説明

ヘモグロビン類の測定方法

【課題】容易に、かつ、高精度な測定が可能なヘモグロビン類の測定方法を提供する。
【解決手段】液体クロマトグラフィー法によるヘモグロビン類の測定方法であって、緩衝液として、多糖類を含有する緩衝液を用いるヘモグロビン類の測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容易に、かつ、高精度な測定が可能なヘモグロビン類の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘモグロビン(Hbともいう)類、なかでも糖化ヘモグロビン類の一種であるヘモグロビンA1c(以下、HbA1cともいう)は、過去1〜2カ月間の血液中の平均的な糖濃度を反映しているため、糖尿病のスクリーニング検査や糖尿病患者の血糖管理状態を把握するための検査項目として広く利用されている。
【0003】
HbA1cの測定は、液体クロマトグラフィー(HPLC)法、免疫法、電気泳動法等により行なわれてきた。このうち、臨床検査分野で多く用いられているのは液体クロマトグラフィー法である。液体クロマトグラフィー法では、1試料当たり1〜2分での測定が可能であり、また、同時再現性試験のCV値が1.0%程度の測定精度が実現されている。糖尿病患者の血糖管理状態を把握するための測定方法としては、少なくともこのレベルの性能が必要とされている。
【0004】
HPLC法によるヘモグロビンA1cの測定方法では、通常カチオン交換クロマトグラフィーによる測定が用いられている。しかしながら、従来の方法では、ヘモグロビンA1cのピークと他のヘモグロビン類のピークとの分離性能が必ずしも充分ではなく、高精度な測定が難しいという問題があった。
【0005】
これに対して、例えば特許文献1等に、カラム充填剤を改良する方法が開示されている。しかし、カラム充填剤の改良は、技術的に非常に困難であって検討が容易ではない。また、1検体当たりの測定時間を数分以下の短時間とするためには、ヘモグロビンA1cピークの保持時間を数秒レベルで管理できるように、カチオン交換基導入量を管理したカラム充填剤が必要となる。そのため、カラム充填剤の製造ロスが多量に生じる等の大きな問題となっていた。
【0006】
一方、別のアプローチとして溶離液等の試薬類を改良する試みもなされている。例えば、特許文献2、3には、特殊な緩衝液を用いてヘモグロビンA1cのピークの分離性能を改良する方法が提案されている。しかしながら、これらの技術でも、現在のヘモグロビンA1cの測定の精度の要求を満たせるものではなかった。
【特許文献1】特公平08−007197号公報
【特許文献2】特開平11−295286号公報
【特許文献3】特開2000−055899号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、容易に、かつ、高精度な測定が可能なヘモグロビン類の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、液体クロマトグラフィー法によるヘモグロビン類の測定方法であって、緩衝液として、多糖類を含有する緩衝液を用いるヘモグロビン類の測定方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、測定の際に用いる溶離液、試料を調製する際に用いる溶血液又は希釈液、必要に応じて前処理等に用いる前処理液等として多糖類を含有する緩衝液を用い、液体クロマトグラフィー法による分析を行った場合には、ヘモグロビン類の測定精度を著しく向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明のヘモグロビン類の測定方法においては、多糖類を含有する緩衝液(以下、「糖緩衝液」ともいう)を用いる。
上記糖緩衝液は、例えば、測定の際に用いる溶離液、試料を調製する際に用いる溶血液又は希釈液、必要に応じて前処理等の、通常のHPLC法に用いられる一部又は全ての試薬類に用いることができる。即ち、全ての試薬に適用してもよいし、一部の試薬のみに用いてもよい。例えば、溶離液を複数種用いる場合には、全ての溶離液に用いてもよいし、一部の溶離液にのみ用いてもよい。より好ましくは、血液試料を溶血するために用いる溶血用試薬、同試料を希釈するために用いる希釈用試薬、試料を測定するために用いる溶離液に用いることである。特に溶離液として用いることが好ましい。
【0011】
上記糖緩衝液のベースとなる緩衝液としては特に限定されず、例えば、クエン酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸等の有機酸及びその塩類;グリシン、タウリン、アルギニン等のアミノ酸類;塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ホウ酸、酢酸等の無機酸及びその塩類、グッドの緩衝液類等の従来公知の緩衝液を用いることができる。また、上記緩衝液には、界面活性剤、各種ポリマー、親水性の低分子化合物等の公知の添加剤を適宜添加してもよい。
【0012】
上記緩衝液の塩濃度の好ましい下限は10mM、好ましい上限は1000mMである。10mM未満であると、イオン交換反応が行なわれず、ヘモグロビン類を分離することができないことがあり、1000mMを超えると、塩が析出しシステムに悪影響を及ぼすことがある。
