説明

ペルオキシド硬化された部分的にフッ素化されたエラストマー

(i)(a)少なくとも1種の水素含有モノマー及び(b)少なくとも1種のニトリル含有モノマー由来の共重合単位を含むフルオロエラストマーと、(ii)硬化剤と、を含み、前記硬化剤がペルオキシド及び架橋助剤から本質的になる、部分的にフッ素化されたエラストマー及び硬化方法が、本明細書で説明される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ニトリル含有硬化部位及びペルオキシド硬化剤を用いて硬化される、硬化可能な部分的にフッ素化されたエラストマー組成物が記載される。硬化方法及び硬化物品についても記載される。
【背景技術】
【0002】
例えば220℃〜330℃の温度で十分に機能する高温エラストマーに対するニーズが高まっている。C−F結合の結合エネルギーが大きいため、これらの極端な温度条件においては、ペルフルオロエラストマー(完全にフッ素化した分子)が従来用いられている。しかし、ペルフルオロエラストマーのコストのために、特定の用途及び市場においては望ましくなく、又は非常に高額となる場合がある。
【0003】
部分的にフッ素化されたエラストマーは、典型的には完全フッ素化されたエラストマーよりも安く、またいくらかのフッ素を含むため、完全フッ素化されたエラストマーと同じく極端な条件の一部において、例えば耐化学性などを十分に発揮することができる。しかし、部分的にフッ素化されたエラストマーが対応する完全フッ素化されたものと同様に機能しないある領域とは、高温での封止用途であり、これは高温(例えば230℃超)での良好な圧縮永久歪み耐性を必要とする。
【0004】
部分的にフッ素化されたエラストマーを硬化するためには、既知の3つの主な硬化系、すなわち、ジアミン、ビスフェノール、及びペルオキシドがある。ペルオキシド硬化系は、典型的にはフルオロポリマー上のヨウ素及び臭素硬化部位を利用し、時には特定のシランの存在下において、塩素硬化部位が利用され得る。有機ペルオキシドを用いてフリーラジカルを生じさせ、これが架橋助剤と反応して二次ラジカルを発生させ、続いてヨウ素、臭素、又は塩素を抽出して、フルオロポリマー鎖上にフリーラジカルを残し、これが次いで更に架橋助剤と反応して架橋ネットワークを生成する。ペルオキシド硬化系は、元々は耐化学性があるが熱安定性を欠くことで知られている。フルオロエラストマーの硬化に関する更なる考察については、V.Arcella and R.Ferro,「Fluorocarbon Elastomers」,in Modern Fluoropolymers,John Scheirs,editor,John Wiley & Sons Ltd.,New York,(2000)p.77〜81〜352;「Fluorocarbon Elastomers」,in Kirk−Othmer Encylcopedia of Chemical Technology,4thed.John Wiley & Sons Ltd.,New York,(1993)v.8,p.990〜995;及びA.Logothetis,「Chemistry of Fluorocarbon Elastomers」in Progress in Polymer Science,v.14,p.251〜296(1989)を参照されたい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フッ化ビニリデンをベースとするフルオロエラストマーなど、高温性能を改善する部分的にフッ素化されたエラストマー(「FKM」又はASTM D1418−06の指定により呼ばれることが多い)の硬化系を同定することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様では、本開示は、(i)(a)少なくとも1種の水素含有モノマー及び(b)少なくとも1種のニトリル含有モノマー由来の共重合単位を含むフルオロエラストマーと、(ii)硬化剤と、を含み、かかる硬化剤がペルオキシド及び架橋助剤から本質的になる、硬化可能な部分的にフッ素化されたエラストマー組成物を提供する。
【0007】
一実施形態では、硬化可能な部分的にフッ素化されたエラストマー組成物は、金属酸化物を本質的に含まない。
【0008】
一実施形態では、ペルオキシドは、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−ヘキサン、ジクミルペルオキシド、ジ(2−t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、及びこれらの組み合わせから選択される。
【0009】
一実施形態では、少なくとも1種のニトリル含有モノマーは、CF=CFO(CFCN、CF=CFOCFCF(CF)OCFCFCN、CF=CFOCFCF(CF)OCFCF(CF)CN、CF=CFOCFCFCFOCF(CF)CN、CF=CFOCF(CF)OCFCFCN、及びこれらの組み合わせから選択される。
