説明

ペトリディッシュ、チャンバー装置、光学顕微鏡観察方法及び試料分析方法

【課題】 本発明は、例えば生きた細胞の観察、分析及び処理に適し、蓋体を装着したままで蛍光観察と微分干渉観察を併用することができるペトリディッシュを提供する。
【解決手段】
蓋体10と容器体20とを備え、これら蓋体10と容器体20の双方に互いに対向する透孔11,21をそれぞれ形成し、これら透孔11,21を光の透過が可能な板部材12,22によってそれぞれ閉塞した構成とする。少なくとも蓋体10の板部材12は、その自家蛍光を抑えるとともに光学的に均質処理した構成とし、好ましくは、蓋体10の透孔11を、容器体20の透孔21のより大きくした構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば生きた細胞の観察、分析及び処理に適し、蓋体を装着したままで蛍光観察と微分干渉観察を併用することができるペトリディッシュ、チャンバー装置、光学顕微鏡観察方法及び試料分析方法の提供を目的とする。
【背景技術】
【0002】
図8は従来の一般的なガラスボトムのペトリディッシュを示す断面図である。同図において、従来のペトリディッシュ100は、主として透明なスチロール樹脂等からなる蓋体110と容器体20とからなり、容器体20の底部に形成した透孔21にガラススリップ22を接着した構成となっていた。これら蓋体110の上面と容器体20の下面とには、それぞれ円環状の高台111及び23が一体的成形してあり、これら蓋体110の上面と容器体20の下面とに傷が付くのを防止している。なお、蓋体110の高台111の内径を、容器体20の高台23の外径よりも大きくして、複数のペトリディッシュ100を重ねて置けるようにしてある。
【0003】
このようなペトリディッシュ100を用いて培養細胞等の試料31を処理、観察又は分析する場合は、容器20内を培養液やバッファ又は生理食塩水等の溶液(メディウム)32で満たすとともに、ガラススリップ22に前記試料31を植え付ける。その後、容器20に蓋体110を装着することによって、溶液32へのゴミや不要物の混入、及び、溶液32の蒸発を防ぐ。
【0004】
次に、上記ペトリディッシュ中の試料を正立顕微鏡で観察する場合について図8及び図9を参照しつつ説明する。図9は正立顕微鏡を示す概略図である。同図において、正立顕微鏡200における試料31の照明光の投下方法には、透過照明と反射又は落射照明の2種類がある。
【0005】
まず、透過照明について説明すると、光源201から出射された照明光は、鏡基202を通って照明レンズ203を透過し、コンデンサレンズ204により集光された後、ペトリディッシュ100の下面側からステージ205上に載置した試料に到達する。その後、試料31を透過した光、又は試料31から出た光は対物レンズ206に到達し、鏡筒207を経て接眼レンズ208から観察されるか、図示しない撮像装置で記録される。なお、ペトリディッシュ100の蓋体110を外して容器体20内の溶液32に直接、対物レンズ206の先端を浸して観察する方法も行われている。
【0006】
次いで、反射又は落射照明について説明すると、光源209から出射された照明光は、投光管210を経て対物レンズ206に到達する。該対物レンズ206により試料31に集光された光は、該試料31により反射、散乱、又は蛍光励起されて再び対物レンズ206に戻り、投光管210を通過して鏡筒207を経て接眼レンズ208から観察されるか、前記撮像装置で記録される。
【0007】
次に、上記ペトリディッシュ中の試料を倒立顕微鏡で観察する場合について図8及び図10を参照しつつ説明する。図10は倒立顕微鏡を示す概略図である。同図において、倒立顕微鏡300も上記と同様、試料31の照明光の投下方法に、透過照明と反射又は落射照明の2種類を採用している。
【0008】
まず、透過照明について説明すると、光源301から出射された照明光は、透過照明支柱302に取り付けた投光管303を経てコンデンサレンズ304を透過し、ステージ305上に載置したペトリディッシュ100内の試料31に集光される。試料31を透過した光、又は試料31から出た光は、対物レンズ306に到達し、鏡体307を経て接眼レンズ308から観察されるか、前記撮像装置で記録される。
【0009】
次いで、反射又は落射照明について説明すると、光源309から出射された照明光は、鏡体307を経て対物レンズ306に到達する。該対物レンズ306によって試料31に集光された光は、該試料31により反射,散乱,又は蛍光励起されて再び対物レンズ306に戻り、鏡体307を経て接眼レンズ308から観察されるか、前記撮像装置で記録される。
