説明

ペンタエリスリトール−テトラキス(3−アルキルチオ−プロピオネート)の製造方法

【課題】ペンタエリスリトール−テトラキス(3−アルキルチオ−プロピオネート)の経済的な製造方法を提供する。
【解決手段】炭素数8〜30のアルキルメルカプタンとアクリル酸アルキルエステル(ただし、アルキルの炭素数1〜5とする。)を反応させて、3−アルキルチオ−プロピオン酸エステルを得る下記i)のマイケル付加工程と、次いで、前記工程で得られた生成物を、ペンタエリスリトール或いはその四酢酸エステルと、エステル交換させる下記ii)のエステル交換工程を少なくとも経る製造方法とする。


【効果】ii)工程でエステル交換させるので、不経済な加水分解工程を省略できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はペンタエリスリトール−テトラキス(3−アルキルチオ−プロピオネート)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペンタエリスリトール−テトラキス(3−アルキルチオ−プロピオネート)は、ポリオレフィン樹脂、ABS樹脂等のプラスチックの耐熱劣化性や銅害防止性を高める、酸化防止剤や改質剤として知られている。
【0003】
従来、その製造方法としては、α−オレフィンにβ−メルカプトプロピオン酸又はそのエステルを反応させてから得られる3−アルキルチオプロピオン酸にペンタエリスリトールを反応させる方法が知られていた(特許文献1)。しかし、この方法は、ノルマルアルキル体のみならずイソアルキル体も同時に生成し、そのイソ体を含む混合体は大幅な融点低下をもたらす。また、ノルマル体の分離はコストを大幅に増加させる。
【特許文献1】特開2004−090372号公報
【0004】
そこで、特許文献2では、アルキルメルカプタンとアクリル酸エステル又はアクリルアミドとを反応させて3−アルキルチオープロピオン酸エステル又は3−アルキルチオープロピオン酸アミドとし、次いでその生成物を加水分解して3−アルキルチオ−プロピオン酸とし、次いでこれにペンタエリスリトールを反応させてエステル交換する製造方法が提案されている。
【特許文献2】特公平07−008850号公報
【0005】
しかしながら、特許文献2記載の方法は、不純物の生成が少なく、高純度の目的物が収率良く得ることができる反面、3−アルキルチオープロピオン酸エステル又は3−アルキルチオープロピオン酸アミドを加水分解して3−アルキルチオ−プロピオン酸を得る下記〔化2〕に示した加水分解工程は、工程自体が10時間以上の長時間を必要とする工程であることに加え、加水分解が不十分で未反応物がわずかでも残留すると次のエステル化工程や晶析・ろ過工程において操作上の種々のトラブルの原因となることや、残留した触媒や界面活性剤の除去を十分に行う必要があるなどの手間がかかり、製造時のコストアップの要因となっている。加えて原料となるアクリルアミドなどが高価であり、またペンタエリスリトールとのエステル化工程においても、トリス体が完全に消失するまで反応させるのに長時間を要するものであった。
【化2】


ただし、〔化2〕中のRは、炭素数8〜30のアルキル基であり、Rは、‐COOCH、‐COOC、‐CONH、‐CNなどである。
【0006】
さらに特許文献3では、アクリル酸を用いる製造方法が紹介されており、アクリルアミドを使用した場合などと同等の収率や品質で目的物を得ることができるが、アクリル酸自体が高価であり、工業的な生産には向いていない。
【特許文献3】特開平3−148253
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、比較的安価なアクリル酸低級エステルを原料として、ペンタエリスリトールの四つのOH基のすべてをエステルとしたペンタエリスリトール−テトラキス(3−アルキルチオ−プロピオネートを高収率、高純度、かつ低コストで製造する方法を提供しようとするものである。特に特許文献2の製造方法において、コスト高の要因であった加水分解工程を省略できる製造方法を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の問題を鑑み、本発明のペンタエリスリトール−テトラキス(3−アルキルチオ−プロピオネート)の製造方法では、炭素数8〜30のアルキルメルカプタンとアクリル酸アルキルエステル(ただし、アルキルの炭素数1〜5とする。)を反応させて、3−アルキルチオ−プロピオン酸エステルを得る工程と
次いで、前記工程で得られた生成物を、ペンタエリスリトール或いはその四酢酸エステルであるペンタエリスリトールテトラアセテートとエステル交換させるエステル交換工程を少なくとも経て、
下記一般式〔化1〕で表わされるペンタエリスリトール−テトラキス(3−アルキルチオ−プロピオネート)を得ることを最も主要な解決手段とする。
【化1】


