説明

ペルオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ標識化合物の安定化方法、および組成物

【課題】ペルオキシダーゼの安定化方法および組成物に関する。特に臨床診断に用いられるペルオキシダーゼまたはペルオキシダーゼ標識化合物の安定化方法および組成物を提供する。
【解決手段】ペルオキシダーゼまたはペルオキシダーゼ標識化合物と、高度分岐環状デキストリン、グリコーゲンまたはそれらの誘導体とを共存させる、ペルオキシダーゼを安定化する方法。または、ペルオキシダーゼまたはペルオキシダーゼ標識化合物と、高度分岐環状デキストリン、グリコーゲンまたはそれらの誘導体とが共存している、ペルオキシダーゼを安定化した組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペルオキシダーゼやペルオキシダーゼ標識化合物の安定化方法、および組成物に関する。特に、臨床診断に用いられるペルオキシダーゼや、ペルオキシダーゼ標識抗体に代表されるペルオキシダーゼ標識化合物の安定化方法、および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ペルオキシダーゼ、および各種化合物を用いてペルオキシダーゼを抗体やビオチン、アビジン、ストレプトアビジンなどに修飾させたペルオキシダーゼ標識化合物は、その汎用性と簡便性によりさまざまな用途に応用されている。例えば、分子生物学用途の分析用試薬、生化学用途の分析試薬、体外診断薬、液状体外診断薬、チップ状またはスリット状に加工したドライ系の体外診断薬、酵素センサーや酵素電極などである。また、ペルオキシダーゼの重合反応を利用して、ポリフェノール、フェノール系樹脂、カテキン重合体などの合成が研究されており、合成化学分野や医薬分野、食品分野などへの応用が期待されている。
【0003】
上記のようなペルオキシダーゼやペルオキシダーゼ標識化合物を含む組成物を、過酷な温度条件下でも利用できるためには、あるいは有効期間を長期に渡って維持するためには、言うまでもなくペルオキシダーゼの酵素活性を安定的に保持する事が重要である。例えば、試薬組成物中の酵素活性が温度の上昇と共に低下する時、あるいは時間経過により低下する時、酵素の活性低下速度に合わせて、試薬の有効期限も鑑み、予め過剰量の活性を添加する方策があるが、多くの場合このような手段では問題の根本的な解決にはならず、ペルオキシダーゼやペルオキシダーゼ標識化合物の使用範囲が制限されたり、コストがかさむことは避けられない。
【0004】
このため、ペルオキシダーゼ含有組成物中に、塩類、イオン類、糖類、糖アルコール、アミノ酸、脂肪酸エステル、牛血清アルブミンやゼラチン誘導体物等のタンパク質などを共存させることで、安定化を図る種々の方法が試みられてきた。また、ペルオキシダーゼ標識化合物についても、種々の添加剤で安定化を図る方法の他、架橋を施すことによる安定化などの方策も試みられてきた。(例えば、特許文献1,2,3,4,5,6参照)
【特許文献1】特開平6−153935
【特許文献2】特開平6−284886
【特許文献3】特開平7−177883
【特許文献4】特開平7−289258
【特許文献5】特開平8−208577
【特許文献6】特開平9−299085
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記安定化剤として例えばタンパク質を用いた場合、高濃度で溶解し難いことや、タンパク質であるペルオキシダーゼとのタンパク質同士の凝集、変性による凝集、不溶化などの問題が、容易に想定される。また、塩類、一部のアミノ酸や多糖類を溶液中で用いた場合は、溶解度の低さや保存中の析出により、十分量添加することができないケースが考えられる。また、特に生体に存在する化合物を診断薬に添加する場合は、試薬系に共存する若しくは酵素や標識抗体中に混在する夾雑物質との添加剤とが意図しない反応を引き起こす問題を発生させることがある。更に、牛血清アルブミンなどの動物性原料を用いる場合は、着色や牛海綿状脳症(BSE)などに対するリスクにも十分な配慮が必要となる。
