説明

ペプチド被覆インプラントおよびその調製方法

【課題】インプラントの特定の環境において、特定の細胞の付着を選択的に介在することのできるペプチドで被覆されている、ヒトおよび動物の体用の一般的性質のインプラントの提供。
【解決手段】本発明は、試験管内では、個々の場合において、適当な生体材料の組織一体化を完成すると考える細胞種の付着を主に刺激し、同時に、試験管内において、そのプロセスに反する細胞種の付着をよくは刺激することのない、合成された、細胞または組織選択的なRGDペプチドによる被覆により、生体材料、特にインプラントの生体機能付加の可能性を記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプラントの特定の環境において、特定の細胞の付着を選択的に介在することのできるペプチドで被覆されている、ヒトおよび動物の体用の一般的性質のインプラントに関する。特に、本発明は、RGDペプチドで被覆されたインプラントおよびその調製方法に関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、特に適当な組織中への外科的に挿入した後、組織選択的な促進され高められた一体化を図る目的で、一般的な生体材料およびインプラントの表面被覆を標的とする、選択細胞種の付着刺激の原理に基づく。
【0004】
この方法では、インプラントが挿入される特定の組織環境を斟酌した上で、インプラントの種々の表面部分を、細胞付着を媒介する種々のペプチド、特にRGDペプチドで、被覆でき、利用され得るようにすることができる。
【0005】
この方法では、さらに、組織加工に関して、器官再生のための生物学的情報を有する「情報化」バイオハイブリッド器官の生成は、インプラント表面の異なる領域を占める種々のペプチドにより、種々の細胞種の特異的活性化の手法による自己形成によることも可能である。
【0006】
以後、「本発明のペプチド」という用語は、特記あるいは追記がなされない限り、細胞付着に介在することのできる全てのペプチドを含む。これらのなかでも、特には、アルギニン(R)、グリシン(G)およびアスパラギン酸(D)のアミノ酸を連続的に含むもの(RGDペプチド)を考えている。好適なRGDペプチド、ならびにRGDを含まないが好適なペプチドの例は、後でさらに言及する。さらに、RGD配列は含まないものの、にも拘わらず細胞付着に影響を及ぼす、類似したペプチドも含まれる。最も広い概念では、定性的には前記ペプチド化合物と同じ生物学的活性を有している非ペプチド化合物をも、本発明は含む。
【0007】
本発明における概念では、生体材料ないしインプラントは、機能的に損傷を受けた対応する天然組織の機能を修復するために、ヒトまたは動物の体内に導入することのできる材料と定義される。これらは、例えば、股関節内部人口器官、人口膝間接、顎インプラント、代替腱、代替皮膚、人工血管、心臓ペースメーカー、人工心臓弁、胸部インプラント、ステント、カテーテルおよびシャントを含んでいる。
【0008】
体内におけるインプラントの一体化性は、なお問題を持つことが判明している。材料の組織一体化は、機能発揮に十分な組織/生体材料結合の機械的安定性を得るためは、しばしば、あまりもゆっくりと及びあまりにも不完全にしか進行しない。その不十分な界面適合性又は生適合性のため、取り巻いている健康な組織または細胞の活性吸収を妨げているインプラント表面の組成が、これを起こす原因となることが多い。これが、安定な組織−インプラント境界層の形成を複雑にし、そして、不完全な組織の一体化を引き起こし、それが、回り回って、弛緩、組織再吸収、感染、炎症、アレルギー、微小血栓形成(再狭窄)を起こす。結果として、インプラント(例えば、股関節内部人工器官、顎インプラント、カテーテルおよび骨外固定)の置き換えのための修正手術介入および新たな外科手術介入が必要となる(MalchauおよびHerberts著,1996,Prognosis of the Total Hip Arthoplasty,第63巻。Annual Meeting of the American Academy of Orthopaedic Surgeons, Atlanta; Haddadら著,1996,The Journal of Bone and Joint Surgery, 第78-B巻:546〜549頁;Collingeら著,1996,Pin Tract Infections)。
【0009】
さらに、特に股関節内部人工器官の場合、骨細胞および骨組織が所望通りに生体材料への直接結合を形成せず、かわりに線維芽細胞および結合組織が妨害要素として発生する、いわゆる無菌インプラント弛緩が問題となることが判明している。結果として、この人工器官は、骨組織の代わりに結合組織と結び付き、その結果、人工器官−結合組織組織結合の安定性は、人工股関節での力伝達に対する機械的要求を満たすには十分ではないものである。結局、これが人工器官の弛緩(Pilliarら著,1986,Clin. Orthop.,第208巻:108〜113頁)につながり、同じく修正手術が必要となる。インプラントに付着する望ましくない細胞型のさらなる例は、血小板であり、これは、微小血栓の形成や、そしてインプラントの一体化の阻害をも誘起する(Phillipsら著,1991,Cell,第65巻,359頁)。
【0010】
体内への生体材料またはインプラントの一体化能の欠如は、完全置き換え器官の場合、異なる細胞型がインプラントと接触する上、必要な一体性が目標とされるので、特に深刻な影響を有する。他の患者の助力による極端に複雑な移植処置を避けるために、組織加工の分野においては、例えば、生細胞に覆われ、機能単位として移植することが可能なキャリア材料からなる、所謂バイオハイブリッド器官を用いて、肝臓、膵臓、腎臓および脾臓の機能疾患の治療を達成することがますます頻繁に試みられている。大部分の場合、この目的のため、生体外において、機能性のある健康な細胞を再吸収性または非再吸収性膜に含ませ又は封入した上で、人工バイオハイブリッド器官または仮想器官として患者に移植される(例えば:Limら著,1980,Science,第210巻,908〜912;Altmanら著,1982,Horm. Met. Res. Suppl.,第12巻,43〜45;Zekornら著,1989,Transplantation Proceedings,第21巻,2748〜2750;Altmanら著,1982,Horm. Met. Res. Suppl.,第12巻,43〜45頁:EP 0 504 781 B1)。しかしながら、ここでも、なお、移植片への栄養供給の欠如をも伴う線維被鞘、カプセルからの細胞放出による免疫防御反応、および材料表面の血液凝固能に起因する血栓形成といった問題が非常に頻繁に起こる。
【0011】
細胞付着に介在するペプチドでそれを被覆することにより、生体材料/インプラントの組織一体化を惹起することが知られている。この目的のため、一方では、トリペプチドのアミノ酸配列 アルギニン−グリシン−アスパラギン酸(RGD)を含むペプチド、またはその非ペプチド類似体、ならびに、他方では、細胞付着を媒介する非RGD含有ペプチド(例えば以下参照)、またはその非ペプチド類似体は、知られているように、多くの蛋白の一体化成分、特に、細胞外マトリクス(例えば、コラーゲンI型、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、エンタクチン、オステオポンチン、トロンボスポンジン)または血液凝固カスケード(フィブリノーゲン、フォン−ウィルブランド因子)のように、真核細胞の付着のための中枢認識パターンとして機能する(例えば:PierschbacherおよびRuoslahti著,1984,Nature,第309巻:30〜33頁;Yamada著,1991,J. Biol. Chem., 第266巻:12809〜12812頁)。本発明により定義される配列は、細胞表面上の受容体であるインテグリンにより認識され、結合される。対応する蛋白への細胞の付着は、多数の異なるインテグリンが介在するため、細胞種のインテグリン発現パターンは、これらの蛋白への付着特性にとって、重大である。特定のインテグリンにのみ選択的かつ特異的に結合し得る適当な配列を具える大部分の短鎖ペプチドの生成−測定設計および合成は、これらのインテグリンを発現する細胞種のみを標的して活性化することを可能にする。すなわち、例えば、望ましくない細胞種、例えばαIIbβ3担持血小板の付着を同時に刺激し得ることはなく、αvインテグリン受容体に選択的に結合し、つまり、αvβ3/αvβ5担持細胞(骨芽細胞、破骨細胞、内皮細胞)の結合(付着)を選択的に刺激し得るRGDペプチドが知られている(Haubnerら著,1996,第7巻,Am. Chem. Soc.,第118巻:7461頁)。対照的に、他のRGDペプチドは、逆の効果を示し、αIIbβ3インテグリン受容体と選択的に結合し、つまり、例えば、血小板への選択性を示す(Phillipsら著,1991,Cell第,65巻,359頁)。
【0012】
本発明において言うところの、合成により得られるペプチドをインプラントの表面への取り付けは知られている。この場合、ペプチドは、大なり小なりは、吸着により、あるいは共有結合により表面に付着される。例えば、DE 1 97 06 667には、吸着によってRGDアミノ酸配列を有するペプチドの表面被覆を有する多孔質ポリマー材料に基づいた骨置換部材に関する生体材料が記載されている。WO 91-05036には、さらに、特にRGD配列を同じく有し得るペプチドがその表面に共有結合している、金属製、特にはチタニウムまたはチタニウム合金製の人工器官が開示されている。Valentiniら(1997,5月,Transactions of the 23rd Annual Meeting of the Society for Bomaterials,ニューオーリンズ,USA)は、フッ素化エチレンプロピレン中間層を設けたチタン製ねじへのRGDペプチドの共有結合を記載している。Rezaniaらは、同じ年会において、共有結合によってアミノ機能性有機シランで被覆した二酸化珪素または二酸化チタン表面を報告し、結局、ヘテロ二官能性架橋剤によりチオールを含有するRGDペプチドの結合を共有結合的に達成している。
【0013】
しかしながら、これらの技術面の解決は、問題のインプラントを取り囲む組織の特定の細胞型と選択的に適合すべく調製した、本発明により規定されるペプチドでその表面を特異的に被覆してあるインプラントまたは生体材料を利用可能とする要求には答えていない。
【0014】
