説明

ペディオコッカス・ダムノサスの検出用プライマーおよびプローブ

【課題】ペディオコッカス・ダムノサスを正確に検出できるプライマーを提供する。
【解決手段】特定の塩基配列で表されるポリヌクレオチドまたはその塩基配列の相補配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズする少なくとも10塩基のポリヌクレオチドからなる、ペディオコッカス・ダムノサス検出用プローブまたはプライマー。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、ペディオコッカス・ダムノサスの検出用プライマーおよびプローブに関し、より詳細には、ペディオコッカス・ダムノサスの検出用のLAMP法プライマーセットおよびPCR法プライマーセットに関する。
【背景技術】
【0002】
ビール業界においては、微生物によるビールの汚染は深刻な問題をもたらす。ホップ由来の苦味物質は、ビールに苦味とともに微生物安定性も付与する。しかし、いくつかの種類の乳酸菌は、このような抗菌活性に対抗してビールで増殖することが出来る。
【0003】
製品となったビール中で増殖する乳酸菌種としてはラクトバチラス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ペディオコッカス・ダムノサス(Pediococcus damnosus)等の報告例が多い。特にペディオコッカス・ダムノサスはワイン中でも増殖し、中には粘性のある多糖を生産して品質を著しく低下させる菌株もあると報告されており、製造業者に与える経済的な打撃が大きい。
【0004】
これまでにペディオコッカス属やラクトバチラス属のような乳酸菌を検出するためのプローブやプライマーが開発されている。
【0005】
例えば、特許第3749540号(特許文献1)、特開2001−231564号公報(特許文献2)、特開2002−34578号公報(特許文献3)、特表2003−510091号公報(特許文献4)、およびWO2005/080599号公報(特許文献5)に開示されているように、ペディオコッカス・ダムノサス等の5S rRNA遺伝子、16S rRNA遺伝子、および23S rRNA遺伝子やそれらのスペーサー領域の塩基配列に基づいてペディオコッカス属やラクトバチラス属のような乳酸菌を検出するためのプローブやプライマーが開発されてきた。
【0006】
また、Renoufら(Journal of Microbiological Methods, 2006, vol.67, 162-170)(非特許文献1)は、ペディオコッカス・ダムノサス等の乳酸球菌6菌種のrpoB遺伝子の塩基配列を決定し、共通配列からプライマーを設計して、PCR−DGGE法、およびリアルタイムPCR法におけるメルティングカーブにより、各菌種を識別する方法を開発した。また、Suzukiら(Letters in Applied Microbiology, 2006, vol.42, 392-399)(非特許文献2)は、ペディオコッカス・ダムノサスのプラスミド上にコードされたhorA遺伝子の塩基配列をラクトバチラス・ブレビスのhorA遺伝子の塩基配列と比較し、以前に開発したhorA遺伝子検出用プライマーよりも特異性と検出感度が高いPCR用プライマーを開発した。
【0007】
しかし、16S rRNA遺伝子配列や23S rRNA遺伝子配列は乳酸菌の間では相同性が高く、菌種に特異的な配列を特定することが困難なこともあると考えられる。また、開発された一部のプライマーは検出精度の点で更に改善の余地を残すものであった。
【0008】
また、PCR法は高度な温度制御や蛍光観察が必要なため、高価な機器を必要とする。
またPCRは反応後に電気泳動、染色、写真撮影等が必要であり、遺伝子増幅工程後の結果判定までに時間がかかる。
【0009】
土屋ら(WO2005/093059号公報(特許文献6))は、ペディオコッカス・ダムノサスの16S rRNA遺伝子を増幅するLAMPプライマーを開発した。
【0010】
しかし、前述の通り16S rRNA遺伝子配列は乳酸菌の間では相同性が高く、菌種に特異的な配列を特定することが困難なこともあると考えられる。また、開発された一部のプライマーは検出精度の点で更に改善の余地を残すものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3749540号
【特許文献2】特開2001−231564号公報
【特許文献3】特開2002−34578号公報
【特許文献4】特表2003−510091号公報
【特許文献5】WO2005/080599号公報
【特許文献6】WO2005/093059号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Journal of Microbiological Methods, 2006, vol.67, 162-170
【非特許文献2】Letters in Applied Microbiology, 2006, vol.42, 392-399
【発明の概要】
【0013】
本発明者は、ペディオコッカス・ダムノサスJCM5886株のL−LDH遺伝子全体とその周辺領域の塩基配列(配列番号6)を明らかにするとともに、この塩基配列に基づいて、ペディオコッカス・ダムノサス検出用LAMP法プライマーセットを設計し、そのプライマーセットによってペディオコッカス・ダムノサスを正確に検出できることを見いだした。ペディオコッカス・ダムノサスのL−LDH遺伝子全体とその周辺領域の塩基配列は、これまでに公のデータベースにおいて開示されていない新規な配列である。また、L−LDH遺伝子とその周辺領域の塩基配列に基づいて、ペディオコッカス・ダムノサスなど乳酸菌の菌種判定を行うことはこれまでに報告されていない。
【0014】
本発明は、ペディオコッカス・ダムノサスを正確に検出できるプライマーおよびプローブ並びにプライマーセットを提供することを目的とする。本発明は、また、ペディオコッカス・ダムノサスを正確に同定できる検出方法を提供することを目的とする。
【0015】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)配列番号6の塩基配列で表されるポリヌクレオチドまたはその塩基配列の相補配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズする少なくとも10塩基のポリヌクレオチドからなる、ペディオコッカス・ダムノサス(Pediococcus damnosus)検出用プローブまたはプライマー。
(1’) 配列番号6の塩基配列のうちより識別性の高い部分、すなわち、配列番号6の340−476番目の塩基配列を少なくとも有する部分配列またはその部分配列の相補配列で表されるポリヌクレオチド、にハイブリダイズする少なくとも10塩基のポリヌクレオチドからなる、前記(1)に記載のプローブまたはプライマー。
(2)前記(1)に記載の二種以上のプライマーからなる、ペディオコッカス・ダムノサス検出用LAMP法プライマーセット。
(3)下記ポリヌクレオチドを含んでなる、前記(2)に記載のLAMP法プライマーセット:配列番号1の塩基配列で表されるポリヌクレオチド(FIP)またはその塩基配列の相補配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズする少なくとも10塩基のポリヌクレオチド;
配列番号2の塩基配列で表されるポリヌクレオチド(F3)またはその塩基配列の相補配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズする少なくとも10塩基のポリヌクレオチド;
配列番号3の塩基配列で表されるポリヌクレオチド(BIP)またはその塩基配列の相補配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズする少なくとも10塩基のポリヌクレオチド;および
配列番号4の塩基配列で表されるポリヌクレオチド(B3)またはその塩基配列の相補配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズする少なくとも10塩基のポリヌクレオチド。
(4)配列番号5の塩基配列で表されるポリヌクレオチド(LB)またはその塩基配列の相補配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズする少なくとも10塩基のポリヌクレオチドを更に含んでなる、前記(3)に記載のLAMP法プライマーセット。
(5)前記(1)に記載の二種以上のプライマーからなる、ペディオコッカス・ダムノサス検出用PCR法プライマーセット。
(6)配列番号1〜6の塩基配列の相補配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズする少なくとも10塩基のポリヌクレオチドが、それぞれ、対応する塩基配列の連続する少なくとも10個のヌクレオチドを含んでなるポリヌクレオチドである、前記(1)に記載のプローブまたはプライマーまたは前記(3)または(4)に記載のプライマーセット。
