説明

ベルト締具

【課題】ベルトの緩みおよび滑り出しを抑制し、確実に積荷を固定することができ、加えて、ベルト締具を解除することなくベルトの増締めを行うことができる構造を備えたベルト締具を提供すること。
【解決手段】互いに並行配置された2つの側壁部2a・2bを有する本体フレーム2と、本体フレーム2の端部に設けられ側壁部2a・2bに対して回転自在に両端部を軸支されたベルト巻取軸3とを具備するバックル1を備えたベルト締具101である。ベルト巻取軸3は、第1軸部材3aと、当該第1軸部材3aとの間にベルトが通る間隔を開けて配置された第2軸部材3bとを有し、第1軸部材3aと第2軸部材3bとが対向する側とは反対側の第1軸部材3aおよび第2軸部材3bの表面に凹凸4を形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品などを固定するためのベルト締具に関し、さらに詳しくは、トラックや船舶などに積載された積荷を固定するためなどに用いられるベルト締具に関する。
【背景技術】
【0002】
トラックや船舶などに積載された積荷を固定するために、従来、ベルトの締め込み(増締め)と開放とを行えるラチェット式のベルト締具が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、ベルトを少量単位で緩やかに巻戻し可能なベルト緩め機構を備えたベルト締具も知られている(例えば、特許文献2参照)。この特許文献2に記載されたベルト締具によると、ベルト緩め機構を構成する第2シャフトを回動させることにより、ベルトの締め込みを解除するときの振動を抑制でき、その結果、発生する騒音を低減することができる。なお、これら特許文献1,2は、いずれも本件出願人によるものである。これに対し、ラチェット式のベルト締具に関連する他の出願人による出願としては、例えば、以下の特許文献3〜5のような出願がある。
【0003】
まず、特許文献3に記載されたラチェットバックルは、ハンドルの各アームと押し爪との間に一対のばねを設け、各ばねの一端を各アームに係合し、各ばねの他端を押し爪の幅方向中心線に対称の位置で押し爪に係合してなるものである。このラチェットバックルによると、押し爪をスムーズに移動させることができ、かつ、当該ラチェットバックルの信頼性が向上する、と文献中で称されている。
【0004】
また、特許文献4に記載されたベルト締具は、丸パイプ内に軽量材からなる芯材を挿入し当該丸パイプを変形させることにより、丸パイプと芯材とを一体にした半軸体(一対の半軸体で巻取軸を構成する)を形成することを特徴とするものである。この技術によると、ベルト締具の軽量化を図ることができる。さらに、特許文献5に記載された荷締機は、レバーと巻取軸との間に、レバーの揺動による動力を巻取軸に伝達するメカニカルブレーキを有する伝動機構を備えてなるものである。この荷締機によると、荷締めを解く場合には、メカニカルブレーキを用いて調節側ベルトを徐々に緩めて安全な作業を行うことができる、と文献中で称されている。
【0005】
【特許文献1】実開昭57−37638号公報
【特許文献2】特開2003−222198号公報
【特許文献3】実開平5−17249号公報
【特許文献4】実開平5−50209号公報
【特許文献5】実開平2−150166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記したように、ラチェット式のベルト締具に関して様々な技術が既に提案されている。しかしながら、ベルト締具でベルトの締め込みを行った後、ベルトが締具から滑り出てくることがないようにするためには、少なくとも2回転程度ベルトを巻取軸に巻き付けた状態でベルト締具を使用しなくてはならず、そのためにはハンドルを10回程度往復操作する必要があり、積荷の固定作業は非常に手間のかかるものであった。また、ハンドル操作回数の数え間違いによる巻取り回数不足を起こす可能性もあった。さらに、一旦積荷を固定した後も、トラックなどの輸送中の振動による微少な積荷の移動などによりベルトが緩んでしまった場合、巻取軸にはベルトが既に複数回巻き取られているので、ベルトの増締めを行うには一旦ベルト締具を開放してから再度ベルトの巻取りを行うという手順をとっており、非常に手間がかかっていた。すなわち、ベルト締具に関しては、さらなる作業効率の向上が望まれ、ベルトの緩みおよび滑り出しという問題が残されていた。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ベルトの緩みおよび滑り出しを抑制し、確実に積荷を固定することができ、加えて、ベルト締具を解除することなくベルトの増締めを行うことができる構造を備えたベルト締具を提供することである。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ベルト巻取軸の表面の少なくとも一部にベルトとの摩擦係数を向上させるための滑り止め部を形成することで、前記課題を解決できることを見出し、この知見に基づき本発明が完成するに至ったのである。
