説明

ペプチド含有飲料

【課題】
機能性を有するペプチドの苦味・臭いを低減する方法が検討されていたが、従来の技術はペプチドの苦味や臭いを他の成分で紛らわす方法が主となっており、添加されている成分の影響が無視できず、ペプチドの苦味や臭いを効果的に抑制する方法が求められていた。
【解決手段】
本発明者らは、上記ペプチドを含有する飲料において、ペプチドの苦味・臭いを改善するために、サイクロデキストリンを添加し飲料を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチド含有飲料に関し、詳しくは、ペプチドを添加して調製された飲料より生じるペプチド臭を、効果的に抑制することが可能となるペプチド含有飲料を提供する。
【背景技術】
【0002】
ペプチドとは、アミノ酸がペプチド結合(アミノ酸のα−カルボキシル基とα−アミノ基の間の脱水縮合)によって重合したものをいい、アミノ酸残基が2〜10個のものをオリゴペプチド、10〜50基からなるものをポリペプチド、それ以上のものを蛋白質と称している。
【0003】
このペプチドは生理活性を有しており、具体的には代謝調節(記憶、睡眠、血糖値、血圧、免疫)、抗菌・抗ウイルス、抗腫瘍、呈味、酵素活性阻害、微生物の接合促進、抗酸化性、乳化性などを示すものが知られている。ペプチドは通常蛋白質を分解して得られ、近年では様々なペプチドの生理活性が認められている。例えば、魚類の細胞核にはアルギニンを主成分とする蛋白であるプロタミンが多く含まれており、このプロタミンを分解して得られるオリゴペプチドには抗アレルギー作用、美肌作用等の優れた効果があることが知られている。また、大豆ペプチドには、脳の機能を向上し、疲労を軽減するという新たな健康効用が見つかってきている。さらに、コラーゲンとコラーゲンペプチドを比較すると、コラーゲンペプチドが保水力の点で優れていることが知られている。その他にも血圧降下作用やコレステロール低下作用、学習促進作用や抗脱毛作用のような効果を示すものも知られている。
【0004】
ペプチドはもとの蛋白質に比べその分子が小さく、また複数のアミノ酸残基が重合した構成であり、アミノ酸単体を吸収するよりも人体への栄養分の吸収が効率的に行われるという効果が期待できることから、近年、様々な食品に添加され、健康食品、特定保健用食品として販売されている。
【0005】
ところが、食品へ添加する際、ペプチド自体の苦味や独特の臭いが問題とされていた。このペプチド独特の臭いを解決するために様々な方法が開示されている。具体的には、原料となるペプチドや蛋白質加水分解物の段階で苦味や臭いを低減する方法、即ちカゼインを酸性下でプロテアーゼ処理し、中性下でペプチダーゼ処理して分解し、限外濾過膜処理、陰イオン交換樹脂処理を行う方法(特許文献1)、15%トリクロル酢酸可溶率が特定範囲である大豆蛋白質加水分解物溶液を特定温度範囲で吸着剤処理することによる、不快臭がなく風味のよい大豆ペプチド混合物(特許文献2)、牛乳由来の蛋白質を蛋白加水分解酵素で処理し、分子量を特定値以上にした、酵素分解に伴う風味の劣化が少ないペプチド組成物(特許文献3)、動植物蛋白質を水系下にエンドプロテアーゼ及びエキソプロテアーゼを用い、中性域で酵素分解し吸着剤で処理等して、苦味、臭い、味が改善され、風味、嗜好性に優れた栄養補給剤として好適なオリゴペプチド混合物(特許文献4)、特定のアンギオテンシン変換酵素阻害ペプチド含有溶液を、平均細孔直径が特定の活性炭で処理することにより、阻害活性を低下させることなく、苦味や臭いを除去してペプチドを精製する方法(特許文献5)などが開示されている。或いは、食品に添加したペプチドの風味劣化を抑制する方法、具体的には、乳ペプチドとハーブエキスを含有する乳飲料(特許文献6)、トレハロースを用いてペプチド類特有の着色性を軽減し、臭い・味の嗜好性を改良する方法(特許文献7)、酸味料で予めpHを所定酸性領域に調整後、トレハロース等の非還元糖等で風味を整えることにより、加熱や長時間保存しても風味劣化を起こさないアミノ酸含有飲料(特許文献8)などが開示されている。
【0006】
しかしながら、これらの技術を持ってしても、食品におけるペプチド臭を抑えることは不十分であった。
【0007】
【特許文献1】特許3233779号公報
【特許文献2】特許3158849号公報
【特許文献3】特許3071877号公報
【特許文献4】特許2945995号公報
【特許文献5】特開2002−119210号公報
【特許文献6】特開2003−102380号公報
【特許文献7】特開2002−187900号公報