ただし、〔化1〕中、Rは炭素数8〜30のアルキル基である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のペンタエリスリトール−テトラキス(3−アルキルチオ−プロピオネート)の製造方法によれば、3−アルキルチオープロピオン酸エステルから、加水分解工程を経ることなくペンタエリスリトール−テトラキス(3−アルキルチオ−プロピオネート)を得ることができる。このため本発明の製造方法では、一つの反応器だけで全反応工程を実施することができ、また残留触媒や界面活性剤の完全除去に必要な作業も省略できるので、全体の反応時間を短縮することができ、経済的に優れた製造方法である。
また目的物であるペンタエリスリトール−テトラキス(3−アルキルチオ−プロピオネート)の結晶を単離した後の濾液からロスした目的物を回収することもでき、回収物を精製すれば、収率的にも従来法とくらべてもほとんど遜色がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明につき詳細に説明する。
本発明の下記一般式〔化1〕で表わされるペンタエリスリトール−テトラキス(3−アルキルチオ−プロピオネート)を得るペンタエリスリトール−テトラキス(3−アルキルチオ−プロピオネート)の製造方法では、i)マイケル付加工程とii)エステル交換工程を少なくとも経ることを特徴とするが、前記特許文献2の製造方法との比較においては、特にii)エステル交換工程に特徴がある。
【化1】


ただし、〔化1〕中、Rは炭素数8〜30のアルキル基である。
【0011】
i)マイケル付加工程
本工程では、下記〔化3〕の反応式で示したように、Rの炭素数8〜30のアルキルメルカプタンに、アクリル酸エステルをアルカリ触媒の存在下でマイケル付加させて、3−アルキルチオ−プロピオン酸エステルとする工程である。
【化3】


ただし、〔化3〕中のRは、炭素数1〜5のアルキル基である。
【0012】
原料化合物のアクリル酸エステルとしては、安価であるメチルエステル、エチルエステル等、アルキル(R)の炭素数1〜5である低級アルキルエステルが選択される。なかでも、原料の入手のしやすさや単価を考えるとメチルエステルが望ましい。
【0013】
前記マイケル付加反応は、無溶媒下でも反応が可能であるが、たとえばベンゼン、トルエン、キシレン等の活性の低い溶媒を反応溶媒として用いられる事が多い。
前記マイケル付加反応のアルカリ触媒としては、ナトリウムメチラート、苛性ソーダ、苛性カリ等が使用される。付加反応割合は、アクリルアミド又はアクリル酸エステルを、アルキルメルカプタンに対して当モル比よりもやや過剰に使用するのが望ましく、好ましい同反応モル比は1.005〜1.1である。反応溶媒は、前述のように必須ではないが、トルエンの場合についていえば原料アルキルメルカプタンに対してトルエンが重量比で2/1〜1/2の範囲が好ましい。
【0014】
前記マイケル付加反応の条件は、例えばアルキルメルカプタン、苛性ソーダ等のアルカリ触媒及びトルエンなどの反応溶媒を混合した混合溶液を所定の温度、好ましくは60〜95℃の温度に加熱し、攪拌しながら、これにアクリル酸エステルを滴下し、その滴下終了後さらに同温度で所定の時間反応させることで得ることができる。
【0015】
ii)エステル交換工程
本工程は、下記〔化4〕の反応式で示したように、ペンタエリスリトールを前記i)マイケル付加工程で得られた3−アルキルチオープロピオン酸エステルとペンタエリスリトールのエステル交換反応により、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−アルキルチオ−プロピオネート)とする工程である。
【化4】

