説明

ペルオキソチタン錯体及び該溶液の製造方法

【課題】チタン含有溶液を出発原料にしてペルオキソチタン錯体を製造する方法において、少ない工程でしかも製造時のエネルギー消費の少ない製造方法を提供すること。
【解決手段】四塩化チタン溶液に過酸化水素、錯化剤及びアルカリを添加する工程を含み、脱イオン工程を有しないことを特徴とするペルオキソチタン錯体溶液の製造方法である。また、前記ペルオキソチタン錯体溶液を乾燥することを特徴とするペルオキソチタン錯体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペルオキソチタン錯体及び該溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶性のチタン原料としては、塩化チタン、硫酸チタンなどの塩類やチタニウムテトライソプロポキシドなどのアルコキシド類が一般に知られているが、いずれも強い反応性を持ち、安定した原料として扱いにくい場合がある。ペルオキソチタン錯体は、水への溶解度が高く、その水溶液は安定性が高いことから酸化チタン及びチタンと他の金属との複合酸化物の原料として有用なもので、このものを製造する方法として、例えば金属チタン粉末に過酸化水素水を作用させて溶解したチタンペロキシ溶液に、チタンに対してカルボン酸、アセチルアセトン、アミン類、ペロキソイオンからなる群から選ばれる一種以上を溶解させる方法(特許文献1参照)、アンモニアと過酸化水素の存在下、pH7〜14の範囲で、チタン水酸化物及び/又はチタン含水酸化物を水に溶解させると共に、チタンイオンをヒドロキシカルボン酸により安定化させる方法(特許文献2参照)が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開2000‐159786号公報
【特許文献2】WO2002‐049963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1及び2に記載のペルオキソチタン錯体の製造方法はチタン原料として夫々金属チタン粉末、チタン水酸化物及び/又はチタン含水酸化物を用いる方法である。これらチタン原料は、例えば、金属チタンの場合は四塩化チタンをアルゴン雰囲気中で金属マグネシウムと反応させることで得ることが出来るが、反応に1000℃前後の熱量を必要とし、また、副生成物の塩化マグネシウムの廃棄や再生に労力を要する。また、チタン水酸化物及び/又はチタン含水酸化物の場合は硫酸チタン、四塩化チタン等のチタン含有溶液を出発原料にして、中和・加水分解した後、ろ過・洗浄等の脱イオン処理工程を経てはじめてチタン水酸化物及び/又はチタン含水酸化物が得られる。いずれの場合も、チタン含有溶液を出発原料として考えれば、ペルオキソチタン錯体を得るまでには多くの工程を必要とし、エネルギーを消費している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、四塩化チタンを出発チタン源とし、このものからより少ない工程で、より安価に製造できるペルオキソチタン錯体の製造方法を見出すべく種々検討したところ、四塩化チタン溶液に過酸化水素、錯化剤及びアルカリを添加することで、脱イオン処理工程を有しなくとも容易にペルオキソチタン錯体溶液が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、四塩化チタン溶液に過酸化水素、錯化剤及びアルカリを添加する工程を含み、脱イオン工程を有しないことを特徴とするペルオキソチタン錯体溶液の製造方法である。また、前記ペルオキソチタン錯体溶液を乾燥することを特徴とするペルオキソチタン錯体の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のペルオキソチタン錯体の製造方法は、四塩化チタンを出発チタン源とし、しかも工程中にろ過・洗浄等の脱イオン処理の工程がないため、製造時のエネルギー消費量が少なく、工業的に有利にペルオキソチタン錯体を製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、ペルオキソチタン錯体の製造方法であって、四塩化チタン溶液に過酸化水素、錯化剤及びアルカリを添加する工程を含み、脱イオン工程を有しないことを特徴とする。
【0009】