【0010】
別の態様では、(i)(a)少なくとも1種の水素含有モノマー及び(b)少なくとも1種のニトリル含有モノマー由来の共重合単位を含むフルオロエラストマーと、(ii)硬化剤と、を含み、かかる硬化剤がペルオキシド及び架橋助剤から本質的になる、硬化された部分的にフッ素化されたエラストマー組成物を含む硬化物品が提供される。
【0011】
別の態様では、(i)(a)少なくとも1種の水素含有モノマー及び(b)少なくとも1種のニトリル含有モノマー由来の共重合単位を含むフルオロエラストマーを提供する工程と、(ii)前記部分的にフッ素化されたエラストマーを硬化剤で硬化する工程と、を含み、前記硬化剤が、ペルオキシド及び架橋助剤から本質的になる、部分的にフッ素化されたエラストマー組成物を硬化する方法が開示される。
【0012】
上記の概要は、各実施形態を説明することを目的とするものではない。本発明の1つ以上の実施形態の詳細は以下の説明文においても記載される。他の特徴、目的、及び利点は、説明文及び「特許請求の範囲」から明らかとなるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書で使用するとき、用語
「a」、「an」、及び「the」は、互換可能に使用され、1つ以上を意味する。
【0014】
用語「及び/又は」は、述べられている生じ得る実例の一方又は両方を指すために用いられ、例えば、A及び/又はBは、(A及びB)並びに(A又はB)の両方を包含する。
【0015】
「主鎖」は、ポリマーの主となる連続鎖を指す。
【0016】
「架橋」は、2つの予め形成されたポリマー鎖を、化学結合又は化学基を用いて連結することを指す。
【0017】
「硬化部位」は、架橋に関与し得る官能基を指す。
【0018】
「共重合」は、モノマーが一緒に重合されてポリマー主鎖を形成することを指す。
【0019】
また本明細書においては、端点によって表わされている範囲には、その範囲内に含まれている全ての数値が含まれている(例えば、1〜10の範囲には、1.4、1.9、2.33、5.75、9.98などが含まれる)。
【0020】
また本明細書においては、「少なくとも1」には、1以上の全ての数値が含まれている(例えば、少なくとも2、少なくとも4、少なくとも6、少なくとも8、少なくとも10、少なくとも25、少なくとも50、少なくとも100などが含まれる)。
【0021】
本開示において、ニトリル含有硬化部位を含む部分的にフッ素化されたエラストマーが、ペルオキシド/架橋助剤硬化系で硬化され得ることが見出されている。得られる部分的にフッ素化されたエラストマーは、良好な高温耐性及び圧縮永久歪みを示す。
【0022】
本開示のエラストマーは部分的にフッ素化されている。本明細書に開示されるように、部分的にフッ素化されたエラストマーは、ポリマーの主鎖上に、少なくとも1つの水素及び少なくとも1つのフッ素原子を含む非晶質ポリマーである。本開示の部分的にフッ素化されたエラストマーは、少なくとも1種の水素含有モノマー及び少なくとも1種のニトリル含有硬化部位モノマー由来の共重合モノマー単位を含む。
【0023】
水素含有モノマーには、当該技術分野において既知のものが挙げられる。水素含有モノマーは、フッ素原子を含有しても、しなくてもよい。代表的な水素含有モノマーとして、フッ化ビニリデン、ペンタフルオロプロピレン(例えば、2−ヒドロペンタフルオロプロピレン(hydropentafluropropylene))、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、プロピレン、エチレン、イソブチレン、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0024】
一実施形態では、部分的にフッ素化されたエラストマーはまた、完全フッ素化されたモノマー由来の共重合単位も含む。完全フッ素化された代表的なモノマーとして、ヘキサフルオロプロペン、テトラフルオロエチレン、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)クロロトリフルオロエチレン、ペルフルオロメチルビニルエーテル、CF=CFOCFCFCFOCF、CF=CFOCFOCFCFCF、CF=CFOCFOCFCF、CF=CFOCFOCF、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0025】
