説明

ベンゾチアゾール類の固相フッ素化

【課題】 18F−標識トレーサーの固相合成法の提供。
【解決手段】 式(I):固体担体−リンカー−X−トレーサー (I)の固体担体結合前駆体を18で処理して式(II):18F−トレーサー (II)の標識トレーサーを生成させる。
式中、Xは結合トレーサーの特異的部位での求核置換反応を促進する基であり、トレーサーは次の式(A)である。
【化1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射標識トレーサーの製造、特にポジトロン放出断層撮影法(PET)の放射性トレーサーとしての使用に適した18F−標識ベンゾチアゾール化合物の製造のための新規固相法に関する。本発明は、かかる新規方法を用いた放射性医薬品キットも包含する。
【背景技術】
【0002】
PETに好ましい放射性同位元素である18Fは110分という比較的短い半減期を有する。そのため、PET用18F−標識トレーサーはできるだけ迅速に、理想的には臨床使用の1時間以内に合成・精製しなければならない。フッ素−18を導入するための標準的合成法は比較的遅く、しかも反応後に精製(例えば、HPLCによる。)を要するが、このことは、良好な放射化学収率で臨床用18F−標識トレーサーを得るのが難しいことを意味する。放射線被爆からオペレーターを保護するため自動化に対するニーズも存在する。多くの放射性フッ素化は手順が複雑であり、自動化を促進するには手順を単純化する必要がある。
【0003】
本発明は、迅速に高い比活性の18F−標識トレーサーの新規固相合成法を提供するが、本方法は時間のかかる精製工程を必要とせず、得られる18F−標識トレーサーはPETでの使用に適している。固相法は自動化に適しており、製造が容易で処理能力が大きいという利点を有する。本発明はかかる方法を用いる放射性医薬品キットも包含し、放射性医薬品調剤師又は臨床医に18F−標識トレーサーの簡便な製造手段を提供する。
【0004】
アルツハイマー病のインビボイメージングに有用な各種置換ベンゾチアゾール化合物が国際公開第02/16333号に記載されている。本願出願人の国際特許出願PCT/GB02/02505号には、固相求核フッ素化法に関して記載されている。
【特許文献1】国際公開第02/16333号パンフレット
【特許文献2】国際公開第03/002157号パンフレット
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、18F−標識トレーサーの製造方法であって、式(I)
固体担体−リンカー−X−トレーサー (I)
(式中、トレーサーは次の式(A)のものである。
【0006】
【化1】

【0007】
式中、R及びRは独立に水素、保護基、C1−6アルキル、C1−6ヒドロキシアルキル及びC1−6ハロアルキルから選択され、R〜R10は独立に水素、ハロゲン、C1−6アルキル、C1−6ハロアルキル、C1−6ヒドロキシアルキル、C1−6アルコキシ、C1−6ハロアルコキシ、ヒドロキシ、シアノ及びニトロから選択されるが、R〜R10のうちの1つの基は固体担体−リンカー−X−に結合している。)
の固体担体結合前駆体を18で処理して式(II)
18F−トレーサー (II)
(式中、トレーサーは式(I)の化合物について定義した通りであるが、R〜R10のうちの1つの基は式(I)の固体担体−リンカー−X−の代わりに18Fに結合している。)
の標識トレーサーを生成させ、次いで、適宜、
(i)過剰18Fの、例えばイオン交換クロマトグラフィーによる除去、及び/又は
(ii)保護基の除去、及び/又は
(iii)有機溶媒の除去、及び/又は
(iv)得られた式(II)の化合物の水溶液としての処方
を行う方法を提供する。
【0008】
式(II)の18F−標識トレーサーは固相から溶液中に取り出され、未反応前駆体はすべて樹脂に結合したまま残り、簡単な濾過で分離できるので、HPLCなどによる面倒な精製の必要性がなくなる。式(II)の18F−標識トレーサーは、イオン交換クロマトグラフィーなどによる過剰Fの除去及び/又は有機溶媒の除去によって純度を高めることができる。得られた式(II)の18F−標識トレーサーはさらに臨床用水性処方とすることができる。
【0009】
式(I)の化合物において、Xは結合トレーサーの特異的部位での求核置換反応を促進する基である。Xの具体例としては、以下の式(Ia)の−SOO−及び以下の式(Ib)のIが挙げられる。
【0010】
別の態様では、本発明は、18F−標識トレーサーの製造法であって、式(Ia)
固体担体−リンカー−SO−O−トレーサー (Ia)
(式中、トレーサーは次の式(Aa)のものである。
【0011】
【化2】

