説明

ベリリウム窓のろう付け構造体

【課題】ろう付け後の残留応力に起因するクラックの発生を防止でき、製品として、信頼性に優れると共に耐リーク性を確保することができるベリリウム窓のろう付け構造体を提供することにある。
【解決手段】ベリリウム系金属板1と、ベリリウム系金属と異なる異材金属枠体2とを接合したベリリウム窓のろう付け構造体である。異材金属として膨張係数が室温でベリリウム系金属よりも大きく、かつろう付け温度近傍でベリリウム系金属よりも小さくなる材質を用いた。ベリリウム系金属板1と異材金属枠体2の間に応力緩和材10を挟み込んで、ろう付けした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ベリリウム窓のろう付け構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ベリリウム窓は、各種のX線発生装置や放射光発生装置に用いられる。従来、ベリリウム系金属(板材や箔)と異材金属(例えばフランジ)を接合してベリリウム窓を製作する場合、エポキシ系の樹脂で接着して耐リーク性を確保するようにしたものがある。また、ベリリウム系金属板等と、これと相違する異材金属との接合において、真空ろう付け用のろう材(例えば銀ろう、Niろう)を用いて、ベリリウム系金属と異材金属等にて構成するものがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、樹脂による接着ではベリリウム窓の使用温度が100℃以下に制限され、高温に曝される環境下での使用が困難とされている。また、Niろう材や銀ろう材を用いて、ベリリウム系金属と異材金属とをろう付けするものでは、開口部面積の大きいベリリウム窓はろう付けで製作されておらず、開口部面積が小さい構造物(例えば開口部がφ5mm程度)に限られていた。このため、大型放射光ビームライン装置等の窓として、開口部面積の大きいベリリウム窓が望まれている。しかしベリリウム系金属と異材金属の膨張係数差が大きいため、ろう付けでベリリウム窓の開口部面積が大きい構造物を製作しようとした場合、ろう付け後の残留応力によってベリリウム系金属やろう付け部にクラックが生じ、耐リーク性が確保できない等の問題がある。また、仮にろう付け後の耐リーク性が確保できたとしても、150℃以上の高温域での使用や熱サイクルが負荷される環境下で使用した場合、ベリリウム窓の耐気密性の信頼性と寿命等に問題がある。
【0004】
この発明は、上記従来の欠点を解決するためになされたものであって、その目的は、ろう付け後の残留応力に起因するクラックの発生を防止でき、製品として、信頼性に優れると共に耐リーク性を確保することができるベリリウム窓のろう付け構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1のベリリウム窓のろう付け構造体は、ベリリウム系金属板1と、ベリリウム系金属と異なる異材金属枠体2とを接合したベリリウム窓のろう付け構造体であって、異材金属として膨張係数が室温でベリリウム系金属よりも大きく、かつろう付け温度近傍でベリリウム系金属よりも小さくなる材質を用いたことを特徴としている。
【0006】
請求項2のベリリウム窓のろう付け構造体は、ベリリウム系金属板1と、ベリリウム系金属と異なる異材金属枠体2とを接合したベリリウム窓のろう付け構造体であって、異材金属として膨張係数が室温でベリリウム系金属よりも小さく、かつろう付け温度近傍でベリリウム系金属よりも大きくなる材質を用いたことを特徴としている。
【0007】
請求項3のベリリウム窓のろう付け構造体は、ベリリウム系金属板1と、ベリリウム系金属と異なる異材金属枠体2とを接合したベリリウム窓のろう付け構造体であって、室温からろう付け温度領域で異材金属の膨張係数がベリリウム系金属の膨張係数に近い材質を用いたことを特徴としている。
【0008】
請求項4のベリリウム窓のろう付け構造体は、ベリリウム系金属板1と異材金属枠体2の間に応力緩和材10を挟み込んで、ろう付けしたことを特徴としている。
【0009】
請求項5のベリリウム窓のろう付け構造体は、上記応力緩和材10は、軟質金属の純銅等の金属材料、あるいは膨張係数がベリリウム系金属と異材金属の中間に位置するような金属材料にて構成したことを特徴としている。
