説明

ペールパック

【課題】溶接ワイヤの汚れを除去可能なペールパックを提供する。
【解決手段】溶接装置200で使用される溶接ワイヤ1を収納するペールパック100において、一端側が開口するように形成され、溶接ワイヤ1を収容可能な収容部110と、収容部110の開口を塞ぐように収容部110に設置されるカバー120と、溶接ワイヤ1を外部に引き出すためにカバー120に形成される引出口121と、カバー120内において、引出口121から引き出される溶接ワイヤ1の汚れを除去可能なブラシ部材130と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接装置で使用される溶接ワイヤを収容するペールパックに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ペールパックから引き出された溶接ワイヤをワイヤ供給装置を介して溶接トーチに供給する溶接装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−272816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の溶接装置では、塵や埃、メッキかす等の微小な異物が付着した溶接ワイヤがペールパックから溶接トーチに供給されるおそれがあり、ワイヤ供給装置や溶接トーチのワイヤ挿通部等に異物が堆積しやすい。ワイヤ挿通部等に異物が堆積すると、溶接ワイヤ詰まりが発生して、溶接ワイヤを一定速度で溶接トーチに供給することができず、溶接トーチを介して溶接される溶接対象物の溶接ビードが不均一となってしまう。
【0005】
したがって、上記のような溶接装置においては、ペールパックから引き出される溶接ワイヤの汚れを除去しておくことが望ましい。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、溶接ワイヤの汚れを除去可能なペールパックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、溶接装置で使用される溶接ワイヤを収納するペールパックにおいて、一端側が開口するように形成され、前記溶接ワイヤを収容可能な収容部と、前記収容部の開口を塞ぐように前記収容部に設置されるカバーと、前記溶接ワイヤを外部に引き出すために前記カバーに形成される引出口と、前記カバー内において、前記引出口から引き出される前記溶接ワイヤの汚れを除去可能なブラシ部材と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のペールパックによれば、溶接ワイヤがブラシ部材を通過する際に、ブラシ部材によって溶接ワイヤの外周面に付着した汚れをふき取るので、溶接ワイヤの汚れを除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態によるペールパックを備える溶接装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態によるペールパックの縦断面図である。
【図3】(A)及び(B)は、ペールパックに備えられるブラシ部材の平面図及び側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照して、本発明の実施形態によるペールパックについて説明する。
【0011】
図1を参照して、本発明の実施形態によるペールパック100を備える溶接装置200の構成を説明する。図1は、溶接装置200の概略構成図である。
【0012】
溶接装置200は、溶接対象物に対して全自動でアーク溶接を行う装置である。溶接装置200は、溶接ワイヤ1を収容するペールパック100と、ペールパック100から引き出された溶接ワイヤ1の形状を矯正するワイヤ矯正部210と、溶接ワイヤ1を供給するワイヤ供給部220と、供給された溶接ワイヤ1を用いて溶接対象物を溶接する溶接トーチ230と、を備える。
【0013】
溶接ワイヤ1は軟鉄によって形成されており、溶接ワイヤ1の表面は銅メッキ加工されている。
【0014】
ペールパック100は、円筒形状の容器である。ペールパック100の内部には、溶接ワイヤ1が巻回状態で収納されている。ペールパック100の詳細構成については、図2及び図3を参照して後述する。
【0015】
ペールパック100から引き出された溶接ワイヤ1は、ワイヤ矯正部210に導かれる。ワイヤ矯正部210は、ペールパック100内に巻回状態で収納された溶接ワイヤ1の巻き癖を矯正する装置である。
