説明

ベーンポンプ

【課題】コスト高を招くことなく共振の発生を防止することができるベーンポンプを提供すること。
【解決手段】駆動軸1に連結されたロータ2と、ロータ2に対して径方向に往復動可能に設けられる複数のベーン3と、ロータ2を収容すると共にロータ2の回転に伴って内周のカム面4aにベーン3の先端部が摺動するカムリング4と、ロータ2、カムリング4、及び隣り合うベーン3によって画成されたポンプ室7とを備え、ロータ2の回転に伴うポンプ室7の拡縮によって作動流体を給排するベーンポンプ100において、ロータ2の外形は、中心の異なる複数の円弧2a,2b,2cを結んだ形状に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧機器の油圧供給源として用いられるベーンポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のベーンポンプとして、駆動軸に連結されたロータと、ロータを収容するカムリングと、ロータの外周面に所定の間隔をおいて放射状に形成された複数のスリットに摺動自在に挿入されたベーンとを備えるものが知られている。
【0003】
ベーンの先端はカムリングの内周面に摺接し、カムリング、ロータ、及び互いに隣接するベーンによってポンプ室が形成され、ロータの回転に伴うポンプ室の拡縮によって、作動油を給排する。
【0004】
特許文献1には、各ベーンを不等ピッチに配列することによって、脈動を不規則に発生させ、ベーンポンプに接続された管路系の固有振動数との共振の発生を防止するベーンポンプが開示されている。
【特許文献1】特開平10−274172号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ロータに対してスリットを不等ピッチで形成するのは、加工の手間がかかるため、加工コストが高くなり、ベーンポンプの製造コスト高を招くという問題がある。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、コスト高を招くことなく共振の発生を防止することができるベーンポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、駆動軸に連結されたロータと、前記ロータに対して径方向に往復動可能に設けられる複数のベーンと、前記ロータを収容すると共に、前記ロータの回転に伴って内周のカム面に前記ベーンの先端部が摺動するカムリングと、前記ロータ、前記カムリング、及び隣り合う前記ベーンによって画成されたポンプ室と、を備え、前記ロータの回転に伴う前記ポンプ室の拡縮によって作動流体を給排するベーンポンプにおいて、前記ロータの外形は、中心の異なる複数の円弧を結んだ形状に形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ロータの外形は、円形ではなく、中心の異なる複数の円弧を結んだ形状に形成されるため、ロータのスリットを不等ピッチに形成しなくても、吐出圧の脈動が不規則となり、共振の発生が防止される。また、スリットを不等ピッチに形成する必要がないため、加工の手間がかからず、コスト高を招くこともない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0010】
図1及び図2を参照して、本発明の実施の形態に係るベーンポンプ100について説明する。図1はベーンポンプ100における駆動軸に平行な断面を示す断面図であり、図2は、ベーンポンプ100におけるカムリングとロータの平面図である。
【0011】
ベーンポンプ100は、車両に搭載される油圧機器、例えば、パワーステアリング装置や無段変速機の油圧供給源として用いられるものである。
【0012】
ベーンポンプ100は、駆動軸1の端部にエンジン(図示せず)の動力が伝達され、駆動軸1に連結されたロータ2が回転するものである。
【0013】
ベーンポンプ100は、ロータ2に対して径方向に往復動可能に設けられる複数のベーン3と、ロータ2を収容すると共にロータ2の回転に伴って内周のカム面4aにベーン3の先端部が摺動するカムリング4とを備える。
【0014】
ロータ2には、外周面に開口部を有するスリット16が所定間隔をおいて放射状に形成され、ベーン3は、スリット16に摺動自在に挿入される。
【0015】
スリット16の基端側には、ポンプの吐出圧が導かれる背圧室17が画成され、ベーン3は、背圧室17の圧力によってスリット16から抜け出る方向に押圧される。ベーン3は、背圧室17の圧力によって、先端部がカムリング4の内周のカム面4aに当接する。これにより、カムリング4の内部には、ロータ2の外面、カムリングのカム面4a、及び隣り合うベーン3によって複数のポンプ室7が画成される。