【0010】
請求項6のベリリウム窓のろう付け構造体は、上記ベリリウム系金属板1と異材金属枠体2とを応力緩和構造を介して接合したことを特徴としている。
【0011】
請求項7のベリリウム窓のろう付け構造体は、上記ベリリウム系金属としては、Be元素が少なくても重量%で80%以上含有する材料を使用したことを特徴としている。
【0012】
請求項8のベリリウム窓のろう付け構造体は、上記異材金属としては、Fe又はNi元素のいずれか一方を少なくとも重量%で30%以上含有する材料を使用したことを特徴としている。
【0013】
請求項9のベリリウム窓のろう付け構造体は、上記異材金属としては、Fe及びNiの元素の合計を重量%で70%以上含有する材料を使用したことを特徴としている。
【0014】
請求項10のベリリウム窓のろう付け構造体は、開口部面積が150mm以上あることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1のベリリウム窓のろう付け構造体によれば、異材金属として膨張係数が室温でベリリウム系金属よりも大きく、かつろう付け温度近傍でベリリウム系金属よりも小さくなる材質であるので、ろう付け部近傍のベリリウム系金属に、ろう材凝固温度近傍では圧縮応力が負荷され、室温では逆に引張り応力が負荷される。このため、ろう付け部近傍のベリリウム系金属に負荷される応力が打ち消し合い残留応力が低減されて、ろう付け後の残留応力に起因するクラックの発生を防止でき、この製品(ろう付け構造体)は、信頼性に優れると共に耐リーク性を確保することができる。
【0016】
請求項2のベリリウム窓のろう付け構造体によれば、異材金属として膨張係数が室温でベリリウム系金属よりも小さく、かつろう付け温度近傍でベリリウム系金属よりも大きい材質であるので、ろう付け部近傍のベリリウム系金属に、室温では圧縮応力が負荷され、ろう材凝固温度近傍では逆に引張り応力が負荷される。このため、ベリリウム系金属に負荷される応力が打ち消し合い残留応力が低減されて、ろう付け後の残留応力に起因するクラックの発生を防止でき、この製品(ろう付け構造体)は、信頼性に優れると共に耐リーク性を確保することができる。
【0017】
請求項3のベリリウム窓のろう付け構造体によれば、室温からろう付け温度領域で異材金属の膨張係数がベリリウム系金属の膨張係数に近い材質であるので、ろう付け後の残留応力に起因するクラックの発生を防止できる。従って、この製品(ろう付け構造体)は、信頼性に優れると共に耐リーク性を確保することができる。
【0018】
請求項4のベリリウム窓のろう付け構造体によれば、ベリリウム系金属板と異材金属枠体の間に応力緩和材を挟み込んで、ろう付けしたので、接合後の応力緩和を効果的に発揮する。
【0019】
請求項5のベリリウム窓のろう付け構造体によれば、上記応力緩和材は、軟質金属の純銅等の金属材料、あるいは膨張係数がベリリウム系金属と異材金属の中間に位置するような金属材料にて構成したので、接合後の応力緩和の信頼性が向上する。
【0020】
請求項6のベリリウム窓のろう付け構造体によれば、上記ベリリウム系金属板と異材金属枠体とを応力緩和構造を介して接合したので、接合後の応力緩和を一層効果的に発揮する。
【0021】
請求項7のベリリウム窓のろう付け構造体によれば、上記ベリリウム系金属としては、Be元素が少なくても重量%で80%以上含有する材料を使用したので、ろう材(例えば銀ろう)との界面に強固なベリリウムを含む反応層を形成することができ、ろう付け性、耐リーク性に優れる。
【0022】
請求項8のベリリウム窓のろう付け構造体によれば、異材金属としては、Fe、Ni元素のいずれか一方を少なくとも重量%で30%以上含有する材料を使用したので、ベリリウム系金属と異材金属の界面で、ろう材中の銀(Ag)、銅(Cu)を含むBe含有量の多いBe―Ag―Fe―Cu固溶体あるいは、Be―Ag―Fe―Cu―Ni固溶体が層状または粒状に形成され、ベリリウム系金属と異材金属がこれらの反応物を介して強固にろう付けされる。
【0023】
請求項9のベリリウム窓のろう付け構造体によれば、Fe、Niの元素の合計を重量%で70%以上含有する材料を使用したので、ベリリウム系金属と異材金属がこれらの反応物を介して強固にろう付けされる。
