説明

ベンジルアルコール類の製造方法。

【課題】
本発明の目的は、未反応のベンズアルデヒド類の残存および不純物の生成が低減され、高純度のベンジルアルコール類が従来より工業的に有利にかつ、良好な収率で得られる製法を提供することにある。
【解決手段】
(C)塩基存在下、(D)溶媒に(B)ベンズアルデヒド類とベンズアルデヒド類1モルに対し1〜5モルの(A)ホルムアルデヒド類を併注滴下することにより、未反応のベンズアルデヒド類の残存および不純物の生成が低減され、高純度のベンジルアルコール類が従来より工業的に有利にかつ、良好な収率で得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医農薬中間体として有用なベンジルアルコール類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベンジルアルコール類の製造方法としては、例えば、4−(トリフルオロメチル)安息香酸に、還元剤である水素化アルミニウムリチウムを作用させて、相当するベンジルアルコールを製造する方法が記載されている(特許文献1)が、水素化アルミニウムリチウムのような発火の危険性がある薬品を工業的規模で使用するのは安全面で問題がある。また塩基の存在下、p−メチルベンズアルデヒドとホルマリン(ホルムアルデヒドの水溶液)の混合物を溶媒中に滴下して、p−メチルベンジルアルコールを得る方法が知られている(非特許文献1)。 しかし、反応をこの方法で行うと、原料のベンジルアルデヒド類が未反応物として残存したり、不純物が生成するため、高純度のベンジルアルコール類を工業的に有利にかつ、良好な収率で得ることできなかった。
【特許文献1】米国特許第4118561号公報、
【非特許文献1】Org.Synth.Coll.Vol.2 1943,P590-591
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は上記の問題点に鑑み、未反応のベンズアルデヒド類の残存および不純物の生成が低減され、高純度のベンジルアルコール類が従来より工業的に有利にかつ、良好な収率で得られる製法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は、ベンジルアルコール類の製造方法について鋭意研究を続けた結果、(A)ホルムアルデヒド類と(B)ベンズアルデヒド類の添加方法を制御することにより、高純度のベンジルアルコール類が得られることを見い出し、本発明を完成させるに至った。
【0005】
すなわち本発明は(C)塩基の存在下、(D)溶媒中に(A)ホルムアルデヒド類と(B)ベンズアルデヒド類を併注滴下することを特徴とするベンジルアルコール類の製造方法に関する。
【0006】
本発明において用いる(A)ホルムアルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、ホルムアルデヒドの重合物、ホルムアルデヒドの環状物、ホルムアルデヒドの水和物などの水溶液或いは含水アルコール溶液等を指す。具体例としては、ホルムアルデヒドやパラホルムアルデヒドの水溶液や含水アルコール(炭素数1〜4)溶液が挙げられる。これらはどれも好適に使用できるが、取り扱いやすさや入手の容易さから、パラホルムアルデヒド水溶液、ホルムアルデヒド水溶液が好ましく、ホルムアルデヒド水溶液がさらに好ましい。(A)ホルムアルデヒド類の使用量としては、(B)ベンズアルデヒド類に対し、通常、1モル倍から5モル倍であり、好ましくは1.1モル倍から3モル倍である。
【0007】
本発明において用いる(B)ベンズアルデヒド類としてはベンズアルデヒド、メチルベンズアルデヒド、エチルベンズアルデヒド、p−イソプロピルベンズアルデヒド、ハロゲン化ベンズアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルベンズアルデヒドなどが挙げられるが、好ましくはメチルベンズアルデヒド、エチルベンズアルデヒド、クミニルベンズアルデヒドであり、さらに好ましくはp−イソプロピルベンズアルデヒドである。
【0008】
本発明において用いる(C)塩基としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、例えばソジウムメチラート、ソジウムエチラート等のソジウムアルコラート等が挙げられる。これらのうち、アルカリ金属水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムがさらに好ましい。 これらの化合物は、粉末でもよいし、所定濃度に調製した水溶液で用いてもよい。取り扱いの面では、水溶液として用いるのが好ましい。(C)塩基の使用量としては、(B)ベンズアルデヒド類に対し、通常、1モル倍から10モル倍であり、好ましくは2.0モル倍から5モル倍である。