【0009】
すなわち、本発明は、互いに並行配置された2つの側壁部を有する本体フレームと、前記本体フレームの端部に設けられ、前記2つの側壁部に対して回転自在に両端部を軸支されたベルト巻取軸と、を備え、前記ベルト巻取軸は、第1軸部材と、当該第1軸部材との間にベルトが通る間隔を開けて配置された第2軸部材と、を有し、前記第1軸部材および前記第2軸部材のうちの少なくともいずれか一方の表面に、ベルトとの摩擦係数を向上させるための滑り止め部が形成されているベルト締具である。
【0010】
この構成によると、第1軸部材と第2軸部材との間にベルトを通し、そして当該ベルトをベルト巻取軸(第1軸部材および第2軸部材)に巻き付けることにより、第1軸部材および第2軸部材のうちの少なくともいずれか一方の表面に形成された滑り止め部で、ベルトの緩みおよび滑り出しが有効に抑制される。その結果、ベルト巻取軸に対するベルトの巻き付け回数を少なくすることができ、作業効率が向上する。また、ベルトの緩みおよび滑り出しを抑制できることで、確実に積荷を固定することができる。
【0011】
また、ベルト巻取軸に対するベルトの巻き付け回数を少なくすることができるので、本発明の技術を従来のベルト締具に適用した場合には、ベルト巻取軸に対するベルトの巻き付け数および自由端側のベルト長さに余裕を取れるので、仮にベルトが緩んでしまった場合であっても一旦ベルトを開放(ベルト締具を解除)することなくベルトの締め込み(増締め)を行うことができる。一方、本発明の技術を新規のベルト締具設計に適用したならば、ベルトの巻き付け回数を減らすことができ、ベルト締具を従来よりも小型化することができる。
【0012】
また本発明において、前記滑り止め部は、前記ベルトが巻き付けられる前記ベルト巻取軸の外側面に形成されていることが好ましい。
【0013】
ベルト巻取軸に対するベルトの押付け力は、主にベルト巻取軸の外側面に作用する。したがって、この構成によると、ベルト巻取軸とベルトとの間の摩擦力を高めることができ、その結果、ベルトの緩みおよび滑り出しを抑制することができる。また、第1軸部材と第2軸部材との間の軸部材表面に滑り止め部を形成しなければ、第1軸部材と第2軸部材との間へのベルトの挿通を行い易くベルトの長さ調節がやり易くなるとともに、ベルトの傷つきを防止することができる。
【0014】
さらに本発明において、前記滑り止め部は、前記ベルト巻取軸の軸方向に、少なくとも前記ベルトの幅だけ連続して形成されていることが好ましい。
【0015】
この構成によると、ベルト巻取軸とベルトとの間の摩擦力をより高めることができる。
【0016】
さらに本発明において、前記滑り止め部は、前記第1軸部材と前記第2軸部材とが対向する側とは反対側の当該第1軸部材および当該第2軸部材の表面にそれぞれ形成されていることが好ましい。
【0017】
この構成によると、ベルトをベルト巻取軸に巻き付ける際に当該ベルト巻取軸を少なくとも半回転(1/2回転)させれば、必ず緊張側のベルトが滑り止め部に接触する。これにより、ベルト巻取軸を少なくとも半回転させればベルトの滑り出しを効果的に防止でき、結果としてベルトの締め込み作業が非常に行い易くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係るベルト締具101を示す図である。図1(a)は、ベルト締具101の平面図であり、図1(b)は、その側面図である。本実施形態のベルト締具101は、主に船舶に積載された積荷を固定するために用いられる船舶用のベルト締具である。
【0020】
(ベルト締具の構成)