【0024】
請求項10のベリリウム窓のろう付け構造体によれば、開口部面積が150mm以上であるが、このような大きな開口部を有するベリリウム窓であっても、高い気密性と信頼性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、この発明のベリリウム窓のろう付け構造体の具体的な実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。この発明のベリリウム窓のろう付け構造体は、ベリリウム系金属(例えば、純度が重量%で99.5%)と、これと異なる異材金属とを真空ろう付け用のろう付け(例えば銀ろう、Niろう)を用いて接合したものである。そして、この実施の形態においては、図1に示すように、板状又は箔状のベリリウム系金属板1と、このベリリウム系金属板1を受ける異材金属枠体2とを備えたベリリウム窓のろう付け構造体である。ここで、ベリリウム窓とは、各種のX線発生装置や放射光発生装置に用いられる窓である。
【0026】
上記異材金属枠体2に使用する異材金属としては、膨張係数が、室温でベリリウム系金属よりも大きく、かつろう付け温度近傍でベリリウム系金属よりも小さくなる材質を選択することになる。そして、図2には、ベリリウムと、他のステンレス鋼(オーステナイト系ステンレス鋼)(SUS310S、SUS304)と、炭素鋼(S25C)等について、温度と膨張係数との関係を示している。すなわち、SUS310Sは、膨張係数が室温でベリリウム系金属よりも大きく、ろう付け温度近傍でベリリウム系金属よりも小さくなる材質である。具体的には、室温(20℃)で膨張係数αが11×10−6(/℃)であり、ろう付け温度近傍(530℃付近)で膨張係数αが19×10−6(/℃)である。また、炭素鋼(S25C)は膨張係数が室温で、SUS304はろう付け温度近傍でベリリウム系金属と同等となる材質である。このため、この実施の形態においては、異材金属を、膨張係数が室温で、ベリリウム系金属よりも大きく、かつろう付け温度近傍でベリリウム系金属よりも小さくなる材質であるSUS310S等を使用することになる。
【0027】
そして、異材金属枠体2は全体として矩形状の枠からなり、その上面3に開口部4に沿って切欠部5が形成され、この切欠部5にろう材を介してベリリウム系金属板1が嵌合された状態で、ベリリウム系金属板1と異材金属枠体2とがろう付けされる。この場合、ろう付けに使用するろう材は、例えば、市販のAg―Cu系のろう材で銅(Cu)の含有量が28重量%でろう材の厚さが0.1mmのものを使用することができる。この銀(Ag)−銅(Cu)系のろう材は、ベリリウム系金属やステンレス鋼との反応性が高く、ろう材自身も変形しやすく応力緩和効果が期待できるものである。そして、ろう付けの際には、真空度が10−1〜10−3Torr程度の真空炉中で800℃程度に加熱冷却することにより、ろう材が溶融凝固されてろう付けが可能となる。なお、図1において、6はろう付け部を示し、ベリリウム系金属板1の下面外周部8に対応する第1部6aと、ベリリウム系金属板1の外端部9に対応する第2部6bとからなる。また、このベリリウム窓の開口部面積(ベリリウム系金属板面積)を例えば、150mm以上とする。
【0028】
この場合、上記ろう付け構造体では、異材金属枠体2に使用する異材金属は、膨張係数が室温でベリリウム系金属よりも大きく、ろう付け温度近傍でベリリウム系金属よりも小さくなる材質とするので、ろう材凝固温度近傍では、ろう付け部近傍のベリリウム系金属に圧縮応力が負荷され、ろう材が完全凝固する室温では逆に引張り応力が負荷される。このため、ろう付け部近傍のベリリウム系金属に負荷される応力が打ち消し合い残留応力が低減されることとなり、ろう付け後の残留応力に起因するクラックの発生を防止でき、製品の信頼性(製作の歩留まり)および耐リーク性に優れることになる。また、異材金属をSUS310Sを選択(使用)することにより、200℃以上でも使用可能な接合体(ベリリウム系金属と異材金属との接合体)であるベリリウム窓を提供することが可能である。
【0029】
