ヘムタンパク質ポリマー製造用モノマーおよびそのモノマーから得られるポリマー
【課題】大分子量を有するタンパク質を規則的に配列させることにより得られる、さらに大分子量を有するタンパク質ポリマーの提供を提供する。
【解決手段】一般式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩を用いることにより、大分子量を有するタンパク質ポリマーを得ることができる。前記式(I)中、 R1、R2、R3、R4、は低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、Yは特定の基を、Xはヘムタンパク質の変異体を意味する。
【解決手段】一般式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩を用いることにより、大分子量を有するタンパク質ポリマーを得ることができる。前記式(I)中、 R1、R2、R3、R4、は低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、Yは特定の基を、Xはヘムタンパク質の変異体を意味する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘムタンパク質ポリマー製造用モノマーおよびそのモノマーから得られるポリマーに関する。より詳細には、本発明は、ヘムタンパク質ポリマー製造用モノマー、およびそのモノマーをモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、小分子量を有する有機化合物を様々な相互作用、例えば配位結合、共有結合、イオン結合等により規則的に配列させ、大分子量を有する有機化合物を製造することが試みられている(例えば、非特許文献1参照)。このようにして製造された大分子量の有機化合物は、様々な機能を有するナノデバイスとしての利用が期待されている。
【0003】
一方、もともと大分子量を有する有機化合物、例えばタンパク質を様々な相互作用、例えば配位結合、共有結合、イオン結合等により規則的に配列させ、さらに大分子量を有する有機化合物を製造することは、非常に困難である。この困難さの理由としては、高次立体構造を有するタンパク質の表面に存在する官能基に対して適切に化学修飾を施すことが困難であること、かつ、そのように化学修飾されたタンパク質同士を相互作用させるようなしくみを開発するのが困難であることなどが挙げられる。
【非特許文献1】J.-M. Lehn, "Supramolecular Chemistry: Concepts and Perspectives" ドイツ、Weinheim、VCH社出版、1995年.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、大分子量を有するタンパク質を規則的に配列させることにより得られる、さらに大分子量を有するタンパク質ポリマーの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、一般式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩である。
【0006】
【化9】
【0007】
前記式(I)中、
R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基、ハロゲン原子で置換された低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、
式
【0008】
【化10】
【0009】
は、ヘムタンパク質の変異体を意味し、前記変異体は、天然のヘムタンパク質のアミノ酸配列中、1つのアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えたものである。前記変異体中、−SHは、前記システイン残基の側鎖チオール基を意味し、Feは、前記ヘムタンパク質に含まれるポルフィリン基の4つの窒素原子と結合している。
【0010】
また、本発明は、一般式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩である。
【0011】
【化11】
【0012】
前記式(II)中、
R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基、ハロゲン原子で置換された低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、
式
【0013】
【化12】
【0014】
は、ヘムタンパク質の変異体を意味し、前記変異体は、天然のヘムタンパク質のアミノ酸配列中、1つのアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えたものである。前記変異体中、−SHは、前記システイン残基の側鎖チオール基を意味する。
【0015】
また、本発明は、前記式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩をモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーまたはその塩である。
【0016】
前記式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩および前記式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩は、ヘムタンパク質ポリマー製造用モノマーとして有用である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のヘムタンパク質モノマーまたはその塩は、大分子量を有する。そのヘムタンパク質モノマーまたはその塩を、ヘムを利用して規則的に配列させることにより、さらに大分子量を有するヘムタンパク質ポリマーを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、前記のように、前記一般式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩である。
【0019】
また、本発明は、前記のように、前記一般式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩である。
【0020】
また、本発明は、前記のように、前記式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩をモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーまたはその塩である。なお、前記ヘムタンパク質ポリマーまたはその塩を構成する、前記式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩は、1種類であっても、2種類以上の混合物であってもよい。また、前記ヘムタンパク質ポリマーは、一般式(III)で表わされるヘムタンパク質ポリマーであるのが好ましい。
【0021】
【化13】
【0022】
前記式(III)中、
R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基、ハロゲン原子で置換された低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、
式
【0023】
【化14】
【0024】
は、ヘムタンパク質の変異体を意味し、前記変異体は、天然のヘムタンパク質のアミノ酸配列中、1つのアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えたものである。前記変異体中、−SHは、前記システイン残基の側鎖チオール基を意味し、Feは、前記ヘムタンパク質に含まれるポルフィリン基の4つの窒素原子と結合している。
【0025】
本発明において、「低級」は特に指示がなければ、炭素原子が1〜6個、好ましくは炭素原子1〜4個を意味する。
【0026】
「低級アルキル基」および「ハロゲン原子で置換された低級アルキル基」中の「低級アルキル基」としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル等のような直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数1〜6のアルカンの残基を意味する。低級アルキル基の好ましい例としては、炭素数1〜5のアルキルが挙げられる。好ましい炭素数1〜5のアルキルとしては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、第三級ブチル、ペンチル、ネオペンチル等が挙げられる。
【0027】
「低級アルケニル基」としては、ビニル、アリル、イソプロペニル、1−、2−もしくは3−ブテニル、1−、2−、3−もしくは4−ペンテニル、1−、2−、3−、4−もしくは5−へキセニル等の炭素数2〜6個を有する直鎖または分枝鎖アルケニル基が挙げられる。好ましい低級アルケニル基としては、ビニルが挙げられる。
【0028】
「ハロゲン原子」としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられ、中でもフッ素が好ましい。
【0029】
「ハロゲン原子で置換された低級アルキル基」の例としては、前記低級アルキル基の1以上の水素原子が、前記ハロゲン原子で置き換えられたものを意味する。前記ハロゲン原子で置換された低級アルキル基の好ましい例としては、ヨウ化メチル、ジクロロメチル、トリクロロメチル、トリフルオロメチル等が挙げられる。好ましいハロゲン原子で置換された低級アルキル基としては、トリフルオロメチルが挙げられる。
【0030】
本発明のモノマーまたはポリマーおよびその塩は、溶媒和物の形をとることもありうるが、これも本発明の範囲に含まれる。溶媒和物としては、好ましくは、水和物及びエタノール和物が挙げられる。
【0031】
前記式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩、前記式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩、および前記式(III)で表わされるヘムタンパク質ポリマーまたはその塩において、前記ヘムタンパク質は、ヘムを1以上有するタンパク質であれば特に限定されないが、例えば、シトクロム、ヘモグロビン、ミオグロビン、またはペルオキシダーゼが挙げられる。前記シトクロムとしては、例えばシトクロムb562、シトクロムb5、シトクロムP450CAMが挙げられ、中でもシトクロムb562が好ましい。前記ヘモグロビンとしては、例えばヘモグロビン(human)、ヘモグロビン(bovine)、ヘモグロビン(equine)、ヘモグロビン(rat)が挙げられ、中でもヘモグロビン(human)が好ましい。前記ミオグロビンとしては、例えばミオグロビン(sus scrofa)、ミオグロビン(equine)、ミオグロビン(human)、ミオグロビン(sperm whale)が挙げられ、中でもミオグロビン(sus scrofa)が好ましい。前記ペルオキシダーゼとしては、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、クロロペルオキシダーゼ、カタラーゼが挙げられ、中でも西洋ワサビペルオキシダーゼが好ましい。
【0032】
前記式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩としては、
前記式(I)中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味するのが好ましい。
【0033】
式
【0034】
【化15】
【0035】
で表わされるヘムタンパク質の変異体は、前記ヘムタンパク質のアミノ酸配列中、1つのアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えたものである。このようなヘムタンパク質の変異体は、例えば、シトクロムの場合、(a)配列番号1で表わされるアミノ酸配列の1つのアミノ酸がシステインに置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質、(b)配列番号1で表わされるアミノ酸配列の1つのアミノ酸がシステインに置換されたアミノ酸配列において、1もしくは2個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつシトクロムとして機能するタンパク質を意味する。なお、前記配列番号1で表わされるアミノ酸配列は、天然のシトクロムb562のアミノ酸配列である。天然のシトクロムb562のアミノ酸配列は、配列番号1で表わされるアミノ酸配列に限定されず、Protein Data Bankにおいて、適切なものを選択すればよい。具体的には、ID番号1QPU(1999年6月2日付)のものが挙げられ、前記配列番号1で表わされるアミノ酸配列は、ID番号1QPUのものに対応する。システインに置き換えられる前記1つのアミノ酸残基は、前記シトクロムが立体構造をとる際、構造の外側に配置されるようなアミノ酸残基が好ましい。また、システイン残基に置き換えられたことにより、前記シトクロムに含まれるヘムの構造に影響を与えない必要がある。このような置換を行うため、例えば配列番号1のアミノ酸配列において、第1〜106番目のアミノ酸残基、好ましくは第60、62、63、66、67、70、73、74、76、78、89、90、96、99および100番目のアミノ酸残基、より好ましくは第60、第63、第66、第67および第100番目のアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えることができる。
【0036】
また、このようなヘムタンパク質の変異体は、例えば、ヘモグロビンの場合、(a)配列番号9または配列番号10で表わされるアミノ酸配列の1つのアミノ酸がシステインに置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質、(b)配列番号9または配列番号10で表わされるアミノ酸配列の1つのアミノ酸がシステインに置換されたアミノ酸配列において、1もしくは2個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつヘモグロビン(human)として機能するタンパク質を意味する。なお、前記配列番号9で表わされるアミノ酸配列は、天然のヘモグロビンαサブユニットのアミノ酸配列であり、前記配列番号10で表わされるアミノ酸配列は、天然のヘモグロビンのβサブユニットのアミノ酸配列である。天然のヘモグロビンのアミノ酸配列は、配列番号9および配列番号10で表わされるアミノ酸配列に限定されず、Protein Data Bankにおいて、適切なものを選択すればよい。具体的には、ID番号1GZX(2002年7月8日付)のものが挙げられ、前記配列番号9および配列番号10で表わされるアミノ酸配列は、ID番号1GZXのものに対応する。システインに置き換えらえる前記1つのアミノ酸残基は、前記ヘモグロビンが立体構造をとる際、構造の外側に配置されるようなアミノ酸残基が好ましい。また、システイン残基に置き換えられたことにより、前記ヘモグロビンに含まれるヘムの構造に影響を与えない必要がある。
【0037】
また、このようなヘムタンパク質の変異体は、例えば、ミオグロビンの場合、(a)配列番号2で表わされるアミノ酸配列の1つのアミノ酸がシステインに置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質、(b)配列番号2で表わされるアミノ酸配列の1つのアミノ酸がシステインに置換されたアミノ酸配列において、1もしくは2個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつミオグロビンとして機能するタンパク質を意味する。なお、前記配列番号2で表わされるアミノ酸配列は、天然のミオグロビン(sus scrofa)のアミノ酸配列である。天然のミオグロビンのアミノ酸配列は、配列番号2で表わされるアミノ酸配列に限定されず、Protein Data Bankにおいて、適切なものを選択すればよい。具体的には、ID番号1MWD(1998年8月11日付)のものが挙げられ、前記配列番号2で表わされるアミノ酸配列は、ID番号1MWDのものに対応する。システインに置き換えらえる前記1つのアミノ酸残基は、前記ミオグロビンが立体構造をとる際、構造の外側に配置されるようなアミノ酸残基が好ましい。また、システイン残基に置き換えられたことにより、前記ミオグロビンに含まれるヘムの構造に影響を与えない必要がある。このような置換を行うため、例えば配列番号2のアミノ酸配列において、第1〜153番目のアミノ酸残基、好ましくは第8、12、16、53,102,106,113,117,121,126,133,140および147番目のアミノ酸残基、より好ましくは第133および第140番目のアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えることができる。
【0038】
また、このようなヘムタンパク質の変異体は、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼの場合、(a)配列番号3で表わされるアミノ酸配列の1つのアミノ酸がシステインに置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質、(b)配列番号1で表わされるアミノ酸配列の1つのアミノ酸がシステインに置換されたアミノ酸配列において、1もしくは2個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ西洋ワサビペルオキシダーゼ活性を有するタンパク質を意味する。なお、前記配列番号3で表わされるアミノ酸配列は、天然の西洋ワサビペルオキシダーゼのアミノ酸配列である。天然の西洋ワサビペルオキシダーゼのアミノ酸配列は、配列番号3で表わされるものに限定されず、Protein Data Bankにおいて、適切なものを選択すればよい。具体的には、ID番号1ATJ(1998年2月4日付)のものが挙げられ、前記配列番号3で表わされるアミノ酸配列は、ID番号1ATJのものに対応する。システインに置き換えられる前記1つのアミノ酸残基は、前記西洋ワサビペルオキシダーゼが立体構造をとる際、構造の外側に配置されるようなアミノ酸残基が好ましい。また、システイン残基に置き換えられたことにより、前記西洋ワサビペルオキシダーゼに含まれるヘムの構造に影響を与えない必要がある。
【0039】
前記変異体中、前述のように、−SHは、前記システイン残基の側鎖チオール基を意味し、Feは、前記ヘムタンパク質に含まれるポルフィリン基の4つの窒素原子と結合している。
【0040】
前記式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩としては、
前記式(I)中、R1およびR3は、それぞれ独立して、低級アルキル基であり、R2およびR4は、それぞれ独立して、低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜3の整数を意味し、
前記ヘムタンパク質がシトクロムであるのがより好ましい。
【0041】
また、前記式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩としては、
前記式(I)中、R2およびR4は、それぞれ独立して、低級アルキル基であり、R1およびR3は、それぞれ独立して、低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜3の整数を意味し、
前記ヘムタンパク質がシトクロムであるのがより好ましい。
【0042】
前記式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩としては、
前記式(I)中、R1およびR3は、それぞれ独立して、メチル基であり、R2およびR4は、それぞれ独立して、ビニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)2−、−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)2−または−(CH2)3−O−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)3−で表わされる基であり、
前記ヘムタンパク質が配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するシトクロムであり、前記1つのアミノ酸残基が第63番目のヒスチジンであるのがさらに好ましい。
【0043】
また、前記式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩としては、
前記式(I)中、R2およびR4は、それぞれ独立して、メチル基であり、R1およびR3は、それぞれ独立して、ビニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)2−、−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)2−または−(CH2)3−O−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)3−で表わされる基であり、
前記ヘムタンパク質が配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するシトクロムであり、前記1つのアミノ酸残基が第63番目のヒスチジンであるのがさらに好ましい。
【0044】
また、前記式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩としては、
前記式(II)中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味するのが好ましい。
【0045】
前記式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩としては、
前記式(II)中、R1およびR3は、それぞれ独立して、低級アルキル基であり、R2およびR4は、それぞれ独立して、低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜3の整数を意味し、
前記ヘムタンパク質がシトクロムであるのがより好ましい。
【0046】
また、前記式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩としては、
前記式(II)中、R2およびR4は、それぞれ独立して、低級アルキル基であり、R1およびR3は、それぞれ独立して、低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜3の整数を意味し、
前記ヘムタンパク質がシトクロムであるのがより好ましい。
【0047】
前記式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩としては、
前記式(II)中、R1およびR3は、それぞれ独立して、メチル基であり、R2およびR4は、それぞれ独立して、ビニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)2−、−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)2−または−(CH2)3−O−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)3−で表わされる基であり、
前記ヘムタンパク質が配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するシトクロムであり、前記1つのアミノ酸残基が第63番目のヒスチジンであるのがさらに好ましい。
【0048】
また、前記式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩としては、
前記式(II)中、R2およびR4は、それぞれ独立して、メチル基であり、R1およびR3は、それぞれ独立して、ビニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)2−、−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)2−または−(CH2)3−O−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)3−で表わされる基であり、
前記ヘムタンパク質が配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するシトクロムであり、前記1つのアミノ酸残基が第63番目のヒスチジンであるのがさらに好ましい。
【0049】
また、本発明のヘムタンパク質モノマーまたはその塩をモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーまたはその塩としては、前記ヘムタンパク質モノマーが、前記式(II)中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味する式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーであるのが好ましい。
【0050】
本発明のヘムタンパク質モノマーまたはその塩をモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーまたはその塩としては、前記ヘムタンパク質モノマーが、
前記式(II)中、R1およびR3は、それぞれ独立して、低級アルキル基であり、R2およびR4は、それぞれ独立して、低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜3の整数を意味し、
前記ヘムタンパク質がシトクロムである式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーがより好ましい。
【0051】
本発明のヘムタンパク質モノマーまたはその塩をモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーまたはその塩としては、前記ヘムタンパク質モノマーが、
前記式(II)中、R2およびR4は、それぞれ独立して、低級アルキル基であり、R1およびR3は、それぞれ独立して、低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜3の整数を意味し、
前記ヘムタンパク質がシトクロムである式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーがより好ましい。
【0052】
本発明のヘムタンパク質モノマーまたはその塩をモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーまたはその塩としては、前記ヘムタンパク質モノマーが、
前記式(II)中、R1およびR3は、それぞれ独立して、メチル基であり、R2およびR4は、それぞれ独立して、ビニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)2−、−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)2−または−(CH2)3−O−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)3−で表わされる基であり、