一実施形態では、部分的にフッ素化されたエラストマーは、(i)ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、及びフッ化ビニリデン、(ii)ヘキサフルオロプロピレン及びフッ化ビニリデン、(iii)フッ化ビニリデン及びペルフルオロメチルビニルエーテル、(iv)フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、及びペルフルオロメチルビニルエーテル、(v)フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、及びプロピレン、(vi)テトラフルオロエチレン及びプロピレン、又は(vii)エチレン、テトラフルオロエチレン、及びペルフルオロメチルビニルエーテル由来のものである、共重合単位を含む。
【0026】
部分的にフッ素化されたエラストマーはまた、少なくとも1種のニトリル含有モノマーも含む。部分的にフッ素化されたエラストマーは、架橋反応に対する硬化部位として機能することができる十分な量のニトリル官能基を含有していなくてはならない。ニトリル基は、ニトリル含有硬化部位モノマーの使用によって導入することができる、つまり、ニトリル基は、重合中にポリマーに導入される。例えば、完全フッ素化されたフルオロポリマーの硬化のためのニトリル含有オレフィン及び不飽和エーテルの使用について開示する、米国特許第6,281,296号(MacLachlanら)を参照されたい。しかしながら、この開示では他の導入方法も想到される。
【0027】
ニトリル含有硬化部位を含むフルオロポリマーを調製するのに有用なニトリル含有基を含むモノマーの例としては、フリーラジカル重合可能なニトリルが挙げられる。
【0028】
ニトリル含有モノマーは、完全フッ素化された硬化部位モノマーから選択されてよい。有用なニトリル含有硬化部位モノマーとしては、例えば、ペルフルオロ(8−シアノ−5−メチル−3,6−ジオキサ−1−オクテン)、CF=CFO(CFCN(式中、Lは、2〜12の整数である)、CF=CFO(CFOCF(CF)CN(式中、uは、2〜6の整数である)、CF=CFO[CFCF(CF)O](CFO)CF(CF)CN(式中、qは、0〜4の整数であり、yは、0〜6の整数である)、又はCF=CF[OCFCF(CF)]O(CFCN(式中、rは、1又は2であり、tは、1〜4の整数である)、並びに前述の誘導体及び組み合わせが挙げられる。
【0029】
代表的なニトリル含有モノマーとしては、CF=CFO(CFCN、CF=CFOCFCF(CF)OCFCFCN、CF=CFOCFCF(CF)OCFCF(CF)CN、CF=CFOCFCFCFOCF(CF)CN、CF=CFOCFCF(CF)OCFCFCN、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0030】
フルオロエラストマーの側鎖位置にあるニトリル含有硬化部位の量は一般に、総ポリマーに対して、約0.05〜約5モルパーセント、又は更には0.1〜2モルパーセントである。硬化剤は、部分的にフッ素化されたエラストマーゴムに添加されて、フルオロポリマーを硬化(又は架橋)する。本開示では、ペルオキシド及び架橋助剤から本質的になる硬化剤を用いて、ニトリル硬化部位を含む部分的にフッ素化されたエラストマーを硬化する。
【0031】
本開示のペルオキシド硬化剤として、有機ペルオキシドが挙げられる。多くの場合、ペルオキシ酸素に結合した三級炭素原子を有する第3ブチルペルオキシドを使用することが好ましい。
【0032】
代表的なペルオキシドとして、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、ジクミルペルオキシド、ジ(2−t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ジアルキルペルオキシド、ビス(ジアルキルペルオキシド)、2,5−ジメチル−2,5−ジ(第三ブチルペルオキシ)3−ヘキシン、ジベンゾイルペルオキシド、2,4−ジクロロベンゾイルペルオキシド、第三ブチルペルベンゾエート、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ−ジイソプロピルベンゼン)、t−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルペルオキシ2−エチルヘキシルカーボネート、t−アミルペルオキシ2−エチルヘキシルカーボネート、t−ヘキシルペルオキシイソプロピルカーボネート、ジ[1,3−ジメチル−3−(t−ブチルペルオキシ)ブチル]カーボネート、ペルオキシ炭酸(carbonoperoxoic acid)、O,O’−1,3−プロパンジイルOO,OO’−ビス(1,1−ジメチルエチル)エステル、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0033】
使用されるペルオキシド硬化剤の量は通常、フルオロポリマー100部あたり、少なくとも0.1、0.2、0.4、0.6、0.8、1、1.2、又は更には1.5、多くとも2、2.25、2.5、2.75、3、3.5、4、4.5、5、又は更には5.5重量部となる。