【0012】
式中、R及びRは独立に水素、保護基、C1−6アルキル、C1−6ヒドロキシアルキル及びC1−6ハロアルキルから選択され、R〜R10は独立に水素、ハロゲン、C1−6アルキル、C1−6ハロアルキル、C1−6ヒドロキシアルキル、C1−6アルコキシ、C1−6ハロアルコキシ、ヒドロキシ、シアノ及びニトロから選択されるが、(a)RのC1−6アルキル基又は(b)R〜R10のC1−6アルキルもしくはC1−6アルコキシ基のいずれかが式(Ia)の固体担体−リンカー−SO−O−に結合している。)
の固体担体結合前駆体を18で処理して式(IIa)
18F−トレーサー (IIa)
(式中、トレーサーは式(Ia)の化合物について定義した通りであるが、(a)RのC1−6アルキル基又は(b)R〜R10のC1−6アルキルもしくはC1−6アルコキシのいずれかが式(Ia)の固体担体−リンカー−SO−O−の代わりに18Fに結合している。)
の標識トレーサーを生成させ、次いで、適宜
(i)過剰18Fの、例えばイオン交換クロマトグラフィーによる除去、及び/又は
(ii)保護基の除去、及び/又は
(iii)有機溶媒の除去、及び/又は
(iv)得られた式(IIa)の化合物の水溶液としての処方
を行う方法を提供する。
【0013】
式(Ia)の化合物において、トレーサーは好適には式(Aa1)のものである。
【0014】
【化3】

【0015】
式中、R及びRは独立に水素、保護基、C1−6アルキル、C1−6ヒドロキシアルキル及びC1−6ハロアルキルから選択され、Rは水素又はC1−6アルキルであり、Rはヒドロキシ、C1−6アルコキシ、C1−6ハロアルキル又はC1−6アルキルであるが、R、R及びRのうちの1つの基が式(Ia)の固体担体−リンカー−SO−O−に結合したC1−6アルキルであるか、或いはRが式(Ia)の固体担体−リンカー−SO−O−に結合したC1−6アルコキシである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
スキーム1に示す通り、式(Ia)の化合物は、Merrifield樹脂、NovaSyn(登録商標)TGブロモ樹脂、(ブロモメチル)フェノキシメチルポリスチレン、又はWang樹脂のような市販のスルホン酸官能化樹脂から簡便に製造することができ、これらを塩素化剤と反応させて対応塩化スルホニル樹脂を生じさせればよい。これは樹脂を、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム又はアセトニトリルのような適当な不活性溶媒中、五塩化リン、三塩化リン、塩化オキサリル又は塩化チオニルで処理し、昇温下で所定時間加熱することによって実施し得る。過剰の試薬は追加量の不活性溶媒で洗浄することによって樹脂から除去し得る。塩化ホスホリル樹脂を次いでトレーサーのアルコール類似体と反応させて、式(I)の樹脂結合前駆体を生じさせる。これは、例えば、水素化ナトリウム又はトリアルキルアミン(トリエチルアミン又はジイソプロピルエチルアミンなど)のような可溶性非求核塩基を含有するクロロホルム、ジクロロメタン、アセトニトリル又はテトラヒドロフランのような不活性溶媒中のアルコール溶液で樹脂を処理することによって実施し得る。反応は10〜80℃の温度、最適には室温で約1〜24時間実施し得る。過剰のアルコール及び塩基は、次いで追加量のクロロホルム、ジクロロメタン又はテトラヒドロフランのような不活性溶媒で洗浄することによって固体担体から除去し得る。別法として、リンカーをトレーサーに結合してから固体担体に結合させ、上記と同様の化学的方法で式(Ia)の化合物を形成してもよい。
【0017】
【化4】

