ペルオキシレドキシン6(Prx6)に対するアプタマー
【課題】ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質に特異的に結合するアプタマーを取得し.これを用いたペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質の検出、定量用試薬あるいは該タンパク質の新たな検出、定量法を提供する。
【課題解決手段】ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質に結合能を有するRNAアプタマーをSELEX法を用いて得る。得られたRNAアプタマーは、酸化型Prx6タンパク質よりも還元型Prx6に対し、結合親和性が高いという特性を有する。
【課題解決手段】ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質に結合能を有するRNAアプタマーをSELEX法を用いて得る。得られたRNAアプタマーは、酸化型Prx6タンパク質よりも還元型Prx6に対し、結合親和性が高いという特性を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質に対するRNAアプタマー、該アプタマーからなるペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質の検出、定量試薬、及び該検出、定量試薬を用いたペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質の検出、定量法に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素、ペルオキシド、一酸化窒素などの活性酸素種は非常に反応性が高く、タンパク質や核酸、脂質等の生体構成成分と容易に反応して、その構造や機能を変化させる。そのため生体内で活性酸素種が発生し、処理(還元)しきれなくなると「酸化ストレス」と呼ばれる酸化還元状態を維持する機構が破綻した状態になる。癌、パーキンソン病、アルツハイマー病などの疾患では生体は酸化ストレス状態にあり、活性酸素種がこれらの疾患に関わっていると考えられる。一方で細胞は活性酸素種消去系や酸化ストレス応答系を持って、これらの活性酸素種の濃度を抑えたり、アポトーシスを引き起こし、細胞周期を制御していると考えられている。活性酸素消去系には複数の酵素や低分子が関与しているが、近年ペルオキシレドキシン(peroxiredoxin; Prx)と呼ばれる一群の新しいペルオキシダーゼが酸化ストレス応答などに重要な役割を担っていることが明らかになってきた(Fig.1)。
【0003】
ペルオキシレドキシン(Prx)は近年、バクテリア、酵母、高等植物、ほ乳類等の様々な細胞から発見されており、その1次配列の相同性から50を超えるファミリーを形成することが明らかになった。
【0004】
一方、近年進歩してきたアプタマー(核酸リガンド)の開発分野では、試験管内選択法によって、標的とする分子に対して高い親和性と特異性で結合をする核酸を分離することが可能になっている。その戦略は、ランダムな核酸のプールの中から標的分子に高い親和性をもつ稀少な核酸分子を分離することと、その後、選別と増幅の循環を繰り返すことである。これまでにこの方法は、金属イオンや、糖類、ペプチド、タンパク質、あるいは細胞全体など、多様な標的に対して強固な結合をするアプタマーを分離するために著しく有用であることが立証されている。様々なアプタマーがその認識分子に対して示す結合親和性は、抗体と抗原の親和性と比較しても同程度であるか、あるいは勝っており、解析物の検出・定量やタンパク質の機能・活性の阻害など、in vitroやin vivoでの様々な応用のためにアプタマーが開発されてきた。さらにアプタマーは抗体に比べて、近縁の分子同士を識別する能力がより高い場合があることや、結合のために、より小さな領域しか必要としないことが知られている。例えばテオフィリン(Theophylline)アプタマーは、テオフィリンとN7位のメチル基だけが異なるカフェイン(Caffeine)を一万4千倍の効率で識別することができる(非特許文献1参照)。このような状況下、本発明者等は、これまでにヒト免疫不全ウイルス(HIV)とC型肝炎ウイルス(HCV)のウイルスタンパク質に対して高親和性のRNAアプタマーを開発している(非特許文献2〜4参照)。開発されたアプタマーのうち、抗TatアプタマーはHIVのTatタンパク質にKD値120pMで結合し、一方、抗NS3アプタマーはHCVのNS3タンパク質にKD値10nMで結合する。抗Tatアプタマーと抗NS3アプタマーはこれらのタンパク質の機能をIn vitroでもIn vivoでも阻害することが見出されている(非特許文献2、非特許文献5,非特許文献6参照)。
【0005】
【非特許文献1】ジェニソン(Jenison, R. D.)ら、「Science」(米国)1994年3月11日発行、第263巻、第5152号、p1425-1429
【非特許文献2】Yamamotoら, Genes to Cells, 2000 May, 5(5):371-88
【非特許文献3】Kumarら, Virology, 1997 Oct 27, 237(2):270-82
【非特許文献4】Fukudaら, Eur. J. Biochem. 2000 June, 267(12), 3685-94参照)
【非特許文献5】Kakiuchiら, Combinatorial Chemistry & High throughput screening, 2003, 6, 155-160;
【非特許文献6】Nishikawaら, Nucleic Acids Res. 2003 Apr 1, 31(7), 1935-43参照
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、生体内では、ミトコンドリアにおけるエネルギー代謝の過程や、薬剤、紫外線などによって活性酸素種が発生するが、これら内因性および外因性の活性酸素種が増えすぎると生体内の酸化還元状態を維持する機構が破綻し、「酸化ストレス」と呼ばれる状態になる。癌、糖尿病、動脈硬化、パーキンソン病、アルツハイマー病などの疾患では、生体は酸化ストレス状態にあり、活性酸素種がこれらの疾患に関わっていると考えられている。ペルオキシレドキシン(Prx)をはじめとする一連のペルオキシダーゼはこうした活性酸素種を還元する抗酸化酵素であり、酸化ストレスが関係すると考えられる疾患のマーカーとして使用できる可能性があるため、還元型Prxと酸化型Prxを区別して検出できる方法は非常に重要な課題である。
【0007】
Prxを抗原とする抗体も市販されているが、ポリクローナル抗体であり、加えて抗体の場合は標的タンパク質の認識部位として6から8残基の断片かそれ以上に大きな表面積を必要とするため還元型と酸化型といったような非常にわずかな差異の検出は困難である。
【0008】
また、Prxを抗原とする市販の抗体はイムノブロットでの検出に使用できることは確認されているものの、ビアコアを用いた非変性条件下での検出には利用できることが確認できない。このため細胞から抽出したPrxを定量的に検出するアッセイ系がない。そこで、本発明の課題は、ペルオキシレドキシン(Prx)を特異的に認識しうる有用なアプタマーを提供するとともに、これを用いたペルオキシレドキシン(Prx)の検出、定量試薬及び検出、定量方法を新たに提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記課題を解決するため、鋭意研究の結果、SELEX法を用いて、ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質を特異的に認識しうるアプタマーを得ることに成功し、該アプタマーが、完全ではないものの、ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質の酸化型と還元型とをある程度識別できることを見いだし、本発明を完成するに至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)配列番号1又は2に示す塩基配列を含むか、あるいは該塩基配列において、1又は数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、かつペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質に対し結合能を有することを特徴とするRNAアプタマー。
(2)配列番号3〜7のいずれかで示される塩基配列からなるか あるいは該塩基配列において、1又は数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、かつペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質に対し結合能を有することを特徴とするRNAアプタマー。
