説明

ベンゼン化合物の製造方法

【課題】本発明は、アルキン化合物を環状三量化反応させて相当するベンゼン化合物を高収率で、更に非対称の多置換ベンゼン化合物を高選択的に製造し得る方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の方法は、ハロゲン化ロジウム及び第三級アミン化合物の共存下に、一般式(1)


[式中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、C1-15アルキル基、置換基を有することのあるフェニル基、C1-4アルコキシC1-4アルキル基、C1-4アルキルカルボニル基、置換基を有することのあるベンゾイル基、C1-4アルコキシカルボニル基等を示す。]
で表されるアルキン化合物を三量化反応させて、一般式(2)


[式中、R1及びR2は前記に同じ。]
で表されるベンゼン化合物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンゼン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多置換のベンゼン化合物は、エレクトロルミネッセンス、レドックスキャパシタ等の有用な機能性物質として、幅広い産業分野において利用が期待される化合物である。
【0003】
例えば、ヘキサアリールベンゼン及びその誘導体は、特許文献1及び特許文献2では、有機電界発光素子として使用され、特許文献3では、リチウム電池の非水電解液の添加剤として使用されている。
【0004】
多置換ベンゼン誘導体の製造法については、今日まで種々の提案がなされており、最も簡便且つ直接的な合成法として、Ni、Pd、Co、Ti、Ru、Rh等の遷移金属触媒存在下、アルキン化合物を加熱して環状三量化する反応が報告されている(非特許文献1〜6)。
【0005】
しかしながら、非特許文献1〜6に記載されている方法では、非対称のジ置換アルキン化合物を用いて環状三量化反応を行った場合、多置換ベンゼン化合物が低収率で得られるに過ぎず、また非対称の多置換ベンゼン化合物を選択的に製造し得ない。
【特許文献1】特開2005−285410
【特許文献2】特開2006−49438
【特許文献3】特開2001−15158
【非特許文献1】J. Organomet. Chem., 2003, 683, 295-300
【非特許文献2】Organometallics, 2002, 21, 5029-5037
【非特許文献3】J. Mol. Catal., 1985, 32, 101-105
【非特許文献4】Z. Naturforsch., B: Chem. Sci., 1984, 39B, 180-184
【非特許文献5】Chem.Ber., 1960, 93, 103-115
【非特許文献6】J. Mol. Catal., 1987, 40, 337-357
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、アルキン化合物を環状三量化反応させて相当するベンゼン化合物を高収率で、更に非対称の多置換ベンゼン化合物を高選択的に製造し得る方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねてきた。その結果、非特許文献1〜6に教示も示唆もないハロゲン化ロジウムを使用し、しかも反応系内にハロゲン化ロジウムと第三級アミン化合物とを共存させることにより、アルキン化合物から所望のベンゼン化合物を高収率で製造できること、及び非対称の多置換ベンゼン化合物においては高収率で且つ高選択的に製造できることを見い出した。本発明は、斯かる知見に基づき完成されたものである。
【0008】
本発明は、下記項1〜8に係る製造方法を提供する。
項1.ハロゲン化ロジウム及び第三級アミン化合物の共存下に、一般式(1)
【0009】
【化1】

【0010】
[式中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、C1-15アルキル基、置換基を有することのあるフェニル基、C1-4アルコキシC1-4アルキル基、C1-4アルキルカルボニル基、置換基を有することのあるベンゾイル基、C1-4アルコキシカルボニル基、トリ(C1-4アルキル)シリル基、トリ(C1-4アルコキシ)シリル基、シアノ基、ハロゲン原子、ニトロ基又は置換基を有していてもよい複素環基を示す。但し、R1及びR2が同時に水素原子を示すことはない。]
で表されるアルキン化合物を三量化反応させて、一般式(2)
【0011】
【化2】

