強化するPSの補助因子活性を基にする。この強化は、活性化プロテインCの生理学的基質である、第Va因子に富む系の、凝固時間の延長によって反映される。プロテインCは、ビタミンK依存性凝固因子ファミリーのメンバーである。その凝血促進類縁体、第II、VII、IX、及びX因子とは異なって、プロテインCは、凝固が開始された後にトロンビン生成を下方制御することにより、天然の抗凝固剤として働く。プロテインCは、内皮細胞表面でトロンボモジュリンに結合されたトロンビンによって、活性化される。次いで活性化プロテインC(APC)は、第Va因子及び第VIIIa因子を分解し不活性化することのできる、血小板表面で、その補助因子、プロテインSと結合する。プロテインCが存在しない状態では、トロンビン生成は、比較的チェックなしで進行し、凝固亢進状態が結果的に生ずる。
【0129】
様々な媒介物を使用する血小板凝集試験は、本発明によって使用される不活性ヘパラナーゼ及びそのペプチドの凝血促進作用を評価するのに使用してもよいことに留意すべきである。
【0130】
一実施形態によれば、本発明の方法によって使用される真核生物エンドグリコシダーゼは、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む不活性エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチドでよい。
【0131】
特に好ましい実施形態によれば、不活性エンドグリコシダーゼは、好ましくは哺乳動物ヘパラナーゼプロ酵素の65Kd潜在形態でもよく、或いは、ヘパラナーゼエンドグリコシダーゼ触媒活性を欠く突然変異したヘパラナーゼ分子でもよい。
【0132】
本発明のすべての方法及び組成物によって使用される、不活性65Kd形態のヘパラナーゼ、又はその任意の断片は、精製された組換えヘパラナーゼタンパク質、融合ヘパラナーゼタンパク質、不活性65Kd形態ヘパラナーゼをコードする核酸構築物、前記構築物を発現する宿主細胞、不活性65Kd形態のヘパラナーゼを内因性発現させる細胞、細胞系、及び組織、又はこれらの任意の溶解産物として提供できることに留意すべきである。ペプチドが本発明の方法及び組成物によって使用される場合、そのようなペプチドは、合成的に生成され、当技術分野で知られている任意の手順で精製され単離することができることも理解すべきである。或いは、そのようなペプチドは、組換えによって生成してもよい。
【0133】
別の好ましい実施形態によれば、本発明の方法は、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む不活性エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチドを使用してよい。そのようなドメインは、好ましくは、ヒトヘパラナーゼの残基Lys158〜Asp171、残基Gln270〜Lys280、及び残基Lys411〜Arg432(それぞれ、配列番号1、2、及び3によっても示される)のいずれか1つのアミノ酸配列を含む。すべてのアミノ酸部位(Lys158からAsp171、Lys262からLys280、及びLys411からArg432)は、GenBankアクセッション番号AF144325によって示されるヒトヘパラナーゼのアミノ酸配列を指すことに留意すべきである。
【0134】
1つの特に好ましい実施形態によれば、本発明の方法は、ヒトヘパラナーゼの残基Lys158〜Asp171、残基Gln270〜Lys280、及び残基Lys411〜Arg432のいずれか1つのアミノ酸配列を含むペプチドを使用してよい。好ましくは、本発明の方法は、配列番号1によって示されるアミノ酸配列、又はその任意の類似体及び誘導体を含むペプチドを使用する。一例では、配列番号4が、配列番号1の誘導体である。
【0135】
別の特に好ましい実施形態によれば、本発明の方法は、ヘパリン、低分子量ヘパリン(LMWH)、未分画ヘパリン(UFH)、又はその任意の機能的断片など、種々のヘパリノイドの抗凝固活性の阻害を目的とする。
【0136】
第3の態様によれば、本発明は、ヘパリノイド抗凝固活性を阻害するための組成物の調製における、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む真核生物エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチドの使用に関する。
【0137】
なおさらに、本発明は、ヘパリノイド抗凝固活性を阻害する必要のある被験体において、その活性を阻害するための組成物の調製における、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む真核生物エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチドの使用に関する。
【0138】