【0034】
ペルオキシド硬化系では、多くの場合、架橋助剤を含むことが望ましい。当業者は、所望の物理的性質に基づいて従来の架橋助剤を選択することができる。代表的な架橋助剤として、トリ(メチル)アリルイソシアヌレート(TMAIC)、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリ(メチル)アリルシアヌレート、ポリ−トリアリルイソシアヌレート(ポリ−TAIC)、トリアリルシアヌレート(TAC)、キシリレン−ビス(ジアリルイソシアヌレート)(XBD)、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、ジアリルフタレート、トリス(ジアリルアミン)−s−トリアジン、亜リン酸トリアリル、1,2−ポリブタジエン、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、及びこれらの組み合わせが挙げられる。別の有用な架橋助剤は、式CH=CH−Rf1−CH=CHで表すことができ、式中、Rf1は、1〜8個の炭素原子からなるペルフルオロアルキレンであり得る。このような架橋助剤は、最終硬化エラストマーの機械的強度を向上させる。これらは通常、フルオロカーボンポリマー100部あたり、少なくとも0.5、1、1.5、2、2.5、3、4、4.5、5、5.5、又は更には6、多くとも4、4.5、5、5.5、6、7、8、9、10、10.5、又は更には11重量部の量で使用される。
【0035】
また、フルオロポリマー組成物は、エラストマー組成物の調製に通常用いられるタイプの様々な添加剤、例えば、顔料、充填剤(例えばカーボンブラック)、細孔形成剤、及び当該技術分野において既知のものを含有してもよい。
【0036】
金属酸化物は、従来ペルオキシド硬化に用いられる。代表的な金属酸化物として、Ca(OH)、CaO、MgO、ZnO、及びPbOが挙げられる。一実施形態では、硬化可能な部分的にフッ素化されたエラストマー組成物は、本質的に金属酸化物を含まない(すなわち、組成物は、フルオロエラストマー100部あたり1、0.5、0.25、0.1部未満、又は更には0.05部未満を含む)。一実施形態では、硬化可能な部分的にフッ素化されたエラストマー組成物は、金属酸化物を含む。例えば、フルオロエラストマー100部あたり少なくとも1.5、2、4、5、又は更に6部である。
【0037】
本硬化プロセスでは、必要量のペルオキシド、架橋助剤、及び他の構成成分に加え、部分的にフッ素化されたエラストマーゴムを、従来の手段、例えば2本ロールミルで、高温にて化合する。次いで、部分的にフッ素化されたエラストマーゴムを加工し、(例えばホース又はホースライニングの形状に)成形、又は(例えばOリングの形状に)成型する。次に、成形物品を加熱して、ゴム組成物を硬化させ、硬化エラストマー物品を形成することができる。
【0038】
一実施形態では、硬化可能な部分的にフッ素化されたエラストマー組成物は、フルオロエラストマーに対して、少なくとも0.1、0.2、0.4、0.5、1.0、又は更には1.5モル%、多くとも3、4、5、6、7、8、及び更には10モル%のニトリル含有硬化部位モノマー、又はニトリル含有末端基を含む。
【0039】
一実施形態では、硬化可能な部分的にフッ素化されたエラストマー組成物は、臭素、塩素、若しくはヨウ素硬化部位モノマー由来の臭素、塩素、及び/若しくはヨウ素硬化部位、又は連鎖移動剤を含んでよい。
【0040】
別の実施形態では、硬化可能な部分的にフッ素化されたエラストマー組成物は、臭素及び/又はヨウ素を含まないか、又は本質的に含まない。本明細書で用いるとき、臭素及びヨウ素を本質的に含まないとは、本明細書に開示される部分的にフッ素化されたエラストマー組成物が、臭素又はヨウ素硬化部位ではなく、ペルオキシド及びニトリル硬化部位を介して主に硬化されることを意味する。
【0041】
得られる硬化された部分的にフッ素化されたエラストマーは、ニトリル硬化部位により主に硬化される架橋構造を特徴とするため、際立った熱及び加水分解安定性を有するフルオロエラストマーが得られる。
【0042】
別の実施形態では、二重硬化系を用いてよい。例えば、本開示のペルオキシド硬化系を、ビスフェノール硬化及び/又はトリアジン硬化と組み合わせてよい。
【0043】
硬化されたフルオロエラストマーは、高温及び/又は腐食性物質に曝される系、例えばとりわけ自動車、化学処理、半導体、航空宇宙、及び石油産業用途における封止、ガスケット、及び成型品として特に有用である。このフルオロエラストマーは封止用途で使用され得るため、エラストマーが圧縮下で良好に機能することが重要である。圧縮封止は、容易に圧縮され、かつ嵌合表面上で押し戻す合成力を発達させるエラストマーの能力に基づく。この合成力を広域な環境条件に及ぶ時間に応じて維持する材料の能力は、長期安定性にとって重要である。熱膨張、応力緩和、及び熱エージングの結果、初期封止力は、時間と共に減衰するであろう。保持された封止力を測定することにより、様々な条件下、特に200℃、225℃、250℃、及び更には275℃などの高温条件下におけるエラストマー材の封止力保持性を評価することができる。