(7)配列番号1〜6の塩基配列の相補配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズする少なくとも10塩基のポリヌクレオチドが、それぞれ、対応する塩基配列と少なくとも90%の同一性を有するポリヌクレオチドである、前記(1)に記載のプローブまたはプライマーまたは前記(3)または(4)に記載のプライマーセット。
(8)配列番号1〜6の塩基配列の相補配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズする少なくとも10塩基のポリヌクレオチドが、それぞれ、対応する塩基配列において、1または数個のヌクレオチドが改変された改変塩基配列からなり、かつ対応する塩基配列の相補配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチドである、前記(1)に記載のプローブまたはプライマーまたは前記(3)または(4)に記載のプライマーセット。
(9)前記(1)に記載のプローブまたはプライマー、前記(2)〜(4)のいずれか一項に記載のプライマーセット、または前記(5)に記載のプライマーセットを用いて試料中の標的核酸を検出する工程を含んでなる、ペディオコッカス・ダムノサスの検出方法および飲料の混濁可能性の判定方法。
【0016】
本発明によるプライマーおよびプローブ並びにプライマーセットによれば、ペディオコッカス・ダムノサスを正確に検出することができる。特に、本発明によるLAMP法プライマーセットは、LAMP法による核酸増幅反応に使用することができ、増幅産物の有無により対象菌種を検出することができる。従って、本発明によるプライマーおよびプローブ並びにプライマーセット(特に、LAMP法プライマーセット)によれば、ペディオコッカス・ダムノサスを、正確、迅速、かつ簡便に識別することができる。
【0017】
ペディオコッカス・ダムノサスは、ビール、発泡酒、ワインなどの各種飲料を混濁させる原因菌であり、これらの菌の存在・不存在は各種飲料の品質管理の指標となりうる。従って、本発明によるプライマーおよびプローブ並びにプライマーセットは、各種飲料(例えば、酒類、特に、ビール、発泡酒およびワイン)の品質管理や環境試料(例えば、原料用水)の検査に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ペディオコッカス・ダムノサス検出用プライマーセット(SPD1)の検出対象菌種への反応特異性を示した図である。使用菌株は次の通りである。ペディオコッカス・クラウセニDSM14800、ペディオコッカス・セリコラDSM17757、ペディオコッカス・ペントサセウスDSM20280、ペディオコッカス・デキストリニカスDSM20293、ペディオコッカス・パルブルスDSM20332、ラクトコッカス・ラクチスDSM20481、ラクトバチラス・パラカゼイJCM1163、ラクトバチラス・ラムノサスNBRC3425、ラクトバチラス・カゼイJCM1134、NEGA:ゲノムDNA無添加、ペディオコッカス・ダムノサスDSM20289、JCM5886。
【図2】ペディオコッカス・ダムノサスDSM20289株のコロニー形成数とPDL4LB4によるLAMP法検出時間の近似曲線を示した図である。時間(Threshold time:分)は、濁度が0.1を超えたときの反応時間である。
【図3】各種乳酸菌のL-LDH遺伝子部分配列の系統樹解析の結果を示した図である。
【図4】L−LDH遺伝子のORFと、系統樹解析を行った領域(Phylogenetic tree)およびLAMPプライマーの設計領域(LAMP primer)との位置関係を示した制限酵素地図である。LAMPプライマーの設計領域は配列番号6に対応する。
【発明の具体的説明】
【0019】
プライマーおよびプローブ並びにプライマーセット
本発明によるLAMP法プライマーセットは、FIP、F3、BIP、およびB3の4種類のプライマーからなり、これらのプライマーは標的ヌクレオチド配列の6つの領域に対応している。具体的には、標的塩基配列について、3’末端側から5’末端側に向かって順番にF3c、F2c、F1c、B1、B2、B3という領域をそれぞれ規定し、この6領域に対し、4種類のプライマー、すなわちFIP、F3、BIPおよびB3を作製する。ここで、F3c、F2c、F1cの各領域に相補的な領域はそれぞれF3、F2、F1であり、またB1、B2、B3の各領域に相補的な領域はそれぞれB1c、B2c、B3cである。
【0020】
FIPは、標的配列のF2c領域と相補的なF2領域を3’末端側にもち、5’末端側に標的遺伝子のF1c領域と同じ配列を持つように作製されたプライマーである。必要ならば、FIPプライマーのF1cとF2の間に制限酵素部位を導入することもできる。
【0021】
F3は、標的遺伝子のF3c領域と相補的なF3領域をもつように作製されたプライマーである。
【0022】
BIPは、標的配列のB2c領域と相補的なB2領域を3’末端側にもち、5’末端側に標的遺伝子のB1c領域と同じ配列を持つように作製されたプライマーである。必要ならば、BIPプライマーのB1cとB2の間に制限酵素部位を導入することもできる。
【0023】
B3は、標的遺伝子のB3c領域と相補的なB3領域をもつように作製されたプライマーである。
【0024】
FIPおよびBIPプライマーに制限酵素部位が含まれる場合、LAMP法による核酸増幅反応後に増幅産物を制限酵素で処理することによって、電気泳動後に1つのバンドとして観察することができる。この場合、もし標的配列に制限酵素部位があれば、プライマーに人為的に制限酵素部位を導入しなくてもよい。
【0025】
本発明によるLAMP法プライマーセットの実施に当たっては、核酸の増幅反応を加速するためにループプライマー(LFプライマーまたはLBプライマー)を1種類あるいは2種類追加してもよい。ループプライマーをF1−F2間の領域、あるいはB1−B2間の領域にアニールするように設計し、LAMP法反応系に追加して使用すると、これらのプライマーが核酸増幅工程で利用されていないループ部分に結合することにより、全てのループ部分を起点として核酸反応が進み、核酸増幅反応が加速される(例えば、特開2002−345499号公報参照)。
【0026】
具体的には、本発明のLAMP法プライマーセットは、配列番号5の塩基配列で表されるポリヌクレオチド(LB)またはその塩基配列の相補配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズする少なくとも10塩基のポリヌクレオチドを、ループプライマーとして、更に含んでいてもよい。
【0027】
本発明では、配列番号1〜5の塩基配列で表されるポリヌクレオチドのみならず、配列番号1〜5の塩基配列の相補配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチド(以下、「相同ポリヌクレオチド」と言うことがある)も、プライマーやプローブとして用いることができる。なお、これらのポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドもプライマーやプローブとして用いることができることはいうまでもない。
【0028】
本発明では、配列番号6の塩基配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズする少なくとも10塩基(好ましくは、少なくとも15塩基、より好ましくは少なくとも18塩基、特に好ましくは少なくとも20塩基)のポリヌクレオチド、および配列番号6の塩基配列の相補配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズする少なくとも10塩基(好ましくは、少なくとも15塩基、より好ましくは少なくとも18塩基、特に好ましくは少なくとも20塩基)のポリヌクレオチドを、プライマーやプローブとして用いることができる。
【0029】