また、異材金属枠体2に使用する異材金属としては、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)のいずれか一方を少なくとも重量%で30%以上含有(例えばFe基合金)する構造材料を使用したり、これらの元素の合計を重量%で70%以上含有(例えばSUS310S)する構造材料を使用したりすることも可能であり、このような異材金属を使用することにより、ベリリウム系金属と異材金属の界面で、ろう材中の銀(Ag)、銅(Cu)を含むBe含有量の多いBe―Ag―Fe―Cu固溶体あるいは、Be―Ag―Fe―Cu―Ni固溶体が層状または粒状に形成され、ベリリウム系金属と異材金属がこれらの反応物を介して強固にろう付けされる。
【0030】
ところで、実用のベリリウム窓として要求される異材側の金属としては、ステンレス鋼が一般的であり、真空ろう付けで気密性の高い接合体(ベリリウム系金属と異材金属との接合体)を得るためには、ベリリウム系金属と異材金属との接合部の形状が重要である。この際、ベリリウム窓の開口部面積が比較的に小さい(150mm未満)場合、図1に示すように、ベリリウム外周部の側面部(外端部9)のろう付けでも可能であるが、特に開口部面積が150mm以上の大きい構造物では異材金属との膨張係数差による残留応力を考慮しかつ、ろう付け後のフィレット(ろう付け部)が確実に形成できる接合部形状が望ましい。
【0031】
このため、図3に示すように、ベリリウム系金属板1と、異材金属枠体2の間に、応力緩和材10を挟み込むようにするのが好ましい。この応力緩和材10としては、軟質金属で変形しやすい金属材料(例えば純Cu等の金属や銅合金等)、あるいは膨張係数がベリリウム(室温、α=11×10−6(/℃))と異材金属(室温、α=16×10−6(/℃))の中間に位置するような金属材料を使用する。この場合、応力緩和材10は、異材金属枠体2の開口部4に沿って配置され、ベリリウム系金属板1の下面外周縁部8と応力緩和材10の上端面10aとの間、及び、応力緩和材10の下端面10bと異材金属枠体2の上面3との間にそれぞれろう付け部12、13が形成される。
【0032】
さらに、図4に示すように、この構造体(構造物)において、ベリリウム系金属板1が応力緩和材10を介して異材金属枠体2との間にすき間14が形成される構造にするのが好ましい。すなわち、異材金属枠体2の内面15に、第1部16aと第2部16bとからなる切欠部16を設け、第1部16aにろう材を介して応力緩和材10を嵌合させた状態でろう付けして、第2部16bでもってこの応力緩和材10の外側に上記すき間14を構成することになる。この場合、応力緩和材10の上端面10aとベリリウム系金属板1との間にろう付け部17が形成され、応力緩和材10と異材金属枠体2との間にろう付け部18が形成される。また、ろう付け部18は、応力緩和材10の下端面10bに対応する第1部18aと、応力緩和材10の外面10cに対応する第2部18bとからなる。そして、ベリリウム系金属板1の外端部9と、応力緩和材10の外面10cとが略同一鉛直面上に配置されている。
【0033】
また、図5では、ベリリウム系金属板1の外端部9を応力緩和材10の外面10cよりも内方へ後退させたものであり、図6では、ベリリウム系金属板1の外端部9を応力緩和材10の外面10cよりも外方へ突出させて、外端部9がすき間14に突入させている。このため、図4〜図6においては、ベリリウム系金属板1と応力緩和材10とで異材金属枠体2に対してブリッジ(橋梁)構造をなす。このように、すき間14を設ければ、応力緩和材10がベリリウム系金属板1の幅または長さ方向に自由に変形でき応力緩和により効果的である。
【0034】
ところで、図3〜図6のものはいわゆるブリッジ構造として、ベリリウム系金属と異材金属とを応力緩和構造を介して接合したことになる。この際、図3の構造もブリッジ構造であるが、図4〜図6の構造と比較すると、この図3の構造のものでは、応力緩和材10が切欠部16の第1部16aに嵌合していないので、応力緩和材10と異材金属枠体2との接合部の面積を大きくする必要があり、結果的に応力緩和材10の変形効果が低下することになるため、開口部面積の大きい構造物の場合は望ましくない。また、図4〜図6はいずれも応力緩和効果のある構造であるが、ベリリウム系金属板1と応力緩和材10のろう付け部に確実にフィレットが形成でき、かつ、フィレット部(ろう付け部)が残留応力に耐え得る形状としては図6が最も望ましい。すなわち、図4の構造では、ベリリウム系金属板1が応力緩和材10に対してずれるおそれがあるので、フィレットの形成が片側(幅方向のどちらか端部側、又は長さ方向のどちらか端部側)のみになる可能性があり、図5の構造ではベリリウム系金属板1と応力緩和材10の接合面積が小さくなり、残留応力に耐えられない可能性がある。