【0016】
カムリング4は、内周のカム面4aが楕円形状をした環状の部材であり、ロータ2の回転に伴ってカム面4aを摺動する各ベーン3間によって仕切られるポンプ室7の容積を拡張する吸込領域と、ポンプ室7の容積を収縮する吐出領域とを有する。このように、各ポンプ室7は、ロータ2の回転に伴って拡縮する。本実施の形態では、カムリング4は、2つの吸込領域と2つの吐出領域とを有する。
【0017】
ロータ2及びカムリング4の一側面(図1では上側)にはポンプカバー5が当接して配置され、他側面(図1では下側)には環状のサイドプレート6が当接して配置される。このように、ポンプカバー5とサイドプレート6は、ロータ2及びカムリング4の両側面を挟んだ状態で配置され、ポンプ室7を密閉する。
【0018】
ポンプカバー5におけるロータ2が摺動する面には、カムリング4の吸込領域に向けて開口し、ポンプ室7に作動油(作動流体)を導く円弧状の2つの吸込ポート8aが形成される。
【0019】
サイドプレート6におけるロータ2が摺動する面には、カムリング4の吐出領域に向けて開口し、ポンプ室7が吐出する作動油が導かれる円弧状の2つの吐出ポート9が形成される。また、サイドプレート6には、カムリング4の外周面に設けられた溝(図示せず)を介してポンプカバー5の吸込ポート8aに連通する円弧状の2つの吸込ポート8b(図2参照)も形成される。このように、サイドプレート6には、2つの吐出ポート9及び2つの吸込ポート8bが形成される。
【0020】
各ポンプ室7は、ロータ2の回転に伴って、カムリング4の吸込領域にて吸込ポート8a,8bを通じて作動油を吸込み、カムリング4の吐出領域にて吐出ポート9を通じて作動油を吐出する。このように、各ポンプ室7は、ロータ2の回転に伴う拡縮によって作動油を給排する。
【0021】
駆動軸1は、ブッシュ26を介してポンプボディ10に回転自在に支持される。ポンプボディ10に形成されたポンプ収容凹部10a内にはサイドプレート6とカムリング4とが積層して収容され、駆動軸1はサイドプレート6を挿通している。なお、ポンプボディ10の端部には、駆動軸1外周とブッシュ26内周との間の潤滑油の漏れ防止するためのシール20が設けられる。
【0022】
ポンプボディ10のフランジ部10bにはポンプカバー5が締結され、ポンプボディ10のポンプ収容凹部10aはポンプカバー5によって封止される。
【0023】
サイドプレート6には、カムリング4の外周面に形成された凹部4aを挿通すると共に、ポンプカバー5のピン穴5aに挿入される2本の位置決めピン14が設けられる。位置決めピン14によって、カムリング4に対するポンプカバー5とサイドプレート6の相対回転が規制され、カムリング4の吸込領域と吸込ポート8a,8bとの位置決め、及びカムリング4の吐出領域と吐出ポート9との位置決めが行われる。
【0024】
また、ポンプボディ10には、吸込ポート8aに連通し吸込ポート8aに作動油を導く吸込通路11と、吐出ポート9に連通し吐出ポート9から吐出された作動油が流入する高圧室12と、高圧室12に連通し高圧室12の作動油を外部の油圧機器へと供給する吐出通路13とが形成される。
【0025】
次に、図2を参照して、ロータ2の形状について説明する。
【0026】
ロータ2の外形は、円形ではなく、中心の異なる3つの円弧2a,2b,2cを結んで形成された三角のおむすび形状に形成される。
【0027】
3つの円弧2a,2b,2cは、互いに曲率半径が略同一でかつ長さが略等しい。また、それぞれの中心はロータ2の回転中心である駆動軸1の中心と一致しない。
【0028】
仮に、ロータ2の外形が円形で、かつベーン3が10枚で等ピッチ(36度ピッチ)に配列されている場合には、ロータ2が36度回転する毎に、カムリング4の同一位置におけるポンプ室7の容積は同一となる。したがって、ロータ2が1回転する間に、ベーン3の数に応じた規則的な脈動が生じる。
【0029】
これに対して、本実施の形態のように、ロータ2の外形が中心の異なる3つの円弧2a,2b,2cからなり、かつベーン3が10枚で等ピッチ(36度ピッチ)に配列されている場合には、ロータ2が36度回転しても、カムリング4の同一位置におけるポンプ室7の容積は同一とはならず異なった容積となる。ロータ2の外形は曲率半径が同一の3つの円弧2a,2b,2cからなるため、ロータ2が120度回転すれば、カムリング4の同一位置におけるポンプ室7の容積は同一となる。このように、ベーンポンプ100の場合、ロータ2が1回転する間に、ベーン3の数に応じた規則的な脈動は生じない。
【0030】