【0044】
以下の実施例の項に示すように、本開示の部分的にフッ素化されたエラストマーは、ペルオキシド/ニトリル硬化系で硬化されたとき、従来のペルオキシド硬化されたものよりも低い、200℃〜270℃での圧縮永久歪みを提供する。ここでは、本開示の部分的にフッ素化されたエラストマーは、熱劣化中の圧縮下において永久的な変形(例えば圧縮永久歪み)を受けにくいことが証明される。したがって、従来は完全フッ素化されたエラストマーが使用され、特に耐熱性と共に耐化学性が要求される温度における一部の用途において、これらの部分的にフッ素化されたエラストマーを使用することができる。その結果、材料コストを削減でき、これらのフルオロポリマーを更に市場に投入することができる。
【実施例】
【0045】
本開示の利点及び実施形態を以下の実施例によって更に例示するが、これら実施例において列挙される特定の材料及びそれらの量、並びに他の条件及び詳細は、本発明を不当に制限するものと解釈されるべきではない。これらの実施例では、全ての百分率、割合及び比は、特に指示しない限り重量による。
【0046】
材料はいずれも、例えばSigma−Aldrich Chemical Company(Milwaukee,WI)から市販されているものか、あるいは特に断らない又は明らかでない限り、当業者には周知のものである。
【0047】
以下の実施例では、これらの略語を用いる:min=分、mol=モル、cm=センチメートル、mm=ミリメートル、mL=ミリリットル、L=リットル、psi=平方インチあたりの圧力、MPa=メガパスカル、wt.=重量、及びFT−IR=フーリエ変換赤外分光法。
【0048】
フルオロエラストマーA
4リットル反応容器に、2,250グラムの水、33.3グラムのCFOCFCFCFOCFCOONHの30%水溶液、及び3.0グラムの過硫酸アンモニウム(APS、(NH)を投入した。フッ素化乳化剤CFOCFCFCFOCFCOONHを、米国特許公開第2007/0015864号に記載されているように調製した。反応容器を排気し、真空を破り、25psi(0.17MPa)になるまで窒素を加圧した。この真空及び加圧を3回繰り返した。酸素除去後、反応容器を160°F(71.1℃)まで加熱し、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)とペルフルオロエテニルオキシヘキサンニトリル(CF=CFO(CFCN、MV5CNと称される)のブレンドで62psi(0.43MPa)になるまで加圧した。MV5CNはAnles Plus(Saint Petersburg,Russia)から入手できる。HFPとCF=CFO(CFCNのブレンドを調製するために、1リットルのステンレス鋼シリンダーを排気し、Nで3回パージした。CF=CFO(CFCNをシリンダーに添加後、添加したCF=CFO(CFCNの量を基にHFPを添加した。次に、ブレンドを反応容器に取り付け、Nブランケットを使用して供給した。このブレンドは、93.6重量%のHFP及び6.4重量%のCF=CFO(CFCNを含有していた。次に、反応容器にフッ化ビニリデン(VDF)及び上記ヘキサフルオロプロピレン(HFP)とCF=CFO(CFCNのブレンドを投入し、反応容器の圧力を228psi(1.57MPa)にした。VDF及びHFPとCF=CFO(CFCNのブレンドの全プレチャージは、それぞれ102グラム及び151グラムであった。反応容器を650rpm(1分あたりの回転数)で攪拌した。重合反応でモノマーが消費されて反応容器の圧力が低下するのに伴い、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)とCF=CFO(CFCNのブレンド、及びVDFを反応容器に連続的に供給して、圧力を228psi(1.57MPa)に維持した。VDF、HFP、及びCF=CFO(CFCNのモノマー供給量から計算したモノマー比は、それぞれモルパーセントで77.5、20.5、及び2.0であった。7時間後に、モノマー及びブレンドの供給を停止させ、反応容器を冷却した。得られた分散物の固体含量は約30重量%であった。凝固のために、同量のMgCl/脱イオン水溶液をラテックスに添加した。溶液は1.25重量%のMgCl・6HOを含有していた。ラテックスを攪拌し、凝固させた。約4000mLの脱イオン水を加え、15分間攪拌してクラムを洗浄し、次に洗浄水を排水した。暖かい脱イオン水を合計16,000mL使用して、クラムを4回洗浄し、130℃にて16時間乾燥させた。得られたフルオロエラストマー生ゴム(表1のフルオロエラストマーA)は、121℃でのムーニー粘度ML(1+10)が58であり、ポリマーは、FT−IRにより2264cm−1において−CN基の特徴的な吸収ピークを有した。