【0018】
式(I)及び式(Ia)及び本発明の以下の態様の化合物において、「固体担体」は、当該プロセスで使用する溶媒には不溶であるが、リンカー及び/又はトレーサーを共有結合させることができる適当な固相担体であればよい。適当な固体担体の具体例としては、ポリスチレン(ポリエチレングリコールなどとのブロックグラフトでもよい)、ポリアクリルアミド又はポリプロピレンのようなポリマー、或いはかかるポリマーで被覆したガラス又はケイ素が挙げられる。固体担体はビーズやピンのような小さな離散粒子の形態でもよいし、或いはカートリッジの内面又はマイクロ加工容器のコーティングでもよい。
【0019】
式(I)及び式(Ia)及び本発明の以下の態様の化合物において、「リンカー」は、固体担体構造から反応性部位を十分に離隔して反応性を最大限に発揮させるのに適した有機基であればよい。好適には、リンカーは、0〜4個のアリール基(好適にはフェニル)及び/又はC1−16アルキル(好適にはC1−6アルキル)又はC1−16ハロアルキル(好適にはC1−6ハロアルキル)、典型的にはC1−16フルオロアルキル(好適にはC1−6フルオロアルキル)、又はC1−16アルコキシ又はC1−16ハロアルコキシ(好適にはC1−6アルコキシ又はC1−6ハロアルコキシ)、典型的にはC1−16フルオロアルコキシ(好適にはC1−6フルオロアルコキシ)からなり、適宜、アミド又はスルホンアミド基のような1〜4個の官能基を含む。かかるリンカーの具体例は固相化学の当業者には周知であり、以下のものが挙げられる。
【0020】
【化5】

【0021】
各例において、kは0〜3の整数であり、nは1〜16の整数であり、Rは水素又はC1−6アルキルである。
【0022】
当業者には自明であろうが、放射性標識プロセスに際して、不要な反応を避けるためトレーサーの官能基を保護することが必要とされることがある。かかる保護は保護基化学の常法で達成し得る。放射性標識の完了後、保護基は簡単なしかも当技術分野での常法で除去し得る。適当な保護及び脱保護の方法論は、例えばProtecting Group in Organic Syntheses,Theodora W.Greene and Peter G.M.Wuts,published by John Wiley & Sons Inc.に記載されている。好ましいアミン保護基としては、アルコキシカルボニル(t−ブトキシカルボニルなど)、トリフルオロアセトアミド、フルオレニルメトキシカルボニル及びホルムアミドが挙げられる。好ましいヒドロキシ保護基としては、アルキルもしくはベンジルエーテル、アルキルオキシメチルエーテル、アルコキシカルボニル(t−ブトキシカルボニルなど)及びシリル基が挙げられる。かかる保護基は、例えば、酸又は塩基の存在下での加水分解によって簡便に除去し得る。かかる脱保護は固体に担持した酸又は塩基触媒を用いて実施でき、脱保護後の中和は不要である。
【0023】
18による式(I)又は(Ia)の化合物の処理は、Na18F、K18F、Cs18F、フッ化18Fテトラアルキルアンモニウム又はフッ化18Fテトラアルキルホスホニウムのような適当な18源での処理によって実施し得る。フッ化物の反応性を高めるため、4,7,13,16,21,24−ヘキサオキサ−1,10−ジアザビシクロ[8.8.8]ヘキサコサンのような相間移動触媒を添加して、反応を非プロトン性溶媒中で実施してもよい。こうした条件下で反応性フッ素イオンが得られる。18での処理は、好適には、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、スルホラン、N−メチルピロリジノンのような適当な有機溶媒の存在下で適度な温度(例えば15℃〜180℃)、好ましくは昇温下で実施する。反応が完了したら、溶媒中に溶解した式(II)の18F−標識トレーサーを濾過によって簡便に固相から分離する。本発明の以下の態様でも同様のフッ素化法を使用し得る。
【0024】
過剰18はイオン交換クロマトグラフィー又は固相吸着剤などの適当な手段によって18F−トレーサーの溶液から除去し得る。適当なイオン交換樹脂としては、BIO−RAD AG1−X8又はWaters QMAが挙げられ、適当な固相吸着剤としてはアルミナが挙げられる。過剰18は非プロトン性溶媒中でこうした固相を用いて室温で除去し得る。
【0025】
有機溶媒は、昇温真空下での蒸発或いは窒素又はアルゴンのような不活性ガス流を溶液に流すなどの常法によって除去し得る。
【0026】
18F−標識トレーサーの使用前に、無菌等張食塩水に18F−標識トレーサーを溶解した水溶液などに処方するのが適切なこともあり、無菌等張食塩水はエタノールのような10%以下の適当な有機溶媒又はリン酸緩衝液のような適当な緩衝液を含んでいてもよい。その他、放射線分解を低減するためアスコルビン酸のような添加剤を加えてもよい。
【0027】
別の態様では、本発明は、18F−標識トレーサーの製造法であって、式(Ib)
【0028】
【化6】

