説明

ベーカリー製品

【課題】製造時の作業性が良好で、十分なボリューム、良好な風味及び食感を有するベーカリー製品を得ること。
【解決手段】小麦粉100質量部に対し、次の成分(A)、成分(B)及び成分(C):
(A)アルギン酸プロピレングリコールエステル0.04〜0.8質量部
(B)有機酸モノアシルグリセロールを除くモノアシルグリセロール0.01〜2質量部
(C)有機酸モノアシルグリセロール0.01〜1質量部
を含有するベーカリー製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン類、ケーキ類、焼き菓子類等のベーカリー製品に関する。
【背景技術】
【0002】
ベーカリー製品、特にパン類において、パンのボリューム感、外観、食感、風味、パン生地調製中の作業性、生地伸展性等の品質向上を図るために、目的に合わせて増粘安定剤や生地改良剤等の添加剤を使用することが知られている。
増粘安定剤としては、例えばアルギン酸プロピレングリコールエステルがあり、ベーカリー製品、特にパン類のボリューム、保形性、弾性などを向上するために用いられるようになってきた。
アルギン酸プロピレングリコールエステルを使用した従来技術としては、麦麹粉末と併用したパン類及び菓子類の品質改良剤(特許文献1参照)、食品のレンジ加熱後のシワ及び食感改良剤(特許文献2参照)、焼成又はフライ後の保型性や食感に優れたパン類及びドーナツ類を製造するための生地改良剤(特許文献3、4参照)、冷凍蒸しパンの再加熱時における食感改良剤(特許文献5参照)などが提案されている。
【0003】
また、その他のベーカリー製品用の生地改良剤としては、グリセリン脂肪酸モノエステル、グリセリン有機酸脂肪酸モノエステル(グリセリン脂肪酸モノエステルの3位のOH基を有機酸でエステル化した化合物)などの乳化剤が使用されている(特許文献6、7参照)。特にグリセリンコハク酸(又はクエン酸)脂肪酸モノエステルを使用すると冷凍保存後のパンにおいても食感を維持・改善すること(特許文献8参照)、コハク酸モノグリセリド又はジアセチル酒石酸モノグリセリドを使用すると、ベーカリー製品の生地の伸展性を向上させることが知られている(特許文献9参照)。
【0004】
更に、グリセリン脂肪酸エステル類を組み合わせて粉末化したり、この粉末とグリセリンコハク酸脂肪酸エステルを併用する技術(特許文献10参照)、ジアセチル酒石酸モノグリセリドを乳化油脂組成物としたり(特許文献11参照)、油相にグリセリンジ脂肪酸エステルとレシチンを加えて油中水型エマルションにしたり(特許文献12参照)する技術が用いられている。また、増粘剤の凝集によるねとつき(口どけ感の低下)を改善するために、油脂中に増粘安定剤を分散する技術も提案されている(特許文献13参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−47392号公報
【特許文献2】特開2002−281915号公報
【特許文献3】特開2004−65245号公報
【特許文献4】特開2004−208703号公報
【特許文献5】特開2007−247925号公報
【特許文献6】特開平2−124052号公報
【特許文献7】特開平4−197130号公報
【特許文献8】特開平5−236919号公報
【特許文献9】特開平7−79687号公報
【特許文献10】特開2002−112692号公報
【特許文献11】特開昭63−7744号公報
【特許文献12】特開昭64−2523号公報
【特許文献13】特開2005−000048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記従来技術においては、アルギン酸プロピレングリコールエステルを用いた場合には、生地伸展性が低下し、吸水し易いため生地表面がべたつき、製パン作業性が悪くなる、配合量によってはボリュームが出難くなるという傾向があった。また、アルギン酸プロピレングリコールエステル自体に異味があるため、風味の点では必ずしも満足できるレベルではなかった。更に、アルギン酸プロピレングリコールエステルは粉末状であるため、生地に均一に配合することが困難であり、そのため食感にバラつきを生じるという課題があった。