【0010】
このような正立顕微鏡200又は倒立顕微鏡300を用いた試料31の処理、観察又は分析では、ペトリディッシュ100の容器体20の底面がスチロール樹脂等の樹脂の方がガラスよりも細胞の定着性が良好であるが、光学的にはガラスの方が好都合であることが多い。
【0011】
例えば、試料31となる細胞は、光学的に透明に近く、明視野透過照明観察ではコントラストがつき難い。そこで、位相差観察や微分干渉観察が行われるのであるが、位相差観察の場合は、容器体20の底面が透明樹脂製であると、該透明樹脂と細胞膜との角度が90°に近い程過剰なコントラストを生じてハーレーションが現れてしまう。一方、微分干渉観察の場合は、容器体20の底面が透明樹脂製であると、微分干渉観察のコントラストの要素であるシアリング量が均一にならない。このような透明樹脂の光学的な不均質性がコントラストを生み、細胞のイメージと重なり、目的の細胞観察が行えないという不都合を生じる。
【0012】
また、上述のような光学顕微鏡観察を行うために試料31を支持するには、該支持部材が光学的に均質な性質を有している必要であり、さらに、分析や処理を行うためには熱的に安定であることが要求される。これに加え、試料31が生体や細胞である場合では、該試料31への影響が少ない性質であることが必要である。そこで、上記構成からなるガラスボトムのペトリディッシュ100を採用し、細胞に代表される透明性の高い試料31の観察が可能となった。
【0013】
このようなガラスボトムのペトリディッシュ100を用いて、哺乳動物の細胞分裂における染色体と微小管の挙動に関する研究論文を下記非特許文献として挙げる。該非特許文献の379ページに35mm径のガラスボトム培養ディッシュ内の細胞を油浸(オイル)対物レンズで観察する方法と装置が開示されている。
【非特許文献1】Tokuko Haraguchi, Toru Kaneda, Yasushi Hiraoka [Dynamics of chromosomes and microtubules visualized by multiple-wavelength fluorescence imaging in living mammalian cell: effects of mitotic inhibitors on cell cycle progression] Genes to cell (1997) 2, 369-380
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述した従来のペトリディッシュ100の容器20内を培養液等の溶液32で満たした場合は、液表面の波、蒸発による濃度変化や濃度勾配の発生、蒸発の二次的効果による対流の影響がない、又は少なければならない。したがって、このような外部からの影響を遮断するために蓋体110は必須といえる。一方で、生きた細胞の所定部分(例えば、核など)を蛍光観察する場合に、位相差観察、ホフマン観察、又は微分干渉観察を併用して細胞全体の形態を観察することが行われている。
【0015】
しかし、透明樹脂製の蓋体110を装着したままで微分干渉観察を行うと、該透明樹脂の光学的性質が不均質であるために偏光が生じてしまい、蓋体110を介した試料31への集光が適正に行えず、又は蓋体110を介した観察では十分な解像が得られず、結局、蓋体110を外さなければ微分干渉観察を行うことができないという問題があった。
【0016】
すなわち、微分干渉観察は、偏光を使った光学系であるため、光路途中に歪みや組成等に起因する光学的性質が不均質なプラスチック部材が介在すると、解像(ないし見え方)が著しく悪くなる。このため、従来のガラスボトムのペトリディッシュ100を使用して蛍光観察と微分干渉観察を併用する場合は蓋体110を取り外さなければならない。
【0017】
ところが、生きた細胞の観察において、蓋体110を取り外すことは雑菌の混入につながるため、数時間程度の短時間の観察に限られてしまう。また、一度蓋体110を開けて観察したペトリディッシュ100は雑菌が繁殖してしまうおそれがあるため、その後の形態の観察に期待できない。ここで、溶液32に抗生物質を添加する手法もあるが、試料たる細胞への影響が懸念され、近年では敬遠されている手法である。このため、生きた細胞を数日に渡って観察する場合は、該細胞の所定部分を蛍光観察するとともに、該蛍光観察用の対物レンズを使用して、前記細胞の全体の外観形状を、わずかなコントラストのある画像か、対物外位相差観察するほかなかった。