【0029】
(式中、Yはアニオンであり、トレーサーは次の式(Ab)のものである。
【0030】
【化7】

【0031】
式中、R及びRは独立に水素、保護基、C1−6アルキル、C1−6ヒドロキシアルキル及びC1−6ハロアルキルから選択され、R〜R10のうちの1つの基は式(Ib)の固体担体−リンカー−I−基との結合であって、その他の基は独立に水素、ハロゲン、C1−6アルキル、C1−6ハロアルキル、C1−6ヒドロキシアルキル、C1−6アルコキシ、C1−6ハロアルコキシ、ヒドロキシ、シアノ及びニトロから選択される。)
の固体担体結合前駆体を18で処理して式(IIb)
18F−トレーサー (IIb)
(式中、トレーサーは式(Ib)の化合物について定義した通りであるが、R〜R10のうちの1つの基は式(Ib)の固体担体−リンカー−I−基との結合の代わりに18Fとの結合である。)
の標識トレーサーを生成させ、次いで、適宜
(i)過剰18Fの、例えばイオン交換クロマトグラフィーによる除去、及び/又は
(ii)保護基の除去、及び/又は
(iii)有機溶媒の除去、及び/又は
(iv)得られた式(IIb)の化合物の水溶液としての処方
を行う方法を提供する。
【0032】
式(Ib)の化合物において、トレーサーは好適には次の式(AbI)の化合物である。
【0033】
【化8】

【0034】
式中、R及びRは独立に水素、保護基、C1−6アルキル、C1−6ヒドロキシアルキル及びC1−6ハロアルキルから選択され、Rは独立に水素、C1−6アルキル又は式(Ib)の固体担体−リンカー−I−基との結合であり、Rはヒドロキシ、C1−6アルコキシ、C1−6ハロアルキル、C1−6アルキル又は式(Ib)の固体担体−リンカー−I−基との結合であるが、R及びRの一方のみが式(Ib)の固体担体−リンカー−I−基との結合である。
【0035】
式(Ib)の化合物は、Merrifield樹脂又はWang樹脂のような市販の官能化樹脂から簡便に製造し得る。好適には、リンカー基(ヨードフェノールなど)を含むヒドロキシヨードアリールを炭酸セシウムのような無機塩基で処理し、次いでN,N−ジメチルホルムアミドのような不活性溶媒で予め膨潤させておいた樹脂に添加し、昇温下(例えば30〜80℃)で反応させる。過剰の試薬は追加の不活性溶媒で樹脂を洗浄することによって除去し得る。得られるヨードフェノール官能化樹脂を、過酸化水素のような酸化剤の存在下で、酢酸アニオン源(酢酸、無水酢酸又は塩化アセチルなど)で処理して対応ジアセトキシヨードフェニル官能化樹脂を得る。ジアセトキシヨードフェニル官能化樹脂を、塩酸、トリフルオロメタンスルホン酸又は酢酸のような酸の存在下、ジクロロメタンのような不活性溶媒中で低温(好適には−40℃〜10℃)で撹拌してから、トレーサー、好適には適度な温度で樹脂にカップリングし得るホウ酸もしくはトリ有機スズ(トリアルキルスズ)誘導体として官能化したものを添加する。前段と同様、式(Ib)の所望の化合物は濾過及び不活性溶媒での洗浄によって分離し得る。
【0036】
式(Ib)の化合物において、リンカーは上記で定義した通りであるが、好適にはIにの隣接してアリール基(好適にはフェニル)を含む。好ましい具体例は以下の通りである。
【0037】
【化9】

【0038】
式中、各フェニル環は適宜、C1−6アルキル及びC1−6アルコキシから選択される1〜4個の基で置換されていてもよいが、好適には非置換である。
【0039】
式(Ib)の化合物において、Yはアニオン、好ましくはトリフルオロメチルスルホン酸(トリフレート)アニオン又はテトラフェニルホウ酸アニオンである。
【0040】
式(I)の化合物は新規であり、本発明の別の態様をなす。例えば、式(Ia)及び(Ib)の化合物は本発明の別の態様をなす。
【0041】
他の態様では、本発明は18F−標識ベンゾチアゾールの求電子固相合成法を提供する。
【0042】
別の態様では、本発明は、18F−標識トレーサーの製造方法であって、式(III)
【0043】
【化10】