本明細書において「ハイブリダイズする」とは、標的ポリヌクレオチドにハイブリダイズし、標的ポリヌクレオチド以外のポリヌクレオチドには、実質的にはハイブリダイズしないことを意味する。ハイブリダイゼーションは、ストリンジェントな条件下で実施することができる。ここで「ストリンジェントな条件」は、プローブ/プライマー配列とその相補鎖との二重鎖のTm(℃)および必要な塩濃度などに依存して決定でき、プローブ/プライマーとなる配列を選択した後にそれに応じたストリンジェントな条件を設定することは当業者に周知の技術である(例えば、J. Sambrook, E. F. Frisch, T. Maniatis; Molecular Cloning 2nd edition,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)等参照)。ストリンジェントな条件としては、ハイブリダイゼーションに通常用いられる適切な緩衝液中で、ヌクレオチド配列によって決定されるTmよりわずかに低い温度(例えば、Tmよりも0〜約5℃低い温度)においてハイブリダイゼーション反応を実施することが挙げられる。ストリンジェントな条件としてはまた、ハイブリダイゼーション反応後の洗浄を高濃度低塩濃度溶液で実施することが挙げられる。ストリンジェントな条件の例としては、6×SSC/0.05%ピロリン酸ナトリウム溶液中で、37℃(約14塩基のオリゴヌクレオチドについて)、48℃(約17塩基のオリゴヌクレオチドについて)、55℃(約20塩基のオリゴヌクレオチドについて)、60℃(約23塩基のオリゴヌクレオチドについて)の洗浄条件が挙げられる。
【0030】
相同ポリヌクレオチドのヌクレオチド長は、少なくとも10塩基である。
【0031】
LAMP法プライマーでは、FIPおよびBIPの相同ポリヌクレオチドのヌクレオチド長は、好ましくは、少なくとも30塩基(例えば、30〜72塩基)、より好ましくは少なくとも41塩基(例えば、41〜60塩基)、特に好ましくは少なくとも43塩基(例えば、43〜54塩基)とすることができる。
【0032】
LAMP法プライマーでは、FIPおよびBIPの相同ポリヌクレオチドは、それぞれ、対応する塩基配列の連続する少なくとも30個、好ましくは少なくとも38個、より好ましくは少なくとも43個、特に好ましくは少なくとも49個のヌクレオチドを含んでなるポリヌクレオチドであることができる。
【0033】
また、F3、B3、LF、およびLBの相同ポリヌクレオチドのヌクレオチド長は、好ましくは、少なくとも12塩基(例えば、12〜25塩基および12〜30塩基)、より好ましくは、少なくとも17塩基(例えば、17〜25塩基および17〜30塩基)、特に好ましくは少なくとも19塩基(例えば、19〜25塩基および19〜30塩基)とすることができる。
【0034】
LAMP法プライマーでは、F3、B3、LF、およびLBの相同ポリヌクレオチドは、それぞれ、対応する塩基配列の連続する少なくとも10個、好ましくは少なくとも15個、より好ましくは少なくとも17個、特に好ましくは少なくとも19個のヌクレオチドを含んでなるポリヌクレオチドであることができる。
【0035】
相同ポリヌクレオチドおよび配列番号6の塩基配列に基づいて作製されたポリヌクレオチドは、また、それぞれ、対応する塩基配列と少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の同一性を有するポリヌクレオチドであることができる。同一性の数値は、当業界において周知のアルゴリズムに従って算出することができ、例えば、BLAST(http://www.ddbj.nig.ac.jp/search/blast-j.html)を使用して同一性の数値を算出することができる。
【0036】
相同ポリヌクレオチドは、更に、対応する塩基配列に1または数個の変異が導入された改変塩基配列からなり、かつ対応する塩基配列の相補配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチドであることができる。
【0037】
ここで「変異」は、同一または異なっていてもよく、置換、欠失、挿入、および付加から選択でき、好ましくは、ある1個の塩基を他の1個の塩基に置換する「一塩基置換」、ある1個の塩基を欠失させる「一塩基欠失」、ある1個の塩基を挿入する「一塩基挿入」、およびある1個の塩基を付加する「一塩基付加」から選択できる。また、変異の個数は、1〜6個、1、2、3、または4個、1または2個、あるいは1個とすることができる。
【0038】
配列番号1〜5の塩基配列で表されるポリヌクレオチドの相同ポリヌクレオチドの例を示すと以下の通りである。
・配列番号1の塩基配列で表されるFIPの相同ポリヌクレオチド:配列番号1の連続する少なくとも43個(43〜72個)、より好ましくは、少なくとも54個(54〜72個)、更に好ましくは、少なくとも60個(60〜72個)のヌクレオチド(1または数個の変異が導入されていてもよい)を含んでなるポリヌクレオチド。
・配列番号2の塩基配列で表されるF3の相同ポリヌクレオチド:配列番号2の連続する少なくとも17個(17〜23個)、より好ましくは、少なくとも19個(19〜23個)、更に好ましくは、少なくとも21個(21〜23個)のヌクレオチド(1または数個の変異が導入されていてもよい)を含んでなるポリヌクレオチド(ヌクレオチド長は最大で30塩基、好ましくは最大で25塩基とすることができる)。
・配列番号3の塩基配列で表されるBIPの相同ポリヌクレオチド:配列番号3の連続する少なくとも43個(43〜54個)、より好ましくは、少なくとも49個(49〜54個)のヌクレオチド(1または数個の変異が導入されていてもよい)を含んでなるポリヌクレオチド(ヌクレオチド長は最大で72塩基、好ましくは最大で60塩基、より好ましくは最大で54塩基とすることができる)。
・配列番号4の塩基配列で表されるB3の相同ポリヌクレオチド:配列番号4の連続する少なくとも17個(17〜22個)、より好ましくは、少なくとも19個(19〜22個)、更に好ましくは、少なくとも21個(21〜22個)のヌクレオチドのヌクレオチド(1または数個の変異が導入されていてもよい)を含んでなるポリヌクレオチド(ヌクレオチド長は最大で30塩基、好ましくは最大で25塩基とすることができる)。
・配列番号5の塩基配列で表されるLBの相同ポリヌクレオチド:配列番号5の連続する少なくとも17個(17〜21個)、より好ましくは、少なくとも19個(19〜21個)のヌクレオチド(1または数個の変異が導入されていてもよい)を含んでなるポリヌクレオチド(ヌクレオチド長は最大で30塩基、好ましくは最大で25塩基、より好ましくは最大で23塩基とすることができる)。
【0039】
本発明では、配列番号6の塩基配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズする少なくとも10塩基のポリヌクレオチド、および配列番号6の塩基配列の相補配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズする少なくとも10塩基のポリヌクレオチドは、それぞれ、配列番号6の塩基配列の相補配列の連続する少なくとも10個のヌクレオチドを含んでなるポリヌクレオチド、および配列番号6の塩基配列の連続する少なくとも10個のヌクレオチドを含んでなるポリヌクレオチドとすることができる。
【0040】
配列番号6の塩基配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズする少なくとも10塩基のポリヌクレオチド、および配列番号6の塩基配列の相補配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズする少なくとも10塩基のポリヌクレオチドは、それぞれ、配列番号6の塩基配列の相補配列と少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の同一性を有する少なくとも10塩基のポリヌクレオチド、および配列番号6の塩基配列と少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の同一性を有する少なくとも10塩基のポリヌクレオチドであることができる。同一性の数値は、当業界において周知のアルゴリズムに従って算出することができ、例えば、BLAST(http://www.ddbj.nig.ac.jp/search/blast-j.html)を使用して同一性の数値を算出することができる。
【0041】
配列番号6の塩基配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズする少なくとも10塩基のポリヌクレオチド、および配列番号6の塩基配列の相補配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズする少なくとも10塩基のポリヌクレオチドは、更に、配列番号6の塩基配列の相補配列に1または数個の変異が導入された少なくとも10塩基の改変塩基配列からなり、かつ配列番号6の塩基配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチド、および配列番号6の塩基配列に1または数個の変異が導入された少なくとも10塩基の改変塩基配列からなり、かつ配列番号6の塩基配列の相補配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチドであることができる。
【0042】