従って、インプラントを体内に挿入後、例えば、股関節内部人工器官における骨細胞または皮膚、毛髪または歯の置換のための上皮細胞のように、それらと活発に機能する必要のある、これらの組織または細胞種は、それぞれ、これらの組織一体化のために排他的または選択的に配され、同時に、例えば、血栓または結合組織カプセルの形成を促進する血小板または線維芽細胞のような、このプロセスを妨害する細胞種は、インプラントとの選択的な相互作用を受けることを抑えられるように生体材料を修飾し得ることが望ましい。
【0015】
さらに、対応する選択された組織の生体内合成の促進に結果としてつながる、対応する相補的インテグリンを保持するこれらの選択された細胞型の付着を、排他的または少なくとも優先的に刺激する本発明により定められたペプチド(またはその非ペプチド類似体)でインプラントを被覆することが望ましくかつ魅力的な方法である。
【0016】
完全なバイオハイブリッド器官(皮膚、血管、尿路、膀胱、食道、膵臓、肝臓、脾臓、腎臓)の開発に関しては、異なる細胞生体内プロセスが行われるように、標的化され、空間的に限定されかつ調節されるように、本発明により規定された種々の細胞選択性ペプチドで、インプラントの異なる表面部分を被覆することによって、特定器官の各場合に則した、所望の種々の細胞種を活性化し得ることは、決定的な進歩である。
【0017】
本発明は、ここで、試験管内において、各場合に対応する生体材料の組織一体化を完成するであろう細胞種の付着を主に刺激し、同時に、試験管内において、そのプロセスに反する細胞種の付着をよくは刺激しすることのない、本発明により規定される、合成された、細胞または組織選択的なRGDペプチドで被覆することにより、全ての考えられる器官用の生体材料、特にインプラントの生体機能付加の可能性を記載する。そのような被覆を用いることにより、向上した体内に挿入後の長期間安定性をも伴う、種々の生体材料/インプラントの促進かつ向上した一体化が、達成できる。
【0018】
さらに、本発明により定められる異なるペプチドでインプラントの種々の材料表面部分を被覆するというこの着想を用いると、「情報化」バイオハイブリッド器官の開発(「組織加工」)に、全ての可能性が現われ、それは、種々の標的組織または標的細胞の選択的な活性化のための生物学的情報を運ぶことができ、従って自己組織化により体内に一体化することができ、この意味では、組織の一体化を向上させる、または始めてそれを可能にすることさえできる。
【0019】
すなわち、本発明は、本質的に、キャリアマトリクスと、ヒトまたは動物細胞上の付着を支配するインテグリン受容体上の結合部位を認識する配列を有しており、目標とするヒトまたは動物体細胞の付着刺激のための同一または異なるペプチドを含む、このマトリクスを取り囲んでいるペプチド被覆とからなる異なるヒトおよび動物器官に適したインプラントであって、前記キャリアマトリクスは、前記ペプチド層の適当な官能性反応性基と安定な共有結合を形成することができる、表面上に結合し得る反応性基を有しており、その対応した異なる構造に関係した、細胞付着刺激活性に由来して、細胞にインプラントが挿入されるべき、特定の領域において、それらと隣接する組織細胞の天然の異なる相補的なインテグリンのパターンと特異的に対応し、これにより、インプラント表面の、局部的に分化し、選択的な、生物学的に活性な被覆パターンが存在するように、前記ペプチドがインプラントの表面に局部的に異なる方法配されていることを特色とするインプラントに関する。
【0020】
本発明は、さらに、インプラントと直に隣接する組織細胞の相補的インテグリンパターンに対して選択的である、細胞付着刺激ペプチドで被覆された表面を有する無機キャリアマトリクスを基とした、器官/組織に適するインプラントを調製する方法であって、それ自体知られている方法によって、(i)生体内でインプラントが導入される標的細胞または標的組織のインテグリン受容体構造を試験管内で決定し、(ii)適当な相補的構造を有するペプチドを選択または合成し、かつ(iii)前記ペプチドをインプラントの適切な表面に結合することを特徴とする方法に関する。
【0021】
特には、本発明は、以下の特徴を有する方法およびインプラント/生体材料に関する:前記ペプチド、特にはRGDペプチドが、必要に応じて、分岐した、表面積拡大分子および/または分子アンカーを介して、共有結合によりインプラント表面に付着され;好ましくは、αvβ3/αvβ5担持細胞を刺激することができる、すなわち、特には、例えば骨芽細胞、破骨細胞、内皮細胞の付着を刺激することができるが、同時に血小板または線維芽細胞の付着は刺激することはできないRGDペプチドが用いられ;用いられるキャリアマトリクスは、セラミック、ポリマー材料または金属製の造形もしくは非造形部位、またはバイオハイブリッド器官あるいは仮想的器官である。
【0022】
分子レベルにおいて、本発明により定められるペプチドは、本質的に以下の要素から設計される:
・選択された細胞種を選択的に認識および結合する、付着に適切なアミノ酸配列(例えば、前記RGD配列)担持ドメイン、
・細胞結合が立体的観点からのみ可能となるように、細胞認識および認識配列担持ドメインを細胞に対し提示するためのスペーサー、
・生体材料またはインプラント表面への当該ペプチド誘導体の安定な結合を行う分子アンカー、
・生体材料表面へ結合させるに先立ち、本発明により定められるペプチドをさらに、表面積拡大効果を発揮する分岐分子構造(いわゆるデンドリマーまたはテンタクル(Tentakel))に結合させておくことにより任意に細胞付着を増加させることができる。
【0023】
生体材料またはインプラントの表面は、本発明においては、キャリアマトリクスの直の表面のみならず、例えば、ポリマー材料、天然もしくは人工骨材料、蛋白または蛋白誘導体であってもよいさらなる被覆とも理解されるべきである。
【0024】
適当なキャリアマトリクスは、特に、セラミック、金属、ポリマー材料(例えば、PMMA)または好ましくは再吸収性骨置換材料からなる部材である。当初の組織状態の回復を成し遂げることができる、例えば、ポリラクチド、特にラセミD,Lポリラクチド化合物または再吸収性燐酸カルシウムもしくはヒドロキシアパタイト混合物からなる再吸収性または生分解性材料、ならびに例えば、WO 96/36562またはEP 0 543 765に開示されているような材料が特に好適である。使用分野により、コラーゲンまたは寒天もキャリアマトリクスとして好適であり得る。
【0025】
「バイオハイブリッド器官」という用語は、任意の方法(前記参照)で生体細胞を付加したまたは生体細胞に結合された通常の無機マトリクスを意味すると理解される。本発明においては、これは、細胞を含まないまたは、異なるインプラント表面部分に本発明により定められた異なる型の対応するペプチドのみを含み、欠損組織に挿入されたときに周囲の細胞を選択的に活性化することができる対応する配列をも意味すると理解されものである。そのような細胞バイオハイブリッド器官の利点は、費用的に効率が良く制御し得る方法で製造することができる「情報化」生適合性インプラントは、器官再生のための生物学的情報を搬送することである。次に、そのようなバイオハイブリッド器官の体内への一体化が、例えば、移植された異物細胞または異物蛋白に因り頻繁に起こるような免疫防御反応を回避することのできる、内在的再生プロセスによる自己構成により完成される。
【0026】
本発明によれば、インプラントは概して造形体または人工器官の形をとり、そこで造形体は特定の組織/骨欠損部に適合するべく調製される。バイオハイブリッド器官の場合、人工器官は、対応する細胞により、あるいはよらず被覆されている膜または被膜、および本発明により定められるペプチド、また、その他、例えばEP 0 504 781に開示されているような配列によってのみ構成することができる。
【0027】
本発明において、用いることのできる適当なペプチドは、細胞付着を支配する領域またはアミノ酸配列を含み、また、ペプチドおよび非ペプチド置換体を介してインプラント表面に結合することができる、全てのペプチドおよび非ペプチド置換体を有するその化合物である。特には、可能な対応するペプチドは、RGD配列を有するものである。
【0028】
以下の好ましいペプチドおよびペプチド化合物の一覧は、単に例示的ではあるが、限定的な性質は全く持たないものとして意図されており、また、下記の略号が用いられる:
AsP(D)=アスパラギン酸
Gly(G)=グリシン
Arg(R)=アルギニン
Tyr(Y)=チロシン
Ser(S)=セリン
Phe(F)=フェニルアラニン
Lys(K)=リシン
DPhe(f)=D-フェニルアラニン
Pro(P)=プロリン
Leu(L)=ロイシン
Ile(I)=イソロイシン
Val(I)=バリン
Glu(E)=グルタミン酸
Thre(T)=トレオニン
Ala(A)=アラニン

(a)好適なRGD含有ペプチドの例:
RGD (Arg-Gly-Asp)、
GRGD (Gly-Arg-Gly-Asp)、
GRGDY (Gly-Arg-Gly-Asp-Tyr)、
RGDS (Arg-Gly-Asp-Ser)、
GRGDS (Gly-Arg-Gly-Asp-Ser)、
RGDF (Arg-Gly-Asp-Phe)、
GRGDF (Gly-Arg-Gly-Asp-Phe)、
シクロ-RGDfK (Arg-Gly-Asp-DPhe-Lysine)、
シクロ-RGDfKG (Arg-Gly-Asp-DPhe-Lys-Gly)。

(b)好適な非RGD含有ペプチドの例:
LDV (Leu-Asp-Val)、
LGTIPG (Leu-Glu-Thr-Ile-Pro-Gly)、
REDV (Arg-Glu-Asp-Val)、
IKVAV (Ile-Lys-Val-Ala-Val)、
YIGSRG (Tyr-Ile-Gly-Ser-Arg-Gly)、
LRE (Leu-Arg-Glu)、
PDSGR (Pro-Asp-Ser-Gly-Arg)、
DGEA (Asp-Gly-Glu-Ala)、
RYVVLPR (Arg-Tyr-Val-Val-Leu-Pro-Arg)。
【0029】
本発明により定められるペプチドは、線状または環式のいずれでもよい。上述のペプチドおよびペプチド配列は、選択される本発明のペプチドに依存して、合計で約4〜20個のアミノ酸を有するより長いペプチド内に存在してもよい。同様に、DまたはL配置をとるまたはC-および/またはN-アルキル化しているアミノ酸も本発明に含まれる。本発明によれば、環式ペプチドは、閉鎖してアミド結合を介して環を形成し、好ましくは分子内に遊離カルボキシル基またはアミノ基が存在していないペプチドを意味すると解される。本発明においては、RGDペプチド、特には、上述の一覧から選択するものは特に好ましく、また、これらのうち、特に、環式のものがDE-A-1 95 38 741に開示され、骨芽細胞に特異的であるペンタペプチドRGDfK、およびまた同様にその環式状態で存在し、血小板に特異的であるヘキサペプチドRGDfKGが好ましい。
