説明

ペースト組成物

【課題】焼成時反りの発生を抑制し、変換効率の向上に寄与するBSF効果を失うことがないアルミニウムペースト組成物を提供する。
【解決手段】アルミニウム粉末、ガラスフリット、有機ビヒクルとを含む太陽電池シリコンウエハ用焼成ペースト組成物であって、金属酸化物のナノ粒子を含むこと、前記金属酸化物ナノ粒子の平均粒子径が10〜50nmであることである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池セルに用いられるアルミニウムペースト組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池の低コスト化に向けて、シリコンウエハの薄膜化が進んでいる。この薄膜化に伴ってペースト焼成後の太陽用電池セルの反りが大きくなる。この反りが、次工程のモジュール製造において割れなどの原因となっていた。一方 太陽電池のシリコンウエハのアルミニウム電極は、アルミニウム粉末、ガラスフリットおよび有機質ビヒクルからなるペースト組成物をスクリーン印刷等によって塗布し、乾燥した後、650℃(p型不純物層を得るため)以上の温度にて短時間焼成することによって形成され、焼成の際にアルミニウム原子がp型シリコンウエハの内部に拡散することにより、電子の再結合を防止し、変換効率を向上させるBSF(Back Surface Field)効果が得られる。
【0003】
特許文献1には、アルミニウム粉末がレーザー回折法に基づく粒度分布のD50が3μm以下であり且つD10とD90との比(D10/D90)が0.2以上であることを特徴とする小粒径アルミニウム粉末と、D50が小粒径アルミニウム粉末のD50が2〜6倍であり且つD10/D90が0.2以上であることを特徴とする大粒径アルミニウム粉末とを混合することにより調整されたアルミニウム粉末を含むアルミニウムペーストが 裏面電極において少ない塗布量で高いBSF効果を保証しつつ、焼成時にシリコンウエハに反り等の変形を発生するのを防止し得ることが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、アルミニウム粉末と、有機質ビヒクルと、有機質ビヒクルに不溶解性または難溶解性のウィスカーとを含み、そのウィスカーがアルミニウム粉末および有機質ビヒクルと予め混合されるペースト組成物がシリコン半導体基板を薄くした場合でも、電極の機械的強度と密着性を低下させることがなく、所望のBSF効果を十分達成することができ、かつ焼成後のシリコン半導体基板の変形(反り)を抑制することが可能であることが開示されている。
【0005】
しかしながら、これらのアルミニウムペーストだけではまだ十分に反りを抑制することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−146578号公報
【特許文献2】特開2006−278071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明の課題は、焼成時反りの発生を抑制し、変換効率の向上に寄与するBSF効果を失うことがないアルミニウムペースト組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、アルミニウム粉末、ガラスフリット、有機ビヒクルとを含む太陽電池シリコンウエハ用焼成ペースト組成物であって、金属酸化物のナノ粒子を含むことを特徴とするアルミニウムペースト組成物で焼成後の反りを抑制し、変換効率の低下がない。
【0009】
請求項2の発明は、前記金属酸化物ナノ粒子の平均粒子径が10〜50nmであることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウムペースト組成物で焼成後の反りを抑制し、変換効率の低下がない。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアルミニウムペースト組成物は焼成時の反りが少なく、BSF効果を低下させない特徴を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】太陽電池のウエハの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のアルミニウムペースト組成物は、アルミニウム粉末と有機質ビヒクルとガラスフリットと金属酸化物のナノ粒子を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明でナノ粒子は一般的にナノメートルオーダーの粒子(1〜100nm)で量子領域、量子効果が支配的な大きさを言う。
