説明

ペースト攪拌装置およびペーストの製造方法

【課題】円筒形容器内壁に付着したペーストの境膜を掻き取り、伝熱効率を向上させ、温 度バラツキを低減させることにより、実質的にペーストの攪拌効率化、品質安定化に有効なペースト攪拌装置およびペーストの製造方法を提供する。
【解決手段】(A)冷熱媒を循環することにより温度制御を行うことが可能なジャケットを具備した容器と、
(B)遊星運動可能な2本の撹拌翼と、
(C)円筒形容器内壁近傍を回転するスクレーパーと
を具備したことを特徴するペースト撹拌装置、およびそれを用いたペーストの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック基板配線、電子部品コート、印刷インキ、プラズマディスプレイ等の塗液分野に用いられるペースト攪拌装置およびペーストの製造方法に関するものであり、更に詳しくは、そのようなペーストの攪拌効率化、品質安定化に有効なペースト攪拌装置およびそれを用いたペーストの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2本の攪拌翼を備え、該攪拌翼を円筒形容器内にて遊星運動させ、処理材料を攪拌、混合作用を行う装置として遊星式混合機があり、特に粉粒体と液体との混合物からなる粘度の高いペースト材料の攪拌、混合等に優れている(例えば、特許文献1、2)。
【特許文献1】特開平9−267032号公報
【特許文献2】特開平11−207165号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、例えば、容器内壁に付着しているペースト境膜は、攪拌翼による攪拌、混合処理だけでは攪拌翼と容器内にデッドスペースが存在することから、十分に更新することが困難である。ペースト組成物が反応性ペーストである場合は、冷媒を導入することにより、ペースト温度が一定温度より高くなることで反応が進行しペースト品質が低下するのを防ぐことがある。あるいは、ペーストが高粘度のため攪拌力が低下するような場合は、熱媒を導入することにより、ペースト粘度を低下させ、攪拌を容易にするようなこともある。このような、昇温したり冷却したりしながら攪拌、混合処理を行うような工程があった場合、境膜の影響から伝熱効率も低下し、攪拌時間の延長につながるだけでなく、さらには容器内の温度バラツキ(温度差)も発生してしまう。特にペースト組成物が反応性ペーストである場合、品質的にもムラを生じさせてしまう問題点がある。
【0004】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたもので、円筒形容器内壁に付着したペーストの境膜を掻き取り、伝熱効率を向上させ、温度バラツキを低減させることにより、実質的にペーストの攪拌効率化、品質安定化に有効なペースト攪拌装置、およびそれを用いたペーストの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明に係るペースト攪拌装置は、(A)冷熱媒を循環することにより温度制御を行うことが可能なジャケットを具備した容器と、
(B)遊星運動可能な2本の撹拌翼と、
(C)円筒形容器内壁近傍を回転するスクレーパーと
を具備したことを特徴するものからなる。
【0006】
このペースト攪拌装置においては、上記2本の撹拌翼の公転軸にスクレーパー固定アームが接続され、該スクレーパー固定アームと前記スクレーパーが回転軸を介して接続されていることが好ましい。
【0007】
また、上記スクレーパーはペースト液面上限より上の位置で容器内壁と接触し、ペースト液面上限以下では容器内壁と非接触となるように設置されていることが好ましい。
【0008】
また、ペースト液面上限以下における容器内壁とスクレーパーとのクリアランスとしては、0.1〜2.0mmの範囲にあることが好ましい。
【0009】
さらに、撹拌翼、容器内壁およびスクレーパー固定アームのペースト接液部がセラミック材で作製またはコーティングされていることが好ましい。
【0010】
本発明は、上記のようなペースト撹拌装置を用いて、撹拌、混合することを特徴とするペーストの製造方法も提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るペースト攪拌装置によれば、遊星式混合機に、とくに円筒形容器内壁近傍を回転するスクレーパーを設けることにより、円筒形容器内壁に付着したペーストの境膜を適切に掻き取ることができ、それによって伝熱効率を向上させ、温度バラツキを低減させることにより、実質的にペースト攪拌の効率化、ペーストの品質安定化を達成することができる。したがって、このペースト撹拌装置を用いて、撹拌、混合することにより、目標とする品質が安定して得られるペーストを製造できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