【0012】
[式中、R1及びR2は前記に同じ。]
で表されるベンゼン化合物を製造する、ベンゼン化合物の製造方法。
項2.ハロゲン化ロジウムがフッ化ロジウム、塩化ロジウム、臭化ロジウム、ヨウ化ロジウム及びそれらの水和物からなる群から選ばれる少なくとも1種である項1に記載の製造方法。
項3.ハロゲン化ロジウムが塩化ロジウム及びその水和物からなる群から選ばれる少なくとも1種である項1に記載の製造方法。
項4.一般式(1)で表されるアルキン化合物1モルに対して、ハロゲン化ロジウムを0.015〜2モル程度使用する項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
項5.ハロゲン化ロジウム1モルに対して、第三級アミン化合物を1.2〜10モル程度使用する項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
項6.一般式(1)のアルキン化合物が、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、C1-8アルキル基、置換基を有することのあるフェニル基又はC1-4アルコキシカルボニル基を示すアルキン化合物である項1に記載の製造方法。
項7.芳香族炭化水素系溶媒中で反応を行う上記1〜6のいずれかに記載の製造方法。
項8.加熱還流下に反応を行う上記1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【0013】
本明細書において、各基は以下のものを示す。
【0014】
1-8アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、オクチル基等の炭素数1〜8の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が挙げられる。
【0015】
1-15アルキル基としては、例えば、前記C1-8アルキル基で例示した基に加えて、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基等の炭素数1〜15の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が挙げられる。
【0016】
1-4アルコキシC1-4アルキル基としては、例えば、メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、n−プロポキシメチル基、イソプロポキシメチル基等の炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基が置換した炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が挙げられる。
【0017】
1-4アルキルカルボニル基としては、例えば、メチルカルボニル基(アセチル基)、エチルカルボニル基(プロピオニル基)、n−プロピルカルボニル基(ブチリル基)、イソプロピルカルボニル基(イソブチリル基)、n−ブチルカルボニル基(バレリル基)、イソブチルカルボニル基(イソバレリル基)、sec−ブチルカルボニル基、tert−ブチルカルボニル基等の炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基とカルボニル基とが結合した基が挙げられる。
【0018】
1-4アルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、シクロプロピルオキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、sec−ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基等の炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状アルコキシとカルボニル基とが結合した基が挙げられる。
【0019】
トリ(C1-4アルキル)シリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基等の同一種又は異種の炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が3個置換したシリル基が挙げられる。
【0020】
トリ(C1-4アルコキシ)シリル基としては、例えば、トリメトキシシリル基、ジメトキシエトキシシリル基等の同一種又は異種の炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基が3個置換したシリル基が挙げられる。
【0021】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及び沃素原子が挙げられる。
【0022】