配列番号6の塩基配列に基づいて作製されたポリヌクレオチドをLAMP法プライマー(FIPおよびBIP)として用いる場合には、配列番号6の塩基配列またはその相補配列の連続する少なくとも43個(例えば、43〜54塩基)のヌクレオチド(1または数個の変異が導入されていてもよい)を含んでなるポリヌクレオチド(ヌクレオチド長は最大で72塩基、好ましくは最大で60塩基、より好ましくは最大で57塩基とすることができる)をプライマーとして使用できる。
【0043】
配列番号6の塩基配列に基づいて作製されたポリヌクレオチドをLAMP法プライマー(F3、B3、LB、およびLF)として用いる場合には、配列番号6の塩基配列またはその相補配列の連続する少なくとも19個(例えば、19〜23個および19〜25個)のヌクレオチド(1または数個の変異が導入されていてもよい)を含んでなるポリヌクレオチド(ヌクレオチド長は最大で30塩基、好ましくは最大で25塩基とすることができる)をプライマーとして使用できる。
【0044】
本発明においては、配列番号6の塩基配列で表されるポリヌクレオチドに基づいて、ペディオコッカス・ダムノサスを検出するためのLAMP法プライマーセットを選択することができる。LAMP法は周知であり、当業者であればLAMP法プライマーを適宜設計することができる。具体的には、LAMP法の実施に必要な4種類のプライマー、すなわち、FIP、F3、BIP、およびB3を、前述のように設計し、必要に応じてループプライマー、すなわち、LFおよびLBを使用することもできる。LAMP法においては、好ましくは、LAMP法の実施に必要な4種のプライマーのうち、少なくともFIPおよびBIPのいずれかまたは両方の一部または全部を、配列番号6の塩基配列のうちより識別性の高い部分、すなわち、配列番号6の340−476番目の塩基配列を少なくとも有する部分配列またはその部分配列の相補配列、に対合するように選択してもよい。この場合、LAMP法の実施に必要な他のプライマーは、配列番号6の塩基配列またはその相補配列に対合するように選択しても、配列番号6の塩基配列およびその相補配列以外の配列(配列番号6の配列の外側の領域)に対合するように選択してもよい。
【0045】
配列番号6の塩基配列に基づいて作製されたポリヌクレオチドをPCR法プライマーとして用いる場合には、配列番号6の塩基配列またはその相補配列の連続する少なくとも15個(例えば、15〜24個および15〜30個)、より好ましくは、少なくとも18個(例えば、18〜24個および18〜30個)、特に好ましくは、少なくとも20個(例えば、20〜24個および20〜30個)のヌクレオチド(1または数個の変異が導入されていてもよい)を含んでなるポリヌクレオチド(ヌクレオチド長は最大で30塩基、好ましくは最大で25塩基、より好ましくは最大で24塩基とすることができる)をプライマーとして使用できる。
【0046】
本発明においては、配列番号6の塩基配列で表されるポリヌクレオチドに基づいて、ペディオコッカス・ダムノサスを検出するためのPCR法プライマーペアを選択することができる。PCR法は周知であり、当業者であればPCR法プライマーペアを適宜選択することができる。具体的には、PCR法においては、二つのプライマーの一方が配列番号6の塩基配列に対合し、他方のプライマーが配列番号6の塩基配列の相補配列に対合し、かつ一方のプライマーにより伸長された伸長鎖にもう一方のプライマーが対合するようにプライマーを選択できる。また、PCR法においては、二つのプライマーの一方が配列番号6の塩基配列またはその相補配列に対合し、他方のプライマーが配列番号6の塩基配列およびその相補配列以外の配列(配列番号6の配列の外側の領域)に対合し、かつ一方のプライマーにより伸長された伸長鎖にもう一方のプライマーが対合するようにプライマーを選択してもよい。PCR法においては、好ましくは、二つのプライマーの一方あるいは両方を、配列番号6の塩基配列のうちより識別性の高い部分、すなわち、配列番号6の340−476番目の塩基配列を少なくとも有する部分配列またはその部分配列の相補配列、に対合するように選択してもよい。
【0047】
本発明において「ポリヌクレオチド」とはDNA、RNA、およびPNA(peptide nucleic acid)を含む意味で用いられる。
【0048】
本発明によるプローブおよびプライマー並びにプライマーセット等を構成するポリヌクレオチドは、例えばホスファイト・トリエステル法(Hunkapiller, M. et al., Nature, 310,105, 1984)等の通常の方法に準じて、核酸の化学合成を行うことにより調製してもよいし、検出対象の菌株の全DNAを取得し、本明細書に開示されるヌクレオチド配列に基づいて目的のヌクレオチド配列を含むDNA断片をPCR法等で適宜取得してもよい。
【0049】
本発明によるプライマー、プローブ、およびプライマーセットは、それぞれ単独で使用しても、適宜組み合わせて使用してもよい。すなわち、本発明によるプライマー、プローブ、およびプライマーセットは、乳酸菌のうちペディオコッカス・ダムノサスを検出することができるが、他の乳酸菌(例えば、ラクトバチラス属乳酸菌)判定用プライマー、プローブ、およびプライマーセット(例えば、特開2008−5779号公報および本願実施例1)や、ビール混濁乳酸菌判定用プライマー、プローブ、およびプライマーセット(例えば、特開2008−54632号公報)と組み合わせることにより、より正確に試料中の乳酸菌を同定できるとともに、試料の混濁可能性を判定することができる。
【0050】
従って、本発明によるプライマー、プローブ、およびプライマーセットは、単独で、あるいは組み合わせて、キットの形態で提供することができる。従って、例えば、本発明によるLAMP法プライマーセットと、1以上の他のラクトバチラス属乳酸菌のLAMP法プライマーセットと組み合わせて含んでなる、飲料(例えば、酒類)を混濁させる乳酸菌の検出キットが提供される。
【0051】
LAMP法プライマーセットを含む本発明によるキットは、LAMP法による核酸増幅反応の実施に必要な試薬(例えば、Bst DNAポリメラーゼ、反応用試薬混合液)や器具(例えば、反応用チューブ)を含んでいてもよい。
【0052】
PCR法プライマーセットを含む本発明によるキットは、PCR法による核酸増幅反応の実施に必要な試薬(例えば、DNAポリメラーゼ、精製水)や器具(例えば、反応用チューブ)を含んでいてもよい。
【0053】
本発明によるプライマーセットを用いて核酸増幅反応を実施すると、酒類の品質低下の原因となるペディオコッカス・ダムノサスを正確に識別することができる。従って、本発明によるプライマーセットおよび本発明によるキットは、各種飲料(例えば、酒類、特に、ビール、発泡酒およびワイン)の品質管理や、環境試料(例えば、原料用水)の検査に用いることができる。
【0054】
ペディオコッカス・ダムノサスは、ビール、発泡酒およびワインの製造工程あるいは最終製品に、品質劣化の原因乳酸菌種として見いだされることがある。従って、本発明によるプライマーセットおよび本発明によるキットは、好ましくは、ビール、発泡酒およびワインの品質管理に用いることができる。
【0055】
検出方法および判定方法
本発明によるプライマーおよびプローブ並びにプライマーセットは、ペディオコッカス・ダムノサスの検出に用いることができる。すなわち、本発明によれば、本発明によるプローブもしくはプライマーまたはプライマーセットと試料とを接触させ、試料中の標的核酸を検出する工程を含んでなる、ペディオコッカス・ダムノサスの検出方法が提供される。より具体的には、本発明によるプローブもしくはプライマーまたはプライマーセットと試料とを接触させ、本発明によるプローブもしくはプライマーまたはプライマーセットと試料中との標的核酸とのハイブリダイゼーションを検出する工程を含む、ペディオコッカス・ダムノサスの検出方法が提供される。
【0056】
ペディオコッカス・ダムノサスは各種飲料(例えば、酒類、特に、ビール、発泡酒およびワイン)を混濁させる原因菌である。従って、本発明によるプローブおよびプライマー並びにプライマーセットは、ペディオコッカス・ダムノサスの検出のみならず、各種飲料(例えば、酒類、特に、ビール、発泡酒およびワイン)の混濁可能性の判定に用いることができる。すなわち、本発明によるプローブおよびプライマー並びにプライマーセットにより検出対象菌種が検出された場合には、混濁菌が試料中に存在していると、あるいは試料が混濁する見込みがあると判定することができる。従って、本発明によれば、本発明によるプローブもしくはプライマーまたはプライマーセットと試料とを接触させ、試料中の標的核酸を検出する工程を含んでなる、各種飲料の混濁可能性の判定方法が提供される。
より具体的には、本発明によるプローブもしくはプライマーまたはプライマーセットと試料とを接触させ、本発明によるプローブもしくはプライマーまたはプライマーセットと試料中との標的核酸とのハイブリダイゼーションを検出する工程を含む、各種飲料の混濁可能性の判定方法が提供される。
【0057】