前記ヘムタンパク質が配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するシトクロムであり、前記1つのアミノ酸残基が第63番目のヒスチジンである式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーがさらに好ましい。
【0053】
また、本発明のヘムタンパク質モノマーまたはその塩をモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーまたはその塩としては、前記ヘムタンパク質モノマーが、
前記式(II)中、R2およびR4は、それぞれ独立して、メチル基であり、R1およびR3は、それぞれ独立して、ビニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)2−、−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)2−または−(CH2)3−O−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)3−で表わされる基であり、
前記ヘムタンパク質が配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するシトクロムであり、前記1つのアミノ酸残基が第63番目のヒスチジンである式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーがさらに好ましい。
【0054】
また、前記式(III)で表わされるヘムタンパク質ポリマーまたはその塩としては、前記式(II)中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味するヘムタンパク質モノマーまたはその塩をモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーまたはその塩が好ましい。
【0055】
また、前記式(III)で表わされるヘムタンパク質ポリマーまたはその塩としては、前記式(II)中、R1およびR3は、それぞれ独立して、低級アルキル基であり、R2およびR4は、それぞれ独立して、低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜3の整数を意味し、
前記ヘムタンパク質がシトクロムであるヘムタンパク質モノマーまたはその塩をモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーまたはその塩、
ならびに、
前記式(II)中、R2およびR4は、それぞれ独立して、低級アルキル基であり、R1およびR3は、それぞれ独立して、低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜3の整数を意味し、
前記ヘムタンパク質がシトクロムであるヘムタンパク質モノマーまたはその塩をモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーまたはその塩からなる群から選択される1以上がより好ましい。
【0056】
前記式(III)で表わされるヘムタンパク質ポリマーまたはその塩としては、前記式(II)中、R1およびR3は、それぞれ独立して、メチル基であり、R2およびR4は、それぞれ独立して、ビニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)2−、−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)2−または−(CH2)3−O−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)3−で表わされる基であり、
前記ヘムタンパク質が配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するシトクロムであり、前記1つのアミノ酸残基が第63番目のヒスチジンであるヘムタンパク質モノマーまたはその塩をモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーまたはその塩、
ならびに
前記式(II)中、R2およびR4は、それぞれ独立して、メチル基であり、R1およびR3は、それぞれ独立して、ビニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)2−、−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)2−または−(CH2)3−O−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)3−で表わされる基であり、
前記ヘムタンパク質が配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するシトクロムであり、前記1つのアミノ酸残基が第63番目のヒスチジンであるヘムタンパク質モノマーまたはその塩をモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーまたはその塩からなる群から選択される1以上がさらに好ましい。
【0057】
前記式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマーの塩、式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーの塩、および式(III)で表わされるヘムタンパク質ポリマーの塩は、前記式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマー、式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマー、および式(III)で表わされるヘムタンパク質ポリマーの、例えばナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩などの無機塩基との塩、及びトリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N'-ジベンジルエチレンアミンなどの有機アミン塩、及び塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸などの無機酸塩、及びギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、マレイン酸、酒石酸などの有機カルボン酸塩、及びメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などのスルホン酸付加塩、及びアルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸などの塩基性又は酸性アミノ酸といった塩基との塩又は酸付加塩がそれぞれ挙げられる。
【0058】
次に、本発明の式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩の製造方法の一例を説明する。
【0059】
その製造方法は、一般式(IV)で表わされるヘムリンカーと、一般式(V)で表わされるヘムタンパク質とを反応させて、請求項1に記載のヘムタンパク質モノマーまたはその塩を得ることを特徴とする(スキーム1参照)。
【0060】
【化16】
【0061】
前記式(I)および式(IV)中、
R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基、ハロゲン原子で置換された低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、
式(I)および式(V)中、式
【0062】
【化17】
【0063】
は、ヘムタンパク質の変異体を意味し、前記変異体は、天然のヘムタンパク質のアミノ酸配列中、1つのアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えたものである。前記変異体中、−SHは、前記システイン残基の側鎖チオール基を意味し、Feは、前記ヘムタンパク質に含まれるポルフィリン基の4つの窒素原子と結合している。
【0064】
前記式(IV)中、低級アルキル基および低級アルケニル基の定義は、前記のとおりである。
【0065】
前記製造方法において、式(IV)で表わされるヘムリンカーと、式(V)で表わされるヘムタンパク質との反応は、不活性ガス(例えばアルゴン、窒素等)雰囲気下に、触媒存在下に溶媒中で行うことができる。前記触媒としては、例えば酸、塩基等が挙げられる。前記酸としては塩酸、硫酸、硝酸、トルエンスルホン酸、酢酸等が挙げられる。前記塩基としては、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ酸、リン酸、水素化ナトリウム、水素化カルシウム等が挙げられる。
【0066】
前記製造方法において、反応溶媒は限定されないが、例えば、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール等)、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の極性溶媒、緩衝液(例えば、トリス塩酸緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液)等が挙げられる。前記溶媒は、1種類を用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。前記溶媒としては、ジメチルスルホキシドおよび緩衝液から選択されるのが好ましく、ジメチルスルホキシドおよびトリス塩酸緩衝液の混合物がより好ましい。
前記製造方法において、反応温度は限定されないが、例えば0℃〜100℃、好ましくは10℃〜60℃、より好ましくは20℃〜30℃である。
【0067】
前記製造方法において、反応時間は限定されないが、例えば30分〜24時間、好ましくは2時間〜10時間、より好ましくは5時間〜8時間である。
【0068】
前記製造方法において、式(IV)で表されるヘムリンカーに対し使用される式(V)で表わされるヘムタンパク質のモル比(式(IV)で表されるヘムリンカー:式(V)で表わされるヘムタンパク質)は、例えば100:1〜5:1、好ましくは50:1〜10:1、より好ましくは20:1〜10:1である。
【0069】
前記製造方法において、前記式(IV)で表されるヘムリンカーは、市販で入手してもよいし、公知文献を参照して自家製造してもよい。
【0070】
前記製造方法において、前記式(V)で表わされるヘムタンパク質は、例えば以下のようにして製造することができる。
【0071】
前記式(V)で表わされるヘムタンパク質の遺伝子は、天然のヘムタンパク質の遺伝子の塩基配列に基づいて、モルモットのトータルRNA等を利用してクローニングしてもよく、また、ホスホロアミダイト法を利用して化学的にDNA合成してもよい。前記クローニングの方法は特に制限されず、例えば、市販のクローニングキット等を利用して行える。また、前記式(V)で表わされるヘムタンパク質の遺伝子を宿主細胞内に導入すればよい。
【0072】
前記宿主細胞としては、例えば、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、酵母、細菌等が挙げられる。前記遺伝子導入方法としては、例えば、酢酸リチウム法、リン酸カルシウム法、リポソームを用いた方法、エレクトロポレーション、ウイルスベクターを用いる方法、マイクロピペットインジェクション法等があげられる。または、宿主染色体への組込み型もしくは自律複製・分配可能な人工染色体もしくはプラスミド型を用いて、それを導入してよい。
【0073】
前記宿主細胞内に導入する遺伝子は、宿主細胞内で恒常的または任意に発現するように、必要な調節配列と作動的に連結されていることが好ましい。前記調節配列とは、宿主細胞内において、作動的に連結された前記遺伝子の発現に必要な塩基配列であって、例えば、真核細胞に適した調節配列としては、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、エンハンサー等があげられる。前記作動的に連結とは、各構成要素が機能を果たすことができるように並置していることを意味する。
【0074】
また、本発明の式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩の製造方法の一例を説明する。
【0075】
その製造方法は、式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩を酸で処理することにより、式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩を得ることを特徴とする(スキーム2参照)。
【0076】
【化18】
【0077】
前記式(I)および式(II)中、
R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基、ハロゲン原子で置換された低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、
式
【0078】
【化19】
【0079】
は、ヘムタンパク質の変異体を意味し、前記変異体は、天然のヘムタンパク質のアミノ酸配列中、1つのアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えたものである。前記変異体中、−SHは、前記システイン残基の側鎖チオール基を意味し、Feは、前記ヘムタンパク質に含まれるポルフィリン基の4つの窒素原子と結合している。
【0080】
前記製造方法において、式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩の酸処理反応は、触媒存在下に溶媒中で行うことができる。前記触媒としては、例えば酸、塩基等が挙げられる。前記酸としては、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。前記塩基としては、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる
前記製造方法において、反応溶媒は限定されないが、例えば、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール等)、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の極性溶媒、緩衝液(例えば、トリス塩酸緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液)等が挙げられる。前記溶媒は、1種類を用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。前記溶媒としては、ジメチルスルホキシドおよび緩衝液から選択されるのが好ましく、ジメチルスルホキシドおよびトリス塩酸緩衝液の混合物がより好ましい。
【0081】
前記製造方法において、反応温度は限定されないが、例えば0℃〜30℃、好ましくは0℃〜10℃、より好ましくは3℃〜5℃である。
【0082】
前記製造方法において、酸処理は、pHが、例えば0.5〜3.0、好ましくは1.5〜2.5、より好ましくは1.8〜2.1で行うことができる。
【0083】
前記式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩および前記式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩の製造方法において、前記ヘムタンパク質は、シトクロム、ヘモグロビン、ミオグロビン、またはペルオキシダーゼであるのが好ましい。
【0084】
また、本発明のヘムタンパク質ポリマーまたはその塩の製造方法の一例を説明する。
【0085】
その製造方法は、式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩を中性条件下で処理することにより、ヘムタンパク質ポリマーまたはその塩を得ることを特徴とする。
【0086】
前記製造方法において、反応溶媒は限定されないが、例えば、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール等)、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の極性溶媒、緩衝液(例えば、トリス塩酸緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液)等が挙げられる。前記溶媒は、1種類を用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。前記溶媒としては、緩衝液から選択されるのが好ましく、トリス塩酸緩衝液がより好ましい。
【0087】
前記製造方法において、反応温度は限定されないが、例えば0℃〜30℃、好ましくは0℃〜10℃、より好ましくは3℃〜5℃である。
【0088】
前記製造方法において、中性条件下での処理は、pHが、例えば6.0〜10.0、好ましくは6.5〜8.5、より好ましくは7.0〜8.0で行うことができる。
【0089】
前記本発明のヘムタンパク質ポリマーまたはその塩の製造方法において、前記ヘムタンパク質ポリマーは、式(III)で表わされるヘムタンパク質ポリマーであるのが好ましい(スキーム3参照)。
【0090】
【化20】
【0091】
前記式(II)および式(III)中、
R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基、ハロゲン原子で置換された低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、
式
【0092】
【化21】
【0093】
は、ヘムタンパク質の変異体を意味し、前記変異体は、天然のヘムタンパク質のアミノ酸配列中、1つのアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えたものである。前記変異体中、−SHは、前記システイン残基の側鎖チオール基を意味し、Feは、前記ヘムタンパク質に含まれるポルフィリン基の4つの窒素原子と結合している。
【0094】
前記製造方法において、式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩は、式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩1種類の化合物であっても、その位置異性体である化合物またはその塩が共存する、混合物であってもよい。式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩と、式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩の位置異性体である化合物またはその塩との混合物である場合、得られる式(III)で表わされるヘムタンパク質ポリマーも、位置異性体の混合物になる。
【0095】
また、前記本発明のヘムタンパク質ポリマーまたはその塩の製造方法において、前記ヘムタンパク質は、シトクロム、ヘモグロビン、ミオグロビン、またはペルオキシダーゼであるのが好ましい。
【0096】
本発明の式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩をモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーまたはその塩は、前記ヘムタンパク質がシトクロム、ヘモグロビンおよびミオグロビンである場合、酸素を貯蔵する生体ポリマーとして有用である。また、前記ヘムタンパク質がペルオキシダーゼである場合、酵素の集合体として有用である。
【0097】
本発明の式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩をモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーまたはその塩は、酸性もしくは塩基性条件下で、式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩に分解することができる。従って、本発明のヘムタンパク質ポリマーまたはその塩は、pHによって集合状態を制御するpH応答性タンパク質ポリマーとして有用である。
【0098】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は、以下の実施例により限定されない。
【0099】
種々のスペクトルは、以下の機器を用いて測定した。
【0100】
核磁気共鳴(NMR)スペクトルは日本電子JEOL EX270核磁気共鳴装置(270MHz)を用いて測定し、測定溶媒の残存シグナルを内部基準として使用した。エレクトロスプレーイオン化法による飛行時間型質量分析(ESI−TOF−MS)はアプライド・バイオシステム・マリナー(Applied Biosystems Mariner)API−TOFワークステーション(Workstation)を用いて測定した。紫外可視吸収スペクトルは島津製作所製自記分光高度計UV−2550もしくはUV−3150を用いて測定した。円偏光二色性(CD)スペクトルは日本分光JASCO J820円二色性分散計を用いて測定した。水溶液のpHは堀場製作所製pHメーターF−52を用いて測定した。サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)はGEヘルスケア社製AKTAFPLCシステムにスーパーデック(Superdex)200 10/300 GLカラム(排除限界1.3×106Da)を接続し、検出にはUPC−900検出器を用いて測定した。原子間力顕微鏡(AFM)はデジタル・インスツゥルメンツ(Digital Instruments)社製ナノスコープ(Nanoscope)IIIaを用いて測定した。
【0101】
また、出発原料は、以下の文献を参考にして製造した。
プロトポルフィリンIXモノt−ブチルエステル2:T. Matsuo, T. Hayashi, Y. Hisaeda, J. Am. Chem. Soc. 124, 11234 (2002)。
モノN−Boc保護ジアミン類。ジアミン(2)、ジアミン(8)およびジアミン(13):M. Trester-Zedlitz, K. Kamada, S. K. Burley, D. Fenyo, B. T. Chait, T. W. Muir, J. Am. Chem. Soc. 125, 2416 (2003)および、R. Schneider, F. Schmitt, C. Frochot, Y. Fort, N. Lourette, F. Guillemin, J.-F. Mueller, M. Barberi-Heyob, Bioorg. Med. Chem. 13, 2799 (2005)。
N−ヨードスクシンイミド:A. Hampton, L. A. Slotin, R. R. Chawla, J. Med. Chem. 19, 1279 (1976)。
その他の一般試薬は市販品をそのまま用いた。
【実施例1】
【0102】
(1)式1(8)で示す化合物の製造
式1(8)で示す化合物は、以下のスキーム4に従い製造した。
【0103】
【化22】
【0104】
(i)式3(8)で表わす化合物の製造
窒素雰囲下、50mLのナス型フラスコにプロトポルフィリンIXモノt−ブチルエステル2(255mg,4.1×10-4mol)、N−Boc−1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン(ジアミン(8)、208mg,8.4×10-4mol)およびDMF(25mL)を加えて溶解させた。溶液を氷浴によって冷却し、そこへジフェニルリン酸アジド(DPPA,290mg,1.1×10-3mol)のDMF溶液(1mL)およびトリエチルアミン(Et3N,170mg,1.7×10-3mol)のDMF溶液(1mL)をそれぞれ加えた。この溶液を遮光下、室温にて4時間撹拌した後、再び同じ量のDPPAおよびEt3NのDMF溶液を加えた。さらに2時間撹拌した後、溶媒を減圧留去し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム/アセトン=5/1)によって精製した。得られた固体を最少量のクロロホルムに溶解させ、そこへヘキサンを加えることによって生じた沈殿を集め、標題化合物3(8)およびその位置異性体との混合物を得た(218mg,63%、紫色、固体))。
【0105】
1H NMR (270 MHz, ピリジン-d5) δ: 10.55 (s, 1H) 10.46 (s, 1H) 10.41 (s, 0.5H) 10.35 (s, 0.5H) 10.29 (s, 0.5H) 10.22 (s, 0.5H)(位置異性体の存在により、メソ-プロトンのシグナルは6つに分割した。存在比は、ピーク強度に基づき、1:1である。), 8.56-8.42 (m, 2H) 6.44 (m, 2H) 6.19 (m, 2H) 4.59-4.49 (m, 4H) 3.68-3.46 (m, 16H) 3.36 (m, 2H) 3.11 (m, 2H) 2.96 (m, 2H) 2.89 (m, 2H) 2.45 (m, 2H) 2.36 (m, 2H) 1.40 (s, 9H) 1.38 (s, 9H) -3.27 (s, 2H);
ESI-TOF-MS (positive mode) m/z 850.07 (M + H)+、C49H64N6O7について計算値:850.08;
UV-vis (CHCl3)λmax / nm (吸収) 630 (0.042) 579 (0.056) 543 (0.090) 507 (0.11) 408 (1.27)。
【0106】
(ii)式4(8)で表わす化合物の製造
窒素雰囲気下、50mLのナス型フラスコに化合物3(8)(205mg,2.4×10-4mol)、ジクロロメタン(10mL)およびトリフルオロ酢酸(4mL)を氷浴で冷却しながらそれぞれ加えた。その後、反応溶液を室温に戻し、撹拌した。7時間後、溶媒を減圧留去し、得られた残渣へ最少量のメタノールを加えて溶解させた。そこへジエチルエーテルを加えて、生じた沈殿を集めて標題化合物4(8)およびその位置異性体との混合物を得た(139mg,83%、紫色、固体)。
【0107】
1H NMR (270 MHz, ピリジン-d5) δ: 10.47 (s, 1H) 10.23 (s, 0.5H) 10.20 (s, 1H) 10.15 (s, 1H) 10.05 (s, 0.5H) 9.98 (s, 0.5H)(位置異性体の存在により、メソ-プロトンのシグナルは6つに分割した。存在比は、ピーク強度に基づき、1:1である。), 8.45-8.31 (m, 2H) 6.42 (m, 2H) 6.17 (m, 2H) 4.63-4.55 (m, 4H) 3.59-3.45 (m, 16H) 3.34 (m, 2H) 3.05-2.96 (m, 6H) 2.47 (m, 2H) 2.39 (m, 2H) -3.80 (s, 2H);
ESI-TOF-MS (positive mode) m/z 693.97 (M - TFA)+, C40H49N6O5について計算値:693.85;
UV-vis (MeOH) λmax / nm (吸収) 628 (0.018) 574 (0.042) 538 (0.055) 504 (0.057) 399 (0.93).
