説明

ベルト取り外し治具

【課題】プーリ径の異なるプーリに共通して使用することのできる汎用性の高いベルト取り外し治具の提供。
【解決手段】ベルト3をプーリ軸方向に滑らせる傾斜面4と、プーリ溝に係合する係合部5とを備える。プーリ2を回転させながらプーリ2及びベルト3間にベルト取り外し治具1を介在させる。プーリ2に巻き付くベルト3が表面側の傾斜面4をプーリ軸方向に滑ってプーリ溝から外れる。ベルト取り外し治具1をその裏面側の係合部5がプーリ溝になじむよう変形自在にする。ベルト3から受ける力によってベルト取り外し治具1が変形するので、プーリ径の異なるプーリ2に共通のベルト取り外し治具1を使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外周面にプーリ溝を有するプーリに掛巻された周方向に伸長可能なベルトを前記プーリ溝から取り外すためのベルト取り外し治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、外周面にプーリ溝を有するプーリにベルトを掛巻してなるベルト伝動機構には、ベルト張力の作用しない状態でベルトを着脱できるように、テンションプーリなどの張力調整部が設けられている。
【0003】
このような張力調整部を不要にするため、プーリに着脱する際に周方向に伸長させてプーリフランジを乗り越えさせるようにしたベルトが出現しており、さらに、特許文献1は、周方向に伸長可能なベルトをプーリ溝から取り外すためのベルト取り外し治具を開示している。
【0004】
図4に、特許文献1が開示するベルト取り外し治具を示す。ベルト取り外し治具101は、プーリと等しい曲率半径に設定されたプーリ係合表面102と、傾いた円弧形状のベルト係合表面103とを備えている。ベルト取り外し治具101のプーリ係合表面102を外周側に係合させてプーリを回転させ、ベルト係合表面103にベルトを乗り上げさせることにより、このベルトがベルト係合表面103を徐々に横切るよう移動してプーリ溝から取り外される。
【特許文献1】特表2004−533579号公報(段落番号0018、0026、00028、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記のベルト取り外し治具は、プーリ係合表面をプーリと等しい曲率半径に設定してプーリの外周側に係合させるものであり、各プーリ径に対応するベルト取り外し治具をそれぞれ用意する必要がある。
【0006】
本発明は、プーリ径の異なるプーリに共通して使用することのできる汎用性の高いベルト取り外し治具の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係るベルト取り外し治具は、外周面にプーリ溝を有するプーリに掛巻された周方向に伸長可能なベルトをプーリ溝から取り外すためのものであり、プーリを回転させながらベルト及びプーリ間に介在させるようにしている。さらに、表面側にプーリに巻き付くベルトをプーリ軸方向に滑らせるようプーリ軸に対して傾斜する傾斜面を形成すると共に、裏面側にプーリ溝に係合する係合部を形成し、その係合部がプーリ溝になじむよう、プーリに巻き付くベルトから受ける力によって変形自在としている。
【0008】
上記構成によれば、プーリに巻き付くベルトを表面側の傾斜面に沿ってプーリ軸方向に滑らせて取り外すことができ、しかも、ベルトから受ける力によって変形自在としているので、裏面側の係合部の全体をプーリ径に合わせてプーリ溝になじませることができる。これにより、プーリ径の大きさに関わらず、共通のベルト取り外し治具を使用してプーリからベルトを取り外すことができる。
【0009】
また、表面側の端部に、プーリに巻き付くベルトを乗り上げさせるための乗り上げ面を形成し、この乗り上げ面を、プーリの周方向に対して傾斜させると共に、プーリ軸と平行に形成する。そうすれば、乗り上げ面がプーリ軸と平行であるので、ベルトとプーリ溝とで端部を十分に挟着するまで、ベルト取り外し治具にプーリ軸方向のベルト反力が作用するのを阻止することができ、ベルト取り外し治具の脱落を防止することができる。
【0010】