【0006】
また、架橋による安定化は、ペルオキシダーゼの構造そのものに少なからず影響を与えるため、活性に悪影響を与える可能性が否定できない。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、ペルオキシダーゼやペルオキシダーゼ標識化合物の効果的な安定化法と、それによって安定性が維持された組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成する為に種々検討した結果、グルコースポリマーである高度分岐環状デキストリンまたはグリコーゲンを、ペルオキシダーゼまたはペルオキシダーゼ標識化合物と共存させることにより、ペルオキシダーゼを効果的に安定化できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下のようなものである。
【0009】
[1]
ペルオキシダーゼまたはペルオキシダーゼ標識化合物と、高度分岐環状デキストリン、グリコーゲンまたはそれらの誘導体とを共存させることを特徴とする、ペルオキシダーゼまたはその標識化合物の安定化方法。
[2]
ペルオキシダーゼまたはペルオキシダーゼ標識化合物が溶液中に存在する、[1]記載の安定化方法。
[3]
ペルオキシダーゼが西洋ワサビ由来である、[1]または[2]記載の安定化方法。
[4]
高度分岐環状デキストリン、グリコーゲンまたはそれらの誘導体を溶液中0.1〜10重量%共存させる、[2]または[3]記載の安定化方法。
[5]
ペルオキシダーゼまたはペルオキシダーゼ標識化合物、および高度分岐環状デキストリン、グリコーゲンまたはそれらの誘導体が共存している、ペルオキシダーゼまたはその標識化合物を安定化した組成物。
[6]
ペルオキシダーゼまたはペルオキシダーゼ標識化合物が溶液中に存在する、[5]記載の組成物。
[7]
ペルオキシダーゼが西洋ワサビ由来である、[5]または[6]記載の組成物。
[8]
高度分岐環状デキストリン、グリコーゲンまたはそれらの誘導体が溶液中0.1〜10%共存している、[6]または[7]記載の組成物。
[9]
高度分岐環状デキストリン、グリコーゲンまたはそれらの誘導体を共存させる工程を含む、ペルオキシダーゼまたはペルオキシダーゼ標識化合物含有組成物の製造方法。
[10]
[5]の組成物を含む診断用キット。
[11]
[5]の組成物を含むバイオセンサー。
【発明の効果】
【0010】
本発明のペルオキシダーゼの安定化方法によれば、高度分岐環状デキストリン、グリコーゲンまたはそれらの誘導体を用いることにより、ペルオキシダーゼまたはペルオキシダーゼ標識化合物の安定化を状態の如何に関わらず向上させ、ペルオキシダーゼ標識化合物を含むペルオキシダーゼを用いた組成物の安定性を向上することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明において「安定化」とは、生体分子がある物質と共存した状態(a)と共存していない状態(b)において、生体分子を一定時間放置した後の該生体分子の保持する残存機能が(a)>(b)となるような状態をいう。
【0013】
例えば、ペルオキシダーゼやペルオキシダーゼ標識抗体などのペルオキシダーゼ標識化合物を含む水溶液の状態で、ある物質(a)を共存させた場合と、共存させない場合(b)で、適当な温度で一定時間放置した後の残存活性の比率が、(a)>(b)となる状態をいう。
【0014】
「適当な温度で一定時間放置」の条件は、状態(a)と状態(b)で残存活性に差があらわれる条件であれば特に限定されないが、好ましくは、診断薬試薬中などでの長期保存安定性を念頭に置いた過酷試験の条件が選択される。具体的には、「70℃、60分間保存」、または「37℃、120時間保存」などが挙げられる。時間が許せば、生体分子を含有する診断薬などが実際に長期保存される温度として汎用される2℃〜10℃の冷蔵条件下で6ヶ月以上の保存を選択してもよい。
【0015】