【0009】
本発明において用いる(D)溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、ジエチルエーテル、ジメチルセロソルブ、ジグライム、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、イソプロパノール、メチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶媒が挙げられる。中でも、芳香族系溶媒、エーテル系溶媒、ハロゲン化炭化水素、アルコール系溶媒が好ましく、アルコール系溶媒がさらに好ましい。
【0010】
反応は、(C)塩基を(D)溶媒に添加したものに(A)ホルムアルデヒド類と(B)ベンズアルデヒド類を併注滴下することにより行われる。 併注滴下する際には(A)ホルムアルデヒド類と(B)ベンズアルデヒド類を同時に滴下を開始する方法や、(A)ホルムアルデヒド類の一部を先に滴下開始したのちに(B)ベンズアルデヒド類の滴下を開始する方法がある。(A)ホルムアルデヒド類と(B)ベンズアルデヒド類を併注滴下する方法においては(A)ホルムアルデヒド類が(B)ベンズアルデヒド類より過剰モル量になるように併注滴下する方が好ましく、(A)ホルムアルデヒド類が(B)ベンズアルデヒド類1モルに対し(A)ホルムアルデヒド類より常に0.01〜0.3モル量過剰であることがより好ましい。 併注滴下する際の反応温度は通常30〜90℃、好ましくは、40℃〜80℃の温度で行われる。
【0011】
反応後の処理方法としては、例えば、反応液を濃縮し、溶媒を留去後、水洗あるいは濾過により反応生成物であるギ酸塩と(A)ホルムアルデヒド由来のカルボン酸塩等の副生物を除去する。
【0012】
(実施例)以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
p−イソプロピルベンジルアルコールの純度の分析はHPLCにて行い、その測定条件は以下のとおり。

[HPLC測定条件]
装置 :島津 LC−2010
カラム:YMC PACK ODS−A A−303
(4.6mmΦ×250mm)
移動相:アセトニトリル/水=80/20(v/v)、
流量:1.0ml/min、カラム温度:25℃、検出波長:UV 220nm
【実施例1】
【0013】
温度計、撹拌器、滴下ロート及び還流冷却器をつけた反応器に、メタノール85.1gと98%水酸化ナトリウム37.4g(0.915mol)を仕込み、40℃まで昇温後、37%ホルマリン38.2g(0.470mol)とp−イソプロピルベンズアルデヒド53.6g(0.362mol)を30分かけて、30〜35℃で併注滴下し、さらに同温度で2時間保温した。 保温後マスを同温度で濃縮を行い、メタノールを留去後、上水134gを入れて洗浄・分液を実施した。その後10%NaClで水洗し、134〜136℃/2kPaで蒸留を行い、p−イソプロピルベンジルアルコール48.1gを得た(収率88.6%)。LCによるp−イソプロピルベンジルアルコールの純度は99.9%。(p−イソプロピルベンズアルデヒド:0.01%未満、不純物:0.1%)であった。
【実施例2】
【0014】
温度計、撹拌器、滴下ロート及び還流冷却器をつけた反応器に、メタノール51.1gと85%水酸化カリウム36.3g(0.549mol)を仕込み、70℃にて溶解後、37%ホルマリン22.9g(0.282mol)とp−イソプロピルベンズアルデヒド32.2g(0.217mol)を60分かけて65〜70℃で併注滴下し、さらに同温度で2時間保温した。 保温後マスを60℃で濃縮を行い、メタノールを留去後、上水80gを入れて洗浄・分液を実施した。その後10%NaCl水33gで水洗し、134〜136℃/2kPaで蒸留を行い、p−イソプロピルベンジルアルコール29.7gを得た(収率91.2%)。LCによるp−イソプロピルベンジルアルコールの純度は100.0%。(p−イソプロピルベンズアルデヒド:0.01%未満、不純物:0.01%未満)であった。
【実施例3】
【0015】
