説明

ベルト張力測定方法

【課題】騒音環境下においてもベルトの張力を測定することができるベルト張力測定方法の提供。
【解決手段】ゴムなどの非磁性体からなるベルト2の一部に磁性体を含有するインクを塗布して磁性部3とする。磁性部3に電磁センサー4を近接させる。ベルト2を弾いてその振動波形を電磁センサー4によって検出する。検出した振動波形を装置本体5に入力する。装置本体5の固有周期検出部12が振動波形からベルト2の固有周期(t)を求める。装置本体5の演算部14が固有周期(t)からベルト張力を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルトの振動波形を検出して固有振動数又は固有周期を求めることによってベルト張力を測定するベルト張力測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ベルト張力を設計上定められた適正な大きさに設定してベルト伝達装置を理想的な状態で運転するには、プーリに掛巻したベルトの張力を測定して適正なベルト張力であることを確認する必要がある。このようなベルト張力の測定のため、例えば特許文献1や特許文献2は、ベルトを弾いたときの振動音をマイクロフォンで検出し、検出した振動音からベルトの固有振動数を求め、この固有振動数に基づいてベルト張力を算出するようにした音波式の張力測定装置を開示している。
【特許文献1】特開平6−137932号公報(段落番号0015、段落番号0021)
【特許文献2】特開平9−5153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、特許文献1や特許文献2が開示する音波式の張力測定装置は、ベルトの振動音から固有振動数を求めてベルト張力を算出するので、騒音レベルの大きい環境下では、ベルトの振動音が周りの騒音に紛れて測定できないことがある。
【0004】
本発明は、騒音環境下においてもベルトの張力を測定することができるベルト張力測定方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係るベルト張力測定方法は、ベルトの振動波形を検出して固有振動数又は固有周期を求めることによってベルト張力を測定するものである。具体的には、まず、ベルトの一部に磁性部を設けて、この磁性部に近接させて電磁センサーを配置した後、ベルトを弾いてその振動波形を電磁センサーによって検出し、電磁センサーが検出した振動波形からベルトの固有振動数及び固有周期の少なくともいずれか一方を求めてベルト張力を算出するものである。
【0006】
上記構成によれば、ベルトの一部に磁性部を設けるので、この磁性部に電磁センサーを近接させて磁界の変化を検出することにより、ゴムなどの非磁性体からなるベルトの振動波形を電磁センサーによって検出することができる。これにより、音波式の張力測定装置を用いた測定のように周囲の騒音に邪魔されることがなく、ベルトの振動波形をより正確に検出して、ベルト張力を確実に測定することができる。
【0007】
ここで、ベルト張力は、ベルトの振動波形から求めた固有振動数や固有周期を用いて、ベルトの張力と固有振動数又は固有周期との関係を示す以下の式により算出する。なお、以下の式は、弦などの線材の基本振動における振動数と張力との関係を表す式と同じ式である。
T=4×L×A×f 又は、 T=4×L×A×(1/t)
上式において、Tはベルト張力であり、Lはベルト振動部長さ、Aはベルト線密度、fは固有振動数、tは固有周期(=1/f)である。さらに、ベルト振動部長さ(L)は、ベルトのピッチラインが一対のプーリのピッチ円に接する2点間の距離であり、ベルトを掛ける一対のプーリが同径の場合には、両プーリの中心軸間距離に等しい。
【0008】
磁性部は、ベルトにマグネットシートやクリップなどの金属片を取り付けた構成のものであってもよいが、ベルトの一部に例えば酸化鉄などの磁性体を含有するインク又は塗料を塗布して磁性部とすれば、ベルトの重さを変えることなく磁性部を構成することができ、しかも、ベルト張力の測定後、ベルトの使用に際して取り外す必要もない。
【0009】
インク又は塗料は、乾燥後の磁性体の含有量(磁性率)が50〜80重量%のものがよく、特に、磁性体の含有量(磁性率)が75〜80重量%のものが、より好適である。これにより、電磁センサーでベルトの振動波形を確実に検出することができる。
【0010】