本発明のペルオキソチタン酸溶液の製造方法においては、四塩化チタン溶液への過酸化水素、錯化剤及びアルカリからなる三剤の添加順序に特に制約は無い。例えば、該三剤を任意の順序で逐次添加したり、該三剤のうち任意の二剤を同時に添加した後残りの一剤を添加したり、該三剤のうち任意の一剤を添加した後残りの二剤を同時に添加したり、さらには該三剤を同時に添加することができる。上記三剤の添加方法において、アルカリを最後に添加する方法は製造工程の途中で水酸化チタン等の沈澱を生じることが無く、沈澱生成・再溶解の処理が必要なくなるため工程のより一層の簡略化の点で好ましい。過酸化水素の添加量に特に制約はないが、最終的に得られるペルオキソチタン錯体溶液の安定性の点で、四塩化チタン1モルに対し少なくとも0.5モルであることが好ましく、より好ましくは少なくとも1モルである。
【0010】
添加する錯化剤としては、カルボン酸類、アミノカルボン酸類、糖アルコール類及びケトン類から選ばれる少なくとも一種が好ましい。前記のカルボン酸類はカルボキシル基を有する化合物であり、その種類には特に制限はないが、例えば、次のようなものを用いることができ、特にクエン酸が好ましい。
(1)ポリカルボン酸、特にジカルボン酸、トリカルボン酸、例えば、シュウ酸、フマル酸。
(2)ヒドロキシポリカルボン酸、特にヒドロキシジ−又はヒドロキシトリ−カルボン酸、例えばリンゴ酸、クエン酸又はタルトロン酸。
(3)(ポリヒドロキシ)モノカルボン酸、例えばグルコヘプトン酸又はグルコン酸。
(4)ポリ(ヒドロキシカルボン酸)、例えば酒石酸。
(5)ジカルボキシルアミノ酸及びその対応するアミド、例えばアスパラギン酸、アスパラギン又はグルタミン酸。
(6)ヒドロキシル化され又はヒドロキシル化されていないモノカルボキシルアミノ酸、例えばリジン、セリン又はトレオニン。
【0011】
アミノカルボン酸類としては、エチレンジアミン四酢酸、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、trans−1,2−ジアミノシクロヘキサン−N,N,N′,N′−四酢酸、エチレンジエチルトリアミン−N,N,N´,N´´,N´´´−五酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジヒドロキシエチルグリシン等が挙げられるが、これに限定するものではない。また、これらの塩を用いることも出来る。
【0012】
糖アルコールとしては、テトリトール類、例えばエリスリトール、ペンチトール類、例えば、アラビトール、リビトール、キシリトール、ヘキシトール類、例えばソルビトール、マンニトール、の他、ヘプチトール、オクチトール、ノニトール、デキトールなどで構成してもよい。これらの糖アルコールのうち、マンニトールが特に好ましい。
【0013】
さらにケトン類としては、アセトン、アセチルアセトン、ジエチルケトン等が挙げられるが、これらに限定するものではないが、水への溶解度が高いものが好ましい。
【0014】
上記錯化剤は種類によって官能基数及び配位数が異なる為、その使用量は必ずしもチタンに対し等モル必要とは限らず、等モルより少ない量でよい場合、あるいは等モルより多い量が必要な場合もあり、適宜その配合量を調整することができるが、通常は、最終的に得られるペルオキソチタン錯体溶液の安定性の点で、四塩化チタン1モルに対し1/3〜3モルの範囲が好ましい。
【0015】
次に、本発明において用いるアルカリとしては、アンモニア、アミン類及びアルカリ金属炭酸塩から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0016】
前記のアミン化合物はアンモニア中の水素原子を炭化水素基で置換した化合物であって、その炭化水素基を水酸基、カルボキシル基、フェニル基、チオール基等で置換した誘導体を含む。具体的には第1アミン、第2アミン、第3アミンやそれらの誘導体であって、水溶性でありアルカリ性を呈するものが好ましく、第1アミン、第2アミン、それらの誘導体がより好ましい。例えば、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン等のアルキルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン等のアルカノールアミンが好ましく、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンがより好ましい。