上記緩衝液のpHの好ましい下限は4.0、好ましい上限は9.0である。pHがこの範囲外であると、ヘモグロビン類を大きく変性させ、測定の再現性が低下することがある。より好まししい下限は4.5、より好ましい上限は8.5である。
【0013】
上記糖緩衝液に用いる多糖類としては特に限定されず、例えば、中性の多糖類、カチオン性交換基を有する多糖類、アニオン性交換基を有する多糖類等を用いることができる。
上記中性の多糖類としては、例えば、セルロース、マンナン、デンプン、マンナン、キチン、デキストラン、コンドロイチン及びその誘導体類等が挙げられる。
上記カチオン性交換基を有する多糖類としては、例えば、ヒアルロン酸、ムラミン酸、ペクチン酸、アルギン酸等のカルボキシル基を有する多糖類;タイコ酸、ホスホマンナン等のリン酸基を有する多糖類;コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、フコイダン等のスルホン酸基を有する多糖類;及び上記中性の多糖類のカチオン交換基導入誘導体等が挙げられる。
上記アニオン性交換基を有する多糖類としては、例えば、キチン、キトサン、アミノセルロース、N−メチルアミノセルロース等のN−置換セルロース等の1級〜3級のアミノ基又は4級アンモニウム基を有する多糖類;及び上記中性の多糖類のアニオン交換基導入誘導体等が挙げられる。
これらの多糖類は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、カチオン交換基を有する多糖類が好ましく、スルホン酸基を有する多糖類がより好ましい。特にコンドロイチン硫酸が好適である。
【0014】
上記多糖類の分子量の好ましい下限は1、000、好ましい上限は10、000、000である。1、000未満であると、多糖類を添加することによる測定精度向上効果が得られないことがあり、10、000、000を超えると、緩衝液中で析出し、測定に悪影響を及ぼすことがある。より好ましい下限は5、000、より好ましい上限は5、000、000である。
【0015】
上記糖緩衝液中の多糖類の濃度は、対象となる試薬や用いる多糖類によっても異なるが、好ましい下限は0.01重量%、好ましい上限は20重量%である。0.01重量%未満であると、多糖類を添加することによる測定精度向上効果が得られないことがあり、20重量%を超えると、糖緩衝液の粘度が高くなり測定に悪影響を及ぼすことがある。より好ましい下限は0.1重量%、より好ましい上限は10重量%である。
【0016】
本発明のヘモグロビン類の測定方法は、上記糖緩衝液を用いて液体クロマトグラフィー法により測定を行う。
測定は、公知の液体クロマトグラフィーシステム、即ち、溶離液送液用のポンプ、サンプラ、検出器等を備えたシステムに、カラム充填剤を充填したカラムを接続して行う。
【0017】
上記カラム充填剤としては、イオン交換基を有するカラム充填剤が好適である。上記イオン交換基を有するカラム充填剤のイオン交換基としては、例えば、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基等のカチオン交換基;1級〜3級アミノ基、4級アンモニウム基などのアニオン交換基が挙げられる。なかでも、カチオン交換基が好ましく、スルホン酸基がより好ましい。
【0018】
溶離液の少なくとも1つとして上記イオン交換基を有する多糖類を含む緩衝液を用いる場合には、イオン交換基を有しないカラム充填剤を用いることができる。カラム充填剤にイオン交換基を導入する必要がないため、カラム充填剤の製造再現性に非常に有利である。
【0019】
上記カラム充填剤の基材としては、有機重合体からなる架橋重合体、より好ましくは架橋性の(メタ)アクリル酸エステルの架橋重合体からなるものが好適である。
上記架橋性の(メタ)アクリル酸エステルとしては特に限定されず、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類;プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート類;ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール−テトラメチレングリコール)−ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールポリエチレングリコール−ジ(メタ)アクリレート、1、3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1、4−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1、6−ヘキサグリコールジ(メタ)アクリレート、1、9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類;2−ヒドロキシ−1,3−ジ(メタ)アクリロキシプロパン、2−ヒドロキシ−1−(メタ)アクリロキシ−3−(メタ)アクリロキシプロパン、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレー、グリセロールジ(メタ)アクリレート、グリセロールアクリレートメタクリレート、ウレタン(メタ)ジアクリレート、イソシアヌル酸ジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、1,10−ジ(メタ)アクリロキシ−4,7−ジオキサデカン−2,9−ジオール、1,10−ジ(メタ)アクリロキシ−5−メチル−4,7−ジオキサデカン−2,9−ジオール、1,11−ジ(メタ)アクリロキシ−4,8−ジオキサウンデガン−2,6,10−トリオール等のヒドロキシアルキルジ(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート等のxアルカロールアルカン(メタ)アクリレート類等が挙げられる。