【特許文献8】特許2971855号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の技術は、上述のように食品に添加する前のペプチドの苦味・臭いを低減する方法が主に検討されており、食品に添加した後に生じる苦味・臭いへの対応は、ペプチドの苦味や臭いを他の成分で紛らわす方法が主となっている。そのため、ペプチドの臭いを低減させるために添加されている成分の影響が無視できず、食品の製造を困難なものとしていた。
【0009】
即ち、食品に添加しても味や臭いに影響を与えず、食品、特に飲料に添加したペプチドより生じる苦味・臭いを効果的に抑制する方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記ペプチドを含有する食品、特に摂取が容易な飲料におけるペプチドの苦味・臭いを改善するために鋭意検討を重ねた結果、サイクロデキストリンを添加し飲料を調製することで、ペプチドの苦味・臭いを効果的に抑制するとの知見と得て本発明を完成するに至った。
【0011】
尚、従来よりサイクロデキストリンは包接化合物として、不溶性・難溶性物質の可溶化、揮発しやすい物質(香料成分等)の保持、香料の安定化や徐放、潮解性・粘着性を有する物質の粉末化等様々な用途が開示されているが、本発明のようなペプチド臭抑制に関する知見は一切開示されていない。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、食品、特にペプチド独特の苦味・臭いを生じていたペプチド含有飲料において、従来の技術では解決できなかった、ペプチドに由来する苦味・臭いを抑制した飲料及びその抑制方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、各種ペプチドを含有する食品、特に飲料にサイクロデキストリンを添加することにより、食品に添加されているペプチドの苦味・臭いだけでなく、ペプチドが食品製造工程の熱履歴による熱劣化、太陽光やコンビニエンスストアの陳列ケース内の蛍光灯の照射を受けることにより生じる光劣化、食品の流通・保管時における様々な要因により発生する苦味・臭いまでも効果的に抑制することを特徴とする。
【0014】
本発明で使用できるペプチドは、様々な蛋白原料から得られるペプチドを制限無く利用できる。例えば、大豆由来蛋白や乳由来蛋白、牛・豚・鳥・魚由来蛋白、卵由来蛋白などを加水分解して得られるものが好適に用いることができるが、これらは市販されている蛋白加水分解物を使用することもできる。具体的には牛蛋白由来コラーゲンペプチド(株式会社ニッピ製 ペプタイドPRA)、魚蛋白由来コラーゲンペプチド(株式会社ニッピ製 ペプタイドFCP)、大豆蛋白由来ペプチド(不二製油株式会社製 ハイニュートR)、卵蛋白由来ペプチド(キユーピー株式会社製 EP−1)が例示できる。本発明で使用するペプチドには、アミノ酸や未分解の蛋白が含まれていてもよい。
【0015】
本発明で使用するサイクロデキストリンは、一般に流通している製品を利用することができる。サイクロデキストリンは、6〜12個のグルコースがα−1,4結合で環状に結合した非還元性のマルトオリゴ糖で、グルコース単位6、7、8個のものが知られており、それぞれα−サイクロデキストリン、β−サイクロデキストリン、γ−サイクロデキストリンと呼ばれている。また、サイクロデキストリンの環にグルコースやマルトオリゴ糖がα−1,6結合(枝付け)したものを分岐サイクロデキストリンといい、本発明ではこれらを利用することが可能であり、好ましくはα−サイクロデキストリンである。
【0016】
これらサイクロデキストリンとしては、いずれも市販されているものをそのまま利用することができる。具体的には、α−サイクロデキストリンとしては三共ライフテック株式会社製の「α−シクロデキストリン」、β−サイクロデキストリンとしては日本食品化工株式会社製の「セルデックスB−100」、分岐サイクロデキストリンとしては日研化成株式会社・塩水港精糖株式会社製の「イソエリートL」が例示できる。
【0017】
本発明を利用してペプチド臭を有意に抑制することができる食品に特に制限はないが、好適にはペプチドを含有する飲料である。具体的にはコーヒー、紅茶、酢含有飲料、炭酸飲料、果汁や果汁入り飲料、カクテルやチューハイなどの果汁入りアルコール飲料、ニアウォーターやスポーツドリンクなどの飲料類が挙げられる。その他、ゼリー、プリンやヨーグルトなどのデザート類、ドリンクヨーグルト、シェーク飲料などの乳製品、ゼリー等のデザート、グミキャンディー、錠菓、タブレットなどの菓子類などが例示できる。また、食品に限らず経口で摂取するドリンク剤などの医薬品、医薬部外品に添加することもできる。
【0018】