【0017】
アルカリの添加量に特に制限はない。ペルオキソチタン錯体は添加したアルカリを一部構造内に取り込む形で安定化する。錯体の構造によって異なるが、チタンに対し2配位する場合が多い。また、錯形成時に4倍の塩化水素が生成するため、所望のpHにするために必要なアルカリを追加する必要がある。得られるペルオキソチタン錯体溶液のpHはアルカリの添加量に依存し、通常、pH1〜13の範囲で安定なペルオキソチタン錯体溶液が得られる。
【0018】
得られたペルオキソチタン錯体溶液に余剰な過酸化水素が残存している場合、開放系で放置すれば徐々に余剰な過酸化水素は抜けていくが、加熱による脱気や真空脱気により取り除いてもよい。
【0019】
次の本発明は、ペルオキソチタン錯体の製造方法であって、上記ペルオキソチタン錯体溶液を乾燥することを特徴とする。乾燥の方法としては、蒸発乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の公知の方法を用いることができる。乾燥温度については、錯体の分解温度によって決定される。通常200℃以下であれば問題ないが、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下で乾燥させる。乾燥により得られるペルオキソチタン錯体は、水系溶媒に添加することで、容易にペルオキソチタン錯体溶液にすることができるので、溶液状態に比べ、その保管、移送に有利な形態である。
【0020】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はそれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
実施例1
0.3モル/リットルの濃度の四塩化チタン水溶液に、室温下で30%濃度の過酸化水素水をモル比でH/Ti=3となる量を添加し、次いでクエン酸(CA)をモル比でCA/Ti=1となる量添加し、その後溶液の温度が30℃を超えないよう氷冷下で攪拌しながら25%の濃度のアンモニア水を溶液のpHが7.0になるよう徐々に添加して、本発明のペルオキソチタン錯体溶液(試料a)を得た。最終的なアンモニアの添加量はチタンに対しモル量で約6倍であった。試料の作成に要した時間は約30分であった。試料aは黄色を呈した透明液であり、室温で1日放置した後も、溶液の性状に変化はなかった。次いで、試料aを80℃の温度で蒸発乾固して、本発明のペルオキソチタン錯体(試料A)を得た。試料Aは黄色粉末であり、このものを水に添加したところ、試料aと同じ黄色透明液が得られた。
【0022】
実施例2及び3
実施例1において、過酸化水素水の添加量をH/Tiで表わして、1、0.5とした以外は実施例1と同様に処理して、本発明のペルオキソチタン錯体溶液(試料b、c)を得た。最終的なアンモニアの添加量はチタンに対しモル量で約6倍であった。試料b、cは淡黄色を呈した透明液であり、室温で1日放置しても溶液の性状に変化はなかった。さらに、試料b、cを実施例1と同様に蒸発乾固して本発明のペルオキソチタン錯体(試料B、C)を得た。試料B、Cは淡黄色粉末であり、このものを水に添加したところ、試料b、cと同じ淡黄色透明液が得られた。
【0023】
実施例4
実施例2において、過酸化水素水の添加量をH/Tiで表わして、1とし、クエン酸の添加量をCA/Ti=1/3としたこと以外は実施例2と同等に処理して本発明の黄色透明なペルオキソチタン錯体溶液(試料d)及びペルオキソチタン錯体(試料D)黄色粉末を得た。最終的なアンモニアの添加量はチタンに対しモル量で約6倍であった。試料dは黄色を呈した透明液であり、室温で1日放置した後も、溶液の性状に変化はなかった。次いで、試料dを80℃の温度で蒸発乾固して、本発明のペルオキソチタン錯体(試料D)を得た。試料Dは黄色粉末であり、このものを水に添加したところ、試料dと同じ黄色透明液が得られた。
【0024】
比較例1
実施例2において、過酸化水素水の添加量をH/Tiで表わして、1とし、クエン酸を添加しなかったこと以外は実施例2と同様に処理したが、アンモニアの添加により沈澱が析出し、透明なペルオキソチタン錯体溶液は得られなかった。最終的なアンモニアの添加量はチタンに対しモル量で約4倍であった。この沈殿をろ過水洗したのち80℃の温度で乾燥したものは黄色粉末であるが、このものを水に添加したところ、溶解しなかった。