【0018】
また、高倍の対物レンズを使用する場合では、対物レンズのワーキングディスタンス(WD)が短い。例えば、100倍の対物レンズのWDは0.15mm程度のものがある。これに対応するコンデンサレンズのWDは0.7mm程度になる。このため、ペトリディッシュ100の蓋体110が厚さ0.5〜1mm程度の透明樹脂で形成されているならば、もはや微分干渉観察を行うことができないという問題もあった。
【0019】
なお、蛍光観察と位相差観察又はホフマン観察とを組み合わせた場合は、オイル対物の使用を前提とする蛍光観察から、ドライタイプの対物レンズの使用を前提とする位相差観察又はホフマン観察に切り替えるときに、今まで観察していた領域がずれてしまったり、蛍光観察時の残留オイルの付着によって位相差観察又はホフマン観察時に結像不良が生じてしまったりするという問題があった。また、対物レンズの交換をなくすために、位相差観察又はホフマン観察と同じ対物レンズで蛍光観察を行うと、対物レンズ内のスリット、位相膜又はナイフエッジ等のモジュレータによる光量ロスが発生してしまうという問題がある。
【0020】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、蓋体を装着したままで蛍光観察と微分干渉観察を併用することができるとともに、当該微分干渉観察においてコンデンサレンズと対物レンズ間の空気層をなくすことができ、高解像度及び高倍の微分干渉観察と蛍光観察の併用が可能となるペトリディッシュ、チャンバー装置、光学顕微鏡観察方法及び試料分析方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために、本発明の第1のペトリディッシュは、蓋体と容器体とを備え、少なくとも前記蓋体に透孔を形成し、該透孔を光の透過が可能な板部材によって閉塞した構成としてあり、好ましくは、前記蓋体と容器体の双方に互いに対向する透孔をそれぞれ形成し、これら透孔を前記板部材によってそれぞれ閉塞した構成とする。
【0022】
上記目的を達成するために、本発明の第2のペトリディッシュは、蓋体と容器体とを備え、前記蓋体に、前記容器体の内側に向かって突出する透孔部を形成し、該透孔部の下端開口を光の透過が可能な板部材によって閉塞するとともに、前記容器体に、前記透孔部に対向する透孔を形成し、該透孔を光の透過が可能な他の板部材によって閉塞した構成としてある。
【0023】
より好ましくは、上記第1及び第2のペトリディッシュにおいて、前記板部材の自家蛍光を抑えた構成、若しくは、前記板部材を光学的に均質処理したガラスとした構成、若しくは、前記板部材を石英ガラスとした構成、又は、前記蓋体の透孔を、前記容器体の透孔のより大きくした構成とする。
【0024】
上記目的を達成するために、本発明のチャンバー装置は、上記ペトリディッシュにおける、前記蓋体に溶液の供給と排出を行うための少なくとも2本のパイプを貫通させ、これらパイプを通じて前記容器体内に入れた前記溶液を循環させた構成としてあり、好ましくは、前記蓋体に前記溶液以外の添加物質を前記容器体内に供給するための他のパイプを貫通させた構成とする。
【0025】
上記目的を達成するために、本発明の光学顕微鏡観察方法は、上記ペトリディッシュ又はチャンバー装置における、前記蓋体の板部材の上方から前記容器体内に照明光を照射するとともに、該容器体の板部材の下方から対物レンズによって試料の観察を行うようにしている。好ましくは、前記照明光を試料に集光させるためのコンデンサレンズと前記蓋体の板部材との間にオイル又は液体を介在させ、前記試料の観察を、蛍光観察と微分干渉観察との併用とする。上記目的を達成するために、本発明の試料分析方法は、上記光学顕微鏡観察方法により得た観察画像に基づいて前記試料の分析を行うようにしている。
【発明の効果】
【0026】
本発明のペトリディッシュ、チャンバー装置、光学顕微鏡観察方法及び試料分析方法によれば、ペトリディッシュ又はチャンバー装置における蓋体の板部材を介して偏光のない照明光を試料に照射することができる。これにより、蓋体を取り外すことなく、一般的なオイル対物レンズを使用して、生きた細胞の蛍光観察と微分干渉観察を行うことが可能となる。また、蓋体を取り外すことがないので、生きた細胞の蛍光観察と微分干渉観察を長時間に渡って行った場合でも該細胞が劣化しないという効果を奏する。
【0027】