(iii)式5(8)で表わす化合物の製造
50mLのナス型フラスコに化合物4(8)(109mg,1.4×10-4mol)、塩化鉄(II)一水和物(630mg)および炭酸水素ナトリウム(40mg)を加え、窒素飽和にしたクロロホルムとメタノールの混合溶媒(クロロホルム/メタノール=10/1、20mL)に溶解させ、加熱還流を行った。4時間後、反応混合物を室温まで冷却し、溶媒を減圧留去した。残渣をクロロホルムとメタノールの混合溶媒(クロロホルム/メタノール=2/1)に溶解させ、0.05M塩酸で洗浄した。有機層を分離後、無水硫酸ナトリウムで脱水し、溶媒を減圧留去した。得られた残渣に最少量のメタノールを加えて溶解させ、そこへジエチルエーテルを加えて生じた沈殿を集め、水でよく洗浄し、乾燥させることによって標題の化合物5(8)およびその位置異性体との混合物を得た(92mg,80%、紫色、固体)。
【0108】
ESI-TOF-MS (positive mode) m/z 746.81 (M−Cl--HCl)+, C40H46FeN6O5について計算値:746.68;
UV-vis (MeOH) λmax / nm (吸収) 627 (0.021) 538 (0.035, sh) 502 (0.053) 397 (0.91)。
【0109】
(iv)式1(8)で表わす化合物の製造
50mLのナス型フラスコに、化合物5(8)(80mg,9.8×10-5mol)、N−ヨードスクシンイミド(367mg,1.3×10-3mol)および炭酸水素ナトリウム(47mg)を加え、アセトンと水の混合溶媒(アセトン/水=1/1、20mL)に溶解させた。室温にて2時間撹拌した後、溶液中のアセトンを減圧留去によって取り除いた。残りのけん濁した水溶液にジクロロメタン(30mL×3)を加え、抽出操作を行った。有機層をまとめて0.01M塩酸で洗浄し(30mL×3)、有機層を分離後、無水硫酸ナトリウムで脱水し、溶媒を減圧留去した。得られた残渣に最少量のジクロロメタンを加えて溶解させ、そこへジエチルエーテルを加えることによって析出した沈殿を集め、表題化合物1(8)およびその位置異性体との混合物を得た(62mg,69%、暗紫色、固体)。
【0110】
ESI-TOF-MS (positive mode) m/z 915.01 (M−Cl-)+, C42H47FeIN6O6について計算値: 914.61;
UV-vis (MeOH) λmax / nm (吸収) 627 (0.030) 538 (0.050, sh) 502 (0.072) 397 (1.35)。
【0111】
(2)シトクロムb562変異体(H63C)の調製
部位特異的変異体の生成は、タカラ(TaKaRa)社製LA PCRインビトロ突然変異生成キット(in vitro Mutagenesis)を用いて、付属のプロトコルに従い、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により行った。野生型シトクロムb562(以下b562と略す)の発現プラスミド(pUC118)を持つ大腸菌TG1を大量培養してプラスミドを調製し、H63C変異体を調製するためのテンプレートとした。変異部位導入プライマー(配列番号5)
【0112】
【化23】
【0113】
(下線部がミスマッチ塩基対)とM13プライマーM4(配列番号6)(5’−GTTTTCCCAGTCACGAC−3’)、もしくはM13プライマーRV配列番号7(5’−CAGGAAACAGCTATGAC−3’)とMUT4プライマー配列番号8(5’−GGCCAGTGCCTAGCTTACAT−3’)を用い、それぞれの系でPCRによる第1段階のDNA増幅を行った。これら2つの第1段階PCR産物からヘテロな2本鎖DNAを調製し、M13プライマーRVとM13プライマーM4を用いて、このヘテロな2本鎖DNAのPCRによる第2段階の増幅を行った。b562変異体の塩基配列を持つDNA断片を、制限酵素EcoR IとHindIIIによって切り出し、pUC118ベクターのEcoRI/HindIII部位に特異的に連結した。その後、大腸菌(Escherichia coli)菌株TG1を得られた発現プラスミドによって形質転換した。H63C変異体の塩基配列はDNAシークエンシングにより確認した(配列番号4)。その際、Ala37の位置にも変異が見られたが、無変化の変異であった(GCCがGCGに変異)。変異体タンパク質は大腸菌株TG1を用い、文献(Y. Kawamata, S. Machida, T. Ogawa, K. Horie, T. Nagamune, J. Lumin. 98, 141 (2002))に従って野生型b562の発現と同様の操作で大量発現した。発現したタンパク質は、陽イオン交換カラム(CM−52、2.7cm×18cm)とゲル濾過カラム(セファデックスG−50、1.5cm×100cm)によって精製し、Rz=A418/A280≧6.0のフラクションを回収して以下の実験に使用した。
【0114】
(3)ヘムタンパク質モノマーおよびそのモノマーをモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーの製造(スキーム5参照)
【0115】
【化24】
【0116】
前記式(V−1)
【0117】
【化25】
【0118】
は、実施例1(2)において発現したタンパク質変異体である、シトクロムb562変異体(H63C)を意味し、前記変異体は、天然のシトクロムb562のアミノ酸配列中、第63番目のヒスチジン残基をシステイン残基に置き換えたものである。前記変異体中、−SHは、前記システイン残基の側鎖チオール基を意味し、Feは、前記ヘムタンパク質に含まれるポルフィリン基の4つの窒素原子と結合している。
【0119】
窒素雰囲気下、30mLの二つ口フラスコに窒素飽和の3mLの0.1M炭酸水素ナトリウム水溶液(NaOHを加えてpH9.0に調整したもの)および化合物1(8)(2.48×10-6mol)のDMSO溶液(0.1mL)を加えて室温にて撹拌した。そこへ、実施例1(2)において発現したH63Cのストック溶液(200μL,0.05Mトリス−HCl緩衝液中濃度1.24×10-3M、pH7.3、1×10-4MのEDTAを含む)を滴下して加え、溶液を窒素下、室温にて穏やかに撹拌した。7時間後、化合物1(8)とH63C(V−1)の結合体であるヘムタンパク質モノマー(I−1)を得た。
【0120】
前記溶液中のヘムタンパク質モノマー(I−1)に塩酸を加えてpH1.9とし、ヘムタンパク質モノマー(II−1)を得た。前記ヘムタンパク質モノマー(II−1)の水溶液へ2−ブタノン(5mL×4)を加えて抽出操作を行った。水層を分離して透析膜(Wako,MWCO、14,000Da)へと移し、トリス−HCl緩衝液(pH7.3)によって4℃で透析を行った(500mL×2時間×3)。得られたヘムタンパク質ポリマー(8)の水溶液を限外ろ過によって約10-3Mまで濃縮し、冷暗所にて保管した。
【0121】
前記ヘムタンパク質ポリマー(8)は、式(III−1)の構造であると推測できる。
【0122】
【化26】
【0123】
前記式(V−1)
【0124】
【化27】
【0125】
は、実施例1(2)において発現したタンパク質変異体である、シトクロムb562変異体(H63C)を意味し、前記変異体は、天然のシトクロムb562のアミノ酸配列中、第63番目のヒスチジン残基をシステイン残基に置き換えたものである。前記変異体中、−SHは、前記システイン残基の側鎖チオール基を意味し、Feは、前記ヘムタンパク質に含まれるポルフィリン基の4つの窒素原子と結合している。
【実施例2】
【0126】
(1)式1(2)で示す化合物の製造
式1(2)で示す化合物は、以下のスキーム6に従い製造した。詳細には、N−Boc−1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン(ジアミン(8))の代わりに、N−Boc−1,2−ジアミノエタン(ジアミン(2))を用いた以外は、実施例1(1)の式1(8)で示す化合物の製造と同様にして行った。
【0127】
【化28】
【0128】
得られた化合物3(2)、化合物4(2)、化合物5(2)および化合物1(2)のデータを以下に示す。
【0129】
化合物3(2): 収率33%。
1H NMR (270 MHz, ピリジン-d5) δ10.47 (s, 1H) 10.38 (s, 1H) 10.36 (s, 0.5H) 10.30 (s, 0.5H) 10.21 (s, 0.5H) 10.16 (s, 0.5H) 8.51-8.38 (m, 2H) 6.45-6.16 (m, 4H), 4.60-4.45 (m, 4H), 3.65-3.41 (m, 16H) 3.43 (m, 2H) 3.33 (m, 2H) 1.33 (s, 9H) 1.26 (s, 9H) -3.39 (s, 2H);
ESI-TOF-MS (positive mode) m/z 761.70 (M + H)+, C45H57N6O5について計算値: 761.97;
UV-vis (CHCl3) λmax / nm (吸収) 630 (0.032) 575 (0.041) 542 (0.070) 506 (0.084) 408 (1.02)。
【0130】
化合物4(2):収率 88%。
1H NMR (270 MHz, ピリジン-d5) δ 10.64 (s, 1H) 10.44 (s, 1H) 10.36 (m, 1H) 10.25 (m, 1H) 8.52-8.42 (m, 2H) 6.47-6.17 (m, 4H), 4.63-4.50 (m, 4H), 3.67-3.52 (m, 16H) 3.42-3.28 (m, 4H) -3.29 (s, 2H);
ESI-TOF-MS (positive mode) m/z 605.31 (M - TFA)+, C36H41N6O3について計算値: 605.75;
UV-vis (MeOH) λmax / nm (吸収)627 (0.034) 574 (0.048) 537 (0.087) 503 (0.10) 401 (1.12)。
【0131】
化合物5(2): 収率 93%。
ESI-TOF-MS (positive mode) m/z 658.21 (M−Cl--HCl)+, C36H38FeN6O3について計算値: 658.57
UV-vis (MeOH) λmax / nm (吸収) 598 (0.082) 478 (0.13) 398 (1.02)。
【0132】
化合物1(2): 収率 定量的。
ESI-TOF-MS (positive mode) m/z 626.16 (M-Cl-)+, C38H39FeIN6O4について計算値: 626.50
UV-vis (MeOH) λmax /nm (吸収) 610 (0.027) 495 (0.061) 397 (1.04)。
【0133】
(2)ヘムタンパク質モノマーおよびそのモノマーをモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーの製造(スキーム7参照)
式1(2)で示す化合物を用いて、ヘムタンパク質モノマーおよびそのモノマーをモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマー(2)を以下のスキーム7に従い製造した。詳細には、化合物1(8)の代わりに、化合物1(2)を用いた以外は、実施例1(3)のスキーム5に示す製造と同様にして行った。
【0134】
【化29】
【0135】
前記ヘムタンパク質ポリマー(2)は、式(III−2)の構造であると推測できる。
【0136】
【化30】
【0137】
前記式
【0138】
【化31】
【0139】
については前記と同様。
【実施例3】
【0140】
(1)式1(13)で示す化合物の製造
式1(13)で示す化合物は、以下のスキーム8に従い製造した。詳細には、N−Boc−1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン(ジアミン(8))の代わりに、N−BOC−ジエチレングリコール−ビス(3−アミノプロピル)エーテル(ジアミン(13))を用いた以外は、実施例1(1)の式1(8)で示す化合物の製造と同様にして行った。
【0141】
【化32】
【0142】
得られた化合物3(13)、化合物4(13)、化合物5(13)および化合物1(13)のデータを以下に示す。
【0143】
化合物3(13): 収率 49%。
1H-NMR (270 MHz, ピリジン-d5) δ 10.34 (s, 1H) 10.21 (s, 0.5H) 10.17 (s, 1H) 10.14 (s, 1H) 10.03 (s, 0.5H) 9.95 (s, 0.5H) 8.39-8.25 (m, 2H) 6.41-6.14 (m, 4H) 4.60-4.38 (m, 4H) 3.62-3.45 (m, 16H) 3.34-3.15 (m, 12H) 3.06 (m, 2H) 2.76 (m, 2H) 2.61 (m, 2H) 2.44 (m, 2H) 1.74 (m, 2H) 1.49 (s, 9H) 1.43 (s, 9H) 1.39 (m, 2H), −3.80 (s, 2H);
ESI-TOF-MS (positive mode) m/z 921.83 (M + H)+, C53H72N6O8について計算値: 922.18;
UV-vis (CHCl3) λmax / nm (吸収) 630 (0.032) 576 (0.042) 540 (0.072) 506 (0.088) 408 (1.05)。
【0144】
化合物4(13): 収率 82%。
1H NMR (270 MHz, ピリジン-d5) δ 10.41 (s, 1H) 10.19 (s, 0.5H) 10.14 (br, 1.5H) 10.00 (s, 0.5H) 9.94 (s, 0.5H) 8.42-8.27 (m, 2H) 6.43-6.12 (m, 4H), 4.60-4.41 (m, 4H), 3.61-3.47 (m, 16H) 3.33-3.22 (m, 8H) 3.13 (m, 2H) 2.93 (m, 2H) 2.80 (m, 2H) 2.71 (m, 2H) 1.90 (m,2H) 1.44 (m, 2H) -3.88 (s, 2H);
ESI-TOF-MS (positive mode) m/z 765.55 (M - TFA)+, C44H57N6O6 について計算値:765.96;
UV-vis (MeOH) λmax / nm (吸収) 628 (0.035) 574 (0.044) 538 (0.073) 504 (0.090) 401 (1.02)。
【0145】
化合物5(13): 化合物5(13)は水溶性が高く、最後の沈殿の水洗浄を充分に行うことが出来なかった。このため、精製を行わずに次の反応に用いた。
ESI-TOF-MS (positive mode) m/z 818.70 (M -Cl--HCl)+, C44H54FeN6O6 について計算値:818.72
UV-vis (MeOH) λmax / nm (吸収) 601 (0.037) 494 (0.080) 396 (1.07)。
【0146】
化合物1(13):化合物1(13)は、更にシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製操作を行った(クロロホルム/メタノール = 10/1, v/v)。収率 19%。
ESI-TOF-MS (positive mode) m/z 986.66 (M−Cl-)+, C46H55FeIN6O7 について計算値:986.71
UV-vis (MeOH) λmax / nm (吸収) 596 (0.082) 483 (0.11) 398 (1.06)。
【0147】
(2)ヘムタンパク質モノマーおよびそのモノマーをモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーの製造(スキーム9参照)
式1(13)で示す化合物を用いて、ヘムタンパク質モノマーおよびそのモノマーをモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマー(13)を以下のスキーム9に従い製造した。詳細には、化合物1(8)の代わりに、化合物1(13)を用いた以外は、実施例1(3)のスキーム5に示す製造と同様にして行った。
【0148】
【化33】
【0149】
前記ヘムタンパク質ポリマー(13)は、式(III−3)の構造であると推測できる。
【0150】
【化34】
【0151】
前記式
【0152】
【化35】
【0153】
については前記と同様。
[実施例1から3で得られたポリマーに関する種々性質]
(i)UV−visスペクトルの測定
前記H63CのUV−visスペクトルと、実施例1で得た前記ヘムタンパク質ポリマー(8)のUV−visスペクトルを図1(a)および図1(b)にそれぞれ示す。前記UV−visスペクトルは、50mMトリス−HCl緩衝液(pH7.3)中25℃で測定した。図1(a)および図1(b)より、前記H63Cおよび前記ヘムタンパク質ポリマー(8)が野生型シトクロムb562に特徴的な418、530および564nmにおける吸収を有することを確認した。従って、野生型シトクロムb562にヘムリンカーを導入した本発明のヘムタンパク質ポリマー(8)の鉄が、野生型シトクムb562と同様にヘムポケットに保持されていることが確認できた。
【0154】
(ii)質量スペクトルの測定
前記ヘムタンパク質ポリマーのESI−TOF−MSスペクトルおよびデコンボリューション化したESI−TOF−MSスペクトルを、図2にそれぞれ示す。実施例1で得た前記ヘムタンパク質ポリマー(8)のESI−TOF−MSスペクトルを図2(a)に、前記ヘムタンパク質ポリマー(8)のデコンボリューション化したESI−TOF−MSスペクトルを図2(b)に示す。前記ヘムタンパク質ポリマー(8)の分子量の計算値は、12532.9である。図2(b)から、前記ヘムタンパク質ポリマー(8)の分子量は計算値と一致していることが確認できた。
【0155】
また、実施例2で得た前記ヘムタンパク質ポリマー(2)のESI−TOF−MSスペクトルを図2(c)に、前記ヘムタンパク質ポリマー(2)のデコンボリューション化したESI−TOF−MSスペクトルを図2(d)に示す。前記ヘムタンパク質ポリマー(2)の分子量の計算値は、12444.8である。図2(d)から、前記ヘムタンパク質ポリマー(2)の分子量は計算値と一致していることが確認できた。
【0156】
また、実施例3で得た前記ヘムタンパク質ポリマー(13)のESI−TOF−MSスペクトルを図2(e)に、前記ヘムタンパク質ポリマー(13)のデコンボリューション化したESI−TOF−MSスペクトルを図2(f)に示す。前記ヘムタンパク質ポリマー(13)の分子量の計算値は、12606.0である。図2(f)から、前記ヘムタンパク質ポリマー(13)の分子量は計算値と一致していることが確認できた。
【0157】
(iii)反応性チオールの含有量を測定
また、実施例1で得た前記ヘムタンパク質ポリマー(8)および前記H63Cについて、反応性チオールの含有量を評価した。この評価は、50mMトリスHCl緩衝液(pH7.3)中、25℃において、過剰なジチオビスニトロ安息香酸(DTNB)存在下における前記ヘムタンパク質ポリマー(8)のUVスペクトルを測定することにより行った。その結果を、前記ヘムタンパク質ポリマー(8)については図3(a)に、前記H63Cについては図3(b)に示す。図3(a)において、aは前記ヘムタンパク質ポリマー(8)自体のUVスペクトル、bはDTNB自体のUVスペクトル、cは過剰なDTNBと前記ヘムタンパク質ポリマー(8)との混合物のUVスペクトル、およびdは前記c−a−bの差のスペクトルである。前記ヘムタンパク質ポリマー(8)の代わりに前記H63Cを用いた場合の結果を図3(b)に示す。図3(b)において、aは前記H63C自体のUVスペクトル、bはDTNB自体のUVスペクトル、cは過剰なDTNBと前記H63Cとの混合物のUVスペクトル、およびdは前記c−a−bの差のスペクトルである。前記図3(a)および図3(b)から、反応性チオールの含有量は、図3bにおける450nmにおける吸光度の増加に基づき、前記H63Cについてはひとつのタンパク質あたりにひとつの反応性チオールが含まれており、前記ヘムタンパク質ポリマー(8)では反応性チオールが含まれていないことが確認できた。従って、本発明のヘムタンパク質ポリマーでは、H63Cの反応性チオールの位置に前記ヘムリンカーが修飾されていることが確認できた。
【0158】
(iv)CDスペクトルの測定
前記ヘムタンパク質ポリマーおよび前記H63Cについて、CDスペクトルを測定した。その結果を図4に示す。図4中、前記H63CのCDスペクトルはa、実施例1で得た前記ヘムタンパク質ポリマー(8)のCDスペクトルはb、実施例2で得た前記ヘムタンパク質ポリマー(2)のCDスペクトルがc、実施例3で得た前記ヘムタンパク質ポリマー(13)のCDスペクトルはdである。前記図4から、前記ヘムタンパク質ポリマーは、前記H63Cのものと比較して、極小波長およびモル楕円率に変化が無いことから、前記ヘムタンパク質ポリマー(2)、ヘムタンパク質ポリマー(8)およびヘムタンパク質ポリマー(13)は、前記H63Cの立体構造を保ったまま、ポリマーを形成していることが確認できた。
【0159】
(v)サイズ排除クロマトグラムの測定