本発明の一実施態様としては、緩衝液中でペルオキシダーゼまたはペルオキシダーゼ標識化合物を70℃、60分間保存した後の残存活性率を、高度分岐環状デキストリン或いはグリコーゲンを添加することによって、高度分岐環状デキストリン或いはグリコーゲンを含まない状態に比べて向上させる方法である。
【0016】
本発明の別の実施態様としては、緩衝液中でペルオキシダーゼまたはペルオキシダーゼ標識化合物を37℃、120時間保存した後の残存活性率を、高度分岐環状デキストリン或いはグリコーゲンを添加することによって、高度分岐環状デキストリン或いはグリコーゲンを含まない状態に比べて向上させる方法である。
【0017】
高度分岐環状デキストリンとグリコーゲンは、共にグルコースポリマーであり、α-1,4-グルコシド結合で連結された単位鎖が、α-1,6-グルコシド結合を介して多数結合した構造をとっている。両者とも溶液中では球状の構造をとっており、その直径は約10〜50nmと推定されている。
【0018】
本発明の安定化方法に用いる高度分岐環状デキストリンとは、ブランチングエンザイム(EC 2.4.1.18)の環状化反応により、デンプン中のアミロペクチンを限定的に低分子化させることにより生産させるデキストリンであり、より具体的には、特許第3107358号に記載されている内分岐環状構造部分と外分岐構造部分とを有する、重合度が50以上のグルカンを意味する。高度分岐環状デキストリンは、商品名クラスター デキストリンとして、江崎グリコ株式会社より販売されているものを用いても良いし、以下の文献に開示される公知の方法に従って得ることもできる。
【非特許文献1】Takata, H.他 (1996) Carbohydr. Res. 295, 91-101
【非特許文献2】Takata, H.他 (2003) J. Appl. Glycosci. 50, 15-20
【0019】
本発明の安定化方法に用いるグリコーゲンとは、動物の肝臓や骨格筋で貯蔵されることが知られているものであり、特に限定はされない。その由来としては動物が挙げられるが、植物ないし微生物がグリコーゲンないしグリコーゲンと同様な構造を有する物質を産生することも知られており(例えば、特許文献3)、これらはすべて本発明のグリコーゲンとして使用することができる。さらに本発明に用いるグリコーゲンを、酵素を用いて合成することもできる。例えば、砂糖にスクロースホスホリラーゼ(EC 2.4.1.7)とα-グルカンホスホリラーゼ(EC 2.4.1.1)を作用させる方法(非特許文献3)、および短鎖のアミロースにブランチングエンザイム(EC 2.4.1.18)を作用させる方法(特許文献3および非特許文献2)などがある。これらの方法で合成したグリコーゲンも、天然グリコーゲンと同様の化学的構造、および物理的構造を持つことが知られており(非特許文献4、5)、これらの酵素合成グリコーゲンも本発明の安定化方法に使用することができる。
【非特許文献3】Ryoyama, K.; Kidachi, Y.; Yamaguchi, H.; Kajiura, H.; Takata, H. (2004) Biosci Biotechnol Biochem 68, 2332-2340
【特許文献3】WO2006/035848
【非特許文献4】梶浦、高田、空山、竹田、栗木(2006)日本応用糖質科学会2006年度大会講演要旨集:J.Appl.Glycosci., 53, Suppl., p27
【非特許文献5】高田、梶浦、栗木、北村(2006)日本応用糖質科学会2006年度大会講演要旨集:J.Appl.Glycosci., 53, Suppl., p27
【0020】
また、高度分岐環状デキストリン或いはグリコーゲンを用いる以外に、それらの誘導体を用いても良く、それらの同等物であっても良い。そのような誘導体または同等物の作製は、例えば、以下の方法で行なうことが可能である。
【0021】
