説明

ペースト中の水分定量のための前処理方法および水分の定量方法

【課題】 ペースト中の水分を簡便、かつ正確に定量する方法の提供を課題とする。
【解決手段】 電気炉中に設けられた石英管の中で、不活性ガス気流中でペーストを、ペーストを構成する樹脂成分の沸点近傍で加熱してペースト中の樹脂成分と水とを揮発させ、不活性ガスに随伴させて石英管より払い出し、払い出された樹脂成分と水とをフラスコ内に捕集しつつ、100℃以上で樹脂成分の沸点以下の温度で、フラスコ内で樹脂成分を還流させて水を不活性ガスに随伴させてフラスコ外に払い出し、払い出された水を脱水溶媒に吸収させ、得られた脱水溶媒中の水分を、カールフィッシャー試薬滴定溶液を用いて滴定し、得られた値よりペースト中の水分量を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペースト中に含有されている水分を定量する方法に関する。具体的には、水分を定量するための前処理方法とそれを用いたペースト中の水分の定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品を作成する材料の一つに導電性ペーストや絶縁性ペーストがある。これらのペーストは導電性の粉末や絶縁性の粉末と有機ビヒクルと呼ばれる樹脂成分とを混練して得られている。これらのペーストは、使用されるに際して必要箇所に塗布され、乾燥され、加熱されて樹脂成分を除去(脱媒)されることにより使用される。
【0003】
ペースト中に水分が含まれていると、前記乾燥時や脱媒時に膨れが発生したり剥離が発生したり、導電性粉末として用いられる金属粉の表面を酸化してしまう等といった支障が起きる。このため、ペースト中の水分量を管理することは重要な問題である。
【0004】
ペースト中に含有されている水分は、通常、樹脂成分中に含有されている水分が殆どであるとされている。樹脂成分中の水分を定量するには、まず水分を含まない溶剤、所謂脱水溶剤にペーストを加え、樹脂成分を溶解し、得られた溶液中の水分をガスクロマトグラフィーで定量する方法が
【非特許文献1】、
【非特許文献2】、
【非特許文献3】に記載されている。
【0005】
具体的には、水を含まないメタノールとペーストとを混合し、ペーストの有機溶剤成分を前記メタノールに溶解し、得られたメタノール溶液の一定量をガスクロマトグラフィーの装置内に注入し、加熱気化させたガスをカラムに吸着させ、その後カラムを加熱して水と有機成分、無機成分とに分離してTCD(熱伝導度型検出器)により水分量を測定する。この方法の特徴は、有機成分及び無機成分の影響を受けずに水分を定量することが出来る点にある。
【0006】
しかし、ガスクロマトグラフィー法では分離に用いるカラムに充填された吸収剤と水との親和性が強く、水の定量のためにカラムを加熱しても水が徐々に揮発してくるので、水の検出ピークがブロードとなり、水分が少ない試料の場合には、水分の測定精度は悪くなる。従って、ガスクロマトグラフィー法での水分の定量下限は約1%とされている。
【0007】
また、有機溶剤成分中の水分を定量する方法として、水分と当量反応するカールフィッシャー試薬滴定溶液を用いたカールフィッシャー法が一般に用いられている。この方法は、有機溶剤試料を直接脱水溶剤(カールフィッシャー試薬の水分吸収剤)に一定量溶かした後、滴定溶液(カールフィッシャー試薬滴定溶液)を用いて滴定し水分を定量する方法である(非特許文献4)(非特許文献5)。しかし、この方法をペースト中の水分の定量に適用しようとすると、ペースト中の無機成分と滴定溶液とが反応して正確な値が得られない。
【0008】
また、非特許文献6には、加熱気化装置(電気炉)を用いて試料が含有する水分を揮発させ、揮発した水分を脱水溶剤に吸収させカールフィッシャー法で定量する鉱石等の水分の定量方法が記載されている。この方法をペーストに適用しようとすると、ペーストを空焼きした磁性ボート内に秤量し、採取し、これを電気炉の石英管の中に入れて不活性ガス気流中でペースに使用されている樹脂成分の沸点で加熱し、樹脂成分と水分とを揮発させ、水分を脱水溶剤に吸収させ、脱水溶剤中に取り込まれた水分を前記カールフィッシャー試薬滴定溶液で滴定し定量することになる。
【0009】
しかしながら、加熱によってペースト中に約50%含有されている樹脂成分が一度に揮発し、揮発してきた樹脂成分が配管等で冷却されて液状になり配管の詰まりを引き起こし、揮発した水分を完全に脱水溶剤に吸収させることができず、正確な水分量を定量することが出来ないという問題が発生する。加えて、一度に樹脂成分が揮発したときにペースト中の粒径数μmという微細な無機成分粒子が樹脂成分や水蒸気に随伴されてくるため、正確な水分量を定量することが出来ない。
【非特許文献1】日本分析化学会有機微量分析研究懇談会編 有機微量定量分析
【非特許文献2】ぶんせき、1979,215
【非特許文献3】日本分析化学会編 分析化学便覧
【非特許文献4】JIS K 0113-1997
【非特許文献5】JIS K 0068-2001
【非特許文献6】JIS M 8211-1995
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであり、ペースト中の水分を正確に定量するための前処理方法と、それを用いたペースト中の水分定量方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ペーストに用いられる樹脂成分としては、沸点が200℃以下の有機溶剤が主であり、水の沸点との差が小さいことから、通常の加熱分離方法によっては水のみを効果的に分離できないものの、ペーストを加熱して発生させた樹脂成分と水とを一端容器に受け、その容器にて樹脂成分のみを還流させつつ窒素ガスで水を系外に払い出せば、水分を効果的に分離できることを見いだし本発明に至った。
【0012】
即ち、前記課題を解決する本第1の発明は、
1)不活性ガス気流中でペーストを加熱してペースト中の樹脂成分と水分とを揮発させ 、不活性ガスに随伴させて払い出す加熱分離工程。
2)払い出された樹脂成分と水分とを捕集しつつ、樹脂成分を還流させて水分を不活性 ガスに随伴させて系外に払い出す還流工程