なお、3つの円弧2a,2b,2cの曲率半径を、互いに異なるように形成してもよい。このように形成すれば、ロータ2が120度回転しても、カムリング4の同一位置におけるポンプ室7の容積は同一とはならないため、ロータ2が1回転する間の脈動を完全に不規則にすることができる。この場合、ロータ2の回転に伴う各円弧2a,2b,2c当たりの吐出量に差が生じるため、ロータ2が1回転する間の吐出バランスがアンバランスとなるおそれがある。そこで、3つの円弧2a,2b,2cの曲率半径は、ロータ2が1回転する間の吐出バランスが維持できる程度に、互いに異なるように形成される。
【0031】
また、3つの円弧2a,2b,2cの長さを、互いに異なるように形成してもよい。このように形成しても、ロータ2が120度回転しても、カムリング4の同一位置におけるポンプ室7の容積は同一とはならないため、ロータ2が1回転する間の脈動を完全に不規則にすることができる。この場合も同様に、ロータ2の回転に伴う各円弧2a,2b,2c当たりの吐出量に差が生じるため、ロータ2が1回転する間の吐出バランスがアンバランスとなるおそれがある。そこで、3つの円弧2a,2b,2cの長さは、ロータ2が1回転する間の吐出バランスが維持できる程度に、互いに異なるように形成される。
【0032】
また、以上では、ロータ2の外形を中心の異なる3つの円弧2a,2b,2cにて形成すると説明したが、円弧の数は3つに限られるものではなく、2つ又は4つ以上としてもよい。つまり、ロータ2の外形は、中心の異なる複数の円弧を結んだ形状に形成される。しかし、ロータ2の外形を3つの円弧2a,2b,2cで形成する場合には、4つ以上の円弧にて形成する場合と比較して、ロータ2の製造が容易であり、また、2つの円弧で形成する場合と比較して、ロータ2を作動油の給排が安定する円形により近い形状に形成することができる。したがって、ロータ2の外形は、3つの円弧で形成するのが望ましい。
【0033】
以上に示す本実施の形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0034】
ロータ2の外形は、中心の異なる複数の円弧2a,2b,2cを結んだ形状に形成されるため、ロータ2のスリット16を不等ピッチに形成しなくても、吐出圧の脈動が不規則となり、ベーンポンプ100に接続された管路系の固有振動数との共振の発生を防止することができる。また、スリット16を不等ピッチに形成する必要がないため、加工の手間がかからず、コスト高を招くこともない。
【0035】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係るベーンポンプは、車両用のパワーステアリング装置や変速機等の油圧供給源に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の形態に係るベーンポンプにおける駆動軸に平行な断面を示す断面図である。
【図2】カムリングとロータの平面図である。
【符号の説明】
【0038】
100 ベーンポンプ
1 駆動軸
2 ロータ
2a,2b,2c 円弧
3 ベーン
4 カムリング
5 ポンプカバー
6 サイドプレート
7 ポンプ室
8a,8b 吸込ポート
9 吐出ポート
10 ポンプボディ
14 位置決めピン
16 スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸に連結されたロータと、
前記ロータに対して径方向に往復動可能に設けられる複数のベーンと、
前記ロータを収容すると共に、前記ロータの回転に伴って内周のカム面に前記ベーンの先端部が摺動するカムリングと、
前記ロータ、前記カムリング、及び隣り合う前記ベーンによって画成されたポンプ室と、を備え、
前記ロータの回転に伴う前記ポンプ室の拡縮によって作動流体を給排するベーンポンプにおいて、
前記ロータの外形は、中心の異なる複数の円弧を結んだ形状に形成されることを特徴とするベーンポンプ。
【請求項2】
前記複数の円弧の中心は、前記駆動軸の中心と一致しないことを特徴とする請求項1に記載のベーンポンプ。
【請求項3】
前記複数の円弧の曲率半径は、互いに異なることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のベーンポンプ。
【請求項4】
前記複数の円弧の長さは、互いに異なることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一つに記載のベーンポンプ。
【請求項5】
前記ロータの外形は、中心の異なる3つの円弧を結んだ形状に形成されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一つに記載のベーンポンプ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate