説明

ベーンポンプ

【課題】ベーンの先端の潤滑剤を介したポンプ室の内周面への摺接の際に、作動流体に潤滑剤が混じることを防止できるベーンポンプを提供する。
【解決手段】ポンプ室2と、ポンプ室2に偏心させて収納したロータ3と、ロータ3に設けられて先端がポンプ室2の内周面2aに摺接される複数のベーン4と、ポンプ室2の内面とロータ3の外周面3aとベーン4とで囲まれてロータ3の回転駆動によりその容積を大小変化させる作動室5と、容積拡大過程の作動室5に作動流体を流入させる吸入口6と、容積縮小過程の作動室5から作動流体を排出させる吐出口7とを備える。ベーン4の少なくとも先端に自己潤滑性材料で構成した自己潤滑性材料構成部13を設ける。自己潤滑性材料構成部13から滲み出る潤滑剤を保持可能な多孔質材料で構成した多孔質部14をポンプ室2の内周面2aに設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーンポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来では図4のように、ポンプ室2にロータ3を偏心させて収納し、先端がポンプ室2の内周面2aに摺接される複数のベーン4をロータ3に設け、ロータ3を回転駆動させることでポンプ室2の内面とロータ3の外周面3aとベーン4とで囲まれた作動室5の容積を大小させて、作動室5を介して吸入口6からの作動流体を吐出口7から排出するベーンポンプ1が知られている。
【0003】
このような構造のベーンポンプ1にあっては、ベーン4の先端とポンプ室2の内周面2aとの間の摺接抵抗が大きいと、ロータ3の回転駆動に支障をきたしてポンプ効率を低下させるばかりか、ベーン4の先端とポンプ室2の内周面2aとが磨耗してベーンポンプ1の寿命が短くなるといった問題がある。
【0004】
これに対処する技術として、たとえば特許文献1,2が知られる。特許文献1ではベーン4を自己潤滑性材料にて形成しており、また特許文献2ではポンプ室2の内周面2aを自己潤滑性材料にて形成している。つまり、摺接の際に自己潤滑性材料から滲み出る潤滑剤をベーン4の先端とポンプ室2の内周面2aとの間に介在させることで、摺接抵抗の低減を図っている。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1,2のベーンポンプ1では、摺接する際に自己潤滑性材料から滲み出た潤滑剤は、ベーン4の先端とポンプ室2の内周面2aとの摺接抵抗を低減させた後には作動流体の中に混入してしまうのであり、作動流体が潤滑剤によって汚されるといった問題が発生してしまうのであった。
【特許文献1】特開平4−203285号公報
【特許文献2】特開平4−252888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ベーンの先端の潤滑剤を介したポンプ室の内周面への摺接の際に、作動流体に潤滑剤が混じることを防止できるベーンポンプを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために請求項1に係るベーンポンプ1にあっては、ポンプ室2と、ポンプ室2に偏心させて収納したロータ3と、ロータ3に設けられて先端がポンプ室2の内周面2aに摺接される複数のベーン4と、ポンプ室2の内面とロータ3の外周面3aとベーン4とで囲まれてロータ3の回転駆動によりその容積を大小変化させる作動室5と、容積拡大過程の作動室5に作動流体を流入させる吸入口6と、容積縮小過程の作動室5から作動流体を排出させる吐出口7とを備え、ベーン4の少なくとも先端に自己潤滑性材料で構成した自己潤滑性材料構成部13を設けると共に、上記自己潤滑性材料構成部13から滲み出る潤滑剤を保持可能な多孔質材料で構成した多孔質部14をポンプ室2の内周面2aに設けたことを特徴とする。これによると、摺接した際にベーン4の先端の自己潤滑性材料構成部13から滲み出る潤滑剤をベーン4の先端とポンプ室2の内周面2aとの間に介在させて摺接抵抗を低減させつつも、この滲み出る潤滑剤はポンプ室2の内周面2aの多孔質部14に保持させることができて作動流体に潤滑剤が混じることを防止できる。
【0008】
また、請求項2に係るベーンポンプ1にあっては、請求項1において、自己潤滑性材料に、樹脂材料、無機材料または二硫化モリブデンのうち、少なくとも1つを用いたことを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に係るベーンポンプ1にあっては、請求項1又は2において、多孔質材料に、高硬度材料を用いたことを特徴とする。これによると、ポンプ室2の内周面2aに対する耐磨耗性を向上でき、ベーンポンプ1を長寿命化できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明にあっては、摺接抵抗を減少させるべくベーンの先端とポンプ室の内周面との間に潤滑剤を介在させても作動流体に潤滑剤が混じることを防止できる、という利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基いて説明する。
【0012】
本例のベーンポンプ1は、図1及び図2に示すように、ケーシング10内に設けたポンプ室2にロータ3を偏心させて収納し、先端がポンプ室2の内周面2aに摺接される複数のベーン4をロータ3に設け、ケーシング10に吸入口6及び吐出口7をポンプ室2に至るように設け、ロータ3を回転駆動させることでポンプ室2の内面とロータ3の外周面3aとベーン4とで囲まれた空間である作動室5の容積を大小させて、作動室5を介して吸入口6からの作動流体を吐出口7から排出する構成を有する。以下詳述する。
【0013】
ケーシング10は上ケース11と下ケース12とを合わせることで形成されている。下ケース12には上ケース11の合わせ面から下方に凹没した下凹所16が形成され、この下凹所16の上方開口を上ケース11の合わせ面で閉塞することでポンプ室2が形成される。このポンプ室2は平面視円形に形成されている。また、図示はしないが、下ケース12の下方には下凹所16の底面に隣接するようにステータが配置されている。
【0014】
ロータ3は中央に軸受部18を備えて平面視円形に形成されており、ロータ3の上部には複数条(本例では4つ)のベーン溝19が放射状に形成されている。また、図示はしないが、ロータ3の下部には磁石または磁性体が一体に装着されている。このロータ3は、軸受部18がポンプ室2を上下に貫いた固定軸20に回転自在に挿通されることで、外周面3aがポンプ室2の内周面2aに対向すると共にスラスト面(上面3b)が上ケース11のポンプ室2の上面構成部に対向するようにしてポンプ室2に回転自在に配置されている。また、各ベーン溝19にはベーン4がスライド自在に収納されてロータ3の外周面3aから突没自在にされている。ロータ3をポンプ室2に配置した際には磁性体とステータとが隣接して配置されるのであるが、この隣接する磁性体とステータとはロータ3を回転駆動させる駆動部を構成する。つまり、この駆動部は、図示しない電源部からステータに電流を入力することで、ステータと磁性体との間の磁気作用によって磁性体に回転トルクを発生させるものであり、この回転トルクにより磁性体、ひいてはロータ3が回転駆動されるようになっている。
【0015】
ポンプ室2に収納したロータ3を駆動部にて回転駆動させた際には(矢印a)、各ベーン4はロータ3が回転することによる遠心力を受けてロータ3の外周面3aから外方へ突出させてその先端をポンプ室2の内周面2aに摺接させるのであり、ポンプ室2の内面(内周面2aや上面等)とロータ3の外周面3aとベーン4とで囲まれた複数の作動室5をポンプ室2に形成させる。ロータ3はポンプ室2の偏心位置にあるから、ポンプ室2の内周面2aとロータ3の外周面3aとの距離はロータ3の回転位置に応じて異なると共にベーン4のロータ3からの突出量もロータ3の回転位置に応じて異なるのであり、つまりロータ3を回転駆動させることで各作動室5はロータ3の回転方向に移動しながらその容積を大小に変化させる。ここで、上ケース11には作動流体を作動室5に引き込む吸入口6と作動流体を作動室5から排出する吐出口7とが形成されている。吸入口6や吐出口7はポンプ室2の上面に作動室5に連通可能にするように開口されている。なお図中9は吸入口6に至る吸入経路であり、8は吐出口7から至る吐出経路である。
【0016】
すなわち、各作動室5は吸入口6に連通する位置にある時にはロータ3の回転に伴い容積が増大し、吐出口7に連通する位置にある時にはロータ3の回転に伴い容積が減少するようにされ、従ってロータ3を回転駆動すれば、作動流体が吸入口6からこれに連通する作動室5内に流入し(矢印b)、この作動室5内で圧縮された後に吐出口7から吐出されるのであり(矢印c)、これによりポンプとして機能する。
【0017】
ところで、本例のベーンポンプ1では、摺接抵抗を減少させるべくベーン4の先端とポンプ室2の内周面2aとの間に潤滑剤を介在させても作動流体に潤滑剤が混じることを防止できる工夫が施されている。
【0018】
すなわち、本例のベーンポンプ1におけるベーン4にはその先端に自己潤滑性材料で構成した自己潤滑性材料構成部13が設けられている。ここで、自己潤滑性材料には、PTFE(四フッ化エチレン樹脂)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、POM(ポリアセタ−ル)、PE(ポリエチレン)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)などの樹脂材料、セラミック、カーボン、グラファイトなどの無機材料または二硫化モリブデンのうち、少なくとも1つを用いて形成されたものが、使用される。
【0019】
このようにロータ3を回転させた際にポンプ室2の内周面2aに摺接するベーン4の先端が自己潤滑性材料構成部13で構成されたので、ポンプ室2の内周面2aに摺接した際にベーン4の先端の自己潤滑性材料構成部13から滲み出る潤滑剤をベーン4の先端とポンプ室2の内周面2aとの間に介在させることができ、ベーン4の先端とポンプ室2の内周面2aとの摺接抵抗が低減されている。
【0020】