図1に示すように、本実施形態のベルト締具101は、ラチェット式のバックル1と、バックル1の一端部に取り付けられた調節側ベルト31と、調節側ベルト31の端部に取り付けられたフック付きアーム21と、バックル1の他端部に取り付けられた固定側ベルト41と、固定側ベルト41の端部に取り付けられたフック付きアーム21とを備えている。このベルト締具1は、例えば船舶に積載された積荷を固定するために用いられるベルト締具である。バックル1を操作して調節側ベルト31の緊張側(バックル1とフック付きアーム21との間)のベルト長さを調節し積荷の固定・解除を行う。バックル1および一対のフック付きアーム21は金属製であり、調節側ベルト31および固定側ベルト41はPET(ポリエチレンテレフタレート)製である。なお、これら構成部品は、必ずしも金属またはPETからなる部品に限られるものではない。
【0021】
(バックル)
図2は、図1に示すバックル1の斜視図である。図2に示すように、バックル1は、本体フレーム2と、本体フレーム2の一端部に形成された孔に挿入されたベルト巻取軸3と、ベルト巻取軸3が端部の孔に挿入されたハンドル7と、本体フレーム2の他端部に形成された孔に挿入された固定側ベルト軸11とを具備してなるものである。
【0022】
(本体フレーム)
本体フレーム2は、互いに並行配置された平板状の側壁部2aおよび側壁部2bを幅方向において左右一対に備えている。これら側壁部2aと側壁部2bとの間隔は、調節側ベルト31および固定側ベルト41の幅よりも大きな間隔に設定される。また、側壁部2aと側壁部2bとは、それぞれの下端部から幅方向内側に延在する底板部2dで一体にされている。そして、この底板部2dの中央部から当該本体フレーム2の他端部方向に延びそして上向きに曲がる係止部2cを本体フレーム2は有している。この係止部2cには、矩形の孔2eが設けられている。また、本体フレーム2の他端部には、側壁部2a・2bに対して回転自在に固定側ベルト軸11が取り付けられている。この固定側ベルト軸11に、固定側ベルト41が取り付けられる。
【0023】
(ベルト巻取軸)
図3は、ベルト巻取軸の側面図であり、図3に示した2つの側面図のうち、図3(a)の方が、本実施形態のベルト巻取軸3の側面図である。図2および図3(a)に示すように、ベルト巻取軸3は、第1軸部材3aと、この第1軸部材3aとの間に少なくとも調節側ベルト31が通るだけの間隔を開けて配置された第2軸部材3bと、を有している。第1軸部材3aと第2軸部材3bとは、後述のラチェット歯車10に形成された2つの孔にそれぞれ挿入されて両側端部において係止ピン5で相互に連結されている。そして、このベルト巻取軸3は、本体フレーム2の2つの側壁部2a・2bに対して回転自在に両端部を軸支されている。
【0024】
次に、第1軸部材3aおよび第2軸部材3bの側面形状は、いずれも半円状の形態であり、本体フレーム2の側壁部2a・2b端部に形成された孔の内面およびハンドル20のハンドル支持板7a・7bに形成された孔の内面に沿って、ベルト巻取軸3が支障なく回転できるようになっている。ここで、第1軸部材3aと第2軸部材3bとが対向する対向側Aとは反対側の第1軸部材3aおよび第2軸部材3bの表面には、いずれも、軸部材3a・3bの全幅にわたり凸部を設け、その上に溝加工(相互に交差する溝)を施して凹凸4(滑り止め部)がつけられている。また、図3(a)に示したように、この凹凸4は、第1軸部材3aと第2軸部材3bとの間へのベルト挿入方向に対して直交する位置の軸部材3a・3bの表面に形成されている。また、凹凸4の両側には段差4aが形成されている。
【0025】
また、図2に示すように、凹凸4は、ベルト巻取軸3の軸方向において、2つの係止ピン5間に連続して形成されている。すなわち、少なくとも調節側ベルト31の幅だけ連続して凹凸4が形成されている。なお、第1軸部材3aと第2軸部材3bとが対向する対向側Aの軸部材3a・3bの表面(調節側ベルト31を通す部分の表面)をベルト巻取軸3の内側面と呼び、調節側ベルト31が巻き回される(巻き付けられる)軸部材3a・3bの表面(上記内側面以外の表面)をベルト巻取軸3の外側面と呼ぶと、凹凸4は、ベルト巻取軸3の内側面には形成されず、ベルト巻取軸3の外側面にのみ形成されている。ただし、ベルト巻取軸3の内側面に凹凸を設けてもよい。
【0026】
また、ベルト巻取軸3の表面に形成される凹凸は、調節側ベルト31との間の摩擦係数を向上させることができるものであればよく、ローレット加工による凹凸の他に、ショットブラスト加工やサンドブラスト加工により形成された小さな凹凸であってもよい。また、ベルト巻取軸3の表面に複数の突起を付ける、またはミゾを切って凹凸を形成してもよい。また、これらを組み合わせた方法でもよい。