即ち、前記の方法では、生地改質効果により製造時の作業性が良好で、かつ十分なボリューム及び良好な風味、食感を有するベーカリー製品を得るためには不十分であるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、パンを中心とするベーカリー製品において、生地調製中ではキメ細かくシルキーな生地を得ることができ、更にベーカリー製品としては立体感のあるボリュームと、歯切れ感、ソフト感、滑らかな口溶けなど食感が良好かつ、風味に優れたベーカリー製品を提供するために検討を行った結果、アルギン酸プロピレングリコールエステル、有機酸モノアシルグリセロール及び有機酸モノアシルグリセロール以外のモノアシルグリセロールを併用することにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は、小麦粉100質量部に対し、次の成分(A)、成分(B)及び成分(C):
(A)アルギン酸プロピレングリコールエステル0.04〜0.8質量部
(B)有機酸モノアシルグリセロールを除くグリセリン脂肪酸エステル0.01〜2質量部
(C)有機酸モノアシルグリセロール0.01〜1質量部
を含有するベーカリー製品を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、生地改質効果により製造時の作業性が良好で、十分なボリューム、良好な風味及び食感を有するベーカリー製品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明における成分(A)であるアルギン酸プロピレングリコールエステル(以下、「アルギン酸エステル」と略記)は、ベーカリー製品中に小麦粉100質量部(以下、単に「部」と略記)に対して0.04〜0.8部含有するが、更に0.05〜0.8部、特に0.06〜0.80部、殊更0.06〜0.75部含有することが、十分なボリューム、良好な食感、生地のベタつき防止、伸展性の点から好ましい。アルギン酸エステルは、飲食品に使用可能であれば種類は特に限定されることなく使用することができるが、生地のベタつき防止、伸展性、良好な食感の点から1質量%(以下、単に「%」と記載する)水溶液の20℃における粘度(B型回転粘度計で測定)が1〜500cpであることが好ましい。また、更に2〜250cp、特に3〜100cp、殊更5〜25cpの低粘度のものを使用することが、成分(B)有機酸モノアシルグリセロールを除くモノアシルグリセロール(以下、単に「モノアシルグリセロール」又は「MAG」と略記する)及び成分(C)有機酸モノアシルグリセロールの各特定量と組み合わせて用いた場合に、十分なボリューム、生地のベタつき防止、伸展性を更に向上させる点から好ましい。この粘度範囲のものは、ベーカリー製品用として成分(A)を単独で用いる場合には、通常採用しないものである。
【0011】
本発明における成分(B)であるモノアシルグリセロールは、ベーカリー製品中に小麦粉100部に対して0.01〜2部含有するが、更に0.02〜2部、特に0.03〜1.8部、殊更0.05〜1.5部含有することが、良好な食感、老化抑制、生地物性の点から好ましい。モノアシルグリセロール中の脂肪酸が結合する位置は、α、β−位のいずれでもよく、好ましくはα位に飽和脂肪酸が結合しているものを用いるのがよい。更に、モノアシルグリセロールの全脂肪酸残基に対して、炭素数14〜22の鎖長の飽和脂肪酸残基が60%以上であることが好ましく、更に90%以上であることが、焼成後のパンの食感向上、老化防止の点から好ましい。
炭素数14〜22の飽和脂肪酸としては、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸等の飽和脂肪酸が挙げられる。これらの脂肪酸は、単一で構成されていても良いが、2種以上の混合系で構成されていてもよい。
【0012】
本発明における成分(C)である有機酸モノアシルグリセロールは、ベーカリー製品中に小麦粉100部に対して0.01〜1部含有するが、更に0.01〜0.9部、特に0.02〜0.7部、殊更0.02〜0.6部含有することが、生地伸展性、ベタつきの抑制等の製パン作業性の点から好ましい。有機酸モノアシルグリセロールは、モノアシルグリセロールのOH基の1つを有機酸でエステル化したものである。なお、本願発明の有機酸モノアシルグリセロールでいう「有機酸」とは、例えば、酢酸、酪酸、プロピオン酸等の低級脂肪酸で構成されるモノカルボン酸;シュウ酸、コハク酸等の脂肪族飽和ジカルボン酸;マレイン酸、フマル酸等の脂肪族不飽和ジカルボン酸;乳酸、りんご酸、酒石酸、ジアセチル酒石酸、クエン酸等のヒドロキシカルボン酸;及びグリシン、アスパラギン酸等のアミノ酸を挙げることができる。本発明においては、前記有機酸は、炭素数10以下(更に好ましくは、炭素数4〜8)のものであることが好ましい。具体的には、クエン酸、コハク酸、酒石酸、及びジアセチル酒石酸が好ましい。特に、クエン酸、コハク酸、ジアセチル酒石酸が好ましく、中でもコハク酸が風味の点で好ましい。