【0016】
本工程のエステル交換反応は、上記のi)マイケル付加工程で得られたアルキルチオプロピオン酸エステルを単離することなく行うことができる。
またアルカリ触媒下において反応が進むので、煩雑な水洗工程を必要とせず、i)工程のマイケル付加反応で使用した触媒が残留した中で行うこともできるが、水酸化リチウムや酢酸マグネシウムを添加することがさらに望ましい。添加量としては、i)のアルキルチオプロピオン酸エステルに対して0.005〜0.050モル、望ましくは0.01〜0.02モルである。
また、アルキルチオプロピオン酸エステルに対するペンタエリスリトールの使用量としては、従来法と同様のモル比とすることが望ましい。
【0017】
本工程のエステル交換反応は可逆反応であり、生成する低級アルコールを系外に除去することが反応を進行させる上で重要である。そのために、この反応は、150℃から180℃の高温下で、減圧下で行われる。
反応の初期は、低級アルコールの留出が活発なため、130〜135℃/380mmHg〜400mmHg程度の条件で低級アルコールの流出量をコントロールしながら、最後は、175〜180℃/15mmHg〜20mmHg程度として、約8時間から16時間反応させるとエステル交換反応が完結する。
反応の初期においては、低級アルコールの留出をさらに能率よく行うために、トルエン、キシレン、N、N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の溶媒を使用することもできる。
【0018】
反応が終了した後、エタノール、もしくはイソプロピルアルコールで希釈し、不溶解分を除去してから、再結晶させることで目的物であるペンタエリスリトール−テトラキス(3−アルキルチオ−プロピオネート)を収率よく得ることができる。
【0019】
また、ii)エステル交換工程の前に、下記〔化5〕で示した反応式のように、ペンタエリスリトールをあらかじめアセチル化しておき、ペンタエリスリトールテトラアセテートを用いて前記ii)エステル交換工程を行うこともできる。
【化5】


ペンタエリスリトールをあらかじめアセチル化しておくと反応系内において無溶媒下でも溶解性が向上するため、反応物を冷やしたときに固化しにくい、ii)工程のエステル交換時の反応温度を低くすることができる等の長所がある。
【0020】
なお、ペンタエリスリトールテトラアセテートを原料として用いたii)エステル交換工程は下記〔化6〕に示したとおりである。反応条件などはペンタエリスリトールを用いた場合と同様の条件で行うことができる。
【化6】