前記ヘムタンパク質ポリマーについて、サイズ排除クロマトグラフィーを測定した。溶出溶媒には50mMトリス−HCl緩衝液(pH7.3)に0.15MのNaClを加えたものを用いた。測定は温度4℃、流速0.5mL/分にて行った。その結果を図5(a)に示す。図5(a)中、実施例1で得られた前記ヘムタンパク質ポリマー(8)のクロマトグラムはb、実施例2で得られた前記ヘムタンパク質ポリマー(2)のクロマトグラムはa、実施例3で得られた前記ヘムタンパク質ポリマー(13)のクロマトグラムはcである。標準サンプルとして、前記と同様の条件で溶出したサンプルについての結果を図5(b)に示す。図5(b)中、dは2000kDaのブルーデキストラン(排除限界における溶出位置を決めるためのサンプル)、eは440kDaのフェリチン、fは232kDのカタラーゼ、gは67kDaのアルブミン、hは25kDaのケモトリプシノーゲンおよびiは12.5kDaのH63Cについてのクロマトグラムである。図5(a)および図5(b)から、ヘム由来の吸収帯である400nmにおける光吸収を検出することによって、ヘムタンパク質ポリマーの溶出を確認した。ヘム部分とタンパク質部分とが同時に溶出しているのを確認するために、280nm検出によっても同様にSEC測定を行ったところ、400nm検出における溶出のクロマトグラムと一致したことから、ヘム部分とタンパク質部分とは複合体であるポリマーを形成しながら同時に溶出していることを確認した。
【0160】
(vi)濃度を変化させた条件下でのサイズ排除クロマトグラムの測定
実施例1で得た前記ヘムタンパク質ポリマー(8)について、前記ポリマーの濃度を12μM、50μM、125μM、310μMおよび1250μMのそれぞれにおいて、前記(v)と同様にしてサイズ排除クロマトグラムを測定した。その結果を図6に示す。図6から、前記ポリマー(8)の濃度が高くなるにつれ、前記ヘムタンパク質ポリマー(8)の長さが長くなり、かつヘムタンパク質モノマーの量が低下することが確認できた。
【0161】
(vii)ヘムを添加することによる、ヘムタンパク質モノマーからヘムタンパク質ポリマーへの変換阻害
前記(vi)で得られた結果から、前記ヘムタンパク質ポリマーは、濃度依存的にヘムタンパク質モノマーと平衡状態にあることが考えられる。この点をさらに確認するため、様々な濃度のヘムを添加した条件下で、前記(v)と同様にしてヘムタンパク質ポリマー(8)のサイズ排除クロマトグラムを測定した。前記ヘムの濃度としては、(ヘムの濃度)/(実施例1で得られたヘムタンパク質ポリマー(8)の濃度)が、0、0.3、0.6、1.0、1.5および2.0を用いた。その結果を図7に示す。図7より、ヘムの濃度が高いほど、低分子のヘムタンパク質モノマー(またはダイマー)が得られることが確認できた。従って、前記ヘムタンパク質モノマーからヘムタンパク質ポリマーへ変換する際、前記ヘムはヘムタンパク質モノマーの反応部分をふさぐことにより、変換を阻害することが確認できた。
【0162】
(viii)希薄濃度におけるUVスペクトルの測定
実施例1で得た前記ヘムタンパク質ポリマー(8)等について、前記ポリマーの濃度を2.5mMから2.5μMへと希釈し、前記(iii)と同様にしてUVスペクトルを連続的に測定した。その結果を図8に示す。図8(a)は、実施例1で得た前記ヘムタンパク質ポリマー(8)の時間経過に伴うスペクトルを、図8(b)は、図8(a)の差スペクトルを、図8(c)は、天然のヘムと、H63CのUVスペクトルを、図8(d)は、図8(c)の差スペクトルを示す。図8から、前記ヘムタンパク質ポリマー(8)は、濃度を希釈することによってUVスペクトルの形状がH63Cのスペクトルから天然のヘムのスペクトルへと時間経過とともに変化することが確認された。従って、前記ヘムタンパク質ポリマーは、濃度を希釈することによって、前記ヘムタンパク質ポリマー(8)の鉄が、ヘムポケットに保持された状態からヘムポケット外へと解離した状態へと遷移し、モノマーへと解離すると推定した。
【0163】
(ix)ヘムタンパク質モノマーとヘムタンパク質ポリマーとの平衡
前記ポリマーとモノマーとの平衡を、前記ヘムタンパク質ポリマー(2)、前記ヘムタンパク質ポリマー(8)および前記ヘムタンパク質ポリマー(13)をそれぞれ225倍に希釈した後、前記(viii)と同様にしてUVスペクトルを測定した。その結果を図9に示す。断片的な変化は、418nmにおける吸光度の変化に基づき計算した。図9から、平衡に達するまでに要する時間は、前前記ヘムタンパク質ポリマー(2)、前記ヘムタンパク質ポリマー(8)、前記ヘムタンパク質ポリマー(13)の順番で長くなることが確認できた。
【0164】
(x)原子間力顕微鏡(AFM)測定
AFM測定に用いたサンプルは以下のように調製した。高配向性焼結グラファイト(HOPG)基板の表面を壁開し、その壁開面を実施例1および3で得たヘムタンパク質ポリマーの水溶液(約10-8M、0.05Mトリス緩衝液中、pH7.3)に数秒間浸漬した。基板を溶液から引き上げた後、水でよく洗浄し、室温にて塩化カルシウムの入ったデシケーター内にてよく乾燥させた後、AFM測定装置にセットした。測定はタッピングモードで行い、スキャン速度は2Hz、探針には曲率半径が約10nmのシリコン単結晶を用いた。実施例1で得たヘムタンパク質ポリマーと実施例2で得たヘムタンパク質ポリマーのAFMイメージを図10に示す。図10(a)は、1.55μm×1.55μmサイズのHOPG上の実施例1で得たヘムタンパク質ポリマー(8)のAFMイメージ、図10(b)は、1.67μm×1.67μmサイズのHOPG上の実施例1で得たヘムタンパク質ポリマー(8)のAFMイメージ、図10(c)は、1.87μm×1.87μmサイズのHOPG上の実施例3で得たヘムタンパク質ポリマー(13)のAFMイメージ、図10(d)は、1.85μm×1.85μmサイズのHOPG上の実施例3で得たヘムタンパク質ポリマー(13)のAFMイメージを示す。図10(a)および(b)から、前記ヘムタンパク質ポリマー(8)ではいくつかのワイヤー状の組織体が確認できた。図10(c)および(d)から、前記ヘムタンパク質ポリマー(13)では、濃度条件が希薄なためにモノマーへの解離が起こり、有意なワイヤー状組織体は確認できなかった。また、図11(a)には、1.80μm×1.80μmサイズのHOPG上の実施例2で得たヘムタンパク質ポリマーのAFMイメージと、その断面図を示す。図11bには、364nm×364nmサイズのHOPG上の実施例2で得たヘムタンパク質ポリマー(2)のAFMイメージを示す。図11(a)から、多数の観測されたワイヤー状の組織体は、HOPG基板からの高さが均一であることが確認できた。また図11(b)から、ひとつの観測されたワイヤー状の組織体の長さが約350nmに達しており、ヘムタンパク質が約140量体を形成したものと推定した。
【0165】
前記AFMイメージから、本発明によって得られたヘムタンパク質モノマーは、直径約2.5nm、高さ約5.0nmの円柱状であり、ヘムタンパク質ポリマーは、それが連なった高さ2.5〜5.0nm、幅2.5〜5.0nm、長さ2〜500nmの集合体(図12参照)を形成しているものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明のヘムタンパク質ポリマーは、酵素の集合体として用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0167】
【図1a】図1aは、H63CのUV−visスペクトルを示す。
【図1b】図1bは、ヘムタンパク質ポリマー(8)のUV−visスペクトルを示す。
【図2】図2は、ヘムタンパク質ポリマー(8)のESI−TOF−MSスペクトルを示す。図2(a)は、ヘムタンパク質ポリマー(8)のESI−TOF−MSスペクトルを、図2(b)はヘムタンパク質ポリマー(8)のデコンボリューション化したESI−TOF−MSスペクトルを、図2(c)は、ヘムタンパク質ポリマー(2)のESI−TOF−MSスペクトルを、図2(d)はヘムタンパク質ポリマー(2)のデコンボリューション化したESI−TOF−MSスペクトルを、図2(e)はヘムタンパク質ポリマー(13)のESI−TOF−MSスペクトルを、図2(f)はヘムタンパク質ポリマー(13)のデコンボリューション化したESI−TOF−MSスペクトルをそれぞれ示す。
【図3a】図3aは、ヘムタンパク質ポリマー(8)とDTNBのUVスペクトルを示す。図中、aはヘムタンパク質ポリマー(8)自体のUVスペクトル、bはDTNB自体のUVスペクトル、cは過剰なDTNBと前記ヘムタンパク質ポリマー(8)との混合物のUVスペクトル、およびdは前記c−a−bの差のスペクトルである。
【図3b】図3bは、H63CとDTNBのUVスペクトルを示す。図中、aは前記H63C自体のUVスペクトル、bはDTNB自体のUVスペクトル、cは過剰なDTNBと前記H63Cとの混合物のUVスペクトル、およびdは前記c−a−bの差のスペクトルである。
【図4】図4は、前記ヘムタンパク質ポリマーおよび前記H63CのCDスペクトルを示す。
【図5】図5は、前記ヘムタンパク質ポリマーと標準物質のサイズ排除クロマトグラムを示す。図5(a)は、前記ヘムタンパク質ポリマーのクロマトグラムを、図5(b)は標準物質のクロマトグラムを示す。
【図6】図6は、ヘムタンパク質ポリマー濃度を変化させた条件下でのサイズ排除クロマトグラムを示す。
【図7】図7は、様々なヘム濃度の条件下におけるヘムタンパク質ポリマーのサイズ排除クロマトグラムを示す。
【図8】図8は、希薄濃度におけるUVスペクトルを示す。図8(a)は、実施例1で得た前記ヘムタンパク質ポリマーのスペクトルを、図8(b)は、図8(a)の差スペクトルを、図8(c)は、天然のヘムと、H63CのUVスペクトルを、図8(d)は、図8(c)の差スペクトルを示す。
【図9】図9は、225倍に希釈した前記ヘムタンパク質ポリマーと前記ヘムタンパク質モノマーとの平衡を示すUVスペクトルの時間変化を示す。
【図10】図10は、ヘムタンパク質ポリマーのAFMイメージを示す。図10(a)は、1.55μm×1.55μmサイズのHOPG上の実施例1で得たヘムタンパク質ポリマーのAFMイメージ、図10(b)は、1.67μm×1.67μmサイズのHOPG上の実施例1で得たヘムタンパク質ポリマーのAFMイメージ、図10(c)は、1.87μm×1.87μmサイズのHOPG上の実施例3で得たヘムタンパク質ポリマーのAFMイメージ、図10(d)は、1.85μm×1.85μmサイズのHOPG上の実施例3で得たヘムタンパク質ポリマーのAFMイメージを示す。
【図11a】図11aは、1.80μm×1.80μmサイズのHOPG上の実施例2で得たヘムタンパク質ポリマーのAFMイメージと、その断面図を示す。
【図11b】図11bは、364nm×364nmサイズのHOPG上の実施例2で得たヘムタンパク質ポリマーのAFMイメージを示す。
【図12】図12は、ヘムタンパク質ポリマーの模式図を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0168】
配列番号1 シトクロムb562
配列番号2 ミオグロビン(sus scrofa)
配列番号3 西洋ワサビペルオキシダーゼ
配列番号4 H63Cシトクロムb562
配列番号5 変異部位導入プライマー
配列番号6 M13プライマーM4
配列番号7 M13プライマーRV
配列番号8 MUT4プライマー
配列番号9 ヘモグロビンαサブユニット(human)
配列番号10 ヘモグロビンβサブユニット(human)
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘムタンパク質ポリマー製造用モノマーおよびそのモノマーから得られるポリマーに関する。より詳細には、本発明は、ヘムタンパク質ポリマー製造用モノマー、およびそのモノマーをモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、小分子量を有する有機化合物を様々な相互作用、例えば配位結合、共有結合、イオン結合等により規則的に配列させ、大分子量を有する有機化合物を製造することが試みられている(例えば、非特許文献1参照)。このようにして製造された大分子量の有機化合物は、様々な機能を有するナノデバイスとしての利用が期待されている。
【0003】
一方、もともと大分子量を有する有機化合物、例えばタンパク質を様々な相互作用、例えば配位結合、共有結合、イオン結合等により規則的に配列させ、さらに大分子量を有する有機化合物を製造することは、非常に困難である。この困難さの理由としては、高次立体構造を有するタンパク質の表面に存在する官能基に対して適切に化学修飾を施すことが困難であること、かつ、そのように化学修飾されたタンパク質同士を相互作用させるようなしくみを開発するのが困難であることなどが挙げられる。
【非特許文献1】J.-M. Lehn, "Supramolecular Chemistry: Concepts and Perspectives" ドイツ、Weinheim、VCH社出版、1995年.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、大分子量を有するタンパク質を規則的に配列させることにより得られる、さらに大分子量を有するタンパク質ポリマーの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、一般式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩である。
【0006】
【化9】
【0007】
前記式(I)中、
R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基、ハロゲン原子で置換された低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、
式
【0008】
【化10】
【0009】
は、ヘムタンパク質の変異体を意味し、前記変異体は、天然のヘムタンパク質のアミノ酸配列中、1つのアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えたものである。前記変異体中、−SHは、前記システイン残基の側鎖チオール基を意味し、Feは、前記ヘムタンパク質に含まれるポルフィリン基の4つの窒素原子と結合している。
【0010】
また、本発明は、一般式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩である。
【0011】
【化11】
【0012】
前記式(II)中、
R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基、ハロゲン原子で置換された低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、
式
【0013】
【化12】
【0014】
は、ヘムタンパク質の変異体を意味し、前記変異体は、天然のヘムタンパク質のアミノ酸配列中、1つのアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えたものである。前記変異体中、−SHは、前記システイン残基の側鎖チオール基を意味する。
【0015】
また、本発明は、前記式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩をモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーまたはその塩である。
【0016】
前記式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩および前記式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩は、ヘムタンパク質ポリマー製造用モノマーとして有用である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のヘムタンパク質モノマーまたはその塩は、大分子量を有する。そのヘムタンパク質モノマーまたはその塩を、ヘムを利用して規則的に配列させることにより、さらに大分子量を有するヘムタンパク質ポリマーを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、前記のように、前記一般式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩である。
【0019】
また、本発明は、前記のように、前記一般式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩である。
【0020】
また、本発明は、前記のように、前記式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩をモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーまたはその塩である。なお、前記ヘムタンパク質ポリマーまたはその塩を構成する、前記式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩は、1種類であっても、2種類以上の混合物であってもよい。また、前記ヘムタンパク質ポリマーは、一般式(III)で表わされるヘムタンパク質ポリマーであるのが好ましい。
【0021】
【化13】
【0022】
前記式(III)中、
R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基、ハロゲン原子で置換された低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、
式
【0023】
【化14】
【0024】
は、ヘムタンパク質の変異体を意味し、前記変異体は、天然のヘムタンパク質のアミノ酸配列中、1つのアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えたものである。前記変異体中、−SHは、前記システイン残基の側鎖チオール基を意味し、Feは、前記ヘムタンパク質に含まれるポルフィリン基の4つの窒素原子と結合している。
【0025】
本発明において、「低級」は特に指示がなければ、炭素原子が1〜6個、好ましくは炭素原子1〜4個を意味する。
【0026】
「低級アルキル基」および「ハロゲン原子で置換された低級アルキル基」中の「低級アルキル基」としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル等のような直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数1〜6のアルカンの残基を意味する。低級アルキル基の好ましい例としては、炭素数1〜5のアルキルが挙げられる。好ましい炭素数1〜5のアルキルとしては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、第三級ブチル、ペンチル、ネオペンチル等が挙げられる。
【0027】
「低級アルケニル基」としては、ビニル、アリル、イソプロペニル、1−、2−もしくは3−ブテニル、1−、2−、3−もしくは4−ペンテニル、1−、2−、3−、4−もしくは5−へキセニル等の炭素数2〜6個を有する直鎖または分枝鎖アルケニル基が挙げられる。好ましい低級アルケニル基としては、ビニルが挙げられる。
【0028】
「ハロゲン原子」としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられ、中でもフッ素が好ましい。
【0029】
「ハロゲン原子で置換された低級アルキル基」の例としては、前記低級アルキル基の1以上の水素原子が、前記ハロゲン原子で置き換えられたものを意味する。前記ハロゲン原子で置換された低級アルキル基の好ましい例としては、ヨウ化メチル、ジクロロメチル、トリクロロメチル、トリフルオロメチル等が挙げられる。好ましいハロゲン原子で置換された低級アルキル基としては、トリフルオロメチルが挙げられる。
【0030】
本発明のモノマーまたはポリマーおよびその塩は、溶媒和物の形をとることもありうるが、これも本発明の範囲に含まれる。溶媒和物としては、好ましくは、水和物及びエタノール和物が挙げられる。
【0031】
前記式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩、前記式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩、および前記式(III)で表わされるヘムタンパク質ポリマーまたはその塩において、前記ヘムタンパク質は、ヘムを1以上有するタンパク質であれば特に限定されないが、例えば、シトクロム、ヘモグロビン、ミオグロビン、またはペルオキシダーゼが挙げられる。前記シトクロムとしては、例えばシトクロムb562、シトクロムb5、シトクロムP450CAMが挙げられ、中でもシトクロムb562が好ましい。前記ヘモグロビンとしては、例えばヘモグロビン(human)、ヘモグロビン(bovine)、ヘモグロビン(equine)、ヘモグロビン(rat)が挙げられ、中でもヘモグロビン(human)が好ましい。前記ミオグロビンとしては、例えばミオグロビン(sus scrofa)、ミオグロビン(equine)、ミオグロビン(human)、ミオグロビン(sperm whale)が挙げられ、中でもミオグロビン(sus scrofa)が好ましい。前記ペルオキシダーゼとしては、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、クロロペルオキシダーゼ、カタラーゼが挙げられ、中でも西洋ワサビペルオキシダーゼが好ましい。
【0032】
前記式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩としては、
前記式(I)中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味するのが好ましい。
【0033】
式
【0034】
【化15】
【0035】