また、本発明は、電磁センサーによって振動波形を測定可能なベルトであって、ベルト背面に、乾燥後の磁性体の含有量(磁性率)が50〜80重量%であるインク又は塗料を塗布されたことを特徴とするベルトを提供する。
【発明の効果】
【0011】
以上のとおり、本発明によると、ベルトに設けた磁性部に電磁センサーを近接させてベルトの振動波形を検出するので、音波式の張力測定装置を用いた測定のように周りの騒音に邪魔されることがなく、騒音環境下においても確実にベルトの張力を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係るベルト張力測定方法を実施するための最良の形態について、図面を用いて説明する。図1は本発明に係るベルト張力測定方法に使用するベルト張力測定装置の概念図であり、図2は電磁センサーの要部断面図である。
【0013】
ベルト張力測定装置1は、ベルト張力が設計上定められた適正値であることを確認してベルト伝達装置を理想的な状態で運転するよう、プーリ(図示せず)に掛巻したVリブドベルトなどのベルト2の張力を測定するためのものであり、ベルト2に設けた磁性部3に近接してベルト2の振動波形を検出する電磁センサー4と、電磁センサー4が検出した振動波形から求めたベルト2の固有周期からベルト張力を算出して表示する装置本体5と、電磁センサー4を保持するアーム6と、アーム6に回動自在に取り付けられてベルト2を弾く弾き爪7とを備えている。
【0014】
磁性部3は、ベルト2の背面に酸化鉄などの磁性体を含有するインク8を塗布してなり、そのインク8の乾燥後の磁性体の含有量(磁性率)が50〜80重量%に設定される。この磁性部3は、インク8を少なくとも5mm×5mmで好ましくは1cm×1cm程度の範囲に、かつ1mm以下で好ましくは0.1mm〜0.2mm程度の厚さに塗布するのがよく、塗布した後のインク8が乾燥した状態あるいは未乾燥の状態のいずれであってもよい。
【0015】
インク8は、例えば、その成分及び各成分の含有量の重量%が、酸化第二鉄(5〜10%)、非晶質シリカ(1〜5%)、トルエン(31%)、キシレン(6.4%)、エチルベンゼン(2.7%)、酢酸エチル(5〜10%)、酢酸ブチル(5〜10%)、イソプロピルアルコール(5〜10%)からなるものを使用することができる。この成分のインク8は、乾燥後に残存する固形分に対する酸化第二鉄の含有量(重量%)が50〜80%であり、また、ベルト2を構成するゴムの劣化などの悪影響もない。
【0016】
電磁センサー4は、センサー本体4aに棒状の永久磁石9をその先端を外部に突出させて収容すると共に、永久磁石9の周りの空間にコイル10を配置してなり、そのコイル10が接続コード11を介して装置本体5に接続されている。この電磁センサー4は、永久磁石9の突出する先端をベルト2の磁性部3に近接させたとき、磁性部3の移動に伴う磁界の変化によってコイル10に電流が発生するようになっており、ベルト2の振動に伴う電流の変化を振動波形として装置本体5に入力するようになっている。
【0017】
装置本体5は、電磁センサー4から入力された振動波形からベルト2の固有周期(t)を検出する固有周期検出部12と、ベルト振動部長さ(L)及びベルト線密度(A)を入力する入力部13と、固有周期(t)、ベルト振動部長さ(L)及びベルト線密度(A)からベルト張力(T)を演算する演算部14と、演算部14で求めたベルト張力(T)を表示する表示部15とを備え、電磁センサー4が検出した振動波形からベルト張力(T)を算出して表示するようになっている。
【0018】
アーム6は、その先端側で枝16、17に二股に分かれた棒状とされ、一方の枝16に電磁センサー4がその先端方向をアーム6の先端方向と合わせて固定され、他方の枝17に弾き爪7が取り付けられている。
【0019】
弾き爪7は、その先端部に勾配面7aを有すると共に、中央部に軸受け7bを有する長方形状とされ、軸受け7bを貫通するピン18を介して、枝17に回動自在に取り付けられている。
【0020】
弾き爪7の姿勢は、ベルト2を弾く前において、アーム6とほぼ直交しつつ先端が電磁センサー4側に向くように設定され、勾配面7aをベルト2の背面側縁部に接触させた状態で、電磁センサー4の先端がベルト2の背面と3mm以下の間隔をあけて対向する。また、弾き爪7の先端から電磁センサー4の中心軸までの距離は、ベルト幅の1/2以下に設定される。これにより、電磁センサー4をベルト2の磁性部4に近接させた状態において、弾き爪7がベルト2を弾くようになっている。
【0021】