複素環基としては、例えば、チエニル、フリル、テトラヒドロフリル、ジオキソラニル、ピロリル、ピロリニル、ピロリジニル、オキサゾリル、イソキサゾリル、オキサゾリニル、オキサゾリジニル、イソキサゾリニル、チアゾリル、イソチアゾリル、チアゾリニル、チアゾリジニル、イソチアゾリニル、ピラゾリル、ピラゾリジニル、イミダゾリル、イミダゾリニル、イミダゾリジニル、オキサジアゾリル、オキサジアゾリニル、チアジアゾリニル、トリアゾリル、トリアゾリニル、トリアゾリジニル、テトラゾリル、テトラゾリニル、ピリジル、ジヒドロピリジル、テトラヒドロピリジル、ピペリジル、オキサジニル、ジヒドロオキサジニル、モルホリノ、チアジニル、ジヒドロチアジニル、チアモルホリノ、ピリダジニル、ジヒドロピリダジニル、テトラヒドロピリダジニル、ヘキサヒドロピリダジニル、オキサジアジニル、ジヒドロオキサジアジニル、テトラヒドロオキサジアジニル、チアジアゾリル、チアジアジニル、ジヒドロチアジアジニル、テトラヒドロチアジアジニル、ピリミジニル、ジヒドロピリミジニル、テトラヒドロピリミジニル、ヘキサヒドロピリミジニル、ピラジニル、ジヒドロピラジニル、テトラヒドロピラジニル、ピペラジニル、トリアジニル、ジヒドロトリアジニル、テトラヒドロトリアジニル、ヘキサヒドロトリアジニル、テトラジニル、ジヒドロテトラジニル、インドリル、インドリニル、イソインドリル、インダゾリル、キナゾリニル、ジヒドロキナゾリル、テトラヒドロキナゾリル、カルバゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾオキサゾリニル、ベンゾイソキサゾリル、ベンゾイソオキサゾリニル、ベンゾチアゾリル、ベンゾイソチアゾリル、ベンゾイソチアゾリニル、ベンゾイミダゾリル、インダゾリニル、キノリニル、ジヒドロキノリニル、テトラヒドロキノリニル、イソキノリニル、ジヒドロイソキノリニル、テトラヒドロイソキノリニル、ピリドインドリル、ジヒドロベンゾオキサジニル、シンノリニル、ジヒドロシンノリニル、テトラヒドロシンノリル、フタラジニル、ジヒドロフタラジニル、テトラヒドロフタラジニル、キノキサリニル、ジヒドロキノキサリニル、テトラヒドロキノキサリニル、プリニル、ジヒドロベンゾトリアジニル、ジヒドロベンゾテトラジニル、フェノチアジニルフラニル、ベンゾフラニル、ベンゾチエニル等が挙げられる。これら複素環基は置換可能な任意の位置にオキソ体又はチオケトン体となっているものも含むことができ、また、これら複素環基は置換可能な任意の位置に適当な置換基が置換されてもよい。
【0023】
置換基を有してもよいフェニル基、置換基を有してもよいベンゾイル基及び置換基を有してもよい複素環基の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、水酸基、C1-4アルキル基、C1-4ハロアルキル基、C1-4アルコキシ基、アミノ基、C1-4アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられ、置換可能な任意の位置に、単独又は複数置換することができ、複数の置換基は、各々同一であっても、異なっていてもよい。
【0024】
1-4アルコキシカルボニル基の具体例は、前記した通りである。
【0025】
1-4アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が挙げられる。
【0026】
1-4ハロアルキル基としては、例えば、フルオロメチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基、ヨードメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロジフルオロメチル基、ブロモジフルオロメチル基、ジクロロフルオロメチル基、1−フルオロエチル基、2−フルオロエチル基、2−クロロエチル基、2−ブロモエチル基、2−ヨードエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,2−トリクロロエチル基、ペンタフルオロエチル基、1−フルオロイソプロピル基、3−フルオロプロピル基、3−クロロプロピル基、3−ブロモプロピル基、4−フルオロブチル基、4−クロロブチル基等の1〜9個、好ましくは1〜5個のハロゲン原子で置換された炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が挙げられる。
【0027】
1-4アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、シクロプロピルオキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、tert−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基等の炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基が挙げられる。
【0028】
本発明の一般式(2)で表されるベンゼン化合物は、次式に示すように、ハロゲン化ロジウム及び第三級アミン化合物の共存下で、一般式(1)で表されるアルキン化合物を環状三量化反応させることにより製造される。
【0029】
【化3】