さらに、ペトリディッシュ又はチャンバー装置における蓋体に、容器体の内側に向かって突出する透孔部を形成し、該透孔部の下端開口を光の透過が可能な板部材によって閉塞した場合は、該蓋体の板部材が容器体内の溶液に浸かり、該板部材と試料の間に存在していた空気層をなくすことができ、照明光の集光にオイルコンデンサレンズを用いることによって、これまで生きた細胞の蛍光観察と併用が不可能であった高解像、高倍の微分干渉観察が可能となる。
【0028】
これに加え、本発明のチャンバー装置、光学顕微鏡観察方法及び試料分析方法によれば、容器体内の溶液を一定の成分、濃度、温度に保つとともに、該容器体内の溶液を新鮮に保つことができる。また、あらかじめ設定した時間、濃度、量の添加物質をパイプから供給することにより、試料たる生きた細胞に刺激を与え、又は環境変化への反応を知るための実験を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態に係るペトリディッシュ、チャンバー装置、光学顕微鏡観察方法及び試料分析方法について図面を参照しつつ説明する。まず、本発明の第1実施形態に係るペトリディッシュについて、図1を参照して説明する。図1は本発明の第1実施形態に係るペトリディッシュを示す断面図である。なお、上述した従来技術と同様の箇所については、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0030】
同図において、本実施例のペトリディッシュ1は、透明なスチロール樹脂等からなる蓋体10と容器体20とからなっている。蓋体10のほぼ中央には円形の透孔11が形成してある。該透孔11は、容器体20の底部に形成した透孔21と対向する位置関係を有しており、その裏側(容器体20側)から光の透過が可能な板部材12を接着することにより閉塞してある。
【0031】
該板部材12は、その偏光や複屈折などの光学的な解像低下要因を低減するために、自家蛍光を抑え、且つ光学的に均質処理したものが好ましい。例えば、自家蛍光を抑えるために、極めて肉厚の薄い板ガラス、無蛍光材により形成した板ガラスなどを用いることができる。また、光学的な均質処理として、板部材12の波長選択性を低減するために反射防止膜を施すこと、歪みをなくすこと、光学的性質を均質にしやすい組成物を使用すること、内部応力を均一化することなどを挙げることができる。このような観点から、板部材12の材料としては、化学的に合成した不純物の少ない合成石英ガラスが好ましい。但し、容器体20の板部材22と同様のガラススリップであっても十分な解像を得ることが可能である。なお、蓋体10の板部材12と、容器体20の板部材22とは、観察方法に応じて光学的、熱的又は形状的に同じ材質の場合もあれば、異なる材質の場合もある。
【0032】
一方、板部材12を透孔11に固定するための接着剤としては、膨潤性と自家蛍光性をともに有しないもの、又は目的に応じていずれか一方のみを有しないものが望ましく、蓋体10と板部材12の接合面を全て該接着剤で満たした構成、又は、少量の接着剤により気密及び水密を確保することができる最低限の範囲で封止した構成としてもよい。なお、これら蓋体10と板部材12の接合は、接着剤による接着に限らず、熱接合などの他の接合手段によることもできる。
【0033】
また、透孔11と板部材12の形状は、本実施形態の如き円形に限らず、例えば、矩形や楕円形などとしてもよい。但し、透孔11から入射される照明光の一部が容器体20内の試料31に到達する途中で遮られることのない形状及び大きさとする必要がある。したがって、蓋体10の透孔11の直径L1を、容器体20の透孔21の直径L2と同じ又は大きくすることが望ましい。ここで、図2は上記ペトリディッシュ1の変更例を示す断面図であり、同図に示すように、蓋体10の板部材12は、透孔11の表側から接着又は接合してもよい。
【0034】
次に、本発明の第1実施形態に係る光学顕微鏡観察方法について、図3を参照しつつ説明する。図3は本発明の第1実施形態に係る光学顕微鏡観察方法を説明するための概略図である。
【0035】
本実施形態では、図2に示すペトリディッシュ1と、図10に示す倒立顕微鏡300とを用いて試料31の蛍光観察と微分干渉観察を行う。まず、図10に示す倒立顕微鏡300のステージ305に本ペトリディッシュ1を載置する。次いで、図3に示すように、本ペトリディッシュ1における蓋体10の板部材12の上方から容器体20内に照明光Sを照射するとともに、該容器体20の板部材22の下方から対物レンズ306によって試料31の蛍光観察と微分干渉観察を同時ないし交互に行う。なお、板部材22と対物レンズ306の相互間(間隔=約0.1mm)はオイル306aで満たしてある。その後、このような蛍光観察と微分干渉観察により得た観察画像に基づいて試料31の分析を行う。