(3)配列番号8又は9に示す塩基配列を含むか、あるいは該塩基配列において、1又は数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、かつ転写によって、ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質に対し結合能を有するアプタマーに変換可能なDNA。
(4)配列番号10〜14のいずれかで示される塩基配列からなるか あるいは該塩基配列において、1又は数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質に対し結合能を有するアプタマーに変換可能なDNA。
(5)5’末端にT7プロモータ配列が付加されている、上記(3)又は(4)に記載のDNA。
(6)上記(3)〜(5)のいずれかに記載のDNAと相補の塩基配列を有するDNA。
(7)上記(3)〜(5)のいずれかに記載のDNAと、その相補のDNAがハイブリダイズした2本鎖DNA。
(8)上記(1)又は(2)のRNAアプタマーからなる、ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質の検出、定量用試薬。
(9)上記(8)に記載の検出、定量用試薬をペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質を含有するか、または含有する可能性のある試料と接触させることを含む、ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質の検出及び/又は定量方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアプタマーRNAは、ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質に対し特異的認識能を有し、ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質の同定試薬として有用である。
また、一般的に、アプタマーは、標的タンパク質中の認識部位のアミノ酸残基数は抗体に比較して少なく、アプタマーの高親和性モチーフは相同性の高いタンパク質同士を感度よく識別することができる。また、アプタマーは非変性条件下で標的分子を認識し、結合能を有することから、アプタマー分子を用いた結合アッセイにより、ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質分子を非変性条件下で定量的に検出でき、生体内におけるのと類似の状態でペルオキシレドキシンを検出しうる。生体内におけるペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質を定量的に検出し、その分泌量の増減をモニタリングすることは生体が酸化ストレス状態になるのか否かの診断への途を拓くものである。
【0012】
一方、本発明のアプタマーは、酸化型のペルオキシレドキシン6(oxPrx6)タンパク質に比べ還元型のペルオキシレドキシン6(nPrx6)タンパク質に対してより高い結合親和性を有し、完全ではないものの酸化型と還元型のペルオキシレドキシンをある程度識別する能力を有する。したがって、例えば、nPrx6のみのサンプルおよびoxPrx6のみのサンプルをコントロールに用い、生体内から抽出したペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質のサンプルと、それに対するアプタマーとの親和性もしくは結合量を比較することにより、還元型ペルオキシレドキシン6(nPrx6)タンパク質と酸化型ペルオキシレドキシン6(oxPrx6)タンパク質の割合をある程度定性的には把握することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のアプタマーは、SELEX法により得られたクローン由来のものであって、 ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質に特異的に結合する能力を有する。ペルオキシレドキシン6(nPrx6)タンパク質の遺伝子配列及びアミノ酸配列は、配列表の配列番号21及び22に示される。
本発明の第1のアプタマーは、少なくとも配列番号1に示される塩基配列を含むRNAを包含する。その具体的なアプタマーとしては、例えば、配列番号3又は6に示されるRNAが挙げられ、これらRNAは上記配列番号1に示す配列を共通して有している。同第2のアプタマーは少なくとも配列番号2に示される塩基配列を含むRNAを包含し、その具体的なアプタマーとしては、配列番号4又は7に示されるRNAが挙げられ、これらRNAは配列番号2に示される塩基配列を共通して有している。また、他のアプタマーとしては、配列番号5に示される塩基配列からなるRNAが挙げられる。
【0014】
一方、本発明においては、上記配列番号で示されるRNAに限らず、上記配列番号1又は2で示すRNA配列と対応する配列を有する、それぞれ配列番号8又は9に示す塩基配列を含むDNAを包含する。より具体的には、例えば配列番号10又は12、及び11又は13に示される塩基配列からなるDNA、さらに、配列番号7で示されるRNAと対応する配列番号14に示されるDNAを挙げることができる。また、本発明においては、これらDNAと相補のDNA、あるいはこれら相補のDNA鎖同士が2本鎖を構成したdsDNAを包含する。これらはそれ自体慣用の遺伝子操作手段により、たやすく本発明のアプタマーRNAに変換可能であり、本発明のアプタマー製造用中間体となりうる。これらDNAはその5’末端にT7プロモータ(配列番号22)等の配列が付加されてもいてもよい。
また、本発明においては、本発明のアプタマーの塩基配列をヌクレオチド残基を1又は数個欠失、置換、あるいは付加させて改変したものであっても、上記ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質と結合するものであればこれを包含する。
【0015】
本発明のアプタマーは、それ自体周知のSELEX(systematic evolution of ligands by exponential enrichment)法により得られたものである。
SELEX法は、ランダム配列の核酸ライブラリの作成から出発し、標的とするタンパク質との結合性を指標に選別して、PCR増幅するサイクルを複数回繰り返すもので、これにより、標的とするタンパク質に対し高い結合能を有する核酸のみを選別することができる。上記選別及びPCR増幅はそれぞれ、自然界における「淘汰」及び「増殖」に相当し、自然界における進化を試験管内で短時間に再現させるものである。
【0016】
本発明においては、配列中央の30塩基をランダム領域とするDNAライブラリー(配列番号18)を合成し、PCR増幅した後、逆転写してRNAプールとし、このRNAプールに対し、上記ノ―マル型(還元型)ペルオキシレドキシン6(nPrx6)及び酸化型ペルオキシレドキシン6(oxPrx6)と結合するRNAを選別、増幅し、このサイクルを複数回繰り返すことにより、ペルオキシレドキシン6タンパク質に対して特異的に認識する、配列番号3〜5に示されるRNAアプタマーを得たものであり
本発明においてはこれら配列番号2及び配列番号5に示すRNAアプタマーをさらに短縮化して、配列番号6及び7に示されるRNAアプタマーを得ており、これら短縮化RNAアプタマーもペルオキシレドキシン6(Prx6)に対して、結合能を有する。本発明のアプタマーは、還元型のみでなく酸化型ペルオキシレドキシンを標的とした場合にも得られており、また、酸化型及びノ―マル型のいずれにも結合するが、測定された解離定数は、いずれのアプタマーにおいても、酸化型よりもノーマル型に対し同等もしくは高い結合性(最大10倍)を有していることを示している。
【0017】
本発明のアプタマーは、上記したとおり、基本的にはSELEX法により得たものではあるが、本発明においては、アプタマーの塩基配列を明らかにしており、SELEX法によらずとも、この塩基配列から本発明のアプタマーを合成することができる。これには、例えば、それ自体周知の以下の方法を用いることができる。
インビトロ転写法:合成目的のアプタマーRNAに対応する上記DNAを化学合成し、これをPCR増幅し、増幅されたDNAからRNAポリメラーゼによる転写反応によりRNAアプタマーを合成する。例えば、T7プロモータの下流側に上記DNAを連結してPCR増幅し2本鎖DNAを得て、該2本鎖DNAを鋳型として、5’-末端側プライマー、T7RNAポリメラーゼ、およびATP、GTP、CTP及びUTPからなる該RNAポリメラーゼ基質を含む反応溶液中で、RNA伸長反応を行うことにより、RNAアプタマーを得ることができる。
【0018】
この方法においては、T7プロモーター配列を含むプラスミドに上記dsDNAを連結したもの、あるいは化学合成したDNAも鋳型として用いることができる。また、上記DNAの合成においては DNA合成装置(例えば、334DNA synthesizer (Applied Biosystems社製))を使用して行うことができる。
【0019】
化学合成法:RNAの合成には、リボース部位の2'水酸基の保護が必要であり、保護基として種々のアミダイトが開発されてきており、最近開発された2-cyanoethoxymethyl (CEM) 基を用いるとRNA合成時の鎖長伸長反応の効率が高くなり、100 merを超える長鎖RNAの合成も可能となる。本発明のRNAアプタマーはこのような化学合成法を用いても合成することができる。
【0020】
本発明のRNAアプタマーはペルオキシレドキシン6(PrX6)の検出、定量試薬として用いられる。
例えば、本発明のRNAアプタマーをフルオレセイン、ローダミン、テキサスレッド等の蛍光色素で標識し、被験試料と接触、結合反応を行い、結合しなかったものを除去した後、蛍光あるいはその強度を検出、測定することにより、ペルオキシレドキシン6(PrX6)タンパク質の検出、あるいはその量を測定できる。この際、例えば、標識RNAアプタマーあるいは被験試料のいずれかを固定化した基板を用いて行うことができる。
標識としては、上記蛍光色素に限らず、放射性標識でもよく、また、アビジンやストレプトアビジンで修飾することも可能で、アプタマーペルオキシレドキシン6(PrX6)タンパク質複合体の検出、定量にはビオチンを用いればよい。
このように、アプタマーは核酸であるため合成が簡便で様々な修飾や標識も付加しやすく、当業者であれば標的分子とアプタマーの結合を検出するための方法として、当分野で通常行われている方法を適宜利用することができる。
【0021】
また、本発明においては、蛍光色素等で標識せずに、ペルオキシレドキシン6(PrX6)タンパク質を検出、定量できる。これには、例えば、表面プラズモン共鳴法(SPR)を用いた検出法がある。すなわち、センサー表面でおこる両分子の結合時の微細な質量変化を表面プラズモン共鳴とよばれる光学現象を採用することで分子間の結合反応を測定することができる。SPR法を利用した装置として、Biacore 社製BIAcore T100等がある。測定はセンサーチップの金薄膜表面に本発明のRNAアプタマー及び被験試料のいずれかを周知の方法で固定化し、これに被験試料あるいはRNAアプタマーを供給して、結合反応をリアルタイムでモニタリングしながら行う。
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0022】
実施例1
Prxタンパク質に特異的に結合するアプタマーのin vitroでの選別
選別に用いたRNAプール(30N)は既に報告したようにして調製した(Fukudaら, Eur. J. Biochem., 267, 3685-3694 (2000))。このRNAプールは次のようにプライマー結合領域ではさまれたランダムな30塩基のコアを含んでいる:
5'-AGTAATACGACTCACTATAGGGAGAATTCCGACCAGAAG-N30-CCTTTCCTCTCTCCTTCCTCTTCT-3'(配列番号18)。RNAプールの増幅に用いたプライマーは:5'-AGTAATACGACTCACTATAGGGAGAATTCCGACCAGAAG-3'((配列番号19)、以下39.N30と表記する。)
と5'-AGAAGAGGAAGGAGAGAGGAAAGG-3'((配列番号20)、以下、24.N30と表記する。)である。選別サイクルにおいては大腸菌tRNA(Boehringer-Mannheim)を非特異的な競争阻害剤として用いた。
【0023】
in vitro選択は、基本的には先に報告されたようにして行う(Urvil, P. T.ら、Eur. J. Biochem. 248, 130-38 (1997); Kumar, P. K.ら、Virology, 237, 270-282 (1997))。
具体的には、ニッケルキレートコートのマイクロプレート(Xenopore社)を200 ulの緩衝液( 10 mM Tris-HCl; 7.5, 50 mM NaCl)で2回洗浄の後、標的タンパク質である還元型ペルオキシレドキシン6(nPrX6)タンパク質(1uM)および酸化型ペルオキシレドキシン(oxPrx)6タンパク質(1uM)を200ulずつ加えて4度で10時間インキュベート。その後、上記の200 ulの緩衝液で3回洗浄する。
【0024】
上記のようにして得られた長さ30塩基のランダム配列(N30)を含む20uMのRNAプールを、同じく先述の標的タンパク質を固定化したプレートに加え室温で5分間インキュベート。200 ulの緩衝液でさらに3回洗浄した後100ulの溶出用緩衝液(10mM HEPES;7.4, 0,15M NaCl, 0.35M EDTA, 0,005% Tween-20)で溶出する。得られた溶出サンプルはエタノール沈殿法にて含有するRNAを精製し、50 mM Tris-HCl (pH8.0), 40 mM KCl, 6 mM MgCl2, 0.4 mM dNTPs, 2.5 μM プライマー(24.N30)と5 UのAMV逆転写酵素(WAKO)を含む20 μlの反応液中で逆転写した。ヌクレオチドと酵素はアニーリングの段階(95℃で5分間処理後、室温で10分間)の後で加えた。逆転写は42 ℃で90分間行った。
【0025】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による増幅のため、逆転写後の混合液(cDNA反応液)20 μlを80 μlのPCR用混合液(10 mM Tris-HCl (pH8.8), 50 mM KCl, 1.5 mM MgCl2, 0.1% Triton X-100, 5UのTaq DNAポリメラーゼ(タカラ), 0.4 μMずつの24.N30プライマーと39.N30プライマー) で希釈した。反応液は 94℃、1.15分間;‐60℃、0.45分間;‐72℃、1.15分間のサイクルを、適正サイズで産物のバンドが得られるまでの回数繰り返した。PCRの産物はエタノールで沈殿させて転写に用いた。試験管内転写反応はT7Ampliscribeキット(Epicentre Technologies)を用いて、37℃、3時間行った。RNA合成とDNase I処理の後、反応液を8%非変性ポリアクリルアミドゲルで分画した。RNAをゲルから抽出し、次の選別と増幅のサイクルに使用した。
各選別条件について、以下の表1,2に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
第12回目のサイクルで得たRNAプールを用いてnPrx6タンパク質およびoxPrx6に対する結合親和性を表面プラズモン共鳴装置BIAcore T100(Biacore社)を用いて測定した.それぞれ結果を図1,2に示す。
【0029】
第12回目のサイクルで得たRNAプールをクローニングし、それぞれ24クローンのRNAについて配列を解読した。なお、そのうち占有率の大きい5種類のクローンの出現を見いだし、これらを以下のように命名した。
クローンA(配列番号15)、クローンB(配列番号16)、クローンC(配列番号5)、クローンD(配列番号17)、クローンE(配列番号3)、クローンF(配列番号4)。
このうち、クローンC、クローンE及びクローンFの2次構造は、それぞれ順に図3、4、5に示される。
上記各クローンの占有率を以下の表3に示す。
【0030】
【表3】
【0031】
実施例2
Prx6タンパク質に対する単離されたアプタマーの結合特異性
単離されたクローンA-Fの6種類のRNAアプタマーのPrxタンパク質に対する結合親和性を、表面プラズモン共鳴装置(BIAcore T100(Biacore 社))を用いて測定した。結果を図6、7に示す。
これによれば、クローンC、E及びFは、クローンA、B及びDよりも酸化型ペルオキシドキシン6(oxPrx6)及び還元型ペルオキシドキシン6(nPrx6)のいずれに対しても高い結合能を有することが分かる。なお、クローンEは、還元型ペルオキシドキシン6(nPrx6)を標的として得られ、クローンFは酸化型ペルオキシドキシン6(oxPrx6)を標的として得られており、クローンCは還元型ペルオキシドキシン6(nPrx6)と酸化型ペルオキシドキシン6(oxPrx6)を標的とする場合の双方から得られたものである。
【0032】
実施例3
表面プラズモン共鳴法によるアプタマーの解離定数の測定
表面プラズモン共鳴法ではフィルター結合測定より感度が高く、より精度の高い解離定数の測定が可能と期待されたので、予備実験により親和性が高いと判断された3種類のRNAアプタマー(クローンC,E,F)とnPrx6タンパク質およびoxPrx6タンパク質との結合の解離定数を、表面プラズモン共鳴装置BIAcore T100(Biacore社)によって測定した。
【0033】
RNAアプタマーの3'末端に24ヌクレオチド長のオリゴ・アデニン(A)を延長させたRNAを作製し、次のようにして表面プラズモン共鳴法用のセンサーチップに固定化した。まず、HBS-EP++緩衝液(10 mM HEPES, 500 mM NaCl, 3 mM EDTA, 0.005% Tween-20, pH 7.5)に解かした0.3 μMのビオチン化したオリゴdT(24ヌクレオチド長)[5'-(dT)24-3']、20 μlを、ストレプトアビジンでコートされたセンサーチップ(センサーチップSA, Biacore社)に2μl/mlの流速で流して固定化し、緩衝液を20μl/mlの流速で20分間流して未結合のオリゴヌクレオチドを除いた。オリゴAを含むRNAアプタマー(クローンC,E,F)をHBS-EP緩衝液に0.3 μMの濃度で溶かし、その20μlをオリゴdTを固定化したチップに2μl/mlの流速で流してチップ表面上のオリゴdTに結合させた。このアプタマーのチップへの結合の際に表面プラズモン共鳴装置によって検出された応答の強度は、約5,000応答単位(RU)であった。
【0034】
上記のSAチップへ一定の濃度範囲のnPrx6タンパク質またはoxPrx6タンパク質溶液60μlを20μl/mlの流速で流し、固定化されたRNAアプタマーとの結合反応曲線を測定して、各アプタマーと還元型ペルオキシドキシン6(nPrx6)タンパク質及び酸化型ペルオキシドキシン6(oxPrx6)タンパク質との解離定数を求めた。アナライトとして添加するPrx6タンパク質はそれぞれ最低でも5種類の濃度のサンプルを調製し、検定を行った。この結果を、後記する実施例5で得られた短縮化アプタマーについて同様の試験を行った結果と併せて、以下の表4に示す。
【0035】
【表4】
【0036】
これによれば、上記したアプタマーは、いずれも、還元型ペルオキシレドキシン6に対しての親和性が酸化型ペルオキシレドキシン6に比べて同等、もしくは高く、特にクローンFとクローンFminiは還元型に対して酸化型よりも10倍程度親和性が高いことが明らかである。
【0037】
実施例4
RNAアプタマーによるPrx6酵素活性の阻害
単離されたRNAアプタマーがPrx6タンパク質と結合し、相互作用することで、Prx6タンパク質が本来持っている酵素活性を阻害するかどうかを以下のようにして検定した。
1mM EDTA、1.5μMチオレドキシン、0.3μM チオレドキシン還元酵素、0.2 mM NADPH を含む50mM Hepes-NaOH(pH7.0)に可変量のペルオキシレドキシンを添加し、30℃で3分間反応した。反応後、基質として100μMの過酸化水素を添加して反応を開始し,NADPH の消費を340 nm における吸光度の減少としてUV-2450(島津製作所)を用い経時的に測定した。NADPH の吸光係数は6.22 mM-1 cm-1 の値を用いて、酵素反応速度を求めた。試料を含まない対照を測定し,添加されている試薬による自発的な活性としてこれを差し引いた。RNAアプタマーによる酵素の阻害活性を検討する場合には、ペルオキシレドキシンと共存させ、同様の実験を行った。
【0038】
結果を、図8〜10に示す。図8の結果によれば、nPrx6タンパク質に対して、クローンCのアプタマーが50%程度の酵素阻害活性を持つことが示された。この酵素阻害活性能はクローンC(アプタマーC)、E(アプタマーE)、F(アプタマーF)のすべてのアプタマーについて確認されたが、クローンCが一番高く、次いでクローンF、クローンEの順に高かった。
図9は図8の検定におけるRNaseの影響を調べた結果であり、RNaseによる検定中のRNAアプタマーの分解が懸念されたものの、RNase阻害剤を加えた場合と加えなかった場合で優位差が見られないことから、本検定中のRNAアプタマーの分解はほとんどないと考えられた。
図10はクローンCのRNAアプタマーによる酵素阻害活性がアプタマーの濃度依存的に行われるかどうかを検定した結果で、加えるアプタマー濃度が2 μMまでは著しい濃度依存性が、それより高濃度では緩やかな濃度依存性が確認された。
上記一連の酵素阻害活性測定を基にしてPrx6タンパク質に対するクローンCアプタマーの阻害定数を求めたところ、ki値は1.4 μMとなった。
【0039】
実施例5
単離されたRNAアプタマーのミニマイズ化
単離されたRNAアプタマーの配列から全てのクローン間で共通であるプライマー領域を削除し、アプタマー分子の短縮化を行った。二次構造予測からもミニマイズされたアプタマーが全長のものと構造的に大きく変わらないことを確認して、ミニマイズされたアプタマーが標的分子との特異的な結合領域を含有すると想定した。調整法は以下の通りである。
このミニマイズされたRNAアプタマー配列に対応するDNAを化学合成し、さらにその上流にT7プロモーター領域を付加してこれをPCR増幅し、増幅されたDNAからRNAポリメラーゼによる転写反応によりRNAアプタマーを合成した。
【0040】
得られたミニマイズ化RNAアプタマーである、クローンEmini及びクローンFminiの塩基配列及び予測される2次構造は、配列番号6、7及び図11及び12にそれぞれ示される。
これらミニマイズ化アプタマーについて、実施例3と同様にして、表面プラズモン共鳴装置を用いて、これらミニマイズ化アプタマーと還元型ペルオキシドキシン6(NPrx6)及び酸化型ペルオキシドキシン6との解離定数を求めた。結果は実施例3中の表3に併せて記載した。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】nPrxに対する、選択したRNAプールの結合性を[図6]クローンEの予測される2次構造を表す図である測定した結果を示す図である。
【図2】oxPrxに対する選択したRNAプールの結合性を表面プラズモン共鳴装置BIAcoreT100(Biacore社)を用いて測定した結果を示す図である。
【図3】クローンCの予測される2次構造を表す図である。
【図4】クローンEの予測される2次構造を表す図である。
【図5】クローンFの予測される2次構造を表す図である。
【図6】表面プラズモン共鳴装置BIAcoreT100(Biacore社)を用いて測定された、クローンA―FのnPrxに対する結合曲線を示す図である。
【図7】表面プラズモン共鳴装置BIAcoreT100(Biacore社)を用いて測定された、クローンA―FのoxPrxに対する結合曲線を示す図である。
【図8】アプタマーC、E、FのnPrx6に対する阻害活性を試験した結果を示すグラフである。
【図9】アプタマーCの上記阻害活性に対するRNaseの影響を試験した結果を示すグラフである。
【図10】クローンCの各濃度と阻害活性の関係を試験した結果を示すグラフである。
【図11】クローンEminiの予測される2次構造を表す図である。
【図12】クローンFminiの予測される2次構造を表す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質に対するRNAアプタマー、該アプタマーからなるペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質の検出、定量試薬、及び該検出、定量試薬を用いたペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質の検出、定量法に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素、ペルオキシド、一酸化窒素などの活性酸素種は非常に反応性が高く、タンパク質や核酸、脂質等の生体構成成分と容易に反応して、その構造や機能を変化させる。そのため生体内で活性酸素種が発生し、処理(還元)しきれなくなると「酸化ストレス」と呼ばれる酸化還元状態を維持する機構が破綻した状態になる。癌、パーキンソン病、アルツハイマー病などの疾患では生体は酸化ストレス状態にあり、活性酸素種がこれらの疾患に関わっていると考えられる。一方で細胞は活性酸素種消去系や酸化ストレス応答系を持って、これらの活性酸素種の濃度を抑えたり、アポトーシスを引き起こし、細胞周期を制御していると考えられている。活性酸素消去系には複数の酵素や低分子が関与しているが、近年ペルオキシレドキシン(peroxiredoxin; Prx)と呼ばれる一群の新しいペルオキシダーゼが酸化ストレス応答などに重要な役割を担っていることが明らかになってきた(Fig.1)。
【0003】
ペルオキシレドキシン(Prx)は近年、バクテリア、酵母、高等植物、ほ乳類等の様々な細胞から発見されており、その1次配列の相同性から50を超えるファミリーを形成することが明らかになった。
【0004】