また、有機酸モノアシルグリセロール中の有機酸含有量は13〜40%であることが好ましく、更に14〜30%、特に14〜25%であることが、ベーカリー生地の伸展性等の生地改質効果による製パン作業性、風味の点から好ましい。
【0013】
本発明における有機酸モノアシルグリセロールの構成脂肪酸は、前記モノアシルグリセロールの構成脂肪酸と同程度であることが好ましく、両者の組成が実質的に同じものを用いることが、生地伸展性、生地のベタつき防止の点から好ましい。なお、ここで「実質的に同じ」とは、各構成脂肪酸の含有量の数値の違いが5%以内であることをいう。
【0014】
本発明においては、ベーカリー製品中に成分(A)、成分(B)及び成分(C)を合計で、小麦粉100部に対して0.06〜3.8部含有することが好ましく、更に0.08〜3.5部、特に0.1〜3部、殊更0.13〜2.8部含有することが、生地改質効果、ベーカリー製品の食感、ボリュームの点から好ましい。また、成分(A)、成分(B)及び成分(C)は、ベーカリー製品を製造する際、生地混練時に配合することが、生地伸展性、生地のベタつき抑制の点から好ましい。
【0015】
本発明において、成分(B)/成分(C)の質量比は1〜5であることが好ましく、更に1.5〜4.5、特に2〜4、殊更2.2〜4であることが、生地改質効果、ベーカリー製品の食感の点から好ましい。
【0016】
本発明において、成分(A)/{成分(B)+成分(C)}の質量比は0.1〜1であることが好ましく、更に0.15〜0.8、特に0.2〜0.8、殊更0.2〜0.75であることが、製パン作業性、ベーカリー製品のボリューム、食感、風味の点から好ましい。
【0017】
本発明の態様において、成分(D)融点20℃以下の食用油脂を使用することが、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の生地への分散性を良くする点、製パン作業性の点から好ましい。当該食用油脂は、全構成脂肪酸のうち不飽和脂肪酸が75%以上、更に80%以上を占めるものであることが、食感の点から好ましい。不飽和脂肪酸は、炭素数12〜22のものが好ましく、更に炭素数16〜22のものが好ましい。具体的には、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ガドレイン酸、エイコサジエン酸、エルカ酸、ドコサジエン酸などが挙げられる。これら脂肪酸を含有する天然の食用油脂の具体例としては、ナタネ油、大豆油、コーン油等が挙げられる。また、食用油脂はジアシルグリセロールであっても良く、これが天然のものであっても、天然のものから合成されたものであっても良い。また、不飽和脂肪酸を前記の量含有していれば、炭素数6〜12の中鎖脂肪酸を含有していても良い。成分(D)は、ベーカリー製品中に小麦粉100部に対して0.5〜14部含有することが好ましく、更に1〜14部、特に1〜13部、殊更1〜12部含有することが好ましい。
【0018】
本発明の態様において、成分(D)の食用油脂を含有する場合には、{成分(A)+成分(B)+成分(C)}/成分(D)の質量比は0.05〜0.37であることが、製パン作業性、ベーカリー製品のボリューム、食感、風味の点から好ましく、更に0.08〜0.35特に0.1〜0.33、殊更0.1〜0.32であることが好ましい。
【0019】
本発明の態様において、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)の合計量が、小麦粉100部に対して1〜17部であることが、生地伸展性、生地のベタつき抑制、ベーカリー製品のボリューム、食感、風味の点から好ましく、更に1.1〜16部、特に1.1〜15部、殊更1.2〜14部であることが好ましい。
【0020】
本発明の態様において、成分(D)を使用する場合は、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)を予め混合した油脂組成物(E)とした上で、これを配合して生地を調製し、ベーカリー製品とすることが製パン作業性の点で好ましい。また、油脂組成物(E)とするのは成分(B)、(C)及び(D)とし、成分(A)は別途混合することとしても良いが、製パン作業性の点から、成分(A)も予め混合しておくことが好ましい。
【0021】
本発明の態様において、油脂組成物(E)を製造する方法は、使用する前記各成分を混合し完全溶解することが好ましい。溶解する温度は、各成分の融点以上の温度、好ましくは80℃以上にすることが油脂組成物の安定製造の面で好ましい。
次いで、前記の混合物を30℃以下まで冷却することにより油脂組成物(E)を調製することができる。
【0022】
前記油脂組成物(E)の製造方法においては、前記成分を溶解後、冷却時間を早くするのが、成分(B)及び成分(C)の分散性を向上させ、生地のベタつきを防ぎ、製パン作業性の向上の点から好ましい。これは、冷却により成分(B)及び成分(C)が結晶化する際、徐冷よりも急冷の方がより微細な結晶となり、油脂組成物(E)中での分散性が良くなり、生地への分散性も向上するためだと考えられる。具体的には5℃/分以上、更に5〜20℃/分とすることが油脂組成物(E)の安定性の点で好ましい。
【0023】
前記油脂組成物(E)の製造方法において、高温状態にある均一混合物を冷却する際には、均一混合物を入れている容器を外部から冷却しても良いが、一般的にショートニングやマーガリンの製造に用いられるチラー、コンビネーター、ボテーターなどを用いて急冷する方が性能の面から好ましい。
【0024】
本発明の態様において、ベーカリー製品を製造する際には、前記成分(A)〜(C)、及び必要に応じて成分(D)、又は油脂組成物(E)に加え、必要に応じて他の品質改良剤を併用することができる。他の品質改良剤は、通常ベーカリー製品に用いられる品質改良剤であれば特に限定されるものではない。例えば、卵白、卵黄、全卵、ホエー蛋白、カゼイン、カゼインナトリウム、乳蛋白、小麦蛋白、大豆蛋白、酵素、塩化アンモニウム、硫化アンモニウム、燐酸アンモニウム、硫酸カルシウム、臭素酸カリウム、L−アスコルビン酸、加工澱粉、微粒子加工澱粉などが挙げられる。
【0025】
本発明のベーカリー製品としては、パン類、ケーキ類、焼き菓子類が含まれる。パン類としては、食パン、特殊パン、調理パン(惣菜パン)、菓子パンなどが挙げられる。具体的には、食パンとしては、白パン、黒パン、バラエティーブレット、ロール(テーブルロール、バターロール、バンズなど)などが挙げられる。特殊パンとしては、マフィンなどが挙げられる。調理パン(惣菜パン)としては、ホットドッグ、ハンバーガーなど、菓子パンとしては、あんぱん、ジャムパン、クリームパン、メロンパン、スイートロールなどが挙げられる。ケーキル類としては、スポンジケーキ、シフォンケーキ、ロールケーキ、ブッセ、パウンドケーキ、スナックケーキなどが挙げられる。焼き菓子類としては、クッキー、ビスケットなどが挙げられる。
【0026】
本発明のベーカリー製品の原材料としては、前記成分以外には、主原料の小麦粉の他に、イースト、イーストフード、本発明における成分(B)及び成分(C)以外の乳化剤、成分(D)以外の油脂類(バター、ショートニング、マーガリンなど)水、加工澱粉、乳製品、食塩、糖類、調味料(グルタミン酸ソーダ類や核酸類)、保存料、ビタミン、カルシウムなどの強化剤、アミノ酸、フレーバーなどが挙げられる。また、レーズン等の乾燥果実、全粒粉、小麦ふすま等を使用することができる。
【0027】
本発明のベーカリー製品は、一般的に知られている方法により製造することができる。例えば、パン類の製造方法は、ストレート法、中種法、液種法、湯種法など、公知の調製方法を適宜選択でき、場合によってはこれらの方法を組み合わせて用いることができる。
【実施例】
【0028】
〔アルギン酸エステル製剤〕
アルギン酸エステル製剤は、1%水溶液の粘度(B型回転粘度計を用いて20℃で測定)が表1に示す4種類のものを用いた。
ダックロイドLF(紀文フードケミファ(株))
ダックロイドPFH(紀文フードケミファ(株))
キミロイドHV((株)キミカ)
昆布酸501((株)キミカ)
【0029】
【表1】

【0030】
〔油脂組成物a〜vの調製〕
各成分を表2に示した配合量に従い、次の手順に従い油脂組成物を製造した。
1)ステンレス製ビーカーに、MAG含有製剤、有機酸MAG含有製剤、食用油脂(融点−5℃)を表2に従って秤量した。
2)前記1)を85℃水浴中に浸し、各製剤を完全溶解した。この際、アンカーフック及びスリーワンモーターを用いて攪拌を行った。
3)前記2)に予め表2に従って秤量しておいたアルギン酸エステル製剤を攪拌しながら添加し、均一に分散したことを確認後、同温度にて30分放置した。
4)前記2)をチラーで急冷・混錬しながら30℃以下まで冷却し、アルギン酸エステル含有油脂組成物a〜vを得た。
【0031】
【表2】

【0032】
実施例1〜14
〔配合〕
次に示す配合及び製パン方法に従い、コッペパンを製造した。
[中種]
強力粉(カメリア:日清製粉) 70.0部
イースト(オリエンタル酵母) 2.8部
上白糖(大日本明治製糖) 3.5部
鶏卵 5.0部
イーストフード(オリエンタル酵母) 0.1部
水 36.0部
[本捏]
強力粉(カメリア:日清製粉) 30.0部
油脂組成物a〜m又はv 表2に示した量
上白糖(大日本明治製糖) 9.5部
食塩 1.8部
マーガリン(チェリカゴールド:花王(株)) 6.0部
水 25.0部
【0033】
〔製パン〕
[中種生地調製条件]
縦型ミキサー(関東ミキサー:10コート)、ドゥフックを用い、中種配合材料をミキサーにいれ、低速3分、中速3分で混捏(捏上温度25.0℃)し、中種生地とした。
次に、これを下記の条件で1次発酵(中種発酵)させた。
中種発酵温度 28.0℃
中種発酵相対湿度 80.0%
発酵時間 2時間30分
発酵終了時温度 29.0℃
[本捏生地調製条件]
縦型ミキサー(関東ミキサー:20コート)に、中種配合生地を入れ、本捏配合材料(マーガリン、油脂組成物を除く)を添加し、低速3分、中速3分で混捏後、残りの材料(マーガリン、油脂組成物)を加えて低速3分、中速3分、高速3分で混捏を行い、本捏生地とした。
本捏生地の捏上温度は29.0℃とした。
【0034】
次に、混捏でダメージを受けた生地を回復させるために、27.0℃にてフロアータイムを60分とり、この後70グラムに生地を分割した。
分割の生地ダメージを回復させるため、27.0℃にてベンチタイムを20分とり、モルダーで成型した。
天板に成型した生地をのせ、発酵(ホイロ)を行った。ホイロ条件は下記の通りである。
ホイロ温度 38.0℃
相対湿度 85.0%
ホイロ時間 60分
前記条件にて調製したパン生地を210℃のオーブンで、10分間焼成を行った。焼成後、室温で50分冷却後、ビニール袋に入れ密封し、20℃において3日間保存し、パンサンプルとした。
【0035】
[油脂組成物d2の調製]
各成分を表2に示した配合量に従い、次の手順に従い油脂組成物を製造した。
1)ステンレス製ビーカーに、MAG含有製剤、有機酸MAG含有製剤、食用油脂を表1に従って秤量した。
2)前記1)を85℃水浴中に浸し、各製剤を完全溶解した。この際、アンカーフック及びスリーワンモーターを用いて攪拌を行った。
3)前記2)をチラーで急冷・混錬しながら30℃以下まで冷却し、油脂組成物d2を得た。
【0036】
実施例15
〔製パン〕
実施例1〜14の本捏配合材料の油脂組成物に代えて、前記油脂組成物d2及びアルギン酸エステル製剤wを添加する以外は、実施例1〜14と同様の製パン作業を行い、コッペパンを製造した。
【0037】
比較例1
〔製パン〕
実施例1〜14の本捏配合材料の油脂組成物に代えて、アルギン酸エステル製剤wを添加する以外は同様の製パン作業を行い、コッペパンを製造した。
【0038】
比較例2〜9
〔製パン〕
実施例1〜14の本捏配合材料の油脂組成物に代えて、前記油脂組成物n〜uを添加する以外は、実施例1〜14と同様の製パン作業を行い、コッペパンを製造した。
【0039】
表3に各成分の小麦粉100部に対する含有量、及び下記の評価基準での評価結果を示す。
【0040】
[生地状態の評価]
製パン作業中の生地状態について、「伸展性」、「ベタつき」、「製パン作業性」の評価を、次の4段階の基準に従って行った。
【0041】
<生地の伸展性>
分割工程及び、成型工程中のベーカリー生地の伸展性について評価を実施した。
4…生地が切れにくく、良く伸びる
3…良く伸びる
2…やや伸びにくい
1…生地が切れやすく、伸びにくい
【0042】
<生地のベタつき>