ここで、ハイブリダイゼーションの検出方法は周知であり、その検出のための装置、器具は市販のものを用いることができる。ハイブリダイゼーションの検出は、例えば、LAMP法やPCR法など周知の核酸増幅法を使用して増幅産物の有無等を検出することにより、あるいはサザンブロット法など周知の核酸検出法を使用してハイブリダイゼーション複合体の有無等を検出することにより、実施することができる。
【0058】
本発明による検出方法の具体的な態様としては、核酸試料に対してLAMP法による核酸増幅反応を実施した後、核酸増幅産物の有無を検出する工程を含む検出方法が挙げられる。
【0059】
すなわち、本発明によれば、
(a)本発明によるLAMP法プライマーセットを用いて、試料中の核酸についてLAMP法により核酸増幅反応を実施する工程;および
(b)増幅産物の有無を検出する工程
を含んでなり、増幅産物の生成がペディオコッカス・ダムノサスの存在を示す、ペディオコッカス・ダムノサスの検出方法が提供される。
【0060】
本発明によれば、また、
(a)本発明によるLAMP法プライマーセットを用いて、試料中の核酸についてLAMP法により核酸増幅反応を実施する工程;および
(b)増幅産物の有無を検出する工程
を含んでなり、増幅産物の生成が混濁可能性を示す、各種飲料の混濁可能性の判定方法が提供される。
【0061】
LAMP法による核酸増幅工程に供される試料は、試料中の菌体を培養してから核酸を抽出しても、培養せずに核酸を抽出してもよい。菌体の培養や核酸の抽出など核酸試料の調製については後述する。
【0062】
LAMP法による核酸増幅工程では、試料中の核酸に対して増幅反応が実施される。LAMP法による核酸増幅反応については後述する。
【0063】
試料中に検出対象菌種が存在する場合には、標的とする特定の領域が増幅され、増幅産物が生成する。増幅産物が生成した場合には、核酸増幅反応が実施された試料溶液が白濁することから、試料溶液の濁度を測定することにより増幅産物の有無を決定することができる。LAMP法における濁度の測定は周知であり、市販のエンドポイント濁度測定装置(例えば、テラメックス社製LA−100)やリアルタイム濁度測定装置(例えば、テラメックス社製LA−200)を用いて濁度の測定をすることができる。
【0064】
後記実施例で示すように、試料溶液がある一定の濁度に達するまでの時間を測定することにより、検定試料中の菌体数を決定することができる。すなわち、本発明による検出方法の別の面によれば、核酸試料に対してLAMP法による核酸増幅反応を実施するとともに、核酸増幅反応の開始から試料がある一定の濁度に達するまでの時間を測定し、その時間から検体中の菌体数を求める工程を含む、ペディオコッカス・ダムノサスの定量方法が提供される。具体的には、以下の通りである。
【0065】
本発明によれば、
(a)本発明によるLAMP法プライマーセットを用いて、試料中の核酸についてLAMP法により核酸増幅反応を実施する工程;
(b’)核酸増幅反応の開始から一定の濁度に達するまでの時間を測定する工程;および(b”)測定した時間から検体中の菌体数を求める工程
を含んでなる、ペディオコッカス・ダムノサスの定量方法が提供される。
【0066】
本発明による定量方法においては、菌体数と一定の濁度に達するまでの時間との検量線を予め作成しておき、この検量線に基づいて、測定した時間から検体中の菌体数を求めることができる。検量線は、例えば、菌体を段階的に希釈した試料を準備し、それぞれについてLAMP法による核酸増幅法を実施し、菌体のコロニー形成数の対数に対して、核酸増幅反応の開始から濁度が0.1になるまでの時間をプロットすることにより作成することができる。
【0067】
本発明による検出方法および定量方法においては、FIP、F3、BIP、およびB3からなるプライマーセットに、ループプライマー(LFおよび/またはLB)を追加して、LAMP法による核酸増幅反応を実施してもよい。具体的には、本発明による検出方法および定量方法においては、配列番号5の塩基配列で表されるポリヌクレオチドまたはその相同ポリヌクレオチドを、ループプライマーとして、追加し、使用してもよい。
【0068】
本発明による検出方法のうちPCR法による検出方法の具体的な態様としては、核酸試料に対してPCR法による核酸増幅反応を実施した後、核酸増幅産物の有無を検出する工程を含む検出方法が挙げられる。
【0069】
より具体的には、本発明によれば、
(c)本発明によるPCR法プライマーセットを用いて、試料中の核酸についてPCR法により核酸増幅反応を実施する工程;および
(d)増幅産物の有無を検出する工程
を含んでなり、増幅産物の生成がペディオコッカス・ダムノサスの存在を示す、ペディオコッカス・ダムノサスの検出方法が提供される。
【0070】
本発明によれば、また、
(c)本発明によるPCR法プライマーセットを用いて、試料中の核酸についてPCR法により核酸増幅反応を実施する工程;および
(d)増幅産物の有無を検出する工程
を含んでなり、増幅産物の生成が混濁可能性を示す、各種飲料の混濁可能性の判定方法が提供される。
【0071】
PCR法による核酸増幅工程に供される試料は、試料中の菌体を培養してから核酸を抽出しても、培養せずに核酸を抽出してもよい。菌体の培養や核酸の抽出など核酸試料の調製については後述する。
【0072】
PCR法による核酸増幅工程では、試料中の核酸に対して増幅反応が実施される。PCR法による核酸増幅反応は周知であり、当業者であればPCR法およびその改変方法の実施条件等を適宜設定し、PCR法を実施することができる。
【0073】
本発明による検出方法のうちプローブによる検出方法の具体的な態様としては、核酸試料に対する本発明によるプローブのハイブリダイゼーションを実施した後、核酸複合体の有無を検出する工程を含む検出方法が挙げられる。
【0074】
より具体的には、本発明によれば、
(e)本発明によるプローブと、試料中の核酸とを接触させる工程;および
(f)ハイブリダイゼーション複合体の有無を検出する工程
を含んでなり、ハイブリダイゼーション複合体の生成がペディオコッカス・ダムノサスの存在を示す、ペディオコッカス・ダムノサスの検出方法が提供される。
【0075】
本発明によれば、また、
(e)本発明によるプローブと、試料中の核酸とを接触させる工程;および
(f)ハイブリダイゼーション複合体の有無を検出する工程
を含んでなり、ハイブリダイゼーション複合体の生成が混濁可能性を示す、各種飲料の混濁可能性の判定方法が提供される。
【0076】
プローブを用いた検出法においては、プローブを標識して用いることができる。標識としては、例えば、放射性元素(例えば、32Pおよび14C)、蛍光化合物(例えば、FITC)、酵素反応に関与する分子(例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ)が挙げられる。
【0077】
ハイブリダイゼーション複合体の検出は、ノーザンハイブリダイゼーション、サザンハイブリダイゼーション、コロニーハイブリダイゼーション等の周知の方法を用いて実施できる。ハイブリダイゼーション複合体の検出に先立って、未結合プローブやハイブリダイズしないその他の成分を除去してもよい。
【0078】
LAMP法による核酸増幅反応
本発明によるLAMP法プライマーセットは、LAMP法による核酸増幅反応のプライマーとして用いることができる。本発明によるプライマーセットはまた、LAMP法のみならず、LAMP法を改良した核酸増幅反応のプライマーとしても用いることができる。
【0079】
LAMP法の原理およびそれを利用した核酸増幅方法は周知であり、LAMP法による核酸増幅反応の実施に当たっては、例えば、WO00/28082号公報やNotomi T. et al., Nucleic Acids Research, 28(12),e63(2000)の開示を参照することができる。
【0080】
LAMP法による核酸増幅反応は、市販のLAMP法遺伝子増幅試薬キットに従って実施することができるが、例えば、サンプルのDNA、プライマー溶液、および市販のLAMP法遺伝子増幅試薬キット(例えば、栄研化学社製Loopamp DNA増幅キット)で提供される試薬を、キットに添付されている説明書に従って混合して一定温度(60〜65℃)に保ち、一定時間(標準で1時間)反応させることにより実施できる。
【0081】
LAMP法による核酸増幅反応は、以下のような工程を経て実施することができる。
(i)鎖置換型DNAポリメラーゼの働きにより、FIPのF2領域の3’末端を起点として鋳型DNAと相補的なDNA鎖が合成される。
(ii)FIPの外側に、F3プライマーがアニールし、その3’末端を起点として鎖置換型DNAポリメラーゼの働きによって、先に合成されているFIPからのDNA鎖を剥がしながらDNA合成が伸長する。
(iii)F3プライマーから合成されたDNA鎖と鋳型DNAが二本鎖となる。