【0016】
ワイヤ矯正部210は、三つの矯正ローラ211〜213を備える。これら矯正ローラ211〜213は、ワイヤ供給方向に対してジグザグに配置される。溶接ワイヤ1は、三つの矯正ローラ211〜213を通過する際に直線状に矯正される。
【0017】
ペールパック100とワイヤ矯正部210との間には、コンジットチューブ201が配設されている。ペールパック100から引き出された溶接ワイヤ1は、コンジットチューブ201内を通って、スムーズにワイヤ矯正部210まで導かれる。
【0018】
コンジットチューブ201の上流端には、溶接ワイヤ1の存在を検出するワイヤ検出部202が設けられている。ワイヤ検出部202によって、ペールパック100内の溶接ワイヤ1が全て使用されたか否かを検出することができる。
【0019】
ワイヤ矯正部210よりもワイヤ供給方向の下流側には、ワイヤ供給部220が設けられる。ワイヤ供給部220は、上下一対のローラ221、222と、上下一対のローラ223、224と、をワイヤ供給方向に並べて構成されている。ワイヤ供給部220は、これらローラ221〜224を介して、溶接ワイヤ1を一定速度で溶接トーチ230に供給する。
【0020】
なお、溶接ワイヤ1の供給速度は、溶接対象物における溶接状態等に応じて調整される。溶接ワイヤ1の供給速度の調整は、図示しない制御コントローラによって、ワイヤ供給部220のローラ221〜224の回転速度を調整することによって行われる。
【0021】
溶接トーチ230は、ワイヤ供給部220により供給された溶接ワイヤ1を用いて、溶接対象物をアーク溶接する。
【0022】
図2を参照して、本発明の実施形態によるペールパック100の構成を説明する。図2は、ペールパック100の縦断面図である。
【0023】
ペールパック100は、溶接ワイヤ1を収容する円筒形状の容器である。ペールパック100は、上端が開口するように形成され、溶接ワイヤ1を収容可能な収容部110と、収容部110の上端の開口を塞ぐように収容部110に設置されるカバー120と、カバー120内において溶接ワイヤ1の汚れを除去するブラシ部材130と、を備える。
【0024】
収容部110は、有底筒状の外筒111と、外筒111内に同軸で配設される両端開口の内筒112と、を備える。外筒111及び内筒112は縦置きされ、外筒111の上端及び内筒112の上端が開口する。溶接ワイヤ1は、内筒112に巻き回された状態で、外筒111と内筒112との間の空間に収容される。
【0025】
カバー120は、円錐台状に形成された蓋部材である。カバー120の下端は、開口端として形成されている。カバー120は、その下端縁部が収容部110の外筒111の上端縁部に載置されるように、外筒111に設置される。このように、収容部110は、カバー120によって閉塞される。
【0026】
なお、カバー120は、収容部110の内部を視認可能なように、樹脂によって透明部材として形成される。これにより、カバー120を取り外すことなく、収容部110に収容されている溶接ワイヤ1の残量等を目視で確認することができる。
【0027】
カバー120の頂部である上端面には、ペールパック100内の溶接ワイヤ1を外部に引き出すための引出口121が形成される。引出口121は、カバー120の上端面を上下方向に貫通する貫通孔である。引出口121は、収容部110の内筒112の上端開口と対応する位置に形成される。
【0028】
カバー120には、溶接ワイヤ1に付着した塵や埃、メッキかす等の汚れを除去するためのブラシ部材130が取り付けられる。
【0029】
図2、図3(A)、及び図3(B)を参照して、ブラシ部材130の構成を説明する。図3(A)はブラシ部材130の平面図であり、図3(B)はブラシ部材130の側面図である。
【0030】
図2に示すように、ブラシ部材130は、ペールパック100の軸方向において、引出口121寄りの位置に設けられる。
【0031】
図2、図3(A)、及び図3(B)に示すように、ブラシ部材130は、環状のベース部131と、ベース部131の内周面に設けられるブラシ部132と、ベース部131の外周面に設けられる一対の軸部133と、を備える。
【0032】
ベース部131は、合金等によって環状に形成された部材である。
【0033】
ブラシ部132は、毛先がベース部131の中心に向かうように、ベース部131の内周面に設けられたブラシ132Aによって形成されている。ブラシ132Aは、ベース部131の内周面に沿って複数設けられる。ブラシ132Aは、ナイロン等の樹脂によって白色部材として形成される。ブラシ132Aの長さは、ベース部131の半径と同じに設定されている。