【0035】
また、上記応力緩和材10としては、板(箔)状やメッシュ(金網)状等から構成することができるが、応力緩和効果があり、ろう付け後の気密性が保たれれば形状の制約はない。さらに、応力緩和材(中間層)10が板(箔)状またはメッシュの場合、厚さ(高さ)は0.05〜50mm程度のものが望ましい。厚さが0.05mm未満では、応力緩和効果が少なく、事実上の効果はないからであり、また、応力緩和材10が50mmを越えた場合は、ろう付け後に緩和材10自体の剛性が無くなり、過度に変形するため構造物として問題があるからである。
【0036】
ところで、上記実施の形態では、異材金属として、膨張係数が室温でベリリウム系金属よりも大きく、ろう付け温度近傍でベリリウム系金属よりも小さくなる材質であるが、逆に、異材金属として、膨張係数が室温でベリリウム系金属よりも小さく、ろう付け温度近傍でベリリウム系金属よりも大きい材質であってもよい。この場合、ろう付け部近傍のベリリウム系金属に、室温では圧縮応力が負荷され、ろう材凝固温度近傍では逆に引張り応力が負荷される。このため、ベリリウム系金属に負荷される応力が打ち消し合い残留応力が低減されて、ろう付け部近傍のベリリウム系金属に負荷される応力が打ち消し合い残留応力が低減されることとなり、ろう付け後の残留応力に起因するクラックの発生を防止できる。さらには、室温からろう付け温度領域で異材金属の膨張係数がベリリウム系金属の膨張係数に近い材質であってもよい。このような異材金属を使用しても、残留応力が低減されることとなる。
【0037】
以上にこの発明の具体的な実施の形態について説明したが、この発明は上記形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。例えば、応力緩和材10の形状は板(箔)状、メッシュ(金網)状等があるが、事実上の応力緩和効果があり、ろう付け後の耐リーク性が確保され、かつ、ベリリウム窓の使用温度下で応力緩和材10が、長期にわたって使用可能な2%耐力を満足する板(箔)厚あるいは板(箔)幅があれば、種々の形状とすることができる。また、ベリリウム系金属としては、ベリリウムの純度が重量で99.8%以上ある高純度金属であっても、不純物等を含む金属(例えば重量92%程度)であっても、それ以外の合金(純度が重量で92%以下80%以上)等であってもよい。さらに、ベリリウム系金属として、上記実施の形態では、矩形平板体であったが、この場合、長辺側及び/又は短辺側で例えば100mm以上としたり、正方形としたり、台形状としたり、あるいは円形(例えば、半径25mm以上)または楕円形状としたりしてもよい。
【実施例】
【0038】
以下、この発明のベリリウム窓のろう付け構造体について、実施例と比較例をあげて具体的に説明する。実施例1として、上記図6に示す応力緩和材10を使用した構造とし、また、異材金属としてオーステナイト系ステンレス鋼(SUS310S)を使用し、図7に示すように、ベリリウム系金属からなるベリリウム系金属板1は、幅W1を58mmとし、長さL1を424mmとし、厚さを1.0mmとし、異材金属枠体2は、幅W2を145mmとし、長さL2を580mmとし、厚さを30mmとした。さらに、応力緩和材10はCu(1020)を使用し、この応力緩和材10は、断面における幅W3を4mmとし、厚さ(高さ)Hを10mmとした枠形状とした。また、比較例1と比較例3と比較例5と実施例2と比較例6と比較例7としては、上記図1に示すように応力緩和材10を使用しない構造とし、比較例1は、異材金属枠体2及びベリリウム系金属板1の大きさを実施例1と同様とし、比較例2と比較例3と比較例6とは、異材金属としてオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)を使用し、比較例2と比較例3とは、異材金属枠体2及びベリリウム系金属板1の大きさを実施例1と同様とした。