つまり、ベルト取り外し治具は、その表面側を覆うようにベルトを巻き付けて、プーリ溝になじませることによって係合部の全体をプーリ溝に係合させる構成であることから、ベルトが端部のわずかな範囲に乗り上げただけではプーリ溝への係合が不十分であり、プーリ軸方向にベルト反力が作用することによって、プーリから脱落するおそれがある。これに対し、乗り上げ面をプーリ軸と平行にして、ベルトが十分な範囲に乗り上がるまでプーリ軸方向にベルト反力が作用するのを阻止することにより、ベルト取り外し治具の脱落を防止することができる。
【0011】
また、ベルト取り外し治具を変形自在にするには、その形状を蛇腹状にするなどしてもよいが、ベルト取り外し治具を可撓性の樹脂から形成すれば、その形成を容易にすることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のとおり、本発明によると、プーリに巻き付くベルトを表面側の傾斜面に沿ってプーリ軸方向に滑らせて取り外すことができ、しかも、プーリ径に合わせてプーリ溝になじませることにより、プーリ径の異なるプーリに共通のベルト取り外し治具を使用可能として、ベルト取り外し治具の汎用性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係るベルト取り外し治具を実施するための最良の形態について、図面を用いて説明する。図1は本発明に係るベルト取り外し治具の斜視図である。図2はベルト取り外し治具の断面図で、(a)はA−A断面図、(b)はB−B断面図である。
【0014】
ベルト取り外し治具1は、プーリ2を回転させながらプーリ2及びベルト3間に介在させることにより、プーリ2に掛巻されたベルト3をプーリ外周面のプーリ溝から取り外すためのものであり、ベルト3をプーリ軸方向に滑らせる傾斜面4と、プーリ溝に係合する係合部5と、ベルト3を乗り上げさせるための乗り上げ面6とを備え、自由状態で長さ方向に沿って湾曲して形成され、さらに、可撓性の樹脂から形成されることにより、その係合部5がプーリ溝になじむよう変形自在とされている。
【0015】
ベルト3は、周方向に伸長可能とされてテンショナーなどの張力調整部を不要にするものであり、例えばベルト本体にポリアミドからなる心線を埋設した構造とすることによって周方向の伸び率を2〜3%に設定される。なお、ベルト3は、周方向に伸長可能でかつプーリ溝に嵌めて掛巻するものであれば、Vリブドベルトや平ベルトなど、どのようなものであってもよい。
【0016】
傾斜面4は、ベルト取り外し治具1の表面側でかつ長さ方向の中央部に、係合部5に対して幅方向に傾斜して形成されている。これにより、ベルト取り外し治具1をプーリ2及びベルト3間に介在させた状態で、傾斜面4がプーリ軸に対して傾斜し、プーリ2に巻き付くベルト3をプーリ軸方向に滑らせるようになっている。
【0017】
係合部5は、ベルト取り外し治具1の裏面側に、プーリ溝に嵌る大きさに形成され、ベルト取り外し治具1の湾曲に伴って長さ方向に沿って湾曲している。さらに、プーリ2に巻き付くベルト3から力を受けてベルト取り外し治具1が変形することにより、係合部5がプーリ溝になじむようになっている。
【0018】
係合部5の幅方向両側は、プーリフランジ7が嵌る切欠部8とされ、ベルト取り外し治具1がプーリフランジ7の外周面を覆うことにより、プーリ溝から外れるベルト3がプーリフランジ7に引っ掛かって損傷するのを防止する。
【0019】
なお、係合部5の形状は、プーリ溝の形状に応じて適宜設定すればよく、例えば、ベルト3が平ベルトの場合には、図2に示すように裏面が平坦な形状に設定することができ、ベルト3がVリブドベルトの場合には、プーリ2のVリブプーリ溝に係合するVリブ形状に設定することができる。さらに、その係合部5のVリブ形状のリブ数は、1以上であれば、プーリ2のVリブプーリ溝の溝数と同じであってもよく、その溝数よりも少ないリブ数であってもよい。
【0020】
乗り上げ面6は、ベルト取り外し治具1の表面側でかつ長さ方向の端部に、係合部5に対して長さ方向に傾斜かつ幅方向に平行に形成されている。この乗り上げ面6は、ベルト取り外し治具1をプーリ溝の外周側に配置した状態で、プーリ2の周方向に対して傾斜すると共にプーリ軸と平行に設定され、プーリ2に巻き付くベルト3をプーリ軸方向に滑らせることなく乗り上げさせる。これにより、プーリ2とベルト3とで端部を十分に挟着するまで、プーリ軸方向のベルト反力が作用するのを阻止して、ベルト取り外し治具1の脱落を防止することができる。