本発明に係るペースト攪拌装置は、(A)冷熱媒を循環することにより温度制御を行うことが可能なジャケットを具備した容器と、(B)遊星運動可能な2本の撹拌翼と、(C)円筒形容器内壁近傍を回転するスクレーパーとを具備することを特徴するものであり、本発明に係るペースト攪拌装置の一例を図1および図2に示す。図1に示すように、遊星運動可能な2本の攪拌翼3が具備されており、その攪拌翼3は自転軸2を中心に回転する。この2本の攪拌翼3は公転軸1を中心に公転し、遊星運動することとなる。2本の攪拌翼3の公転軸1にはスクレーパー固定アーム4が接続されており、該スクレーパー固定アーム4には、図2に示すようにスクレーパー5が回転軸6を介して接続されている。回転軸6はスプリングやダンパーなどで回転幅を調整する機構を持ち、また固定することもできる。ペースト攪拌装置にはペーストやペースト原材料を仕込む円筒形容器7がセットされ、該円筒形容器7には、冷熱媒循環路9とジャケット10が具備されており、これによってペーストを昇温させたり冷却させたりすることができる。また、公転軸1の回転とともにスクレーパー5が円筒形容器内壁8の近傍を回転することで、該容器内壁に付着しているペースト境膜を掻き取り更新させることができるようになっている。
【0013】
スクレーパー5は、円筒形容器内壁8に対し、平行に取り付けられ、基本的には回転軸6を調整し内壁と該スクレーパーのクリアランス13を一定にした後、該回転軸6を固定してしまう方法でもよいが、図3および図4に示すように、スクレーパー5はペースト11の液面上限より上の位置で円筒形容器内壁8と接触し、ペースト液面上限以下では該容器内壁と非接触となるように設置される方法でもよい。
【0014】
以下に図3および図4について説明する。図3に示すように、例えば、スクレーパー5が逆L字のような形状になっており、ペースト液面上限より上の位置で円筒形容器内壁8と接触させる。この場合、図2に示したように公転軸1が回転することにより、ペースト11の回転方向と逆方向の抵抗力によってスクレーパー5が取り付けられた回転軸6が押し戻され、その力を利用して該スクレーパーの逆L字突出部をペースト液面上限より上の位置の円筒形容器内壁8に接触させることで一定のクリアランス13が保たれる。また、より好ましい形態としては、図4に示すように円筒形容器内壁部溝12を設けることで、これにより接触部によるスクレーパー5と円筒形容器内壁8との摩耗による異物を直接ペースト内に混入させないようにすることができる。
【0015】
スクレーパー5の材質としては、円筒形容器内壁8との少なくとも接触部に関しては、摩耗による該円筒形容器内壁の損傷をなくすことから、樹脂製であることが好ましい。特に、耐熱性や耐薬品性などの観点からは、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂が好ましい。非接触部に関してはペースト自体に影響を及ぼさなければこの限りではない。
【0016】
ペースト液面上限以下における内壁とスクレーパーとのクリアランスに関しては0.1〜2.0mmの範囲にあることが好ましい。装置設計およびスクレーパー取付上の観点、ペースト境膜掻き取り効果から0.5〜1.5mmの範囲にあることがより好ましい。クリアランスが2.0mmを越えると、境膜の更新がうまくいかず伝熱効率も低下してしまう。
【0017】
このようなペースト攪拌装置においては、少なくとも撹拌翼、容器内壁およびスクレーパー固定アームのペースト接液部が、アルミナ、ジルコニアなどのセラミック材で作製されていることが、耐摩耗性を向上できるため好ましい。本発明で好適に用いられるセラミック材の具体例としては、ジルコニア、アルミナ、炭化珪素、窒化アルミ、サイアロンおよびジルコニア/アルミナ混合物などが挙げられる。セラミック材のコーティング方法の具体例としては、皮膜材料に熱を与えて溶融し、数十〜数百μmの大きさの液状微粒子として素材表面に噴霧させ、衝突・扁平させて積み重ねていく溶射方式が好ましく用いられる。溶射の熱源としては、プラズマ、レーザー、アークおよびガスなどが挙げられる。また、セラミック材でコーティングされる部材の材質の具体例として、ステンレス鋼材やNi−Cr、Ni−Alなどの金属合金が挙げられる。
【0018】
また、本発明は、上記のようなペースト攪拌装置を用いることを特徴とするペースト製造方法を提供する。本発明のペーストの製造方法によって得られるペーストの用途例としては、例えば、印刷インキ、塗料、電子材料用ペーストなどを挙げることができる。
【実施例】
【0019】
以下に、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例および比較例に使用したペーストの組成は、酸化鉛、酸化ホウ素、酸化亜鉛、酸化シリコン、および酸化バリウムを主成分とするガラスを粉砕して得た平均粒径2μmのガラス粉末52重量%、メチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(重量組成比60/40、重量平均分子量32000)12重量%、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート12重量%、ベンゾフェノン1.94重量%、1,6−ヘキサンジオール−ビス[(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]0.05重量%、有機染料(ベーシックブルー7)0.01重量%、有機溶媒(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)22重量%を構成成分とした。
【0020】