【0036】
このような本実施形態のペトリディッシュ及び光学顕微鏡観察方法によれば、蓋体10の板部材12を光学的に均質としたことによって、該板部材12を介して偏光のない照明光を試料31に照射することができる。これにより、蓋体10を取り外すことなく、一般的なオイル対物レンズを使用して、生きた細胞の蛍光観察と微分干渉観察を行うことが可能となる。また、蓋体10を取り外すことがないので、生きた細胞の蛍光観察と微分干渉観察を長時間に渡って行った場合でも該細胞が劣化しないという効果を奏する。
【0037】
また、光学的に均質な板部材12を透過した照明光により良好な微分干渉観察、又は蛍光観察と微分干渉観察の観察画像を得ることができるので、該観察画像に基づいて試料31の分析が良好に行えるようになる。
【0038】
次に、本発明の第2実施形態に係るペトリディッシュについて、図4を参照して説明する。図4は本発明の第2実施形態に係るペトリディッシュを示す断面図である。なお、上述した実施形態と同様の箇所については、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0039】
同図において、本実施例のペトリディッシュ2は、蓋体40に、容器体20の内側に向かって突出する円筒状の透孔部41を形成し、該透孔部41の下端開口41aを光の透過が可能な板部材42によって閉塞した構成としてある。このような構成により、蓋体40の板部材42が容器体20内の溶液32に浸かり、該板部材42と試料31の間に存在していた空気層をなくしている。また、該板部材42と試料31の間隔は約1.5mm程度に設定してある。
【0040】
なお、上記第1実施形態と同様に、板部材42は、その偏光や複屈折などの光学的な解像低下要因を低減するために、自家蛍光を抑え、且つ光学的に均質処理したものが好ましい。また、照明光の入射損失を防止するために蓋体40の透孔部41の直径L1を、容器体20の透孔21の直径L2と同じ又は大きくすることが望ましい。
【0041】
次に、本発明の第2実施形態に係る光学顕微鏡観察方法について、図5を参照しつつ説明する。図5は本発明の第2実施形態に係る光学顕微鏡観察方法を説明するための概略図である。
【0042】
上記第1実施形態と同様に、図4に示すペトリディッシュ2と、図10に示す倒立顕微鏡300とを用いて試料31の蛍光観察と微分干渉観察を行うが、本実施形態では、コンデンサレンズ304と蓋体40の板部材42の相互間(間隔=約0.1mm)をオイル304aで満たしたオイルコンデンサレンズを使用している。
【0043】
まず、図10に示す倒立顕微鏡300のステージ305に本ペトリディッシュ2を載置する。次いで、図5に示すように、本ペトリディッシュ2における蓋体40の透孔部41にコンデンサレンズ304を挿入し、オイル304a及び板部材42を介して容器体20内に照明光Sを照射する。一方で、該容器体20の板部材22の下方から対物レンズ306によって試料31の蛍光観察と微分干渉観察を同時ないし交互に行う。その後、このような蛍光観察と微分干渉観察により得た観察画像に基づいて試料31の分析を行う。
【0044】
このような本実施形態のペトリディッシュ及び光学顕微鏡観察方法によれば、ペトリディッシュ2における蓋体40の板部材42が容器体20内の溶液32に浸かり、該板部材42と試料31の間に存在していた空気層をなくすことができ、オイルコンデンサレンズの使用と相まって、これまで生きた細胞の蛍光観察と併用が不可能であった高解像の微分干渉観察が可能となる。
【0045】
詳述すると、図1及び図2に示すような、板部材12と空気の界面、及び空気と溶液32の界面は屈折率差、すなわち、反射率と屈折率が大きい。反射率が大きいことは試料31に到達する光量が減少し、かつ、屈折率が大きいことは収差が大きく、焦点でのエアリーディスクが大きくなって空間分解能が落ちることを意味する。
【0046】
本実施形態のペトリディッシュ2の如く、蓋体40の板部材42が容器体20内の溶液32が浸かれば、反射率と屈折率が大きい2つの界面を排除することができ、反射率と屈折率の小さい板部材42と溶液32の界面のみが残ることになる。そして、該界面の影響は、板部材42と溶液32の屈折率を同じ又は極めて近い値とすることにより無視することができる。