ペプチドを含有する飲料は、その製造後から流通工程を経て店頭に陳列されるに至るまで、太陽光や蛍光灯から受ける光や製造工程における加熱殺菌や長期保存時に受ける熱の影響を受ける場合があり、その結果飲料の光劣化及び/又は熱劣化が起こり、含有するペプチドが苦味や臭いの原因となり、飲料の商品価値を低下させることとなる。
【0019】
本発明に係るペプチド含有飲料の調製は、調製する飲料の一成分としてサイクロデキストリンを添加するだけで良く、特別な製造装置や製造条件を整える必要がないため、工業的にも簡便に本発明を実施することができる。また、サイクロデキストリンの添加量、添加する時期については、添加する飲料の種類、風味、製造方法などに応じて適宜増減、調節してもよい。サイクロデキストリンの添加量の例としては、飲料100部に対しサイクロデキストリン0.1〜5部、好ましくは0.5〜2部が例示できる。
【0020】
本発明に係る飲料には、本発明の構成に必要なペプチドとサイクロデキストリンに加え、飲料に通常添加される各種成分を、本発明の効果を妨げない範囲で添加することもできる。例えばクエン酸、乳酸などの有機酸及び/又はその塩類、アラビアガム、タラガム、グルコマンナン、サイリウムシードガム、マクロホモプシスガム、微結晶セルロース、発酵セルロース、微小繊維状セルロース、化工澱粉、加工澱粉、ショ糖、果糖、ブドウ糖、麦芽糖、澱粉糖化物、還元澱粉水飴、デキストリン、トレハロース、黒糖、はちみつ等の糖類、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、マンニトールなどの糖アルコール類、スクラロース、アスパルテーム、ステビア、アセスルファムカリウム、ソーマチン、サッカリンなどの高甘味度甘味料、アミノ酸、ミネラル、ビタミン類を添加してもよく、さらに乳化剤や分散安定剤、例えばグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸ナトリウム、カゼインナトリウム、レシチンなどが例示でき、これらの1種以上を製造する飲料に応じ適宜組み合わせ添加することができる。
【0021】
以下、本発明の内容を以下の試験例を用いて具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記に記載する処方の単位は特に言及しない限り、「部」は「重量部」を意味する。
【0022】
実施例
以下の処方に基づき飲料を調製し、サイクロデキストリンの有無及び種類によりペプチド臭の発現の程度を比較した。比較例としてサイクロデキストリン無添加の飲料を調製し、この飲料を標準として官能試験を行い、飲料調製直後の香味評価の結果を表1に示す。
【0023】
<ペプチド含有飲料の調製>
砂糖 10
クエン酸(無水) 0.1
ペプチド(詳細表1参照) 0.5
サイクロデキストリン(詳細表1参照) 0.1
水にて全量 100 部

上記処方に基づき各原料を水に溶解し、93℃達温加熱し、200ml容ジュース瓶にホットパック充填した。
【0024】
<評価>
5 ペプチド臭が強く感じられる
4 ペプチド臭がやや強く感じられる
3 ペプチド臭が弱く感じられる
2 ペプチド臭が弱いが感じられる
1 ペプチド臭がほとんど感じられない
【0025】
【表1】

【0026】
<結果>
表1の結果から、サイクロデキストリンを添加したペプチド含有飲料は、調製直後の時点からペプチド臭の発生を抑制していることが明らかになった。特にα−サイクロデキストリンは、β、分岐のものよりも強いペプチド臭抑制効果が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイクロデキストリンを含有することを特徴とするペプチド臭が抑制されたペプチド含有飲料。
【請求項2】
サイクロデキストリンがα−サイクロデキストリンである請求項1記載のペプチド含有飲料。
【請求項3】
添加されるペプチドが、大豆蛋白由来ペプチド、豚蛋白由来ペプチド、牛蛋白由来ペプチド、鳥蛋白由来ペプチド、魚蛋白由来ペプチド、小麦蛋白由来ペプチド、とうもろこし蛋白由来ペプチド、乳蛋白由来ペプチド及び卵蛋白由来ペプチドから選択される1種以上である請求項1又は2記載のペプチド含有飲料。
【請求項4】
ペプチド含有飲料にサイクロデキストリンを添加することを特徴とするペプチド臭抑制方法。
【請求項5】
サイクロデキストリンがα−サイクロデキストリンである請求項4記載のペプチド臭抑制方法。
【請求項6】
添加されるペプチドが大豆蛋白由来ペプチド、豚蛋白由来ペプチド、牛蛋白由来ペプチド、鳥蛋白由来ペプチド、魚蛋白由来ペプチド、小麦蛋白由来ペプチド、とうもろこし蛋白由来ペプチド、乳蛋白由来ペプチド及び卵蛋白由来ペプチドから選択される1種以上である請求項4又は5記載のペプチド臭抑制方法。