さらに、比較例4と比較例5と比較例7とは、異材金属として炭素鋼(S25C)を使用し、比較例4と比較例5とは、異材金属枠体2及びベリリウム系金属板1の大きさを実施例1と同様とした。また、実施例2と比較例6と比較例7とは、ベリリウム系金属板1の大きさを、幅W1を40mmとし、長さL1を120mmとし、厚さを0.1mmとし、異材金属枠体2は、幅W2を45mmとし、長さL2を170mmとし、厚さを30mmとした。この際、ろう付けに使用するろう材は市販のAg―Cu系のろう材で銅(Cu)の含有量が28重量%でろう材の厚さが0.1mmのものを使用した。
【0039】
表1に接合体(ベリリウム系金属と異材金属との接合体)の異材金属の材質および応力緩和材10がろう付けに及ぼす効果についてまとめて示す。ろう付け部の形状は、応力緩和材10を使用しない場合は図1に示すものとし、応力緩和材10を使用する場合は図6となるように設定した。ろう付けは、5×10-1 Torr程度の真空中において、Arガスをキャリアとして流し、さらにろう付け部の垂直方向から荷重を2.5×10-3kg/mm程度負荷する。また、ろう付け温度としては、ろう材の固相線以下の温度で予熱した後、ろう付けの液相線以上の温度で行った。昇温速度および冷却速度は20℃/minとした。この際、Heリーク試験を行いその結果についても表1に記載している。ここで、Heリーク試験とは、ワーク(ベリリウム窓)内を検出器(ヘリウムリークディテクター)で真空引き(1気圧:約0.1MPa)し、ワークろう付け部にHeガスをふりかけ、漏れ部のHeガスリーク量を検出する試験である。
【0040】
【表1】

【0041】
実施例2と比較例6と比較例7からわかるように、ベリリウム窓の開口部面積が比較的小さい場合、異材金属にSUS310Sを選択することで、図7に示すように、ベリリウム金属が破損することなく、ろう付けされている。さらに、実施例1等からわかるように、ベリリウム開口部の大きい構造物ではSUS310S材と応力緩和材10を使用する効果が有効であり、他と比較しても高い気密性と信頼性が得られている。また、異材金属に炭素鋼(S25C)を使用したものについては、比較例5と比較例7等からわかるように、図8に示すようにベリリウム系金属板1に割れCが生じた。さらに、実施例1と実施例2とが高い気密性を示している。
【0042】
次に、ベリリウム系金属板1と異材金属の異材金属枠体2の接合体(ベリリウム窓)の高温特性について調べた。すなわち、上記表1に記載した実施例1と比較例1と比較例2と比較例4と実施例2で製作したベリリウム系金属板1と異材金属の異材金属枠体2の接合体を真空炉(10-1Torr程度)中にて250℃で加熱し、24時間放置した後、室温でHeリーク試験を行った。そしてその結果を表2に示す。また、昇温および冷却速度は20℃/minで行った。なお、表2において、実施例1Aは上記実施例1で製作したものと同一構成のものであり、比較例1Aは上記比較例1で製作したものと同一構成のものであり、比較例2Aは上記比較例2で製作したものと同一構成のものであり、比較例3Aは上記比較例4で製作したものと同一構成のものであり、実施例2Aは上記実施例2で製作したものと同一構成のものである。また、表1とこの表2において、Beはベリリウム系金属板を示している。
【0043】
【表2】

【0044】
ベリリウム系金属板1の開口部面積が比較的小さい場合、実施例2Aからわかるように、異材金属にSUS310Sを選択することで、200℃以上の使用で、ベリリウム系金属板1が破損することなく、ろう付けされている。さらに、ベリリウム開口部の大きい構造物では、実施例1Aと各比較例からわかるように、異材金属にSUS310S材を使用すると共に、応力緩和材10を設けることが有効であり、高い気密性と信頼性が得られている。また、ベリリウム開口部が小さい場合、異材金属にSUS310S材を使用するのが、気密性に優れることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】この発明のベリリウム窓のろう付け構造体の第1の実施形態を示す断面図である。
