説明

ベルトおよびベルト材料

【課題】配合された成分による悪影響を防止することにより、安定し、かつ優れた性能を有するベルト、およびその製造を可能にするベルト材料を供給する。
【解決手段】実施例1〜3および比較例3のベルト材料においては、主成分のフッ素ゴムに、接着向上剤、および過酸化物加硫剤が添加されている。さらに、実施例1〜3のベルト材料には、フッ素ゴム100重量部に対してそれぞれ1、3、5重量部の水酸化カルシウムが添加されている。このように、水酸化カルシウムを少なくともフッ素ゴム100重量部に対して1重量部以上加えることにより、加硫特性が向上し、3重量部以上加えると加硫特性はより大きく向上される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルトおよびそのベルトを製造するためのベルト材料に関する。
【背景技術】
【0002】
耐久性、耐油性等に優れるフッ素ゴムに有機過酸化物等の架橋剤を加えて加硫させ、ベルトの材料として用いることが知られている(例えば特許文献1〜3参照)。そして、フッ素ゴムにおける他の部材との接着性を向上させるために、様々な化合物をフッ素ゴムに加えることが行われている。
【特許文献1】特開2000−290430号公報
【特許文献2】特開平1−110141号公報
【特許文献3】特開平1−190739号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
フッ素ゴムを用いたベルト材料において、接着強度を向上させるといった目的で配合された成分により、フッ素ゴムの加硫密度が安定せず、良好な加硫が妨げられるといった弊害が生じる場合がある。加硫密度が安定しない場合、ベルト材料としてのフッ素ゴムの硬度、強度等が安定せず、製品としての十分な性能を有するベルトを常に製造することが困難となる。
【0004】
そこで本発明は、配合された成分による悪影響を防止することにより、安定し、かつ優れた性能を有するベルト、およびその製造を可能にするベルト材料を供給することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のベルトは、フッ素ゴムに、フッ素ゴムの接着性を向上させるための接着向上剤と水酸化カルシウムとが添加されたベルト材料を、過酸化物により加硫させて形成されたベルト本体を備えることを特徴とする。
【0006】
ベルト材料においては、水酸化カルシウムがフッ素ゴム100重量部に対して1重量部以上、添加されていることが好ましく、より好ましくはフッ素ゴム100重量部に対して3重量部以上、添加されている。フッ素ゴムは、例えばフッ化ビニリデン系フッ素ゴムである。
【0007】
ベルト材料においては、接着向上剤が、例えば、フッ素ゴム100重量部に対して3重量部以上、添加されている。接着向上剤は、無水マレイン酸変性液状ポリブタジエン、マレイン酸変性液状ポリブタジエン、アクリル酸変性液状ポリブタジエン、ウレタン変性液状ポリブタジエン、カルボン変性液状ポリブタジエン、マレイン酸変性液状ポリイソプレンのいずれか少なくとも一つを含むことが好ましい。また、本発明のベルトは、例えばタイミングベルトである。
【0008】
本発明のベルト材料は、フッ素ゴムと、フッ素ゴムの接着性を向上させるために添加された接着向上剤と、フッ素ゴムに添加された水酸化カルシウムと、フッ素ゴムを加硫するための過酸化物とが混合されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、配合された成分による悪影響を防止することにより、安定し、かつ優れた性能を有するベルト、およびその製造を可能にするベルト材料を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明におけるベルト材料の実施形態につき説明する。本実施形態のベルト材料は、例えばタイミングベルト(図示せず)の歯部等であるベルト本体の形成に用いられる。ベルト材料は、FKM(フッ化ビニリデン系)の三元系フッ素ゴムを主成分とし、フッ素ゴムを加硫するためパーオキサイド(過酸化物)加硫剤等を含む。
【0011】