本発明はさらに、凝固関連の病的臨床状態を治療し予防するための組成物の調製における、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む真核生物エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチドの使用を提供する。
【0139】
1つの好ましい実施形態によれば、本発明によって使用される真核生物エンドグリコシダーゼは、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む不活性エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチドでよい。そのようなヘパリン結合ドメインは、哺乳動物ヘパリナーゼの残基Lys158〜Asp171、Gln270〜Lys280、及びLys411〜Arg432のいずれか1つのアミノ酸配列を含んでよい。
【0140】
より具体的には、不活性エンドグリコシダーゼは、好ましくは65Kd潜在形態の哺乳動物ヘパリナーゼプロ酵素、或いは、ヘパラナーゼエンドグリコシダーゼ触媒活性を欠く突然変異したヘパラナーゼ分子でよい。
【0141】
別の好ましい実施形態によれば、本発明は、哺乳動物ヘパラナーゼの残基Lys158〜Asp171、Gln270〜Lys280、及びLys411〜Arg432のいずれか1つのアミノ酸配列を含むペプチドを使用する。好ましくは、ヘパリノイド抗凝固活性を阻害するための、配列番号1によって示されるアミノ酸配列を含むペプチド、又はその任意の類似体及び誘導体である。好ましい実施形態によれば、ヘパリノイドは、ヘパリン、低分子量ヘパリン(LMWH)、未分画ヘパリン(UFH)、又はその任意の機能的断片である。
【0142】
別の好ましい実施形態によれば、本発明は、ヘパリノイドの抗凝固活性を阻害し、その必要のある被験体を治療するために、不活性形態のヘパラナーゼ又はそのペプチドを使用する。好ましくは、凝固関連の病的臨床状態に罹っている哺乳動物被験体である。そのような凝固関連の病的臨床状態は、ヘパリノイドの抗凝固作用に関連し又はそれによって引き起こされた障害でよい。例えば、制御されない出血又は免疫媒介性血小板減少症(HIT)である。
【0143】
本発明は、出血を防止するために、患者、特にヘパリノイドを定期的に受ける者が任意の外科的介入を受ける場合、そのような患者の予防的な術前又は術後治療としての、ヘパラナーゼプロ酵素又はそのペプチドの使用も包含することに留意すべきである。
【0144】
本発明はさらに、ヘパリノイドの抗凝固作用によって引き起こされた、凝固関連の病的状態を治療する薬物を作製するための方法を提供することを理解すべきである。したがって、本発明の方法は、(a)少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む、治療上有効な量の真核生物エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチドを提供するステップと、(b)前記不活性形態のプロヘパラナーゼと、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤、及び/又は添加剤の少なくとも1種とを混合するステップとを含む。
【0145】
これまで開示し記述してきたが、本発明は、本明細書に開示された特定の実施例、方法ステップ、及び組成物に限定するものではなく、そのような方法ステップ及び組成物を若干変更してよいことを理解されたい。また、本発明の範囲は、添付される特許請求の範囲及びその均等物によってのみ限定されることになるので、本明細書で使用された用語は、単に特定の実施形態について記述することを目的に使用され、限定を意味するものではないことを理解されたい。
【0146】
本明細書及び添付される特許請求の範囲で使用されるように、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈において他に明示されない限り、複数形も含むことに留意しなければならない。
【0147】
本明細書及び以下に続く実施例及び特許請求の範囲の全体を通して、文脈において他に必要とされない限り、「含む(comprise)」という単語、及び「含む(comprises)」や「含む(comprising)」などの変形例は、記述される整数又はステップ、或いは整数又はステップの群を包含するが、任意のその他の整数又はステップ、或いは整数又はステップの群を排除するものではないことを示唆することが理解されよう。
【0148】
下記の実施例は、本発明の態様を実施する際に、本発明者等によって用いられる技法を表す。これらの技法は、本発明を実施するための好ましい実施形態の例示であるが、当業者なら、本発明の開示に照らして、本発明の精神及び意図される範囲から逸脱することなく、数多くの変更を行うことができると認識されることを理解すべきである。