一方、近年進歩してきたアプタマー(核酸リガンド)の開発分野では、試験管内選択法によって、標的とする分子に対して高い親和性と特異性で結合をする核酸を分離することが可能になっている。その戦略は、ランダムな核酸のプールの中から標的分子に高い親和性をもつ稀少な核酸分子を分離することと、その後、選別と増幅の循環を繰り返すことである。これまでにこの方法は、金属イオンや、糖類、ペプチド、タンパク質、あるいは細胞全体など、多様な標的に対して強固な結合をするアプタマーを分離するために著しく有用であることが立証されている。様々なアプタマーがその認識分子に対して示す結合親和性は、抗体と抗原の親和性と比較しても同程度であるか、あるいは勝っており、解析物の検出・定量やタンパク質の機能・活性の阻害など、in vitroやin vivoでの様々な応用のためにアプタマーが開発されてきた。さらにアプタマーは抗体に比べて、近縁の分子同士を識別する能力がより高い場合があることや、結合のために、より小さな領域しか必要としないことが知られている。例えばテオフィリン(Theophylline)アプタマーは、テオフィリンとN7位のメチル基だけが異なるカフェイン(Caffeine)を一万4千倍の効率で識別することができる(非特許文献1参照)。このような状況下、本発明者等は、これまでにヒト免疫不全ウイルス(HIV)とC型肝炎ウイルス(HCV)のウイルスタンパク質に対して高親和性のRNAアプタマーを開発している(非特許文献2〜4参照)。開発されたアプタマーのうち、抗TatアプタマーはHIVのTatタンパク質にKD値120pMで結合し、一方、抗NS3アプタマーはHCVのNS3タンパク質にKD値10nMで結合する。抗Tatアプタマーと抗NS3アプタマーはこれらのタンパク質の機能をIn vitroでもIn vivoでも阻害することが見出されている(非特許文献2、非特許文献5,非特許文献6参照)。
【0005】
【非特許文献1】ジェニソン(Jenison, R. D.)ら、「Science」(米国)1994年3月11日発行、第263巻、第5152号、p1425-1429
【非特許文献2】Yamamotoら, Genes to Cells, 2000 May, 5(5):371-88
【非特許文献3】Kumarら, Virology, 1997 Oct 27, 237(2):270-82
【非特許文献4】Fukudaら, Eur. J. Biochem. 2000 June, 267(12), 3685-94参照)
【非特許文献5】Kakiuchiら, Combinatorial Chemistry & High throughput screening, 2003, 6, 155-160;
【非特許文献6】Nishikawaら, Nucleic Acids Res. 2003 Apr 1, 31(7), 1935-43参照
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、生体内では、ミトコンドリアにおけるエネルギー代謝の過程や、薬剤、紫外線などによって活性酸素種が発生するが、これら内因性および外因性の活性酸素種が増えすぎると生体内の酸化還元状態を維持する機構が破綻し、「酸化ストレス」と呼ばれる状態になる。癌、糖尿病、動脈硬化、パーキンソン病、アルツハイマー病などの疾患では、生体は酸化ストレス状態にあり、活性酸素種がこれらの疾患に関わっていると考えられている。ペルオキシレドキシン(Prx)をはじめとする一連のペルオキシダーゼはこうした活性酸素種を還元する抗酸化酵素であり、酸化ストレスが関係すると考えられる疾患のマーカーとして使用できる可能性があるため、還元型Prxと酸化型Prxを区別して検出できる方法は非常に重要な課題である。
【0007】
Prxを抗原とする抗体も市販されているが、ポリクローナル抗体であり、加えて抗体の場合は標的タンパク質の認識部位として6から8残基の断片かそれ以上に大きな表面積を必要とするため還元型と酸化型といったような非常にわずかな差異の検出は困難である。
【0008】
また、Prxを抗原とする市販の抗体はイムノブロットでの検出に使用できることは確認されているものの、ビアコアを用いた非変性条件下での検出には利用できることが確認できない。このため細胞から抽出したPrxを定量的に検出するアッセイ系がない。そこで、本発明の課題は、ペルオキシレドキシン(Prx)を特異的に認識しうる有用なアプタマーを提供するとともに、これを用いたペルオキシレドキシン(Prx)の検出、定量試薬及び検出、定量方法を新たに提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記課題を解決するため、鋭意研究の結果、SELEX法を用いて、ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質を特異的に認識しうるアプタマーを得ることに成功し、該アプタマーが、完全ではないものの、ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質の酸化型と還元型とをある程度識別できることを見いだし、本発明を完成するに至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)配列番号1又は2に示す塩基配列を含むか、あるいは該塩基配列において、1又は数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、かつペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質に対し結合能を有することを特徴とするRNAアプタマー。
(2)配列番号3〜7のいずれかで示される塩基配列からなるか あるいは該塩基配列において、1又は数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、かつペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質に対し結合能を有することを特徴とするRNAアプタマー。
(3)配列番号8又は9に示す塩基配列を含むか、あるいは該塩基配列において、1又は数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、かつ転写によって、ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質に対し結合能を有するアプタマーに変換可能なDNA。
(4)配列番号10〜14のいずれかで示される塩基配列からなるか あるいは該塩基配列において、1又は数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質に対し結合能を有するアプタマーに変換可能なDNA。
(5)5’末端にT7プロモータ配列が付加されている、上記(3)又は(4)に記載のDNA。
(6)上記(3)〜(5)のいずれかに記載のDNAと相補の塩基配列を有するDNA。
(7)上記(3)〜(5)のいずれかに記載のDNAと、その相補のDNAがハイブリダイズした2本鎖DNA。
(8)上記(1)又は(2)のRNAアプタマーからなる、ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質の検出、定量用試薬。
(9)上記(8)に記載の検出、定量用試薬をペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質を含有するか、または含有する可能性のある試料と接触させることを含む、ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質の検出及び/又は定量方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアプタマーRNAは、ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質に対し特異的認識能を有し、ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質の同定試薬として有用である。
また、一般的に、アプタマーは、標的タンパク質中の認識部位のアミノ酸残基数は抗体に比較して少なく、アプタマーの高親和性モチーフは相同性の高いタンパク質同士を感度よく識別することができる。また、アプタマーは非変性条件下で標的分子を認識し、結合能を有することから、アプタマー分子を用いた結合アッセイにより、ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質分子を非変性条件下で定量的に検出でき、生体内におけるのと類似の状態でペルオキシレドキシンを検出しうる。生体内におけるペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質を定量的に検出し、その分泌量の増減をモニタリングすることは生体が酸化ストレス状態になるのか否かの診断への途を拓くものである。
【0012】