【0030】
本発明により定められる対応する線状および環式ペプチドは、例えば、以下の特許出願:EP 0 632 053, EP 0 655 462, EP 0 578 083, EP 0 770 622, DE 1 95 38 741に開示されている。特に、αvβ3/αvβ5インテグリン発現細胞種(例えば、骨芽細胞、破骨細胞、内皮細胞)には選択的に結合するものの、例えば、αIIbβ3担持細胞種(例えば、血小板)には同時に結合することはないペプチドが好適である。ペプチドおよび対応する誘導体は、別の方法で得られない場合には、標準的な方法により容易に合成することができる。
【0031】
原理的には、本発明により定められるペプチドは、吸着または共有結合により生体材料の表面に付着させることができる。吸着法は、本発明における表面の局部的に選択的な異なる被覆は、この手法を用いると殆ど満足できないやり方でしか行うことができるのみであるので、1つの同じインプラントに対して複数の異なるペプチドを用いる場合、あまり適していない。
【0032】
主にいわゆる分子アンカーを用いる共有結合によりキャリア表面へのペプチドまたはその非ペプチド類似体の結合は、それ自体十分によく知られており、例えば、以下に記載されている:Singerら著(1987,J. Cell. Biol.,第104巻,573頁);Brandley,Schnaar著(1989,Develop. Biol.,第135巻,74頁);Massia,Hubbell著(1990,Anal. Biochem.,第187巻,292頁);Hiranoら著(1991,J. Biomed. Mat. Res.,第25巻:1523頁);Linら著(1992,Biomaterials,第13巻:905頁);Nicolら著(1992,J. Biomed. Mat. Res.,第26巻:393頁);Deeら著(1995,Tissue Engin.,第1巻:135頁)、但し、この場合に依らずとも、インプラントの被覆は一般的な、特に任意の方法でもなされる。
【0033】
さらに、本発明は、例えば、アクリロイルまたはメタクリロイルアンカー成分を含む表面への前記ペプチド(または、その非ペプチド類似体)の結合のため、本発明において始めて適用された、「Kevloc(R)」プロセス(EP 0 712 621)、あるいは、一般にアクリロイル/メタクリロイルシラン誘導体中間層(例えば、3−メタクリル−オキシプロピルトリメトキシシラン)を介して、アクリロイルまたはメタクリロイルアンカー成分を用いて対応するキャリアマトリクスへの対応するペプチドの結合に、本発明において用いられた「Silicoater(R)」プロセス(DE-A 42 25 106)のように、本発明によるインプラント調製のための、それ自体は既知な被覆方法の新規な利用に関する。本発明により定められるペプチドをキャリアマトリックスまたはインプラントの表面に結合させるさらなる可能性は、自動車およびプラスチック産業における金属ならびにプラスチック用の水系被覆システムにおいて、真珠光沢顔料被覆のための技術的教示を元来説明するものであるDE-A 43 21005に記載のシラン化プロセスと同様の使用を構成する。さらには、元々別の関係において記載されていた(Heuvelら著,1993,Analytical Biochem,第215巻:223頁)、チオール基担持ペプチドで金表面を被覆する方法も、本発明に適している。
【0034】
概説した方法は、未だかつて、生物学的活性化を目的とするインプラントの被覆に用いられたことはなかった。
【0035】
本発明により定められる対応するペプチドのインプラント表面への結合は、本発明においては、適当なアンカー分子を介して行われ、すなわち、そのペプチドは、一般に、インプラント表面へ直接には付着されない。以下により詳細に定義される、そのような分子の挿入は、特に、対応するペプチドの結合との関係では、標的細胞上の生物学的受容体の立体的な要請を考慮すべき点として有する。
【0036】
この目的では、インプラント表面は、アンカー分子の対応する官能基との結合を可能にする適当な官能基または反応性単位を保持しなくてはならない。インプラント表面で利用可能にされる官能基は、必要に応じて変化する実際のキャリアマトリクスの組成(金属、プラスチック、骨材料)に依存する。金属インプラントの場合、例えば、金を蒸着することによりアンカー分子のSH基に対して反応性な表面層を生成することが可能である。既知の方法(前記参照)による金属表面のシラン化も、同様に、適切な場合にはシラン含有付着促進剤(下記参照)を使用して、本発明による適当なアンカー分子と化合物を形成することができる反応性表面へと導く。天然骨または天然様骨材料(例えば、リン酸カルシウムセメント)からなるインプラントは、反応性ホスホン酸基を含むアンカー分子と結合することができる(原理はChu, Orgel著,1997,Bioconjugates Chem.,第8巻:103頁に記載)。また、それ自身の一部として、反応性のアクリル酸基を有する、本発明によるアンカー分子は、アクリレート系プラスチック(例えば、PMMA)あるいは適当なプラスチック被覆を有する他の材料からなるインプラントへと結合させることができる。
【0037】
このように、本発明の意味するアンカー分子は、少なくとも2つの異なる官能基、すなわち、通常、本発明により定められるペプチド、特には、RGDペプチドの側鎖の遊離NH2基(遊離カルボキシル基)とアミド結合(-CO-NH-)を生成する遊離カルボキシル基(遊離NH2基)である一つの官能基と、好ましくは、アンカー分子の炭素鎖の他端に局在化しており、インプラント表面の組成または要請に依存して、インプラント表面への直接あるいは間接に結合を生じる、好ましくは(メタ)アクリレート含有基またはメルカプト基である他の官能基とを有する、修飾または置換されたアルキル鎖あるいは炭化水素鎖に基づく分子である。原則的には、インプラント表面上のまたは適当な中間層上の対応した反応基と直接反応して、安定な結合を与えることができるその他の官能基を用いることも可能である。
【0038】
本発明のアンカー分子は、上にて既に述べたように、同時にスペーサーの機能を有しており、すなわち、その概説したもの加えて、連結部の選択は、細胞の結合が向上するあるいは立体的観点から可能となり得るように、細胞付着刺激を支配するドメインが標的細胞と適切な距離をとることを可能とするため、適当に選択され、特異的に調節された長さを有する。
【0039】
細胞の認識および対応するアミノ酸配列を保持するドメインの生物学的機能は、例えば、αvβ3/αvβ5インテグリン発現細胞種(例えば、骨芽細胞、破骨細胞、内皮細胞)と選択的に結合する合成ペプチドにより確認された(Haubnerら著,1996,J. Am. Chem. Soc.,第118巻:7461〜7472頁)。
【0040】
本発明のアンカー分子は、好ましくは、以下の線状構造を有し、本発明により定められるペプチドは、1つのそのアミノ酸側鎖、好ましくはリシン側鎖のNH2基を介して、対応するアンカー分子の遊離カルボキシル末端と結合される。
(i)メルカプト(アミド)カルボン酸誘導体:
-CO-(CH2)k-X-SH、
ここで、Xは一重結合または-CO-NH-(CH2)l-
k=2〜12およびl=2〜4
(ii)アクリルアミドカルボン酸誘導体:
-CO-(CH2)m-[NH-CO-(CH2)n]p-NH-CO-CH=CH2
ここで、m、n=2〜8;p=0〜2、
(iii)アクリルアミド−アミドトリエチレングリコール酸誘導体:
-(CO-CH2-O-CH2-CH2-O-CH2-CH2-NH)q-CO-(CH2)r-NH-CO-CH=CH2
ここでq=1〜3およびr=2〜8。
【0041】
特に、以下の種類の特定のアンカー分子が好ましい。
(ia) -CO-CH2-CH2-SH(メルカプトプロピオン酸)
(ib) -CO-CH2-CH2-CO-NH-CH2-CH2-SH(メルカプトエチルアミドコハク酸)
(iia) -CO-(CH2)5-NH-CO-CH=CH2(アクリルアミドヘキサン酸)
(iib) -CO-(CH2)5-NH-CO-(CH2)5-NH-CO-CH=CH2(アクリルアミドヘキサン酸−アミドヘキサン酸)
(iiia) -CO-CH2-O-CH2-CH2-O-CH2-CH2-NH-CO-(CH2)5-NH-CO-CH=CH2(アクリルアミドヘキサン酸−アミドトリエチレングリコール酸)
(iiib) -(CO-CH2-O-CH2-CH2-O-CH2-CH2-NH)2-CO-(CH2)5-NH-CO-CH=CH2(アクリルアミドヘキサン酸−ジアミドトリエチレングリコール酸)
通常、本発明によれば、線状炭素鎖に少なくとも6個の炭素を有するいずれのアンカー分子構造は好ましい。実際、驚くべきことに、インプラントの促進され高められた組織一体化に関して、最良の結果を達成するためには、この長さのアンカー分子が特に好ましいことが見出された。線状鎖中の少なくとも6個の炭素原子と表記は、本発明においては、ペプチドとインプラント表面との間の分子の合計長さである。すなわち、より短い鎖を有する先に示した構造のアンカー分子(例えば、タイプia)も、適当であり、特記しない限りは、鎖延長性結合成分がペプチドとインプラント表面との間に挿入される。
【0042】
アンカー分子は、標準的な方法により、カルボキシル官能基を介して、アミドの形状で、本発明により定められるペプチドと結合されるが、その方法により、ペプチド-NH-CO-アンカー型の分子の構造となり、また、示されるとおり、インプラントに付着し、それにより、また、次の型の生成物:ペプチド-NH-CO-アンカー分子-インプラント(表面)が構築される。個々に前述した定義ペプチド、特にRGDペプチドの1つ、個々に前述した一般的かつ特異的に定義されるアンカー分子の1つ、および適当な表面反応性インプラントからなる対応するインプラント構造が好ましい。以下のインプラントが特に好ましい:
シクロ-RGDfK NH-CO-チオール誘導体(タイプ:i)-インプラント、
シクロ-RGDfK NH-CO-アクリレート誘導体(タイプ:ii)-インプラント、
シクロ-RGDfK NH-CO-アクリレート−グリコール誘導体(タイプ:iii)-インプラント、