【実施例】
【0021】
以下に実施例を挙げてさらに詳述するが、本発明の製造方法は下記実施例の様態に限られるものではない。
【0022】
(実施例1)
攪拌機と温度計、玉付きコンデンサーを取り付けた容量0.5Lの四つ口フラスコにドデシルメルカプタン101.2g、炭酸カリウム2.8g、水5mLの混合物を入れ、100℃で2時間加熱した後、20〜30mmHgの減圧にして水分を留去した。これにアクリル酸メチル50.2gを100〜110℃の範囲で2時間を要して滴下した。さらにこの温度を保ちながら6時間反応させ、薄層クロマトにより、未反応のドデシルメルカプタンが消失したことを確認した。
次いでペンタエリスリトール15.64gを加えてから下記A1→B1→C1→D1→E1の条件で加熱/減圧しながらエステル交換を行った。このとき、留出するメタノールは、反応系外に除去しながら行った。
A1.130〜135℃/380〜400mmHg 2時間
B1.150〜160℃/85〜90mmHg 4時間
C1.170〜175℃/15〜20mmHg 2時間
D1.175〜180℃/15〜20mmHg 2時間
E1.170〜180℃/0.5〜1.0mmHg 4時間
薄層クロマトにより未反応物が消失したことを確認してから100℃以下に冷却後、イソプロピルアルコール150mLを加え、濾過して不溶解分を取り除いた後、さらに冷却して析出した結晶を濾過し取った。
【0023】
上記工程を経て目的物であるペンタエリスリトールテトラキス−(3−ドデシルチオプロピオネート)である白色結晶を収量108.8g(収率81.5%:ペンタエリスリトールより)で得た。融点は、48.7〜51.5℃であった。
【0024】
(実施例2)
攪拌機と温度計、玉付きコンデンサーを取り付けた容量0.5Lの四つ口フラスコにドデシルメルカプタン101.2g、炭酸カリウム2.8g、水5mLの混合物を入れ、100℃で2時間加熱した後、20〜30mmHgの減圧にして水分を留去した。これにアクリル酸メチル50.2gを100〜110℃の範囲で2時間を要して滴下した。
さらにこの温度を保ちながら6時間反応させ、薄層クロマトにより、未反応のドデシルメルカプタンが消失したことを確認した。
次いでペンタエリスリトール16.14gと、水5mLに溶解させた1.0gの酢酸マグネシウム四水塩を加えてから下記A2→B2→C2→D2の条件で加熱/減圧しながらエステル交換を行った。このとき、留出するメタノールは、反応系外に除去しながら行った。
A2.130〜135℃/380〜400mmHg 8時間
B2.150〜160℃/85〜90mmHg 8時間
C2.175〜180℃/15〜20mmHg 8時間
D2.180〜181℃/15〜20mmHg 8時間
薄層クロマトにより未反応物が消失したことを確認してから100℃以下に冷却後、イソプロピルアルコール150mLを加え、濾過して不溶解分を取り除いた後、さらに冷却して析出した結晶を濾過し取った。
【0025】
上記工程を経て目的物であるペンタエリスリトールテトラキス−(3−ドデシルチオプロピオネート)である白色結晶を収量109.4g(収率81.9%:ペンタエリスリトールより)で得た。融点は、48.8〜49.6℃であった。
【0026】
次に、結晶を濾過した後の濾液を約1/5量まで濃縮した後、析出した結晶を5℃まで冷却してから濾過し取った。得られた結晶をイソプロピルアルコール20mLに溶解し、再晶析後、濾取し、7.5gのペンタエリスリトールテトラキス−(3−ドデシルチオプロピオネート)を得た。最初に得られた結晶と合わせた収率は、87.5%になった。
【0027】
(実施例3)
酢酸マグネシウム四水塩を1.5g(水7.5mLに溶解)とし、エステル交換時の反応条件を下記A3→B3→C3→D3の条件変更した以外は全て実施例2と同様の条件で反応を行った。
A3.130〜135℃/500〜550mmHg 8時間
B3.140〜150℃/70〜80mmHg 8時間
C3.170〜175℃/15〜20mmHg 8時間
D3.175」〜180℃/15〜20mmHg 8時間
【0028】
上記工程を経て目的物であるペンタエリスリトールテトラキス−(3−ドデシルチオプロピオネート)である白色結晶を収量107.9g(収率80.8%:ペンタエリスリトールより)で得た。融点は、48.5〜49.5℃であった。
【0029】
(実施例4)
酢酸マグネシウム四水塩を1.5g(水7.5mLに溶解)、ペンタエリスリトールを15.6gとしとし、エステル交換時の反応条件を下記A4→B4→C4→D4→E4の条件変更した以外は全て実施例2と同様の条件で反応を行った。また、各反応段階B4〜E4においてそれぞれトルエンを50mL加えて、全回収しながら反応を行った。
A4.132〜137℃/150〜180mmHg 8時間
B4.151〜155℃/70〜80mmHg 7時間
C4.165〜170℃/25〜30mmHg 8時間
D4.170〜175℃/20〜25mmHg 8時間
E4.174〜175℃/4〜5mmHg 8時間
【0030】
上記工程を経て目的物であるペンタエリスリトールテトラキス−(3−ドデシルチオプロピオネート)である白色結晶を収量107.5g(収率80.5%:ペンタエリスリトールより)で得た。融点は、46.8〜49.2℃であった。
【0031】
(実施例5)
ペンタエリスリトールを15.6gとしとし、エステル交換時の反応条件を下記A5→B5→C5→D5の条件変更した以外は全て実施例2と同様の条件で反応を行った。また、各反応段階B5〜D5においてそれぞれトルエンを50mL加えて、全回収しながら反応を行った。
A5.135〜138℃/300〜400mmHg 8時間
B5.150〜155℃/150〜250mmHg 7時間
C5.168〜172℃/20mmHg 8時間
D5.174〜175℃/15〜20mmHg 8時間
【0032】
上記工程を経て目的物であるペンタエリスリトールテトラキス−(3−ドデシルチオプロピオネート)である白色結晶を収量105.4g(収率79.0%:ペンタエリスリトールより)で得た。融点は、47.5〜49.5℃であった。
【0033】
(実施例6)
酢酸マグネシウム四水塩の替わりに水酸化リチウム1.0gを水5mLに溶解させて使用し、エステル交換時の反応条件を下記A6→B6→C6→D6の条件変更した以外は全て実施例5と同様の条件で反応を行った。トルエンは反応段階B6とC6において各50mL使用した。
A6.135℃/70〜100mmHg 7時間
B6.155〜160℃/25〜30mmHg 7時間
C6.170〜175℃/20〜25mmHg 8時間
【0034】
上記工程を経て目的物であるペンタエリスリトールテトラキス−(3−ドデシルチオプロピオネート)である白色結晶を収量92.0g(収率68.9%:ペンタエリスリトールより)で得た。融点は、45.4〜49.0℃であった。
【0035】
(実施例7)