これらの架橋性の(メタ)アクリル酸エステルは、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0020】
上記基材を構成する架橋重合体は、上記架橋性の(メタ)アクリル酸エステルと非架橋性単量体との共重合体であってもよい。
上記非架橋性単量体としては特に限定されないが、非架橋性の(メタ)アクリル酸エステル類が好適である。
上記非架橋性の(メタ)アクリル酸エステル類としては特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸アルキル類;(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル等のアクリル酸誘導体等が挙げられる。
エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシトリ(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート類;プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート類;ポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール・テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール・テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコール−モノ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート類;グリシジル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2、3−ジヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、2、3−ジヒドロキシルプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基又はグリシジル基を有する(メタ)アクリレート類が挙げられる。これらの非架橋性の(メタ)アクリル酸エステルは、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0021】
上記基材を構成する架橋重合体が、上記架橋性の(メタ)アクリル酸エステルと非架橋性単量体との共重合体である場合、上記架橋性の(メタ)アクリル酸エステル100重量部に対する上記非架橋性単量体の配合量の好ましい上限は50重量部である。50重量部を超えると、上記基材を構成する架橋重合体の架橋度が低く、膨潤や収縮をしやすくなることから、液体クロマトグラフィー法による測定において緩衝液を切り替えたときの平衡化に時間がかかり、測定時間が長くなってしまうことがある。より好ましい上限は20重量部である。
【0022】
上記基材を構成する架橋重合体は、上記架橋性の(メタ)アクリル酸エステルと非架橋性単量体との混合物を用い、乳化重合法、ソープフリー重合法、分散重合法、懸濁重合法、シード重合法等の公知の重合方法により共重合することにより製造することができる。
【0023】
上記イオン交換基を有しないカラム充填剤としては、上記基材をそのまま用いることができる。
一方、上記イオン交換基を有するカラム充填剤は、例えば、上記架橋性の(メタ)アクリル酸エステル(及び、必要に応じて添加する上記非架橋性単量体)とイオン交換性単量体とを共重合させることにより製造することができる。
【0024】
上記イオン交換基を有するカラム充填剤を製造する方法としては、具体的には例えば、上記架橋性の(メタ)アクリル酸エステル(及び、必要に応じて添加する上記非架橋性単量体)とイオン交換基を有する単量体(以下、「イオン交換性単量体」ともいう)との混合物に、重合開始剤や必要に応じて各種添加剤を添加し、加温して重合反応を行なう方法が挙げられる。
また、2段階重合法によりイオン交換基を有するカラム充填剤を製造することもできる。即ち、まず、上記架橋性の(メタ)アクリル酸エステルを重合して架橋重合体を得る。次いで、得られた架橋重合体の表面で、イオン交換性単量を重合する。イオン交換性単量体を架橋性重合体の表面で重合する場合、例えば、架橋性単量体混合物の重合後、得られた架橋性重合体を洗浄した後、重合開始剤を架橋重合体に含浸させた後、イオン交換性単量体を反応系に添加して重合する方法;架橋性単量体混合物の重合反応の途中で、イオン交換性単量体を反応系に添加して重合する方法などが挙げられる。なお、イオン交換性単量体を添加する際には、水又は各種の水溶液、有機溶媒等で希釈して用いてもよい。