この組成のペースト120kg分の計量を行い、冷熱媒を循環することが可能なジャケットを具備した円筒容器サイズ150Lの2軸攪拌機((株)井上製作所製)にて60rpmで60分間攪拌し、粗分散ペーストを作製した。この円筒容器を遊星運動可能な2本の撹拌翼と円筒形容器内壁近傍を回転するスクレーパーとを具備したペースト撹拌装置にセットし昇温攪拌、冷却攪拌を行った。10分毎にペースト温度をデジタル温度計にて測定し、測定ポイントは円筒容器内壁からの距離0.5mm、5mm、50mm、340mmの4点、深さ方向は30mmとした。昇温攪拌時は測定ポイント4点が90℃に達した時、冷却攪拌時は測定ポイント4点が22℃に達した時を終了時間とした。
【0021】
実施例および比較例での昇温攪拌前のペースト粘度、円筒容器直径、温冷水流量、温水設定温度、冷水設定温度、昇温時のペースト攪拌装置攪拌翼自転回転数、冷却時のペースト攪拌装置攪拌翼自転回転数、円筒容器内壁およびスクレーパー固定アームのペースト接液部の材質、スクレーパーの材質を表1に示した。
【0022】
[実施例1]
円筒容器内壁とスクレーパーのクリアランスを0.5mmとし、昇温攪拌、冷却攪拌を行いペースト温度を測定した。
【0023】
[実施例2]
円筒容器内壁とスクレーパーのクリアランスを2.0mmとし、昇温攪拌、冷却攪拌を行いペースト温度を測定した。
【0024】
[比較例1]
円筒容器内壁とスクレーパーのクリアランスを4.0mmとし、昇温攪拌、冷却攪拌を行いペースト温度を測定した。
【0025】
[比較例2]
スクレーパー固定アームおよびスクレーパーを設置しない状態で、昇温攪拌、冷却攪拌を行いペースト温度を測定した。
【0026】
実施例1、2、比較例1、2にて得た昇温時のペースト温度90℃達成時間、冷却時のペースト温度22℃達成時間、昇温時のペースト温度測定ポイントにおけるペースト温度差最大値、冷却時のペースト温度測定ポイントにおけるペースト温度差最大値を表1に示した。
【0027】
【表1】

【0028】
横軸に時間、縦軸にペースト温度として、各実施例、比較例の結果をプロットしたグラフを図5〜図8に示す。これらの図および表1に示すように、実施例1、2では昇温目標温度に達成するまでの時間および冷却目標温度に達成するまでの時間が短かった。また、測定ポイントでの温度バラツキも小さく全体的に効率良く伝熱されながら攪拌・混合されている結果となった。一方、比較例1、2では昇温目標温度に達成するまでの時間および冷却目標温度に達成するまでの時間が長く、測定ポイントでの温度バラツキも実施例と比べ大きい結果となった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係るペースト攪拌装置の一実施例を示す概略縦断面図である。
【図2】図1の装置の施例を示す上部から見た概略図である。
【図3】図1の装置のスクレーパーと円筒容器内壁部の形態を示す概略部分構成図である。
【図4】図1の装置のスクレーパーと円筒容器内壁部のより好ましい形態を示す概略部分構成図である。
【図5】実施例1で得られた結果について、横軸に時間、縦軸にペースト温度として、それぞれの結果をプロットしたグラフである。
【図6】実施例2で得られた結果について、横軸に時間、縦軸にペースト温度として、それぞれの結果をプロットしたグラフである。
【図7】比較例1で得られた結果について、横軸に時間、縦軸にペースト温度として、それぞれの結果をプロットしたグラフである。
【図8】比較例2で得られた結果について、横軸に時間、縦軸にペースト温度として、それぞれの結果をプロットしたグラフである。
【符号の説明】
【0030】
1:公転軸
2:自転軸
3:攪拌翼
4:スクレーパー固定アーム
5:スクレーパー
6:回転軸
7:円筒形容器
8:円筒形容器内壁
9:冷熱媒循環路
10:ジャケット
11:ペースト
12:円筒形容器内壁溝部
13:クリアランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)冷熱媒を循環することにより温度制御を行うことが可能なジャケットを具備した容器と、
(B)遊星運動可能な2本の撹拌翼と、
(C)円筒形容器内壁近傍を回転するスクレーパーと
を具備したことを特徴するペースト撹拌装置。
【請求項2】
前記2本の撹拌翼の公転軸にスクレーパー固定アームが接続され、該スクレーパー固定アームと前記スクレーパーが回転軸を介して接続されていることを特徴とする、請求項1に記載のペースト撹拌装置。
【請求項3】
前記スクレーパーはペースト液面上限より上の位置で容器内壁と接触し、ペースト液面上限以下では容器内壁と非接触となるように設置されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のペースト撹拌装置。
【請求項4】
ペースト液面上限以下における容器内壁とスクレーパーとのクリアランスが0.1〜2.0mmの範囲にあることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか記載のペースト撹拌装置。
【請求項5】
撹拌翼、容器内壁およびスクレーパー固定アームのペースト接液部がセラミック材で作製またはコーティングされていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のペースト攪拌装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のペースト撹拌装置を用いて、撹拌、混合することを特徴とするペーストの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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