高度分岐環状デキストリンまたはグリコーゲンを当業者に周知の分離方法、例えば、クロマト分離(例えば、ゲル濾過クロマトグラフィー、HPLC)、膜分離等で適当な分子量分布を持つ画分に分離することができる。また、溶媒(例えば、メタノール、エタノール)を用いる沈澱等の方法を、単独で、あるいは組み合わせて用いて適当な分子量分布を持つ画分に分離することができる。また、高度分岐環状デキストリンまたはグリコーゲンを当業者に周知の方法でエーテル化、エステル化、架橋化、およびグラフト化したものを使用することができる。誘導体化の方法としては、通常、澱粉の修飾に用いられる方法が用いられ得る(生物化学実験法19,「澱粉・関連糖質実験法」:中村ら、学会出版センター、1986年 273〜303頁)。リン酸化の例としては、本発明の高度分岐環状デキストリンまたはグリコーゲンをジメチルホルムアミド中でオキシ塩化リンと反応させることにより、リン酸化した高度分岐環状デキストリンまたはグリコーゲンを得ることができる。
【0022】
本発明の安定化方法、安定化組成物の対象となるペルオキシダーゼは、特に限定されるものではないが、例えば臨床診断に一般的に用いられる西洋ワサビ由来のペルオキシダーゼ、ダイズ由来のペルオキシダーゼなどの植物由来ペルオキシダーゼ、アクレモニウム属真菌由来のペルオキシダーゼなどの真菌由来ペルオキシダーゼ、バチルス属細菌ペルオキシダーゼなどの細菌由来ペルオキシダーゼ等が挙げられる。この中で、本発明に好適なものとして、植物由来ペルオキシダーゼが挙げられ、特に好適なものとして、西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼが挙げられる。
【0023】
本発明の対象となるペルオキシダーゼは、天然に存在する各種植物、微生物などの給源から調製されたもの、遺伝子工学的手法により製造されたもの、あるいは無細胞的に合成されたものを用いることができる。更に蛋白質工学などの手法により野生型から改変されたものであっても良い。
【0024】
また、本発明の対象となるペルオキシダーゼは、ペルオキシダーゼ標識化合物の状態のものを含む。例えば、抗体とコンジュゲート化されたもの、抗原とコンジュゲート化されたもの、色素やビオチン、またはアビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジンなどの化合物を標識したもの等であってもよい。すなわち、このようなペルオキシダーゼ標識化合物中のペルオキシダーゼ部分も、本発明でいうペルオキシダーゼに含まれる。
【0025】
それらの存在状態は、液状、凍結乾燥状、顆粒状、担体への固定化やチップ等にコーティングされた状態など特に限定されない。
【0026】
さらに、他の物質と混合された液状組成物、凍結乾燥組成物などであってもよい。
【0027】
このような組成物は、適当な容器に入れたり、適当なデバイスに搭載されて、例えば、分子生物学用途の分析用試薬、生化学用途の分析試薬、体外診断薬、液状体外診断薬、チップ状またはスリット状に加工したドライ系の体外診断薬、酵素センサーや酵素電極、医薬品など、種々の形態をとることができる。
【0028】
ペルオキシダーゼまたはペルオキシダーゼ標識化合物に対する、高度分岐環状デキストリン、グリコーゲンまたはそれらの誘導体の配合比率は、ペルオキシダーゼまたはペルオキシダーゼ標識化合物1重量部に対し、250〜5000重量部程度、好ましくは300〜2500重量部程度、より好ましくは500〜1500重量部程度である。
【0029】
本発明の方法及び組成物において、ペルオキシダーゼまたはペルオキシダーゼ標識化合物が溶液中に存在する場合、高度分岐環状デキストリン、グリコーゲンまたはそれらの誘導体の濃度は、0.5〜10重量%程度、好ましくは0.6〜5重量%程度、より好ましくは1〜3重量%程度である。また、溶液中のペルオキシダーゼまたはペルオキシダーゼ標識化合物の濃度は、0.0002〜0.02重量%程度、好ましくは0.0005〜0.01重量%程度である。さらに、ペルオキシダーゼまたはペルオキシダーゼ標識化合物と、高度分岐環状デキストリン、グリコーゲンまたはそれらの誘導体とを含む溶液のpHは、5.5〜8程度、好ましくは6〜7.5程度である。
【0030】