(iv)FIPから先に合成されたDNA鎖は、F3プライマーからのDNA鎖によって剥がされて一本鎖DNAとなるが、このDNA鎖は、5’末端側に相補的な領域F1c、F1をもち、自己アニールを起こし、ループを形成する。
(v)上記(iv)の過程でループを形成したDNA鎖に対し、BIPがアニールし、このBIPの3’末端を起点として相補的なDNAが合成される。この過程でループが剥がされて伸びる。さらに、BIPの外側にB3プライマーがアニールし、その3’末端を起点として鎖置換型DNAポリメラーゼの働きによって、先に合成されたBIPからのDNA鎖を剥がしながらDNA合成が伸長する。
(vi)上記(v)の過程で二本鎖DNAが形成される。
(vii)上記(v)の過程で剥がされたBIPから合成されたDNA鎖は両端に相補的な配列を持つため、自己アニールし、ループを形成してダンベル様の構造となる。
(viii)上記ダンベル構造のDNA鎖を起点として、FIP次いでBIPのアニ−リングを介して所望DNAの増幅サイクルが行われる。
【0082】
LAMP法による核酸増幅反応は、上記の工程を適宜改変して実施できることは当業者に自明であろう。本発明によるプライマーセットはそのような改変された方法にも用いることができる。
【0083】
本発明によるLAMP法プライマーセットは、約60〜約65℃(例えば65℃)においてアニーリングと同時にDNA鎖の合成も起こす。アニ−リング反応およびDNA鎖合成により約1時間反応を行うことにより10〜1010倍に核酸を増幅させることができる。
【0084】
本発明によるLAMP法プライマーセットをLAMP法による核酸増幅反応の条件の下で試料核酸と反応させると、検出対象の菌株のターゲット領域が増幅される。このような増幅反応が起こると、副産物として形成されるピロリン酸マグネシウムの影響で反応液が白濁するため、この濁度に基づき増幅の有無が目視により判定できる。増幅の有無は、濁度測定装置を用いて濁度を光学的に測定してもよく、また、アガロースゲル電気泳動法などを利用してDNA断片の有無を確認し検出してもよい。
【0085】
核酸増幅が観察されるならば、標的塩基配列が存在することを意味し、プライマーセットの検出対象である菌種陽性(+)を表す。逆に、核酸増幅が観察されない場合には、標的塩基配列が不存在であることを意味し、プライマーセットの検出対象である菌種陰性(−)を表す。
【0086】
PCR法による核酸増幅反応
本発明によるPCR法プライマーセットは、PCR法、RT−PCR法、リアルタイムPCR法、in situ PCR等の核酸増幅法を利用して、ペディオコッカス・ダムノサスの識別に用いることができる。
【0087】
核酸増幅物が観察されるならば、標的塩基配列が存在することを意味し、プライマーセットの検出対象である菌種陽性(+)を表す。逆に、核酸増幅が観察されない場合には、標的塩基配列が不存在であることを意味し、プライマーセットの検出対象である菌種陰性(−)を表す。
【0088】
PCR法では、アガロースゲル電気泳動など周知の方法に従って核酸増幅物を検出することができる。また、リアルタイムPCR法では、インターカレーターや蛍光標識プローブを使用し、サーマルサイクラーと分光蛍光光度計とが一体化された装置において、核酸増幅物を経時的に検出することができる。
【0089】
検出対象試料とその調製
本発明によるプライマーセットおよびキットの検出の対象となる試料としては、ビール、発泡酒、ワインなどの酒類;ラムネ、炭酸水などの清涼飲料;原料用に採取された水等の環境試料;酒類や清涼飲料等の製造工程から採取された半製品などが挙げられる。
【0090】
これらをLAMP法やPCR法の試料として用いる場合には、試料中に存在する菌の濃縮、分離、および培養、菌体からの核酸分離、核酸の濃縮などの操作を前処理として実施してもよい。試料中に存在する菌の濃縮や分離の方法としては、ろ過、遠心分離などが挙げられ、適宜選択できる。また試料から濃縮、分離した菌を、さらに培養して菌数を増やしてもよい。培養には、対象とする乳酸菌株の増殖に適切な寒天固体培地や液体培地を用いることができ、また対象とする乳酸菌株を選択するためにシクロヘキシミドなどの薬剤を添加してもよい。飲料試料や環境試料などに存在する菌体、あるいは培養した菌体から核酸を遊離させるためには、例えば、市販のキットを使用する方法や、アルカリ溶液などによって菌体を処理し、100℃での加熱により菌体から核酸を遊離させる方法を選択することができる。また、核酸を更に精製する必要があれば、フェノール/クロロホルム処理、エタノール沈殿や遠心等により核酸の精製を行い、最終的にTE緩衝液などに再溶解させ鋳型DNAとして試験に供してもよい(European Brewery Convention:ANALYTICA - MICROBIOLOGICA - EBC, 2nd ed. 2005 Fachverlag Hans Carl, Nuernberg、Rolfsら:PCR - Clinical diagnostics and research, Springer-Verlag, Berlin, 1992、大嶋泰治ら:蛋白 核酸 酵素, vol. 35, 2523-2541, 1990)。
【0091】
本発明によるプライマーセットおよびキットを用いたペディオコッカス・ダムノサスの検出は、例えば、以下のように実施することができる。
【0092】
まず、試料中に存在すると考えられるペディオコッカス・ダムノサスを適切な培地で増菌培養する。次いで、寒天培地上に形成されたコロニーからDNAを分離し、このDNAに対して本発明によるプライマーセットを用いたLAMP法を実施し、ペディオコッカス・ダムノサスの特定遺伝子領域を増幅する。遺伝子増幅産物の存在は検出対象菌種の存在を示す。また、検出対象菌種の存在は、混濁菌が試料中に存在していること、あるいは試料が混濁する見込みを示す。
【実施例】
【0093】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0094】
実施例1:LAMP法プライマーセットによるペディオコッカス・ダムノサスの検出
(a)ゲノムDNA抽出法
寒天平板培地上で培養した菌体をかき取り、滅菌蒸留水に懸濁した。この懸濁液を遠心分離(15000rpm、5分間)し、上澄みを捨てた。沈殿した菌体に再度滅菌蒸留水を添加、懸濁し、遠心分離した。上澄みを捨て、得られた菌体にPrepMan Ultra(アプライドバイオシステムズ社製)の溶液100μlを添加し、95℃、10分間加熱した。その後、15000rpm、1分間遠心分離し、上澄みをゲノムDNA溶液として使用した。あるいは洗浄した菌体に0.1N NaOH溶液を100μl添加し、95℃、10分間加熱した。その後、1M Tris緩衝液(pH7.0)を用いて中和し、上澄みをゲノムDNA溶液として使用した。
(b)LAMP用プライマー
以下のペディオコッカス・ダムノサス検出用プライマーを、富士通システムソリューションズ社のeGenome Order(http://genome.e-mp.jp/index.html)、あるいはそれと同等の方法で化学合成し、TE緩衝液(pH8.0)で100μMの濃度になるように溶解した。これらの溶液を、FIP、BIPプライマー:16μM、F3、B3プライマー:2μM、LF、LBプライマー:8μMとなるように混合し、希釈した。
[ペディオコッカス・ダムノサス検出用プライマーセット(PDL4LB4)]
FIP:CCTTTCAATTTATAATTTCAGTACAAGTATAACACGTTAACATTTTTCAATAAATATGAGTTACTAAATACG (配列番号1)
F3: ACCAAATTTTTTTCGTCGCAATT(配列番号2)
BIP:TATTGTCTAATACACCAAATCATCAAAAAGTTGTGTTGAGCCATAGCAAATGCA (配列番号3)
B3: ACAAATTCTTCGGCAATTCCTT(配列番号4)
LB: GATGGCGCTGTTGGTTCTAGT(配列番号5)
なお、上記プライマーセットは、本発明者が取得したペディオコッカス・ダムノサスJCM5886株の新規L−LDH遺伝子(配列番号6)のうち、プロモーター領域およびその周辺領域の塩基配列に基づいて設計した。
【0095】
また、以下の乳酸菌判定用プライマーセットを準備し、菌種判定試験に供した。
【0096】
[ラクトバチラス・コリノイデス(Lactobacillus collinoides)およびその近縁種検出用プライマーセット(LCN3LF1)]
FIP CCGTTTTCTTACTTGGTTAAGTCCTCGGGAAGTCCAGTGATGGATGG(配列番号7)
F3 TGATCAGGTAGATAGGCTAGAAGT(配列番号8)
BIP GGTAGGAAAACGATATTATCTAGTTTTGAGAGATCCTTCAGGCTATCGCCA(配列番号9)
B3 TTCGGCATGGGAACAGGT(配列番号10)
LF ACCGATTAGTACTAGTCCGCT(配列番号11)