【0049】
ムーニー粘度又はコンパウンドムーニー粘度は、ASTM D1646−06 TYPE Aに従って、MV 2000装置(Alpha Technologies,Ohio,USAから入手可能)で、大型ローター(ML 1+10)を用いて121℃にて測定した。結果はムーニー単位で報告されている。
【0050】
フルオロエラストマーB
1.1グラムの過硫酸アンモニウム(APS、(NH)、8グラムのリン酸二カリウム(KHPO)の50%水溶液、及び2.7グラムの1,4−ジヨードオクタフルオロブタン(SynQuest Lab(Florida,USA)から入手)を重合用成分として用い、反応容器温度を80℃とした以外は、「フルオロエラストマーA」で記載のようにポリマーを調製した。ヘキサフルオロプロピレン(HFP)と1,4−ジヨードオクタフルオロブタンのブレンドを調製するために、1リットルのステンレス鋼シリンダーを排気し、窒素で3回パージした。1,4−ジヨードオクタフルオロブタンをシリンダーに添加後、添加した1,4−ジヨードオクタフルオロブタンの量を基にHFPを添加した。次に、ブレンドを反応容器に取り付け、Nブランケットを使用して供給した。ブレンドは、98.33重量%のHFP、及び1.67重量%の1,4−ジヨードオクタフルオロブタンを含有していた。
【0051】
4.7時間後に、モノマー及びブレンドの供給を停止させ、反応容器を冷却した。分散物を「フルオロエラストマーA」のように加工した。得られたフルオロエラストマー生ゴム(表1のフルオロエラストマーB)は、121℃でのムーニー粘度ML(1+10)が4.8であった。フルオロエラストマーは、82.1mol%のVDF共重合単位、及び17.1mol%のHFPを含有していた。ヨウ素末端基−CFCHIは0.3mol%であった。中性子活性化分析(NAA)によるヨウ素含有量は、0.45重量%であった。
【0052】
フルオロエラストマーC
79.9モル%のVDF、18.9モル%のHFP、及び1.2モル%のMV5CNを用いて、水性乳化重合によりポリマーを調製した。得られたフルオロエラストマー生ゴム(表1のフルオロエラストマーC)のムーニー粘度は62であった。
【0053】
(実施例1)
6インチ(15.2cm)の2本ロールミルを使用して、30部のカーボンブラック(Cancarb(Medicine Hat,Alberta,Canada)から商品名「THERMAX MT」ASTM N990で入手)、3部の酸化亜鉛(Zinc Corporation of America(Monaca,PA)から商品名「UPS−1」で入手)、2部の50%活性物質の2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−ヘキサン(R.T.Vanderbilt(Norwalk,CT)から商品名「VAROX DBPH−50」で入手)、及び3部のトリアリルイソシアヌレート(TAIC)架橋助剤(98%、Nippon Kasei(Japan)から商品名「TAIC」で入手)でフルオロエラストマーAを化合することにより、フルオロエラストマー化合物を調製した。化合物処方を表2に示す。
【0054】
Moving Die Rheometerモード(MDR、封止ねじり剪断ロータレス加硫試験機)を用いるAlpha Technologies Rubber Process Analyzer(Alpha Technologies(Akron,OH))を用いて、ASTM D5289−07に記載の条件下で硬化特性を測定した。周波数を1分あたり100サイクルとし、ひずみは0.5度とした。以下のパラメーターが記録された。
【0055】
ML:in−lb(インチ−ポンド(N−m))単位での最小トルクレベル
MH:in−lb(N−m)単位での最大トルクレベル
Δトルク:最大トルク(MH)と最小トルク(ML)との間の差
ts2:2インチ−lb(0.23N−m)が生じるのにかかる分
t’50:Δトルクの50%が生じるのにかかる分(50%硬化時間)
t’90:Δトルクの90%が生じるのにかかる分(90%硬化時間)
化合物は、177℃にて5分間にわたって15×15cm、2mm厚モールドを使用して、プレス硬化した。次に、プレス硬化シートを230℃にて4時間にわたって後硬化した。ASTMダイDで、物理的性質のためのダンベルを硬化シートから切断した。プレス硬化及び後硬化させたサンプルの物理的性質をASTM D 412−06aに従って試験した。試験結果は表3にまとめられている。
【0056】
化合物は、177℃にて5分間にわたって214 O−リング(AMS AS568)モールドを使用して、プレス硬化した。次に、プレス硬化O−リングを230℃にて4時間にわたって後硬化した。ASTM D 395−03方法B及びASTM D 1414−94に従って、後硬化させたO−リングの圧縮永久歪みを70時間、200℃、230℃、250℃、及び270℃にて試験した。結果は、百分率で報告されている。試験結果は表3にまとめられている。