で表わされるヘムタンパク質の変異体は、前記ヘムタンパク質のアミノ酸配列中、1つのアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えたものである。このようなヘムタンパク質の変異体は、例えば、シトクロムの場合、(a)配列番号1で表わされるアミノ酸配列の1つのアミノ酸がシステインに置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質、(b)配列番号1で表わされるアミノ酸配列の1つのアミノ酸がシステインに置換されたアミノ酸配列において、1もしくは2個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつシトクロムとして機能するタンパク質を意味する。なお、前記配列番号1で表わされるアミノ酸配列は、天然のシトクロムb562のアミノ酸配列である。天然のシトクロムb562のアミノ酸配列は、配列番号1で表わされるアミノ酸配列に限定されず、Protein Data Bankにおいて、適切なものを選択すればよい。具体的には、ID番号1QPU(1999年6月2日付)のものが挙げられ、前記配列番号1で表わされるアミノ酸配列は、ID番号1QPUのものに対応する。システインに置き換えられる前記1つのアミノ酸残基は、前記シトクロムが立体構造をとる際、構造の外側に配置されるようなアミノ酸残基が好ましい。また、システイン残基に置き換えられたことにより、前記シトクロムに含まれるヘムの構造に影響を与えない必要がある。このような置換を行うため、例えば配列番号1のアミノ酸配列において、第1〜106番目のアミノ酸残基、好ましくは第60、62、63、66、67、70、73、74、76、78、89、90、96、99および100番目のアミノ酸残基、より好ましくは第60、第63、第66、第67および第100番目のアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えることができる。
【0036】
また、このようなヘムタンパク質の変異体は、例えば、ヘモグロビンの場合、(a)配列番号9または配列番号10で表わされるアミノ酸配列の1つのアミノ酸がシステインに置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質、(b)配列番号9または配列番号10で表わされるアミノ酸配列の1つのアミノ酸がシステインに置換されたアミノ酸配列において、1もしくは2個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつヘモグロビン(human)として機能するタンパク質を意味する。なお、前記配列番号9で表わされるアミノ酸配列は、天然のヘモグロビンαサブユニットのアミノ酸配列であり、前記配列番号10で表わされるアミノ酸配列は、天然のヘモグロビンのβサブユニットのアミノ酸配列である。天然のヘモグロビンのアミノ酸配列は、配列番号9および配列番号10で表わされるアミノ酸配列に限定されず、Protein Data Bankにおいて、適切なものを選択すればよい。具体的には、ID番号1GZX(2002年7月8日付)のものが挙げられ、前記配列番号9および配列番号10で表わされるアミノ酸配列は、ID番号1GZXのものに対応する。システインに置き換えらえる前記1つのアミノ酸残基は、前記ヘモグロビンが立体構造をとる際、構造の外側に配置されるようなアミノ酸残基が好ましい。また、システイン残基に置き換えられたことにより、前記ヘモグロビンに含まれるヘムの構造に影響を与えない必要がある。
【0037】
また、このようなヘムタンパク質の変異体は、例えば、ミオグロビンの場合、(a)配列番号2で表わされるアミノ酸配列の1つのアミノ酸がシステインに置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質、(b)配列番号2で表わされるアミノ酸配列の1つのアミノ酸がシステインに置換されたアミノ酸配列において、1もしくは2個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつミオグロビンとして機能するタンパク質を意味する。なお、前記配列番号2で表わされるアミノ酸配列は、天然のミオグロビン(sus scrofa)のアミノ酸配列である。天然のミオグロビンのアミノ酸配列は、配列番号2で表わされるアミノ酸配列に限定されず、Protein Data Bankにおいて、適切なものを選択すればよい。具体的には、ID番号1MWD(1998年8月11日付)のものが挙げられ、前記配列番号2で表わされるアミノ酸配列は、ID番号1MWDのものに対応する。システインに置き換えらえる前記1つのアミノ酸残基は、前記ミオグロビンが立体構造をとる際、構造の外側に配置されるようなアミノ酸残基が好ましい。また、システイン残基に置き換えられたことにより、前記ミオグロビンに含まれるヘムの構造に影響を与えない必要がある。このような置換を行うため、例えば配列番号2のアミノ酸配列において、第1〜153番目のアミノ酸残基、好ましくは第8、12、16、53,102,106,113,117,121,126,133,140および147番目のアミノ酸残基、より好ましくは第133および第140番目のアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えることができる。
【0038】
また、このようなヘムタンパク質の変異体は、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼの場合、(a)配列番号3で表わされるアミノ酸配列の1つのアミノ酸がシステインに置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質、(b)配列番号1で表わされるアミノ酸配列の1つのアミノ酸がシステインに置換されたアミノ酸配列において、1もしくは2個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ西洋ワサビペルオキシダーゼ活性を有するタンパク質を意味する。なお、前記配列番号3で表わされるアミノ酸配列は、天然の西洋ワサビペルオキシダーゼのアミノ酸配列である。天然の西洋ワサビペルオキシダーゼのアミノ酸配列は、配列番号3で表わされるものに限定されず、Protein Data Bankにおいて、適切なものを選択すればよい。具体的には、ID番号1ATJ(1998年2月4日付)のものが挙げられ、前記配列番号3で表わされるアミノ酸配列は、ID番号1ATJのものに対応する。システインに置き換えられる前記1つのアミノ酸残基は、前記西洋ワサビペルオキシダーゼが立体構造をとる際、構造の外側に配置されるようなアミノ酸残基が好ましい。また、システイン残基に置き換えられたことにより、前記西洋ワサビペルオキシダーゼに含まれるヘムの構造に影響を与えない必要がある。
【0039】
前記変異体中、前述のように、−SHは、前記システイン残基の側鎖チオール基を意味し、Feは、前記ヘムタンパク質に含まれるポルフィリン基の4つの窒素原子と結合している。
【0040】
前記式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩としては、
前記式(I)中、R1およびR3は、それぞれ独立して、低級アルキル基であり、R2およびR4は、それぞれ独立して、低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜3の整数を意味し、
前記ヘムタンパク質がシトクロムであるのがより好ましい。
【0041】
また、前記式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩としては、
前記式(I)中、R2およびR4は、それぞれ独立して、低級アルキル基であり、R1およびR3は、それぞれ独立して、低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜3の整数を意味し、
前記ヘムタンパク質がシトクロムであるのがより好ましい。
【0042】
前記式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩としては、
前記式(I)中、R1およびR3は、それぞれ独立して、メチル基であり、R2およびR4は、それぞれ独立して、ビニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)2−、−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)2−または−(CH2)3−O−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)3−で表わされる基であり、
前記ヘムタンパク質が配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するシトクロムであり、前記1つのアミノ酸残基が第63番目のヒスチジンであるのがさらに好ましい。
【0043】
また、前記式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩としては、
前記式(I)中、R2およびR4は、それぞれ独立して、メチル基であり、R1およびR3は、それぞれ独立して、ビニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)2−、−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)2−または−(CH2)3−O−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)3−で表わされる基であり、
前記ヘムタンパク質が配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するシトクロムであり、前記1つのアミノ酸残基が第63番目のヒスチジンであるのがさらに好ましい。
【0044】
また、前記式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩としては、
前記式(II)中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味するのが好ましい。
【0045】
前記式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩としては、
前記式(II)中、R1およびR3は、それぞれ独立して、低級アルキル基であり、R2およびR4は、それぞれ独立して、低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜3の整数を意味し、
前記ヘムタンパク質がシトクロムであるのがより好ましい。
【0046】
また、前記式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩としては、
前記式(II)中、R2およびR4は、それぞれ独立して、低級アルキル基であり、R1およびR3は、それぞれ独立して、低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜3の整数を意味し、
前記ヘムタンパク質がシトクロムであるのがより好ましい。
【0047】
前記式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩としては、
前記式(II)中、R1およびR3は、それぞれ独立して、メチル基であり、R2およびR4は、それぞれ独立して、ビニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)2−、−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)2−または−(CH2)3−O−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)3−で表わされる基であり、
前記ヘムタンパク質が配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するシトクロムであり、前記1つのアミノ酸残基が第63番目のヒスチジンであるのがさらに好ましい。
【0048】
また、前記式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩としては、
前記式(II)中、R2およびR4は、それぞれ独立して、メチル基であり、R1およびR3は、それぞれ独立して、ビニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)2−、−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)2−または−(CH2)3−O−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)3−で表わされる基であり、
前記ヘムタンパク質が配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するシトクロムであり、前記1つのアミノ酸残基が第63番目のヒスチジンであるのがさらに好ましい。
【0049】
また、本発明のヘムタンパク質モノマーまたはその塩をモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーまたはその塩としては、前記ヘムタンパク質モノマーが、前記式(II)中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味する式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーであるのが好ましい。
【0050】
本発明のヘムタンパク質モノマーまたはその塩をモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーまたはその塩としては、前記ヘムタンパク質モノマーが、
前記式(II)中、R1およびR3は、それぞれ独立して、低級アルキル基であり、R2およびR4は、それぞれ独立して、低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜3の整数を意味し、
前記ヘムタンパク質がシトクロムである式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーがより好ましい。
【0051】
本発明のヘムタンパク質モノマーまたはその塩をモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーまたはその塩としては、前記ヘムタンパク質モノマーが、
前記式(II)中、R2およびR4は、それぞれ独立して、低級アルキル基であり、R1およびR3は、それぞれ独立して、低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜3の整数を意味し、
前記ヘムタンパク質がシトクロムである式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーがより好ましい。
【0052】
本発明のヘムタンパク質モノマーまたはその塩をモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーまたはその塩としては、前記ヘムタンパク質モノマーが、
前記式(II)中、R1およびR3は、それぞれ独立して、メチル基であり、R2およびR4は、それぞれ独立して、ビニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)2−、−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)2−または−(CH2)3−O−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)3−で表わされる基であり、
前記ヘムタンパク質が配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するシトクロムであり、前記1つのアミノ酸残基が第63番目のヒスチジンである式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーがさらに好ましい。
【0053】
また、本発明のヘムタンパク質モノマーまたはその塩をモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーまたはその塩としては、前記ヘムタンパク質モノマーが、
前記式(II)中、R2およびR4は、それぞれ独立して、メチル基であり、R1およびR3は、それぞれ独立して、ビニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)2−、−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)2−または−(CH2)3−O−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)3−で表わされる基であり、
前記ヘムタンパク質が配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するシトクロムであり、前記1つのアミノ酸残基が第63番目のヒスチジンである式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーがさらに好ましい。
【0054】
また、前記式(III)で表わされるヘムタンパク質ポリマーまたはその塩としては、前記式(II)中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味するヘムタンパク質モノマーまたはその塩をモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーまたはその塩が好ましい。
【0055】
また、前記式(III)で表わされるヘムタンパク質ポリマーまたはその塩としては、前記式(II)中、R1およびR3は、それぞれ独立して、低級アルキル基であり、R2およびR4は、それぞれ独立して、低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜3の整数を意味し、
前記ヘムタンパク質がシトクロムであるヘムタンパク質モノマーまたはその塩をモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーまたはその塩、
ならびに、
前記式(II)中、R2およびR4は、それぞれ独立して、低級アルキル基であり、R1およびR3は、それぞれ独立して、低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜3の整数を意味し、
前記ヘムタンパク質がシトクロムであるヘムタンパク質モノマーまたはその塩をモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーまたはその塩からなる群から選択される1以上がより好ましい。
【0056】
前記式(III)で表わされるヘムタンパク質ポリマーまたはその塩としては、前記式(II)中、R1およびR3は、それぞれ独立して、メチル基であり、R2およびR4は、それぞれ独立して、ビニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)2−、−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)2−または−(CH2)3−O−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)3−で表わされる基であり、
前記ヘムタンパク質が配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するシトクロムであり、前記1つのアミノ酸残基が第63番目のヒスチジンであるヘムタンパク質モノマーまたはその塩をモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーまたはその塩、
ならびに
前記式(II)中、R2およびR4は、それぞれ独立して、メチル基であり、R1およびR3は、それぞれ独立して、ビニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)2−、−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)2−または−(CH2)3−O−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)3−で表わされる基であり、
前記ヘムタンパク質が配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するシトクロムであり、前記1つのアミノ酸残基が第63番目のヒスチジンであるヘムタンパク質モノマーまたはその塩をモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーまたはその塩からなる群から選択される1以上がさらに好ましい。
【0057】