本発明の効果発現は金属酸化物ナノ粒子であれば良く。平均粒子径10〜50nmが好ましい。この範囲であれば、短時間焼成でも、反りの抑制効果を発現する。添加量はペースト組成物に対して0.02〜0.1%が好ましい。この範囲であれば、反り抑制効果が得られ、BSF効果を阻害することがない。
【0014】
アルミニウム粉末は、ペースト組成物に普く使用されるものでよいが、平均粒子径0.5〜20μmが使うことができる。好ましくは、1〜10μmが好ましい。この範囲では比表面積が大きく、高充填できないこともなく、粉末の溶融が早く電極のふくれやアルミニウムの玉を発生促進させることもない。逆に粘性が低く、それに伴う電極の膜厚が大きくなることによる反りが生じることもない。
【0015】
有機質ビヒクルはペースト組成物で普く使用されるもので良く、エチルセルロース樹脂やアクリル樹脂等の結合樹脂を、エステル系やグリコールエーテル系、ターピネオール系などの溶剤で溶解したものを使用することができる。有機質ビヒクル中の結合樹脂の全ペースト中の含有量はアルミニウム粉末配合量等によって適宜選択する。有機質ビヒクル成分が少ないと、概ね2重量%未満になるとペースト組成物の印刷性適性がなくなり、多すぎると、概ね50重量%を超えるとペースト組成物の粘度が増大し、短時間焼成では電極中に樹脂が残って、抵抗率の悪化を引き起こす。
【0016】
本発明に用いるガラスフリットは、溶融後にアルミニウム粒子を結合する無機バインダーとしての役割とアルミニウムとシリコンとの反応促進やアルミニウム粉末自身の焼結助剤として働く。一方、アルミニウムとシリコンとの反応により、局部的に多量のAl−Si合金が生じ、アルミニウムが溶融し、ふくれやアルミニウムの玉が発生し、不具合を生じ、前記効果と相反する。種類、配合部数を適宜選択する。ガラスフリットは、主成分としてPbO−B−SiO系、PbO−B−Al系、PbO−B系、SiO−B−RO系、B−ZnO系、Bi−B−SiO系およびBi−B−ZnO系等の酸化物を含むものなどがある。これらの組成物に加えて、アルカリ金属が含まれているものが、前記効果が大きく、好ましい。また、このましくは、環境負荷を鑑みて鉛を含まないものが好ましい。
【0017】
本発明のアルミニウムペースト組成物は、必要に応じて、分散剤、界面活性剤、可塑剤、カップリング剤、消泡剤、沈降防止剤、レベリング剤などを配合することができる。調製には、各種の混合、混練、分散機を使用することができる。例えば、2本ロールミル、3本ロールミル、ボールミル、サンドミル、プラネタリーミキサー、高速ミキサー、自公転撹拌機等が挙げられる。
【0018】
焼成炉条件はアルミニウム粉末の形状、粒径やガラスフリット等の配合により条件は適宜選択し、反り、アルミニウムの玉状析出、膨れなどの欠点が少ない条件で行う。ピーク温度800℃4〜5秒を含む焼成タクトを挙げることができる。
【0019】
以下に実施例・比較例を記して詳細な説明をする。結果を表1に記した。
【実施例1】
【0020】
KFA−32(互応化学工業(株)、商品名、アクリル樹脂系有機ビヒクル、固形分30%、ブチルカルビトールアセテート溶液)を15.6重量部、ブチルカルビトールアセテート(山一化学工業(株))を8.2重量部、H−3(VALIMET社、商品名、アルミニウム粉末、平均粒子径4.6μm、球形)74.1重量部、QPZ−19/500(日本電気硝子(株)、商品名、シリカホウ酸系ガラスフリット、粒子径2.2μm)1.2重量部、ルナックO−LL−V(花王(株)、商品名、分散剤、オレイン酸)を0.7重量部、NPC−ST(日産化学工業(株)、商品名、二酸化ケイ素N−プロピルセルソルブ分散体、平均粒子径10〜20nm、固形分30%)0.2重量部を三本ロールミルを用いて均一に混合し、実施例1のペースト組成物とした。
【実施例2】
【0021】
実施例1のNPC−STをNANOBYK−3650(ビックケミー・ジャパン(株)、二酸化ケイ素、平均粒子径20〜25nm、固形分25%、メトキシプロピルアセテート/メトキシプロパノール溶液)を0.24重量部に、ブチルカルビトールアセテートを8.16重量部に変えた以外実施例1と同じに行い、実施例2のペースト組成物とした。
【実施例3】
【0022】
実施例1のNPC−STをNANOBYK−3610(ビックケミー・ジャパン(株)、アルミナ、平均粒子径20〜25nm、固形分30%、メトキシプロピルアセテート溶液)を0.2重量部に変えた以外実施例1と同じに行い、実施例3のペースト組成物とした。
【実施例4】
【0023】
実施例1のNPC−STをNANOBYK−3821(ビックケミー・ジャパン(株)、商品名、酸化亜鉛、平均粒子径20nm、固形分40%、溶剤メトキシプロピルアセテート)0.15重量部に、ブチルカルビトールアセテートを8.25重量部に変えた以外実施例1と同じに行い、実施例4のペースト組成物とした。