【0057】
(実施例2)
15.2cm(6インチ)の2本ロールミルを使用して、実施例1のように、ただし表2に示す構成成分を用いてフルオロエラストマーCを化合することにより、フルオロエラストマー化合物を調製した。「TAIC DLC−A(72%活性)」(Harwick Standard Distribution Corp.(Akron,OH)から市販)を実施例1のTAIC(98%)の代わりに用いた。
【0058】
(実施例3)
15.2cm(6インチ)の2本ロールミルを使用して、実施例2のように、ただしZnOを用いてフルオロエラストマーCを化合することにより、フルオロエラストマー化合物を調製した。
【0059】
(実施例4)
15.2cm(6インチ)の2本ロールミルを使用して、実施例3のように、ただしTAICの代わりにトリメチルアリルイソシアネート(Nippon Kasei(Japan)から商品名「TMAIC」で市販)を用いてフルオロエラストマーCを化合することにより、フルオロエラストマー化合物を調製した。
【0060】
比較例1
「フルオロエラストマーB」を化合し、実施例1のように試験した。結果は表1及び3にまとめる。
【0061】
比較例2
FC−2260(Dyneon LLC(Oakdale,MN)から市販)を化合し、実施例2のように試験した。結果は表2にまとめる。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

phr:ゴム100重量部当たりの重量部
−:添加せず
【0064】
【表3】

177℃で5分間のプレス硬化、及び230℃で4時間の後硬化
nm:測定せず
【0065】
【表4】

177℃で10分間のプレス硬化、及び282℃で24時間の後硬化
本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく本発明に予測可能な修正及び変更を行い得ることは当業者には明らかであろう。本発明は、説明を目的として本出願に記載される各実施形態に限定されるべきものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)(a)少なくとも1種の水素含有モノマー及び(b)少なくとも1種のニトリル含有モノマー由来の共重合単位を含むフルオロエラストマーと、
(ii)硬化剤と、
を含み、
前記硬化剤がペルオキシド及び架橋助剤から本質的になる、硬化可能な部分的にフッ素化されたエラストマー組成物。
【請求項2】
前記硬化可能な部分的にフッ素化されたエラストマー組成物が、金属酸化物を本質的に含まない、請求項1に記載の硬化可能な部分的にフッ素化されたエラストマー組成物。
【請求項3】
前記硬化可能な部分的にフッ素化されたエラストマー組成物が、臭素及びヨウ素を本質的に含まない、請求項1に記載の硬化可能な部分的にフッ素化されたエラストマー組成物。
【請求項4】
前記硬化可能な部分的にフッ素化されたエラストマー組成物が、少なくとも1つの臭素、塩素、及びヨウ素硬化部位を更に含む、請求項1に記載の硬化可能な部分的にフッ素化されたエラストマー組成物。
【請求項5】
前記ペルオキシドが、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−ヘキサン、ジクミルペルオキシド、ジ(2−t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、及びこれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載の硬化可能な部分的にフッ素化されたエラストマー組成物。
【請求項6】
前記架橋助剤が、トリアリルイソシアヌレート、トリ(メチル)アリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、及びこれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載の硬化可能な部分的にフッ素化されたエラストマー組成物。
【請求項7】
前記少なくとも1種のニトリル含有モノマーが、CF=CFO(CFCN、CF=CFOCFCF(CF)OCFCFCN、CF=CFOCFCF(CF)OCFCF(CF)CN、CF=CFOCFCFCFOCF(CF)CN、CF=CFOCFCF(CF)OCFCFCN、及びこれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載の硬化可能な部分的にフッ素化されたエラストマー組成物。
【請求項8】