前記式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマーの塩、式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーの塩、および式(III)で表わされるヘムタンパク質ポリマーの塩は、前記式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマー、式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマー、および式(III)で表わされるヘムタンパク質ポリマーの、例えばナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩などの無機塩基との塩、及びトリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N'-ジベンジルエチレンアミンなどの有機アミン塩、及び塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸などの無機酸塩、及びギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、マレイン酸、酒石酸などの有機カルボン酸塩、及びメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などのスルホン酸付加塩、及びアルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸などの塩基性又は酸性アミノ酸といった塩基との塩又は酸付加塩がそれぞれ挙げられる。
【0058】
次に、本発明の式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩の製造方法の一例を説明する。
【0059】
その製造方法は、一般式(IV)で表わされるヘムリンカーと、一般式(V)で表わされるヘムタンパク質とを反応させて、請求項1に記載のヘムタンパク質モノマーまたはその塩を得ることを特徴とする(スキーム1参照)。
【0060】
【化16】
【0061】
前記式(I)および式(IV)中、
R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基、ハロゲン原子で置換された低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、
式(I)および式(V)中、式
【0062】
【化17】
【0063】
は、ヘムタンパク質の変異体を意味し、前記変異体は、天然のヘムタンパク質のアミノ酸配列中、1つのアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えたものである。前記変異体中、−SHは、前記システイン残基の側鎖チオール基を意味し、Feは、前記ヘムタンパク質に含まれるポルフィリン基の4つの窒素原子と結合している。
【0064】
前記式(IV)中、低級アルキル基および低級アルケニル基の定義は、前記のとおりである。
【0065】
前記製造方法において、式(IV)で表わされるヘムリンカーと、式(V)で表わされるヘムタンパク質との反応は、不活性ガス(例えばアルゴン、窒素等)雰囲気下に、触媒存在下に溶媒中で行うことができる。前記触媒としては、例えば酸、塩基等が挙げられる。前記酸としては塩酸、硫酸、硝酸、トルエンスルホン酸、酢酸等が挙げられる。前記塩基としては、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ酸、リン酸、水素化ナトリウム、水素化カルシウム等が挙げられる。
【0066】
前記製造方法において、反応溶媒は限定されないが、例えば、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール等)、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の極性溶媒、緩衝液(例えば、トリス塩酸緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液)等が挙げられる。前記溶媒は、1種類を用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。前記溶媒としては、ジメチルスルホキシドおよび緩衝液から選択されるのが好ましく、ジメチルスルホキシドおよびトリス塩酸緩衝液の混合物がより好ましい。
前記製造方法において、反応温度は限定されないが、例えば0℃〜100℃、好ましくは10℃〜60℃、より好ましくは20℃〜30℃である。
【0067】
前記製造方法において、反応時間は限定されないが、例えば30分〜24時間、好ましくは2時間〜10時間、より好ましくは5時間〜8時間である。
【0068】
前記製造方法において、式(IV)で表されるヘムリンカーに対し使用される式(V)で表わされるヘムタンパク質のモル比(式(IV)で表されるヘムリンカー:式(V)で表わされるヘムタンパク質)は、例えば100:1〜5:1、好ましくは50:1〜10:1、より好ましくは20:1〜10:1である。
【0069】
前記製造方法において、前記式(IV)で表されるヘムリンカーは、市販で入手してもよいし、公知文献を参照して自家製造してもよい。
【0070】
前記製造方法において、前記式(V)で表わされるヘムタンパク質は、例えば以下のようにして製造することができる。
【0071】
前記式(V)で表わされるヘムタンパク質の遺伝子は、天然のヘムタンパク質の遺伝子の塩基配列に基づいて、モルモットのトータルRNA等を利用してクローニングしてもよく、また、ホスホロアミダイト法を利用して化学的にDNA合成してもよい。前記クローニングの方法は特に制限されず、例えば、市販のクローニングキット等を利用して行える。また、前記式(V)で表わされるヘムタンパク質の遺伝子を宿主細胞内に導入すればよい。
【0072】
前記宿主細胞としては、例えば、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、酵母、細菌等が挙げられる。前記遺伝子導入方法としては、例えば、酢酸リチウム法、リン酸カルシウム法、リポソームを用いた方法、エレクトロポレーション、ウイルスベクターを用いる方法、マイクロピペットインジェクション法等があげられる。または、宿主染色体への組込み型もしくは自律複製・分配可能な人工染色体もしくはプラスミド型を用いて、それを導入してよい。
【0073】
前記宿主細胞内に導入する遺伝子は、宿主細胞内で恒常的または任意に発現するように、必要な調節配列と作動的に連結されていることが好ましい。前記調節配列とは、宿主細胞内において、作動的に連結された前記遺伝子の発現に必要な塩基配列であって、例えば、真核細胞に適した調節配列としては、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、エンハンサー等があげられる。前記作動的に連結とは、各構成要素が機能を果たすことができるように並置していることを意味する。
【0074】
また、本発明の式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩の製造方法の一例を説明する。
【0075】
その製造方法は、式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩を酸で処理することにより、式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩を得ることを特徴とする(スキーム2参照)。
【0076】
【化18】
【0077】
前記式(I)および式(II)中、
R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基、ハロゲン原子で置換された低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、
式
【0078】
【化19】
【0079】
は、ヘムタンパク質の変異体を意味し、前記変異体は、天然のヘムタンパク質のアミノ酸配列中、1つのアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えたものである。前記変異体中、−SHは、前記システイン残基の側鎖チオール基を意味し、Feは、前記ヘムタンパク質に含まれるポルフィリン基の4つの窒素原子と結合している。
【0080】
前記製造方法において、式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩の酸処理反応は、触媒存在下に溶媒中で行うことができる。前記触媒としては、例えば酸、塩基等が挙げられる。前記酸としては、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。前記塩基としては、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる
前記製造方法において、反応溶媒は限定されないが、例えば、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール等)、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の極性溶媒、緩衝液(例えば、トリス塩酸緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液)等が挙げられる。前記溶媒は、1種類を用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。前記溶媒としては、ジメチルスルホキシドおよび緩衝液から選択されるのが好ましく、ジメチルスルホキシドおよびトリス塩酸緩衝液の混合物がより好ましい。
【0081】
前記製造方法において、反応温度は限定されないが、例えば0℃〜30℃、好ましくは0℃〜10℃、より好ましくは3℃〜5℃である。
【0082】
前記製造方法において、酸処理は、pHが、例えば0.5〜3.0、好ましくは1.5〜2.5、より好ましくは1.8〜2.1で行うことができる。
【0083】
前記式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩および前記式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩の製造方法において、前記ヘムタンパク質は、シトクロム、ヘモグロビン、ミオグロビン、またはペルオキシダーゼであるのが好ましい。
【0084】
また、本発明のヘムタンパク質ポリマーまたはその塩の製造方法の一例を説明する。
【0085】
その製造方法は、式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩を中性条件下で処理することにより、ヘムタンパク質ポリマーまたはその塩を得ることを特徴とする。
【0086】
前記製造方法において、反応溶媒は限定されないが、例えば、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール等)、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の極性溶媒、緩衝液(例えば、トリス塩酸緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液)等が挙げられる。前記溶媒は、1種類を用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。前記溶媒としては、緩衝液から選択されるのが好ましく、トリス塩酸緩衝液がより好ましい。
【0087】
前記製造方法において、反応温度は限定されないが、例えば0℃〜30℃、好ましくは0℃〜10℃、より好ましくは3℃〜5℃である。
【0088】
前記製造方法において、中性条件下での処理は、pHが、例えば6.0〜10.0、好ましくは6.5〜8.5、より好ましくは7.0〜8.0で行うことができる。
【0089】
前記本発明のヘムタンパク質ポリマーまたはその塩の製造方法において、前記ヘムタンパク質ポリマーは、式(III)で表わされるヘムタンパク質ポリマーであるのが好ましい(スキーム3参照)。
【0090】
【化20】
【0091】
前記式(II)および式(III)中、
R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基、ハロゲン原子で置換された低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、
式
【0092】
【化21】
【0093】
は、ヘムタンパク質の変異体を意味し、前記変異体は、天然のヘムタンパク質のアミノ酸配列中、1つのアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えたものである。前記変異体中、−SHは、前記システイン残基の側鎖チオール基を意味し、Feは、前記ヘムタンパク質に含まれるポルフィリン基の4つの窒素原子と結合している。
【0094】
前記製造方法において、式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩は、式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩1種類の化合物であっても、その位置異性体である化合物またはその塩が共存する、混合物であってもよい。式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩と、式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩の位置異性体である化合物またはその塩との混合物である場合、得られる式(III)で表わされるヘムタンパク質ポリマーも、位置異性体の混合物になる。
【0095】
また、前記本発明のヘムタンパク質ポリマーまたはその塩の製造方法において、前記ヘムタンパク質は、シトクロム、ヘモグロビン、ミオグロビン、またはペルオキシダーゼであるのが好ましい。
【0096】
本発明の式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩をモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーまたはその塩は、前記ヘムタンパク質がシトクロム、ヘモグロビンおよびミオグロビンである場合、酸素を貯蔵する生体ポリマーとして有用である。また、前記ヘムタンパク質がペルオキシダーゼである場合、酵素の集合体として有用である。
【0097】
本発明の式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩をモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーまたはその塩は、酸性もしくは塩基性条件下で、式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩に分解することができる。従って、本発明のヘムタンパク質ポリマーまたはその塩は、pHによって集合状態を制御するpH応答性タンパク質ポリマーとして有用である。
【0098】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は、以下の実施例により限定されない。
【0099】
種々のスペクトルは、以下の機器を用いて測定した。
【0100】
核磁気共鳴(NMR)スペクトルは日本電子JEOL EX270核磁気共鳴装置(270MHz)を用いて測定し、測定溶媒の残存シグナルを内部基準として使用した。エレクトロスプレーイオン化法による飛行時間型質量分析(ESI−TOF−MS)はアプライド・バイオシステム・マリナー(Applied Biosystems Mariner)API−TOFワークステーション(Workstation)を用いて測定した。紫外可視吸収スペクトルは島津製作所製自記分光高度計UV−2550もしくはUV−3150を用いて測定した。円偏光二色性(CD)スペクトルは日本分光JASCO J820円二色性分散計を用いて測定した。水溶液のpHは堀場製作所製pHメーターF−52を用いて測定した。サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)はGEヘルスケア社製AKTAFPLCシステムにスーパーデック(Superdex)200 10/300 GLカラム(排除限界1.3×106Da)を接続し、検出にはUPC−900検出器を用いて測定した。原子間力顕微鏡(AFM)はデジタル・インスツゥルメンツ(Digital Instruments)社製ナノスコープ(Nanoscope)IIIaを用いて測定した。
【0101】
また、出発原料は、以下の文献を参考にして製造した。
プロトポルフィリンIXモノt−ブチルエステル2:T. Matsuo, T. Hayashi, Y. Hisaeda, J. Am. Chem. Soc. 124, 11234 (2002)。
モノN−Boc保護ジアミン類。ジアミン(2)、ジアミン(8)およびジアミン(13):M. Trester-Zedlitz, K. Kamada, S. K. Burley, D. Fenyo, B. T. Chait, T. W. Muir, J. Am. Chem. Soc. 125, 2416 (2003)および、R. Schneider, F. Schmitt, C. Frochot, Y. Fort, N. Lourette, F. Guillemin, J.-F. Mueller, M. Barberi-Heyob, Bioorg. Med. Chem. 13, 2799 (2005)。
N−ヨードスクシンイミド:A. Hampton, L. A. Slotin, R. R. Chawla, J. Med. Chem. 19, 1279 (1976)。
その他の一般試薬は市販品をそのまま用いた。
【実施例1】
【0102】
(1)式1(8)で示す化合物の製造
式1(8)で示す化合物は、以下のスキーム4に従い製造した。
【0103】
【化22】
【0104】
(i)式3(8)で表わす化合物の製造
窒素雰囲下、50mLのナス型フラスコにプロトポルフィリンIXモノt−ブチルエステル2(255mg,4.1×10-4mol)、N−Boc−1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン(ジアミン(8)、208mg,8.4×10-4mol)およびDMF(25mL)を加えて溶解させた。溶液を氷浴によって冷却し、そこへジフェニルリン酸アジド(DPPA,290mg,1.1×10-3mol)のDMF溶液(1mL)およびトリエチルアミン(Et3N,170mg,1.7×10-3mol)のDMF溶液(1mL)をそれぞれ加えた。この溶液を遮光下、室温にて4時間撹拌した後、再び同じ量のDPPAおよびEt3NのDMF溶液を加えた。さらに2時間撹拌した後、溶媒を減圧留去し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム/アセトン=5/1)によって精製した。得られた固体を最少量のクロロホルムに溶解させ、そこへヘキサンを加えることによって生じた沈殿を集め、標題化合物3(8)およびその位置異性体との混合物を得た(218mg,63%、紫色、固体))。
【0105】
1H NMR (270 MHz, ピリジン-d5) δ: 10.55 (s, 1H) 10.46 (s, 1H) 10.41 (s, 0.5H) 10.35 (s, 0.5H) 10.29 (s, 0.5H) 10.22 (s, 0.5H)(位置異性体の存在により、メソ-プロトンのシグナルは6つに分割した。存在比は、ピーク強度に基づき、1:1である。), 8.56-8.42 (m, 2H) 6.44 (m, 2H) 6.19 (m, 2H) 4.59-4.49 (m, 4H) 3.68-3.46 (m, 16H) 3.36 (m, 2H) 3.11 (m, 2H) 2.96 (m, 2H) 2.89 (m, 2H) 2.45 (m, 2H) 2.36 (m, 2H) 1.40 (s, 9H) 1.38 (s, 9H) -3.27 (s, 2H);
ESI-TOF-MS (positive mode) m/z 850.07 (M + H)+、C49H64N6O7について計算値:850.08;
UV-vis (CHCl3)λmax / nm (吸収) 630 (0.042) 579 (0.056) 543 (0.090) 507 (0.11) 408 (1.27)。
【0106】
(ii)式4(8)で表わす化合物の製造
窒素雰囲気下、50mLのナス型フラスコに化合物3(8)(205mg,2.4×10-4mol)、ジクロロメタン(10mL)およびトリフルオロ酢酸(4mL)を氷浴で冷却しながらそれぞれ加えた。その後、反応溶液を室温に戻し、撹拌した。7時間後、溶媒を減圧留去し、得られた残渣へ最少量のメタノールを加えて溶解させた。そこへジエチルエーテルを加えて、生じた沈殿を集めて標題化合物4(8)およびその位置異性体との混合物を得た(139mg,83%、紫色、固体)。
【0107】
1H NMR (270 MHz, ピリジン-d5) δ: 10.47 (s, 1H) 10.23 (s, 0.5H) 10.20 (s, 1H) 10.15 (s, 1H) 10.05 (s, 0.5H) 9.98 (s, 0.5H)(位置異性体の存在により、メソ-プロトンのシグナルは6つに分割した。存在比は、ピーク強度に基づき、1:1である。), 8.45-8.31 (m, 2H) 6.42 (m, 2H) 6.17 (m, 2H) 4.63-4.55 (m, 4H) 3.59-3.45 (m, 16H) 3.34 (m, 2H) 3.05-2.96 (m, 6H) 2.47 (m, 2H) 2.39 (m, 2H) -3.80 (s, 2H);
ESI-TOF-MS (positive mode) m/z 693.97 (M - TFA)+, C40H49N6O5について計算値:693.85;
UV-vis (MeOH) λmax / nm (吸収) 628 (0.018) 574 (0.042) 538 (0.055) 504 (0.057) 399 (0.93).