弾き爪7を回動自在に支持するピン18の周りには、弾き爪7及びストッパ19に両端部を係止されるねじりコイルばね20が設けられ、このねじりコイルばね20が弾き爪7の先端をベルト2から遠ざける方向に付勢しており、ベルト2を弾いた後、元の姿勢に戻るようになっている。
【0022】
弾き爪7の基端は、ワイヤ21を介して、アーム6の基端部に回動自在に取り付けられたL字形のレバー22に連結されている。このレバー22をアーム6の基端部に形成されたグリップ23と一緒に握ることにより、弾き爪7がねじりコイルばね20の付勢力に抗して回動して、弾き爪7の先端部がベルト2を弾くようになっている。
【0023】
次に、ベルト張力測定装置1を用いてベルト2の張力を測定する手順を説明する。図3はベルト張力測定装置の機能を示す図であり、(a)はブロック図で、(b)は整形された振動波形の一例を示す図である。
【0024】
まず、金属へらなどを用いて、ベルト2の背面に磁性体を含有するインク8を好ましくは1cm×1cm程度の範囲かつ0.1mm〜0.2mm程度の厚さに塗布して磁性部3とする。この磁性部3は、塗布した後のインク8が乾燥した状態あるいは未乾燥の状態のいずれであってもよい。
【0025】
次いで、入力部13にベルト振動部長さ(L)及びベルト線密度(A)を入力する。ここで、ベルト振動部長さ(L)は、ベルトのピッチラインが一対のプーリのピッチ円に接する2点間の距離であり、ベルトを掛ける一対のプーリが同径の場合には、両プーリの中心軸間距離に等しい。ベルト線密度(A)は、ベルト2の単位長さ当たりの質量である。
【0026】
その後、アーム6のグリップ23を持って、先端側に固定した電磁センサー4の永久磁石9の先端を磁性部3に3mm以下の間隔で近接させると共に、弾き爪7の先端部の勾配面7aをベルト2の背面側縁部に接触させる。さらに、レバー22をアーム6のグリップ23と一緒に握ることにより、弾き爪7を回動させてその先端部でベルト2を弾く。これにより、ベルト2と共に磁性部3が振動して磁界が変化し、電磁センサー4のコイル10に電流が流れる。この電流は、ベルト2の振動に伴って変化し、電磁センサー4が検出したベルト2の振動波形として、固有周期検出部12に入力される。
【0027】
図3(a)に示すように、固有周期検出部12は、まず、入力された振動波形を波形整形器24に取り込んで、図3(b)に例示する矩形波に整形し、その周期を1サイクル毎にラッチ25に保持して、順に周期記憶部26に入力する。なお、図3(b)に例示する矩形波の周期は符号t0〜tnで示すように変動する。この振動波形は、最初は不規則な波形であるが、やがて規則的な波形が連続するようになり、この規則的な波形をベルトの固有振動(基本振動)とみなし、その周期を固有周期(t)とすることができる。
【0028】
周期記憶部26が記憶した周期のデータを周期比較部27において基準周期と比較し、基準周期からの変動幅が予定範囲内にある波形を検出する。変動幅が予定範囲内にある波形が連続している場合、その連続波形の周期をグループ毎にまとめて安定波形周期記憶部28に記憶する。さらに、このようなグループが複数ある場合、最大グループ検出部29で連続数の最も大きいグループを検出することにより、周期が最も安定している波形グループを検出し、この安定した波形の周期をベルト2の固有周期(t)とみなして演算部14に入力する。
【0029】
演算部14は、固有周期検出部12から入力されたベルト2の固有周期(t)と、入力部13に入力されたベルト振動部長さ(L)及びベルト線密度(A)とから、以下の式に基づいてベルト張力(T)を演算する。
T=4×L×A×(1/t)
ここで、ベルト張力(T)の単位は(N)であり、ベルト振動部長さ(L)の単位は(m)、ベルト線密度(A)の単位は(kg/m)、固有周期(t)の単位は(s)である。
【0030】
演算部14が算出したベルト張力(T)を表示部15が出力することにより、ベルト張力の測定が完了する。その後、磁性部3からインク8を拭き取ることなく、ベルト伝達装置をそのまま使用することができる。なお、周期記憶部26、周期比較部27、安定波形周期記憶部28、最大グループ検出部29及び演算部14は、マイクロコンピュータで構成することができる。
【0031】
上記構成によれば、ベルト2の背面に磁性部3を設けるので、ゴムなどの非磁性体からなるベルト2の振動波形を電磁センサー4によって検出することができる。これにより、音波式の張力測定装置のように周囲の騒音の影響を受けることなくベルト2の振動波形を検出して、ベルト張力を正確に測定することができる。