上記イオン交換基を有するカラム充填剤としては、特に上記2段階重合法により得られたものが好適である。
【0025】
上記イオン交換性単量体としては、カチオン交換性基を有する官能基を有する重合性単量体、アニオン交換性基を有する官能基を有する重合性単量体が挙げられる。
上記カチオン交換基としては特に限定されず、例えば、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基等が挙げられる。なかでも、スルホン酸基が好適である。
また、上記イオン交換性単量体としては、(メタ)アクリル酸誘導体類が好ましい。
【0026】
カルボキシル基を有するカチオン交換性単量体としては特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルサクシネート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸等の(メタ)アクリル酸誘導体類;クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。
リン酸基を有するカチオン交換性単量体としては特に限定されず、例えば、((メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、(3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アシッドホスフェート等の(メタ)アクリル酸誘導体類等が挙げられる。
スルホン酸基を有するカチオン交換性単量体としては特に限定されず、例えば、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリル酸等の(メタ)アクリル酸誘導体類;(3−スルホプロピル)−イタコン酸、アリルスルホン酸等が挙げられる。
【0027】
アニオン交換性基を有する重合性単量体としては特に限定されず、例えば、アミノ基を有する2−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0028】
上記イオン交換基は、イオン交換基に変換可能な官能基を有する単量体のイオン交換基に変換可能な官能基をイオン交換基に変換したものであってもよい。
即ち、上記イオン交換基を有するカラム充填剤を製造するにあたって、単量体混合物中にイオン交換基に変換可能な官能基を有する単量体を添加して共重合した後、該イオン交換基に変換可能な官能基を公知の化学反応によりイオン交換基に変換する方法、又は、上記架橋重合体を形成した後、該架橋性重合体の表面においてイオン交換性単量体を重合し、その後該イオン交換基に変換可能な官能基を公知の化学反応によりイオン交換基に変換する方法によるものであってもよい。
【0029】
上記イオン交換基に変換可能な官能基としては特に限定されず、例えば、カルボン酸エステル、リン酸エステル、スルホン酸エステル等のエステル基を有する単量体;エポキシ基、グリシジル基を有する単量体等が挙げられる。
上記エステル基を有する単量体に由来するエステル基は、酸又は塩基の存在下で加水分解を行なう公知の手法により、それぞれカルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基に容易に変換することができる。
上記エポキシ基、グリシジル基を有する単量体は、エポキシ基を開環後、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基を公知の方法で導入することができる。
これらのカチオン交換基に変換可能な官能基を有する単量体は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
上記イオン交換性単量体又はイオン交換基に変換可能な官能基を有する単量体の配合量としては、上記架橋性の(メタ)アクリル酸エステル(非架橋性単量体を添加する場合にはその合計)100重量部に対する好ましい下限が10重量部、好ましい上限が100重量部である。10重量部未満であると、イオン交換基の導入量が少なすぎて充分なイオン交換反応が行なわれず、測定対象のピークを充分に分離できないことがあり、100重量部を超えると、重合中に凝集物が発生し重合体が得られないことがある。より好ましい下限は20重量部、より好ましい上限は80重量部である。
【0031】
上記糖緩衝液を用いた液体クロマトグラフィー法によれば、上記ヘモグロビンA1c以外にも、ヘモグロビンS、ヘモグロビンC等の異常ヘモグロビン類、ヘモグロビンF(胎児性ヘモグロビン)、ヘモグロビンA2等も高い精度で測定することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、容易に、かつ、高精度な測定が可能なヘモグロビン類の測定方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実験例にのみ限定されるものではない。
【0034】
(イオン交換基を有するカラム充填剤の調製)