(iii)式5(8)で表わす化合物の製造
50mLのナス型フラスコに化合物4(8)(109mg,1.4×10-4mol)、塩化鉄(II)一水和物(630mg)および炭酸水素ナトリウム(40mg)を加え、窒素飽和にしたクロロホルムとメタノールの混合溶媒(クロロホルム/メタノール=10/1、20mL)に溶解させ、加熱還流を行った。4時間後、反応混合物を室温まで冷却し、溶媒を減圧留去した。残渣をクロロホルムとメタノールの混合溶媒(クロロホルム/メタノール=2/1)に溶解させ、0.05M塩酸で洗浄した。有機層を分離後、無水硫酸ナトリウムで脱水し、溶媒を減圧留去した。得られた残渣に最少量のメタノールを加えて溶解させ、そこへジエチルエーテルを加えて生じた沈殿を集め、水でよく洗浄し、乾燥させることによって標題の化合物5(8)およびその位置異性体との混合物を得た(92mg,80%、紫色、固体)。
【0108】
ESI-TOF-MS (positive mode) m/z 746.81 (M−Cl--HCl)+, C40H46FeN6O5について計算値:746.68;
UV-vis (MeOH) λmax / nm (吸収) 627 (0.021) 538 (0.035, sh) 502 (0.053) 397 (0.91)。
【0109】
(iv)式1(8)で表わす化合物の製造
50mLのナス型フラスコに、化合物5(8)(80mg,9.8×10-5mol)、N−ヨードスクシンイミド(367mg,1.3×10-3mol)および炭酸水素ナトリウム(47mg)を加え、アセトンと水の混合溶媒(アセトン/水=1/1、20mL)に溶解させた。室温にて2時間撹拌した後、溶液中のアセトンを減圧留去によって取り除いた。残りのけん濁した水溶液にジクロロメタン(30mL×3)を加え、抽出操作を行った。有機層をまとめて0.01M塩酸で洗浄し(30mL×3)、有機層を分離後、無水硫酸ナトリウムで脱水し、溶媒を減圧留去した。得られた残渣に最少量のジクロロメタンを加えて溶解させ、そこへジエチルエーテルを加えることによって析出した沈殿を集め、表題化合物1(8)およびその位置異性体との混合物を得た(62mg,69%、暗紫色、固体)。
【0110】
ESI-TOF-MS (positive mode) m/z 915.01 (M−Cl-)+, C42H47FeIN6O6について計算値: 914.61;
UV-vis (MeOH) λmax / nm (吸収) 627 (0.030) 538 (0.050, sh) 502 (0.072) 397 (1.35)。
【0111】
(2)シトクロムb562変異体(H63C)の調製
部位特異的変異体の生成は、タカラ(TaKaRa)社製LA PCRインビトロ突然変異生成キット(in vitro Mutagenesis)を用いて、付属のプロトコルに従い、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により行った。野生型シトクロムb562(以下b562と略す)の発現プラスミド(pUC118)を持つ大腸菌TG1を大量培養してプラスミドを調製し、H63C変異体を調製するためのテンプレートとした。変異部位導入プライマー(配列番号5)
【0112】
【化23】
【0113】
(下線部がミスマッチ塩基対)とM13プライマーM4(配列番号6)(5’−GTTTTCCCAGTCACGAC−3’)、もしくはM13プライマーRV配列番号7(5’−CAGGAAACAGCTATGAC−3’)とMUT4プライマー配列番号8(5’−GGCCAGTGCCTAGCTTACAT−3’)を用い、それぞれの系でPCRによる第1段階のDNA増幅を行った。これら2つの第1段階PCR産物からヘテロな2本鎖DNAを調製し、M13プライマーRVとM13プライマーM4を用いて、このヘテロな2本鎖DNAのPCRによる第2段階の増幅を行った。b562変異体の塩基配列を持つDNA断片を、制限酵素EcoR IとHindIIIによって切り出し、pUC118ベクターのEcoRI/HindIII部位に特異的に連結した。その後、大腸菌(Escherichia coli)菌株TG1を得られた発現プラスミドによって形質転換した。H63C変異体の塩基配列はDNAシークエンシングにより確認した(配列番号4)。その際、Ala37の位置にも変異が見られたが、無変化の変異であった(GCCがGCGに変異)。変異体タンパク質は大腸菌株TG1を用い、文献(Y. Kawamata, S. Machida, T. Ogawa, K. Horie, T. Nagamune, J. Lumin. 98, 141 (2002))に従って野生型b562の発現と同様の操作で大量発現した。発現したタンパク質は、陽イオン交換カラム(CM−52、2.7cm×18cm)とゲル濾過カラム(セファデックスG−50、1.5cm×100cm)によって精製し、Rz=A418/A280≧6.0のフラクションを回収して以下の実験に使用した。
【0114】
(3)ヘムタンパク質モノマーおよびそのモノマーをモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーの製造(スキーム5参照)
【0115】
【化24】
【0116】
前記式(V−1)
【0117】
【化25】
【0118】
は、実施例1(2)において発現したタンパク質変異体である、シトクロムb562変異体(H63C)を意味し、前記変異体は、天然のシトクロムb562のアミノ酸配列中、第63番目のヒスチジン残基をシステイン残基に置き換えたものである。前記変異体中、−SHは、前記システイン残基の側鎖チオール基を意味し、Feは、前記ヘムタンパク質に含まれるポルフィリン基の4つの窒素原子と結合している。
【0119】
窒素雰囲気下、30mLの二つ口フラスコに窒素飽和の3mLの0.1M炭酸水素ナトリウム水溶液(NaOHを加えてpH9.0に調整したもの)および化合物1(8)(2.48×10-6mol)のDMSO溶液(0.1mL)を加えて室温にて撹拌した。そこへ、実施例1(2)において発現したH63Cのストック溶液(200μL,0.05Mトリス−HCl緩衝液中濃度1.24×10-3M、pH7.3、1×10-4MのEDTAを含む)を滴下して加え、溶液を窒素下、室温にて穏やかに撹拌した。7時間後、化合物1(8)とH63C(V−1)の結合体であるヘムタンパク質モノマー(I−1)を得た。
【0120】
前記溶液中のヘムタンパク質モノマー(I−1)に塩酸を加えてpH1.9とし、ヘムタンパク質モノマー(II−1)を得た。前記ヘムタンパク質モノマー(II−1)の水溶液へ2−ブタノン(5mL×4)を加えて抽出操作を行った。水層を分離して透析膜(Wako,MWCO、14,000Da)へと移し、トリス−HCl緩衝液(pH7.3)によって4℃で透析を行った(500mL×2時間×3)。得られたヘムタンパク質ポリマー(8)の水溶液を限外ろ過によって約10-3Mまで濃縮し、冷暗所にて保管した。
【0121】
前記ヘムタンパク質ポリマー(8)は、式(III−1)の構造であると推測できる。
【0122】
【化26】
【0123】
前記式(V−1)
【0124】
【化27】
【0125】
は、実施例1(2)において発現したタンパク質変異体である、シトクロムb562変異体(H63C)を意味し、前記変異体は、天然のシトクロムb562のアミノ酸配列中、第63番目のヒスチジン残基をシステイン残基に置き換えたものである。前記変異体中、−SHは、前記システイン残基の側鎖チオール基を意味し、Feは、前記ヘムタンパク質に含まれるポルフィリン基の4つの窒素原子と結合している。
【実施例2】
【0126】
(1)式1(2)で示す化合物の製造
式1(2)で示す化合物は、以下のスキーム6に従い製造した。詳細には、N−Boc−1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン(ジアミン(8))の代わりに、N−Boc−1,2−ジアミノエタン(ジアミン(2))を用いた以外は、実施例1(1)の式1(8)で示す化合物の製造と同様にして行った。
【0127】
【化28】
【0128】
得られた化合物3(2)、化合物4(2)、化合物5(2)および化合物1(2)のデータを以下に示す。
【0129】
化合物3(2): 収率33%。
1H NMR (270 MHz, ピリジン-d5) δ10.47 (s, 1H) 10.38 (s, 1H) 10.36 (s, 0.5H) 10.30 (s, 0.5H) 10.21 (s, 0.5H) 10.16 (s, 0.5H) 8.51-8.38 (m, 2H) 6.45-6.16 (m, 4H), 4.60-4.45 (m, 4H), 3.65-3.41 (m, 16H) 3.43 (m, 2H) 3.33 (m, 2H) 1.33 (s, 9H) 1.26 (s, 9H) -3.39 (s, 2H);
ESI-TOF-MS (positive mode) m/z 761.70 (M + H)+, C45H57N6O5について計算値: 761.97;
UV-vis (CHCl3) λmax / nm (吸収) 630 (0.032) 575 (0.041) 542 (0.070) 506 (0.084) 408 (1.02)。
【0130】
化合物4(2):収率 88%。
1H NMR (270 MHz, ピリジン-d5) δ 10.64 (s, 1H) 10.44 (s, 1H) 10.36 (m, 1H) 10.25 (m, 1H) 8.52-8.42 (m, 2H) 6.47-6.17 (m, 4H), 4.63-4.50 (m, 4H), 3.67-3.52 (m, 16H) 3.42-3.28 (m, 4H) -3.29 (s, 2H);
ESI-TOF-MS (positive mode) m/z 605.31 (M - TFA)+, C36H41N6O3について計算値: 605.75;
UV-vis (MeOH) λmax / nm (吸収)627 (0.034) 574 (0.048) 537 (0.087) 503 (0.10) 401 (1.12)。
【0131】
化合物5(2): 収率 93%。
ESI-TOF-MS (positive mode) m/z 658.21 (M−Cl--HCl)+, C36H38FeN6O3について計算値: 658.57
UV-vis (MeOH) λmax / nm (吸収) 598 (0.082) 478 (0.13) 398 (1.02)。
【0132】
化合物1(2): 収率 定量的。
ESI-TOF-MS (positive mode) m/z 626.16 (M-Cl-)+, C38H39FeIN6O4について計算値: 626.50
UV-vis (MeOH) λmax /nm (吸収) 610 (0.027) 495 (0.061) 397 (1.04)。
【0133】
(2)ヘムタンパク質モノマーおよびそのモノマーをモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーの製造(スキーム7参照)
式1(2)で示す化合物を用いて、ヘムタンパク質モノマーおよびそのモノマーをモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマー(2)を以下のスキーム7に従い製造した。詳細には、化合物1(8)の代わりに、化合物1(2)を用いた以外は、実施例1(3)のスキーム5に示す製造と同様にして行った。
【0134】
【化29】
【0135】
前記ヘムタンパク質ポリマー(2)は、式(III−2)の構造であると推測できる。
【0136】
【化30】
【0137】
前記式
【0138】
【化31】
【0139】
については前記と同様。
【実施例3】
【0140】
(1)式1(13)で示す化合物の製造
式1(13)で示す化合物は、以下のスキーム8に従い製造した。詳細には、N−Boc−1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン(ジアミン(8))の代わりに、N−BOC−ジエチレングリコール−ビス(3−アミノプロピル)エーテル(ジアミン(13))を用いた以外は、実施例1(1)の式1(8)で示す化合物の製造と同様にして行った。
【0141】
【化32】
【0142】
得られた化合物3(13)、化合物4(13)、化合物5(13)および化合物1(13)のデータを以下に示す。
【0143】
化合物3(13): 収率 49%。
1H-NMR (270 MHz, ピリジン-d5) δ 10.34 (s, 1H) 10.21 (s, 0.5H) 10.17 (s, 1H) 10.14 (s, 1H) 10.03 (s, 0.5H) 9.95 (s, 0.5H) 8.39-8.25 (m, 2H) 6.41-6.14 (m, 4H) 4.60-4.38 (m, 4H) 3.62-3.45 (m, 16H) 3.34-3.15 (m, 12H) 3.06 (m, 2H) 2.76 (m, 2H) 2.61 (m, 2H) 2.44 (m, 2H) 1.74 (m, 2H) 1.49 (s, 9H) 1.43 (s, 9H) 1.39 (m, 2H), −3.80 (s, 2H);
ESI-TOF-MS (positive mode) m/z 921.83 (M + H)+, C53H72N6O8について計算値: 922.18;
UV-vis (CHCl3) λmax / nm (吸収) 630 (0.032) 576 (0.042) 540 (0.072) 506 (0.088) 408 (1.05)。
【0144】
化合物4(13): 収率 82%。
1H NMR (270 MHz, ピリジン-d5) δ 10.41 (s, 1H) 10.19 (s, 0.5H) 10.14 (br, 1.5H) 10.00 (s, 0.5H) 9.94 (s, 0.5H) 8.42-8.27 (m, 2H) 6.43-6.12 (m, 4H), 4.60-4.41 (m, 4H), 3.61-3.47 (m, 16H) 3.33-3.22 (m, 8H) 3.13 (m, 2H) 2.93 (m, 2H) 2.80 (m, 2H) 2.71 (m, 2H) 1.90 (m,2H) 1.44 (m, 2H) -3.88 (s, 2H);
ESI-TOF-MS (positive mode) m/z 765.55 (M - TFA)+, C44H57N6O6 について計算値:765.96;
UV-vis (MeOH) λmax / nm (吸収) 628 (0.035) 574 (0.044) 538 (0.073) 504 (0.090) 401 (1.02)。
【0145】
化合物5(13): 化合物5(13)は水溶性が高く、最後の沈殿の水洗浄を充分に行うことが出来なかった。このため、精製を行わずに次の反応に用いた。
ESI-TOF-MS (positive mode) m/z 818.70 (M -Cl--HCl)+, C44H54FeN6O6 について計算値:818.72
UV-vis (MeOH) λmax / nm (吸収) 601 (0.037) 494 (0.080) 396 (1.07)。
【0146】
化合物1(13):化合物1(13)は、更にシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製操作を行った(クロロホルム/メタノール = 10/1, v/v)。収率 19%。
ESI-TOF-MS (positive mode) m/z 986.66 (M−Cl-)+, C46H55FeIN6O7 について計算値:986.71
UV-vis (MeOH) λmax / nm (吸収) 596 (0.082) 483 (0.11) 398 (1.06)。
【0147】
(2)ヘムタンパク質モノマーおよびそのモノマーをモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーの製造(スキーム9参照)
式1(13)で示す化合物を用いて、ヘムタンパク質モノマーおよびそのモノマーをモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマー(13)を以下のスキーム9に従い製造した。詳細には、化合物1(8)の代わりに、化合物1(13)を用いた以外は、実施例1(3)のスキーム5に示す製造と同様にして行った。
【0148】
【化33】
【0149】
前記ヘムタンパク質ポリマー(13)は、式(III−3)の構造であると推測できる。
【0150】
【化34】
【0151】
前記式
【0152】
【化35】
【0153】
については前記と同様。
[実施例1から3で得られたポリマーに関する種々性質]
(i)UV−visスペクトルの測定
前記H63CのUV−visスペクトルと、実施例1で得た前記ヘムタンパク質ポリマー(8)のUV−visスペクトルを図1(a)および図1(b)にそれぞれ示す。前記UV−visスペクトルは、50mMトリス−HCl緩衝液(pH7.3)中25℃で測定した。図1(a)および図1(b)より、前記H63Cおよび前記ヘムタンパク質ポリマー(8)が野生型シトクロムb562に特徴的な418、530および564nmにおける吸収を有することを確認した。従って、野生型シトクロムb562にヘムリンカーを導入した本発明のヘムタンパク質ポリマー(8)の鉄が、野生型シトクムb562と同様にヘムポケットに保持されていることが確認できた。
【0154】
(ii)質量スペクトルの測定
前記ヘムタンパク質ポリマーのESI−TOF−MSスペクトルおよびデコンボリューション化したESI−TOF−MSスペクトルを、図2にそれぞれ示す。実施例1で得た前記ヘムタンパク質ポリマー(8)のESI−TOF−MSスペクトルを図2(a)に、前記ヘムタンパク質ポリマー(8)のデコンボリューション化したESI−TOF−MSスペクトルを図2(b)に示す。前記ヘムタンパク質ポリマー(8)の分子量の計算値は、12532.9である。図2(b)から、前記ヘムタンパク質ポリマー(8)の分子量は計算値と一致していることが確認できた。
【0155】
また、実施例2で得た前記ヘムタンパク質ポリマー(2)のESI−TOF−MSスペクトルを図2(c)に、前記ヘムタンパク質ポリマー(2)のデコンボリューション化したESI−TOF−MSスペクトルを図2(d)に示す。前記ヘムタンパク質ポリマー(2)の分子量の計算値は、12444.8である。図2(d)から、前記ヘムタンパク質ポリマー(2)の分子量は計算値と一致していることが確認できた。
【0156】
また、実施例3で得た前記ヘムタンパク質ポリマー(13)のESI−TOF−MSスペクトルを図2(e)に、前記ヘムタンパク質ポリマー(13)のデコンボリューション化したESI−TOF−MSスペクトルを図2(f)に示す。前記ヘムタンパク質ポリマー(13)の分子量の計算値は、12606.0である。図2(f)から、前記ヘムタンパク質ポリマー(13)の分子量は計算値と一致していることが確認できた。
【0157】
(iii)反応性チオールの含有量を測定
また、実施例1で得た前記ヘムタンパク質ポリマー(8)および前記H63Cについて、反応性チオールの含有量を評価した。この評価は、50mMトリスHCl緩衝液(pH7.3)中、25℃において、過剰なジチオビスニトロ安息香酸(DTNB)存在下における前記ヘムタンパク質ポリマー(8)のUVスペクトルを測定することにより行った。その結果を、前記ヘムタンパク質ポリマー(8)については図3(a)に、前記H63Cについては図3(b)に示す。図3(a)において、aは前記ヘムタンパク質ポリマー(8)自体のUVスペクトル、bはDTNB自体のUVスペクトル、cは過剰なDTNBと前記ヘムタンパク質ポリマー(8)との混合物のUVスペクトル、およびdは前記c−a−bの差のスペクトルである。前記ヘムタンパク質ポリマー(8)の代わりに前記H63Cを用いた場合の結果を図3(b)に示す。図3(b)において、aは前記H63C自体のUVスペクトル、bはDTNB自体のUVスペクトル、cは過剰なDTNBと前記H63Cとの混合物のUVスペクトル、およびdは前記c−a−bの差のスペクトルである。前記図3(a)および図3(b)から、反応性チオールの含有量は、図3bにおける450nmにおける吸光度の増加に基づき、前記H63Cについてはひとつのタンパク質あたりにひとつの反応性チオールが含まれており、前記ヘムタンパク質ポリマー(8)では反応性チオールが含まれていないことが確認できた。従って、本発明のヘムタンパク質ポリマーでは、H63Cの反応性チオールの位置に前記ヘムリンカーが修飾されていることが確認できた。
【0158】
(iv)CDスペクトルの測定
前記ヘムタンパク質ポリマーおよび前記H63Cについて、CDスペクトルを測定した。その結果を図4に示す。図4中、前記H63CのCDスペクトルはa、実施例1で得た前記ヘムタンパク質ポリマー(8)のCDスペクトルはb、実施例2で得た前記ヘムタンパク質ポリマー(2)のCDスペクトルがc、実施例3で得た前記ヘムタンパク質ポリマー(13)のCDスペクトルはdである。前記図4から、前記ヘムタンパク質ポリマーは、前記H63Cのものと比較して、極小波長およびモル楕円率に変化が無いことから、前記ヘムタンパク質ポリマー(2)、ヘムタンパク質ポリマー(8)およびヘムタンパク質ポリマー(13)は、前記H63Cの立体構造を保ったまま、ポリマーを形成していることが確認できた。
【0159】
(v)サイズ排除クロマトグラムの測定