【0032】
また、乾燥後の磁性体の含有量(磁性率)が50〜80重量%のインク8を塗布して磁性部3とするので、ベルト2の重さを変えることなく振動波形を検出することができ、しかも、ベルト張力を測定した後、ベルト2を使用する際にインク8を拭き取るなどして磁性部3を取り外す必要がない。
【0033】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、適宜変更を加えることができる。例えば、振動波形から固有周期(t)を検出する代わりに固有振動数(f)を検出して、この固有振動数(f)からベルト張力(T)を算出するようにしてもよい。固有周期(t)や固有振動数(f)は、上記の固有周期検出部12によって検出するだけでなく、周知の周波数分析機を用いて周波数(f)の分布から検出することもできる。
【0034】
また、電磁センサー4は、アーム6に装着することなく使用することもでき、この場合、電磁センサー4を磁性部3に近接させて、別の手段でベルト2を弾くようにする。さらに、電磁センサー4を磁性部3に一旦接触させた後、電磁センサー4を磁性部3からゆっくり引き離すことにより、ベルト2を振動させてその振動波形を検出することもできる。
【0035】
インク8は、乾燥後の磁性体の含有量(磁性率)が50〜80重量%のものであればよく、成分の異なるインクを使用することによってコイル10に流れる電流の大きさが変わったとしても、検出した振動波形は同一のものである。また、インク8を塗布する部位は、ベルト2の背面に限らず、ベルト内面など他の部位であってもよい。さらに、インク8を塗布する代わりに、マグネットシートやクリップなどの金属片を取り付けて磁性部3とすることもできる。この場合、ベルト張力を測定した後、ベルト伝達装置を運転する前に、ベルト2から磁性部3を取り外せばよい。
【0036】
ベルト2は、Vリブドベルトに限らず、歯付ベルトや平ベルトなどであってもよく、本発明の方法により、あらゆる種類のベルトの張力を測定することができる。特に、歯付ベルトの張力を測定する場合には、ベルト背面に磁性体を含有するインク8を塗布して磁性部3とするのがよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係るベルト張力測定方法に使用するベルト張力測定装置の概念図
【図2】電磁センサーの要部断面図
【図3】ベルト張力測定装置の機能を示す図であり、(a)はブロック図で、(b)は整形された振動波形の一例を示す図
【符号の説明】
【0038】
1 ベルト張力測定装置
2 ベルト
3 磁性部
4 電磁センサー
5 装置本体
6 アーム
7 弾き爪
8 磁性体を含有するインク
12 固有周期検出部
14 演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルトの振動波形を検出して固有振動数又は固有周期を求めることによってベルト張力を測定するベルト張力測定方法であって、
ベルトの一部に磁性部を設け、該磁性部に近接させて電磁センサーを配置した後、ベルトを弾いてその振動波形を前記電磁センサーによって検出し、電磁センサーが検出した振動波形からベルトの固有振動数及び固有周期の少なくともいずれか一方を求めてベルト張力を算出することを特徴とするベルト張力測定方法。
【請求項2】
ベルトの一部に磁性体を含有するインク又は塗料を塗布して前記磁性部とすることを特徴とする請求項1に記載のベルト張力測定方法。
【請求項3】
前記インク又は塗料は、乾燥後の磁性体の含有量が50〜80重量%であることを特徴とする請求項2に記載のベルト張力測定方法。
【請求項4】
電磁センサーによって振動波形を測定可能なベルトであって、ベルト背面に、乾燥後の磁性体の含有量が50〜80重量%であるインク又は塗料を塗布されたことを特徴とするベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−285840(P2007−285840A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−113011(P2006−113011)
【出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【出願人】(000115245)ゲイツ・ユニッタ・アジア株式会社 (101)
【Fターム(参考)】