【0030】
[式中、R1及びR2は前記に同じ。]
一般式(1)で表されるアルキン化合物を環状三量化反応させると、一般式(3)で表される異性体が副生するが、反応系内にハロゲン化ロジウム及び第三級アミン化合物の存在させた場合には、一般式(3)で表される異性体の副生を大幅に抑制でき、一般式(2)で表されるベンゼン化合物を高い選択率で、高収率で製造できる。
【0031】
本発明において出発原料として用いられる一般式(1)で表されるアルキン化合物の中でも、下記一般式(1a)
【0032】
【化4】

【0033】
[式中、R1a及びR2aは、同一又は異なって、水素原子、C1-8アルキル基、置換基を有することのあるフェニル基又はC1-4アルコキシカルボニル基を示す。但し、R1a及びR2aが同時に水素原子を示すことはない。]
で表されるアルキン化合物を好適に使用することができる。一般式(1a)で表されるアルキン化合物を出発原料として使用した場合には、下記一般式(2a)
【0034】
【化5】

【0035】
[式中、R1a及びR2aは前記に同じ。]
で表されるベンゼン化合物が製造される。
【0036】
本発明で用いられるハロゲン化ロジウムとしては、フッ化ロジウム、塩化ロジウム、臭化ロジウム、ヨウ化ロジウム等が挙げられる。フッ化ロジウムの具体例としては、フッ化ロジウム(III)、フッ化ロジウム(IV)、フッ化ロジウム(V)等が挙げられる。塩化ロジウムの具体例としては、塩化ロジウム(I)、塩化ロジウム(II)、塩化ロジウム(III)等が挙げられる。臭化ロジウムの具体例としては、臭化ロジウム(III)、塩基性臭化ロジウム等が挙げられる。ヨウ化ロジウムの具体例としては、ヨウ化ロジウム(III)等が挙げられる。本発明では、これらハロゲン化ロジウムの水和物も使用することができる。これらは、1種単独で又は2種以上混合して用いられる。
【0037】
上記ハロゲン化ロジウムの中でも塩化ロジウム及びその水和物を好ましく使用でき、特に塩化ロジウム(III)(ロジウム三塩化物:RhCl3)及びその3水和物(RhCl3・3H2Oを好適に使用することができる。
【0038】
ハロゲン化ロジウムの使用量は、一般式(1)で表されるアルキン化合物1モルに対して、通常0.015〜2モル程度、好ましくは0.02〜1モル程度、より好ましくは0.03〜0.5モル程度である。
【0039】
本発明で使用される第三級アミン化合物としては、例えば、トリメチルアミン、ジメチルエチルアミン、トリエチルアミン、トリ(n−ブチル)アミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジイソブチルメチルアミン等のN,N,N−トリ(C1-4アルキル)アミン;ジエチル(テトラメチルシリル)アミン、N−メチルピロリジン、N−メチルピぺリジン等のN−(C1-4アルキル)アザシクロアルカン;N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等のN−(C1-4アルキル)アザオキシシクロアルカン;N−ベンジル−N,N−ジメチルアミン、N−ベンジル−N,N−ジエチルアミン等のN−ベンジル−N,N−ジ(C1-4アルキル)アミン;N,N−ジメチルアニリン等のN,N−ジ(C1-4アルキル)アニリン;ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン等の二環式アミン類を挙げることができる。これらの第三級アミン化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
これら第三級アミンの中でも、N,N,N−トリ(C1-4アルキル)アミン類及びN−(C1-4アルキル)アザシクロアルカンを好ましく使用でき、ジイソプロピルメチルアミン及びトリ(n−ブチル)アミンを特に好ましく使用できる。
【0041】
第三級アミン化合物の使用量としては、ハロゲン化ロジウム1モルに対して、通常1.2〜10モル程度、好ましくは1.5〜8モル程度、より好ましくは2〜4モル程度、特に好ましくは3モル程度である。
【0042】
本発明の反応は、通常溶媒中で行われる。用いられる溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、イソプロパノール、イソブタノール、tert−ブタノール等の低級アルキルアルコール系溶媒;蟻酸メチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の低級カルボン酸の低級アルキルエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、エチルプロピルエーテル、エチルブチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、メチルセロソルブ、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、バレロニトリル等のニトリル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、アニソール等の置換もしくは未置換の芳香族炭化水素系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジブロモエタン、プロピレンジクロライド、四塩化炭素、フロン類等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等のシクロアルカン系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;N−メチルピロリジノン等の環状アミド系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン等の環状エーテル系溶媒;ジメチルスルホキシド、水等を挙げることができる。これらの溶媒は、1種単独で又は2種以上混合して使用してもよい。
【0043】
これら溶媒の中でも、低級アルキルアルコール系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒及び環状エーテル系溶媒が好ましく、具体的には、イソプロピルアルコール、トルエン、キシレン、ジメトキシエタン及びジオキサンが好ましい。トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒がより好ましい。
【0044】
これらの溶媒の使用量は、一般式(1)のアルキン化合物1kg当たり、通常2〜200リットル程度、好ましくは3〜100リットル程度である。
【0045】
本発明の反応温度は、室温から使用する溶媒の沸点付近又は還流温度とすればよいが、50〜150℃の範囲で反応できるように使用する溶媒を選択するのが好ましく、使用する溶媒の還流温度とするのが特に好ましい。
【0046】
本反応の反応時間は、使用するアルキン化合物の種類、その他反応条件により異なり一概には言えないが、一般に1〜48時間程度、通常5〜24時間程度で該反応はほぼ完結する。
【0047】
本発明の方法により得られる一般式(1)のベンゼン化合物は、公知の単離手段及び精製手段により、反応混合物から単離され、精製される。
【発明の効果】
【0048】
本発明の方法により、アルキン化合物から所望のベンゼン化合物を高収率で製造できる。
【0049】
本発明の方法により、アルキン化合物から一段階で複雑な多置換ベンゼン化合物(非対称の多置換ベンゼン化合物)を高選択的且つ高収率で製造することができる。
【0050】
本発明の製造法により得られる多置換ベンゼン化合物は、それ自身で機能性物質又は機能性材料として使用され、或いは機能性物質又は機能性材料を製造するための原料として使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。ただし本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
なお、本発明で用いた分析法及び機器は以下の通りである。
【0053】
核磁気共鳴(NMR)スペクトルは、Varian社製のINOVA UNITY 600(600MHz)を用いて測定し、化学シフトは内部標準 (テトラメチルシラン) を基準にppm単位で表現した。分裂パターンの略記は次の通りである。
s:singlet,d:doublet,m:multiplet,br:broad。
【0054】
また、目的とするベンゼン化合物(2)と副生する異性体(3)との生成割合は、NMRより算出した。
【0055】
赤外分光 (IR) スペクトルは、日本分光社製のFT-IR ValorIIIを用いて測定した。また液体サンプルは液膜法を用いて測定した。
【0056】
実施例1
【0057】
【化6】