上記プライマーセットは、ラクトバチラス・パラコリノイデス(Lactobacillus paracollinoides)JCM11969株の23S rRNA遺伝子と5S rRNA遺伝子間のスペーサー領域の塩基配列(配列番号12)に基づいて設計した。
【0097】
[ラクトバチラス・バッキ(Lactobacillus backi)およびその近縁種検出用プライマーセット(HM6LF1LB1)]
FIP ACGGCACTTCCACTTCCAACTTCCTTTATGGAAGTAAGACCCCT(配列番号13)
F3 CCCGCAAGATTAGATTTCCCA(配列番号14)
BIP GTCGGAAACAATGTTTCCGCGTAGCTCTCAAAACTGGACCTTCT(配列番号15)
B3 CCACACCACTATCTGAGAACTT(配列番号16)
LF CTATCTACCTGATCATCTCTC(配列番号17)
LB GTGTTCAAAGGTCAAAGAAAAT(配列番号18)
なお、上記プライマーセットは、ラクトバチラス・バッキ近縁株であるビール工場分離株BK2株(FERM BP−10794)の16S rRNA遺伝子と23S rRNA遺伝子間のスペーサー領域、23S rRNA遺伝子全体、23S rRNA遺伝子と5S rRNA遺伝子間のスペーサー領域の塩基配列(配列番号19)に基づいて設計した。
【0098】
[ラクトバチラス・リンドネリ(Lactobacillus lindneri)検出用プライマーセット(LL12)]
FIP GGTCAGATCTATCGTCAAGCTGATGGCCTAAATAACATGCAAGTCGA(配列番号20)
F3 TCAGGACGAACGTTGGC(配列番号21)
BIP AACCTGCCCAGAAGAAGGGGTGGTTCTCGTTGTTATACGGT(配列番号22)
B3 GAAGCGATAGCATAAAAGCCA(配列番号23)
なお、上記プライマーセットは、特許第3677056号公報により明らかにされたラクトバチラス・リンドネリの16S rRNA遺伝子の塩基配列に基づいて設計した。
(c)LAMP増幅反応溶液調製
LAMP法のための遺伝子増幅試薬キットとして、栄研化学社製Loopamp DNA増幅キットを使用した。反応用チューブに、ゲノムDNA溶液:2.5μl、プライマー溶液:2.5μl、2倍濃度反応用緩衝液:12.5μl、Bst DNAポリメラーゼ:1μl、滅菌水:6.5μlを添加し、全量25μlの反応液を調製した。
(d)LAMP反応
LAMP反応には、テラメックス社製リアルタイム濁度計LA−200、あるいは栄研化学社製LA−320Cを使用した。反応チューブをセットし、65℃一定(ボンネットは75℃)で反応させ、その間の濁度変化を6秒毎に計測した。濁度が上昇するものを陽性、濁度の上昇が認められないものを陰性とした。
(e)プライマーの評価
ペディオコッカス・ダムノサスに対して作成した菌種特異的なプライマーと、各種乳酸菌に特異的なプライマーについて乳酸菌の各種標準株等を使ってLAMP法で特異性を評価した。結果は表1〜3に示される通りであった。
表1:各種乳酸菌標準株を使ったプライマーの評価(マス内の数字:増幅が起こるまでの反応時間、−:反応100分以内に増幅なし、−−:反応80分以内に増幅なし)
【表1】

表2:各種偏性嫌気性菌標準株を使ったプライマーの評価(マス内の数字:増幅が起こるまでの反応時間、−:反応100分以内に増幅なし、−−:反応80分以内に増幅なし)
【表2】

表3:ビール工場分離乳酸菌株を使ったプライマーの評価(マス内の数字:増幅が起こるまでの反応時間、−:反応100分以内に増幅なし、−−:反応80分以内に増幅なし)
【表3】

【0099】
PDL4LB4を用いた場合はペディオコッカス・ダムノサスの菌株に、反応開始60分程度でDNA増幅に伴う濁度の上昇が見られた。特に、PDL4LB4プライマーは、海外の菌株保存機関のペディオコッカス・ダムノサス保存株や工場分離株等、分離元が異なる株を特異的に検出できた。一方で、検査対象以外の乳酸菌標準株(同じペディオコッカス属のペディオコッカス・ダムノサス以外の7菌種を含む)、偏性嫌気性菌標準株、ビール工場分離乳酸菌を使用してPDL4LB4プライマーの特異性を評価したところ、ペディオコッカス・ダムノサス以外からは増幅は見られなかった。
【0100】
LCN3LF1を用いた場合はラクトバチラス・コリノイデスおよびその近縁種であるラクトバチラス・パラコリノイデス等の菌株に、反応開始60分以内にDNA増幅に伴う濁度の上昇が見られた。HM6LF1LB1を用いた場合はラクトバチラス・バッキおよびその近縁種に、反応開始60分以内にDNA増幅に伴う濁度の上昇が見られた。LL12を用いた場合はラクトバチラス・リンドネリに、反応開始60分以内にDNA増幅に伴う濁度の上昇が見られた。
【0101】
さらに、LCN3LF1、HM6LF1LB1、LL12について、検査対象以外の乳酸菌標準株、偏性嫌気性菌標準株、ビール工場分離乳酸菌を使用して各プライマーの特異性を評価したところ、各プライマーが検査対象にしている株以外からはほとんど増幅が見られなかった。
【0102】
以上により、本発明によるプライマーセットは、検査対象とするペディオコッカス・ダムノサスを菌種レベルで正確に検出できることが示された。本発明によるプライマーを用いれば、遺伝子増幅の有無を確認するだけでペディオコッカス・ダムノサスを正確に検出することができる。また、本発明によるプライマーセットを他の乳酸菌検出用プライマーセットと組み合わせることにより、乳酸菌の菌種判定をより正確に行うことができる。
【0103】
実施例2:特許文献にあるプライマーの評価
(a)特許文献のプライマー
土屋らの特許文献(WO2005/093059号公報)に記載されていた以下のペディオコッカス・ダムノサス検出用プライマーセット(SPD1)について、実施例1(b)と同様にLAMP法用プライマー溶液を調製した。ペディオコッカス・ダムノサス検出用プライマーセット(SPD1)は16S rRNA遺伝子を標的としている。
[ペディオコッカス・ダムノサス検出用プライマーセット(SPD1)]
FIP: GAAATCATCTTCGATGCAAGCTAGGACGCACTTTCGTTGATTGAA(配列番号24)
F3: TGGAGAGTTTGATCCTGGCTC(配列番号25)
BIP: ATTTTTAAAAGATGGCTTCGGCGGTGAGCCTTTATCTCACCAA(配列番号26)
B3: GCTGCTGGCACGTAGTTAGCC(配列番号27)
LB: CTGGATGGACCCGCGGCGT(配列番号28)
実施例1(c)および(d)の記載に従って、上記プライマーセットを用いて、LAMP法により各種菌株の検出を行った。結果は図1に示される通りであった。
(b)プライマーの評価
その結果、SPD1は試験した乳酸菌株のいくつかの菌種と反応し、特異性が低いと考えられた。16S rRNA遺伝子中の設計に使用された配列の菌種特異性が低く、交差反応したと考えられた。
【0104】
実施例3:LAMP法の検出限界
LAMP法の増幅効率を検討するために、m−NBB液体培地で培養したペディオコッカス・ダムノサスDSM20289株の菌体を遠心分離して集菌し、その菌体を滅菌水に懸濁し、段階的に希釈して上記した方法でDNA抽出し、これをLAMP法に供した。その結果、LAMP法では10cfuレベルの少ない菌体量からも増幅が観察された。
【0105】
また、菌体の各段階の希釈液から抽出したゲノムDNAを使ったときにLAMP反応で濁度が0.1を越えた時間を検出時間として、各プライマーの検出時間とコロニー形成数の対数をグラフにしたところ、累乗近似によりある程度高い相関係数の近似曲線を描くことが出来た(R=0.985)。PDL4LB4について得られた近似曲線は図2に示される通りである。また、各プライマーの検出限界と検量線の相関係数との関係は下記に示される通りである。これを検量線とすることにより、10−10cfuの範囲で、サンプル中のペディオコッカス・ダムノサスの存在を定量的にある程度推測することが可能であることが示された。
【0106】
[プライマーの検出限界と検量線の相関係数]
検出限界 検量線近似式 検量線相関係数(R
PDL4LB4 1.6x102 cfu y = 3340.4x-1.6641 0.985
【0107】
実施例4:ビールからの検出
ビール製造工程中では、多くの場合、麦汁に下面発酵酵母を多量に添加して発酵させるが、外部から汚染する乳酸菌の菌数は製造用酵母に比べると非常に少ない。ビールに下面発酵酵母を懸濁させた液からの乳酸菌の検出限界について検討した。m−NBB固体培地で培養したペディオコッカス・ダムノサスDSM20289株の菌体を白金耳でかき取り、滅菌水に懸濁後、段階的に希釈して遠心分離し、その菌体にビールに多量の下面発酵酵母を懸濁させた液を添加して懸濁させた。その後、1回集菌洗浄し、実施例1(a)に記載した方法でまとめてDNA抽出し、PDL4LB4を使ったLAMP法でペディオコッカス・ダムノサスDSM20289株が検出可能かどうか検討した。その結果、ビールによる反応阻害および下面発酵酵母の存在に関係なく、滅菌水に懸濁した場合とほとんど同じ検出限界(10cfuレベル)でペディオコッカス・ダムノサスが検出できることがわかった。なお、同様の実験で下面発酵酵母を懸濁していないビールからの検出も検討し、同じ検出限界で検出できることを確認した。