ここで、本例のポンプ室2の内周面2aの全面は、摺接した際に自己潤滑性材料構成部13から滲み出る潤滑剤を保持可能な多孔質材料で成る多孔質部14で構成されている。つまり、自己潤滑性材料構成部13から滲み出てベーン4の先端とポンプ室2の内周面2aとの摺接抵抗を低減させることに使用された後の潤滑剤は、図1(b)のように、ポンプ室2の内周面2aを構成する多孔質部14の微小孔部14aに保持させることができるようにされている(微小孔部14aの塗り潰した部分が保持された潤滑剤である)。したがって、従来例で問題となっていた作動流体に潤滑剤が混じることが防止されているのである。しかも、ロータ3の回転と共にベーン4の先端はポンプ室2の内周面2aに亙って摺接するので、摺接した際に自己潤滑性材料構成部13から滲み出る潤滑剤はポンプ室2の内周面2a全周で多孔質部14にて保持されることとなり、ベーン4の先端とポンプ室2の内周面2aとの摺接抵抗が場所によらず低減されることとなる。このように、ベーン4の先端とポンプ室2の内周面2aとの摺接抵抗を潤滑剤にて効果的に低減させつつも、潤滑剤が作動流体に混じることが防止できたのである。
【0021】
また、本例の多孔質部14を構成する多孔質材料には、無機材料やDLC膜などの高硬度材料が用いられている。これにより、ポンプ室2の内周面2aに対する耐磨耗性を向上でき、ベーンポンプ1を長寿命化できる。なお、ポンプ室2における内周面2aは上記高硬度材料によって摺接するベーン4よりも高い耐磨耗性が備えられているので、ポンプ室2の内周面2aよりもベーン4を磨耗させ易くできるのであり、ベーンポンプ1の構造がベーン4を交換可能にするものであれば、小部品であるベーン4を交換すればよく、ベーン4に比べて比較的交換の行いにくいポンプ室2、すなわちケーシング10を取り替える必要を無くすることができるから、ベーンポンプ1の部品の交換容易性の向上も図ることができる。
【0022】
なお、図3のようにベーン4を自己潤滑性材料構成部13のみで形成してもよい。この場合、ベーン4から潤滑剤を長期に亙って滲み出させることができて、ベーンポンプ1の良好なポンプ効率の確保やベーンポンプ1の長寿命化の利点を長期に亙って得ることができ、更にベーン4の構成を簡略化できてベーン4に良好な製造性を備えるようにもできる。なお、先例(図2)の先端部のみを自己潤滑性材料構成部13で構成したベーン4にあっては、ベーン4の母材15は任意材料で構成できるからベーン4の材料コストを低減できる利点がある。
【0023】
なお、上記実施形態では、ベーン4はロータ3の回転駆動時の遠心力で外方へ突出するようにされているが、ベーン溝19にベーン4を外方へ付勢するような押圧バネ21(図4参照)を介装してロータ3の回転スピードによらずにベーン4の先端をポンプ室2の内周面2aに確実に摺接させるようにしてもよい。また、上記実施形態では、ポンプ室2は平面視円形に形成されているが、平面視楕円形状などの任意の形状にも形成できる。また、上記実施形態では、ロータ3が固定軸20に対して回転自在に軸支されているが、上記固定軸20の代わりにロータ3に固定させた回転軸をポンプ室2に対して回転自在に軸支される構造を採用してもよい。また、上記実施形態ではロータ3を回転駆動させる駆動部は磁気作用を発生させるステータと磁性体とで構成しているが、駆動部としてはロータ3に固定した回転軸をモータにて回動駆動させる構造を採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態の例のベーンポンプであり、(a)はベーンポンプの分解斜視図であり、(b)は潤滑剤の挙動を説明する要部の水平断面図である。
【図2】同上のベーンの斜視図である。
【図3】実施の形態の他例のベーンポンプにおけるベーンの斜視図である。
【図4】従来技術の例のベーンポンプの水平断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 ベーンポンプ
2 ポンプ室
2a 内周面
3 ロータ
3a 外周面
4 ベーン
5 作動室
6 吸入口
7 吐出口
13 自己潤滑性材料構成部
14 多孔質部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ室と、ポンプ室に偏心させて収納したロータと、ロータに設けられて先端がポンプ室の内周面に摺接される複数のベーンと、ポンプ室の内面とロータの外周面とベーンとで囲まれてロータの回転駆動によりその容積を大小変化させる作動室と、容積拡大過程の作動室に作動流体を流入させる吸入口と、容積縮小過程の作動室から作動流体を排出させる吐出口とを備え、ベーンの少なくとも先端に自己潤滑性材料で構成した自己潤滑性材料構成部を設けると共に、上記自己潤滑性材料構成部から滲み出る潤滑剤を保持可能な多孔質材料で構成した多孔質部をポンプ室の内周面に設けたことを特徴とするベーンポンプ。
【請求項2】
自己潤滑性材料に、樹脂材料、無機材料または二硫化モリブデンのうち、少なくとも1つを用いたことを特徴とする請求項1記載のベーンポンプ。
【請求項3】
多孔質材料に、高硬度材料を用いたことを特徴とする請求項1または2記載のベーンポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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