【0027】
(ハンドル)
ハンドル7は、把持部材7cと、把持部材7cの両端に一端部が嵌め込まれた左右一対のハンドル支持板7a・7bとを備えている。ハンドル支持板7a・7bの他端部には、ベルト巻取軸3が挿入される孔が設けられている。
【0028】
(ベルト巻取機構)
前記したように、ベルト巻取軸3を構成する第1軸部材3aおよび第2軸部材3bは、板形状のラチェット歯車10に形成された2つの孔にそれぞれ挿入されて両側端部において係止ピン5で連結されている。すなわち、ベルト巻取軸3とラチェット歯車10とは相互に固定され、一緒に回転する。ここで、2つのラチェット歯車10は、ベルト巻取軸3の両端部において、本体フレーム2の側壁部2a・2bと、ハンドル7のハンドル支持板7a・7bとの間に配置されている。
【0029】
また、これら2つのラチェット歯車10の歯と噛み合うように、ハンドル支持板7a・7b間には、板形状の第1ラッチ8が設けられている。この第1ラッチ8は、先端部がベルト巻取軸3側を向くように、ハンドル支持板7a・7bに対して進退移動自在に設けられている。そして、ハンドル支持板7a・7bに取り付けられた一対のバネ9によりベルト巻取軸3方向に付勢されている。
【0030】
また、上記の2つのラチェット歯車10の歯と噛み合うように、本体フレーム2の側壁部2a・2b間には、板形状の第2ラッチ6が設けられている。この第2ラッチ6は、先端部がベルト巻取軸3側を向くように、側壁部2a・2bに対して進退移動自在に設けられている。また、第2ラッチ6の後端部中央は棒状の突起部となっており、この突起部にバネ13が挿入されている。この突起部は本体フレーム2に設けられた係止部2cの孔2e内を挿通自在であり、一方、バネ13は係止部2cで止められている。そして、突起部に挿入されたバネ13により、第2ラッチ6はベルト巻取軸3方向に付勢される。
【0031】
ここで、ハンドル7を本体フレーム2に対して開く開方向Oに回動させると、ハンドル7に設けられた第1ラッチ8の先端部がラチェット歯車10の歯と噛み合っているので、ベルト巻取軸3はハンドル7とともに開方向Oに回動する。このとき、ハンドル7の回動力がバネ13の付勢力を上回ることで、本体フレーム2に設けられた第2ラッチ6の先端部は、ラチェット歯車10の歯を乗り越えるようにバネ13の付勢方向とは反対方向にいったん退避し、その後、バネ13の付勢力で再びラチェット歯車10の歯と噛み合う。
【0032】
次に、ハンドル7を本体フレーム2に対して閉じる閉方向Cに回動させようとすると、ハンドル7の回動力がバネ9の付勢力を上回ることで、第1ラッチ8の先端部は、ラチェット歯車10の歯を乗り越えるようにバネ9の付勢方向とは反対方向に退避するので、ハンドル7は閉方向Cに回動する。一方、第2ラッチ6の先端部がラチェット歯車10の歯と噛み合っているので、ベルト巻取軸3は回動しない。すなわち、ハンドル7は閉方向Cに回動するが、ベルト巻取軸3は回動しない。したがって、開方向Oおよび閉方向Cへのハンドル7の回動操作により、ベルト巻取軸3は一方向Rに回動するのみである。このように、ハンドル7を開方向Oおよび閉方向Cに向かって繰り返し回動操作することにより、ベルト巻取軸3で調節側ベルト31を巻き取っていく(または、調節側ベルト31の締め込み(増締め)を行う)。
【0033】
次に、ベルト巻取軸3に巻き付けた調節側ベルト31をはずす(開放する)ときは、まず、第1ラッチ8および第2ラッチ6を、それぞれバネ9およびバネ13の付勢力に抗して、ベルト巻取軸3方向とは反対方向に移動させて、両ラッチ8・6の先端部がラチェット歯車10の歯に噛み合わないように、当該両ラッチ8・6の先端部を退避させる。これにより、ベルト巻取軸3はフリーに回動するようになる。そして、調節側ベルト31を引っ張ることにより、ベルト巻取軸3に巻き付けた調節側ベルト31をはずす(開放する)。
【0034】
なお、上記のベルト巻取機構は、その一例を示したものであって、このベルト巻取機構に限られるものではない。
【0035】
(ベルト締具の使用形態)
次に、ベルト締具101の使用形態について説明する。図4は、図1に示すベルト締具101の使用形態を示す図である。
【0036】