を主要工程とするペースト中の水分定量のための前処理方法である。
【0013】
そして、本第2の発明は、前記発明に加えて、還流工程の還流温度を100℃以上で樹脂成分の沸点以下とするものである。
【0014】
そして、本第3の発明は、前記発明に加えて、加熱分離工程での温度を、試料を構成する樹脂成分の沸点とするものである。
【0015】
そして、本第4の発明は、前記発明1又は2により得られた水分を脱水溶媒に吸収させ、得られた脱水溶媒中の水分を、カールフィッシャー試薬滴定溶液を用いて滴定し、得られた値よりペースト中の水分量を求めるペースト中の水分の定量方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ペースト中の水分を定量する際に、加熱分離工程と還流工程とを組み合わせてペースト中の水を捕集するため、水と他成分とを効果的に分離できる。従って、水の量の測定方法として簡便なカールフィッシャー法が適用でき、ペースト中の水分を正確に且つ簡便に定量することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に使用する装置例を図1に示した。
図1において、1は、その中央部に石英管が貫通して配設されている電気炉であり、2はその一端が封止3され、かつ不活性ガスを導入するためのガス導入管4が設けられ、他端が象の鼻形状に垂下させられた排出端5が設けられている石英管である。そして、6は試料を積載して石英管2内で、前記電気炉の加熱部の中央に設置するためのボートである。そして、1〜6により本発明の加熱分離工程の装置が構成される。
そして、7は丸底フラスコであり、8はマントルヒータである。丸底フラスコ7の頂部にはゴム栓9が設けられており、ゴム栓9には2本のL字管10、11が設けられている。L字管10と前記排出端5とがゴム管12で連結されている。そして、L字管11は水分計13と連結されている。そして、7〜11により還流工程の装置が構成される。
【0018】
図1の前処理装置を用いるには、まず、ペーストの樹脂成分と反応しない、例えば石英製あるいは黒鉛製等のボート6に所望量のペーストを搭載し、電気炉1内に貫通するように配設された石英管2内で電気炉1の加熱部の中央に位置するように配置する。
次に、マントルヒータ8のスイッチを入れ、丸底フラスコの底面の温度を、ペーストを構成する樹脂成分の沸点まで加熱する。
次に、ガス導入管4より窒素ガスを所定流量で石英管1内に導入しつつボート6内のペーストを前記樹脂成分の沸点まで加熱する。加熱により発生した樹脂成分蒸気と水蒸気とは、窒素ガスに随伴される形で石英管2より丸底フラスコ7に流入してくる。この時、樹脂成分蒸気と水蒸気とが排出端5で凝縮し、液体となる。樹脂成分の発生量が多いと排出端5の先端で樹脂成分と水分とが滞留し、ひどい場合には排出端5が閉塞する。従って、ガス導入管より石英管2内に導入する窒素ガスの量は、排出端5での樹脂の固化による閉塞が起きず、かつ丸底フラスコ7内を樹脂成分が吹き抜けない量とする。具体的な量は、ペーストの組成、ボートへの搭載量、各所の温度等により異なるため、予めテストして求めておくことが望ましい。なお、図1において排出端5の形状を「象の鼻形状に垂下させられた」形状としているのは、凝縮した樹脂成分と水とがスムースに丸形フラスコ7に流入するようにするためである。
【0019】
丸底フラスコ7内では、樹脂成分と水分とが再度加熱され、樹脂成分が還流状態となり、水が窒素と共にカールフィッシャー水分計に設けられた脱水溶剤に吹き込まれ、水か脱水溶剤に吸収させられる。なお、加熱分離工程から樹脂成分蒸気と水蒸気とに随伴して還流工程に流入した無機成分微粒子は、還流工程で丸底フラスコ7内に留められる。
【0020】
脱水溶剤中に貯められた水分は、カールフィッシャー水分計により測定され、演算してペーストの水分率が求められる。
水分計としては、精度、簡便さ等から上記本例のようにカールフィッシャー水分計を用いることが好ましい。
【0021】
ところで、通常、石英管内で樹脂成分から分離された水分が、樹脂成分に付着することはあっても、再度樹脂成分に吸収されることはほとんどない。従って、丸底フラスコの底部の温度は100℃以上とすればよい。仮に、再吸収されたとしても、丸底フラスコの底部の温度を樹脂成分の沸点と同程度とすれば、樹脂成分が丸底フラスコ内で再揮発し、樹脂成分はフラスコ上部の加熱されていない部分で空冷され丸底フラスコ底部に還流し、水分のみが窒素ガスと共に丸底フラスコ外に払い出される。
【0022】
本例では、丸底フラスコを使用しているが、樹脂成分の還流と水分の払い出しを可能とさせるものであれば、特に拘らない。例えば、三角フラスコでも良く、ナス型フラスコでも良く、コップ状容器でも良い。
【0023】
ところで、前記したように、ペーストに用いられる樹脂成分は、沸点が200℃以下の有機溶剤が主として用いられ、通常の加熱分離方法によれば、水分のみを効果的に分離できない。しかし、上記本発明の方法によれば、ペースト中の水分と樹脂成分と無機成分とを確実に分離することが出来る。その結果、ペースト中に含有されている0.1%以上の水分量を求めることが出来る。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
(実施例1)
ニッケルペーストを磁製ボートに秤量し、電気炉中の石英管内、窒素気流中で加熱した時に樹脂成分と共に飛散してくるニッケルの量を求めた。
ニッケルペーストを磁製ボートに2g秤取り、電気炉で200℃に加熱した石英管の中に挿入し有機溶剤を揮発させた。キャリアーガスとして窒素ガスを用い、窒素ガスは100ml/分で石英管内に15分間流入させ、石英管の出口で冷やされて液状になって垂れてくる樹脂成分をビーカーに捕集した。
次にビーカーをボットプレート上で加熱してビーカー内の樹脂成分を蒸発乾固し、得られた残渣に水を10ml、36%塩酸を5ml、60%硝酸を5ml加え、加熱して残渣を溶解した。得られた溶液中のニッケル量をICP発光分光分析装置で求めた。これを3回繰り返した。その結果を表1に示した。
【0025】
【表1】