さらにベルト材料においては、加硫後のフッ素ゴムの接着性を向上させるために添加された接着向上剤が含まれている。このため、ベルト材料の加硫により形成されるベルト本体を、ベルトの帆布や心線(いずれも図示せず)に強固に接着させることができる。本実施形態の接着向上剤としては、例えば、無水マレイン酸変性液体ポリブタジエン樹脂が使用される。以下、ベルト材料の実施例および比較例の成分につき詳細に説明する。
【実施例】
【0012】
表1は、実施例および比較例におけるベルト材料の成分を示す表である。表1に示された数値の単位はいずれも重量部である。いずれの実施例および比較例も、カーボンブラック、亜鉛華、加硫助剤を含む。
【0013】
【表1】

【0014】
実施例1〜3のベルト材料においては、さらに、水酸化カルシウムが添加されている。すなわち、フッ素ゴム100重量部に対して、実施例1では1重量部、実施例2では3重量部、実施例3では5重量部の水酸化カルシウムが含まれている。そしてこれらの実施例1〜3のいずれにも、フッ素ゴム100重量部に対して4重量部の(内添型)接着向上剤が含まれている。
【0015】
これに対し、比較例1〜3のベルト材料は、接着向上剤および水酸化カルシウムの含有量が実施例1〜3と異なる。比較例1では、接着向上剤と水酸化カルシウムとがいずれも含まれず、比較例2では、これらの成分のうち、水酸化カルシウムのみが3重量部含まれ、比較例3では、接着向上剤のみが4重量部含まれている。なお、接着向上剤の添加量は、フッ素ゴム成分100重量部に対して約3重量部以上であれば、一般に充分な接着強度が得られるため、本実施形態では4重量部とした。
【0016】
次に、実施例および比較例のベルト材料の物性を、評価試験の結果に基づいて説明する。表2は、実施例1〜3および比較例1〜3のベルト材料の加硫時、および加硫後の諸物性を示す。表3は、比較例3のベルト材料について、10回(n=1〜10)に渡って各物性を評価した結果を示しており、表2では、各物性につきそれらの平均値が示されている。
【0017】
【表2】

【0018】
【表3】

【0019】
表2および3における、加硫時の物性値はJIS K6300、加硫後の物性値はJIS K6251および6253、接着強度はJIS K6256にそれぞれ準じて測定された。また、接着強度は、比較例1の測定値を基準(100)としたときの接着強度比で示されている。
【0020】
なお、加硫時の物性は、実施例1〜3および比較例1〜3のベルト材料を170℃の高温下で40分間、加硫させる際に測定しており、加硫後の物性は、各ベルト材料を170℃で20分間、加硫させた後に測定している。
【0021】
これらの試験結果から、実施例1〜3、特に実施例2および3のベルト材料は優れた物性を有し、比較例1〜3のベルト材料は、何らかの欠点を有するといえる。この点について、表2および3に示した物性値をグラフ化した図面を参照し、実施例1〜3および比較例1〜3を比較しつつ説明する。
【0022】
図1は、複数回に渡って測定した比較例3の結果を含む比較例の加硫曲線(加硫時間(min)とトルク(N・m)との関係)を示すグラフである。図2は、複数回に渡って測定した実施例2の加硫曲線を示すグラフである。図3は、水酸化カルシウムの含有量のみが異なる実施例1〜3及び比較例3の加硫曲線を示すグラフである。
【0023】
図1より明らかであるように、比較例1および2のベルト材料においては、加硫曲線の差がわずかであり、加硫が比較的速やかに進行している。これに対し、比較例3のベルト材料においては、同一の組成にも係わらず比較例3−1(n=1・表3参照)から比較例3−10(n=10)の間での加硫曲線の差が大きい。そして、比較例3−1〜3−10の平均を示す加硫曲線は、比較例1および2に比べ、時間の経過に伴うトルク増加が少ない。
【0024】
以上のことから、比較例3のベルト材料においては、比較例1および2に比べ、加硫が速やかに進まない上に、加硫密度の安定性に欠くことが明らかである。このことは、フッ素ゴム100重量部に対して、接着向上剤としての無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンを4重量部配合(表1参照)することにより、ベルト材料の加硫特性が低下することを示す。また、比較例1および2の結果より、接着向上剤が含まれない場合においては、水酸化カルシウムの添加による加硫特性の向上効果はごくわずかであるといえる。
【0025】