まず、図4(a)に示したように、ベルト巻取軸3の第1軸部材3aと第2軸部材3bとの間に、調節側ベルト31を通す。そして、ハンドル7を開方向Oおよび閉方向Cに繰り返し(複数回)操作してベルト巻取軸3を回動させ、ベルト巻取軸3回りに調節側ベルト31を巻き付けていく(図4(b))。最後に、ハンドル7を閉方向Cに回動させてハンドル7と本体フレーム2とを重ね合わせて締め付け作業完了となる。なお、図4(b)は、ベルト巻取軸3回りに調節側ベルト31を1回(1周)巻き付けた状態のベルト締具101を示している。
【0037】
(実施例)
本実施形態のベルト締具101と、ベルト巻取軸の表面に何もない(表面が滑らかな)比較例としてのベルト締具とを使用して、0kN−40kNの繰り返し引張荷重をベルトに加え、そのときのベルトの滑り出し量を測定する試験を行った。本実施形態のベルト締具101を使用した際の試験結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1中、巻き回数とは、ベルト巻取軸3への調節側ベルト31の巻き付け回数のことである。表1から明らかなように、ベルト巻取軸3の周囲に1回だけベルトを巻き付けたベルト締具101に対して10000回の繰り返し引張荷重を加えても、調節側ベルト31の滑り出し量は22mmだけであった。また、5000回の繰り返し引張荷重を加えたときの滑り出し量は21.5mmであり、ベルトの滑り出しはほぼ止まっていることがわかる。また、ベルト巻取軸3への巻き回数を、1+1/4回とした場合には、さらにベルトの滑り出し量は小さくなっている。一方、ベルト巻取軸の表面に何もない(表面が滑らかな)ベルト締具(比較例)の場合には、100mm以上のベルト滑り出し量を測定した。また、10000回の繰り返し引張荷重を加えたときの滑り出し量と、15000回の繰り返し引張荷重を加えたときの滑り出し量とは等しく、すなわち、ベルトの滑り出しは完全に止まっている。
【0040】
なお、100回の繰り返し引張荷重後の「8mm、または10mm」という値は、ベルトの巻締りによる伸び出し量がほとんどである。また、100回〜1000回までの「5mm(13-8)、または8mm(18-8)」という値の増加は、ベルト自体の伸び(永久歪)による伸び出し量がほとんどである。
【0041】
本実施形態のベルト巻取軸3によると、第1軸部材3aと第2軸部材3bとの間に調節側ベルト31を通し、そして第1軸部材3aおよび第2軸部材3bの外側面に調節側ベルト31を巻き付けることにより、第1軸部材3aおよび第2軸部材3bの外側面に形成された凹凸4の部分で大きな摩擦力を発生させることができ、調節側ベルト31の緩みおよび滑り出しを有効に抑制できる。その結果、ベルト巻取軸3に対する調節側ベルト31の巻き付け回数を少なくすることができ、作業効率が向上する。
【0042】
また、ベルト巻取軸3に対するベルトの巻き付け回数を少なくすることができるので、ハンドル7の操作回数(開方向Oおよび閉方向Cへの繰り返しの操作回数)が従来よりも少なくて済み、その結果、作業員による操作回数を数え間違えるミスが減少する。
【0043】
さらに、ベルト巻取軸3に対するベルトの巻き付け回数を少なくできるので、本発明の技術を従来のベルト締具に適用した場合には、ベルト巻取軸3に対するベルトの巻き付け数および自由端側のベルト長さ(図4の調節側ベルト31bの長さ)に余裕を取れるので、仮にベルトが緩んでしまった場合であっても一旦ベルトを開放することなくベルトの締め込み(増締め)を行うことができる。一方、本発明の技術を新規のベルト締具設計に適用したならば、ベルト締具101を従来よりも小型化することができる。
【0044】
また、ベルト巻取軸3に対する調節側ベルト31の押付け力は、主にベルト巻取軸3の外側面に作用する。したがって、当該外側面に凹凸4を設けた本実施形態によると、ベルト巻取軸3と調節側ベルト31との間の摩擦力を高めることができ、調節側ベルト31の緩みおよび滑り出しをより抑制することができる。また、第1軸部材3aと第2軸部材3bとの間の軸部材表面に凹凸を形成していないので、第1軸部材3aと第2軸部材3bとの間へのベルトの挿通を行い易くベルトの長さ調節がやり易くなる。また、凹凸4は、ベルト巻取軸3の軸方向に、少なくとも調節側ベルト31の幅だけ連続して形成されているので、ベルト巻取軸3と調節側ベルト31との間の摩擦力をより高めることができている。
【0045】
さらに、凹凸4は、第1軸部材3aと第2軸部材3bとが対向する対向側Aとは反対側の第1軸部材3aおよび第2軸部材3bの表面にそれぞれ形成されているので、調節側ベルト31をベルト巻取軸3に巻き付ける際に当該ベルト巻取軸3を少なくとも半回転(1/2回転)させれば、必ず緊張側のベルト(図4の調節側ベルト31a)が凹凸4に接触する。これにより、ベルト巻取軸3を少なくとも半回転させればベルトの滑り出しを効果的に防止でき、結果としてベルトの締め込み作業が非常に行い易くなる。