【0047】
これに加え、オイルコンデンサレンズは、高いNA(開口角)の照明が可能であり、これがシングルセルの観察に適した照明を可能にする。また、コンデンサレンズ304と対物レンズ306の間には空気層が一切介在しない。この結果、高倍の観察に適した照明と、微弱な蛍光を検知するような観察とが可能となる。
【0048】
なお、上記実施形態では、コンデンサレンズ304と、蓋体40の板部材42との間にオイルを介在させているが、該板部材42の表面に凹部を形成してオイルその他の液体を保持するようにしてもよい。また、コンデンサレンズの切り替えや作動距離(WD)を考慮して、蓋部40における透孔部41の直径を大きくするとともに、その深さを浅くすることにより、該コンデンサレンズの焦点位置を上下に移動することなく、交換又は切り替え可能とすることができる。
【0049】
次に、本発明の一実施形態に係るチャンバー装置について、図6を参照して説明する。図6は本発明の一実施形態に係るチャンバー装置を示す断面図である。なお、上述した実施形態と同様の箇所については、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0050】
同図において、本実施形態のチャンバー装置3は、図2に示す本ペトリディッシュ1の蓋体10に2つの貫通孔14,15を穿設するとともに、これら貫通孔14,15のそれぞれにパイプ51,52を挿通し、前記貫通孔14,15をそれぞれシール部材61,62で封止した構成としてある。
【0051】
パイプ51は、容器体20内に溶液32を供給するためのものであり、また、パイプ52は、容器体20内の溶液32を排出するためのものである。これらパイプ51,52をガラス、金属又はプラスチック製とし、図示しない溶液循環装置のポンプに接続して、容器体20内の溶液32が循環するようになっている。
【0052】
また、図7は上記チャンバー装置3の変更例を示す断面図である。同図に示すように、供給側の貫通孔14に溶液32供給用の前記パイプ51のほかに、添加物質を容器体20内に供給するためのパイプ53を追加した構成としてある。貫通孔14は2つ孔のシール部材63により封止してある。
【0053】
なお、シール部材61,62,63として、例えば、シリコンゴムやフッ素ゴムなどのシール性の良好な材料を用い、これらシール部材61,62には、パイプ51,52の挿通前は弾性で閉じた状態となって、圧入したパイプ51,52を密着保持可能な孔を設ける。このようなシール部材61,62,63によって、各パイプ51,52,53の先端を所定の高さに保持することができる。例えば、排出用のパイプ52を所定の高さに保持することによって、溶液32の液面を一定に保つことができる。
【0054】
このような本実施形態のチャンバー装置3によれば、容器体20内の溶液32を一定の成分、濃度、温度に保つとともに、容器体20内の溶液32を新鮮に保つことができる。また、あらかじめ設定した時間、濃度、量の添加物質をパイプ53から供給することにより、試料31たる生きた細胞に刺激を与え、又は環境変化への反応を知るための実験を行うことができる。
【0055】
例えば、パイプ51から所定温度に保たれた溶液32を供給するとともに、パイプ53から炭酸ガスを供給することにより、容器体20内の溶液32を温度37℃弱、CO2濃度5%に保つことができ、これに加えて、本チャンバー装置3が置かれた環境の湿度を90%に保つことにより、試料31たる生きた細胞の活性を長期間に渡って維持することができる。
【0056】
また、本チャンバー装置3は、上述した実施形態に係るペトリディッシュ1と同様の顕微鏡観察に用いることができ、この場合は、蓋体10と容器体20を挟み込んで固定したり、クランプやクレンメルで押さえたりするとよい。
【0057】
なお、本発明のペトリディッシュ、チャンバー装置、光学顕微鏡観察方法及び試料分析方法は、上述した各実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明のペトリディッシュは、正立顕微鏡、倒立顕微鏡、実体顕微鏡、又はペトリディッシュの上下から観察する顕微鏡の他、写真装置にも適用可能である。光学や磁気、放射線を利用する分析装置にも適用可能である。また、本発明のペトリディッシュ及びチャンバー装置は、上記実施形態の如き、光学顕微鏡観察方法及び試料分析方法に限らず、試料準備段階における種々の処理方法にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の第1実施形態に係るペトリディッシュを示す断面図である。