シクロ-RGDfKG NH-CO-アクリレート−グリコール誘導体(タイプ:iii)-インプラント、
ここで、全アンカー分子の線状炭素鎖は少なくとも6個の原子を有する。
【0043】
これらのうち特に好ましいのは:
シクロ-RGDfK NH-CO-チオール誘導体(タイプ:ib)-インプラント、
シクロ-RGDfK NH-CO-アクリレート誘導体(タイプ:iia)-インプラント、
シクロ-RGDfK NH-CO-アクリレート誘導体(タイプ:iib)-インプラント、
シクロ-RGDfK NH-CO-アクリレート−グリコール誘導体(タイプ:iiia)-インプラント、
シクロ-RGDfKG NH-CO-アクリレート−グリコール誘導体(タイプ:iiia)-インプラント、
シクロ-RGDfK NH-CO-アクリレート−グリコール誘導体(タイプ:iiib)-インプラント。
【0044】
これらの好ましい構造の調製は、標準的方法により実施され、または以下にさらに記載され、あるいは、そのようなペプチドアンカー構造に関する出願人の同日付の並行出願に記載されている。
【0045】
既に先に詳細に説明したように、本発明における生体材料表面への記載した細胞または組織選択的なペプチド誘導体のつなぎとめには、本質的に3つの択一的経路があり、それぞれのRGD配列を保持するドメインの分子認識パターンは、ある細胞型およびスペーサーについて選択的に変化しないで維持することが可能であり、一方、分子アンカーは、例えば、次に述べる結合変形に依存して、変化し得る:
・金被覆生体材料表面(例えば、タイプ(i)のアンカー分子)へのチオールペプチド誘導体の結合;
・アクリレートまたはメタクリレート被覆生体材料(例えば、タイプ(ii)または(iii)アンカー分子)への(メタ)アクリロイルペプチド誘導体の結合;
・付着促進剤または中間層として、(メタ)アクリロイルシラン誘導体(例えば3−メタクリロキシプロピルトリメチロキシシラン)を用いて、シラン被覆生体材料表面(例えば、タイプ(ii)または(iii)アンカー分子)への(メタ)アクリロイルペプチド誘導体の結合。
【0046】
生体材料表面への、種々のペプチド結合変形について、アンカー分子の臨界的最短長の決定は、好ましくは6〜24個の炭素原子の鎖長と択一的に異なる疎水性/親水性の特性を有する本発明により定められるアンカー分子とともに、本発明により定められるペプチドを合成することにより行われる(例えば、それ自体標準的な方法により、異なる数の-CH2-単位および/またはアミドヘキサン酸またはエチレングリコールを使用し、続いて、適当な生体材料の被覆後に、試験管内での細胞付着を決定して、生物学的活性を試験することによる)。
【0047】
前述の方法において、インプラントの材料特性に依存して、本発明によるペプチド誘導体と実際に結合させる前に、表面を調節するために適当な被覆方法を選択することができる。さらに、生体材料/インプラントの一体化を達成しようと意図している組織型または細胞型に応じて、例えば、上皮細胞からのα6β4インテグリン(例えば、骨、顎、皮膚または毛髪インプラントの用途)あるいは血小板からのαIIbβ3インテグリンのような、対応する標的細胞種のインテグリンを目標とするやり方で活性化する、他のペプチドの被覆も可能である。αvβ3特異的RGDペプチドは、内皮細胞および骨芽細胞への選択性を有し、その結果として、例えば、人工血管または骨インプラントの被覆に適したものとなる。これにより、骨、血管、歯、皮膚および毛髪置換の分野におけるインプラントに対して、所望の器官のほとんどいずれにも適する生活性化した表面被覆を実現することができる。
【0048】
本発明による適当なインプラントまたはバイオハイブリッド器官が利用可能とされる前には、選択された組織中に挿入されるべきインプラントの特異的かつ選択的被覆を後に行い得るように、特定の細胞型に好適なペプチドを、試験管内試験システムにおける生物学的活性に関して、予め試験し決めなくてはならない。
【0049】
この目的のために必要な、インプラントを挿入すべき標的組織または標的細胞のインテグリン受容体構造の分析を、例えば、免疫蛍光または組織サンプルの免疫組織化学のような、慣用、既知の免疫組織学的プロセスにより実施する。この目的のために必要な、種々のインテグリン受容体またはそのサブユニットに対する抗体は、一方では既知かつ入手可能であり、あるいは、例えば、適当な免疫化のような、それ自体知られている標準的な方法により適宜製造することができる。
【0050】
本発明により定められるペプチドは、種々の濃度で、例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)で被覆されたポリスチレンの培地表面に共有結合される。この試験担体の材料は、好適なペプチドを決定する際には、いかなる本質的役割も果たさない。同様に、ここで使用される結合法も、さらに、殆ど重要性ではない。実用上の理由からは、これらの決定における結合は、試験担体上で前記ペプチドのインキュベーションおよび吸着により行うこともできる。
【0051】
続いて、生体内において活性化すべき天然組織中の細胞と、その付着特性が対応することができる、選択された組織細胞培養物(例えば、骨芽細胞)の付着を、適当に被覆された表面上で調べる。付着試験のための適当な細胞培養物の選択の基準は、例えば、そのαvβ3/αvβ5またはαIIbβ3発現など、移植後、生体内の標的細胞と匹敵する一体化発現のパターンにあり、それは、αvβ3、αvβ5もしくはαIIbβ3インテグリンに対する、またはインテグリン受容体の、αv、αIIb、β3に対する、あるいはβ5サブユニットに対する蛍光標識化抗体により、蛍光活性化細胞ソーター(FACS)を用いて証明される。異なるインテグリン受容体パターンを有する生体内の他の標的細胞種の場合には、従って他の抗体を使用しなければならない。これらは、一方では既知かつ入手可能であり、あるいは、既知の標準的な方法、例えば、適当な免疫化により製造することができる。
【0052】
種々の選択された細胞種が、検討下のペプチドで被覆されたBSA予備処理ポリスチレン培地表面上に接種およびインキュベートされる。その後、非付着性細胞は洗い流される。
【0053】
本発明により定められる異なるペプチドで被覆した試験表面上における異なる選択された細胞種の結合特性が、陽性の場合、すなわち適当な特異性が存在する場合には、各場合において、接種細胞の約60〜100%の最大吸着比率を有する感染曲線と、および約5nM〜5μMの被覆溶液中のRGDペプチド濃度において、最大細胞数の半分が結合することが対応する。
【0054】
同様にして、BSA予備被覆ポリスチレン表面への適当なペプチドの結合において説明したように、修飾または調節された生体材料表面への固定法に、種々の付着促進中間層を用いることも可能である
要約として、以下の事項を述べることができる。
【0055】
従来技術のインプラントは、以下の短所を有する:
・組織内への不完全で遅いインプラントの一体化、
・組織内における限定された許容性、
・インプラント/組織境界層の不適当な機能的安定性、
・組織新生へのインプラントの刺激作用の欠如、
・インプラント表面の非生理学的な特性。
【0056】
このさらなる問題の結果は:
・無菌インプラント弛緩(例えば、線維性カプセル形成)、
・微小血栓の局部的形成、
・感染、
・炎症、
・組織再吸収、
・修正手術である。
【0057】
これらの問題は、本発明により利用できる方法またはそれにより製造されるインプラントにより大幅に取り除かれる。本発明の主題は次のように特色を示される:
・標的組織/標的細胞のインテグリン発現パターンに相補的である付着ペプチドの生成−測定設計;
・プロセスを阻害する細胞の付着を同時に引き起こすこと無く、組織新生を達成する標的細胞の細胞付着の選択的刺激;
・新規ペプチドアンカー分子による安定性のより高い被覆;
・組織内へのインプラント一体化プロセスの促進および向上。
【0058】
ペプチド上の細胞認識配列と非被覆材料表面との間の臨界的立体絶対最小距離は2.0〜3.5nm、好ましくは2.5〜3.5nmの間であると示すことができた。3.0〜5.0nmの最小距離において、最大被覆率(80〜100%)を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図面の簡単な説明:図1: αvβ3およびαvβ5インテグリンに対する蛍光共役抗体を用いたFACS(蛍光活性化細胞ソーター)による一次ヒト骨芽細胞のインテグリン組成の分析。
【0060】
x軸:蛍光強度(カウント)
y軸:細胞カウント
M21:αvβ3およびαvβ5陽性対照
M21:αvβ3およびαvβ5陽性対照
HOB:一次ヒト骨芽細胞の培養物
ROB:一次ラット骨芽細胞の培養物
【図2】図2: BSAを介して種々のRGDペプチドで被覆したポリスチレン試験表面へのMC3T3H1骨芽細胞の付着。
【0061】
x軸:被覆溶液中のRGDペプチド濃度(μM)
y軸:細胞被覆度(%)
上側曲線:シクロ-RGDfK NH-CO-CH2-CH2-S-(スルホSMPB)
「チオールペプチド1-SMPB誘導体」)、SMPB=スクシンイミジル 4-(p-マレイミドフェニル)酪酸;
中上曲線:シクロ-RGDfK NH-CO-CH2-CH2-CO-NH-CH2-CH2-S-(スルホSMPB)(「チオールペプチド2-SMPB誘導体」)、
中下曲線:シクロ-RGDVE CO-NH-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CO-NH-CH2-CH2-S-(スルホSMPB)(「チオールペプチド3-SMPB誘導体」)、
下側曲線:チオールペプチド対象:シクロ-RβADfK-NH-CO-CH2-CH2-S-(スルホSMPB)
【図3】図3: チオールペプチド1-SMPB誘導体で被覆した試験表面への骨芽細胞の付着(図2の脚注参照) x軸:被覆溶液中のペプチド濃度(μM) y軸:細胞被覆度(%) 上側曲線:MC3T3 H1マウス骨芽細胞 中上曲線:一次ヒト骨先祖細胞 中曲線:一次ヒト骨芽細胞 中下曲線:αvβ3陰性対照細胞M21L 下側曲線:一次ラット骨芽細胞
【図4】図4: チオールペプチド1-SMPP誘導体で被覆した試験表面への骨芽細胞の付着(被覆溶液中10μM)(図2を参照) x軸:付着媒体中の溶解シクロ-RGDfK(分子アンカー無し)の濃度(μM) y軸:細胞被覆度(%) 上側曲線:MC3T3 H1マウス骨芽細胞 中曲線:一次ヒト骨芽細胞 下側曲線:一次ラット骨芽細胞