【0058】
[式中、Phはフェニル基を示し、Etはエチル基を示す。]
反応器に塩化ロジウム(III)3水和物( RhCl3・3H2O)13.1mg(0.05mmol)を秤取り、反応器内をアルゴン置換した。次いで、反応器にトルエン3ml及びジイソプロピルエチルアミン(IPEA)19.4mg(0.15mmol)を加えた後、還流下に15分間撹拌した。次に、フェニルプロピン酸エチル(1−1)87mg(0.5mmol)を徐々に滴下して加えた後、加熱還流下に24時間撹拌して反応を行った。反応混合物を濾過して不溶物を除き、濾液を減圧下濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (展開溶媒:n−へキサン/酢酸エチル=5/1(容量比))で精製して、ベンゼン化合物(2−1)を得た。
収量:79.3mg
収率:91%
ベンゼン化合物(2−1)の含有率:96重量%以上(異性体(3−1)の含有率:4重量%未満)
ベンゼン化合物(2−1)のNMRスペクトルは、次の通りである。
1H−NMR(600MHz)δppm:7.35(s,5H),7.11−7.14(m,6H),7.00−7.04(m,4H),3.98(q,2H,J=7.2Hz),3.94(q,2H,J=7.2Hz),3.65(q,2H,J=7.2Hz),0.90(t,3H,J=7.2Hz),0.87(t,3H,J=7.2Hz),0.68(t,3H,J=7.2Hz)
ベンゼン化合物(2−1)のIRスペクトルは、次の通りである。
IR(Neat):3057,2981,2936,1729,1232,1200cm-1
【0059】
実施例2〜5
RhCl3・3H2O及びIPEAの使用量を表1に示す量に変更する以外は、実施例1と同様に反応及び処理を行った。なお、RhCl3・3H2O及びIPEAの使用量は、フェニルプロピン酸エチル100mmolに対するモル比(mmol%)で示した。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
実施例6〜7及び比較例1〜9
IPEAを表3に記載のアミン化合物又はその他化合物に変更する以外は、実施例1と同様に反応及び処理を行った。結果を表2に示す。表中、Etはエチル基、Buはブチル基、TMSはトリメチルシリル基、TMEDAはN,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン、Phはフェニル基を意味する。−は未確認であることを意味する。
【0062】
【表2】

【0063】
実施例8〜11
トルエンを表3に記載の有機溶媒に変更する以外は実施例1と同様に反応及び処理を行った。結果を表3に示す。表中、DMEはジメトキシエタン、IPAはイソプロピルアルコールを意味する。
【0064】
【表3】

【0065】
実施例12〜19
フェニルプロピン酸エチル(1−1)を表4に記載のアルキン化合物に変更する以外は、実施例1と同様に反応及び処理を行った。結果を表4に示す。表中、Meはメチル基、Etはエチル基、Prはn−プロピル基、Hexはn−ヘキシル基、Phはフェニル基を意味する。
【0066】
【表4】