【実施例5】
【0024】
実施例2のNANOBYK−3650を0.4重量部、ブチルカルビトールアセテートを8.1重量部に変えた以外実施例2と同じに行い、実施例5のペースト組成物とした。
【実施例6】
【0025】
実施例2のNANOBYK−3650を0.1重量部に、ブチルカルビトールアセテートを8.3重量部に変えた以外実施例2と同じに行い、実施例6のペースト組成物とした。
【実施例7】
【0026】
実施例4のNANOBYK−3821をNANOBYK−3841(ビックケミー・ジャパン(株)、商品名、酸化亜鉛、平均粒子径40nm、固形分40%、メトキシプロピルアセテート溶液)に変えた以外実施例4と同じに行い、実施例7のペースト組成物とした。
【0027】
参考例1
実施例2のNANOBYK−3650を0.8重量部に、ブチルカルビトールアセテートを7.7重量部に変えた以外実施例2と同じに行い、参考例1のペースト組成物とした。
【0028】
比較例1
実施例1のNPC−STを溶融シリカ(日本フリット(株)、商品名、二酸化ケイ素、平均粒子径2.9μm、固形分100%)0.06重量部に、ブチルカルビトールアセテートを8.2重量部に変えた以外実施例1と同じに行い、比較例1のペースト組成物とした。
【0029】
比較例2
実施例1のNPC−STを無添加に、ブチルカルビトールアセテートを8.26重量部にした以外、実施例1と同じに行い比較例2のペースト組成物とした。
【0030】
【表1】

【0031】
上記の実施例、参考例、比較例のペースト組成物を、厚みが200μm、大きさが156mm×156mmの多結晶P型シリコンウエハに、200メッシュのスクリーン印刷版を用いて154mm×154mmの面積になるように中央に印刷し、熱風乾燥機を使用して150℃30分間で乾燥させた。焼成は、3ゾーンのワイヤー式ベルト炉を使用した。ゾーン1の温度は590℃、ゾーン2の温度は800℃、ゾーン3の温度は380℃とし、タクト時間を約60秒間とした。焼成後の電極層の膜厚は平均で32μmであった。
【0032】
反り:
上記焼成(直後)後のシリコンウエハの凹面に金尺をあて、最も離れている距離をノギスで測定した。
【0033】
表面抵抗率:
シリコンウエハに形成されたアルミニウム電極層の表面抵抗率をロレスターEP MCP−T360(三菱化学(株)、商品名、四端子四探針方式抵抗率計)を用いて測定した。(表面抵抗率は剥離前の電極抵抗値)

【0034】
BSF抵抗率(Ω/□):
シリコンウエハに形成されたアルミニウム電極層を10%塩化水素水溶液に15分間浸漬し、アルミニウムの電極部分を除去した。その除去されたウエハ表面のBSF層の表面抵抗率をロレスターEP MCP−T360を用いて測定した。
【0035】
評価結果の見解
実施例1〜7、参考例1、比較例1、2は表面抵抗率は全て良好である。金属酸化物のナノ粒子添加によるアルミニウム電極の表面抵抗率には影響ないものである。実施例1〜7、参考例1は金属酸化物のナノ粒子添加は反りを抑制し、ナノ粒子でない比較例1では効果は明確ではない。BSF抵抗率に関しては10〜40Ω/□の範囲で太陽電池の変換効率が良く、実施例ではBSF効果を阻害していることはない。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のアルミニウムペースト組成物は太陽電池シリコンウエハの裏面電極を形成し、反りが少なく、変換効率も落とすことがないので、ウエハの薄膜化に寄与でき、有用である。
【符号の説明】
【0037】
1 受光面銀電極
2 n型不純物層
3 ウエハ
4 p型不純物層(BSF関与層)
5 アルミニウム電極層
6 裏面銀電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム粉末、ガラスフリット、有機ビヒクルとを含む太陽電池シリコンウエハ用焼成ペースト組成物であって、金属酸化物のナノ粒子を含むことを特徴とするアルミニウムペースト組成物。
【請求項2】
前記金属酸化物ナノ粒子の平均粒子径が10〜50nmであることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウムペースト組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−212542(P2012−212542A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77139(P2011−77139)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】