本捏工程から焼成工程までの生地のベタつきについて評価を実施した。
4…ベタつきが無く非常に扱いやすい
3…わずかにベタつくが扱いやすい
2…ベタつきがあり扱いにくい
1…非常にベタつき扱いにくい
【0043】
<製パン作業性>
生地伸展性と生地のベタつきの評価点の合計により、製パン作業性を評価した。4…評価点の合計値 8
3…評価点の合計値 6〜7
2…評価点の合計値 4〜5
1…評価点の合計値 3以下
【0044】
[焼成後の評価]
焼成後のパンについて、「ボリューム」、「シワ・腰折れ」の評価を、次の4段階の基準に従って行った。
【0045】
<パンのボリューム>
3D Leaser Scanner『Win VM2000』(ASTEX(株))を使用し、パンの比容積(cm3/g)を測定し、8回の平均値によりパンのボリュームを評価した(N=8)。
4…比容積の平均値 7.2以上
3…比容積の平均値 7.0以上7.2未満
2…比容積の平均値 6.8以上7.0未満
1…比容積の平均値 6.8未満
【0046】
<シワ・腰折れ>
4…表面にハリがあり、腰高い
3…表面にハリがあり、やや腰高い
2…表面にややシワがあり、ややダレている
1…表面にシワが寄り、ダレている
【0047】
[パンの食感及び風味評価]
パンを喫食した際の「歯切れ感」、「柔らかさ」、「しっとり感」、「口溶け感」、「風味」について、10名の専門パネルによる4段階のモナディック評価を行った。
【0048】
<歯切れ感>
4…ヒキが無く、サクミ感が非常に良好
3…ヒキが無く、サクミ感が良好
2…ややヒキがある
1…ヒキがあり噛みきりにくい
【0049】
<柔らかさ>
4…ソフトで口当たりが良い
3…ややソフト
2…やや硬い
1…硬く口当たりが悪い
【0050】
<しっとり感>
4…とてもしっとりしている
3…しっとりしている
2…やや乾き感がある
1…乾き感があり、しっとりしていない
【0051】
<口溶け感>
4…口溶けが良好
3…やや口溶けが良い
2…やや口溶けが悪い
1…口溶けが悪い
【0052】
<風味>
4…異味・異臭を感じない
3…わずかに異味・異臭を感じる
2…やや異味・異臭を感じる
1…異味・異臭を感じる
【0053】
【表3】

【0054】
表3の結果から、本発明のベーカリー製品は、いずれも、生地伸展性、ベタつき抑制による製パン作業性、焼成後のボリューム、シワ・腰折れ、焼成後のベーカリー製品の歯切れ感、柔らかさ、しっとり感、口どけ等の食感及び風味において、全体として良好で優れていることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉100質量部に対し、次の成分(A)、成分(B)及び成分(C):
(A)アルギン酸プロピレングリコールエステル0.04〜0.8質量部
(B)有機酸モノアシルグリセロールを除くモノアシルグリセロール0.01〜2質量部
(C)有機酸モノアシルグリセロール0.01〜1質量部
を含有するベーカリー製品。
【請求項2】
成分(A)が、1質量%水溶液としたときの粘度が1〜500cpのものである請求項1記載のベーカリー製品。
【請求項3】
小麦粉100質量部に対して成分(A)、成分(B)及び成分(C)を合計で0.06〜3.8質量部含有する請求項1又は2に記載のベーカリー製品。
【請求項4】
成分(B)及び成分(C)の構成脂肪酸組成が実質的に同じである請求項1〜3のいずれか1項に記載のベーカリー製品。
【請求項5】
成分(B)/成分(C)の質量比が1〜5である請求項1〜4のいずれか1項に記載のベーカリー製品。
【請求項6】
成分(A)/{成分(B)+成分(C)}の質量比が0.1〜1である請求項1〜5のいずれか1項に記載のベーカリー製品。
【請求項7】
成分(C)における有機酸がコハク酸である請求項1〜6のいずれか1項に記載のベーカリー製品。
【請求項8】
小麦粉100質量部に対して成分(D)融点20℃以下の食用油脂を0.5〜14質量部含有する請求項1〜7のいずれか1項に記載のベーカリー製品。
【請求項9】
小麦粉100質量部に対して成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)を合計で1〜17質量部含有する請求項8記載のベーカリー製品。
【請求項10】
{成分(A)+成分(B)+成分(C)}/成分(D)の質量比が0.05〜0.5である請求項8又は9に記載のベーカリー製品。