【0044】
(式中、R11及びR12は独立にC1−6アルキルから選択され、トレーサーは次の式(Ac)の化合物である。
【0045】
【化11】

【0046】
式中、R及びRは独立に水素、保護基、C1−6アルキル、C1−6ヒドロキシアルキル及びC1−6ハロアルキルから選択され、R〜R10のうちの1つの基は式(III)のSnとの結合であり、その他の基は独立に水素、ハロゲン、C1−6アルキル、C1−6ハロアルキル、C1−6ヒドロキシアルキル、C1−6アルコキシ、C1−6ハロアルコキシ、ヒドロキシ、シアノ及びニトロから選択される。)
の固体担体結合前駆体を18F源、好適には1818F−CHCOOH又は18F−OFで処理して、式(IV)
18F−トレーサー (IV)
(式中、トレーサーは式(III)の化合物について定義した通りであるが、R〜R10のうちの1つの基は式(III)のSnとの結合の代わりに18Fとの結合である。)
の標識トレーサーを生成させ、次いで、適宜
(i)過剰フッ素化試薬及びフッ素化試薬の生成又は上記反応で生成した18Fイオンの除去、及び/又は
(ii)保護基の除去、及び/又は
(iii)有機溶媒の除去、及び/又は
(iv)得られた式(IV)の化合物の水溶液としての処方
を行う製造法を提供する。
【0047】
式(III)の好ましい化合物においては、R11及びR12は共にメチルである。
【0048】
式(III)の化合物において、トレーサーは好適には次の式(Ac1)の化合物である。
【0049】
【化12】

【0050】
式中、R及びRは独立に水素、保護基、C1−6アルキル、C1−6ヒドロキシアルキル及びC1−6ハロアルキルから選択され、Rは独立に水素、C1−6アルキル又は式(III)のSnとの結合であり、Rはヒドロキシ、C1−6アルコキシ、C1−6ハロアルキル、C1−6アルキル又は式(III)のSnとの結合であるが、R及びRの一方のみが式(III)のSnとの結合である。
【0051】
18Fによる式(III)の化合物の処理は、適当な有機溶媒、好適にはトリクロロフルオロメタンのようなクロロフルオロカーボン又はフルオロカーボンの存在下、1818F−CHCOOH又は18F−OFのような適当な18F源で、適度な温度(例えば−10℃〜60℃)、好ましくは室温で処理することによって実施し得る。反応完了後、溶媒中に溶解した式(IV)の18F−標識トレーサーを濾過によって簡便に固相から分離する。18は、例えばNe+0.2%F(100μmol)を標的ガスとしてRossendorfサイクロトロンU−120の13.5Mev重陽子を用いた20Ne(d、α)18F反応で製造し得る。別法として、18はサイクロトロンからの11Mev陽子を用いた18(p,n)18F反応でも製造し得る(A.J.Bishop et al.J.Nucl.Med.,32:1010(1991))。
【0052】
式(III)の化合物の反応後、過剰フッ素化剤或いはフッ素化剤の生成もしくは反応で生じた18イオンを、式(IV)の18F−トレーサー溶液から、適当な手段、例えば適当な溶媒(好適にはクロロフルオロメタンや塩化メチレンのようなジクロロフルオロカーボン又はクロロカーボン)中で亜硫酸ナトリウムとシリカゲルのカラムに流すことによって除去し得る。
【0053】
式(III)の化合物は、スキーム2又はスキーム3に概略を示すように市販の出発原料から製造し得る。
【0054】
【化13】