攪拌機と温度計、玉付きコンデンサーを取り付けた容量1Lの四つ口フラスコにドデシルメルカプタン500g、粒状苛性ソーダ3.7gの混合物を入れ、これにアクリル酸メチル219.3gを60〜63℃に保ちながら、2時間を要して滴下した。滴下終了後、70〜80℃でさらに3時間反応させた。室温まで放冷した後、氷酢酸5mL加えて濾過した後、120℃/10mmHgに加熱減圧して酢酸を留去した。
【0036】
上記工程を経てやや黄味のある液体であるドデシルチオプロピオン酸メチルを得た。収量は685gであった。生成物をGLC分析で純度を測定したところ、純度は97.8%であったので、この結果から純分に換算した収量は669.9g、収率は97.8%であった。また、酸価は1.77、エステル化は190.47、ケン化価は192.24であった。
【0037】
攪拌機と温度計、玉付きコンデンサーを取り付けた容量1Lの四つ口フラスコに得られたドデシルチオプロピオン酸メチル250gとペンタエリスリトール27.8g、DMSO(ジメチルスルホキシド)10g、水素化リチウム0.4gを加えて、室温から100℃まで昇温させ、100℃/20mmHgで2時間、更に120〜130℃/20mmHgで23時間反応させた。
薄層クロマトにて未反応物が消失したことを確認した後、イソプロピルアルコール500mL加えて加熱溶解させた。
この溶液にシュウ酸1.6gを加えて60℃まで加熱し、濾過してから冷却して析出した結晶を8℃で濾過し取った。
【0038】
上記工程を経て目的物であるペンタエリスリトールテトラキス−(3−ドデシルチオプロピオネート)である白色結晶を収量178.5g(収率77.3%:ペンタエリスリトールより)で得た。融点は、48.0〜50.0℃であった。
【0039】
(実施例8)
〔1〕ペンタエリスリトールテトラアセテートの合成〕
攪拌機と温度計、玉付きコンデンサーを取り付けた容量1Ltの四つ口フラスコにペンタエリスリトール68.1g、氷酢酸240.2g、パラトルエンスルホン酸9.6gを加え、114℃に加熱して1時間反応させた。トルエン100mLを加えてさらに96〜115℃で還流下において5時間反応させた。
カセイソーダで中和後、100mLの水で3回洗浄し、メタノール200mLを加えて30℃で1時間撹拌し、5℃まで冷却して析出した結晶を濾過紙取った。
メタノールで洗浄してから60℃の乾燥機内で乾燥させた。
【0040】
上記工程を経てペンタエリスリトールテトラアセテートである結晶を収量111.5g(収率73.3%)で得た。融点は80.7〜81.5℃であった。
〔2〕エステル交換反応
攪拌機と温度計、玉付きコンデンサーを取り付けた容量0.5Lの四つ口フラスコに前記〔1〕の工程で得られたペンタエリスリトールテトラアセテート18.2gに、ドデシルチオプロピオン酸86.5g、水素化リチウム0.5gを加えて撹拌下、102℃に加熱し、徐々に温度を上げて180℃まで加熱した。反応時間は合計で10時間行った。
反応後、イソプロピルアルコールを加えて濾過し、冷却して析出した結晶を濾過し取り、乾燥機で乾燥した。
【0041】
上記工程を経て目的物であるペンタエリスリトールテトラキス−(3−ドデシルチオプロピオネート)である白色結晶を収率71.7%で得た。融点は、48.2〜48.9℃であった。
【0042】
(比較例1)
攪拌機と温度計、玉付きコンデンサーを取り付けた容量1Lの四つ口フラスコにドデシルメルカプタン101.2g、50%苛性ソーダ46.2g、イソプロピルアルコール100mLの混合物を入れ、これにアクリルアミド37.8gを室温に保ちながら、0.5時間を要して滴下した。滴下終了後、内温は39℃に達していた。
次いで、イソプロピルアルコール100mLを追加して0.5時間撹拌し、水を加えて80℃でさらに2時間反応させた。室温まで放冷した後、50%硫酸58.3g加えて、50℃に加熱し、水相を分離し、さらに、硫酸ナトリウム5gと、水100mLを加えて洗浄した。さらに水100mLで、2回水洗を行った。粗オイル中に含まれる溶媒を回収し、析出した結晶を濾過し取った。
【0043】
上記工程を経てアルキルチオプロピオン酸を得た。収量は134.7gであった。生成物をGLC分析で純度を測定したところ、純度は97.1%であったので、この結果から純分に換算した収量は130.8g、収率は95.3%であった。
【0044】
次に、上記工程で得られたアルキルチオプロピオン酸113.5gに、ペンタエリスリトール13.5g、パラトルエンスルホン酸1.0gを1Lの四つ口フラスコにトルエン80mLとともに加え、110〜120℃の温度下で24時間還流脱水させた。その間、約6.6mLの水が留出した。
トルエンを減圧下で留去し、イソプロピルアルコール200mLを加えて結晶を析出させ、その後、15℃まで冷却して結晶をブフナーロートに濾過し取った。
【0045】
上記工程を経て目的物であるペンタエリスリトールテトラキス−(3−ドデシルチオプロピオネート)である白色結晶を収量96.0g(収率89.3%:ペンタエリスリトールより)で得た。融点は、48.0〜50.0℃であった。
【0046】
上記比較例1との比較より、本発明の工程として採用するエステル交換工程を含む製造を行えば、一つの反応器だけで全反応工程を実施することができるだけでなく、従来法のようにプロピオン酸誘導体を得るための加水分解工程を省略することができるという大きなメリットがあることがわかる。収量としては従来法に比べて若干の低下が認められるが、反応自体に関しては、従来法と遜色がなく、この要因としては目的物の結晶を濾取した後の濾液中へのロスが従来法に比べて大きいためである。
ただし、上記実施例2で示したように結晶を単離した後の濾液からロスした目的物を回収することができ、この回収物を精製すれば、純度の高い目的物が得られるので、トータルで考えると、収量の面でも比較例1の方法と遜色ないレベルにあるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のペンタエリスリトール−テトラキス(3−アルキルチオ−プロピオネート)の製造方法は、ポリオレフィン樹脂、ABS樹脂等のプラスチックの耐熱劣化性や銅害防止性を高める、酸化防止剤や改質剤として高い利用価値を有するペンタエリスリトールテトラキス−(3−ドデシルチオプロピオネート)などの安価な製造方法として、産業上の利用価値が高い方法である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数8〜30のアルキルメルカプタンとアクリル酸アルキルエステル(ただし、アルキルの炭素数1〜5とする。)を反応させて、3−アルキルチオ−プロピオン酸エステルを得る工程と
次いで、前記工程で得られた生成物をペンタエリスリトールとエステル交換させるエステル交換工程を少なくとも経て、
下記一般式〔化1〕で表わされるペンタエリスリトール−テトラキス(3−アルキルチオ−プロピオネート)を得ることを特徴とするペンタエリスリトール−テトラキス(3−アルキルチオ−プロピオネート)の製造方法。
【化1】