前記少なくとも1種の水素含有モノマーが、フッ化ビニリデン、1H−ペンタフルオロプロピレン、プロピレン、エチレン、及びこれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載の硬化可能な部分的にフッ素化されたエラストマー組成物。
【請求項9】
前記フルオロエラストマーが、完全フッ素化されたモノマー由来の共重合単位を更に含む、請求項1に記載の硬化可能な部分的にフッ素化されたエラストマー組成物。
【請求項10】
前記完全フッ素化されたモノマーが、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ペルフルオロメチルビニルエーテル、ヘキサフルオロプロピレン、CF=CFOCFCFCFOCF、CF=CFOCFOCFCFCF、CF=CFOCFOCFCF、CF=CFOCFOCF、及びこれらの組み合わせから選択される、請求項9に記載の硬化可能な部分的にフッ素化されたエラストマー組成物。
【請求項11】
前記フルオロエラストマーが、(i)ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、及びフッ化ビニリデン、(ii)ヘキサフルオロプロピレン及びフッ化ビニリデン、(iii)フッ化ビニリデン及びペルフルオロメチルビニルエーテル、(iv)フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、及びペルフルオロメチルビニルエーテル、(v)フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、及びプロピレン、(vi)テトラフルオロエチレン及びプロピレン、又は(vii)エチレン、テトラフルオロエチレン、及びペルフルオロメチルビニルエーテル由来のものである、請求項1に記載の硬化可能な部分的にフッ素化されたエラストマー組成物。
【請求項12】
請求項1に記載の硬化可能な部分的にフッ素化されたエラストマー組成物を含む、硬化物品。
【請求項13】
前記硬化物品が、金属酸化物を本質的に含まない、請求項1に記載の硬化物品。
【請求項14】
(i)(a)少なくとも1種の水素含有モノマー及び(b)少なくとも1種のニトリル含有モノマー由来の共重合単位を含むフルオロエラストマーを提供する工程と、
(ii)前記部分的にフッ素化されたエラストマーを硬化剤で硬化する工程と、
を含み、
前記硬化剤が、ペルオキシド及び架橋助剤から本質的になる、部分的にフッ素化されたエラストマー組成物を硬化する方法。
【請求項15】
前記部分的にフッ素化されたエラストマーが、金属酸化物を本質的に含まない、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記硬化可能な部分的にフッ素化されたエラストマー組成物が、臭素及びヨウ素を本質的に含まない、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記ペルオキシドが、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−ヘキサン、ジクミルペルオキシド、ジ(2−t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、及びこれらの組み合わせから選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記架橋助剤が、トリアリルイソシアヌレート、トリ(メチル)アリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、及びこれらの組み合わせから選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも1種のニトリル含有モノマーが、CF=CFO(CFCN、CF=CFOCFCF(CF)OCFCFCN、CF=CFOCFCF(CF)OCFCF(CF)CN、CF=CFOCFCFCFOCF(CF)CN、CF=CFOCFCF(CF)OCFCFCN、及びこれらの組み合わせから選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも1種の水素含有モノマーが、フッ化ビニリデン、プロピレン、エチレン、イソブチレン、及びこれらの組み合わせから選択される、請求項14に記載の方法。

【公表番号】特表2013−514438(P2013−514438A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−544692(P2012−544692)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【国際出願番号】PCT/US2010/060196
【国際公開番号】WO2011/084404
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】