【0055】
【化14】

【0056】
上述の通り、18F−標識トレーサーの固相合成法の利点としては、プロセスが比較的迅速であること、精製法が簡単であること、自動化が容易であることが挙げられ、これらはすべては本プロセスがPET用18F−標識トレーサーの製造に適していることを意味する。従って、本発明は式(II)、(IIa)、(IIb)又は(IV)のPET用18F−標識トレーサーの製造法を提供する。
【0057】
簡便には、式(I)又は(III)の固体担体前駆体は、放射線医薬品調剤室向けのキットの一部として提供できる。キットは適当な自動化合成機に装着できるカートリッジを含んでいてもよい。カートリッジは、固体担体結合前駆体とは別に、不要フッ素イオンを除去するためのカラム、反応混合物を蒸発させて生成物を必要に応じて処方することができるように連結された適当な容器を含んでいてもよい。試薬、溶媒その他合成に必要な消耗品を、放射能濃度、体積、送達時間などに関する顧客条件に合致するように合成機を操作できるようにするソフトウエアを記録したコンパクトディスクと共に含んでいてもよい。
【0058】
簡便には、キットの部品はすべて作業間の汚染のおそれを最小限とし、無菌及び品質を保証するため使い捨てとする。
【0059】
本発明は、さらに、PET用18F−標識トレーサーの製造用放射性医薬品キットであって、
(i)上記で定義した式(I)、(Ia)又は(Ib)の化合物を収容した容器、及び
(ii)18源で上記容器を溶出する手段、
(iii)過剰18を除去するためのイオン交換カートリッジ、及び適宜
(iv)上記定義の式(II)、(IIa)又は(IIb)の生成物の固相脱保護用カートリッジ
を備えるキットを提供する。
【0060】
本発明は、さらに、PET用18F−標識トレーサーの製造用放射性医薬品キットのためのカートリッジであって、
(i)式(I)、(Ia)又は(Ib)の化合物を収容した容器、及び
(ii)18源で上記容器を溶出する手段、
を備えるカートリッジを提供する。
【0061】
本発明は、さらに、PET用18F−標識トレーサーの製造用放射性医薬品キットであって、
(i)上記で定義した式(III)の化合物を収容した容器、及び
(ii)18F源で上記容器を溶出する手段、及び適宜
(iii)過剰フッ素化試薬及び18イオンを除去するためのカートリッジ、及び適宜
(iv)上記定義の式(IV)の生成物の固相脱保護用カートリッジ、
を備えるキットを提供する。
【0062】
本発明は、さらに、PET用18F−標識トレーサーの製造用放射性医薬品キットのためのカートリッジであって、
(i)上記で定義した式(III)の化合物を収容した容器、及び
(ii)18F源で上記容器を溶出する手段、
を備えるカートリッジを提供する。
【0063】
本発明の別の態様では、診断用PET画像を得る方法であって、上記で定義した放射性医薬品キット又は放射性医薬品キット用カートリッジを使用するステップを含んでなる方法を提供する。
【実施例】
【0064】
以下の実施例で本発明を例示する。
【0065】
実施例1
【0066】
【化15】

【0067】
6−メトキシメトキシ−2−(フェニル−4’−アミノプロパノール)−ベンゾチアゾール(1)を4−(クロロスルホニル)安息香酸(1当量)の存在下でピリジン/DCM(1:1)に溶解する。反応は室温で攪拌しながら12時間行う。水性処理後、化合物(2)をシリカゲルで精製する。
【0068】
オーブン乾燥したRadleys反応管に、1gのポリスチレン樹脂(1g、1.30mmol/g、Novabiochem 01−64−0143、100〜200メッシュ)及び16mLの乾燥DCM(Aldrich社製)を入れる。次いで、化合物(2)(1.1当量)、Hunigs塩基(2.0当量)及びDPPCl(1.1当量)を加える。5時間後に樹脂を濾別し、DCMとメタノールで十分に洗浄する。固体を減圧下で乾燥する。
【0069】
実施例2 放射性フッ素化による[18F]−ベンゾチアゾールトレーサーの製造
カートリッジに収容した樹脂(実施例1化合物3に記載の通り製造)に、クリプトフィックス、炭酸カリウム及び[18F]−フッ素の乾燥アセトニトリル溶液を加える。懸濁液を85℃に10分間加熱し、溶液を濾過する。次いで、溶液を水で希釈し、C18固相抽出カートリッジに流し、水洗してアセトニトリル、クリプトフィックス、炭酸カリウム及び未反応の[18F]−フッ素を除去する。有機溶媒でカートリッジから放射性フッ素化生成物を溶出し、保護基を酸性溶液中で加熱して除去してから、中和し、分析する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
18F−標識トレーサーの製造方法であって、式(I)
固体担体−リンカー−X−トレーサー (I)
(式中、Xは結合トレーサーの特異的部位での求核置換反応を促進する基であり、トレーサーは次の式(A)のものである。
【化1】

式中、R及びRは独立に水素、保護基、C1−6アルキル、C1−6ヒドロキシアルキル及びC1−6ハロアルキルから選択され、R〜R10は独立に水素、ハロゲン、C1−6アルキル、C1−6ハロアルキル、C1−6ヒドロキシアルキル、C1−6アルコキシ、C1−6ハロアルコキシ、ヒドロキシ、シアノ及びニトロから選択されるが、R〜R10のうちの1つの基は固体担体−リンカー−X−に結合している。)
の固体担体結合前駆体を18で処理して式(II)
18F−トレーサー (II)
(式中、トレーサーは式(I)の化合物について定義した通りであるが、R〜R10のうちの1つの基は式(I)の固体担体−リンカー−X−の代わりに18Fに結合している。)
の標識トレーサーを生成させ、次いで、適宜、
(i)過剰18Fの、例えばイオン交換クロマトグラフィーによる除去、及び/又は
(ii)保護基の除去、及び/又は
(iii)有機溶媒の除去、及び/又は
(iv)得られた式(II)の化合物の水溶液としての処方
を行う、方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法であって、式(Ia)
固体担体−リンカー−SO−O−トレーサー (Ia)
(式中、トレーサーは次の式(Aa)のものである。
【化2】