【0025】
実施例5及び6
実施例2において、過酸化水素水の添加量をH/Tiで表わして、1とし、アンモニアに代えてアルカリとしてモノエタノールアミン、炭酸カリウムを用いたこと以外は、実施例2と同様に処理して、本発明のペルオキソチタン錯体溶液(試料e、f)を得た。最終的な添加量はそれぞれチタンに対しモル量で約6倍、約3倍であった。試料e及びfは、各々赤色及び黄色透明溶液であり、室温で1日放置しても溶液の性状に変化はなかった。次いで、試料e,fを80℃の温度で蒸発乾固して、本発明のペルオキソチタン錯体(試料E,F)を得た。試料Eは赤褐色のペースト状であり、試料Fは黄色粉末であるが、このものを水に添加したところ、試料e,fと同じ色の透明液が得られた。
【0026】
実施例7〜10
実施例2において、過酸化水素水の添加量をH/Tiで表わして、1とし、クエン酸に代えて錯化剤としてリンゴ酸、グリコール酸、Dマンニトール及びエチレンジアミン四酢酸を用いたこと以外は実施例2と同様に処理して、本発明のペルオキソチタン錯体溶液(試料g〜j)を得た。最終的なアンモニアの添加量はチタンに対しモル量で約3倍から6倍であった。得られた試料g〜jは、何れも透明溶液であり、その色は試料g〜iが黄色、試料jは赤褐色であった。次いで、試料g〜jを80℃の温度で蒸発乾固して、本発明のペルオキソチタン錯体(試料G〜J)を得た。試料G及びHは黄色粉末であり、試料I及びJは褐色粉末であった。このものを水に添加したところ、それぞれもとの水溶液と同じ色の透明液が得られた。
【0027】
実施例11
実施例2において、過酸化水素水の添加量をH/Tiで表わして、3とし、クエン酸に代えて錯化剤としてアセチルアセトンを用いたこと以外は実施例2と同様に処理して、本発明のペルオキソチタン錯体溶液(試料k)を得た。最終的なアンモニアの添加量はチタンに対しモル量で約5倍であった。得られた試料kは、透明溶液であり、その色は赤褐色であった。次いで、試料kを80℃の温度で蒸発乾固して、本発明のペルオキソチタン錯体(試料K)を得た。試料Kは褐色粉末であった。このものを水に添加したところ、もとの水溶液と同じ色の透明液が得られた。
【0028】
実施例12〜15
pHを1、3、5、9に夫々調整すること以外は実施例1と同様にして、本発明のペルオキソチタン錯体溶液(試料l〜o)を得た。試料l〜oは赤褐色〜黄色を呈した透明液であり、室温で1日放置した後も、溶液の性状に変化はなかった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の製造方法で得られるペルオキソチタン錯体は、酸化チタン、チタンと他の金属との複合酸化物等の原料として有用なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
四塩化チタン溶液に過酸化水素、錯化剤及びアルカリを添加する工程を含み、脱イオン工程を有しないことを特徴とするペルオキソチタン錯体溶液の製造方法。
【請求項2】
過酸化水素の添加量が四塩化チタン1モルに対し少なくとも0.5モルであることを特徴とする請求項1に記載のペルオキソチタン錯体溶液の製造方法。
【請求項3】
錯化剤がカルボン酸類、アミノカルボン酸類、糖アルコール類及びケトン類から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載のペルオキソチタン錯体溶液の製造方法。
【請求項4】
アルカリがアンモニア、アミン類、及びアルカリ金属炭酸塩から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のペルオキソチタン錯体溶液の製造方法。
【請求項5】
請求項1の製造方法で得られたペルオキソチタン錯体溶液を乾燥することを特徴とするペルオキソチタン錯体の製造方法。

【公開番号】特開2009−120530(P2009−120530A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−295954(P2007−295954)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】