表1の結果から、電気炉での加熱により飛散してくるニッケル量は5〜10mgであることが分かった。なお、石英管からの流出物を直接脱水溶剤に吸収させると飛散してきたニッケルは全て脱水溶剤に含まれることになる。
【0026】
( 実施例2)
市販のニッケルペーストを磁性ボートに2g秤取り、電気炉で200℃に加熱した石英管の中に挿入した。キャリアーガスとして窒素ガスを用い、これを100ml/分の割合で15分間石英管に流入させた。そして、石英管の出口で冷やされて液状になって垂れてくる樹脂成分と水とを三角フラスコに捕集した。
このフラスコに2本のL字管を挿したゴム栓をし、ボットプレート上で200℃に加熱しつつ、一方のL字管から窒素ガスを100ml/分の割合で三角フラスコ内に15分間流入させ、他方のL字管から出てくる気体を、ビーカーの純水中に吹き込んだ。
次に、ビーカーをホットプレート上で加熱してビーカー内の内容物を蒸発乾固した。次にビーカーに、純水を10ml、36%塩酸を5ml、60%硝酸を5ml加え加熱してビーカー内の残渣を溶解し、得た溶液中のニッケル量をICP発光分光分析装置で求めた。
上記一連の操作を3回繰り返した。その結果を表2に示した。
【0027】
【表2】