【0046】
(ベルト巻取軸の他の実施形態)(1)
次に、ベルト巻取軸3の他の実施形態について説明する。図3に示した2つの側面図のうち、図3(b)は、ベルト巻取軸3の他の実施形態に係るベルト巻取軸12の側面図である。ベルト巻取軸12に関しては、ベルト巻取軸3との相違点について説明する。
【0047】
ベルト巻取軸3と本実施形態のベルト巻取軸12とは、凹凸4が、第1軸部材3a(または12a)と第2軸部材3b(または12b)とが対向する対向側Aとは反対側の第1軸部材3a(または12a)および第2軸部材3b(または12b)の表面に形成されていることで共通するが、凹凸4の位置が相違する。
【0048】
ここで、ベルト巻取軸12においては、調節側ベルト31の挿入方向に対して約40度の角度αの位置に、凹凸4が形成されている。すなわち、ベルト巻取軸3が回動し始めてすぐに、凹凸4と調節側ベルト31とが接触するように凹凸4が形成されている。なお、角度αは45度以下であることが好ましい。また、角度αはできるだけ小さいことが望ましく、その値は、調節側ベルト31の厚み、第1軸部材12aと第2軸部材12bとの間の設定間隔などに左右される。
【0049】
本実施形態のベルト巻取軸12によると、第1軸部材12aと第2軸部材12bとの間に調節側ベルト31を通した後、調節側ベルト31をベルト巻取軸3に巻き付ける際に当該ベルト巻取軸3を少しだけ回転させれば、必ず緊張側のベルト(図4の調節側ベルト31a)が凹凸4に接触する。これにより、ベルトの締め込み作業が非常に行い易くなる。
【0050】
(ベルト巻取軸の他の実施形態)(2)
次に、図7は、ベルト巻取軸の他の実施形態を示す斜視図である。まず、図7(a)に示したベルト巻取軸32は、ベルト巻取軸3と同様に、側面形状が半円状の第1軸部材32aおよび第2軸部材32bを有している。そして、本実施形態のベルト巻取軸32とベルト巻取軸3とは、凹凸の位置および凹凸が軸部材の全幅にわたって設けられている点で共通するが、凹凸の形態が相違する。ベルト巻取軸32の各軸部材32a・32bに設けられた凹凸24(滑り止め部)は、軸部材32a・32bの長手方向に沿って当該軸部材32a・32bの表面に設けられた2本の凸部と、この凸部の間に形成された凹部、および両側に形成された段差部とからなる。この凹凸24の部分で大きな摩擦力を発生させることができ、ベルトの緩みおよび滑り出しを有効に抑制できる。なお、凸部は図示した四角形状に限られることはないし、その本数も2本に限られることはない。
【0051】
同様に、図7(b)に示したベルト巻取軸42は、ベルト巻取軸3と同様に、側面形状が半円状の第1軸部材42aおよび第2軸部材42bを有している。そして、本実施形態のベルト巻取軸42とベルト巻取軸3とは、凹凸の位置および凹凸が軸部材の全幅にわたって設けられている点で共通するが、凹凸の形態が相違する。ベルト巻取軸42の各軸部材42a・42bに設けられた凹凸34(滑り止め部)は、軸部材42a・42bの長手方向に沿って当該軸部材42a・42bの表面に設けられた4本のV字状の凹部(溝部)と、この凹部の間の凸部(軸部材42a・42bの外周面)とからなる。この凹凸34の部分で大きな摩擦力を発生させることができ、ベルトの緩みおよび滑り出しを有効に抑制できる。なお、凹部はV字状に限られることはないし、その本数も4本に限られることはない。
【0052】
(第2実施形態)
図5は、本発明の第2実施形態に係るベルト締具102を示す図である。本実施形態のベルト締具102は、主にトラックに積載された積荷を固定するために用いられる車両用のベルト締具である。
【0053】
本実施形態のベルト締具102と、第1実施形態のベルト締具101との主な相違は、ベルト締具の両端の金具にある。ベルト締具101がフック付きアーム21を具備するのに対し、ベルト締具102は図5に示した端末金具22を具備している。端末金具22は、例えばトラックの荷室の側壁に取り付けられる金具である。なお、ベルト締具101とベルト締具102とで、バックル1は同じである。また、ベルト締具102のバックル1には、積荷を保護するためのバックルプロテクタが取り付けられている。さらに、ベルト締具102の調節側ベルト31および固定側ベルト41には、積荷を保護するための筒状のスリーブ51が挿入されている。