(ただし、〔化1〕中、Rは炭素数8〜30のアルキル基である。)
【請求項2】
請求項1記載のエステル交換工程を、酢酸マグネシウム触媒下、170〜180℃、15〜20mmHgの減圧下において行う請求項1記載のペンタエリスリトール−テトラキス(3−アルキルチオ−プロピオネート)の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載のエステル交換工程を、ジメチルスルホキシドを溶媒として、90〜130℃、5〜40mmHgの減圧下において行う請求項1記載のペンタエリスリトール−テトラキス(3−アルキルチオ−プロピオネート)の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載のエステル交換工程を、N、N-ジメチルホルムアミドまたはジメチルアセトアミドを溶媒として、90〜130℃、5〜40mmHgの減圧下において行う請求項1記載のペンタエリスリトール−テトラキス(3−アルキルチオ−プロピオネート)の製造方法。
【請求項5】
炭素数8〜30のアルキルメルカプタンとアクリル酸アルキルエステル(ただし、アルキルの炭素数1〜5とする。)を反応させて、3−アルキルチオ−プロピオン酸エステルを得る工程と
次いで、前記工程で得られた生成物をペンタエリスリトールテトラアセテートとエステル交換させるエステル交換工程を少なくとも経て、
下記一般式〔化1〕で表わされるペンタエリスリトール−テトラキス(3−アルキルチオ−プロピオネート)を得ることを特徴とするペンタエリスリトール−テトラキス(3−アルキルチオ−プロピオネート)の製造方法。
【化1】


(ただし、〔化1〕中、Rは炭素数8〜30のアルキル基である。)

【公開番号】特開2008−174506(P2008−174506A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−10745(P2007−10745)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【出願人】(301000675)シプロ化成株式会社 (33)
【Fターム(参考)】