【0021】
次に、ベルト取り外し治具1を用いてプーリ2からベルト3を取り外す手順を説明する。図3はプーリからベルトを取り外す手順を示す図である。
【0022】
まず、図3(a)に示すように、ベルト取り外し治具1をその端部を小径側のプーリ2とベルト3との間に挿入するようプーリ2の外周側に配置し、大径側のプーリ9のセンターボルトに例えば市販の工具10を装着する。
【0023】
次いで、図3(b)に示すように、工具10を操作してプーリ9を回転させることにより、ベルト3を介してプーリ2を回転させる。このとき、大径側のプーリ9を原動側として回転させ、小径側のプーリ2を従動側として回転させるので、回転に要する力を小さくすることができる。
【0024】
これにより、ベルト3がベルト取り外し治具1の乗り上げ面6に乗り上げ、ベルト取り外し治具1の端部がプーリ2とベルト3との間に挟着されると共に、係合部5の端部がプーリ溝に係合する。ここで、乗り上げ面6がプーリ軸と平行に設定されているので、ベルト取り外し治具1の端部が十分に挟着及び係合されるまで、プーリ軸方向にベルト反力が作用することがなく、ベルト取り外し治具1の脱落が防止される。
【0025】
さらに、工具10を操作し、プーリ9及びベルト3を介してプーリ2を回転させることにより、係合部5がプーリ溝になじむよう、ベルト取り外し治具1が変形しながらプーリ2及びベルト3間に介在される。これにより、係合部5の全体がプーリ溝に係合してベルト反力による脱落が阻止されつつ、ベルト取り外し治具1の表面側を覆うベルト3が傾斜面4に沿ってプーリ軸方向に滑り、図3(c)に示すように、プーリ2、9からベルト3が外れる。
【0026】
上記構成によれば、ベルト3から受ける力によって、係合部5がプーリ溝に係合しつつなじむよう、ベルト取り外し治具1が変形するので、プーリ径に関わらず共通のベルト取り外し治具1を使用することができ、ベルト取り外し治具1の汎用性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係るベルト取り外し治具の斜視図
【図2】ベルト取り外し治具の断面図で、(a)はA−A断面図、(b)はB−B断面図
【図3】プーリからベルトを取り外す手順を示す図
【図4】従来のベルト取り外し治具を示す斜視図
【符号の説明】
【0028】
1 ベルト取り外し治具
2、9 プーリ
3 ベルト
4 傾斜面
5 係合部
6 乗り上げ面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面にプーリ溝を有するプーリに掛巻された周方向に伸長可能なベルトを前記プーリ溝から取り外すためのベルト取り外し治具であって、前記プーリを回転させながらベルト及びプーリ間に介在され、表面側にプーリに巻き付くベルトをプーリ軸方向に滑らせるようプーリ軸に対して傾斜する傾斜面が形成されると共に、裏面側にプーリ溝に係合する係合部が形成され、前記係合部がプーリ溝になじむよう、プーリに巻き付くベルトから受ける力によって変形自在とされたことを特徴とするベルト取り外し治具。
【請求項2】
表面側の端部に、プーリに巻き付くベルトを乗り上げさせるための乗り上げ面が形成され、該乗り上げ面は、プーリの周方向に対して傾斜すると共に、プーリ軸と平行に形成されたことを特徴とする請求項1に記載のベルト取り外し治具。
【請求項3】
可撓性の樹脂から形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のベルト取り外し治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−115149(P2009−115149A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−287116(P2007−287116)
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【出願人】(000115245)ゲイツ・ユニッタ・アジア株式会社 (101)
【Fターム(参考)】