【0034】
このように、ベース部131とブラシ部132とによって、内巻きブラシが構成される。この内巻きブラシでは、ブラシ132Aの毛先間で規定されるブラシ部132の内径は略ゼロとなる。
【0035】
溶接ワイヤ1は、ブラシ132Aの間を通って、ブラシ部132の略中心位置を上下方向に通過する。したがって、溶接ワイヤ1がブラシ部132を通過する際に、溶接ワイヤ1の汚れがブラシ132Aによって拭き取られる。
【0036】
軸部133は、棒状部材であり、ベース部131の外周面に一対設けられる。これら軸部133は、直線状となるようにベース部131の径方向外側に向かって、互いに異なる方向に延設される。
【0037】
カバー120の傾斜側壁には、一対の支持孔122が形成される。これら支持孔122は、カバー120の軸心に対して線対称となる位置に設けられる。支持孔122はカバー120の傾斜側壁を水平に貫通する孔であり、ブラシ部材130の軸部133は支持孔122を挿通する。各軸部133が各支持孔122によって支持されることで、ブラシ部材130は、ベース部131及びブラシ部132がカバー120内に位置した状態で、カバー120に設置される。
【0038】
支持孔122の孔径は軸部133の外径よりも大きく設定されており、軸部133は支持孔122を通じて外部に突出する。これにより、ブラシ部材130の軸部133は、支持孔122に対して、軸部133の軸方向に移動可能でかつ軸心を中心に回動可能となる。
【0039】
なお、軸部133の端部寄りの位置には、軸部133が支持孔122から抜けることを防止するストッパ134が設けられる。
【0040】
上記のように構成されるペールパック100では、溶接トーチ230への溶接ワイヤ1の供給が開始され、溶接ワイヤ1がブラシ部材130のブラシ部132を通過すると、溶接ワイヤ1の外周面に付着した汚れがブラシ部132のブラシ132Aによって取り除かれる。そのため、ペールパック100から引き出された溶接ワイヤ1には塵や埃、メッキかす等がほとんど付着しておらず、異物付着の無い溶接ワイヤ1が溶接装置200に提供される。
【0041】
溶接ワイヤ1は、収容部110の内筒112に巻き回された状態で収容されているため、内筒112周りを旋回しながらペールパック100内から外部に引き出される。ブラシ部材130の軸部133はカバー120の支持孔122に対して軸方向に移動可能でかつ軸心を中心に回動可能であるため、ブラシ部材130のブラシ部132は引き出し時の溶接ワイヤ1の動きに追従するように移動する。そのため、カバー120にブラシ部材130を設けても、ブラシ部材130によって溶接ワイヤ1の引き出しが阻害されることがない。
【0042】
ブラシ部材130のブラシ部132は収容部110の内筒112の上端の開口部分に臨むように設けられ、内筒112の上端の開口部分にはブラシによって除去される溶接ワイヤ1の汚れを収集可能な収集受皿140が載置される。そのため、溶接ワイヤ1から除去された塵や埃、メッキかす等が収集受皿140内に堆積する。
【0043】
また、収集受皿140の収集凹部141は内筒112内に位置しているので、内筒112の上端に収集受皿140を載置しても、溶接ワイヤ1が通過する経路と収集受皿140とが干渉することがない。
【0044】
上記した本実施形態のペールパック100によれば、以下の効果を得ることができる。
【0045】
ペールパック100のカバー120にはブラシ部132を有するブラシ部材130が取り付けられているので、溶接ワイヤ1がブラシ部132を通過する際に、溶接ワイヤ1の外周面に付着した汚れをブラシ132Aによって除去することが可能となる。そのため、異物付着がほとんど無い溶接ワイヤ1を溶接装置200に提供でき、ワイヤ供給部220や溶接トーチ230等のワイヤ挿通部における異物の堆積を防止できる。これにより、溶接装置200での溶接ワイヤ詰まりの発生が抑制され、溶接トーチ230によって安定的に溶接することが可能となる。
【0046】
ブラシ部材130の軸部133は軸方向に移動可能かつ軸心を中心に回動可能となるように支持孔122に支持されるので、ブラシ部材130のブラシ部132は引き出し時の溶接ワイヤ1の動きに応じて可動する。これにより、カバー120にブラシ部材130を設けても、ペールパック100から溶接ワイヤ1を滑らかに引き出すことが可能となる。
【0047】