これに対し、図2より明らかであるように、比較例3に水酸化カルシウムを3重量部加えた実施例2(表1参照)のベルト材料で6回(n=6)加硫実験を行うと、加硫特性は安定しており、かつ比較例3に比べ速やかに加硫が進行することが明らかである。
【0026】
さらに、水酸化カルシウムを含まない比較例3と、比較例3の組成に水酸化カルシウムをそれぞれ1、3、5重量部(内添型接着向上剤に対してそれぞれ25、75、125(重量%)の水酸化カルシウム・表1参照)加えた実施例1、2、3のベルト材料の加硫曲線を比較した図3より明らかであるように、接着向上剤が含まれている場合は、水酸化カルシウム量の増加に伴い、加硫特性が向上するといえる。そして、フッ素ゴム100重量部に対して1重量部の水酸化カルシウムを含む実施例1では、ある程度の加硫促進効果が得られるのに対し、フッ素ゴム100重量部に対して3重量部の水酸化カルシウムを含む実施例2では、より大きな加硫促進効果が得られることが明らかである。
【0027】
以上のことから、フッ素ゴムに対して接着向上剤を添加する場合においては、そのままでは加硫密度、加硫速度の低下といった影響が認められるのに対し、さらに水酸化カルシウムを少なくともフッ素ゴム100重量部に対して1重量部以上加えると加硫特性が向上し、3重量部以上加えるとより大きな効果が得られるといえる。
【0028】
次に、加硫後の物性につき説明する。表2から明らかであるように、比較例1および2は、ほぼ同等かつ良好なモジュラス特性、破断強度、破断伸びを有しているのに対し、比較例3では、50%モジュラス値(MPa)および破断強度値(MPa)が低下し、破断伸びの値(%)は増加している。このことは、上述のように、比較例3では比較例1および2ほど十分に加硫が進行しておらず、加硫密度が低いことに起因するものと考えられる。
【0029】
これに対し、フッ素ゴム100重量部に対して水酸化カルシウムをそれぞれ1、3、5重量部加えた点が比較例3の組成と異なる実施例1、2、3のベルト材料(表1参照)においては、硬度、モジュラス特性、破断強度、破断伸びのいずれもが比較例3よりも良好である。特に、これらの評価結果の数値から明らかであるように、実施例1では、水酸化カルシウムの添加による比較例3からの改善効果は小さいのに対し、実施例2および3では、加硫後の物性が大幅に向上しており、比較例2および3とほぼ同等であるといえる。
【0030】
従って、これらの評価結果からも、フッ素ゴム100重量部に対して少なくとも1重量部の水酸化カルシウムを添加することにより加硫特性の向上が認められること、および、3重量部以上の添加により大きく加硫特性が向上することが明らかである。
【0031】
次に、接着強度につき説明する。図4は、比較例1の接着強度を基準(100)とした場合における、各比較例のベルト材料の接着強度比を示すグラフである。図5は、図4と同様に、実施例および比較例のベルト材料の接着強度比を示すグラフである。
【0032】
図4および5から明らかであるように、比較例1および2のベルト材料に比べ、比較例3、および実施例1〜3のベルト材料は、ベルトの帆布および心線との接着性に優れている。そして、接着向上剤をいずれも含まない比較例1および2のベルト材料の接着性が同じレベルであり、フッ素ゴム100重量部に対していずれも4重量部ずつ接着向上剤が添加された比較例3、および実施例1〜3のベルト材料は、互いにほぼ同レベルの良好な接着性を有する。従って、これらのベルト材料の接着性は、接着向上剤である無水マレイン酸変性液体ポリブタジエン樹脂の添加の有無に起因するといえる。
【0033】
以上のことから、比較例1および2のベルト材料は加硫特性に優れているものの、接着性に劣り、比較例3のベルト材料は良好な接着性を有するものの、加硫特性に劣ることが明らかである。
【0034】
これに対し、接着向上剤の添加により接着性が向上された上に、接着向上剤添加の弊害によるものと考えられる加硫特性の低下を水酸化カルシウムの添加によって防止した実施例1〜3、特に水酸化カルシウムの添加量の多い実施例2および3のベルト材料は、良好な加硫特性をも保っている。
【0035】
なお、接着向上剤である無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンの添加による加硫特性の低下の原因としては、加硫剤の過酸化物が、無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンの二重結合に対して反応してしまい、その本来の目的であるフッ素ゴムの架橋反応が十分に行われていない可能性があり、水酸化カルシウムは、この副反応を防止するものと考えられる。