【図2】温度と膨張係数との関係を示すグラフ図である。
【図3】この発明のベリリウム窓のろう付け構造体の第2の実施形態を示す断面図である。
【図4】この発明のベリリウム窓のろう付け構造体の第3の実施形態を示す断面図である。
【図5】この発明のベリリウム窓のろう付け構造体の第4の実施形態を示す断面図である。
【図6】この発明のベリリウム窓のろう付け構造体の第5の実施形態を示す断面図である。
【図7】実施例に使用したベリリウム窓の簡略図である。
【図8】比較例に使用したベリリウム窓の簡略図である。
【符号の説明】
【0046】
1・・ベリリウム系金属板、2・・異材金属枠体、10・・応力緩和材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベリリウム系金属板(1)と、ベリリウム系金属と異なる異材金属枠体(2)とを接合したベリリウム窓のろう付け構造体であって、異材金属として膨張係数が室温でベリリウム系金属よりも大きく、かつろう付け温度近傍でベリリウム系金属よりも小さくなる材質を用いたことを特徴とするベリリウム窓のろう付け構造体。
【請求項2】
ベリリウム系金属板(1)と、ベリリウム系金属と異なる異材金属枠体(2)とを接合したベリリウム窓のろう付け構造体であって、異材金属として膨張係数が室温でベリリウム系金属よりも小さく、かつろう付け温度近傍でベリリウム系金属よりも大きくなる材質を用いたことを特徴とするベリリウム窓のろう付け構造体。
【請求項3】
ベリリウム系金属板(1)と、ベリリウム系金属と異なる異材金属枠体(2)とを接合したベリリウム窓のろう付け構造体であって、室温からろう付け温度領域で異材金属の膨張係数がベリリウム系金属の膨張係数に近い材質を用いたことを特徴とするベリリウム窓のろう付け構造体。
【請求項4】
ベリリウム系金属板(1)と異材金属枠体(2)の間に応力緩和材(10)を挟み込んで、ろう付けしたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかのベリリウム窓のろう付け構造体。
【請求項5】
上記応力緩和材(10)は、軟質金属の純銅等の金属材料、あるいは膨張係数がベリリウム系金属と異材金属の中間に位置するような金属材料にて構成したことを特徴とする請求項4のベリリウム窓のろう付け構造体。
【請求項6】
上記ベリリウム系金属板(1)と異材金属枠体(2)とを応力緩和構造を介して接合したことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかのベリリウム窓のろう付け構造体。
【請求項7】
上記ベリリウム系金属としては、Be元素が少なくても重量%で80%以上含有する材料を使用したことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかのベリリウム窓のろう付け構造体。
【請求項8】
上記異材金属としては、Fe又はNi元素のいずれか一方を少なくとも重量%で30%以上含有する材料を使用したことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかのベリリウム窓のろう付け構造体。
【請求項9】
上記異材金属としては、Fe及びNiの元素の合計を重量%で70%以上含有する材料を使用したことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかのベリリウム窓のろう付け構造体。
【請求項10】
ベリリウム窓の開口部面積が150mm以上あることを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれかのベリリウム窓のろう付け構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−26716(P2006−26716A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−211972(P2004−211972)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(591056569)ナイス株式会社 (10)