温度計、撹拌器、滴下ロート及び還流冷却器をつけた反応器に、メタノール85.1gと98%水酸化ナトリウム29.5g(0.724mol)を仕込み、40℃まで昇温後、37%ホルマリン38.2g(0.470mol)とp−イソプロピルベンズアルデヒド53.6g(0.362mol)を30分かけて30〜35℃で併注滴下し、さらに同温度で4時間保温した。 保温後マスを60℃で濃縮を行い、メタノールを留去後、上水134gを入れて洗浄・分液を実施した。その後10%NaCl水55gで水洗し、134〜136℃/2kPaで蒸留を行い、p−イソプロピルベンジルアルコール48.1gを得た(収率88.6%)。LCによるp−イソプロピルベンジルアルコールの純度は99.9%であった。
【実施例4】
【0016】
温度計、撹拌器、滴下ロート及び還流冷却器をつけた反応器に、メタノール85.1gと98%水酸化ナトリウム37.4g(0.915mol)を仕込み、40℃まで昇温後、37%ホルマリン29.4g(0.362mol)とp−イソプロピルベンズアルデヒド53.6g(0.362mol)を40分かけて30〜35℃で併注滴下し、さらに同温度で4時間保温した。 保温後マスを室温で濾過を実施し、50gのメタノールで洗浄を行った。 濾過後マスを60℃で濃縮を行い、メタノールを留去後、上水134gを入れて洗浄・分液を実施した。その後10%NaCl水55gで水洗し、134〜136℃/2kPaで蒸留を行い、p−イソプロピルベンジルアルコール47.0gを得た(収率86.6%)。LCよるp−イソプロピルベンジルアルコールの純度は99.9%。(p−イソプロピルベンズアルデヒド:0.01%未満、不純物:0.1%)であった。
【0017】
(比較例1)
温度計、撹拌器、滴下ロート及び還流冷却器をつけた反応器に、メタノール51.1gと85%水酸化カリウム36.3g(0.549mol)を仕込み、60℃にて溶解後、37%ホルマリン22.9g(0.282mol)とp−イソプロピルベンズアルデヒド32.2g(0.217mol)及びメタノール15.6gの混合液を35分かけて60〜65℃で滴下し、70℃で3時間保温した。 保温後マスを60℃で濃縮を行い、メタノールを留去後、上水80gを入れて洗浄・分液を実施した。その後10%NaCl水55gで水洗し、134〜136℃/2kPaで蒸留を行い、p−イソプロピルベンジルアルコール28.3gを得た(収率86.6%)。LCによるp−イソプロピルベンジルアルコールの純度はそれぞれ98.7%。(p−イソプロピルベンズアルデヒド:0.9%、不純物:0.4%)であった。
【0018】
(比較例2)
温度計、撹拌器、滴下ロート及び還流冷却器をつけた反応器に、メタノール85.1gと85%水酸化カリウム60.4g(0.915mol)を仕込み、70℃にて溶解後、まず37%ホルマリン38.2g(0.282mol)を40分かけて滴下後、p−イソプロピルベンズアルデヒド53.6g(0.362mol)を30分かけて滴下し、さらに同温度で3時間保温した。 保温後マスを60℃で濃縮を行い、メタノールを留去後、上水134gを入れて洗浄・分液を実施した。続いて10%NaCl水55gで水洗した後、洗浄後有機層中のp−イソプロピルベンジルアルコールの得量を求めると42.4gであった(収率78.0%)。LCによるp−イソプロピルベンジルアルコールの純度は99.6%(p−イソプロピルベンズアルデヒド:0.1%、不純物:0.3%)であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(C)塩基存在下、(D)溶媒に(B)ベンズアルデヒド類とベンズアルデヒド類1モルに対し1〜5モルの(A)ホルムアルデヒド類を併注滴下することを特徴とするベンジルアルコール類の製造方法。
【請求項2】
ホルムアルデヒド類を併注滴下中に(A)ホルムアルデヒド類が(B)ベンズアルデヒド類に対し過剰モル量になるように併注滴下することを特徴とする請求項1記載のベンジルアルコール類の製造方法。
【請求項3】
(B)ベンズアルデヒド類が、p−イソプロピルベンズアルデヒドであることを特徴とする請求項1乃至2記載のベンジルアルコールの製造方法。

【公開番号】特開2011−121929(P2011−121929A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283020(P2009−283020)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000216243)田岡化学工業株式会社 (115)
【Fターム(参考)】