トリエチレングリコールジメタクリレート200g、テトラメチロールメタントリアクリレート100g、テトラメチロールメタンテトラアクリレート(架橋性単量体:新中村化学製)100g及びグリセロールジメタクリレート50gの混合物に、過酸化ベンゾイル1.2gを溶解した。
【0035】
得られた単量体混合物を、4%のポリビニルアルコール水溶液5Lに分散させ、攪拌しながら窒素雰囲気下で80℃に加温し、1時間重合反応を行なった。温度を30℃に冷却した後、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(カチオン交換性糖単量体)140gを反応系に添加し、再び80℃に加温して1時間重合反応を行なった。得られた重合体をイオン交換水及びアセトンで洗浄することにより、カチオン交換基を有する架橋重合体(カラム充填剤)を得た。得られた充填剤を、内径3mm、長さ30mmのステンレス製カラムに充填し、ヘモグロビンA1c分離カラムを得た。
【0036】
(イオン交換基を有しないカラム充填剤のを調製)
トリエチレングリコールジメタクリレート200g、テトラメチロールメタントリアクリレート100g、テトラメチロールメタンテトラアクリレート(架橋性単量体:新中村化学製)100g及びグリセロールジメタクリレート50gの混合物に、過酸化ベンゾイル1.2gを溶解した。
【0037】
得られた単量体混合物を、4%のポリビニルアルコール水溶液5Lに分散させ、攪拌しながら窒素雰囲気下で80℃に加温し、12時間重合反応を行なった。得られた重合体をイオン交換水及びアセトンで洗浄することにより、カチオン交換基を有しない架橋重合体(カラム充填剤)を得た。得られた充填剤を、内径3mm、長さ30mmのステンレス製カラムに充填し、ヘモグロビンA1c分離カラムを得た。
【0038】
(実験例1〜11)
得られたカラムを、HPLCシステム(島津製作所製LC−10A)に接続した。測定試料として、フッ化ナトリウム採血したヒト健常人血液を、0.05%のTritonX−100を含むリン酸緩衝液(pH6.8)により200倍に溶血希釈したものを用いた。溶離液として、溶離液A:200mMリン酸緩衝液(pH5.3)及び溶離液B:400mMリン酸緩衝液(pH7.5)の2種を用い、流速1.0mLで送液してステップワイズグラジエント法により分離し、415nmの吸光度を測定した。
【0039】
実験例においては、表1に示したように、溶血希釈液、溶離液A及び溶離液Bに多糖類を1.5重量%の濃度となるように添加して測定を行なった。
【0040】
(評価1)同時再現性の評価:
イオン交換基を有するカラム充填剤を用いた場合の測定例として実験例1〜6を行なった。実験例1(多糖類を含まない実験例)の条件で健常人血を測定した場合のクロマトグラムを図1に示す。図中ピーク1はヘモグロビンA1c、ピーク2はヘモグロビンAoを示す。多糖類を添加した測定系(実験例2〜6)においても、同様な良好なクロマトグラムが得られた。
上記健常人血を繰り返し10回連続して測定した場合の再現性(CV値)を、表1に示す。多糖類を添加しなかった実験例1では、CV値は3.5%であった。
溶血希釈液に多糖類を添加した場合、CV値が2.5%と大きく改善された。また溶離液に多糖類を添加した例(実験例3〜6)では、CV値が1.0%以下と非常によくなった。
【0041】
イオン交換基を有しないカラム充填剤を用いた場合の測定例として実験例7〜11を行なった。実験例7(多糖類を含まない実験例)の条件で健常人血を測定した場合のクロマトグラムを図2に示す。図2に示すように、ヘモグロビンA1cを分離することはできなかった。実験例8の溶血希釈液のみに多糖類を添加した系においても図2と同様のクロマトグラムであった。
一方、溶離液に多糖類を添加した測定系(実験例9〜11)では、ヘモグロビンA1cが分離でき、図1と同様のクロマトグラムが得られた。
上記健常人血を繰り返し10回連続して測定した場合の再現性(CV値)を、表1に示す。多糖類を全く含まない系(実験例7)、溶血希釈液のみに多糖類を添加した系(実験例8)では、ヘモグロビンA1cを分離することはできなかった。一方溶離液に多糖類を添加すると、ヘモグロビンA1cが分離でき、再現性のCV値は1%以下と良好であった。
【0042】
(評価2:修飾ヘモグロビン類の分離性能評価)
上記実験例に用いた健常人血の代わりに、修飾ヘモグロビン類を含む試料を人為的に調製し測定して、そのヘモグロビンA1cピークとの分離性能を評価した。
修飾ヘモグロビン類としては、レイバイルヘモグロビンA1c含有試料(試料L)、アセチル化ヘモグロビン含有試料(試料A)、カルバミル化ヘモグロビン含有試料(試料C)の3種類を、公知の方法により調製した。
すなわち、試料Lは、健常人全血に、グルコースを2000mg/dLとなるように添加し、37℃で3時間加温することにより調製した。試料Aは、健常人全血に、アセトアルデヒドを50mg/dLとなるように添加し、37℃で2時間加温することにより調製した。試料Cは、シアン酸ナトリウムを50mg/dLとなるように添加し、37℃で2時間加温することにより調製した。
上記修飾ヘモグロビン試料(試料L、試料A、試料C)及び修飾ヘモグロビンの調製に用いた健常人血(非修飾品)を、上記カラム充填剤を用いて測定し、ヘモグロビンA1cの測定値を比較した。分離性能は、修飾ヘモグロビン試料のヘモグロビンA1c値から非修飾品のヘモグロビンA1c値を差し引いた値(Δ値)を算出して比較することにより行なった。得られたΔ値を表1に示した。