【0108】
ペディオコッカス・ダムノサスの検出限界
ビール+下面発酵酵母(1 x 107 cells) 6.9 x 102 cfu
【0109】
実施例5:ワインからの検出
ペディオコッカス・ダムノサスはワイン中でも増殖し、中には粘性のある多糖を生産して品質を著しく低下させる菌株もあると報告されている。赤ワインからの乳酸菌の検出限界について検討した。m−NBB固体培地で培養したペディオコッカス・ダムノサスDSM20289株の菌体を白金耳でかき取り、フィルター除菌した赤ワインに懸濁後、同じ赤ワインで段階的に希釈した。そのチューブを遠心分離し、上澄みを捨てて沈殿を得た。その後、1回滅菌水で集菌洗浄し、実施例1(a)に記載した方法でDNA抽出したゲノムDNA溶液と、1回50mM EDTA(pH8.0)溶液で集菌洗浄して得られた沈殿をさらに1回滅菌水で集菌洗浄し、実施例1(a)に記載した方法でDNA抽出したゲノムDNA溶液をそれぞれ作成し、PDL4LB4を使ったLAMP法でペディオコッカス・ダムノサスDSM20289株が検出可能かどうか検討した。尚、LAMP法での増幅の観察は180分まで行った。その結果、上述した方法で2回集菌洗浄した場合に検出限界は滅菌水の場合と同レベル(10cfuレベル)となった。集菌洗浄を2回にしたことで洗浄効率が高まったことと、EDTA溶液を用いることにより赤ワインが低pHであることや金属イオンの存在の影響を取り除くことが出来たことが効果的であったと考えられる。
【0110】
赤ワインからのPCR法、およびリアルタイムPCR法による検出限界は、それぞれ10cfuレベル、10cfuレベルとされており(Gindreau, E. et al. Journal of Applied Microbiology 2001, vol. 90, 535-542、Delaherche, A. et al. Journal of Applied Microbiology 2004, vol. 97, 910-915)、今回のLAMP法による検出限界はそれらと同等か若干悪い値となったが、これらの報告ではワイン中のポリフェノールを除く為のPVP処理を行う等4時間以上かかるDNA精製作業を行ったり、高価なリアルタイムPCR用のサーマルサイクラー等を使っている。上記手法では安価な試薬を用いた簡便なDNA抽出法を用いており、DNA精製法の改良で検出限界はより改善する可能性があるが、製造現場で行うことを想定したこのような簡便なDNA抽出方法とより安価な検出装置を用いたLAMP法でも同程度の検出感度で検査が出来ることが分かった。
【0111】
ペディオコッカス・ダムノサスの検出限界
滅菌水懸濁液 1.6x102 cfu
赤ワイン懸濁液(集菌洗浄1回) 2.8x103 cfu
赤ワイン懸濁液(集菌洗浄2回) 1.9x102 cfu
【0112】
実施例6:系統樹解析
各種乳酸菌株のL-LDH遺伝子配列を決定し、系統樹解析することで菌種判定に有効であるかどうかを調べた。すなわち、各種乳酸菌株のL−LDH遺伝子の部分配列のうち上流側約450塩基の塩基配列を決定し、系統樹を作成した。系統樹解析にはCLUSTAL Wソフトウェアを使用した。
その結果、L−LDH遺伝子の系統樹(図3)は、16S rRNA遺伝子の系統樹(Zhang B. et al., International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology, vol.55, pp.2167-2170(2005))と近似していることが判明した。すなわち、L−LDH遺伝子の塩基配列は、16S rRNA遺伝子配列と同様に菌種同定に使用できることが確認された。但し、L−LDH遺伝子の部分配列のうち上流側約450塩基の塩基配列は、16S rRNA遺伝子配列と同様に各菌種間の相同性が比較的高かったため、本発明ではこの部分配列よりも外側(5’上流側)の遺伝子配列も判読し、菌種間で差がより大きい領域(特にプロモーター領域)を見出し、LAMPプライマーを設計した(図4)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号6の塩基配列で表されるポリヌクレオチドまたはその塩基配列の相補配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズする少なくとも10塩基のポリヌクレオチドからなる、ペディオコッカス・ダムノサス(Pediococcus damnosus)検出用プローブまたはプライマー。
【請求項2】
請求項1に記載の二種以上のプライマーからなる、ペディオコッカス・ダムノサス検出用LAMP法プライマーセット。
【請求項3】
下記ポリヌクレオチドを含んでなる、請求項2に記載のLAMP法プライマーセット:配列番号1の塩基配列で表されるポリヌクレオチド(FIP)またはその塩基配列の相補配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズする少なくとも10塩基のポリヌクレオチド;
配列番号2の塩基配列で表されるポリヌクレオチド(F3)またはその塩基配列の相補配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズする少なくとも10塩基のポリヌクレオチド;
配列番号3の塩基配列で表されるポリヌクレオチド(BIP)またはその塩基配列の相補配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズする少なくとも10塩基のポリヌクレオチド;および
配列番号4の塩基配列で表されるポリヌクレオチド(B3)またはその塩基配列の相補配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズする少なくとも10塩基のポリヌクレオチド。
【請求項4】
配列番号5の塩基配列で表されるポリヌクレオチド(LB)またはその塩基配列の相補配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズする少なくとも10塩基のポリヌクレオチドを更に含んでなる、請求項3に記載のLAMP法プライマーセット。
【請求項5】
請求項1に記載の二種以上のプライマーからなる、ペディオコッカス・ダムノサス検出用PCR法プライマーセット。
【請求項6】
配列番号1〜6の塩基配列の相補配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズする少なくとも10塩基のポリヌクレオチドが、それぞれ、対応する塩基配列の連続する少なくとも10個のヌクレオチドを含んでなるポリヌクレオチドである、請求項1に記載のプローブまたはプライマーまたは請求項3または4に記載のプライマーセット。
【請求項7】
配列番号1〜6の塩基配列の相補配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズする少なくとも10塩基のポリヌクレオチドが、それぞれ、対応する塩基配列と少なくとも90%の同一性を有するポリヌクレオチドである、請求項1に記載のプローブまたはプライマーまたは請求項3または4に記載のプライマーセット。
【請求項8】
配列番号1〜6の塩基配列の相補配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズする少なくとも10塩基のポリヌクレオチドが、それぞれ、対応する塩基配列において、1または数個のヌクレオチドが改変された改変塩基配列からなり、かつ対応する塩基配列の相補配列で表されるポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチドである、請求項1に記載のプローブまたはプライマーまたは請求項3または4に記載のプライマーセット。
【請求項9】
請求項1に記載のプローブまたはプライマー、請求項2〜4のいずれか一項に記載のプライマーセット、または請求項5に記載のプライマーセットを用いて試料中の標的核酸を検出する工程を含んでなる、ペディオコッカス・ダムノサスの検出方法および飲料の混濁可能性の判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−81935(P2010−81935A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202604(P2009−202604)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)
【Fターム(参考)】