【実施例】
【0149】
実験手順
ヒト組換え不活性65Kdヘパラナーゼ
プロテインC末端にMyc及びHisタグを含有する哺乳動物pSecTagベクター(Invitrogen)でヒトヘパラナーゼ遺伝子構築物を安定に発現する、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の調整培地から、潜在65kDaヘパラナーゼタンパク質を精製した。細胞を、10%FCS、グルタミン、ピルビン酸、及び抗生物質を補充したDMEM中で成長させた。ヘパラナーゼの精製では、無血清DMEM中で細胞を一晩成長させ、調整培地(約1リットル)をFractogel EMD SO(MERCK)カラムで精製した。結合材料を1M NaClで溶出し、抗Mycタグ抗体(Santa Cruz Biotechnology)カラムで、アフィニティークロマトグラフィーによりさらに精製した。本発明者等は、この2ステップ手順によって、少なくとも純度95%のヘパラナーゼ製剤を得た。
【0150】
ペプチド
ペプチドは、商用プロトコルの後にN−(9−フルオレニル)メトキシカルボニル(Fmoc)ストラテジーを用いて、ABIMED AMS 422マルチプルペプチドシンセサイザー(Langenfeld、ドイツ)で合成した。ペプチド鎖の構築を、塩化2−クロロトリチル樹脂(Novabiochem)上で実施した。粗製ペプチドを、半分取シリカC−18カラム(250×10mm;Lichrosorb RP−18、Merck)上で、逆相高圧液体クロマトグラフィーによって均質に精製した。溶出は、水中で0.1%のトリフルオロ酢酸と、水中で70%のアセトニトリル中で0.1%のトリフルオ酢酸(v/v)との間で確立された、線形勾配によって行った。生成物の組成を、完全な酸加水分解の後、アミノ酸分析(Dionex自動アミノ酸分析器、Sunnyvale、CA)によって決定した。分子量は、質量分析(VG Tofspec;Laser Desorption Mass Spectrometry;Fison Instrument、Manchester、UK)によって確認した。
【0151】
ヘパリンUFH及びLMWH
商用のブタ腸ヘパリン(UFH)を、Kamada Ltd(Beit Kama、イスラエル)から得た。低分子量ヘパリン(Enoxaparin)は、Aventis(Strasbourg)から購入した。
【0152】
凝固アッセイ
αPTT−サンプルの活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)の自動決定を、正常なプール血漿とaPTT試薬(FSLアクチン、Dade Behring)とを混合することによって、二重に行った。正確に10分後、凝固時間をSysmex CA1500分析器で決定した。
Xα活性−抗Xa活性の光度定量を行って、LMWHキット(Chromogenics)を使用してSysmex CA1500分析器で、ヒト血漿におけるLMWHの活性を評価した。
PT−プロトロンビン時間(PT)を、Sysmex CA1500分析器でInnovin試薬(Dade Behring)を使用して決定した。
プロテインC−プロテインC活性は、BerichromプロテインCキットにより決定し、ATIIIを、色素産生性Berichrom抗トロンビンIIIキットで測定した(共に、Dade Behring製)。
血小板凝集−血小板凝集を、Payton Aggregocorder型血小板凝集計(Payton Associates)を利用して、正常なドナー血小板に関して測定した。
プロテインS−遊離プロテインSを、Liatestキット(Diagnostica Stago)で測定した。すべての凝固アッセイは、外部品質制御プログラム(NEQUAS、Sheffield、UK)下においた。
【0153】
(実施例1)
ヘパラナーゼプロ酵素は凝固機能に対して直接影響を及ぼさない
凝固プロセスにおけるヘパラナーゼの可能性ある関与について試験をするために、活性化部分トロンビン時間(aPTT、内因的凝固経路の試験)、プロトロンビン時間(PT、外因的凝固経路の試験)、トロンビン時間(TT、トロンビン媒介性のフィブリン生成の試験)、並びにプロテインC及びプロテインS(共に、凝固阻害剤)を含めた様々な凝固試験を、本発明により行った。
【0154】
様々な媒介物(例えば、ADP、コラーゲン、トロンビン)によって刺激を受けた血小板凝集に対するヘパラナーゼの作用について、次に試験をした。表1に示されるように、これら凝固機能のすべては、ヘパラナーゼプロ酵素の存在による影響を受けず、正常範囲内であった。
表1.ヘパラナーゼプロ酵素は凝固機能に直接影響を及ぼさない
【表1】


2〜4回行われた中で、1つの代表的な実験を示す。
【0155】
(実施例2)
ヘパラナーゼプロ酵素はαPTT及びTT応答のヘパリン誘導型低減を反転させる