式中、R及びRは独立に水素、保護基、C1−6アルキル、C1−6ヒドロキシアルキル及びC1−6ハロアルキルから選択され、R〜R10は独立に水素、ハロゲン、C1−6アルキル、C1−6ハロアルキル、C1−6ヒドロキシアルキル、C1−6アルコキシ、C1−6ハロアルコキシ、ヒドロキシ、シアノ及びニトロから選択されるが、(a)RのC1−6アルキル基又は(b)R〜R10のC1−6アルキルもしくはC1−6アルコキシ基のいずれかが式(Ia)の固体担体−リンカー−SO−O−に結合している。)
の固体担体結合前駆体を18で処理して式(IIa)
18F−トレーサー (IIa)
(式中、トレーサーは式(Ia)の化合物について定義した通りであるが、(a)RのC1−6アルキル基又は(b)R〜R10のC1−6アルキルもしくはC1−6アルコキシのいずれかが式(Ia)の固体担体−リンカー−SO−O−の代わりに18Fに結合している。)
の標識トレーサーを生成させ、次いで、適宜
(i)過剰18Fの、例えばイオン交換クロマトグラフィーによる除去、及び/又は
(ii)保護基の除去、及び/又は
(iii)有機溶媒の除去、及び/又は
(iv)得られた式(IIa)の化合物の水溶液としての処方
を行う、方法。
【請求項3】
前記トレーサーが次の式(Aa1)のものである、請求項2記載の方法。
【化3】

式中、R及びRは独立に水素、保護基、C1−6アルキル、C1−6ヒドロキシアルキル及びC1−6ハロアルキルから選択され、Rは水素又はC1−6アルキルであり、Rはヒドロキシ、C1−6アルコキシ、C1−6ハロアルキル又はC1−6アルキルであるが、R、R及びRのうちの1つの基が式(Ia)の固体担体−リンカー−SO−O−に結合したC1−6アルキルであるか、或いはRが式(Ia)の固体担体−リンカー−SO−O−に結合したC1−6アルコキシである。
【請求項4】
請求項1記載の方法であって、式(Ib)
【化4】

(式中、Yはアニオンであり、トレーサーは次の式(Ab)のものである。
【化5】

式中、R及びRは独立に水素、保護基、C1−6アルキル、C1−6ヒドロキシアルキル及びC1−6ハロアルキルから選択され、R〜R10のうちの1つの基は式(Ib)の固体担体−リンカー−I−基との結合であって、その他の基は独立に水素、ハロゲン、C1−6アルキル、C1−6ハロアルキル、C1−6ヒドロキシアルキル、C1−6アルコキシ、C1−6ハロアルコキシ、ヒドロキシ、シアノ及びニトロから選択される。)
の固体担体結合前駆体を18で処理して式(IIb)
18F−トレーサー (IIb)
(式中、トレーサーは式(Ib)の化合物について定義した通りであるが、R〜R10のうちの1つの基は式(Ib)の固体担体−リンカー−I−基との結合の代わりに18Fとの結合である。)
の標識トレーサーを生成させ、次いで、適宜
(i)過剰18Fの、例えばイオン交換クロマトグラフィーによる除去、及び/又は
(ii)保護基の除去、及び/又は
(iii)有機溶媒の除去、及び/又は
(iv)得られた式(IIb)の化合物の水溶液としての処方
を行う、方法。
【請求項5】
前記トレーサーが次の式(AbI)ものである、請求項4記載の方法。
【化6】

式中、R及びRは独立に水素、保護基、C1−6アルキル、C1−6ヒドロキシアルキル及びC1−6ハロアルキルから選択され、Rは独立に水素、C1−6アルキル又は式(Ib)の固体担体−リンカー−I−基との結合であり、Rはヒドロキシ、C1−6アルコキシ、C1−6ハロアルキル、C1−6アルキル又は式(Ib)の固体担体−リンカー−I−基との結合であるが、R及びRの一方のみが式(Ib)の固体担体−リンカー−I−基との結合である。
【請求項6】
18F−標識トレーサーの製造方法であって、式(III)
【化7】