【0067】
実施例12〜19で得られたベンゼン化合物(2−2)、(2−3)、(2−4)、(2−5)、(2−6)、(2−7)、(2−8)及び(2−9)のNMRスペクトルデータ及びIRスペクトルデータを以下に示す。
ベンゼン化合物(2−2);
1H−NMR(600MHz)δppm:δ=6.96−7.46(m,15H),2.05(s,3H),2.04(s,3H),1.72(s,3H)
IR(Neat):3055,2956,2918,2849cm-1
ベンゼン化合物(2−3);
1H−NMR(600MHz)δppm:4.40(q,2H,J=7.2Hz),4.33(q,2H,J=7.2Hz),4.32(q,2H,J=7.2Hz),2.30(s,3H),2.26(s,3H),2.22(s,3H),1.38(t,3H,J=7.2Hz),1.36(t,3H,J=7.2Hz),1.35(t,3H,J=7.2Hz)
IR(Neat):2982,2938,2906,1731,1576cm-1
ベンゼン化合物(2−4);
1H−NMR(600MHz)δppm:2.46−2.48(m,12H),1.49−1.57(m,12H),1.04(t,18H,J=7.2Hz),1.87(s,3H)
IR(Neat):2952,2928,2890,2869cm-1
ベンゼン化合物(2−5);
1H−NMR(600MHz)δppm:6.83−6.86(m,30H)
IR(Neat):3056,3024,2925cm-1
ベンゼン化合物(2−6);
1H−NMR(600MHz)δppm:7.17−7.69(m,18H)
IR(Neat):3075,3056,3027cm-1
ベンゼン化合物(2−7);
1H−NMR(600MHz)δppm:7.56−7.62(m,4H),7.46(dd,1H,J=7.8Hz,J=0.6Hz),7.26(dd,2H,J=7.8Hz,J=0.6Hz),7.03−7.10(m,8H),2.40(s,3H),2.33(s,3H),2.32(s,3H)
IR(Neat):3025,2917,2863cm-1
ベンゼン化合物(2−8);
1H−NMR(600MHz)δppm:6.81−7.05(m,3H),2.52−2.58(m,6H),1.54−1.59(m,6H),1.28−1.39(m,18H),0.87−0.91(m,9H)
IR(Neat):2926,2856cm-1
ベンゼン化合物(2−9);
1H−NMR(600MHz)δppm:8.40(dd,1H,J=1.2Hz,J=0.6Hz,8.19(dd,1H,J=8.4Hz,J=1.2Hz),7.76(dd,1H,J=8.4Hz,J=0.6Hz),4.37−4.43(m,6H),1.37−1.59(m,9H)
IR(Neat):2983,2938,1727,1244cm-1
比較例10〜13
RhCl3・3H2Oを表5に記載のロジウム化合物に変更する以外は実施例1と同様に反応及び処理を行った。結果を表5に示す。表中、codは1,6−シクロオクタジエン、acacはアセチルアセトナートを意味する。
【0068】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化ロジウム及び第三級アミン化合物の共存下に、一般式(1)
【化1】

[式中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、C1-15アルキル基、置換基を有することのあるフェニル基、C1-4アルコキシC1-4アルキル基、C1-4アルキルカルボニル基、置換基を有することのあるベンゾイル基、C1-4アルコキシカルボニル基、トリ(C1-4アルキル)シリル基、トリ(C1-4アルコキシ)シリル基、シアノ基、ハロゲン原子、ニトロ基又は置換基を有していてもよい複素環基を示す。但し、R1及びR2が同時に水素原子を示すことはない。]
で表されるアルキン化合物を三量化反応させて、一般式(2)
【化2】

[式中、R1及びR2は前記に同じ。]
で表されるベンゼン化合物を製造する、ベンゼン化合物の製造方法。
【請求項2】
ハロゲン化ロジウムがフッ化ロジウム、塩化ロジウム、臭化ロジウム、ヨウ化ロジウム及びそれらの水和物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
一般式(1)で表されるアルキン化合物1モルに対して、ハロゲン化ロジウムを0.015〜2モル程度使用する請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
ハロゲン化ロジウム1モルに対して、第三級アミン化合物を1.2〜10モル程度使用する請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2008−50281(P2008−50281A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−226098(P2006−226098)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(302060306)大塚化学株式会社 (88)
【Fターム(参考)】