【図5】図5: チオールペプチド1-SMPB誘導体で被覆した試験表面への骨芽細胞の付着(被覆溶液中10μM)(図2を参照) x軸:接種細胞数/cm2 y軸:付着細胞数/cm2 上側曲線:一次ラット骨芽細胞 中曲線:MC3T3 H1マウス骨芽細胞 中下曲線:一次ヒト骨芽細胞 下側曲線:BSA陰性被覆
【図6】図6: チオールペプチド1-SMPB誘導体で被覆した試験表面への骨芽細胞の付着(被覆溶液中10μM)(図2を参照) x軸:接種細胞数/cm2 y軸:算出した必要表面積/細胞(μm2) 上側曲線:一次ヒト骨芽細胞 中曲線:MC3T3 H1マウス骨芽細胞 下側曲線:一次ラット骨芽細胞
【図7】図7: チオールペプチド1-SMPB誘導体で被覆した試験表面への骨芽細胞の付着(被覆溶液中10μM)(図2を参照) x軸:時間(分) y軸:細胞被覆度(%) 上側曲線:MC3T3 H1マウス骨芽細胞 中曲線:一次ヒト骨芽細胞 下側曲線:一次ラット骨芽細胞
【図8】図8: 種々のRGDペプチドで被覆した骨セメント−PMMA表面へのMC3T3 H1骨芽細胞の付着: x軸:被覆溶液中のRGDペプチド濃度(μM) y軸:細胞被覆度(%) 上側曲線:シクロ-RGDfK NH-CO-アクリレート誘導体(タイプ:iiia、アクリレートペプチド3)、 中上曲線:シクロ-RGDfK NH-CO-アクリレート誘導体(タイプ:iib、アクリレートペプチド2)、 中下曲線:シクロ-RGDfK NH-CO-アクリレート誘導体(タイプ:iiib、アクリレートペプチド4)、 下側曲線:シクロ-RGDfK NH-CO-アクリレート誘導体(タイプ:iia、アクリレートペプチド1)、
【図9】図9: 種々のRGDペプチドで被覆した多孔質PMMA/PHEMA表面へのMC3T3 H1骨芽細胞の付着: x軸:被覆溶液中のRGDペプチド濃度(μM) y軸:細胞被覆度(%) 上側曲線:シクロ-RGDfK NH-CO-アクリレート誘導体(タイプ:iiia、アクリレートペプチド3)、 中曲線:シクロ-RGDfK NH-CO-アクリレート誘導体(タイプ:iiib、アクリレートペプチド4)、 下側曲線:シクロ-RGDfK NH-CO-アクリレート誘導体(タイプ:iib、アクリレートペプチド2)、
【図10】図10: 種々のRGDペプチドで被覆した多孔質PMMA/Plex Y7H表面へのMC3T3 H1骨芽細胞の付着: x軸:被覆溶液中のRGDペプチド濃度(μM) y軸:細胞被覆度(%) 上側曲線:シクロ-RGDfK NH-CO-アクリレート誘導体(タイプ:iiia、アクリレートペプチド3)、 中曲線:シクロ-RGDfK NH-CO-アクリレート誘導体(タイプ:iiib、アクリレートペプチド4)、 下側曲線:シクロ-RGDfK NH-CO-アクリレート誘導体(タイプ:iib、アクリレートペプチド2)、
【図11】図11: 種々の分子長の種々のRGDペプチドで被覆した骨セメント-PMMAまたはポリスチレン-BSA-SMPB表面へのMC3T3 H1骨芽細胞の最大付着: x軸: RGDペプチド分子長(nm) y軸:最大被覆度(%)
【図12】図12: RGDペプチドシクロ-RGDfK NH-CO-アクリレート誘導体(タイプiiia、アクリレートペプチド3)で被覆したV4Aステンレススチール表面へのMC3T3 H1骨芽細胞の付着。ステンレススチール表面は、その一部分において、種々の方法で予め被覆しておいた。
【0062】
x軸: 被覆溶液中のRGDペプチド濃度(μM)
y軸:細胞被覆度(%)
上側曲線:Kevloc(R)被覆、
中曲線:Silicoater(R)被覆、
下側曲線:顔料被覆、
【図13】図13: RGDペプチドシクロ-RGDfK NH-CO-アクリレート誘導体(タイプiiia、アクリレートペプチド3)で被覆した骨セメント-PMMA表面でのMC3T3 H1骨芽細胞の増殖。
【0063】
x軸: 培養期間(日)
y軸:細胞カウント
上側曲線:被覆溶液中に100μMペプチド、
中上曲線:被覆溶液中に1μMペプチド、
中下曲線:被覆溶液中に0.1μMペプチド、
下側曲線:非被覆対照。
【図14】図14: RGDペプチドシクロ-RGDfK NH-CO-アクリレート誘導体(タイプiiia、アクリレートペプチド3)で被覆した骨セメント-PMMA表面へのMC3T3 H1骨芽細胞および血小板の付着。
【0064】
x軸:100μM、10μMおよび1μMの種々の塗布溶液中ペプチド濃度を有する表面に接種された骨芽細胞単独および血小板単独
y軸:細胞カウント(405nmにおける吸収)
【図15】図15: RGDペプチドシクロ-RGDfKG NH-CO-アクリレート誘導体(タイプiiia、アクリレートペプチド5)で被覆した骨セメント-PMMA表面へのMC3T3 H1骨芽細胞および血小板の付着。
【0065】
x軸:100μM、10μMおよび1μMの種々の塗布溶液中ペプチド濃度を有する表面に接種された骨芽細胞単独および血小板単独
y軸:細胞カウント(405nmにおける吸収)
【図16】図16: RGDペプチドシクロ-RGDfK NH-CO-アクリレート誘導体(タイプiiia、アクリレートペプチド3)で被覆した骨セメント-PMMA表面へのMC3T3 H1骨芽細胞、血小板および骨芽細胞/血小板混合物の付着。
【0066】
x軸:100μMの塗布溶液中ペプチド濃度を有する表面に接種された骨芽細胞単独、血小板単独および骨芽細胞/血小板混合物
y軸:細胞カウント(405nmにおける吸収)
【図17】図17: RGDペプチドシクロ-RGDfKG NH-CO-アクリレート誘導体(タイプiiia、アクリレートペプチド5)で被覆した骨セメント-PMMA表面へのMC3T3 H1骨芽細胞、血小板および骨芽細胞/血小板混合物の付着。
【0067】
x軸:100μMの塗布溶液中ペプチド濃度を有する表面に接種された骨芽細胞単独、血小板単独および骨芽細胞/血小板混合物
y軸:細胞カウント(405nmにおける吸収)
【発明を実施するための形態】
【0068】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するが、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0069】
実施例1:
(a)アンカーメルカプトプロピオン酸を有するシクロ-RGDペプチド(Arg-Gly-Asp-DPhe-Lys)の合成(→シクロ-RGDfK NH-CO-チオール誘導体 タイプ:ia)を、DE 1 95 38 741の方法に従って行った。生物学的に不活性な対応するシクロ-RβADfK誘導体ならびにアンカー分子を持たないシクロ-RGDfK誘導体の合成も、同様に行った。
【0070】
(b)シクロ(R(Pbf)GD(tBu)fK(Z))(Pbf=ペンタメチルベンゾフランスルホニル;tBU=tert-ブチル)を、固相ペプチド合成(Merrifield著,Angew. Chem. 1985,第97巻:801頁)およびその後の環化(例えば、Zimmerら著,1993,Leibigs Ann. Chem:497頁による)により得た。標準的な方法でZ-保護基を選択的に除去した後、シクロ(R(Pbf)GD(tBu)fp[sa-K])とするため、ジメチルホルムアミド5ml中でシクロ(R(Pbf)GD(tBu)fK)0.1mmolの無水コハク酸(sa)0.2mmolとの反応によりリシン側鎖を延長できる。
【0071】
(c)アンカーメルカプトエチルアミドコハク酸を持つシクロ-RGDペプチド(Arg-Gly-Asp-DPhe-Lys)の合成(→シクロ-RGDfK NH-CO-チオール誘導体 タイプ:ib=シクロ(RGDf[チオール-sa-K])を、以下のように行った:システアミン塩酸塩10mmolと等モル量(eq.)のトリフェニルメタノールとを60℃で氷酢酸に溶解し、攪拌下にBF3エーテレート1.1当量で処理した。50分間攪拌後、混合物を飽和NaHCO3溶液で中和し、酢酸エチルで抽出した。抽出物からの残留油状物をtert-ブタノールに溶解し、希塩酸でpH=2にして、塩酸塩に変え、凍結乾燥した。収率99%。このように得られた構造単位を、標準的な方法によって、EDClxHClを用いて、シクロ(R(Pbf)GD(tBu)fp[sa-K])に結合させ、側鎖の保護基を除去する。
【0072】
(d)アンカーアクリルアミドヘキサン酸を有するシクロ-RGDペプチド(Arg-Gly-Asp-DPhe-Lys)の合成(→シクロ-RGDfK NH-CO-アクリル酸誘導体 タイプ:iia=シクロ(RGDf[アクリル-ahx-K])を、以下のように行った:
アクリルアンカーシステムを別途合成し、活性エステルとしてペプチド側鎖に結合させた。そのために、6-アミノヘキサン酸10mmolおよび水酸化カルシウム1.8当量を水中に懸濁させ、0℃で塩化アクリロイル1.2当量を添加した。不溶性水酸化カルシウムを濾去し、濾液を濃塩酸を用いてpH2の酸性にした。沈殿生成物を酢酸エチルから再結晶した。収率:65%。結晶性6-アクリルアミドヘキサン酸10mmolをジクロロメタン50ml中に懸濁させ、N-ヒドロキシスクシンイミド1当量で処理し、0℃でEDClxHClの1.2当量を添加した。1時間攪拌後、氷酢酸10μlを添加して反応を停止させた。これを氷、飽和炭酸ナトリウム溶液および水で数回抽出し、その抽出液を硫酸ナトリウムで乾燥した。収率:52%。ここに存在する活性エステルを、DMF中でシクロ(R(Pbf)GD(tBu)fK)に結合させ、側鎖保護基を標準的手順により除去した。
【0073】
(e)アンカーアクリルアミドヘキサン酸−アミドヘキサン酸を有するシクロ-RGDペプチド(Arg-Gly-Asp-DPhe-Lys)の合成(→シクロ-RGDfK NH-CO-アクリル酸誘導体 タイプ:iib=シクロ(RGDf[アクリル-ahx-ahx-K])を、以下のように行った:
アクリルアンカーシステムの合成のために、アミノヘキサン酸10mmolを水性リン酸ナトリウム緩衝液(pH8)中に溶解し、0℃に冷却した。アクリルアミドヘキサン酸活性エステル2mmol((d)を参照)をエタノール/CHCl3に溶解し、ゆっくりと添加した。希NaOHを用いてpHを8に維持した。有機溶媒の留去後、水相を濃塩酸を用いてpH2.6の酸性にし、沈殿した固形物を濾去し、水洗し、五酸化リンで乾燥した。収率:70%。ここで存在するアクリルアンカーシステムを、既知の方法により、EDClxHClを用いてペプチド側鎖に結合させ、保護基を除去する。
【0074】
(f)アンカーアクリルアミドヘキサン酸−アミドトリエチレングリコール酸を有するシクロ-RGDペプチド(Arg-Gly-Asp-DPhe-Lys)の合成(→シクロ-RGDfK NH-CO-アクリル酸誘導体 タイプ:iiia=シクロ(RGDf[アクリル-ahx-tEG-K])を、以下のように行った:
アクリルアンカーシステムを固相ペプチド合成により調製した(上記を参照)。末端構成要素として、アクリルアミドヘキサン酸(上記を参照)を結合させた。収率:97%。ここに存在するアクリルアンカーシステムを、既知の方法により、EDClxHClを用いてペプチド側鎖に結合させ、保護基を除去する。
【0075】
(g)アンカーアクリルアミドヘキサン酸−アミドトリエチレングリコール酸−アミドトリエチレングリコール酸を有するシクロ-RGDペプチド(Arg-Gly-Asp-DPhe-Lys)の合成(→シクロ-RGDfK NH-CO-アクリル酸誘導体 タイプ:iiib=シクロ(RGDf[アクリル-ahx-tEG-tEGK])を、(f)と同様に行った。収率:85%。
【0076】
(i)アンカーアクリルアミドヘキサン酸−アミドトリエチレングリコール酸を有するシクロ-RGDペプチド(Arg-Gly-Asp-DPhe-Lys)の合成(→シクロ-RGDfK NH-CO-アクリル酸誘導体 タイプ:iiia=シクロ(RGDf[アクリル-ahx-tEG-KG])を、(f)と同様に行った。収率:81%。
【0077】
実施例2:
ウシ血清アルブミン(BSA)で予備被覆された、ポリスチレン培地表面へ、スルホスクシンイミジル 4-(p-マレイミドフェニル)酪酸を用いて、本発明によるペプチドの共有結合形成を、Singerら著,1987,J. Cell. Biol.,第104巻:573頁あるいはRuoslahtiら著(1982,Methods. Enzymol.,第82巻:803〜831頁)の確立された方法に従って成し遂げた。
【0078】
そのため、ポリスチレン上にBSA層を生成するため、48-ウエルプレート(Costar製、「非組織培地処理」、Art.No.3547)を、それぞれウエル当り250μlのPBS(リン酸緩衝食塩水)、pH=8.3,2%BSAを用いて被覆し、室温で一晩インキュベートした。次に、プレートをウエル当り250μlのPBS、pH=8.3で洗い、100μg/mlのSMPBを含むPBS,pH8.3溶液各250μlで、室温で1時間インキュベートした。次に、各回毎にPBS,pH8.3を250μl用いて、ウエルの洗浄を三度行った。被覆溶液の調製のため、特定のチオール−RGDペプチドを、PBS,pH8.3中において以下の最終濃度となるように調製した:1nM、10nM、100nM、1μM、10μM、100μMおよび1mM。ウエル当り被覆溶液各250μlを添加した後、プレートを室温で一晩インキュベートし、その後、PBS,pH8.3で三度洗浄した。PBS,pH7.4中にBSA5%含有溶液各250μlを添加し、続いて室温で2時間インキュベートし、PBS,pH7.4で洗浄することにより、非特異的細胞結合部位をブロックした。被覆抑制のため陽性サンプルと同様にBSA5%含有溶液で処理したポリスチレン表面は、陰性被覆対照とした。次に、3つの異なる種から得られた4つの細胞培養物の付着を、RGDペプチドで被覆した上述の表面上で研究した:
・成人患者の大腿骨海綿体の頂部由来の一次ヒト骨芽細胞(Siggelkowら著,1997,Bone,第20巻:231頁);
・成人患者の骨髄由来の一次ヒト骨先祖細胞(Vilamitjana-Amedeeら著,1993,In vitro Cell Dev. Biol.,第29巻:699頁);
・YagielaおよびWoodburyの方法に従って調製および培養したラット新生児の頭蓋冠由来の一次骨芽細胞(1977,The Anatomical Record,第188巻:287〜305頁);
・マウス新生児の頭蓋冠から得られた骨芽細胞系MC3T3 H1(Heermeierら著,1995,Cells and Materials,第5巻:309〜321頁)、および
・αvβ3/αvβ5インテグリン陰性対照としてのヒト・メラノーマ・セル・ライン M21L。
【0079】
これらの細胞種を付着実験に用いる前に、そのインテグリン発現を、Becton-Dickenson蛍光活性化細胞ソーター(FACS)を利用して、αvβ3またはαvβ5受容体に対するおよびインテグリンサブユニットαv、β3およびβ5に対する蛍光標識抗体により検証した。この場合、前記インテグリンの強い発現が見られた(図1)。
【0080】
記載した細胞種を、接種密度48000細胞/cm2で、上述のように、RGDペプチドで被覆されたCostar-48ウエルプレートに接種し、次に、37℃、95%大気湿度および5%CO2の条件にて1時間インキュベートした。実験中に付着しなかった細胞は、PBS,pH7.4で二度洗い流した。
【0081】
付着細胞の定量は、Landegrenの方法(1984,J. Immunol. Methods,第67巻:379〜388頁)に従って、適当な検量曲線を用いて細胞酵素N-アセチルヘキソサミニダーゼの活性を決めることにより間接的に行った。
【0082】
BSA予備処理ポリスチレン細胞培地表面を、αvβ3またはαvβ5選択的チオールペプチド1-、2-(スルホ-SMPB)誘導体で被覆することにより、培養されたマウスMC3T3 H1骨芽細胞の付着の強力かつ投与量依存的な刺激が導かれる(図2参照)。これと対象的に、生物学的不活性チオールペプチド対照は有意な効果はなく、その結果、インテグリン-RGDペプチド相互作用の高い選択性および高い特異性が示される。より劣ったαvβ3/αvβ5選択性のチオールペプチド3-(スルホ-SMPB)(シクロ-RGDVE-アミノシステイン−アミドヘキサン酸:Delforgeら著,1996,Anal. Biochem.,第242巻,180頁)も、対応するチオールペプチド1および2誘導体より、顕著に弱い効果を示すのみである。
【0083】
チオールペプチド1-(スルホ-SMPB)誘導体またはチオールペプチド2-(スルホ-SMPB)誘導体で被覆されたBSA予備処理ポリスチレン表面への異なる細胞種の結合特性は、接種細胞の約70%(一次ラット骨芽細胞)、約80%(一次ヒト骨芽細胞および一次ヒト骨先祖細胞)および約90〜100%(MC3T3 H1マウス骨芽細胞)の最大吸着率の感染曲線、および被覆溶液中の濃度50〜1000nMで細胞最大数の半数がRGDペプチドと結合することに相当する(図3)。これと対称的に、αvβ3/αvβ5陰性対照細胞(M21L)は、なんらの有意な細胞付着を示さない。上述の細胞吸着速度は、用いられる全ての骨芽細胞培養に対して有意な細胞付着を全くもたらさない5%BSAで被覆した表面と比較して、約20〜40倍高められている。
【0084】
前記の骨芽細胞培養の類似する挙動は、付着刺激効果は骨芽細胞に特異的であるものの、種に非依存的であることを確証する。
【0085】
チオールペプチド1-スルホ-SMPB誘導体で被覆したBSA予備処理ポリスチレン表面への前記骨芽細胞培地の結合は、付着培地中に溶解した環式RGDfKを添加することにより完全に抑制することができる(図4)。この結果は、観察された細胞付着現象にはRGDペプチドのみが介在していることを証明している。
【0086】
上記のチオールペプチド1,2(スルホ-SMPB)を被覆した、BSA予備処理されたポリスチレン表面上への一次ヒト骨芽細胞またはMC3T3 H1細胞の細胞付着の接種細胞数に対する依存性は、飽和曲線を描く(図5)。しかしながら、BSA陰性被覆上においては、有意な細胞付着は認められない。最大細胞接種密度の場合に計算した約200〜500μm2の付着細胞当り平均表面積は、この表面上において約15〜25μmの平均細胞-細胞間距離を与える(図6)。骨芽細胞直径は約10〜15μmであることからして、ペプチド被覆は、細胞が互いに直に隣接して配列される、骨芽細胞で密に被覆されている表面が達成され得るほど多数の細胞付着部位を利用可能とすることは明らかである。前記表面上への細胞付着プロセスの時間経過は、細胞型に依存するが、約45〜60分後には完成してしまう、迅速な細胞の付着を示している(図7)。セル・ライン(例えば、MC3T3 H1)は、ここでは、一次細胞培養(ヒト、ラット)よりもさらに迅速な付着速度を示す。用いた2つのチオールペプチド誘導体間における有意な相違は、これらの実験においては認めることはできない。
【0087】
実施例3:
種々のアンカー分子長、すなわち、細胞認識のRGD配列と材料表面との間の距離の、骨芽細胞付着の程度への影響を研究するため、異なる分子スペーサー距離を具える、4つの異なるアクリレートRGDペプチド(シクロ-RGDfK NH-CO-アクリレート誘導体(タイプ:iia、iib、iiia、iiib)を調製した。
【0088】
シクロRGDペプチドの合成を、実施例1の開示に従い、またはPlessら著,1983,J. Biol. Chem.,第258巻:2340〜2349頁あるいはCurrathら著,1992,Eur. J. Biochem.,第210巻:911〜921頁の工程に準じて行った。
【0089】
これらのペプチドの対応するアンカー長は、凡そ、2.6nm(アクリレートペプチド1、タイプiia)、3.5nm(アクリレートペプチド2、タイプiib)、3.7nm(アクリレートペプチド3、タイプiiia)および4.2nm(アクリレートペプチド4、タイプiiib)であった。
【0090】
重合されたPMMA(ポリメチルメタクリレート)表面へのこれらのペプチドの共有結合のため、多孔性を異する適当な造形品(直径:10mm;高さ:2mm)を3つの異なるPMMA成分から調製した。
・製品説明書(粉末40g+液体20ml)に対応する、PMMA基剤の骨セメント(Merck KGaA、ドイツ、認証番号5181.00.00)。
・粒径0.5〜0.6mmのPMMA/PHEMA(ポリヒドロキシエチルメタクリレート)粒子(Biomet製)10gを、HEMA溶液(68.6%HEMA、29.4%TEGMA[トリエチレングリコールジメタクリレート]、2%tBPB[tert-ブチルパーオキシベンゾエート])1.3mlと混合し、多孔質担体材料にこれを付着させた。
・粒破片0.7〜2mmのPMMA粒子(Plex Y7H、ローム、ドイツ)10gを、メチルメタクリレート(MMA)溶液(68.6%MMA、29.4%TEGMA、2%tBPB)1.5mlと混合し、多孔質担体材料にこれを用いて付着させた。
【0091】