【図2】上記ペトリディッシュの変更例を示す断面図である。
【図3】発明の第1実施形態に係る光学顕微鏡観察方法を説明するための概略図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係るペトリディッシュを示す断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る光学顕微鏡観察方法を説明するための概略図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るチャンバー装置を示す断面図である。
【図7】上記チャンバー装置の変更例を示す断面図である。
【図8】従来の一般的なガラスボトムのペトリディッシュを示す断面図である。
【図9】正立顕微鏡を示す概略図である。
【図10】倒立顕微鏡を示す概略図である。
【符号の説明】
【0059】
1,2 ペトリディッシュ
10 蓋体
11 透孔
12 板部材
13 高台
14,15 貫通孔
20 容器体
21 透孔
22 板部材(ガラススリップ)
23 高台
31 試料
32 溶液
40 蓋体
41 透孔部
42 板部材
43 高台
3 チャンバー装置
51,52,53 パイプ
61,62,63 パッキン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓋体と容器体とを備え、少なくとも前記蓋体に透孔を形成し、該透孔を光の透過が可能な板部材によって閉塞したことを特徴とするペトリディッシュ。
【請求項2】
前記蓋体と容器体の双方に互いに対向する透孔をそれぞれ形成し、これら透孔を前記板部材によってそれぞれ閉塞したことを特徴とする請求項1記載のペトリディッシュ。
【請求項3】
蓋体と容器体とを備え、前記蓋体に、前記容器体の内側に向かって突出する透孔部を形成し、該透孔部の下端開口を光の透過が可能な板部材によって閉塞するとともに、前記容器体に、前記透孔部に対向する透孔を形成し、該透孔を光の透過が可能な他の板部材によって閉塞したことを特徴とするペトリディッシュ。
【請求項4】
前記板部材の自家蛍光を抑えたことを特徴とする請求項1〜3いずれか記載のペトリディッシュ。
【請求項5】
前記板部材を光学的に均質処理したガラスとしたことを特徴とする請求項1〜4いずれか記載のペトリディッシュ。
【請求項6】
前記板部材を石英ガラスとしたことを特徴とする請求項1〜5いずれか記載のペトリディッシュ。
【請求項7】
前記蓋体の透孔を、前記容器体の透孔のより大きくしたことを特徴とする請求項2〜6いずれか記載のペトリディッシュ。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか記載のペトリディッシュにおける、前記蓋体に溶液の供給と排出を行うための少なくとも2本のパイプを貫通させ、これらパイプを通じて前記容器体内に入れた前記溶液を循環させたことを特徴とするチャンバー装置。
【請求項9】
前記蓋体に前記溶液以外の添加物質を前記容器体内に供給するための他のパイプを貫通させたことを特徴とする請求項8記載のチャンバー装置。
【請求項10】
請求項2〜7いずれか記載のペトリディッシュ若しくは請求項8又は9記載のチャンバー装置における、前記蓋体の板部材の上方から前記容器体内に照明光を照射するとともに、該容器体の板部材の下方から対物レンズによって試料の観察を行うことを特徴とする光学顕微鏡観察方法。
【請求項11】
前記照明光を試料に集光させるためのコンデンサレンズと前記蓋体の板部材との間にオイル又は液体を介在させたことを特徴とする請求項10記載の光学顕微鏡観察方法。
【請求項12】
前記試料の観察を、蛍光観察と微分干渉観察との併用としたことを特徴とする請求項10又は11記載の光学顕微鏡観察方法。
【請求項13】
請求項10〜12いずれか記載の光学顕微鏡観察方法により得た観察画像に基づいて前記試料の分析を行うことを特徴とする試料分析方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−30583(P2006−30583A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−209175(P2004−209175)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】