(式中、R11及びR12は独立にC1−6アルキルから選択され、トレーサーは次の式(Ac)の化合物である。
【化8】

式中、R及びRは独立に水素、保護基、C1−6アルキル、C1−6ヒドロキシアルキル及びC1−6ハロアルキルから選択され、R〜R10のうちの1つの基は式(III)のSnとの結合であり、その他の基は独立に水素、ハロゲン、C1−6アルキル、C1−6ハロアルキル、C1−6ヒドロキシアルキル、C1−6アルコキシ、C1−6ハロアルコキシ、ヒドロキシ、シアノ及びニトロから選択される。)
の固体担体結合前駆体を18F源、好適には1818F−CHCOOH又は18F−OFで処理して、式(IV)
18F−トレーサー (IV)
(式中、トレーサーは式(III)の化合物について定義した通りであるが、R〜R10のうちの1つの基は式(III)のSnとの結合の代わりに18Fとの結合である。)
の標識トレーサーを生成させ、次いで、適宜
(i)過剰フッ素化試薬及びフッ素化試薬の生成又は上記反応で生成した18Fイオンの除去、及び/又は
(ii)保護基の除去、及び/又は
(iii)有機溶媒の除去、及び/又は
(iv)得られた式(IV)の化合物の水溶液としての処方
を行う、方法。
【請求項7】
前記トレーサーが好適には次の式(Ac1)の化合物である、請求項6記載の方法。
【化9】

式中、R及びRは独立に水素、保護基、C1−6アルキル、C1−6ヒドロキシアルキル及びC1−6ハロアルキルから選択され、Rは独立に水素、C1−6アルキル又は式(III)のSnとの結合であり、Rはヒドロキシ、C1−6アルコキシ、C1−6ハロアルキル、C1−6アルキル又は式(III)のSnとの結合であるが、R及びRの一方のみが式(III)のSnとの結合である。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項記載の式(II)、(IIa)、(IIb)又は(IV)のPET用18F−標識トレーサーの製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか1項記載の式(I)、(Ia)、(Ib)又は(III)の化合物。
【請求項10】
PET用18F−標識トレーサーの製造用放射性医薬品キットであって、
(i)請求項1乃至5のいずれか1項記載の式(I)、(Ia)又は(Ib)の化合物を収容した容器、及び
(ii)18源で上記容器を溶出する手段、
(iii)過剰18を除去するためのイオン交換カートリッジ、及び適宜
(iv)請求項1乃至5のいずれか1項記載の式(II)、(IIa)又は(IIb)の生成物の固相脱保護用カートリッジ
を備えるキット。
【請求項11】
PET用18F−標識トレーサーの製造用放射性医薬品キットのためのカートリッジであって、
(i)請求項1乃至5のいずれか1項記載の式(I)、(Ia)又は(Ib)の化合物を収容した容器、及び
(ii)18源で上記容器を溶出する手段、
を備えるカートリッジ。
【請求項12】
PET用18F−標識トレーサーの製造用放射性医薬品キットであって、
(i)請求項6又は請求項7記載の式(III)の化合物を収容した容器、及び
(ii)18F源で上記容器を溶出する手段、及び適宜
(iii)過剰フッ素化試薬及び18イオンを除去するためのカートリッジ、及び適宜
(iv)請求項6又は請求項7記載の式(IV)の生成物の固相脱保護用カートリッジ、
を備えるキット。
【請求項13】
請求項12記載のPET用18F−標識トレーサーの製造用放射性医薬品キットのためのカートリッジであって、
(i)請求項6又は請求項7記載の式(III)の化合物を収容した容器、及び
(ii)18F源で上記容器を溶出する手段、
を備えるカートリッジ。
【請求項14】
診断用PET画像を得る方法であって、請求項10又は請求項12記載の放射性医薬品キット又は請求項11又は請求項13記載の放射性医薬品キット用カートリッジを使用するステップを含んでなる方法。

【公表番号】特表2006−510705(P2006−510705A)
【公表日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−561653(P2004−561653)
【出願日】平成15年12月19日(2003.12.19)
【国際出願番号】PCT/GB2003/005574
【国際公開番号】WO2004/056399
【国際公開日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(305040710)ジーイー・ヘルスケア・リミテッド (99)
【出願人】(504000591)ハマースミス・イメイネット・リミテッド (26)
【氏名又は名称原語表記】Hammersmith Imanet Ltd
【Fターム(参考)】