表2の結果からわかるように、ペーストを窒素気流中で加熱して得られた流出物を再度揮発させて得た流出物中のニッケル量は0mgである。従って、本例のように、ペーストを窒素気流中で加熱して樹脂成分と水とを揮発させ、これを凝縮させてフラスコに捕集し、得られた捕集物を再度加熱して流出物を得れば、この流出物中にはニッケルはなく、水分および樹脂成分とニッケルとを完全に分離出来ることが分かる。
【0028】
(実施例3)
図1に示した装置を用いて三種類のニッケルペースト中の水分を定量した。なお、水分計としてはカールフィッシャー水分計を用いた。
磁性ボートに試料2gを秤取り、石英管内の加熱部中央に挿入し、窒素気流中で15分間200℃に加熱し、得られた水と樹脂成分との混合流出物を200℃に加熱した丸底フラスコに受け、丸底フラスコ内で樹脂成分を還流させつつ、水を窒素ガスと共に丸底フラスコから脱水溶剤(三菱化成社製)中に吹き込み、水を脱水溶剤に吸収させ、カールフィッシャー水分計(京都電子工業社製MKS−500)でカールフィッシャー試薬(林純薬工業社製ハイドナール コンポジット5 この試薬1mlは水分5mgと反応する)で滴定し水分量を求めた。
今回定量した試料の樹脂成分を構成する有機溶剤の沸点は約200℃であるため電気炉及び丸形フラスコ加熱用のマントルヒータの温度は200℃に設定し、窒素ガス流量は100ml/分とした。
カールフィッシャー試薬の係数(水分mg/カールフィッシャー試薬1ml)は、脱水溶剤に水分(10mg及び20mg)を正確に加え、カールフィッシャー試薬で滴定し、滴定量で除した値からカールフィッシャー試薬1mlあたりの水分量を算出して求め、その係数に試料の滴定量から空試験の滴定量をひいた滴定量を乗算した値を水分量とした。そして、得られた水分量を試料採取量で除して含有量を算出した。その時の2個平行分析を行った結果を表3に示した。空試験については、空の磁性ボートを同様に始めと最後に行った。その時の水分量は、1.4及び1.7mgであった。
【0029】
【表3】