【0036】
接着向上剤としては、本実施形態における無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンの他にも、これに類似するもの、例えば、マレイン酸変性液状ポリブタジエン、アクリル酸変性液状ポリブタジエン、ウレタン変性液状ポリブタジエン、カルボン変性液状ポリブタジエン、マレイン酸変性液状ポリイソプレンのいずれか少なくとも一つを用いることによっても、本実施形態と同様な効果が得られる。
【0037】
以上のように本実施形態によれば、接着性を向上させるために添加される接着向上剤により生じる加硫特性の低下を、水酸化カルシウムのさらなる添加によって防止することにより、帆布、心線等に対する接着性に優れるのみならず、安定しかつ優れた加硫特性を有するベルトおよびベルト材料を実現できる。
【0038】
本実施形態のベルト材料により形成されるベルトは、タイミングベルトには限定されない。例えば、Vリブドベルト、Vベルト等の動力伝達ベルトにおいて、ベルト本体を形成するために用いられても良い。ベルト材料の成分についても、本実施形態には限定されず、例えば、FKM(フッ化ビニリデン系)以外のフッ素ゴムを用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】複数回に渡って測定した結果を含む比較例の加硫曲線を示すグラフである。
【図2】複数回に渡って測定した実施例2の加硫曲線を示すグラフである
【図3】比較例3及び実施例1〜3の加硫曲線を示すグラフである。
【図4】比較例1の接着強度を基準とした、各比較例のベルト材料の接着強度比を示すグラフである。
【図5】図4と同様に、実施例および比較例のベルト材料の接着強度比を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素ゴムに、前記フッ素ゴムの接着性を向上させるための接着向上剤と水酸化カルシウムとが添加されたベルト材料を、過酸化物により加硫させて形成されたベルト本体を備えることを特徴とするベルト。
【請求項2】
前記ベルト材料において、前記水酸化カルシウムが、前記フッ素ゴム100重量部に対して1重量部以上、添加されていることを特徴とする請求項1に記載のベルト。
【請求項3】
前記ベルト材料において、前記水酸化カルシウムが、前記フッ素ゴム100重量部に対して3重量部以上、添加されていることを特徴とする請求項2に記載のベルト。
【請求項4】
前記フッ素ゴムが、フッ化ビニリデン系フッ素ゴムであることを特徴とする請求項1に記載のベルト。
【請求項5】
前記ベルト材料において、前記接着向上剤が、前記フッ素ゴム100重量部に対して3重量部以上、添加されていることを特徴とする請求項1に記載のベルト。
【請求項6】
前記接着向上剤が、無水マレイン酸変性液状ポリブタジエン、マレイン酸変性液状ポリブタジエン、アクリル酸変性液状ポリブタジエン、ウレタン変性液状ポリブタジエン、カルボン変性液状ポリブタジエン、マレイン酸変性液状ポリイソプレンのいずれか少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1に記載のベルト。
【請求項7】
前記ベルトがタイミングベルトであることを特徴とする請求項1に記載のベルト。
【請求項8】
フッ素ゴムと、
前記フッ素ゴムの接着性を向上させるために添加された接着向上剤と、
前記フッ素ゴムに添加された水酸化カルシウムと、
前記フッ素ゴムを加硫するための過酸化物とが混合されていることを特徴とするベルト材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−102571(P2009−102571A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−277523(P2007−277523)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(000115245)ゲイツ・ユニッタ・アジア株式会社 (101)
【Fターム(参考)】