血液凝固応答の程度は、細胞表面HSPG及び関連する凝固阻害剤によって表される、内皮の微小環境における抗凝固成分によるバランスを必要とする。活性化すると血小板から放出されるヘパラナーゼは、生理学的凝血促進剤として機能することができる。したがって本発明者等は、その酵素活性を支持しない条件下で(例えば、中性pHの下、不活性ヘパラナーゼプロ酵素を使用)、凝固活性のヘパリノイド媒介性下方制御に対する、ヘパラナーゼの作用について試験をした。2つの凝固アッセイ、即ち内因性凝固経路を測定する活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)、及びフィブリノゲンからフィブリンへのトロンビン媒介性変換を測定するトロンビン時間(TT)は、ヘパリノイドによる影響を受ける。図1に示されるように、どちらの場合でもヘパリンは、天然のトロンビン阻害剤抗トロンビンIII(ATIII)及びトロンビンと三重複合体を形成し、その結果、トロンビンが不活性化する。ヘパリンは、aPTT並びにTT応答の両方を著しく低下させる。したがって本発明者等は、次に、aPTT及びTT応答の両方のヘパリン誘導型低減に対する、ヘパラナーゼの作用について試験をした。図2及び3によって明らかに実証されるように、ヘパラナーゼプロ酵素の存在下では、これらの応答は、特に低ヘパリン濃度で著しく反転される。予測されるように、ヘパリンもヘパラナーゼプロ酵素もPT応答に影響を及ぼさず、これは、内因性凝固経路内でのヘパリン/ヘパラナーゼ調節モードの特異性を指摘している(示さず)。明らかに、ヘパリンとATIIIとの間で形成された複合体は、トロンビンの阻害を増大させる必要があり、したがって、図2に示された結果によって実証されるように、且つ図1のスキームによって例示されるように、フィブリン生成に影響を及ぼす。この複合体は、図3によって示されるように、ヘパラナーゼプロ酵素の存在下で著しく妨害された。トロンビン時間のヘパリン誘導型延長(トロンビン活性を測定)は、ヘパラナーゼプロ酵素によって著しく妨げられ、したがって、ヘパリンの抗トロンビン作用を部分的に破壊した。
【0156】
(実施例3)
ヘパラナーゼプロ酵素は、生体外及びLMWHで治療したヒト患者の血漿中で第Xa因子活性を回復させることによって、ヘパリンの抗凝固作用を反転させる
図1によって示されるように、ATIII活性の追加のモードは、活性化凝固第X因子(Xa)と阻害複合体を形成することである。この因子は、第Va因子及びプロトロンビンと関連して、内皮上でプロトロンビナーゼ複合体を形成し、その結果、トロンビン生成がもたらされ、その後、血餅が形成される。未分画又は低分子量ヘパリノイド(LMWH)はATに結合し、構造変化を誘発させ、その結果、結合及び第Xa因子活性の阻害をもたらす。
【0157】
近年、LMWHは、その突出した抗凝固活性により、広く使用される抗凝固剤になり、未分画ヘパリンに比べて薬物動態が改善された。しかし、緊急の臨床的必要性がある場合は、依然として、これらの臨床上非常に豊富な抗凝固剤を阻害する対抗手段は存在しない。そのような必要性は、LMWH過量によって引き起こされた広範な出血(例えば脳)中に、又は、その他の医学的原因に起因する、LMWHで治療した個体での制御されない出血中に、生ずる可能性がある。したがって、ヘパリノイドの抗凝固活性に対するヘパラナーゼプロ酵素の作用について、本発明者等は次に試験をした。予測されるように、低分子量ヘパリンは、第Xa因子活性を著しく低下させる(図4)。しかし、ヘパラナーゼプロ酵素がFXa活性のみには影響を及ぼさなかったのに対し(表1)、ATの存在下では、増加したヘパラナーゼプロ酵素の用量によって、ヘパリン阻害作用が反転され、FXa活性が正常レベルに回復した(図4)。ヘパラナーゼの同様の作用が、未分画ヘパリンで処理した血漿で観察された(示さず)。
【0158】
次に、LMWHに対する対抗手段としての、ヘパラナーゼプロ酵素の可能性ある臨床作用を評価するために、LMWHで治療した患者から得られた血漿、即ち10μg/mlのヘパラナーゼプロ酵素と共にインキュベートした血漿で、生体外での第Xa因子活性に対するヘパラナーゼプロ酵素作用について試験をした。図5によって示されるように、ヘパラナーゼプロ酵素は、用量依存的な手法で、LMWHで治療された12名の異なる患者から得られたサンプルにおいて第Xa因子活性を著しく上昇させた。このようにヘパラナーゼプロ酵素は、LMWHが高レベルであっても、個々の患者の血漿サンプルにおいてLMWHのFXa阻害作用を低下させた。全体的に、治療した患者におけるLMWHのFXa阻害活性のレベルは、約50%低下した(図5B)。
【0159】
(実施例4)
残基Lys158〜Asp171のヘパリン結合ドメインを含むヘパラナーゼ由来のペプチドは、ヘパリンの第Xa因子阻害作用を完全に逆転させる