【0054】
(第3実施形態)
図6は、本発明の第3実施形態に係るベルト締具103を示す図である。本実施形態のベルト締具103は、第1実施形態のベルト締具101よりも小さい締め付け力でよい場合に使用されるベルト締具であり、様々な用途に幅広く用いられるものである。
【0055】
本実施形態のベルト締具103と、第1実施形態のベルト締具101との主な相違は、ベルト締具の両端の金具にある。ベルト締具101がフック付きアーム21を具備するのに対し、ベルト締具103は図6に示したフック23を具備している。フック23は、1本の金属棒を曲げ加工して製作したものである。なお、ベルト締具103とベルト締具102とで、バックル1は同じである。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することが可能なものである。
【0057】
具体的には、凹凸4は、第1軸部材3aおよび第2軸部材3bのうちの少なくともいずれか一方の表面に形成されていればよく、例えば、第1軸部材3aと第2軸部材3bとが対向する対向側Aの第1軸部材3aおよび第2軸部材3bの少なくともいずれか一方の表面に凹凸4が形成されていてもよい。また、凹凸4は、必ずしも調節側ベルト31の幅だけ連続して形成されている必要はなく、所定の間隔を開けて形成されたり、軸部材の長さ方向における中央部など、軸部材表面の一部にのみ形成されたりしていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の第1実施形態に係るベルト締具を示す図である。
【図2】図1に示すバックルの斜視図である。
【図3】ベルト巻取軸の側面図である。
【図4】図1に示すベルト締具の使用形態を示す図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るベルト締具を示す図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係るベルト締具を示す図である。
【図7】ベルト巻取軸の他の実施形態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0059】
1:バックル
2:本体フレーム
2a、2b:側壁部
3:ベルト巻取軸
3a:第1軸部材
3b:第2軸部材
4:凹凸
7:ハンドル
31:調節側ベルト
41:固定側ベルト
101、102、103:ベルト締具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに並行配置された2つの側壁部を有する本体フレームと、
前記本体フレームの端部に設けられ、前記2つの側壁部に対して回転自在に両端部を軸支されたベルト巻取軸と、を備え、
前記ベルト巻取軸は、第1軸部材と、当該第1軸部材との間にベルトが通る間隔を開けて配置された第2軸部材と、を有し、
前記第1軸部材および前記第2軸部材のうちの少なくともいずれか一方の表面に、ベルトとの摩擦係数を向上させるための滑り止め部が形成されていることを特徴とする、ベルト締具。
【請求項2】
前記滑り止め部は、前記ベルトが巻き付けられる前記ベルト巻取軸の外側面に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のベルト締具。
【請求項3】
前記滑り止め部は、前記ベルト巻取軸の軸方向に、少なくとも前記ベルトの幅だけ連続して形成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のベルト締具。
【請求項4】
前記滑り止め部は、前記第1軸部材と前記第2軸部材とが対向する側とは反対側の当該第1軸部材および当該第2軸部材の表面にそれぞれ形成されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のベルト締具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−112537(P2010−112537A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287846(P2008−287846)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)
【Fターム(参考)】