前記ヘムタンパク質ポリマーについて、サイズ排除クロマトグラフィーを測定した。溶出溶媒には50mMトリス−HCl緩衝液(pH7.3)に0.15MのNaClを加えたものを用いた。測定は温度4℃、流速0.5mL/分にて行った。その結果を図5(a)に示す。図5(a)中、実施例1で得られた前記ヘムタンパク質ポリマー(8)のクロマトグラムはb、実施例2で得られた前記ヘムタンパク質ポリマー(2)のクロマトグラムはa、実施例3で得られた前記ヘムタンパク質ポリマー(13)のクロマトグラムはcである。標準サンプルとして、前記と同様の条件で溶出したサンプルについての結果を図5(b)に示す。図5(b)中、dは2000kDaのブルーデキストラン(排除限界における溶出位置を決めるためのサンプル)、eは440kDaのフェリチン、fは232kDのカタラーゼ、gは67kDaのアルブミン、hは25kDaのケモトリプシノーゲンおよびiは12.5kDaのH63Cについてのクロマトグラムである。図5(a)および図5(b)から、ヘム由来の吸収帯である400nmにおける光吸収を検出することによって、ヘムタンパク質ポリマーの溶出を確認した。ヘム部分とタンパク質部分とが同時に溶出しているのを確認するために、280nm検出によっても同様にSEC測定を行ったところ、400nm検出における溶出のクロマトグラムと一致したことから、ヘム部分とタンパク質部分とは複合体であるポリマーを形成しながら同時に溶出していることを確認した。
【0160】
(vi)濃度を変化させた条件下でのサイズ排除クロマトグラムの測定
実施例1で得た前記ヘムタンパク質ポリマー(8)について、前記ポリマーの濃度を12μM、50μM、125μM、310μMおよび1250μMのそれぞれにおいて、前記(v)と同様にしてサイズ排除クロマトグラムを測定した。その結果を図6に示す。図6から、前記ポリマー(8)の濃度が高くなるにつれ、前記ヘムタンパク質ポリマー(8)の長さが長くなり、かつヘムタンパク質モノマーの量が低下することが確認できた。
【0161】
(vii)ヘムを添加することによる、ヘムタンパク質モノマーからヘムタンパク質ポリマーへの変換阻害
前記(vi)で得られた結果から、前記ヘムタンパク質ポリマーは、濃度依存的にヘムタンパク質モノマーと平衡状態にあることが考えられる。この点をさらに確認するため、様々な濃度のヘムを添加した条件下で、前記(v)と同様にしてヘムタンパク質ポリマー(8)のサイズ排除クロマトグラムを測定した。前記ヘムの濃度としては、(ヘムの濃度)/(実施例1で得られたヘムタンパク質ポリマー(8)の濃度)が、0、0.3、0.6、1.0、1.5および2.0を用いた。その結果を図7に示す。図7より、ヘムの濃度が高いほど、低分子のヘムタンパク質モノマー(またはダイマー)が得られることが確認できた。従って、前記ヘムタンパク質モノマーからヘムタンパク質ポリマーへ変換する際、前記ヘムはヘムタンパク質モノマーの反応部分をふさぐことにより、変換を阻害することが確認できた。
【0162】
(viii)希薄濃度におけるUVスペクトルの測定
実施例1で得た前記ヘムタンパク質ポリマー(8)等について、前記ポリマーの濃度を2.5mMから2.5μMへと希釈し、前記(iii)と同様にしてUVスペクトルを連続的に測定した。その結果を図8に示す。図8(a)は、実施例1で得た前記ヘムタンパク質ポリマー(8)の時間経過に伴うスペクトルを、図8(b)は、図8(a)の差スペクトルを、図8(c)は、天然のヘムと、H63CのUVスペクトルを、図8(d)は、図8(c)の差スペクトルを示す。図8から、前記ヘムタンパク質ポリマー(8)は、濃度を希釈することによってUVスペクトルの形状がH63Cのスペクトルから天然のヘムのスペクトルへと時間経過とともに変化することが確認された。従って、前記ヘムタンパク質ポリマーは、濃度を希釈することによって、前記ヘムタンパク質ポリマー(8)の鉄が、ヘムポケットに保持された状態からヘムポケット外へと解離した状態へと遷移し、モノマーへと解離すると推定した。
【0163】
(ix)ヘムタンパク質モノマーとヘムタンパク質ポリマーとの平衡
前記ポリマーとモノマーとの平衡を、前記ヘムタンパク質ポリマー(2)、前記ヘムタンパク質ポリマー(8)および前記ヘムタンパク質ポリマー(13)をそれぞれ225倍に希釈した後、前記(viii)と同様にしてUVスペクトルを測定した。その結果を図9に示す。断片的な変化は、418nmにおける吸光度の変化に基づき計算した。図9から、平衡に達するまでに要する時間は、前前記ヘムタンパク質ポリマー(2)、前記ヘムタンパク質ポリマー(8)、前記ヘムタンパク質ポリマー(13)の順番で長くなることが確認できた。
【0164】
(x)原子間力顕微鏡(AFM)測定
AFM測定に用いたサンプルは以下のように調製した。高配向性焼結グラファイト(HOPG)基板の表面を壁開し、その壁開面を実施例1および3で得たヘムタンパク質ポリマーの水溶液(約10-8M、0.05Mトリス緩衝液中、pH7.3)に数秒間浸漬した。基板を溶液から引き上げた後、水でよく洗浄し、室温にて塩化カルシウムの入ったデシケーター内にてよく乾燥させた後、AFM測定装置にセットした。測定はタッピングモードで行い、スキャン速度は2Hz、探針には曲率半径が約10nmのシリコン単結晶を用いた。実施例1で得たヘムタンパク質ポリマーと実施例2で得たヘムタンパク質ポリマーのAFMイメージを図10に示す。図10(a)は、1.55μm×1.55μmサイズのHOPG上の実施例1で得たヘムタンパク質ポリマー(8)のAFMイメージ、図10(b)は、1.67μm×1.67μmサイズのHOPG上の実施例1で得たヘムタンパク質ポリマー(8)のAFMイメージ、図10(c)は、1.87μm×1.87μmサイズのHOPG上の実施例3で得たヘムタンパク質ポリマー(13)のAFMイメージ、図10(d)は、1.85μm×1.85μmサイズのHOPG上の実施例3で得たヘムタンパク質ポリマー(13)のAFMイメージを示す。図10(a)および(b)から、前記ヘムタンパク質ポリマー(8)ではいくつかのワイヤー状の組織体が確認できた。図10(c)および(d)から、前記ヘムタンパク質ポリマー(13)では、濃度条件が希薄なためにモノマーへの解離が起こり、有意なワイヤー状組織体は確認できなかった。また、図11(a)には、1.80μm×1.80μmサイズのHOPG上の実施例2で得たヘムタンパク質ポリマーのAFMイメージと、その断面図を示す。図11bには、364nm×364nmサイズのHOPG上の実施例2で得たヘムタンパク質ポリマー(2)のAFMイメージを示す。図11(a)から、多数の観測されたワイヤー状の組織体は、HOPG基板からの高さが均一であることが確認できた。また図11(b)から、ひとつの観測されたワイヤー状の組織体の長さが約350nmに達しており、ヘムタンパク質が約140量体を形成したものと推定した。
【0165】
前記AFMイメージから、本発明によって得られたヘムタンパク質モノマーは、直径約2.5nm、高さ約5.0nmの円柱状であり、ヘムタンパク質ポリマーは、それが連なった高さ2.5〜5.0nm、幅2.5〜5.0nm、長さ2〜500nmの集合体(図12参照)を形成しているものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明のヘムタンパク質ポリマーは、酵素の集合体として用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0167】
【図1a】図1aは、H63CのUV−visスペクトルを示す。
【図1b】図1bは、ヘムタンパク質ポリマー(8)のUV−visスペクトルを示す。
【図2】図2は、ヘムタンパク質ポリマー(8)のESI−TOF−MSスペクトルを示す。図2(a)は、ヘムタンパク質ポリマー(8)のESI−TOF−MSスペクトルを、図2(b)はヘムタンパク質ポリマー(8)のデコンボリューション化したESI−TOF−MSスペクトルを、図2(c)は、ヘムタンパク質ポリマー(2)のESI−TOF−MSスペクトルを、図2(d)はヘムタンパク質ポリマー(2)のデコンボリューション化したESI−TOF−MSスペクトルを、図2(e)はヘムタンパク質ポリマー(13)のESI−TOF−MSスペクトルを、図2(f)はヘムタンパク質ポリマー(13)のデコンボリューション化したESI−TOF−MSスペクトルをそれぞれ示す。
【図3a】図3aは、ヘムタンパク質ポリマー(8)とDTNBのUVスペクトルを示す。図中、aはヘムタンパク質ポリマー(8)自体のUVスペクトル、bはDTNB自体のUVスペクトル、cは過剰なDTNBと前記ヘムタンパク質ポリマー(8)との混合物のUVスペクトル、およびdは前記c−a−bの差のスペクトルである。
【図3b】図3bは、H63CとDTNBのUVスペクトルを示す。図中、aは前記H63C自体のUVスペクトル、bはDTNB自体のUVスペクトル、cは過剰なDTNBと前記H63Cとの混合物のUVスペクトル、およびdは前記c−a−bの差のスペクトルである。
【図4】図4は、前記ヘムタンパク質ポリマーおよび前記H63CのCDスペクトルを示す。
【図5】図5は、前記ヘムタンパク質ポリマーと標準物質のサイズ排除クロマトグラムを示す。図5(a)は、前記ヘムタンパク質ポリマーのクロマトグラムを、図5(b)は標準物質のクロマトグラムを示す。
【図6】図6は、ヘムタンパク質ポリマー濃度を変化させた条件下でのサイズ排除クロマトグラムを示す。
【図7】図7は、様々なヘム濃度の条件下におけるヘムタンパク質ポリマーのサイズ排除クロマトグラムを示す。
【図8】図8は、希薄濃度におけるUVスペクトルを示す。図8(a)は、実施例1で得た前記ヘムタンパク質ポリマーのスペクトルを、図8(b)は、図8(a)の差スペクトルを、図8(c)は、天然のヘムと、H63CのUVスペクトルを、図8(d)は、図8(c)の差スペクトルを示す。
【図9】図9は、225倍に希釈した前記ヘムタンパク質ポリマーと前記ヘムタンパク質モノマーとの平衡を示すUVスペクトルの時間変化を示す。
【図10】図10は、ヘムタンパク質ポリマーのAFMイメージを示す。図10(a)は、1.55μm×1.55μmサイズのHOPG上の実施例1で得たヘムタンパク質ポリマーのAFMイメージ、図10(b)は、1.67μm×1.67μmサイズのHOPG上の実施例1で得たヘムタンパク質ポリマーのAFMイメージ、図10(c)は、1.87μm×1.87μmサイズのHOPG上の実施例3で得たヘムタンパク質ポリマーのAFMイメージ、図10(d)は、1.85μm×1.85μmサイズのHOPG上の実施例3で得たヘムタンパク質ポリマーのAFMイメージを示す。
【図11a】図11aは、1.80μm×1.80μmサイズのHOPG上の実施例2で得たヘムタンパク質ポリマーのAFMイメージと、その断面図を示す。
【図11b】図11bは、364nm×364nmサイズのHOPG上の実施例2で得たヘムタンパク質ポリマーのAFMイメージを示す。
【図12】図12は、ヘムタンパク質ポリマーの模式図を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0168】
配列番号1 シトクロムb562
配列番号2 ミオグロビン(sus scrofa)
配列番号3 西洋ワサビペルオキシダーゼ
配列番号4 H63Cシトクロムb562
配列番号5 変異部位導入プライマー
配列番号6 M13プライマーM4
配列番号7 M13プライマーRV
配列番号8 MUT4プライマー
配列番号9 ヘモグロビンαサブユニット(human)
配列番号10 ヘモグロビンβサブユニット(human)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩。
【化1】
前記式(I)中、
R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基、ハロゲン原子で置換された低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、
式
【化2】
は、ヘムタンパク質の変異体を意味し、前記変異体は、天然のヘムタンパク質のアミノ酸配列中、1つのアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えたものである。前記変異体中、−SHは、前記システイン残基の側鎖チオール基を意味し、Feは、前記ヘムタンパク質に含まれるポルフィリン基の4つの窒素原子と結合している。
【請求項2】
一般式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩。
【化3】
前記式(II)中、
R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基、ハロゲン原子で置換された低級アルキル基、ハロゲン原子で置換された低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、
式
【化4】
は、ヘムタンパク質の変異体を意味し、前記変異体は、天然のヘムタンパク質のアミノ酸配列中、1つのアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えたものである。前記変異体中、−SHは、前記システイン残基の側鎖チオール基を意味する。
【請求項3】
前記ヘムタンパク質が、シトクロム、ヘモグロビン、ミオグロビン、またはペルオキシダーゼである請求項1または2に記載のヘムタンパク質モノマーまたはその塩。
【請求項4】
請求項2に記載のヘムタンパク質モノマーまたはその塩をモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーまたはその塩。
【請求項5】
前記ヘムタンパク質ポリマーが、一般式(III)で表わされるヘムタンパク質ポリマーである請求項4に記載のヘムタンパク質ポリマーまたはその塩。
【化5】
前記式(III)中、
R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基、ハロゲン原子で置換された低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、
式
【化6】
は、ヘムタンパク質の変異体を意味し、前記変異体は、天然のヘムタンパク質のアミノ酸配列中、1つのアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えたものである。前記変異体中、−SHは、前記システイン残基の側鎖チオール基を意味し、Feは、前記ヘムタンパク質に含まれるポルフィリン基の4つの窒素原子と結合している。
【請求項6】
請求項1に記載のヘムタンパク質モノマーまたはその塩の製造方法であって、
一般式(IV)で表わされるヘムリンカーと、一般式(V)で表わされるヘムタンパク質とを反応させて、請求項1に記載のヘムタンパク質モノマーまたはその塩を得る製造方法。
【化7】
前記式(IV)中、
R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基、ハロゲン原子で置換された低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、
式(V)
【化8】
は、ヘムタンパク質の変異体を意味し、前記変異体は、天然のヘムタンパク質のアミノ酸配列中、1つのアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えたものである。前記変異体中、−SHは、前記システイン残基の側鎖チオール基を意味し、Feは、前記ヘムタンパク質に含まれるポルフィリン基の4つの窒素原子と結合している。
【請求項7】
請求項2に記載のヘムタンパク質モノマーまたはその塩の製造方法であって、
請求項1に記載のヘムタンパク質モノマーまたはその塩を酸で処理することにより、請求項2に記載のヘムタンパク質モノマーまたはその塩を得る製造方法。
【請求項8】
請求項4に記載のヘムタンパク質ポリマーまたはその塩の製造方法であって、
請求項2に記載のヘムタンパク質モノマーまたはその塩を中性条件下で処理することにより、請求項4に記載のヘムタンパク質ポリマーまたはその塩を得る製造方法。
【請求項9】
前記ヘムタンパク質ポリマーが、請求項4に記載のヘムタンパク質ポリマーである請求項7に記載のヘムタンパク質ポリマーまたはその塩の製造方法。
【請求項10】
前記ヘムタンパク質が、シトクロム、ヘモグロビン、ミオグロビン、またはペルオキシダーゼである請求項8または9に記載のヘムタンパク質ポリマーまたはその塩の製造方法。
【請求項1】
一般式(I)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩。
【化1】
前記式(I)中、
R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基、ハロゲン原子で置換された低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、
式
【化2】
は、ヘムタンパク質の変異体を意味し、前記変異体は、天然のヘムタンパク質のアミノ酸配列中、1つのアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えたものである。前記変異体中、−SHは、前記システイン残基の側鎖チオール基を意味し、Feは、前記ヘムタンパク質に含まれるポルフィリン基の4つの窒素原子と結合している。
【請求項2】
一般式(II)で表わされるヘムタンパク質モノマーまたはその塩。
【化3】
前記式(II)中、
R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基、ハロゲン原子で置換された低級アルキル基、ハロゲン原子で置換された低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、
式
【化4】
は、ヘムタンパク質の変異体を意味し、前記変異体は、天然のヘムタンパク質のアミノ酸配列中、1つのアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えたものである。前記変異体中、−SHは、前記システイン残基の側鎖チオール基を意味する。
【請求項3】
前記ヘムタンパク質が、シトクロム、ヘモグロビン、ミオグロビン、またはペルオキシダーゼである請求項1または2に記載のヘムタンパク質モノマーまたはその塩。
【請求項4】
請求項2に記載のヘムタンパク質モノマーまたはその塩をモノマー単位とするヘムタンパク質ポリマーまたはその塩。
【請求項5】
前記ヘムタンパク質ポリマーが、一般式(III)で表わされるヘムタンパク質ポリマーである請求項4に記載のヘムタンパク質ポリマーまたはその塩。
【化5】
前記式(III)中、
R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基、ハロゲン原子で置換された低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、
式
【化6】
は、ヘムタンパク質の変異体を意味し、前記変異体は、天然のヘムタンパク質のアミノ酸配列中、1つのアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えたものである。前記変異体中、−SHは、前記システイン残基の側鎖チオール基を意味し、Feは、前記ヘムタンパク質に含まれるポルフィリン基の4つの窒素原子と結合している。
【請求項6】
請求項1に記載のヘムタンパク質モノマーまたはその塩の製造方法であって、
一般式(IV)で表わされるヘムリンカーと、一般式(V)で表わされるヘムタンパク質とを反応させて、請求項1に記載のヘムタンパク質モノマーまたはその塩を得る製造方法。
【化7】
前記式(IV)中、
R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基、ハロゲン原子で置換された低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、
Yは、式−(CH2)n1−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−、−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−または−(CH2)n1−O−(CH2)n2−O−(CH2)n3−O−(CH2)n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、
式(V)
【化8】
は、ヘムタンパク質の変異体を意味し、前記変異体は、天然のヘムタンパク質のアミノ酸配列中、1つのアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えたものである。前記変異体中、−SHは、前記システイン残基の側鎖チオール基を意味し、Feは、前記ヘムタンパク質に含まれるポルフィリン基の4つの窒素原子と結合している。
【請求項7】
請求項2に記載のヘムタンパク質モノマーまたはその塩の製造方法であって、
請求項1に記載のヘムタンパク質モノマーまたはその塩を酸で処理することにより、請求項2に記載のヘムタンパク質モノマーまたはその塩を得る製造方法。
【請求項8】
請求項4に記載のヘムタンパク質ポリマーまたはその塩の製造方法であって、
請求項2に記載のヘムタンパク質モノマーまたはその塩を中性条件下で処理することにより、請求項4に記載のヘムタンパク質ポリマーまたはその塩を得る製造方法。
【請求項9】
前記ヘムタンパク質ポリマーが、請求項4に記載のヘムタンパク質ポリマーである請求項7に記載のヘムタンパク質ポリマーまたはその塩の製造方法。
【請求項10】
前記ヘムタンパク質が、シトクロム、ヘモグロビン、ミオグロビン、またはペルオキシダーゼである請求項8または9に記載のヘムタンパク質ポリマーまたはその塩の製造方法。
【図1a】
【図1b】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11a】
【図11b】
【図12】
【図1b】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11a】
【図11b】
【図12】
【公開番号】特開2008−222565(P2008−222565A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−59109(P2007−59109)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
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