【0043】
表1より、多糖類を含まない試薬を用いた実験例1のΔ値は0.3〜0.4%%程度であり、修飾ヘモグロビン類の影響が認められた。一方多糖類を含む試薬を用いた測定系、特に溶離液に多糖類を添加した測定系(実験例3〜6及び9〜11)においては、修飾ヘモグロビンの影響はほとんど受けなかった。
【0044】
(評価3:異常ヘモグロビン類の分離性能評価)
上記のカラム充填剤を用いて、異常ヘモグロビンとしてヘモグロビンS及びヘモグロビンCを含む試料(AFSCヘモコントロール:ヘレナ研究所社製)の測定を行った。
実験例3の測定条件を用いて測定した結果、得られたクロマトグラムを図3に示す。図3中、ピーク1はヘモグロビンHbA1c、ピーク2はヘモグロビンAo、ピーク4はヘモグロビンF(胎児性Hb)、ピーク5はヘモグロビンS、ピーク6はヘモグロビンCを示す。他の多糖類を含む試薬を用いた実験例でも、ほぼ同様の分離性能を示した。
一方、多糖類を含まない試薬を用いて測定した場合(実験例1、7及び9)、異常ヘモグロビン類であるヘモグロビンS及びヘモグロビンCを分離することはできなかった。
【0045】
(評価4:ヘモグロビンA2の分離性能評価)
上記のカラム充填剤を用いて、ヘモグロビンA2を含む試料として、A2コントロール(レベル2)(バイオラッド社製)を測定した。
実験例3の測定条件を用いて測定した結果、得られたクロマトグラムを図4に示す。図4中、ピーク1はヘモグロビンHbA1c、ピーク2はヘモグロビンAo、ピーク4はヘモグロビンF(胎児性Hb)、ピーク7はヘモグロビンA2を示す。他の多糖類を含む試薬を用いた実験例でも、ほぼ同様の分離性能を示した。
一方、多糖類を含まない試薬を用いて測定した場合(実験例1、7及び9)、ヘモグロビンA2を分離することはできなかった。
【0046】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、容易に、かつ、高精度な測定が可能なヘモグロビン類の測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実験例1の測定条件を用いてヘモグロビンA1cの測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図2】実験例7の測定条件を用いてヘモグロビンA1cの測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図3】実験例3の測定条件を用いて異常ヘモグロビン類の測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図4】実験例3の測定条件を用いてヘモグロビンA2の測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体クロマトグラフィー法によるヘモグロビン類の測定方法であって、緩衝液として、多糖類を含有する緩衝液を用いることを特徴とするヘモグロビン類の測定方法。
【請求項2】
多糖類を含有する緩衝液を、血液試料を溶血するために用いる溶血用試薬、血液試料を希釈するために用いる希釈用試薬、又は、血液試料を測定するために用いる溶離液に用いることを特徴とする請求項1記載のヘモグロビン類の測定方法。
【請求項3】
多糖類は、カチオン交換基を有する多糖類であることを特徴とする請求項1又は2記載のヘモグロビン類の測定方法。
【請求項4】
多糖類は、スルホン酸基を有する多糖類であることを特徴とする請求項1、2又は3記載のヘモグロビン類の測定方法。
【請求項5】
イオン交換基を有するカラム充填剤を用いることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載のヘモグロビン類の測定方法。
【請求項6】
カチオン交換基を有する多糖類を含有する緩衝液を血液試料を測定するために用いる溶離液として用い、かつ、イオン交換基を有しないカラム充填剤を用いることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載のヘモグロビン類の測定方法。
【請求項7】
測定対象であるヘモグロビン類が、ヘモグロビンA1cであることを特徴する請求項1、2、3、4、5又は6記載のヘモグロビン類の測定方法。
【請求項8】
測定対象であるヘモグロビン類が、ヘモグロビンA1c及び異常ヘモグロビン類であることを特徴する請求項1、2、3、4、5又は6記載のヘモグロビン類の測定方法。
【請求項9】
液体クロマトグラフィー法によるヘモグロビン類の測定に用いる緩衝液であって、多糖類を含有することを特徴とするヘモグロビン類測定用緩衝液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−236768(P2009−236768A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84718(P2008−84718)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】