一方、本発明のアプタマーは、酸化型のペルオキシレドキシン6(oxPrx6)タンパク質に比べ還元型のペルオキシレドキシン6(nPrx6)タンパク質に対してより高い結合親和性を有し、完全ではないものの酸化型と還元型のペルオキシレドキシンをある程度識別する能力を有する。したがって、例えば、nPrx6のみのサンプルおよびoxPrx6のみのサンプルをコントロールに用い、生体内から抽出したペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質のサンプルと、それに対するアプタマーとの親和性もしくは結合量を比較することにより、還元型ペルオキシレドキシン6(nPrx6)タンパク質と酸化型ペルオキシレドキシン6(oxPrx6)タンパク質の割合をある程度定性的には把握することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のアプタマーは、SELEX法により得られたクローン由来のものであって、 ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質に特異的に結合する能力を有する。ペルオキシレドキシン6(nPrx6)タンパク質の遺伝子配列及びアミノ酸配列は、配列表の配列番号21及び22に示される。
本発明の第1のアプタマーは、少なくとも配列番号1に示される塩基配列を含むRNAを包含する。その具体的なアプタマーとしては、例えば、配列番号3又は6に示されるRNAが挙げられ、これらRNAは上記配列番号1に示す配列を共通して有している。同第2のアプタマーは少なくとも配列番号2に示される塩基配列を含むRNAを包含し、その具体的なアプタマーとしては、配列番号4又は7に示されるRNAが挙げられ、これらRNAは配列番号2に示される塩基配列を共通して有している。また、他のアプタマーとしては、配列番号5に示される塩基配列からなるRNAが挙げられる。
【0014】
一方、本発明においては、上記配列番号で示されるRNAに限らず、上記配列番号1又は2で示すRNA配列と対応する配列を有する、それぞれ配列番号8又は9に示す塩基配列を含むDNAを包含する。より具体的には、例えば配列番号10又は12、及び11又は13に示される塩基配列からなるDNA、さらに、配列番号7で示されるRNAと対応する配列番号14に示されるDNAを挙げることができる。また、本発明においては、これらDNAと相補のDNA、あるいはこれら相補のDNA鎖同士が2本鎖を構成したdsDNAを包含する。これらはそれ自体慣用の遺伝子操作手段により、たやすく本発明のアプタマーRNAに変換可能であり、本発明のアプタマー製造用中間体となりうる。これらDNAはその5’末端にT7プロモータ(配列番号22)等の配列が付加されてもいてもよい。
また、本発明においては、本発明のアプタマーの塩基配列をヌクレオチド残基を1又は数個欠失、置換、あるいは付加させて改変したものであっても、上記ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質と結合するものであればこれを包含する。
【0015】
本発明のアプタマーは、それ自体周知のSELEX(systematic evolution of ligands by exponential enrichment)法により得られたものである。
SELEX法は、ランダム配列の核酸ライブラリの作成から出発し、標的とするタンパク質との結合性を指標に選別して、PCR増幅するサイクルを複数回繰り返すもので、これにより、標的とするタンパク質に対し高い結合能を有する核酸のみを選別することができる。上記選別及びPCR増幅はそれぞれ、自然界における「淘汰」及び「増殖」に相当し、自然界における進化を試験管内で短時間に再現させるものである。
【0016】
本発明においては、配列中央の30塩基をランダム領域とするDNAライブラリー(配列番号18)を合成し、PCR増幅した後、逆転写してRNAプールとし、このRNAプールに対し、上記ノ―マル型(還元型)ペルオキシレドキシン6(nPrx6)及び酸化型ペルオキシレドキシン6(oxPrx6)と結合するRNAを選別、増幅し、このサイクルを複数回繰り返すことにより、ペルオキシレドキシン6タンパク質に対して特異的に認識する、配列番号3〜5に示されるRNAアプタマーを得たものであり
本発明においてはこれら配列番号2及び配列番号5に示すRNAアプタマーをさらに短縮化して、配列番号6及び7に示されるRNAアプタマーを得ており、これら短縮化RNAアプタマーもペルオキシレドキシン6(Prx6)に対して、結合能を有する。本発明のアプタマーは、還元型のみでなく酸化型ペルオキシレドキシンを標的とした場合にも得られており、また、酸化型及びノ―マル型のいずれにも結合するが、測定された解離定数は、いずれのアプタマーにおいても、酸化型よりもノーマル型に対し同等もしくは高い結合性(最大10倍)を有していることを示している。
【0017】
本発明のアプタマーは、上記したとおり、基本的にはSELEX法により得たものではあるが、本発明においては、アプタマーの塩基配列を明らかにしており、SELEX法によらずとも、この塩基配列から本発明のアプタマーを合成することができる。これには、例えば、それ自体周知の以下の方法を用いることができる。
インビトロ転写法:合成目的のアプタマーRNAに対応する上記DNAを化学合成し、これをPCR増幅し、増幅されたDNAからRNAポリメラーゼによる転写反応によりRNAアプタマーを合成する。例えば、T7プロモータの下流側に上記DNAを連結してPCR増幅し2本鎖DNAを得て、該2本鎖DNAを鋳型として、5’-末端側プライマー、T7RNAポリメラーゼ、およびATP、GTP、CTP及びUTPからなる該RNAポリメラーゼ基質を含む反応溶液中で、RNA伸長反応を行うことにより、RNAアプタマーを得ることができる。
【0018】
この方法においては、T7プロモーター配列を含むプラスミドに上記dsDNAを連結したもの、あるいは化学合成したDNAも鋳型として用いることができる。また、上記DNAの合成においては DNA合成装置(例えば、334DNA synthesizer (Applied Biosystems社製))を使用して行うことができる。
【0019】
化学合成法:RNAの合成には、リボース部位の2'水酸基の保護が必要であり、保護基として種々のアミダイトが開発されてきており、最近開発された2-cyanoethoxymethyl (CEM) 基を用いるとRNA合成時の鎖長伸長反応の効率が高くなり、100 merを超える長鎖RNAの合成も可能となる。本発明のRNAアプタマーはこのような化学合成法を用いても合成することができる。
【0020】
本発明のRNAアプタマーはペルオキシレドキシン6(PrX6)の検出、定量試薬として用いられる。
例えば、本発明のRNAアプタマーをフルオレセイン、ローダミン、テキサスレッド等の蛍光色素で標識し、被験試料と接触、結合反応を行い、結合しなかったものを除去した後、蛍光あるいはその強度を検出、測定することにより、ペルオキシレドキシン6(PrX6)タンパク質の検出、あるいはその量を測定できる。この際、例えば、標識RNAアプタマーあるいは被験試料のいずれかを固定化した基板を用いて行うことができる。
標識としては、上記蛍光色素に限らず、放射性標識でもよく、また、アビジンやストレプトアビジンで修飾することも可能で、アプタマーペルオキシレドキシン6(PrX6)タンパク質複合体の検出、定量にはビオチンを用いればよい。
このように、アプタマーは核酸であるため合成が簡便で様々な修飾や標識も付加しやすく、当業者であれば標的分子とアプタマーの結合を検出するための方法として、当分野で通常行われている方法を適宜利用することができる。
【0021】
また、本発明においては、蛍光色素等で標識せずに、ペルオキシレドキシン6(PrX6)タンパク質を検出、定量できる。これには、例えば、表面プラズモン共鳴法(SPR)を用いた検出法がある。すなわち、センサー表面でおこる両分子の結合時の微細な質量変化を表面プラズモン共鳴とよばれる光学現象を採用することで分子間の結合反応を測定することができる。SPR法を利用した装置として、Biacore 社製BIAcore T100等がある。測定はセンサーチップの金薄膜表面に本発明のRNAアプタマー及び被験試料のいずれかを周知の方法で固定化し、これに被験試料あるいはRNAアプタマーを供給して、結合反応をリアルタイムでモニタリングしながら行う。
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0022】
実施例1
Prxタンパク質に特異的に結合するアプタマーのin vitroでの選別
選別に用いたRNAプール(30N)は既に報告したようにして調製した(Fukudaら, Eur. J. Biochem., 267, 3685-3694 (2000))。このRNAプールは次のようにプライマー結合領域ではさまれたランダムな30塩基のコアを含んでいる:
5'-AGTAATACGACTCACTATAGGGAGAATTCCGACCAGAAG-N30-CCTTTCCTCTCTCCTTCCTCTTCT-3'(配列番号18)。RNAプールの増幅に用いたプライマーは:5'-AGTAATACGACTCACTATAGGGAGAATTCCGACCAGAAG-3'((配列番号19)、以下39.N30と表記する。)
と5'-AGAAGAGGAAGGAGAGAGGAAAGG-3'((配列番号20)、以下、24.N30と表記する。)である。選別サイクルにおいては大腸菌tRNA(Boehringer-Mannheim)を非特異的な競争阻害剤として用いた。