不活性形態のヘパラナーゼであるヘパラナーゼプロ酵素を使用した結果は、ヘパラナーゼの凝血促進活性がその酵素活性により生成できないことを、明らかに示していると強調すべきである。したがって、いかなる理論にも拘泥するものではないが、本発明者等は、酵素的に不活性なヘパラナーゼが依然としてヘパリノイドに結合し、血漿常在抗凝固剤(例えば、ATIII)とのその隔離及び/又は中和によって、その抗凝固活性を中和する可能性があると推測する。3つの潜在的なヘパリン結合ドメインが特定され、それらの1つが、50kDa活性ヘパラナーゼサブユニットのN末端にマッピングされている。この領域に対応するペプチド(Lys158〜Asp171、配列番号1によっても示される)は、ヘパリン及びヘパラン硫酸と物理的に結合している。さらに、本発明者によって先に示されたように(WO2005/071070)、この特定のペプチドは、おそらくは硫酸ヘパラン基質との競合を通して、用量応答的手法でヘパラナーゼ酵素活性を阻害した。したがって、本発明者等は次に、Lys158〜Asp171(配列番号1)ヘパリン結合ペプチドがヘパリンの第Xa因子阻害作用を消失させることができるか否かについて、試験をした。図6に示されるように、Lys158〜Asp171ヘパリン結合ペプチド(配列番号1によっても示される)は、比較的高い濃度であっても(1mg/ml)、ヘパリン、並びにLMWH及びUFH(図7)の第Xa因子阻害活性を完全に反転させたが、対照のスクランブルペプチドは、影響を及ぼさなかった。
【0160】
ヘパラナーゼプロ酵素のこれらの凝血促進作用は、適正な対抗手段が存在しない状態で(例えば、LMWHの場合)、抗凝固の臨床作用を反転させるのに利用することができ、又は出血性合併症を打ち消すのを助けることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘパリノイド抗凝固活性を阻害するための組成物であって、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む真核生物エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチドを活性成分として含み、任意選択で、薬学的に許容される担体、希釈賦形剤、及び/又は添加剤をさらに含む上記組成物。
【請求項2】
ヘパリノイド抗凝固活性を阻害する必要のある被験体において、前記活性を阻害するための、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む真核生物エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチドを活性成分として含み、任意選択で、薬学的に許容される担体、希釈賦形剤、及び/又は添加剤をさらに含む、凝固関連の病的臨床状態を治療し予防するための、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記真核生物エンドグリコシダーゼが、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む不活性エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチドである、請求項1、2、及び3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記不活性エンドグリコシダーゼが、65Kd潜在形態の哺乳動物ヘパラナーゼプロ酵素、及びヘパラナーゼエンドグリコシダーゼ触媒活性を欠く突然変異したヘパラナーゼ分子のいずれか1つである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記ヘパリン結合ドメインが、哺乳動物ヘパラナーゼの残基Lys158〜Asp171、Gln270〜Lys280、及びLys411〜Arg432のいずれか1つのアミノ酸配列を含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記ペプチドが、ヒトヘパラナーゼの残基Lys158〜Asp171、残基Gln270〜Lys280、及び残基Lys411〜Arg432のいずれか1つのアミノ酸配列を含むペプチドである、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記ペプチドが、配列番号1、配列番号4によって示されるアミノ酸配列、又はその任意の断片、類似体、及び誘導体を含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記ヘパリノイドが、ヘパリン、低分子量ヘパリン(LMWH)、及び未分画ヘパリン(UFH)、並びにその任意の機能的断片のいずれか1つである、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記必要のある被験体が、凝固関連の病的臨床状態に罹っている哺乳動物被験体である、請求項2に記載の組成物。