表3の結果から、平行分析値の誤差が相対値で10%以下であり、含有量1%以下の水分を精度良く定量できたことがわかる。又、始めの空試験の水分量と最後の空試験の水分量がほぼ同じであることから、丸底フラスコ内に捕集されている有機溶剤成分及び配管経路への水分の吸着は少ないことがわかった。
【0030】
(実施例4)
市販の3種類の銅ペース中を用いてその水分量を実施例3と同様の方法で定量した。2個平行分析を行った結果を表4に示した。ニッケルペーストと同様の結果が得られた。なお、空試験については、1.3及び1.5mgであった。
【0031】
【表4】

【0032】
(実施例5)
市販の2種類の銀ペーストを用いてその水分量を実施例3と同様の方法で定量した。2個平行分析を行った結果を表5に示した。ニッケルペーストと同様の結果得られた。なお、空試験については、1.0及び1.1mgであった。
【0033】
【表5】

【0034】
( 実施例6)
水分をボート内に添加して試験をするために磁製ボートの代わりに水分を吸収しないニッケルボートを使用した。ニッケル、銅及び銀の3種類のペースト2gをニッケルボートに2個秤量し、ひとつは実施例3と同様の方法で水分量を測定し、もうひとつは石英管内に入れる直前にボート内に水10mgをピペットで添加し、以後実施例3と同様の方法で水分量を測定した。それぞれの水分量及び添加水分の回収率の結果を表6に示した。空試験については、それぞれの試料間で行ったが1.2、1.3、1.4及び1.3mgであった。
【0035】
【表6】

表6の結果から、全ての試料で添加水分の回収率は98%以上となっていることがわかる。又、始めの空試験の水分量と各試料定量後に続けて行っている空試験値の水分量がほぼ同じであることから、捕集フラスコ内に捕集されている有機溶剤成分及び配管経路への水分の吸着も少ないことも分かった。
【0036】
(実施例7)
実施例5に用いた試料を用いたこと、電気炉とマントルヒータとの加熱温度を100℃とした以外は実施例3と同様にして水分率を求めた。3個平行分析を行った結果を表6に示す。空試験については、始め、中間、最後の三箇所で行い、1.1、1.3及び1.5mgであった。
【0037】
【表7】

表7より加熱温度を100℃とした場合には、加熱温度が200℃の時より低い含有量になり、平行分析値の誤差も大きいことがわかる。このことは、加熱温度が100℃では水分が完全に揮発してこないことが原因となっているものと思われる。
空試験値は後に測定するほど高くなった。これは一部揮発してきた有機溶剤成分中の水分が100℃のフラスコの再加熱においても完全に揮発せず、そのため、試料測定間に行う空試験時に徐々に揮発してくるためと思われる。
加熱後のボート内の状態は、200℃で加熱した場合は有機溶剤成分の殆どが揮発し、銀がボートの底に焼成され薄く付いた状態であるが、100℃では有機溶剤成分がボートの中に残り殆ど揮発していない状態であった。
以上の結果から、電気炉及び有機溶剤捕集フラスコのヒーターの加熱温度は、ペースト中の有機溶剤成分の沸点で加熱する必要がある。
【0038】
(実施例8)
ニッケルペーストA、B及びCの水分について、ガスクロマトグラフィー法で水分量を定量した。それぞれのペーストで使用されている有機溶剤の沸点は約200℃である。
10ml全量フラスコに各試料0.5gを秤取り、無水エチルアルコールで一定量に希釈した後ガスクロマトグラフィー法で測定した。これを3回行った。
今回、試料採取量を0.5gとした理由は、ペースト中の有機溶剤の影響を考慮したものである。装置は島津製作所製GC−144を用いた。希釈した試料溶液を200℃で加熱されているの注入口へ注入し、キャリアーガスとしてヘリウムガスを40ml/分で流し、揮発したガスをジーエルサイエンス製Porapack Qのカラム(2m×3mm)に導入した。カラムの加熱温度は120℃から200℃まで10℃/分の割合で昇温し、検出器は熱伝導度型検出器(TCD)で水分を定量した。水分量はピーク面積に比例するため、希釈溶剤である無水エチルアルコールに純水(水分)を既知量添加して測定し、そのピーク面積を測定した。既知量の水分をピーク面積で割った値に試料のピーク面積を乗し、更に試料の希釈倍率を乗して水分量とした。その水分量(g)を試料採取量0.1gで割り100を乗して水分の含有量を求めた。その時の結果を表8に示した。
【0039】
【表8】