【0023】
in vitro選択は、基本的には先に報告されたようにして行う(Urvil, P. T.ら、Eur. J. Biochem. 248, 130-38 (1997); Kumar, P. K.ら、Virology, 237, 270-282 (1997))。
具体的には、ニッケルキレートコートのマイクロプレート(Xenopore社)を200 ulの緩衝液( 10 mM Tris-HCl; 7.5, 50 mM NaCl)で2回洗浄の後、標的タンパク質である還元型ペルオキシレドキシン6(nPrX6)タンパク質(1uM)および酸化型ペルオキシレドキシン(oxPrx)6タンパク質(1uM)を200ulずつ加えて4度で10時間インキュベート。その後、上記の200 ulの緩衝液で3回洗浄する。
【0024】
上記のようにして得られた長さ30塩基のランダム配列(N30)を含む20uMのRNAプールを、同じく先述の標的タンパク質を固定化したプレートに加え室温で5分間インキュベート。200 ulの緩衝液でさらに3回洗浄した後100ulの溶出用緩衝液(10mM HEPES;7.4, 0,15M NaCl, 0.35M EDTA, 0,005% Tween-20)で溶出する。得られた溶出サンプルはエタノール沈殿法にて含有するRNAを精製し、50 mM Tris-HCl (pH8.0), 40 mM KCl, 6 mM MgCl2, 0.4 mM dNTPs, 2.5 μM プライマー(24.N30)と5 UのAMV逆転写酵素(WAKO)を含む20 μlの反応液中で逆転写した。ヌクレオチドと酵素はアニーリングの段階(95℃で5分間処理後、室温で10分間)の後で加えた。逆転写は42 ℃で90分間行った。
【0025】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による増幅のため、逆転写後の混合液(cDNA反応液)20 μlを80 μlのPCR用混合液(10 mM Tris-HCl (pH8.8), 50 mM KCl, 1.5 mM MgCl2, 0.1% Triton X-100, 5UのTaq DNAポリメラーゼ(タカラ), 0.4 μMずつの24.N30プライマーと39.N30プライマー) で希釈した。反応液は 94℃、1.15分間;‐60℃、0.45分間;‐72℃、1.15分間のサイクルを、適正サイズで産物のバンドが得られるまでの回数繰り返した。PCRの産物はエタノールで沈殿させて転写に用いた。試験管内転写反応はT7Ampliscribeキット(Epicentre Technologies)を用いて、37℃、3時間行った。RNA合成とDNase I処理の後、反応液を8%非変性ポリアクリルアミドゲルで分画した。RNAをゲルから抽出し、次の選別と増幅のサイクルに使用した。
各選別条件について、以下の表1,2に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
第12回目のサイクルで得たRNAプールを用いてnPrx6タンパク質およびoxPrx6に対する結合親和性を表面プラズモン共鳴装置BIAcore T100(Biacore社)を用いて測定した.それぞれ結果を図1,2に示す。
【0029】
第12回目のサイクルで得たRNAプールをクローニングし、それぞれ24クローンのRNAについて配列を解読した。なお、そのうち占有率の大きい5種類のクローンの出現を見いだし、これらを以下のように命名した。
クローンA(配列番号15)、クローンB(配列番号16)、クローンC(配列番号5)、クローンD(配列番号17)、クローンE(配列番号3)、クローンF(配列番号4)。
このうち、クローンC、クローンE及びクローンFの2次構造は、それぞれ順に図3、4、5に示される。
上記各クローンの占有率を以下の表3に示す。
【0030】
【表3】
【0031】
実施例2
Prx6タンパク質に対する単離されたアプタマーの結合特異性
単離されたクローンA-Fの6種類のRNAアプタマーのPrxタンパク質に対する結合親和性を、表面プラズモン共鳴装置(BIAcore T100(Biacore 社))を用いて測定した。結果を図6、7に示す。
これによれば、クローンC、E及びFは、クローンA、B及びDよりも酸化型ペルオキシドキシン6(oxPrx6)及び還元型ペルオキシドキシン6(nPrx6)のいずれに対しても高い結合能を有することが分かる。なお、クローンEは、還元型ペルオキシドキシン6(nPrx6)を標的として得られ、クローンFは酸化型ペルオキシドキシン6(oxPrx6)を標的として得られており、クローンCは還元型ペルオキシドキシン6(nPrx6)と酸化型ペルオキシドキシン6(oxPrx6)を標的とする場合の双方から得られたものである。
【0032】
実施例3
表面プラズモン共鳴法によるアプタマーの解離定数の測定
表面プラズモン共鳴法ではフィルター結合測定より感度が高く、より精度の高い解離定数の測定が可能と期待されたので、予備実験により親和性が高いと判断された3種類のRNAアプタマー(クローンC,E,F)とnPrx6タンパク質およびoxPrx6タンパク質との結合の解離定数を、表面プラズモン共鳴装置BIAcore T100(Biacore社)によって測定した。
【0033】
RNAアプタマーの3'末端に24ヌクレオチド長のオリゴ・アデニン(A)を延長させたRNAを作製し、次のようにして表面プラズモン共鳴法用のセンサーチップに固定化した。まず、HBS-EP++緩衝液(10 mM HEPES, 500 mM NaCl, 3 mM EDTA, 0.005% Tween-20, pH 7.5)に解かした0.3 μMのビオチン化したオリゴdT(24ヌクレオチド長)[5'-(dT)24-3']、20 μlを、ストレプトアビジンでコートされたセンサーチップ(センサーチップSA, Biacore社)に2μl/mlの流速で流して固定化し、緩衝液を20μl/mlの流速で20分間流して未結合のオリゴヌクレオチドを除いた。オリゴAを含むRNAアプタマー(クローンC,E,F)をHBS-EP緩衝液に0.3 μMの濃度で溶かし、その20μlをオリゴdTを固定化したチップに2μl/mlの流速で流してチップ表面上のオリゴdTに結合させた。このアプタマーのチップへの結合の際に表面プラズモン共鳴装置によって検出された応答の強度は、約5,000応答単位(RU)であった。
【0034】
上記のSAチップへ一定の濃度範囲のnPrx6タンパク質またはoxPrx6タンパク質溶液60μlを20μl/mlの流速で流し、固定化されたRNAアプタマーとの結合反応曲線を測定して、各アプタマーと還元型ペルオキシドキシン6(nPrx6)タンパク質及び酸化型ペルオキシドキシン6(oxPrx6)タンパク質との解離定数を求めた。アナライトとして添加するPrx6タンパク質はそれぞれ最低でも5種類の濃度のサンプルを調製し、検定を行った。この結果を、後記する実施例5で得られた短縮化アプタマーについて同様の試験を行った結果と併せて、以下の表4に示す。
【0035】
【表4】
【0036】
これによれば、上記したアプタマーは、いずれも、還元型ペルオキシレドキシン6に対しての親和性が酸化型ペルオキシレドキシン6に比べて同等、もしくは高く、特にクローンFとクローンFminiは還元型に対して酸化型よりも10倍程度親和性が高いことが明らかである。
【0037】
実施例4
RNAアプタマーによるPrx6酵素活性の阻害
単離されたRNAアプタマーがPrx6タンパク質と結合し、相互作用することで、Prx6タンパク質が本来持っている酵素活性を阻害するかどうかを以下のようにして検定した。
1mM EDTA、1.5μMチオレドキシン、0.3μM チオレドキシン還元酵素、0.2 mM NADPH を含む50mM Hepes-NaOH(pH7.0)に可変量のペルオキシレドキシンを添加し、30℃で3分間反応した。反応後、基質として100μMの過酸化水素を添加して反応を開始し,NADPH の消費を340 nm における吸光度の減少としてUV-2450(島津製作所)を用い経時的に測定した。NADPH の吸光係数は6.22 mM-1 cm-1 の値を用いて、酵素反応速度を求めた。試料を含まない対照を測定し,添加されている試薬による自発的な活性としてこれを差し引いた。RNAアプタマーによる酵素の阻害活性を検討する場合には、ペルオキシレドキシンと共存させ、同様の実験を行った。
【0038】
結果を、図8〜10に示す。図8の結果によれば、nPrx6タンパク質に対して、クローンCのアプタマーが50%程度の酵素阻害活性を持つことが示された。この酵素阻害活性能はクローンC(アプタマーC)、E(アプタマーE)、F(アプタマーF)のすべてのアプタマーについて確認されたが、クローンCが一番高く、次いでクローンF、クローンEの順に高かった。