本発明においては、さらなる安定化、ハンドリングのための粉末形状の改善などの目的で、さらに他の物質を混合しても良い。粉末の場合、一般的な安定化剤や形状改善剤として、ラクトース、シュークロース、ラフィノース、トレハロースなどの糖類およびグルシトール、マンニトール、イノシトール、キシリトールなどの糖アルコール類、グリシン、アラニン、セリン、トレオニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン、アスパラギン、リジン、ヒスチジン等のアミノ酸およびアミノ酸塩、グリシルグリシン、グリシルグリシルグリシンなどのペプチド類、リン酸塩、ホウ酸塩、硫酸塩、トリス塩などの無機塩類、フラビン類、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、グルコン酸などの有機酸及び有機酸の塩、ゼラチン、カゼイン、BSAなどのタンパク質、更にコール酸類、脂肪酸の糖エステル類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルエーテルなどの界面活性剤を含むことが可能である。
【0031】
液状である場合、ペルオキシダーゼやペルオキシダーゼ標識化合物は、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、PIPES,MES,TES,MOPS,HEPESなどのGood緩衝液に溶解又は懸濁されていて良く、この様な液中に硫安、燐安、食塩、塩化カリウムなどの塩類を含んでいても良い。また、エタノールやメタノール、プロパノールなどのアルコール類、グリセロールやエチレングリコールなどのポリオール類、アルキルグルコシド、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、脂肪酸アルコールエステルなどの界面活性剤を添加しても良い。必要に応じて、ペニシリン系、セフェム系、アミノ配糖体系、マイクロライド系、テトラサイクリン系、ニュー・キノロン系等の抗生物質、アジ化物、1,1‘−Methylen−bis[3−(1−hydroxymethyl−2,4−dioximidazolidin−5−yl)−urea],2−Methyl−3(2H)−isothiazolone−hydrochloride,5−Bromo−5−nitro−1,3−dioxane,2−Hydroxypyridine−N−oxide,2−Chloroacetamideなどの防腐剤を添加しても良い。
【0032】
ペルオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ標識化合物を構成成分とする組成物は、その組成物の使用目的に応じてNADやNADH、NADP,NADPH,ATP,ADP,AMP,GTP,GMP,FADやFMN、ビオチン、ナイアシン、コバラミン、PQQなどの補酵素類、ナトリウム、カリウム、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、リチウム、銅、鉄、マンガン等の金属塩、チオール化合物、セレン化合物、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、ホウ酸塩、トリス塩等の塩類、アミノ酸及びアミノ酸塩、糖および配糖体、また必要により、フェノール系およびアニリン系の各種トリンダー試薬とカプラーである4−アミノアンチピリン,テトラゾリウム塩類とフエナジンメトサルフェートなどの電子キャリヤー、ロイコ系試薬などの色素類,および基質類を添加する事が可能である。
【0033】
一般に、ペルオキシダーゼは基質との酵素反応により、発色、発光、または蛍光を生じ、定性、定量を可能とする。従って、ペルオキシダーゼを含む組成物は、発色基質である各種トリンダー試薬と4−アミノアンチピリンなど、発光基質であるECLやECLプラスなど、蛍光物質である10−アセチル−3,7−ジヒドロキシフェノキサジンなどを添加する事が好ましい。
【0034】