表8の結果から、ペーストAの水分の含有率平均値は1.4%で、ペーストBの水分の含有率平均値は0.8%で、ペーストCの水分の含有率平均値は9.8%となった。
平均値が1%以下であるペーストBの値の最小値と最大値の差が0.7%と大きく、定量値に信頼性が無いことから、ガスクロマトグラフィー法では水分含有量1%未満の試料には適用できないことがわかった。
【0040】
(実施例9)
3種類の銅ペースト中の水分量を実施例8と同様の方法で定量した。試料採取量は1gとした。結果を表9に示す。
【0041】
【表9】

この結果から、ニッケルペーストと同様の結果が得られ、ガスクロマトグラフィー法では水分含有量1%未満のペーストには適用できないことがわかった。
【0042】
(実施例10)
脱水溶剤に直接ペーストを入れて溶解し、カールフィッシャー滴定溶液で滴定して水分を定量した。
20ml全量フラスコに実施例2で用いたペーストAを2g秤取り、カールフィッシャー脱水溶剤(三菱化成社製)で一定量に希釈する。その溶液5mlをカールフィッシャー水分計(京都電子工業社製MKS−500)でカールフィッシャー試薬(林純薬工業社製)を用いて滴定し水分を定量した。
結果は、滴定が終了せず、定量値は求められなかった。これは、ペースト中のニッケルとカールフィッシャー滴定試薬中のヨウ素が反応したためである。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に従えば、簡便かつ正確にペースト中の水分を定量でき、その結果をペーストの製造工程管理に利用することができる。また、ペーストの使用に際して当該ペーストの適否の判定も簡単にできる。従って、本発明は産業上有効である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施例で用いた装置の概要図である。
【符号の説明】
【0045】
1――――電気炉
2――――石英管
3――――封止
4――――ガス導入管
5――――排出端
6――――ボート
7――――丸底フラスコ
8――――マントルヒータ
9――――ゴム栓
10,11――L字管
12――――ゴム管
13――――水分計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記2工程を主要工程とすることを特徴とするペースト中の水分定量のための前処理方法。
1)不活性ガス気流中でペーストを加熱してペースト中の樹脂成分と水分とを揮発させ 、不活性ガスに随伴させて払い出す加熱分離工程。
2)払い出された樹脂成分と水分とを捕集しつつ、樹脂成分を還流させて水分を不活性 ガスに随伴させて系外に払い出す還流工程
【請求項2】
前記還流工程の還流温度を100℃以上で樹脂成分の沸点以下とする請求項1記載の前処理方法も。
【請求項3】
前記加熱分離工程での温度を、試料を構成する樹脂成分の沸点とする請求項1又は2記載の前処理方法。
【請求項4】
請求項1乃至3記載の何れかの前処理方法で得られた水を脱水溶媒に吸収させ、脱水溶媒中の水を、カールフィッシャー試薬滴定溶液を用いて滴定し、得られた値よりペースト中の水分量を求めることを特徴とするペースト中の水分の定量方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−197044(P2008−197044A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34617(P2007−34617)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】