予め重合したPMMA成形品にアクリレートペプチドを共有結合させるために、アクリレートペプチド1、2、3および4の貯蔵溶液を、各の場合も、最終濃度が100μMとなるように、DMSO/0.2%カンファーキノン(w/v)中に溶解・調製した。さらに、イソプロパノール/0.2%カンファーキノン(w/v)で希釈することにより、各の場合にも、0.1nM、1nM、10nM、100nM、1μMおよび10μMの最終ペプチド濃度となる一連の濃度を調製した。成形品を日照下、室温で2時間インキュベートし、4℃で乾燥状態で貯蔵した。使用前に、サンプルは、非結合ペプチドを除去するため、PBS,pH7.4で洗浄して、PBS,pH7.4中にて4℃で一晩放置した。
【0092】
成形品当りPBS,pH7.4のBSA5%添加溶液各250μlを添加し、続いて室温で2時間インキュベーションし、PBS,pH7.4で1回洗浄することにより、非特異的細胞結合部位をブロックした。
【0093】
ペプチド溶液に代えて、イソプロパノール/0.2%カンファーキノン(w/v)の溶液で処理したPMMA成形品を、陰性対照とした。
【0094】
続いて、マウス新生児の頭蓋冠から得られたMC3T3 H1系の骨芽細胞(Heermeierら著,1995,Cells and Materials,第5巻:309〜321頁)の上記ペプチド被覆表面への付着を調べた。
【0095】
MC3T3 H1骨芽細胞を、前述したように、Costar48-ウエルプレート中に、RGDペプチドで被覆したPMMA成形品と共に、接種密度48,000細胞/cm2で接種し、37℃、95%大気湿度および5%CO2の条件で1時間インキュベートした。実験中に付着しなかった細胞を、PBS,pH7.4で二度洗浄した。
【0096】
付着細胞の定量は、Landegrenの方法(1984,J. Immunol. Methods,第67巻:379〜388頁)に従って、適当な検量曲線を用いて細胞酵素N-アセチルヘキソサミニダーゼの活性を決めることにより間接的に行った。
【0097】
前記アクリレートRGDペプチド1(タイプiia)、2(タイプiib)、3(タイプiiia)および4(タイプiiib)で被覆された異なるPMMA成形品へのMC3T3 H1骨芽細胞の結合特性は、各の場合とも、感染曲線に対応する。最大吸着率は、アクリレートペプチド1については約20%、およびアクリレートペプチド2、3および4については約80〜100%である。細胞最大数の半数の結合は、アクリレートペプチド2、3および4について、約1〜10,000nMの被覆溶液中のRGDペプチド濃度において起こっている。
【0098】
RGDペプチドを被覆した骨セメント造形品上への前記の細胞付着率は、非被覆表面と比較して、約1.5倍(アクリレートペプチド1)および約5〜15倍(アクリレートペプチド2、3および)増加されている(図8)。
【0099】
RGDペプチドを被覆した多孔質PMMA/PHEMA粒子造形品上への前記の細胞付着率は、非被覆表面と比較して、約2〜5倍(アクリレートペプチド2、3および4)増加されている(図9)。
【0100】
RGDペプチドを被覆した多孔質Plex Y7H粒子造形品上への前記の細胞付着率は、非被覆表面と比較して、約2〜3倍(アクリレートペプチド2、3および4)増加されている(図10)。
【0101】
PMMA/PHEMAあるいはPMMA-Plex Y7Hサンプルについては、PMMA骨セメント造形品についてよりも、細胞付着値のより大きな変動幅と、RGDペプチドを被覆したサンプルへは一定の最大付着率であるものの、被覆対照サンプルへの骨芽細胞のより強い付着の両方が観察される。
【0102】
アクリレートペプチド2、3および4について、相互の比較、ならびに試験BSA対照上に被覆したチオールペプチド1および2との比較の双方において、細胞付着の非常に類似した刺激が観察されるが、最も短いペプチド、アクリレートペプチド1は殆ど不活性である。このことから、立体的に満足できる細胞付着を行い得るためには、RGD細胞認識配列と材料表面との間に、約2.5〜3.5nmの臨界最小距離が必要であると結論することができる(図11)。
【0103】
骨セメントPMMAキャリア上のアクリレートペプチド3のより高い活性は、分子長ならびに、任意の親水性/疎水性分布またはスペーサーの比の双方ともに関して、細胞付着に最適な分子構造を指し示している。
【0104】
実施例4
ペプチド被覆した金属表面への骨芽細胞の細胞付着を試験するため、V4Aステンレススチール造形物品(7×7×1mm3)は、3つの異なる被覆改変を施し、各の場合も、その後RGDペプチドで被覆した。このため、先ず、ステンレススチール造形物品を、清浄化のため、超音波浴中にて60℃で15分間インキュベートし、脱イオン水でリンスをし、アセトン中で30分間インキュベートし、再度脱イオン水でリンスし、乾燥のために60℃で24時間インキュベートした。
【0105】
その後、3つの改変によりステンレススチール小板を被覆した。
a.Kevloc(R)プロセス(Heraeus Kulzer GmbH、ヴェールハイム、ドイツ):
Kevloc(R)プライマー溶液を、薄く塗布し、室温で3分間インキュベートした。次に、Kevloc(R)ボンド溶液を、同様に薄く塗布し、炉内にて180℃で20分間活性化した。
【0106】
この被覆変形は、金属表面上に利用可能な遊離アクリル酸基を直接作成するので、次に、重合PMMA骨セメントについて実施例3において記載したように、アクリレートペプチド3,タイプiiiaを直接共有結合させることが可能となった。
b.Silicoater(R)プロセス(Heraeus Kulzer GmbH、ヴェールハイム、ドイツ):
Siliseal(R)溶液を、薄く塗布し、室温で5分間乾燥した。次に、Sililink溶液を、同様に薄く塗布し、炉内にて320℃で3分間活性化した。
【0107】
被覆金属表面上に利用可能なアクリル酸基を作成するため、予備処理ステンレススチール造形品を、75℃に加熱された脱イオン水中に浸漬し、NaOHを用いてpHを約8.00に調節した。次に、1%の3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン溶液(Huels AG、ドイツ)を、約6.50のpHが達成されるまで攪拌下に1時間かかって滴下した。次に、混合物を75℃で1時間攪拌した;この時、pHは約6.35であった。
【0108】
重合PMMA骨セメントのために実施例3に記載したように、アクリレートペプチド3,タイプiiiaの結合を行った。
c.顔料被覆(Merck KGaA、ダルムシュタット、ドイツ)
この被覆変形は、自動車およびプラスチック産業における金属およびプラスチックのための水系被覆システム用の真珠光沢顔料の被覆のための技術的教示を元来説明するものであるDE-A 4321005に記載のシラン化プロセスにより行った。
【0109】
このため、ステンレススチール造形品を、75℃に加熱された脱イオン水中に浸漬し、NaOHを用いてpHを約8.00に調節し、AlCl3溶液を攪拌下に2時間かけて滴下した。次に、5%珪酸ナトリウム溶液を同様に攪拌下に2時間かけて滴下した。以下の工程において、1%の3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン溶液(Huels AG、ドイツ)を、攪拌下に1時間かけて滴下した。次に、混合物を75℃で1時間攪拌した;この時、pHは約6.40であった。
【0110】
重合PMMA骨セメントのために実施例3に記載したように、アクリレートペプチド3,タイプiiiaの結合を行った。
【0111】
3つの異なる方法によりステンレススチール造形品をアクリレートペプチド3,タイプiiiaで被覆した後、MC3T3 H1系の骨芽細胞の付着を調べた。このために、実施例3に記載の手順を用いた。
【0112】
3つの異なる方法を用いて予備処理し、前記アクリレートペプチド3で被覆したV4Aステンレススチール造形品へのMC3T3 H1骨芽細胞の結合特性は、各場合も、感染曲線に対応している(図12)。
【0113】
最大付着率は、顔料被覆について約60%、およびKevloc(R)またはSilicoater(R)方法について約80%であった。細胞最大数の半分の結合が、3つ全ての被覆変形について約1〜100nMの被覆溶液中RGDペプチド濃度で起こる。RGDペプチド被覆ステンレススチール造形品上での前記の細胞付着率は、非被覆対照と比較して約3〜8倍増加されている。
【0114】
Kevloc(R)またはSilicoater(R)方法について、追加的に、各場合において、1つの被覆溶液(Kevloc(R)プライマー単独、Kevloc(R)ボンド単独、Siliseal(R)単独、Sililink(R)単独)のみを用いて、被覆を形成した。この場合、それぞれの二重被覆(Kevloc(R)プライマー/ボンド、Siliseal(R)/Sililink(R))と比較して、細胞付着になんら有意な相違は観察されなかった。
【0115】
実施例5:
骨芽細胞付着のみならず、RGDペプチド表面上での増殖をも補足的に研究するため、手順を、以下のようにした:
アクリレートペプチド3、タイプ iiiaの重合PMMA骨セメント造形品への共有結合のために、実施例3に記載される被覆方法を選択した。
【0116】
次に、48,000細胞/cm2の代わりに12,000細胞/cm2を接種し、付着時間を1時間の代わりに2時間とする、2つの変更点はあるものの、MC3T3 H1マウス骨芽細胞を、実施例3と同様にしてRGCペプチド被覆骨セメント造形品に付着させた。さらに、被覆溶液中、0.01μM、1μMおよび100μMの3つの異なるペプチド濃度についても、調べた。
【0117】
非付着細胞を洗い流した後、MC3T3 H1骨芽細胞を、血清含有(10%)培地中で、95%大気湿度、5%CO2、37℃の条件下に15日間培養した。この期間中、1週間当り培地を2回交換し、1、2、3、4、5、10および15日後に、Boehringer Mannheim社(ドイツ)のWST-1試験により細胞カウントを決めた。各場合に、培養骨芽細胞の細胞増殖の典型的な対数期がここでは見られた(図13)。最大達成細胞カウントは、被覆溶液中のRGDペプチド濃度に直接依存していた。すなわち、15日培養した後、1cm2当り約1,000,000細胞(100μMペプチド)、約550,000細胞(1μMペプチド)、約300,000細胞(0.01μMペプチド)または約230,000細胞(ペプチド無しの対照)が達成された。つまり、100μMの最も高いペプチド濃度において、非被覆サンプルと比較して、細胞増殖に約4〜5倍の増加が観察された。
【0118】
実施例6:
異なる細胞種の付着を刺激するべく、局部的に分化した生物学的活性な被覆パターンを有するインプラントを得るための異なる細胞選択性のRGDペプチドによる材料被覆のために用いた原型は、重合したPMMA骨セメント造形品であった。これに、異なる細胞選択性の2つのRGDペプチドを共有結合させた。この場合、αvβ3/αvβ5インテグリン担持骨芽細胞への選択性を有するアクリレートペプチド3、タイプ iiia、およびαIIIbβ3陽性結晶板への選択性を有するアクリレートペプチド5、タイプ iiiaを、実施例3で記載したようにPMMA造形品に結合させた。
a. 最初の実験においては、PMMA造形品を、夫々100μM、10μMおよび1μMの被覆溶液中濃度において、アクリレートペプチド3および5で被覆した。次に、これらのRGDペプチド被覆部材を、骨芽細胞および血小板と並行して接種し、その細胞付着を決めた。
【0119】
MC3T3 H1骨芽細胞(350,000細胞/cm2)およびヒト血小板(50,000,000細胞/cm2)を、アクリレートペプチド3でおよびアクリレートペプチド5で被覆したPMMA造形品上に並行して接種し、その細胞付着を実施例3に記載に従って決めた。
【0120】
ShattilおよびBrass(J. Biol. Chem.,第262巻:992〜1000頁,1987)の方法に従ってヒト血小板を調製した。この実験により、2つのRGDペプチドの細胞選択性を検証することができた。
【0121】
αvβ3/αvβ5陽性骨芽細胞が、αvβ3/αvβ5陰性血小板と比べると、アクリレートペプチド3(αvβ3/αvβ5選択的な)被覆PMMA造形品に優先的に付着した(図14)。ここで、骨芽細胞について、約6.0(被覆溶液中に100μMペプチド)、約2.0(10μMペプチド)または約1.8(1μMペプチド)の換算したAbs(405nm)が、見出された。しかしながら、血小板については、約3.0Abs(被覆溶液中に100μMペプチド)、約1.5Abs(10μMペプチド)または約0.2Abs(1μMペプチド)の非常に低い細胞付着値が見られた。しかしながら、アクリレートペプチド5(αIIIbβ3選択的な)被覆PMMA造形品では、逆の結果が見られた。この場合、αvβ3/αvβ5陽性血小板は、αIIbβ3陰性骨芽細胞と比べると、優先的に付着した(図15)。
【0122】
ここで、血小板について、約4.0(被覆溶液中に100μMペプチド)、約0.5(10μMペプチド)または約0.2(1μMペプチド)の計算Abs(405nm)が見られた。しかしながら、骨芽細胞については、約1.5Abs(被覆溶液中に100μMペプチド)、約1.0Abs(10μMペプチド)または約0.2Abs(1μMペプチド)の非常に低い細胞付着値が見られた。
b. 第2の実験においても、PMMA造形品を、夫々の被覆溶液中濃度を100μMのみではあるが、アクリレートペプチド3および5で同様に被覆した。次に、これらのRGDペプチド被覆した部材を、骨芽細胞、血小板または骨芽細胞/血小板混合物と並行して接種し、その細胞付着を求めた。MC3T3 H1骨芽細胞(350,000細胞/cm2)、ヒト血小板(50,000,000細胞/cm2)および細胞混合物(350,000骨芽細胞/cm2ならびに50,000,000血小板/cm2)を、アクリレートペプチド3でおよびアクリレートペプチド5で被覆したPMMA造形品上に並行して接種し、その細胞付着を、実施例3に記載に従って決めた。
【0123】
αvβ3/αvβ5陽性骨芽細胞(約6.0Abs)は、αvβ3/αvβ5陰性血小板(約3.0Abs)と比べると、アクリレートペプチド3被覆PMMA造形品に優先的に付着した(図16)。両方の細胞種を混合物として接種すると、骨芽細胞のみの結果(約6.5Abs)にほぼ相当する結果が得られた。
【0124】
しかしながら、アクリレートペプチド5(αIIbβ3選択的な)被覆PMMA造形品については、逆の結果が見られた。ここで、αIIbβ3陽性血小板(約4.0Abs)は、αIIbβ3陰性骨芽細胞(約1.5Abs)と比べると、優先的に付着した(図17)。両方の細胞種を混合物として接種すると、血小板と骨芽細胞についての個々の結果の合計(約6.5Abs)に略相当する結果が得られた。
【0125】
これらの結果は、種々の細胞選択的なRGDペプチドによるインプラント表面の被覆を、選択細胞種の好ましい付着を媒介するインプラントの生成のために用いることができる。この場合、骨芽細胞と血小板との比較は次のことを示している:
・インテグリン選択的なRGDペプチドによる表面被覆が、これらの特別インテグリンを有さないまたは僅かな程度にしか有さない細胞と比較して、相補的なインテグリンの追加を有するこれらの細胞種の付着を著しく刺激することができる。
・この効果は、生体内状態と極めて近い、細胞混合物を用いた場合にも維持される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本質的に、キャリアマトリクスおよび、
ヒトまたは動物細胞上の、付着を支配するインテグリン受容体上の結合部位を認識する配列を有する、ペプチド被覆から構成され、ヒトまたは動物の体細胞の標的化付着を刺激するための、同一または異なるペプチドを含む、このマトリクスを取り囲むペプチド被覆とから構成され、
前記キャリアマトリクスは、前記ペプチド層の適合する官能性反応性基と安定な共有結合を形成することができる、結合し得る反応性基をその表面上に有している、異なるヒトおよび動物の器官に適するインプラントであって、
その対応した異なる構造に関係した、細胞付着刺激活性に由来して、細胞にインプラントが挿入されるべき、特定の領域において、それらと隣接する組織細胞の天然の異なる相補的なインテグリンのパターンと特異的に対応し、これにより、インプラント表面の、局部的に分化し、選択的な、生物学的に活性な被覆パターンが存在するように、前記ペプチドがインプラントの表面に配されていることを特徴とする。
【請求項2】
前記ペプチドが、アンカー分子により、インプラントの表面に付着している
ことを特徴とする請求項1に記載のインプラント。
【請求項3】
アンカー分子が以下の構造の1つからなる
ことを特徴とする請求項2に記載のインプラント:
-CO-(CH2)k-X-SH、 (i)
ここで、Xは一重結合または-CO-NH-(CH2)l-、
k=2〜12およびl=2〜4;
-CO-(CH2)m-[NH-CO-(CH2)n]p-NH-CO-CH=CH2、 (ii)
ここで、m、n=2〜8;p=0〜2、
-(CO-CH2-O-CH2-CH2-O-CH2-CH2-NH)q-CO-(CH2)r-NH-CO-CH=CH2 (iii)、
ここで、q=1〜3およびr=2〜8。
【請求項4】
アンカー分子が以下の構造の1つから選択される
ことを特徴とする請求項3に記載のインプラント:
-CO-CH2-CH2-SH ; (ia)
-CO-CH2-CH2-CO-NH-CH2-CH2-SH ; (ib)
-CO-(CH2)5-NH-CO-CH=CH2 ; (iia)
-CO-(CH2)5-NH-CO-(CH2)5-NH-CO-CH=CH2 ; (iib)
-CO-CH2-O-CH2-CH2-O-CH2-CH2-NH-CO-(CH2)5-NH-CO-CH=CH2; (iiia)
-(CO-CH2-O-CH2-CH2-O-CH2-CH2-NH)2-CO-(CH2)5-NH-CO-CH=CH2 (iiib)
【請求項5】
ペプチドが、アミド結合によりアンカー分子のカルボキシル基を介してインプラント表面に結合し、かつアンカー分子がメルカプトまたはアクリル酸基を介してインプラント表面に結合する
ことを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項6】
ペプチドの細胞認識領域と非被覆材料表面との間の立体な臨界的、絶対最少距離が2.0〜3.5nmの間になるようにペプチドアンカー分子がインプラント表面に付着する
ことを特徴とする請求項5に記載のインプラント。
【請求項7】
ペプチドがαvβ3/αvβ5発現細胞と結合することが可能である
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項8】
アミノ酸配列RGDを有するペプチドを含む
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項9】
環状のRGDfK配列のペプチドを含む
ことを特徴とする請求項8に記載のインプラント。
【請求項10】
前記ペプチドまたはペプチドアンカー分子とキャリアマトリクスの表面との間に表面積拡大効果をもたらす付着促進中間層および/または分岐分子を含む
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項11】
キャリアマトリクスが、細胞を用いる生体内または生体外コロニー形成によりバイオハイブリッド器官として形成することができる、セラミック、ポリマー材料、金属の適当な造形品、またはこれらの材料からなる構造体である
ことを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項12】
請求項1〜11に記載のインプラントを調製する方法であって、
(i)生体内でインプラントが挿入されるべき標的組織のインテグリン受容体構造を試験管内試験システムで決定し、
(ii)適当な相補的構造を有する前記ペプチドを選択または合成し、
(iii)前記ペプチドはインプラントのそれぞれの任意に変性された表面に直接または前記アンカー分子を介して共有結合されて、インプラントの表面上の異なるペプチドの局部的配列は、そのインプラントが挿入されべき、相補的インテグリンパターンを有する標的細胞の特定の予め定められた局部的配列と対応している
ことを特徴とする方法。
【請求項13】
標的組織のインテグリン受容体構造の試験管内的な決定を、免疫組織学的に活性な抗体により行う
ことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
インプラント表面への前記ペプチドまたはペプチドアンカー分子の結合を、他のタイプの被覆のための既知の方法により行う
ことを特徴とする請求項12または13に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−88933(P2010−88933A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3588(P2010−3588)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【分割の表示】特願平10−549890の分割
【原出願日】平成10年5月9日(1998.5.9)
【出願人】(510010366)
【Fターム(参考)】