ブラシ部132のブラシ132Aは白色部材として形成され、ブラシ部材130のカバー120は透明部材として形成されるため、カバー120を取り外すことなく、ブラシ132Aの汚れ具合を目視で確認することができる。これにより、適切な時期にブラシ部材130を交換することが可能となる。
【0048】
ブラシ部材130のブラシ部132の下方に位置する内筒112の上端の開口部分には収集受皿140が載置されるので、溶接ワイヤ1から除去された塵や埃、メッキかす等の汚れを容易に収集することが可能となる。これにより、ペールパック100内の清掃工数を低減できる。
【0049】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなし得ることは明白である。
【0050】
本実施形態のペールパック100では、ベース部131とブラシ部132とによって内巻きブラシを構成したが、内巻きブラシの内径は溶接ワイヤ1の外径に応じて適宜調整される。内巻きブラシの内径の調整は、ブラシ部132のブラシ132Aの長さを調整することで行われる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によるペールパックは、各種溶接を行う溶接装置で使用される溶接ワイヤを収容する容器に適用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 溶接ワイヤ
100 ペールパック
110 収容部
111 外筒
112 内筒
120 カバー
121 引出口
122 支持孔(支持部)
130 ブラシ部材
131 ベース部
132 ブラシ部
132A ブラシ
133 軸部
134 ストッパ
140 収集受皿
141 収集凹部
200 溶接装置
220 ワイヤ供給部
230 溶接トーチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接装置で使用される溶接ワイヤを収納するペールパックにおいて、
一端側が開口するように形成され、前記溶接ワイヤを収容可能な収容部と、
前記収容部の開口を塞ぐように前記収容部に設置されるカバーと、
前記溶接ワイヤを外部に引き出すために前記カバーに形成される引出口と、
前記カバー内において、前記引出口から引き出される前記溶接ワイヤの汚れを除去可能なブラシ部材と、
を備えることを特徴とするペールパック。
【請求項2】
前記収容部は、外筒と、前記外筒内に同軸で配設される内筒と、を備え、前記内筒に巻き回された前記溶接ワイヤを前記外筒と前記内筒との間に収容することを特徴とする請求項1に記載のペールパック。
【請求項3】
前記ブラシ部材は、
環状のベース部と、
毛先が前記ベース部の中心に向かうように前記ベース部の内周面に設けられるブラシを有し、前記溶接用ワイヤが通過可能なブラシ部と、を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のペールパック。
【請求項4】
前記ブラシ部材は、前記ベース部に一対設けられ、直線状となるように前記ベース部の径方向外側に向かって互いに異なる方向に延設される軸部をさらに備え、
前記カバーは、前記軸部を支持する支持部を備えることを特徴とする請求項3に記載のペールパック。
【請求項5】
前記支持部は、前記軸部が軸方向に移動可能でかつ軸心を中心に回動可能なように、
前記軸部を挿通させる孔であり、
前記軸部は、前記支持部を通じて外部に突出することを特徴とする請求項4に記載のペールパック。
【請求項6】
前記カバーは、透明部材として形成され、
前記ブラシは、白色部材として形成されることを特徴とする請求項3から請求項5のいずれか一つに記載のペールパック。
【請求項7】
前記外筒及び前記内筒は、上端が開口するように縦置きされ、
前記ブラシ部は、前記内筒の上端の開口部分と対応する位置に設けられ、
前記内筒の上端の開口部分には、前記ブラシ部によって除去される前記溶接ワイヤの汚れを収集可能な収集受皿が載置されることを特徴とする請求項3から請求項6のいずれか一つに記載のペールパック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−192411(P2012−192411A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56038(P2011−56038)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】