【請求項11】
前記凝固関連の病的臨床状態が、ヘパリノイドの抗凝固作用に関連し又は前記作用によって引き起こされた状態である、請求項3及び10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記状態が、制御されない出血、免疫媒介性血小板減少症(HIT)、及び術前又は術後状態のいずれか1つである、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
ヘパリノイド抗凝固活性を阻害する必要のある被験体において、前記活性を阻害するための方法であって、阻害有効量の、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む真核生物エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチド、或いはこれらを含む任意の組成物を、前記被験体に投与するステップを含む方法。
【請求項14】
凝固関連の病的臨床状態を治療し予防するための方法であって、阻害有効量の、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む真核生物エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチド、或いはこれらを含む任意の組成物を、その必要がある被験体に投与するステップを含む上記方法。
【請求項15】
前記真核生物エンドグリコシダーゼが、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む不活性エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチドである、請求項13及び14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記不活性エンドグリコシダーゼが、65Kd潜在形態の哺乳動物ヘパラナーゼプロ酵素、及びヘパラナーゼエンドグリコシダーゼ触媒活性を欠く突然変異したヘパラナーゼ分子のいずれか1つである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ヘパリン結合ドメインが、ヒトヘパラナーゼの残基Lys158〜Asp171、残基Gln270〜Lys280、及び残基Lys411〜Arg432のいずれか1つのアミノ酸配列を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ペプチドが、ヒトヘパラナーゼの残基Lys158〜Asp171、残基Gln270〜Lys280、及び残基Lys411〜Arg432のいずれか1つのアミノ酸配列を含むペプチドである、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記ペプチドが、配列番号1、配列番号4によって示されるアミノ酸配列、又はその任意の断片、類似体、及び誘導体を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ヘパリノイドが、ヘパリン、低分子量ヘパリン(LMWH)、及び未分画ヘパリン(UFH)、並びにその任意の機能性断片とのいずれか1つである、請求項13及び14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記必要のある被験体が、凝固関連の病的臨床状態に罹っている哺乳動物被験体である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記凝固関連の病的臨床状態が、ヘパリノイドの抗凝固作用に関連し又は前記作用によって引き起こされた状態である、請求項14及び21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記病的臨床状態が、制御されない出血及び免疫媒介性血小板減少症(HIT)のいずれか1つである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
凝固関連の病的臨床状態の予防が、外科的介入を必要とする被験体への、治療上有効な量の、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む真核生物エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチド、或いはこれらを含む任意の組成物の術前及び/又は術後投与を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項25】
ヘパリノイド抗凝固活性を阻害するための方法であって、