図9は図8の検定におけるRNaseの影響を調べた結果であり、RNaseによる検定中のRNAアプタマーの分解が懸念されたものの、RNase阻害剤を加えた場合と加えなかった場合で優位差が見られないことから、本検定中のRNAアプタマーの分解はほとんどないと考えられた。
図10はクローンCのRNAアプタマーによる酵素阻害活性がアプタマーの濃度依存的に行われるかどうかを検定した結果で、加えるアプタマー濃度が2 μMまでは著しい濃度依存性が、それより高濃度では緩やかな濃度依存性が確認された。
上記一連の酵素阻害活性測定を基にしてPrx6タンパク質に対するクローンCアプタマーの阻害定数を求めたところ、ki値は1.4 μMとなった。
【0039】
実施例5
単離されたRNAアプタマーのミニマイズ化
単離されたRNAアプタマーの配列から全てのクローン間で共通であるプライマー領域を削除し、アプタマー分子の短縮化を行った。二次構造予測からもミニマイズされたアプタマーが全長のものと構造的に大きく変わらないことを確認して、ミニマイズされたアプタマーが標的分子との特異的な結合領域を含有すると想定した。調整法は以下の通りである。
このミニマイズされたRNAアプタマー配列に対応するDNAを化学合成し、さらにその上流にT7プロモーター領域を付加してこれをPCR増幅し、増幅されたDNAからRNAポリメラーゼによる転写反応によりRNAアプタマーを合成した。
【0040】
得られたミニマイズ化RNAアプタマーである、クローンEmini及びクローンFminiの塩基配列及び予測される2次構造は、配列番号6、7及び図11及び12にそれぞれ示される。
これらミニマイズ化アプタマーについて、実施例3と同様にして、表面プラズモン共鳴装置を用いて、これらミニマイズ化アプタマーと還元型ペルオキシドキシン6(NPrx6)及び酸化型ペルオキシドキシン6との解離定数を求めた。結果は実施例3中の表3に併せて記載した。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】nPrxに対する、選択したRNAプールの結合性を[図6]クローンEの予測される2次構造を表す図である測定した結果を示す図である。
【図2】oxPrxに対する選択したRNAプールの結合性を表面プラズモン共鳴装置BIAcoreT100(Biacore社)を用いて測定した結果を示す図である。
【図3】クローンCの予測される2次構造を表す図である。
【図4】クローンEの予測される2次構造を表す図である。
【図5】クローンFの予測される2次構造を表す図である。
【図6】表面プラズモン共鳴装置BIAcoreT100(Biacore社)を用いて測定された、クローンA―FのnPrxに対する結合曲線を示す図である。
【図7】表面プラズモン共鳴装置BIAcoreT100(Biacore社)を用いて測定された、クローンA―FのoxPrxに対する結合曲線を示す図である。
【図8】アプタマーC、E、FのnPrx6に対する阻害活性を試験した結果を示すグラフである。
【図9】アプタマーCの上記阻害活性に対するRNaseの影響を試験した結果を示すグラフである。
【図10】クローンCの各濃度と阻害活性の関係を試験した結果を示すグラフである。
【図11】クローンEminiの予測される2次構造を表す図である。
【図12】クローンFminiの予測される2次構造を表す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1又は2に示す塩基配列を含むか、あるいは該塩基配列において、1又は数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、かつペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質に対し結合能を有することを特徴とするRNAアプタマー。
【請求項2】
配列番号3〜7のいずれかで示される塩基配列からなるか あるいは該塩基配列において、1又は数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、かつペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質に対し結合能を有することを特徴とするRNAアプタマー。
【請求項3】
配列番号8又は9に示す塩基配列を含むか、あるいは該塩基配列において、1又は数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、かつ転写によって、ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質に対し結合能を有するアプタマーに変換可能なDNA。
【請求項4】
配列番号10〜14のいずれかで示される塩基配列からなるか あるいは該塩基配列において、1又は数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質に対し結合能を有するアプタマーに変換可能なDNA 。
【請求項5】
5’末端にT7プロモータ配列が付加されている、請求項3又は4に記載のDNA。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれかに記載のDNAと相補の塩基配列を有するDNA。
【請求項7】
請求項3〜5のいずれかに記載のDNAと、その相補のDNAがハイブリダイズした2本鎖DNA。
【請求項8】
請求項1又は2のRNAアプタマーからなる、ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質の検出、定量用試薬。
【請求項9】
請求項8に記載の検出、定量用試薬をペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質を含有するか、または含有する可能性のある試料と接触させることを含む、ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質の検出及び/又は定量方法。
【請求項1】
配列番号1又は2に示す塩基配列を含むか、あるいは該塩基配列において、1又は数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、かつペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質に対し結合能を有することを特徴とするRNAアプタマー。
【請求項2】
配列番号3〜7のいずれかで示される塩基配列からなるか あるいは該塩基配列において、1又は数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、かつペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質に対し結合能を有することを特徴とするRNAアプタマー。
【請求項3】
配列番号8又は9に示す塩基配列を含むか、あるいは該塩基配列において、1又は数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、かつ転写によって、ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質に対し結合能を有するアプタマーに変換可能なDNA。
【請求項4】
配列番号10〜14のいずれかで示される塩基配列からなるか あるいは該塩基配列において、1又は数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質に対し結合能を有するアプタマーに変換可能なDNA 。
【請求項5】
5’末端にT7プロモータ配列が付加されている、請求項3又は4に記載のDNA。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれかに記載のDNAと相補の塩基配列を有するDNA。
【請求項7】
請求項3〜5のいずれかに記載のDNAと、その相補のDNAがハイブリダイズした2本鎖DNA。
【請求項8】
請求項1又は2のRNAアプタマーからなる、ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質の検出、定量用試薬。
【請求項9】
請求項8に記載の検出、定量用試薬をペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質を含有するか、または含有する可能性のある試料と接触させることを含む、ペルオキシレドキシン6(Prx6)タンパク質の検出及び/又は定量方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2009−165394(P2009−165394A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−6123(P2008−6123)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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