また、ペルオキシダーゼ標識抗体を構成成分とする組成物は、その組成物の使用目的に応じて、非特異反応防止剤を添加してもよい。非特異反応防止剤としては、特に限定されるものではないが、標識抗体と同種の抗体、標識抗体と同種の酵素を添加することができる。同種の抗体として、マウスIgG、マウスIgM、高分子量化されたマウスIgG重合体、ヤギIgG,羊IgG、馬IgG、ラットIgG、ウサギIgGが挙げられる。またこれら抗体を含む動物血清、腹水などの体液のまま添加することもできるが、ウイルス不活化処理、補体非働化処理、脱脂処理などを行って添加することが望ましい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明は実施例により特に限定されるものではない。
【0036】
なお、高度分岐環状デキストリンは、非特許文献2に従い製造された高純度品(純度99%以上)を使用した。
当該高純度品は具体的には、以下のように合成した。ワキシーコーンスターチ20gを100mLの水に分散し、100℃の湯浴中で撹拌しながら加熱することにより糊化させた。70℃まで放冷し、6000単位のAquifex aeolicus由来ブランチングエンザイムを添加し、70℃で16時間保持した。反応液から不溶性の不純物を遠心により除き、高度分岐環状デキストリンを、等量のエタノールを添加することにより沈殿させ回収した。なお、純度は非特許文献2に記載される多角度光散乱検出器と示差屈折検出器を併用する高速液体クロマトグラフィーにより分析したとき、分子量3万から100万となる成分の量を高度分岐環状デキストリンとし、それ以外を不純物として算出した。
【0037】
また、グリコーゲンは、特許文献3の方法に従い、酵素を用いて合成したものを使用した。具体的には、グリコーゲンを以下のように合成した。コーンスターチ(和光純薬工業(株)製)(2重量%)を水に懸濁し、100℃で30分間加熱することにより、糊化した。それを40℃まで冷まし、イソアミラーゼ(5000U/g基質;(株)林原生物化学研究所製)を添加して40℃で20時間反応させ、短鎖アミロースを生成させた。その後、この溶液を5mM リン酸カリウムバッファーでpH7.5に調整し、Aquifex aeolicus由来のブランチングエンザイムを添加し、基質濃度2重量%、ブランチングエンザイム20000U/g基質とした後、65℃で20時間反応させた。反応液から不溶性の不純物を遠心により除き、グリコーゲンを、等量のエタノールを添加することにより沈殿させ回収した。
【0038】
(試薬の調製)
下記組成からなる試薬をそれぞれ調製した。
PIPES−NaOH 50mM pH7.0
ペルオキシダーゼ(東洋紡績製;PEO−302) 5,000U/L
高度分岐環状デキストリン(江崎グリコ製;以下h−CCDと略す)
2〜30g/L
グリコーゲン(江崎グリコ製;以下ESGと略す) 5〜30g/L
【0039】
(実施例1)
ペルオキシダーゼ、1〜3%のh−CCDを含有する上記試薬溶液を70℃で〜60分間処理し、残存活性(調製直後の活性値に対する処理後の活性値の割合)を測定した。
(比較例1)
実施例1においてh−CCDを添加しない、またはh−CCDの代わりに同重量のグルコースを添加した試薬溶液を調製し、実施例1と同様の条件で処理し、残存活性を測定した。
図1に示す通り、ペルオキシダーゼの熱安定性が高度分岐環状デキストリンにより向上することが示された。
【0040】
(実施例2)
ペルオキシダーゼ、1〜3%のh−CCDを含有する上記試薬溶液を37℃で24時間および120時間処理し、残存活性(調製直後の活性値に対する保存後の活性値の割合)を測定した。
(比較例2)
実施例2においてh−CCDを添加しない、またはh−CCDの代わりに同重量のグルコースを添加した試薬溶液を調製し、実施例2と同様の条件で保存し、残存活性を測定した。
図2に示す通り、ペルオキシダーゼの保存安定性が高度分岐環状デキストリンにより向上することが示された。
【0041】
(実施例3)
ペルオキシダーゼ、0.2〜1%のh−CCDを含有する上記試薬溶液を37℃で120時間処理し、残存活性(調製直後の活性値に対する保存後の活性値の割合)を測定した。
(比較例3)
実施例3においてh−CCDを添加しない試薬溶液を調製し、実施例3と同様の条件で保存し、残存活性を測定した。
図3に示す通り、ペルオキシダーゼの保存安定性が0.6%以上の高度分岐環状デキストリンにより有意に向上することが示された。