(a)阻害有効量の、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む真核生物エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチド、或いはこれらを含む任意の組成物を、混合物を生成する適切な条件下で前記ヘパリノイドに接触させるステップと、
(b)ステップ(a)で得られた混合物に、哺乳動物体液サンプルを、好ましくは血漿を、適切な時間にわたって適切な条件下で添加するステップと、
(c)前記サンプルに対して、適切な手段により適切な対照と比較した前記ヘパリノイドの抗凝固活性を試験するステップと
を含む上記方法。
【請求項26】
ヘパリノイド抗凝固活性を阻害するための組成物の調製における、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む真核生物エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチドの使用。
【請求項27】
ヘパリノイド抗凝固活性を阻害する必要のある被験体において前記活性を阻害するための組成物の調製における、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む真核生物エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチドの、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
凝固関連の病的臨床状態を治療し予防するための組成物の調製における、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む真核生物エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチドの、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
前記真核生物エンドグリコシダーゼが、少なくとも1つのヘパリン結合ドメインを含む不活性エンドグリコシダーゼ、又はその任意の突然変異体、断片、若しくはペプチドである、請求項26、27、及び28のいずれか一項に記載の使用。
【請求項30】
前記不活性エンドグリコシダーゼが、65Kd潜在形態の哺乳動物ヘパラナーゼプロ酵素、及びヘパラナーゼエンドグリコシダーゼ触媒活性を欠く突然変異したヘパラナーゼ分子のいずれか1つである、請求項29に記載の使用。
【請求項31】
前記ヘパリン結合ドメインが、哺乳動物ヘパラナーゼの残基Lys158〜Asp171、Gln270〜Lys280、及びLys411〜Arg432のいずれか1つのアミノ酸配列を含む、請求項30に記載の使用。
【請求項32】
前記ペプチドが、哺乳動物ヘパラナーゼの残基Lys158〜Asp171、Gln270〜Lys280、及びLys411〜Arg432のいずれか1つのアミノ酸配列を含むペプチドである、請求項31に記載の使用。
【請求項33】
前記ペプチドが、配列番号1、配列番号4によって示されるアミノ酸配列、又はその任意の断片、類似体、及び誘導体を含む、請求項32に記載の使用。
【請求項34】
前記ヘパリノイドが、ヘパリン、低分子量ヘパリン(LMWH)、及び未分画ヘパリン(UFH)、並びにその任意の機能的断片のいずれか1つである、請求項26に記載の使用。
【請求項35】
前記必要のある被験体が、凝固関連の病的臨床状態に罹っている哺乳動物被験体である、請求項27に記載の使用。
【請求項36】
前記凝固関連の病的臨床状態が、ヘパリノイドの抗凝固作用に関連し又は前記作用によって引き起こされた状態である、請求項28及び35のいずれか一項に記載の使用。
【請求項37】
前記病的臨床状態が、制御されない出血及び免疫媒介性血小板減少症(HIT)のいずれか1つである、請求項36に記載の使用。
【請求項38】
凝固関連の病的臨床状態の前記予防が、外科的介入を必要とする被験体の術前及び/又は術後治療を含む、請求項28に記載の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2009−536637(P2009−536637A)
【公表日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−508664(P2009−508664)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際出願番号】PCT/IL2007/000564
【国際公開番号】WO2007/132445
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(501412072)ハダジット メディカル リサーチ サービシズ アンド ディベラップメント リミテッド (4)
【出願人】(508335048)ザ メディカル リサーチ ファンド アット ザ テル − アビブ ソーラースカイ メディカル センター (1)
【Fターム(参考)】