【0042】
(実施例4)
ペルオキシダーゼ、0.5〜3%のESGを含有する上記試薬溶液を70℃で〜60分間処理し、残存活性(調製直後の活性値に対する処理後の活性値の割合)を測定した。
(比較例4)
実施例4においてESGを添加しない試薬溶液を調製し、実施例4と同様の条件で処理し、残存活性を測定した。
図4に示す通り、ペルオキシダーゼの熱安定性がグリコーゲンにより向上することが示された。
【0043】
(実施例5)
ペルオキシダーゼ、1〜3%のESGを含有する上記試薬溶液を37℃で24時間および120時間処理し、残存活性(調製直後の活性値に対する保存後の活性値の割合)を測定した。
(比較例5)
実施例5においてESGを添加しない試薬溶液を調製し、実施例5と同様の条件で保存し、残存活性を測定した。
図5に示す通り、ペルオキシダーゼの保存安定性がグリコーゲンにより向上することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、ペルオキシダーゼの安定性を向上させ、ペルオキシダーゼを用いた組成物の有効性を維持することが可能となる。特に臨床検査分野で用いられる診断薬用途として優れており、産業界に寄与することが大である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】高度分岐環状デキストリンによるペルオキシダーゼの熱安定化効果を示す。
【図2】高度分岐環状デキストリンによるペルオキシダーゼの保存安定性向上効果を示す。
【図3】種々の濃度の高度分岐環状デキストリンによるペルオキシダーゼの保存安定性向上効果を示す。
【図4】グリコーゲンによるペルオキシダーゼの熱安定化効果を示す。
【図5】グリコーゲンによるペルオキシダーゼの保存安定性向上効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペルオキシダーゼまたはペルオキシダーゼ標識化合物と、高度分岐環状デキストリン、グリコーゲンまたはそれらの誘導体とを共存させることを特徴とする、ペルオキシダーゼまたはその標識化合物の安定化方法。
【請求項2】
ペルオキシダーゼまたはペルオキシダーゼ標識化合物が溶液中に存在する、請求項1記載の安定化方法。
【請求項3】
ペルオキシダーゼが西洋ワサビ由来である、請求項1または2記載の安定化方法。
【請求項4】
高度分岐環状デキストリン、グリコーゲンまたはそれらの誘導体を溶液中0.1〜10重量%共存させる、請求項2または3記載の安定化方法。
【請求項5】
ペルオキシダーゼまたはペルオキシダーゼ標識化合物、および高度分岐環状デキストリンまたは、グリコーゲンまたはそれらの誘導体が共存している、ペルオキシダーゼまたはその標識化合物を安定化した組成物。
【請求項6】
ペルオキシダーゼまたはペルオキシダーゼ標識化合物が溶液中に存在する、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
ペルオキシダーゼが西洋ワサビ由来である、請求項5または6記載の組成物。
【請求項8】
高度分岐環状デキストリン、グリコーゲンまたはそれらの誘導体が溶液中0.1〜10重量%共存している、請求項6または7記載の組成物。
【請求項9】
高度分岐環状デキストリン、グリコーゲンまたはそれらの誘導体をペルオキシダーゼまたはペルオキシダーゼ標識化合物と共存させる工程を含む、ペルオキシダーゼまたはペルオキシダーゼ標識化合物含有組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項5の組成物を含む診断用キット。
【請求項11】
請求項5の組成物を含むバイオセンサー。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−259492(P2008−259492A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239855(P2007−239855)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】